説明

3,4−ジオキシチオフェンの製造方法

【課題】本発明が解決しようとする課題は、ポリエチレンジオキシチオフェンの原料として有用な3,4−ジオキシチオフェンに関する工業的に有利な方法を提供すること。
【解決手段】チオジ酢酸ジエステルとシュウ酸ジエステルを反応せしめ、
多価アルコールまたはその多量体の存在下にジハロアルカンと反応せしめ、3,4−アルキレンジオキシチオフェンジカルボン酸エステルとした後、
塩基性物質の存在下に3,4−アルキレンジオキシチオフェンジカルボン酸エステルから3,4−アルキレンジオキシチオフェンジカルボン酸とし、
多価アルコール中で金属触媒の存在下に脱炭酸反応を行った後に、減圧下に蒸留を行い、3,4−ジオキシチオフェンとする製造方法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3,4−ジオキシチオフェンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は近年、高加工性、軽量性の観点で電子デバイス材料への適用が盛んに研究されており、特にPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)に代表されるポリチオフェン類は、その優れた導電性と金属化合物に匹敵する耐熱性からコンデンサー等の材料として利用されている。現在PEDOTの用途としてはタンタルコンデンサー向け電解質用途が多くを占め、従来同用途で用いられている酸化マグネシウムに比べて低ESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)が達成できることから、その置換えが進んでいる。
PEDOTの原料モノマーであるエチレンジオキシチオフェン(EDOT)の製造にあたっては、チオジ酢酸エステルとシュウ酸エステルとの環化反応(Hinsberg反応)、3,4−アルキレンジオキシ環形成反応、1,5−ジエステル基の加水分解反応、および1,5−カルボキシル基の脱炭酸反応からなるHinsbergプロセスが一般的に行われている。
【0003】
特許文献1には、3,4−アルキレンジオキシチオフェンからポリチオフェンを製造する方法が記載されており、得られたポリチオフェンは電気伝導性に優れているという。
特許文献2には、チオジ酢酸エステルから3,4−アルキレンジオキシチオフェン−1,5−ジカルボン酸までの各工程の内、いずれか2工程を生成物の単離なく行う方法が開示されている。
特許文献3には、3,4−ジヒドロキシチオフェン−1,5−ジカルボン酸エステルとジハロゲン化アルキルの環化反応において、オニウム塩を共触媒として用いる方法が開示されている。
【0004】
さらに特許文献4には、最終工程の脱炭酸反応において生成物よりも高沸点の溶媒を用いることで、精製工程を簡略化し得る方法が開示されている。しかしながら2工程を生成物の単離することなく行う方法では、逐次的に使用される溶媒系が混合溶媒となり、廃棄物の削減を目的にそれら混合溶媒の再利用を考えた場合、煩雑な回収分離操作が必要となる。また、アルキル化触媒として用いるオニウム塩は比較的高価であり、また生成物に着色を生じさせることもあることから、工業的製造においては不利な点がある。更に、脱炭酸工程での高沸点溶媒の利用は、生成物の精製が蒸留により簡便に行える利点があるものの、高沸点溶媒が蒸留残留物として得られることから、これを高純度で回収して再利用することは消費エネルギーが大きく問題となる。
【0005】
以上のように、これまで報告されている製造方法では、プロセス全体の収率、廃棄物による環境負荷を含めた経済性を考慮すると改善すべき点が多い状況であった。
【0006】
【特許文献1】特2721700
【特許文献2】特開2002−193972
【特許文献3】特開2003−128667
【特許文献4】特開2001−288182
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、使用した溶媒を再利用することが可能であると共に、安価な触媒を用いることができ、且つ製品着色が少ない工業的に有利な3,4−ジオキシチオフェンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、式(I)に記載の各工程を有し、且つ各工程において中間体(3)、(5)及び(6)を単離することを特徴とする一般式(7)で表わされる化合物の製造方法を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
(但し、
(第一工程)
塩基性物質の存在下に一般式(1)と(2)で表される化合物を反応せしめ一般式(3)で表される化合物とする工程
(第二工程)
一般式(3)で表される化合物を、多価アルコールまたはその多量体の存在下に一般式(4)で表される化合物と反応せしめ、一般式(5)で表される化合物とする工程
(第三工程)
一般式(5)で表される化合物を、塩基性物質の存在下に反応せしめ、一般式(6)で表される化合物とする工程
(第四工程)
