説明

3,5−ジ−tert−ブチル−4−オキシベンゾイル繰返し単位を含む液晶性樹脂

【課題】 機械的性質が良好であり、低比重である、新規な液晶性樹脂を提供すること。
【解決手段】 実質的に、下記式〔1〕で表される、3,5−ジ−tert−ブチル−4−オキシベンゾイル繰返し単位:
【化1】


および、
下記式〔I〕〜〔VII〕で表される繰返し単位から選択される1種以上の繰返し単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性樹脂:
−O−Ar−CO− 〔I〕
−O−Ar−O− 〔II〕
−CO−Ar−CO− 〔III〕
−NH−Ar−CO− 〔IV〕
−NH−Ar−O− 〔V〕
−NH−Ar−NH− 〔VI〕
−O−R−O− 〔VII〕
〔Ar〜Arはそれぞれ2価の芳香族基を表し、Rは炭素原子数1〜6の2価の脂肪族基を表す〕を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3,5−ジ−tert−ブチル−4−オキシベンゾイル繰返し単位を含む新規な液晶性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂およびサーモトロピック液晶ポリエステルアミド樹脂に代表される液晶性樹脂は、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等に優れている。そのため、成形品用途のみならず、繊維やフィルムといった各種用途にその使用が拡大しつつある。特にパーソナル・コンピューターや携帯電話等の情報・通信分野においては、部品の高集積度化、小型化、薄肉化、低背化等が急速に進んでおり、0.5mm以下の非常に薄い肉厚部が形成されるケースが多い。これらの分野においては、LCPの優れた成形性、すなわち、流動性が良好であり、かつバリが出ないという他の樹脂にない特徴を活かして、その使用量が大幅に増大している。
【0003】
これらの液晶性樹脂の主原料として、4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸類が広く使用されている。芳香族ヒドロキシカルボン酸類のなかでも、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸は樹脂添加剤の中間体として古くから知られている(特許文献1を参照)。しかし、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸またはその誘導体を単量体として用いた、3,5−ジ−tert−ブチル−4−オキシベンゾイル繰返し単位を含む高分子材料についてはほとんど報告されていない。
【0004】
3,5−ジ−tert−ブチル−4−オキシベンゾイル繰返し単位を含む高分子材料としては、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸を、4−ヒドロキシ安息香酸や3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸と、ピリジン中で塩化チオニルを用いて縮合させた共重合ポリエステルが報告されている。しかし、このポリエステルは液晶性を示さないものであり、液晶性樹脂の有する上記の優れた特性は発現しないものであった(非特許文献1を参照)。
【0005】
また、近年、液晶性樹脂はモーターインシュレーターなどの大型の部品への使用も進んでおり、このような用途においては軽量性(低比重)が要求されている。液晶性樹脂を低比重化する方法としては、グラスバルーンなどの中空の添加材を用いる方法が挙げられる。しかし、中空の添加材は高価であることや、樹脂との溶融混練条件によっては混練時に中空の添加材が破砕していまい、十分な低比重化の効果が得られないなどの問題がある。
【特許文献1】特開昭48−40745号公報
【非特許文献1】Yamanaka Kazuhiro,Jikei Mitsutoshi,Kakimoto Masa−Aki著,「ハイ・パフォーマンス・ポリマー(High Performance Polymers)」、1999年、第11巻、第2号、p.219−226
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、機械的性質が良好であり、低比重である、新規な液晶性樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、実質的に、下記式〔1〕で表される、3,5−ジ−tert−ブチル−4−オキシベンゾイル繰返し単位:
【化1】

