説明

3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールの製造方法

【課題】 大掛かりな装置を用いることなく高収率で、工業的に安価で簡便な3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールの製造方法を提供すること。
【解決手段】 塩基、相間移動触媒及び水の存在下で、下記式(1)で表される2−メルカプトエタノールと塩化メチレンとを反応させることを特徴とする下記式(2)で表される3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールの製造方法とする。相間移動触媒としては、4級アンモニウム系相間移動触媒が好ましい。
HS−CH−CH−OH・・・(1)
HO−CH−CH−S−CH−S−CH−CH−OH・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高収率で工業的に安価で簡便な3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールは、非特許文献2に記載されているようにポリマーの架橋剤や安定化剤、化粧品配合成分及び潤滑剤用添加物として有用である。
従来、3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールを製造する方法としては、以下の方法が知られている。
例えば、非特許文献1には2−メルカプトエタノールとジブロモメタンとをエタノールと水酸化カリウム水溶液中で還流することにより、3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールを得る方法が記載されている。しかし、この本方法は、高価なジブロモメタンを必要とするだけでなく、収率も37%と非常に低いものであった。
また、非特許文献2には、粉砕した水酸化ナトリウムと2−メルカプトエタノールとの混合物に、冷却下ジブロモメタンと60℃以下で滴下し、1時間還流することにより、3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールを得る方法が記載されている。しかし、この本方法は、高価なジブロモメタンを必要とするだけでなく、吸湿性の水酸化ナトリウムを粉砕する、溶媒を用いないため発熱量が激しい、固体が大量に析出して攪拌が困難であるなどといったように工業的な製造には不向きであった。
更に特許文献1,2には水酸化ナトリウム又はその水溶液、2−メルカプトエタノール及びメタノールとの混合物に、冷却下ジブロモメタン又は塩化メチレン加えたものを還流することにより、3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールを得る方法が記載されている。しかし、この本方法では、無機塩が大量に析出し、それを除去するために2度も濾過し、更に濾物をテトラヒドロフラン又はアセトンのような有機溶媒で洗浄するといった非常に煩雑な操作が必要であるため工業的な製造には不向きであった。
従って、工業的に安価で簡便な3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールを製造するための方法の開発が待望されている。
【0003】
【非特許文献1】Chem.Ber.,109,1002(1976)
【非特許文献2】Org.Prep.Proced.Int.,37,268(2005)
【特許文献1】特開昭50−51316号公報
【特許文献2】特開平2−240054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、大掛かりな装置を用いることなく高収率で、工業的に安価で簡便な3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、相間移動触媒を用いることにより、2−メルカプトエタノールと塩化メチレンから高収率で工業的に安価で簡便に3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールを製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、塩基、相間移動触媒及び水の存在下で、下記式(1)で表される2−メルカプトエタノールと塩化メチレンとを反応させることを特徴とする、下記式(2)で表される3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールの製造方法である。
HS−CH−CH−OH・・・(1)
HO−CH−CH−S−CH−S−CH−CH−OH・・・(2)
前記相間移動触媒としては、4級アンモニウム塩系相間移動触媒が好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、大掛かりな装置を用いることなく、ポリマーの架橋剤や安定化剤、化粧品配合成分及び潤滑剤用添加物に有用である3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールを、高収率で、工業的に安価で簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いられる塩化メチレンは、2−メルカプトエタノール1モルに対して0.8モルから20モル、更には1モルから5モルが好ましい。前記塩化メチレンの添加量が少なすぎると反応が充分に進行せず、多すぎると反応が遅くなる場合がある。
本発明では、塩化メチレンを原料としてだけでなく、有機相を形成する媒体としても使用することができる。
【0008】
本発明で用いられる相間移動触媒としては、15−クラウン−5−エーテル、18−クラウン−6−エーテルなどの環状ポリエーテル系相間移動触媒;テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨーダイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、アリコート336などの四級アンモニウム塩系相間移動触媒などが挙げられる。この中で、四級アンモニウム塩が好ましく用いられる。この時相間移動触媒の添加量は、2−メルカプトエタノール1モルに対して0.001モルから0.5モル、更には0.01モルから0.2モルが好ましい。
前記相間移動触媒の添加量が少なすぎると、収率が悪くなる傾向があり、添加量が多すぎても、添加量の増加割合に対して、反応終了までの時間の短縮割合が小さい。
【0009】
本発明で用いられる相間移動触媒の添加方法は特に制限されないが、例えば塩化メチレン又は水に溶解させて用いることもできるし、反応系に最後に単独で添加することもできる。
【0010】
本発明において用いられる塩基は特に制限されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのような無機塩基が好ましく、さらに好ましくは水酸化ナトリウム又は/及び水酸化カリウムである。この時の塩基の添加量は、2−メルカプトエタノール1モルに対して1モルから5モル、更には1モルから3モルであることが好ましい。