一般式(6)で表される化合物を、多価アルコール中で金属触媒の存在下に加熱せしめることにより脱炭酸反応を行った後に、減圧下に蒸留を行い、一般式(7)で表される化合物を得る工程
(式中、R及びRは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基、Mは水素原子またはアルカリ金属原子、Xはハロゲン原子、nは1〜4の整数を表わす。)である。)
また、本発明では、上記(第四工程)工程の後に、下記(第5工程)を行ってもよい。
(第五工程) (第四工程)における多価アルコールと均一に混合せず、前記一般式(7)で表わされる化合物より低沸点である有機溶剤と、一般式(7)で表わされる化合物とを混合した後、該有機溶剤と多価アルコールを分離する工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電気伝導性の高いポリエチレンジオキシチオフェンの原料として有用な3,4−ジオキシチオフェンの工業的に有利な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するため、特に第二工程における触媒の検討、及び第四工程における多価アルコールの検討を行い、本発明を完成させた。即ち、本発明は、電気伝導性の高いポリエチレンジオキシチオフェンの原料として有用な3,4−ジオキシチオフェンの工業的に有利な製造方法を提供するものである。
本発明では、式(I)に記載の各工程を有し、且つ各工程において中間体(3)、(5)及び(6)を単離することを特徴とする一般式(7)で表わされる化合物の製造方法を提供する。
【0013】
【化2】

【0014】
(但し、
(第一工程)
塩基性物質の存在下に一般式(1)と(2)で表される化合物を反応せしめ一般式(3)で表される化合物とする工程
(第二工程)
一般式(3)で表される化合物を、多価アルコールまたはその多量体の存在下に一般式(4)で表される化合物と反応せしめ、一般式(5)で表される化合物とする工程
(第三工程)
一般式(5)で表される化合物を、塩基性物質の存在下に反応せしめ、一般式(6)で表される化合物とする工程
(第四工程)
一般式(6)で表される化合物を、多価アルコール中で金属触媒の存在下に加熱せしめることにより脱炭酸反応を行った後に、減圧下に蒸留を行い、一般式(7)で表される化合物を得る工程
(式中、R及びRは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基、Mは水素原子またはアルカリ金属原子、Xはハロゲン原子、nは1〜4の整数を表わす。)である。)
また、本発明では、上記4工程の後に、下記(第5工程)を行ってもよい。
(第五工程) (第四工程)における多価アルコールと均一に混合せず、前記一般式(7)で表わされる化合物より低沸点である有機溶剤と、一般式(7)で表わされる化合物とを混合した後、該有機溶剤と多価アルコールを分離する工程。
【0015】
(第一工程)では、一般式(1)で表されるチオジ酢酸ジエステル及び一般式(2)で表されるシュウ酸ジエステルを出発物質として、一般式(3)で表される3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルを合成する。本反応は、塩基性物質の存在下に行い、本反応に用いられる塩基性物質としては、例えば、アルカリ金属アルコキシドを挙げることができ、好ましく用いられるアルカリ金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトシキド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシドを挙げることができる。
【0016】
式(I)において、R及びRは、各々独立に炭素数1〜4のアルキル基であり、これらのR及びRは同じでも異なっていてもよく、また、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
Mは、水素原子またはアルカリ金属原子を表す。一般式(3)で表される化合物は、反応終了後は、使用したアルカリ金属アルコキシドに由来するアルキル金属の塩として得られる。このようなアルカリ金属原子としては、使用したアルカリ金属アルコキシドに含まれるナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子を挙げることができる。
反応は、好ましくは溶液中で行われる。適切な溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−及びisoブタノール及び第3級ブタノールのような低級脂肪族アルコールであるが、アルコキシド成分中に存在するアルコールが好ましい。チオジ酢酸エステル及びシュウ酸エステルは通常等モル量用いられる。エステル1モルに対して、2.0〜4.0モルのアルコキシド、好ましくは2.0から3.0モルのアルコキシド、特に好ましくは2.0から2.5モルのアルコキシドが用いられる。反応は、−10℃から200℃、好ましくは0℃から100℃、特に好ましくは10℃から70℃で行われる。
【0017】