および、
下記式〔I〕〜〔VII〕で表される繰返し単位から選択される1種以上の繰返し単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性樹脂:
−O−Ar−CO− 〔I〕
−O−Ar−O− 〔II〕
−CO−Ar−CO− 〔III〕
−NH−Ar−CO− 〔IV〕
−NH−Ar−O− 〔V〕
−NH−Ar−NH− 〔VI〕
−O−R−O− 〔VII〕
〔Ar〜Arはそれぞれ2価の芳香族基を表し、Rは炭素原子数1〜6の2価の脂肪族基を表す;Ar〜Ar、およびRは2種以上の基であってもよい〕を提供する。
【0008】
さらに本発明は、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸あるいはそのアルキルエステル(ここでアルキル基は炭素原子数1〜6である)または酸ハロゲン化物の、アシル化物(ここでアシル基は炭素原子数2〜6である)と、他の単量体を溶融アシドリシス法により重縮合することを特徴とする、前記の液晶性樹脂の製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の液晶性樹脂は異方性溶融相を形成する液晶ポリエステル樹脂または液晶ポリエステルアミド樹脂であり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂またはサーモトロピック液晶ポリエステルアミド樹脂と呼ばれているものであって、本発明の範囲に含まれるものであれば特に限定されない。
【0010】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0011】
なお、本明細書および特許請求の範囲において「芳香族基」とは、6員の単環または縮合環、あるいは6員の単環または縮合環が、炭素−炭素結合、オキシ基、炭素原子数1〜6のアルキレン基、アミノ基、カルボニル基、スルフィド基、スルフィニル基、および、スルホニル基からなる群より選択される連結基により連結されたものであり、芳香族基中の環数4までのものとする。
また、「繰り返し単位」とは、液晶性樹脂を形成する単位であり、式(1)あるいは式〔I〕〜〔VII〕によって表される単位を意味する。「他の繰り返し単位」とは、これらの中で式(1)で表される繰り返し単位以外、即ち、式〔I〕〜〔VII〕によって表される単位を意味する。
【0012】
本発明の液晶性樹脂は、式〔1〕で表される、3,5−ジ−tert−ブチル−4−オキシベンゾイル繰返し単位を必須に含む。
【化2】

【0013】
式(1)で表される繰り返し単位の比率は、液晶性樹脂の全繰り返し単位中、0.1〜50モル%、より好ましくは3〜30モル%、特に好ましくは5〜15モル%である。
【0014】
本発明において、3,5−ジ−tert−ブチル−4−オキシベンゾイル繰返し単位を与える単量体としては、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸、そのアルキルエステル(ここでアルキル基は炭素原子数1〜6である)および酸ハロゲン化物のアシル化物(ここでアシル基は、炭素原子数2〜6である)が挙げられる。これらの中でも、3,5−ジ−tert−ブチル−4−アセトキシ安息香酸が、調製が容易であること、反応性に優れること、液晶性樹脂の製造時に副生する脂肪酸を留去しやすい点などで好ましい。
【0015】
3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法は特に限定されず、従来公知のいかなる方法を用いてもよい。例えば、2,6−ジ−tert−ブチルフェノールのアルカリ金属塩を、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒中で加熱下に二酸化炭素と反応させた後に加水し、次いで酸析、濾過することにより得ることができる。
【0016】
3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の酸ハロゲン化物は、上記方法により得られた、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸を、塩化チオニルなどの酸ハロゲン化剤と常法に従い反応させることにより得ることができる。
【0017】
3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸のアルキルエステルは、上記方法により得られた3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸の酸ハロゲン化物と炭素原子数1〜6のアルコールを反応させることにより得ることが出来る。また、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸を、硫酸や酸性イオン交換樹脂等の酸触媒の存在下に、炭素原子数1〜6のアルコールとエステル化反応させることによっても得ることができる。
【0018】
これらの3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸あるいはそのアルキルエステルまたは酸ハロゲン化物のアシル化物は、例えば炭素原子数1〜6の脂肪酸無水物や炭素原子数1〜6の脂肪酸ハロゲン化物から選択されるアシル化剤と、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸あるいはそのアルキルエステルまたは酸ハロゲン化物を、ピリジン等の含窒素有機塩基の存在下に反応させることにより調製することができる。
【0019】
本発明の液晶性樹脂は3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイル繰返し単位の他の繰返し単位として、下記式〔I〕〜〔VII〕で表される繰返し単位から選択される1種以上を必須に含む。
−O−Ar−CO− 〔I〕
−O−Ar−O− 〔II〕
−CO−Ar−CO− 〔III〕
−NH−Ar−CO− 〔IV〕
−NH−Ar−O− 〔V〕
−NH−Ar−NH− 〔VI〕
−O−R−O− 〔VII〕
〔Ar〜Arはそれぞれ2価の芳香族基を表し、Rは炭素原子数1〜6の2価の脂肪族基を表す;Ar〜Ar、およびRは2種以上の基であってもよい〕。
【0020】
他の繰返し単位の好ましい組み合わせの例としては、これらに限定されるものではないが以下に示すものが挙げられる。
1)〔I〕
2)〔I〕/〔II〕/〔III〕
3)〔II〕/〔III〕
4)〔I〕/〔III〕/〔VII〕
5)〔I〕/〔IV〕
6)〔I〕/〔II〕/〔III〕/〔IV〕
7)〔II〕/〔III〕/〔IV〕
8)〔I〕/〔III〕/〔V〕
9)〔I〕/〔II〕/〔III〕/〔V〕
10)〔I〕/〔III〕/〔VI〕
11)〔I〕/〔II〕/〔III〕/〔VI〕
【0021】
他の繰返し単位の組み合わせの中でも、他の繰返し単位が、式〔I〕〜〔III〕で表される繰返し単位から選択される1種以上から構成されるものが、得られる樹脂が耐熱性、機械物性などに優れる点から好ましい。なかでも、他の繰返し単位として式〔I〕で表される繰返し単位を含むものが、得られる樹脂の物性を調節しやすい点などで特に好ましい。
【0022】
以下、各繰返し単位について説明する。
式〔I〕で表される、芳香族オキシカルボニル繰返し単位としては、例えば以下に示す群から選択されるものが挙げられる。
【化3】

