説明

3,4−アルキレンジオキシチオフェン類の製造方法

【課題】機能性材料の原料または中間体として有用な3,4−アルキレンジオキシチオフェン類の高収率、高選択的な製造。
【解決手段】式(1)のチオフェン類と式(2)のジオール類とを、芳香族炭化水素溶媒中、スルホン酸触媒としてオルト位にアミノ基を有するベンゼンスルホン酸類、またはオルト位またはペリ位にアミノ基を有するナフタレンスルホン酸類の存在下に反応させる。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3,4−ジアルコキシチオフェン類とジオール類とをスルホン酸触媒存在下に反応させることで、高純度の3,4−アルキレンジオキシチオフェン類を高収率、高選択的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで3,4−アルキレンジオキシチオフェン類は、機能性材料の原料または中間体として広く使用されている。特に3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)は、近年注目されている導電性高分子PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))の原料モノマーである(例えば、特許文献1参照)。EDOTの合成法としては、ピリジン化合物と銅触媒存在下、2,5−ジカルボキシ−3,4−エチレンジオキシチオフェンの脱カルボキシル化により合成する方法(例えば、特許文献2参照)、3,4−ジメトキシチオフェンをスルファニル酸存在下、エチレングリコールとのエーテル交換により合成する方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。しかし、特許文献2および特許文献3のいずれの方法も収率が低いため、必ずしも工業的に有利であるとは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2721700号
【特許文献2】特許第4239038号
【特許文献3】中国特許公開番号101220038A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
機能性材料の原料または中間体として極めて有用な3,4−アルキレンジオキシチオフェン類を高収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況のもと、本発明者らは、高収率、高選択的な3,4−アルキレンジオキシチオフェン類の製造方法を開発すべく鋭意検討した結果、ある種の特定のスルホン酸触媒が有効であることを見出した。
【0006】
即ち、本発明は、下記式(1)で表されるチオフェン類と下記式(2)で表されるジオール類とを、芳香族炭化水素溶媒中、スルホン酸触媒の存在下に反応を行う方法において、スルホン酸触媒として下記式(4)で表されるオルト位にアミノ基を有するベンゼンスルホン酸類、または下記式(5)もしくは(6)で表されるオルト位またはペリ位にアミノ基を有するナフタレンスルホン酸類を用いることを特徴とする、下記式(3)で表される3,4−アルキレンジオキシチオフェン類の製造方法に関するものである。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
【化3】

(式中、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、メシル基、トシル基、トリフルオロメタンスルホニル基またはアシル基を表す。RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エステル基、ホルミル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基を表す。R〜Rは、同一または異なっていてもよく、水素原子、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基を表す。mは、0〜4の整数を表す。)
【0010】
【化4】