前記塩基の添加量が少なすぎると反応が充分に進行せず、添加量が多すぎると後処理が煩雑となる傾向がある。
【0011】
本発明において用いられる塩基の添加方法は特に限定されないが、例えば水に溶解させたものを添加する方法が挙げられる。この時の水の使用量は、塩基1重量部に対して1〜20重量部程度であり、更には1〜10重量部であることが好ましい。
【0012】
塩化メチレン、2−メルカプトエタノール及び塩基性水溶液の混合方法は、特に制限はない。すなわち、塩化メチレンと2−メルカプトエタノールの混合物の中に塩基性水溶液を少量ずつ加えることもできるし、塩基性水溶液に2−メルカプトエタノールと塩化メチレンを少量ずつ加えることも可能である。この時の水の使用量は、2−メルカプトエタノール1モルに対して0.5〜10モル、更には1.0 〜5.0モルであることが好ましい。
【0013】
本発明における反応温度は、0℃〜40℃が好ましく、さらに好ましくは10℃〜40℃である。また、本発明の製造方法は、大気圧下において行うことができる。
また、本発明の製造方法における反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法によって得られた3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールは、反応後、例えば、洗浄、中和、抽出、濃縮等の後処理を行うことができる。また、蒸留やカラムクロマトグラフィー等により精製することもできる。本発明の製造方法において得られた3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールは、生産効率の観点から、蒸留により精製することが好ましい。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0016】
[実施例1]
水酸化ナトリウム(2.00g,50mmol)を水(4ml)に溶解させ、窒素雰囲気下で、2−メルカプトエタノール(3.91g,50mmol)を20℃で滴下した。更にこれに4級アンモニウム塩系相間移動触媒(商品名:「アリコート336」、ALDRICH社製(0.10g、0.25mmol))を塩化メチレン(2.13g、25mmol)に溶解させたものを滴下後、25℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応液に塩化メチレン10mlを加え、分離した上層の水層以外を減圧濃縮し、無色オイル3.50gを得た。これをガスクロマトグラフィー(島津製作所社製「GC−14B」)で定量を行った結果、3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールの純度は85%であり、取得収率は71%(2−メルカプトエタノール基準)であった。
一方、先ほど分離した水層に塩化メチレン10mlを加えるとともに濃塩酸を加えてpH3とし、分離した有機層も同様にガスクロマトグラフィー(島津製作所社製「GC−14B」)で定量を行った結果、3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールが0.30g含まれおり、この取得収率は7%(2−メルカプトエタノール基準)であった。
最初に得られた3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールが85%含まれているオイル3.60gをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n−ヘキサン/酢酸エチル=1/1〜0/1(容量比))で精製し、無色オイルとして、3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオール2.80gを得た(2−メルカプトエタノール基準の単離収率;67%)。
【0017】
実施例1で得られた3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールは、H−NMRで確認した。
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));2.04(2H,brs)、2.88(4H,t,J=5.8Hz)、2.74(2H,s)、3.81(4H,t,J=5.8Hz)
【0018】
[実施例2]
水酸化ナトリウム(2.00g,50mmol)を水(4ml)に溶解させ、窒素雰囲気下で、2−メルカプトエタノール(3.91g,50mmol)を20℃で滴下した。これに塩化メチレン(4.26g、50mmol)を滴下後、更に相間移動触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミド(0.16g、0.50mmol)を添加したものを、8時間還流した。反応終了後、反応液に塩化メチレン10mlを加え、分離した上層の水層以外を減圧濃縮し、無色オイル4.30gを得た。これをガスクロマトグラフィー(島津製作所社製「GC−14B」)で定量を行った結果、3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールの純度は75%であり、取得収率は77%(2−メルカプトエタノール基準)であった。
一方、先ほど分離した水層に塩化メチレン10mlを加えたものに濃塩酸を加えてpH3とし、分濾した有機層もガスクロマトグラフィー(島津製作所社製「GC−14B」)で定量を行った結果、3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールが0.20g含まれおり、この取得収率は5%(2−メルカプトエタノール基準)であった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールの製造方法は、大掛かりな装置を用いることなく、ポリマーの架橋剤や安定化剤、化粧品配合成分及び潤滑剤用添加物に有用である3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールを、高収率で、工業的に安価で簡便に製造に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基、相間移動触媒及び水の存在下で、下記式(1)で表される2−メルカプトエタノールと塩化メチレンとを反応させることを特徴とする下記式(2)で表される3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールの製造方法。
HS−CH−CH−OH・・・(1)
HO−CH−CH−S−CH−S−CH−CH−OH・・・(2)
【請求項2】
相間移動触媒が、四級アンモニウム塩系相間移動触媒である請求項1に記載の3,5−ジチア−1,7−ヘプタンジオールの製造方法。

【公開番号】特開2009−221155(P2009−221155A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67644(P2008−67644)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】