【0023】
これらのなかでも、以下の式〔2〕〜〔4〕で表される繰返し単位から選択される1種以上の繰返し単位を含むものが好ましく、式〔2〕および/または式〔3〕で表される繰返し単位を含むものが特に好ましい。
【化4】

【0024】
式〔II〕で表される、芳香族ジオキシ繰返し単位としては、例えば以下に示す群から選択されるものが挙げられる。
【化5】

【0025】
これらのなかでも、以下の式〔5〕〜〔8〕で表される繰返し単位から選択される1種以上の繰返し単位を含むものが特に好ましい。
【化6】

式〔III〕で表される、芳香族ジカルボニル繰返し単位としては、例えば以下に示す群から選択されるものが挙げられる。
【化7】

【0026】
これらのなかでも、以下の式〔9〕〜〔12〕で表される繰返し単位から選択される1種以上の繰返し単位を含むものが特に好ましい。
【化8】

【0027】
式〔IV〕で表される芳香族アミノカルボニル繰返し単位、式〔V〕で表される芳香族アミノオキシ繰返し単位、式〔VI〕で表される芳香族ジアミノ繰返し単位、および式〔VII〕で表される脂肪族ジオキシ繰返し単位の好ましい例としては、例えば以下に示す群から選択されるものが挙げられる。
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【0028】
式〔I〕で表される繰返し単位を与える単量体としては、対応する芳香族ヒドロシカルボン酸、およびそのアシル化誘導体、酸ハロゲン化物、アルキルエステルなどのエステル結合またはアミド結合形成性の誘導体が用いられる。
【0029】
具体的な単量体の例としては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸、および、4−(4’−ヒドロキシフェニル)安息香酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸およびこれらのエステル結合またはアミド結合形成性誘導体が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、式〔2〕〜〔4〕で表される繰返し単位を与える、4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、および4−(4’−ヒドロキシフェニル)安息香酸から選択されるものを用いるのが好ましく、式〔2〕および/または〔3〕で表される繰返し単位を与える4−ヒドロキシ安息香酸および/または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を用いるのが特に好ましい。
【0031】
式〔II〕で表される繰返し単位を与える単量体としては、対応する芳香族ジオールおよびそのアシル化誘導体などのエステル形成性の誘導体が用いられる。具体的な単量体の例としてはハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、および1,6−ジヒドロキシナフタレンなどの芳香族ジオールおよびこれらのエステル結合形成性誘導体が挙げられる。
【0032】
これらの中でも、式〔5〕〜〔8〕で表される繰返し単位を与える、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、および2,6−ジヒドロキシナフタレンから選択されるものを用いるのが好ましい。
【0033】
式〔III〕で表される繰返し単位を与える単量体としては、対応する芳香族ジカルボン酸およびその酸ハロゲン化物、アルキルエステルなどのエステル結合形成可能な誘導体が用いられる。具体的な単量体の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル、3,3’−ジカルボキシビフェニル、3,4’−ジカルボキシビフェニル、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、2,7−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸および1,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸およびこれらのエステル結合またはアミド結合形成性誘導体が挙げられる。
【0034】
これらの中でも、式〔9〕〜〔12〕で表される繰返し単位を与える、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル、および2,6−ナフタレンジカルボン酸から選択されるものを用いるのが好ましい。
【0035】
式〔IV〕で表される繰返し単位を与える単量体としては、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、4−アミノ−4’−カルボキシビフェニル、および、2−アミノ−6−ナフトエ酸などの芳香族アミノカルボン酸およびこれらのエステル結合またはアミド結合形成性誘導体が挙げられる。
【0036】
式〔V〕で表される繰返し単位を与える単量体としては、4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル、および、6−アミノ−2−ナフト−ルなどの芳香族ヒドロキシアミンおよびこれらのエステル結合またはアミド結合形成性誘導体が挙げられる。
【0037】
式〔VI〕で表される繰返し単位を与える単量体としては、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、および、2,6−ジアミノナフタレンなどの芳香族ジアミンおよびこれらのアミド結合形成性誘導体が挙げられる。
【0038】