反応時間は10分から24時間、好ましくは1時間から8時間である。アルコキシドは最初に導入するのが好ましく、エステルは、別々に又は混合して、攪拌しながら滴下する。反応の完了後、過剰のアルコキシドは、アルカリ金属硫酸水素塩のような酸又は酸性塩を添加して中和する。
(第一工程)終了後の中間体の単離は、例えば、反応溶液を放冷し、沈殿する固体を濾過、乾燥することにより、目的の3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルのジアルカリ金属塩が得られる。
また、該3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルのジアルカリ金属塩は、酸類による通常公知の処理により、3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルとすることができる。用いられる酸類としては、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸類、ギ酸、酢酸、シュウ酸等の有機酸類を用いることができる。
【0018】
(第二工程)では、一般式(3)で表される化合物を、多価アルコールまたはその多量体の存在下に一般式(4)で表される化合物と反応せしめ、一般式(5)で表される化合物を合成する。本工程を行うために、高沸点溶媒、好ましくは100℃から300℃の沸点を持った溶媒を添加する。好ましい溶媒の例は、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドのような直線状又は環状のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド又はスルホランのような脂肪族スルホキシド又はスルホンであるが、特にアミド系溶媒が好ましい。溶媒は、単独でも2種以上の溶媒を混合しても使用することができる。
一般式(4)で表される化合物において、Xはハロゲン原子、nは1〜4の整数を表わす。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を用いることができるが、塩素原子または臭素原子が好ましい。また、nは1〜4の整数であれば特に限定がないが、特に2である場合が好ましい。
【0019】
本反応は、塩基性物質の存在下に反応を行う。好ましい塩基性物質としては、アルキル化反応によりエーテル結合を形成するために用いられる通常公知の塩基性物質であれば特に制限はないが、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物である無機塩類を挙げることができる。
また、本工程において使用する多価アルコールまたはその多量体は、反応系において均一な相を形成して触媒作用を示し、且つ反応後の生成物の再沈殿等による分離において除去できるものが好ましい。例えば、多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2−ジヒドロキシプロパン、1,2−ジヒドロキシブタン、1,3−ジヒドロキシプロパン、1,3−ジヒドロキシブタンまたは1,4−ジヒドロキシブタンのごとき通常公知の多価アルコールを挙げることができ、その多量体としては、前記多価アルコールの通常公知の多量体を挙げることができる。そのような多価アルコールまたはその多量体の使用量は、特に限定はないが、好ましくは、用いる3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルまたはそのジアルカリ金属塩に対して10〜100質量%、特に好ましくは20〜40質量%である。これらの、多価アルコールまたはその多量体は、単一でも、1種以上の化合物を混合して用いても良い。
【0020】
反応は50から200℃、好ましくは100から150℃の温度で、必要に応じて加圧下で行う。反応時間は1〜24時間である。
反応が完了した時、3,4−アルキレンジオキシチオフェンジカルボン酸エステルを、必要であれば減圧下での蒸留による溶媒の除去、または水を使った沈殿法によって単離する。粗生成物は、続いて乾燥することができるが、湿潤状態で直接加水分解して遊離の3,4−アルキレンジオキシチオフェンジカルボン酸とすることもできる。本工程の特徴は、アルキル化の触媒として多価アルコールまたはその多量体を使用することにより、テトラアルキルアンモニウムハライド等の従来用いられてきたオニウム塩を用いた方法に比べ着色の少ない生成物を得ることができる点にある。
【0021】
(第三工程)では、一般式(5)で表される化合物を、塩基性物質の存在下に反応せしめ、一般式(6)で表される化合物とする。
本工程は、水溶液または水に混合可能な脂肪族アルコールとの混合物として用いられるアルカリ金属水酸化物を用いて行うのが好ましい。好ましいアルカリ金属水酸化物としては、通常公知の加水分解反応に用いられるものを挙げることができ、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましい。