【0011】
【化5】

【0012】
【化6】

【0013】
(式中、R10は、水素原子、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基を表す。R11〜R13は、同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基、エステル基、ホルミル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基を表す。nは、0〜4の整数を表す。pは、0〜4の整数を表す。qは、0〜2の整数を表す。rおよびsは、0〜3の整数を表す。)
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0014】
一般式(1)で表されるチオフェン類において、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、メシル基、トシル基、トリフルオロメタンスルホニル基またはアシル基を表す。RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エステル基、ホルミル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基を表す。
【0015】
アルキル基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ベンジル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0016】
アリール基としては特に限定されないが、例えばフェニル基、4−メチルフェニル基などが挙げられる。
【0017】
ヘテロアリール基としては特に限定されないが、例えばピリジル基などが挙げられる。
【0018】
アシル基としては特に限定されないが、例えばアセチル基、プロピオニル基などが挙げられる。
【0019】
ハロゲン原子としては特に限定されないが、例えばフッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0020】
一般式(1)で表されるチオフェン類の具体例としては特に限定されないが、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジ(ノルマルプロポキシ)チオフェン、3,4−ジ(イソプロポキシ)チオフェン、3,4−ジ(ノルマルブトキシ)チオフェン、3,4−ジ(セカンダリーブトキシ)チオフェン、3,4−ジ(ターシャリーブトキシ)チオフェン、3,4−ジベンジルチオフェン、3−メトキシ−4−ブトキシチオフェン、3,4−ジフェノキシチオフェン、2,5−ジブロモ−3,4−ジメトキシチオフェン、2,5−ジエトキシカルボニル−3,4−ジメトキシチオフェン、2,5−ジエトキシカルボニル−3,4−ジブトキシチオフェンなどが挙げられる。より好ましくは3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジ(ノルマルプロポキシ)チオフェン、3,4−ジ(イソプロポキシ)チオフェン、3,4−ジ(ノルマルブトキシ)チオフェン、3,4−ジ(セカンダリーブトキシ)チオフェン、3,4−ジ(ターシャリーブトキシ)チオフェン、3,4−ジベンジルチオフェンである。
【0021】
一般式(2)で表されるジオール類において、R〜Rは、同一または異なっていてもよく、水素原子、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基を表す。mは、0〜4の整数を表す。
【0022】
アルキル基としては一般式(1)で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0023】
一般式(2)で表されるジオール類の具体例としては特に限定されないが、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられる。より好ましくは1級のジオールである。
【0024】
本発明における一般式(2)で表されるジオール類の使用量は、一般式(1)で表されるチオフェン類に対して1〜20モル当量である。収率向上、副生物抑制の観点から、5〜15モル当量が好ましい。
【0025】
芳香族炭化水素溶媒としては特に限定されないが、トルエン、パラキシレン、オルトキシレン、メタキシレン、メシチレンなどが挙げられる。
【0026】
本発明における芳香族炭化水素溶媒の使用量は、一般式(1)で表されるチオフェン類1モルに対して0.5〜40gである。収率向上、副生物抑制の観点から、チオフェン類1モルに対して1〜20gが好ましい。
【0027】
本発明で用いるスルホン酸触媒は、下記式(4)で表されるオルト位にアミノ基を有するベンゼンスルホン酸類、または下記式(5)もしくは(6)で表されるオルト位またはペリ位にアミノ基を有するナフタレンスルホン酸類である。
【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