式〔VII〕で表される繰返し単位を与える単量体としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオールおよび1,4−ブタンジオールなどの脂肪族ジオールおよびこれらのエステル結合形成性誘導体が挙げられる。
【0039】
これらの単量体は予めオリゴマーとしてから重合に用いてもよい。
【0040】
本発明の液晶性樹脂の製造方法は、前記の単量体成分の組み合わせからなるエステル結合を形成させる公知の液晶ポリエステル樹脂または液晶ポリエステルアミド樹脂の重縮合法であれば特に制限されないが、溶融アシドリシス法を用いるのが好ましい。
【0041】
溶融アシドリシス法とは、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融溶液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(たとえば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0042】
溶融アシドリシス法においては、液晶性樹脂を製造する際に使用する重合性単量体成分は、ヒドロキシル基やアミノ基をアシル化した変性形態で反応に供することもできる。アシル基は炭素原子数2〜6のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体成分のアセチル化物を反応に用いる。
【0043】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶性樹脂の製造時にモノマーに無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0044】
液晶性樹脂の製造時に単量体のアシル化を行う場合は、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸のアシル化反応を促進させるために、ピリジン、キノリン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ヘキサメチレンテトラミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、およびN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミンなどから選択される含窒素有機塩基の存在下にアシル化反応を行うのが好ましい。
【0045】
含窒素有機塩基の使用量としては、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸1モルに対して、有機塩基が1価の塩基である場合には1モル以上用いるのが好ましく、2価以上の多価の塩基である場合にはその価数に応じた量を用いるのが好ましい(例えば2価の塩基では0.5モル以上)。
【0046】
本発明の液晶樹脂の製造方法において、必要に応じて触媒を用いてもよい。
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);ルイス酸(たとえばBF)、ハロゲン化水素(たとえばHCl)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0047】
触媒の使用割合は、通常モノマーに対し10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0048】
上記の方法などによって得られた、本発明の液晶ポリエステル樹脂は、溶融状態で重合反応槽から抜き出され、ペレット状、粉状などに加工された後に、所望により各種材料を配合され、種々の用途に供される。
【0049】
本発明の液晶樹脂組成物を得るために、マトリクスである液晶樹脂に配合せしめてもよい材料としては、例えば、繊維状、板状または粉状の充填材および/または強化材の1種以上から選択されるものなどが挙げられる。
【0050】
繊維状の充填材および/または強化材としては、たとえばガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維などが挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点から好ましい。
【0051】
板状あるいは粉状の充填材および/または強化材としては、たとえばタルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられる。
【0052】
これらの充填材および/または強化材のなかでも、安価であることや成形品の強度などの特性を調節しやすいことからガラス繊維を用いるのが好ましい。
【0053】
本発明の液晶樹脂組成物における充填材および/または強化材の配合割合は、液晶ポリエステル樹脂組成物の量100重量部に対して、0〜200重量部、好ましくは10〜100重量部添加するのがよい。前記繊維状、板状または粉状の無機充填剤が200重量部を超える場合には、成形加工性が低下したり、成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなる傾向がある。
【0054】
本発明の液晶樹脂組成物に対して、本発明の効果を損なわない範囲でさらに、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは、炭素原子数10〜25のものをいう)、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などの通常の添加剤を1種または2種以上を組み合わせて添加してもよい。これらの配合割合は、液晶ポリエステル樹脂組成物の量100重量部に対して、0.005〜1重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部添加するのがよい。