また、好ましいアルコールの例はメタノール、エタノール及びイソプロパノールである。本反応は室温あるいは室温以上の温度で行うことができる。反応が完了すると、遊離の3,4−エチレンジオキシチオフェンジカルボン酸のジアルキル金属塩が分離し、酸類の添加により沈殿する。次いで、生成物を吸引濾過で単離し乾燥することにより、一般式(6)で表される化合物が得られる。
【0022】
(第四工程)では、一般式(6)で表される化合物を、多価アルコール中で金属触媒の存在下に加熱せしめることにより脱炭酸反応を行った後に、減圧下に蒸留を行い、一般式(7)で表される化合物とする。
脱炭酸反応は無触媒で、すなわち170〜260℃で、行うことが可能である。好ましくは、触媒の存在下に行われ、この場合は、はるかに低い温度、例えば100〜180℃の範囲で十分である。好ましい温度は120〜170℃、特に好ましくは130〜160℃である。用いる触媒としては金属化合物、例えば銅塩が好ましい。より具体的には、炭酸銅、硫酸銅、酸化銅又は水酸化銅等を挙げることができる。
【0023】
本発明による溶媒及び希釈剤としては、多価アルコールを挙げることができ、好ましくは、エチレングリコール、1,2‐プロピレングリコールまたは1,3‐プロピレングリコール等のグリコール類を挙げることができる。これらの多価アルコールは、単独でもまたは混合しても用いることができる。
蒸留は、通常公知の減圧下の蒸留が好ましく、蒸留装置も通常公知の蒸留装置を用いることができる。
【0024】
さらに、(第四工程)終了後に(第五工程)として、前記多価アルコールと均一に混合せず、前記一般式(7)で表わされる化合物より低沸点である有機溶媒と、一般式(7)で表わされる化合物とを混合した後、該有機溶媒と多価アルコールを分離する工程を行っても良い。前記多価アルコールと均一に混合する有機溶媒を用いた場合には、前記多価アルコールと有機溶媒が分離せず、また、前記一般式(7)で表わされる化合物の沸点以上の有機溶媒である場合には、一般式(7)で表わされる化合物から有機溶媒を除くことができない。
【0025】
本(第五工程)によれば、(第四工程)の蒸留後において、目的とする一般式(7)で表される化合物と多価アルコールが混在した場合にも、簡便な操作により該多価アルコールを分離することができる。使用される多価アルコールは、分離後の有機溶媒を留去することを鑑み、前記多価アルコールと均一に混合せず、前記一般式(7)で表わされる化合物より低沸点であれば、特に制限なく用いることができ、具体的にはトルエン、エチルベンゼン、シクロヘキサン等が好ましい。
本発明における上記製造工程においては、各工程で中間体を単離することが好ましい。単離工程を経ることにより、各工程における使用済み溶媒の回収による再利用が可能となり、更には高純度の生成物が得られることになる。
本発明により得られる3,4−ジオキシチオフェンは、導電性高分子原料モノマー、コンデンサー、太陽電池用電極材料等の原料として有用である。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例および比較例を持って本発明をより詳しく説明する。
(合成例1)チオジ酢酸メチルの合成
窒素気流下、硫化ナトリウム水和物340部、アセトン850部を反応器に仕込み、クロロ酢酸メチル418部を反応混合物温度が20℃以下となる速度で滴下した。滴下終了後さらに3時間攪拌し、トルエン580部加え、減圧下、溶媒1030部を留去した。有機相を水386部で2回洗浄、溶媒を留去してチオジ酢酸メチルを82%の収率で得た。
【0027】
(実施例1)
(3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルのジナトリウム塩の合成)
反応器に仕込んだ28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液732部に対し、チオジ酢酸メチル282部、シュウ酸ジメチル196部、メタノール190部の混合物を、内温30℃以下を維持しながら滴下した。滴下終了後、加熱還流下で2時間反応させ、放冷後、沈殿物を濾別、乾燥して3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルジナトリウム塩を収率99%で得た。
【0028】
(3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの合成)
3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルジナトリウム塩276部、炭酸カリウム54部、ポリエチレングリコール400(数平均分子量400)100部をDMF830部に加えて攪拌、内温を135℃に昇温してから、ジクロロエタン250部を5時間かけて滴下した。80℃に降温し、減圧下、DMF665部を留去した。20℃まで放冷後、水1080部を攪拌しながら加え、生成した沈殿を濾別し白色固体を得た。これを水600部で洗浄した後、減圧下、100℃で乾燥して3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルを収率80%で得た。
【0029】
(3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の合成)