(式中、R10は、水素原子、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基を表す。R11〜R13は、同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基、エステル基、ホルミル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基を表す。nは、0〜4の整数を表す。pは、0〜4の整数を表す。qは、0〜2の整数を表す。rおよびsは、0〜3の整数を表す。)
アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子としては、一般式(1)で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0031】
アルコキシ基としては特に限定されないが、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロポキシ基、イソプロポキシ基、ノルマルブトキシ基、セカンダリーブトキシ基、ターシャリーブトキシ基などが挙げられる。
【0032】
オルト位にアミノ基を有するベンゼンスルホン酸類の好ましい例は、4−アニシジン−2−スルホン酸、4−アミノ−2−クロロトルエン−5−スルホン酸である。
【0033】
オルト位またはペリ位にアミノ基を有するナフタレンスルホン酸類の好ましい例は、8−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸、2−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸、8−アニリノ−1−ナフタレンスルホン酸である。
【0034】
本発明におけるスルホン酸触媒の使用量は、一般式(1)で表されるチオフェン類1モルに対して0.001〜10モル当量である。収率向上、副生物抑制の観点から、0.01〜5モル当量が好ましい。
【0035】
本発明における反応温度は80〜180℃である。収率向上、副生物抑制の観点から、トルエンまたはキシレン溶媒の還流温度が好ましい。
【0036】
本発明における反応時の雰囲気は、大気下または不活性ガス(窒素、アルゴン)下であってもよい。チオフェン類の酸化を防ぐ観点から、不活性ガス雰囲気での反応がより好ましい。
【0037】
本発明における反応時の圧力は、常圧下または加圧下であってもよい。
【0038】
反応終了後は、酸洗浄、水洗浄、アルカリ洗浄を適当に組み合わせることにより、副生した無機物や未反応原料等を除去し、さらにクロマトグラフィーや蒸留、再結晶等の通常の精製技術により、目的とする3,4−アルキレンジオキシチオフェン類を得ることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の方法を用いることで、機能性材料の原料または中間体として極めて有用な一般式(3)で表される3,4−アルキレンジオキシチオフェン類を高収率、高選択的に製造することが可能である。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の方法を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施例で用いた分析機器を以下に示す。
【0041】
[ガスクロマトグラフィー定量分析]
ガスクロマトグラフィー分析装置:島津製作所製 GC−17A
実施例1
窒素で置換された30ml反応管に、3,4−ジメトキシチオフェン 0.48g(3.3mmol)、1,2−エチレングリコール 1.76g(8.6mmol)、4−アニシジン−2−スルホン酸 67mg(0.33mmol)、オルトキシレン 9.6gを仕込み、還流温度で16時間反応させた。反応液を放冷し、水を加えて酢酸エチルで抽出した有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。得られた有機層を、シクロドデカンを内部標準物質とするガスクロマトグラフィー定量分析にて分析した結果、目的物である3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)が、収率99%(3,4−ジメトキシチオフェン基準)の割合で生成していた。副生物として黒色不溶物の生成は見られなかった。結果を表1に示す。
【0042】
実施例2〜4
実施例1において、使用するスルホン酸触媒を表1に示すものに変更した以外は、実施例1の方法に準拠して反応を行った。結果を表1に示す。
【0043】
比較例1
窒素で置換された30ml反応管に、3,4−ジメトキシチオフェン 0.48g(3.3mmol)、1,2−エチレングリコール 1.76g(8.6mmol)、スルファニル酸 57mg(0.33mmol)、オルトキシレン 9.6gを仕込み、還流温度で16時間反応させた。反応液を放冷し、水を加えて酢酸エチルで抽出した有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。得られた有機層を、シクロドデカンを内部標準物質とするガスクロマトグラフィー定量分析にて分析した結果、目的物である3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)が、収率59%(3,4−ジメトキシチオフェン基準)の割合で生成していた。副生物として黒色不溶物の発生が見られた。結果を表1に示す。
【0044】
比較例2〜6
比較例1において、使用するスルホン酸触媒を表1に示すものに変更した以外は、比較例1の方法に準拠して反応を行った。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるチオフェン類と下記式(2)で表されるジオール類とを、芳香族炭化水素溶媒中、スルホン酸触媒の存在下に反応を行う方法において、スルホン酸触媒として下記式(4)で表されるオルト位にアミノ基を有するベンゼンスルホン酸類、または下記式(5)もしくは(6)で表されるオルト位またはペリ位にアミノ基を有するナフタレンスルホン酸類を用いることを特徴とする、下記式(3)で表される3,4−アルキレンジオキシチオフェン類の製造方法。
【化1】

【化2】

【化3】

(式中、RおよびRは、同一または異なっていてもよく、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、メシル基、トシル基、トリフルオロメタンスルホニル基またはアシル基を表す。RおよびRは、同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エステル基、ホルミル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基を表す。R〜Rは、同一または異なっていてもよく、水素原子、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基を表す。mは、0〜4の整数を表す。)
【化4】

【化5】

【化6】

(式中、R10は、水素原子、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基を表す。R11〜R13は、同一または異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい直線状、分岐状または環状のアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基、エステル基、ホルミル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基を表す。nは、0〜4の整数を表す。pは、0〜4の整数を表す。qは、0〜2の整数を表す。rおよびsは、0〜3の整数を表す。)
【請求項2】
およびRが、同一または異なっていてもよく、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、またはベンジル基である3,4−ジアルコキシチオフェン類を使用することを特徴とする請求項1に記載の3,4−アルキレンジオキシチオフェン類の製造方法。
【請求項3】
ジオール類が、1級アルコールであることを特徴とする請求項1または2に記載の3,4−アルキレンジオキシチオフェン類の製造方法。
【請求項4】
芳香族炭化水素溶媒が、トルエン、キシレン、またはメシチレンであることを特徴とする請求項1〜3に記載の3,4−アルキレンジオキシチオフェン類の製造方法。
【請求項5】
反応温度が80〜180℃であることを特徴とする請求項1〜4に記載の3,4−アルキレンジオキシチオフェン類の製造方法。

【公開番号】特開2011−68613(P2011−68613A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222117(P2009−222117)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】