【0055】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有するものについては、成形に際して予めペレットなどに付着せしめて用いてもよい。
【0056】
本発明の液晶樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でさらに他の本発明の液晶樹脂以外の樹脂成分を配合してもよい。他の樹脂成分としては、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂や、たとえばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。他の樹脂成分は1種または2種以上を組み合わせて配合することができる。他の樹脂成分の配合量は特に限定されず、液晶樹脂組成物の用途や目的に応じて適宜さだめればよい。典型的には本発明の液晶樹脂100重量部に対する他の樹脂成分の合計配合量が1〜200重量部、特に10〜100重量部となる範囲において配合される。
【0057】
本発明の液晶樹脂組成物は、充填材、強化材、添加剤および他の樹脂などの全ての成分を液晶樹脂中へ配合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶樹脂の融点近傍ないし融点プラス100℃で溶融混練して調製すればよい。
【0058】
このようにして得られた本発明の液晶樹脂または液晶樹脂組成物は、従来公知の射出成形、圧縮成形、押出成形、ブローなどの成形法が適用でき、得られた成形品は電気・電子部品、機械機構部品、自動車部品等として好適に使用される。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
参考例および実施例中で下記の略号は以下の化合物を表す。
DBPOB:3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸
Ac−DBPOB:3.5−ジ−tert−ブチル−4−アセトキシ安息香酸
BON6:2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸
POB:パラヒドロキシ安息香酸
【0060】
〈溶融粘度の測定方法〉
株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ、型式1Aを用い、ノズル径0.7mm、ノズル長10mmのダイスにて測定を行う。剪断速度1000sec−1にて、270℃の溶融粘度の値を測定する。
【0061】
〈DSC測定方法〉
セイコーインスツルメンツ株式会社製Exstar6000を用い、液晶ポリエステル樹脂の試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリエステル樹脂の融点とする。
【0062】
〈比重測定方法〉
ASTM4号ダンベルを用いて、ASTMD792に準拠して測定する(23℃)。
【0063】
(参考例)
3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸62.6gにジエチルエーテル250ml及びピリジン39.5gを加え、窒素気流下、室温にて攪拌した。続いて、塩化アセチル39.0gを20分かけて滴下した。滴下終了後、約120分攪拌した後、析出物をろ過により除去した後にろ液を濃縮し、Ac−DBPOB70.9gを得た。
【0064】
(実施例1)
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、参考例において得られたAc−DBPOB、全量(0.25モル)、BON6、402.3g(2.14モル)、POB、360.8g(2.61モル)、および無水酢酸、518.9g(5.05モル)を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
窒素ガス雰囲気下に室温〜140℃まで1時間で昇温し、同温度にて1時間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ240℃まで速やかに昇温し、同温度にて20分間保持した。その後、270℃まで1.5時間かけ昇温した後、80分かけ10mmHgまで減圧を行ない、所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
この得られた液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度は49Pa・sであり、またDSCにより測定された融点は250℃であった。得られたポリマーを粉砕後、成形を行い比重の評価を行った。その結果、得られた樹脂の比重は1.375であった。
【0065】
(比較例1)
原料を、BON6、550.5g(2.93モル)、POB、493.7g(3.57モル)、および無水酢酸、674.3g(6.57モル)に変えることの他は、実施例1と同様にして液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
この得られた液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度は28Pa・sであり、またDSCにより測定された融点は250℃であった。得られたポリマーを粉砕後、成形を行い比重の評価を行った。その結果、得られた樹脂の比重は1.410であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に、下記式〔1〕で表される、3,5−ジ−tert−ブチル−4−オキシベンゾイル繰返し単位:
【化1】

