説明

3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリルの製造法

【課題】医薬、農薬等の合成中間体として有用な3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリル、殊にその光学活性体の高収率かつ経済的な製造法を提供する。
【解決手段】ラセミまたは光学活性な3−ハロゲノ−2−メチル−1,2−プロパンジオールに、必要に応じN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、水、等の溶媒存在下、アルカリ金属の青酸塩、アルカリ土類金属の青酸塩等のいわゆる青酸塩を反応させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬、農薬等の合成中間体として有用な3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリル、殊にその光学活性体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリルの製造法については、2,3−エポキシ−2−メチル−1−プロパノールにジエチルアルミニウムシアニドを反応させる方法(非特許文献1)等が知られている。
【非特許文献1】Tetrahedron Lett., 40, 1041(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の製造法で使用するジエチルアルミニウムシアニドが高価であり、また収率が38%と低いなど、工業的な実用化を行う上で問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記問題点を解決すべく種々検討した結果、3−ハロゲノ−2−メチル−1,2−プロパンジオールを原料に用いて、高収率かつ経済的に3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリルを製造する方法を見い出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中Xはハロゲン原子を意味する。)
で表される3−ハロゲノ−2−メチル−1,2−プロパンジオールに青酸塩を反応させることを特徴とする、下記式(2)
【化2】

で表される3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリルの製造法に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリルを高収率かつ経済的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
原料である一般式(1)の3−ハロゲノ−2−メチル−1,2−プロパンジオールはどのような方法で得てもよい。例えばXが塩素原子であるラセミ体の3−クロロ−2−メチル−1,2−プロパンジオールはメタリルクロライドを過酢酸等で酸化してメチルエピクロルヒドリンとし、それを酸存在下水和開裂させる方法が周知である。また、その光学活性体は、例えばL−酒石酸ジブチルとβ-メタリルアルコールから合成して導く方法(特開昭63−150234)や、微生物によるキラル分割を利用する方法(特願2005−000116)に従って入手することができる。
【0008】
3−ハロゲノ−2−メチル−1,2−プロパンジオールのハロゲン原子としては、塩素原子または臭素原子が好ましい。特に好ましいのは塩素原子である。
【0009】
使用できる青酸塩としては、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等のアルカリ金属の青酸塩、シアン化マグネシウム、シアン化カルシウム等のアルカリ土類金属の青酸塩、およびこれらの混合物が挙げられるが、好ましくはシアン化ナトリウム、シアン化カリウムである。青酸塩の使用量は基質である3−ハロゲノ−2−メチル−1,2−プロパンジオールに対して好ましくは1〜3当量、更に好ましくは1〜2当量である。過剰に使用しても収率に影響はないが経済的に不利である。
【0010】
この反応は無溶媒で行うことも可能であるが、副生物の生成を最小限に抑えて収率を高めるためには溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライム、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、水媒体、ならびにこれらの混合溶媒等が挙げられる。好ましくは、水、メタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドからなる群から選択された少なくとも一種以上の溶剤である。
【0011】
反応温度は特に限定されないが、反応速度および副生成物の発生を考慮すれば、0℃から溶媒の還流温度までが好ましい。反応圧力は通常は常圧であるが、加圧下で反応を行うことも可能である。なお、反応時間は、温度、圧力等の関係で適宜決められる。
【0012】
反応終了後は、不溶物をろ去後、ろ液中の溶媒を減圧下に留去し、残渣を蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の精製処理をすることにより、簡便に目的とする3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリルが得られる。
【0013】
出発原料に光学活性な3−ハロゲノ−2−メチル−1,2−プロパンジオールを用いると、光学活性な3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリルが得られる。この場合、反応中顕著なラセミ化は起こらない。
【実施例】
【0014】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[製造例1]
ペプトン10g/L、酵母エキス10g/L、グリセリン10g/Lからなる組成の培地100ml(pH7.0)を、500mL容のバッフル付き三角フラスコに入れ、121℃で15分間、加圧蒸気滅菌した。次いで、あらかじめ同栄養培地プレートで生育させたシュードモナスsp.DS−SI−5株を1白金耳分植菌し、30℃で24時間好気的に培養した。得られた培養液を遠心し、菌体を回収した。
上記三角フラスコ中に、菌体100mLを20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、懸濁液にラセミ体3−クロロ−2−メチル−1,2−プロパンジオールを2.5%(v/v)と炭酸カルシウムを3.6%とを加え、30℃、120rpmで48時間反応させた。反応終了後、反応液を取り出し、遠心操作により菌体を除去し、上清液を得た。この上清液をエバポレーターで濃縮し、エーテルにより抽出した。続いて無水硫酸マグネシウムにより脱水後、減圧下でエーテルを除去し、S体の3−クロロ−2−メチル−1,2−プロパンジオール(ラセミ体の3−クロロ−2−メチル−1,2−プロパンジオールからの残存率40.9%、光学純度99%ee)を得た。
【0015】
[製造例2]
菌体をシュードモナスsp.DS−K−436−1株に変更し、ラセミ体3−クロロ−2−メチル−1,2−プロパンジオールの使用量を1.0%(v/v)に変更し、炭酸カルシウムの使用量を1.5%に変更し、反応時間を24時間に変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、R体の3−クロロ−2−メチル−1,2−プロパンジオール(ラセミ体の3−クロロ−2−メチル−1,2−プロパンジオールからの残存率22.1%、光学純度99%ee)を得た。
【0016】
[実施例1]
(R)−3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリルの製造
(S)−3−クロロ−2−メチル−1,2−プロパンジオール(50.0g、0.401mol、光学純度99%ee)、N,N−ジメチルホルムアミド(500mL)の混合物に、シアン化ナトリウム(21.6g、0.442mol)を加えて60℃で12時間撹拌した。不溶物をろ去し、ろ液を減圧下濃縮した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して標題の(R)−3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリル41.7g(収率90.2%、光学純度99%ee)を得た。
【0017】
[実施例2]
(S)−3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリルの製造
(R)−3−クロロ−2−メチル−1,2−プロパンジオール(50.0g、0.401mol、光学純度99%ee)、N,N−ジメチルホルムアミド(500mL)の混合物に、シアン化ナトリウム(21.6g、0.442mol)を加えて60℃で12時間撹拌した。不溶物をろ去し、ろ液を減圧下濃縮した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して標題の(S)−3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリル40.8g(収率88.3%、光学純度99%ee)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は医薬、農薬等の合成中間体の製造分野において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を意味する。)
で表される3−ハロゲノ−2−メチル−1,2−プロパンジオールに青酸塩を反応させることを特徴とする、下記式(2)
【化2】

で表される3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリルの製造法。
【請求項2】
ハロゲン原子Xが塩素原子または臭素原子である請求項1記載の製造法。
【請求項3】
青酸塩がアルカリ金属の青酸塩、アルカリ土類金属の青酸塩、またはこれらの混合物である請求項1または2記載の製造法。
【請求項4】
アルカリ金属の青酸塩がシアン化ナトリウムであり、アルカリ土類金属の青酸塩がシアン化カリウムである請求項3記載の製造法。
【請求項5】
水、メタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドからなる群から選択された少なくとも一種以上の溶剤中で反応を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造法。
【請求項6】
3−ハロゲノ−2−メチル−1,2−プロパンジオールが光学活性体であり、製造される3,4−ジヒドロキシ−3−メチルブチロニトリルが光学活性体である請求項1〜5のいずれかに記載の製造法。

【公開番号】特開2007−297301(P2007−297301A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124984(P2006−124984)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】