メタノール133部、3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチル266部、水酸化ナトリウム99部、水840部を仕込み、65℃で3時間反応させた。放冷後、20%硫酸溶液で中和、生成した固体を濾別、水280部で洗浄、減圧下、100℃で乾燥して3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸を収率92%で得た。
【0030】
(3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の合成)
エチレングリコール676部、塩基性炭酸銅(II)23部、3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸225部を加え、窒素気流下、160℃で3時間反応させた。減圧下、EDOT114部/エチレングリコール626部の混合物を蒸留により留去した。
更に第五工程として、上記蒸留物にトルエン600部を加えることでエチレングリコール626部を分離した。得られたEDOTのトルエン溶液からトルエンを留去して収率82%でEDOTを得た。ガスクロマトグラフィーで分析したところ、得られたEDOTの純度は99%以上、チオジ酢酸メチルからの全収率は60%であった。
H−NMR(ppm,DMSO−d):4.16(s,エチレンジオキシ環のプロトン),6.52(s,チオフェン環のプロトン)
13C−NMR(ppm,DMSO−d):64.8(エチレンジオキシ環の炭素),100(チオフェン環2,5位硫黄隣接炭素),142(チオフェン環3,4位炭素)
IR(cm−1,液膜法):3112,2981,2924,2873,1583,1523,1487,1447,1422,1367,1272,1247,1186,1136,1057,1022,935,892,860,833,761,678,555,521
(実施例2)
【0031】
実施例1中の(3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの合成)において、ポリエチレングリコール400の代わりにポリエチレングリコール600(数平均分子量600)を使用した他は実施例1と同様に行った。その結果3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの収率は82%、これを用いてEDOTを合成したところチオジ酢酸メチルからの全収率は61%であり、純度99%以上であった。
(実施例3)
【0032】
実施例1中の(3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの合成)において、ポリエチレングリコール400の代わりにポリエチレングリコール2000(数平均分子量2000)を使用した他は実施例1と同様に行った。その結果3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの収率は78%、これを用いてEDOTを合成したところチオジ酢酸メチルからの全収率は58%であり、純度99%以上であった。
(実施例4)
【0033】
実施例1中の(3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの合成)において、ポリエチレングリコール400の代わりにトリエチレングリコールを使用した他は実施例1と同様に行った。その結果3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの収率は80%、これを用いてEDOTを合成したところチオジ酢酸メチルからの全収率は59%であり、純度99%以上であった。
(実施例5)
【0034】
実施例1中の(3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの合成)において、ジクロロエタン25部の代わりにジブロモエタン470部を使用した他は実施例1と同様に行った。その結果3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの収率は77%、これを用いてEDOTを合成したところチオジ酢酸メチルからの全収率は56%であり、純度99%以上であった。
【0035】
(実施例6)
実施例1中の(3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの合成)において、DMF830部の代わりにN−メチルピロリドン830部を使用した他は実施例1と同様に行った。その結果3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの収率は80%、これを用いてEDOTを合成したところチオジ酢酸メチルからの全収率は59%であり、純度99%以上であった。
【0036】
(実施例7)
実施例1中の(3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の合成において、エチレングリコールの代わりに1,2−ジヒドロキシプロパンを用いる他は実施例1と同様に行った。その結果、チオジ酢酸メチルからの全収率は60%、純度99%以上でEDOTを得た。