および、
下記式〔I〕〜〔VII〕で表される繰返し単位から選択される1種以上の繰返し単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性樹脂:
−O−Ar−CO− 〔I〕
−O−Ar−O− 〔II〕
−CO−Ar−CO− 〔III〕
−NH−Ar−CO− 〔IV〕
−NH−Ar−O− 〔V〕
−NH−Ar−NH− 〔VI〕
−O−R−O− 〔VII〕
〔Ar〜Arはそれぞれ2価の芳香族基を表し、Rは炭素原子数1〜6の2価の脂肪族基を表す;Ar〜Ar、およびRは2種以上の基であってもよい〕。
【請求項2】
式〔1〕で表される繰返し単位および式〔I〕〜〔III〕で表される繰返し単位から選択される1種以上からなる、請求項1に記載の液晶性樹脂。
【請求項3】
式〔I〕で表される繰返し単位が、以下の式〔2〕〜〔4〕で表される繰返し単位から選択される一種以上であり、
【化2】

式〔II〕で表される繰返し単位が、以下の式〔5〕〜〔8〕から選択される一種以上であり、
【化3】

式〔III〕で表される繰返し単位が、以下の式〔9〕〜〔12〕から選択される一種以上である、
【化4】

請求項2に記載の液晶性樹脂。
【請求項4】
式〔1〕で表される繰返し単位および、式〔2〕および/または式〔3〕で表される繰返し単位からなる、請求項2または3に記載の液晶性樹脂。
【請求項5】
式〔1〕、式〔2〕、および式〔3〕で表される繰返し単位からなる、請求項4に記載の液晶性樹脂。
【請求項6】
式〔1〕で表される繰返し単位の比率が、液晶性樹脂の全繰返し単位中0.1〜50モル%である請求項1〜5の何れかに記載の液晶性樹脂。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の液晶性樹脂100重量部に対し、繊維状、板状または粉状の充填材および/または強化材を0.1〜200重量部含む液晶性樹脂組成物。
【請求項8】
充填材および/または強化材が、ガラス繊維である、請求項7に記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の液晶性樹脂または液晶性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項10】
3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸あるいはそのアルキルエステル(ここでアルキル基は炭素原子数1〜6である)または酸ハロゲン化物の、アシル化物(ここでアシル基は炭素原子数2〜6である)と、他の単量体を溶融アシドリシス法により重縮合することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の液晶性樹脂の製造方法。
【請求項11】
アシル化物が、アセチル化物である、請求項10に記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−2114(P2006−2114A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182484(P2004−182484)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000146423)株式会社上野製薬応用研究所 (30)
【Fターム(参考)】