(実施例8)
【0037】
実施例1中の(3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の合成において、エチレングリコールの代わりに1,3−ジヒドロキシプロパンを用いる他は実施例1と同様に行った。その結果、チオジ酢酸メチルからの全収率は55%、純度99%以上でEDOTを得た。
【0038】
(実施例9)
1,2−ジクロロエタンの代わりにジブロモメタンを用いる他は実施例1と同様に行った。その結果チオジ酢酸メチルからの全収率は59%、純度99%以上でEDOTを得た。
【0039】
(実施例10)
(回収DMFを用いる3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの合成)
回収したDMFを用いて実施例1と同様に3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの合成を行い、収率78%で目的物を得た。
(実施例10)
【0040】
(回収エチレングリコールを用いるEDOTの合成)
3,4−エチレンジオキシチオフェンの合成を、回収したエチレングリコールを用いて実施例1と同様に行い、収率80%でEDOTを得た。
【0041】
(比較例1)
実施例1中の(3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの合成)において、ポリエチレングリコール400を使用しない他は実施例1と同様に行った。その結果3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸メチルの収率は34%であった。
【0042】
(比較例2)
実施例1中の(3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の合成)において蒸留したEDOT/エチレングリコール混合物に加える溶媒としてトルエンの代わりに酢酸ブチルを用いたところ、均一に溶解し、EDOT酢酸ブチル溶液とエチレングリコールに分離することはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)に記載の各工程を有し、且つ各工程において中間体(3)、(5)及び(6)を単離することを特徴とする一般式(7)で表わされる化合物の製造方法。
【化1】

(但し、
(第一工程)
塩基性物質の存在下に一般式(1)と(2)で表される化合物を反応せしめ一般式(3)で表される化合物とする工程
(第二工程)
一般式(3)で表される化合物を、多価アルコールまたはその多量体の存在下に一般式(4)で表される化合物と反応せしめ、一般式(5)で表される化合物とする工程
(第三工程)
一般式(5)で表される化合物を、塩基性物質の存在下に反応せしめ、一般式(6)で表される化合物とする工程
(第四工程)
一般式(6)で表される化合物を、多価アルコール中で金属触媒の存在下に加熱せしめることにより脱炭酸反応を行った後に、減圧下に蒸留を行い、一般式(7)で表される化合物を得る工程
(式中、R及びRは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基、Mは水素原子またはアルカリ金属原子、Xはハロゲン原子、nは1〜4の整数を表わす。)である。)
【請求項2】
前記(第二工程)における多価アルコールが、エチレングリコール、1,2−ジヒドロキシプロパン、1,2−ジヒドロキシブタン、1,3−ジヒドロキシプロパン、1,3−ジヒドロキシブタン及び1,4−ジヒドロキシブタンからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の一般式(7)で表される化合物の製造方法。
【請求項3】
前記(第四工程)における多価アルコールが、エチレングリコール、1,2‐ジヒドロキシプロパンまたは1,3‐ジヒドロキシプロパンである請求項1または2に記載の一般式(7)で表される化合物の製造方法。
【請求項4】
前記(第四工程)終了後、
(第四工程)における多価アルコールと均一に混合せず、前記一般式(7)で表わされる化合物より低沸点である有機溶剤と、一般式(7)で表わされる化合物とを混合した後、該有機溶剤と多価アルコールを分離する工程(第五工程)
を行なう請求項1〜3のいずれか一項に記載の一般式(7)で表される化合物の製造方法。
【請求項5】
前記(第五工程)における有機溶剤が、トルエン、エチルベンゼンまたはシクロヘキサンである請求項4に記載の一般式(7)で表される化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−132571(P2010−132571A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307365(P2008−307365)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】