説明

3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸誘導体の製造方法

【課題】
コレステロール低下薬(HMG-CoA還元酵素阻害薬)などの中間体である、式(1)で表される、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸アルキル(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基を表わす)の製造法。式(1)で表される化合物を含む溶液を、充填剤がシリカゲルである液体クロマトグラフィーで処理し、含有するそのエピマーを分離する。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(1)で表される(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸アルキル(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基を表わす)化合物の製造方法に関する。該化合物は、医薬中間体として有用であり、コレステロール低下薬(HMG-CoA還元酵素阻害薬)などの製造に用いられる(特開平1−279866号公報、欧州公開特許304063号公報、米国特許5011930号公報参照)。
【0002】
【化1】

【背景技術】
【0003】
式(1)で表される(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸アルキル(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基を表わす)の製造方法としては、以下に示される、そのラセミ体の光学分割による方法(a)〜(c)と、不斉合成法による方法(d)〜(f)とが知られている。
(a)光学異性体分離用高速液体クロマトグラフィー用(HPLC)カラム(例えばダイセル化学工業社製のCHIRALCEL OF)を用いるラセミ体の光学分割によって製造する方法(例えば、国際公開第95/23125号パンフレット参照)。
(b)酵素を用いてラセミ体を光学分割する方法(例えば、特開2001−352996号公報参照)。
(c)ラセミ体を加水分解し、得られたカルボン酸を光学活性α−メチルベンジルアミン等の分割剤で光学分割した後に再びエステル化する方法(例えば、特開平5−148237号公報参照)。
(d)式(4)で表されるキラルシントンを用いて製造する方法(例えば、特開平8−127585号公報参照)。
【0004】
【化2】

(e)不斉アルドール反応などを利用して得られる式(5)で表される7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-5-ヒドロキシ-3-オキソ-6-ヘプテン酸アルキル(式中Rは上記と同じ意味を表わす)を化学的に選択還元する方法(例えば、特開平8−92217号公報参照)。式(5)で表される化合物は、不斉合成により得られる(例えば、国際公開第03/042180号パンフレット参照)。
【0005】
【化3】

(f)光学活性な式(5)で表される化合物又は式(6)で示される7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジオキソ-6-ヘプテン酸アルキル(式中Rは上記と同じ意味を表わす)を生物化学的な手法により選択的に還元する方法(例えば、国際公開第02/063028号パンフレット参照)。
【0006】
【化4】

上記(a)、(b)の方法では、式(1)の化合物に対応するラセミ体を再結晶することにより、容易にそのエピマー(式(2)、式(3)の化合物の1:1混合物)を除去することができるため、光学分割後にそのエピマーを分離せずとも高純度の式(1)の化合物を得ることができる。しかし、ラセミ体を光学分割する手法では対掌体((3S,5R)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸アルキル)が無駄になるという本質的な問題点を抱えている。(c)の方法では,ジアステレオマー分割の工程で2種のエピマーも対掌体とともに除去できるため、ラセミ体での精製も必要がない。しかし、本質的にはラセミ体の分割法であるため(a)、(b)の方法と同様の本質的な欠点を有する。
【0007】
【化5】

【0008】
上記(c)〜(f)の方法は、光学活性な式(5)または式(7)の化合物を経由する製造方法であるが、化学的な反応方法及び生物化学的な還元方法ともに完全な選択性を示す反応ではないために、少量のエピマーの混入が避けられない。医薬中間体として使用できる品質を確保するためにはこれらのエピマーを除去する必要があるが、式(1)の光学活性体はラセミ体と異なり再結晶による精製が極めて困難な化合物である。p−トルエンスルホン酸塩等へ誘導しての精製方法も試みたが、精製の操作中にラクトン化が進行する等の理由でいずれも目的を達成することができなかった。
【0009】
しかし、不斉合成法及びキラルシントン法のいずれも高い光学純度で光学活性な式(5)または式(7)の化合物を製造することができ、対掌体が無駄にならないために工業的な製造方法として確立された場合には経済的な効果が極めて大きい。そのため式(1)の化合物の効率的な精製方法の確立が望まれていた。
【0010】
【化6】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、式(1)の光学活性体とそのエピマーとの分離を検討したところ、クロマトグラフィー処理を採用し、かつその充填剤として、好ましくは、特定の物性を有する、シリカゲルを使用し、好ましくはヘキサン/イソプロピルアルコール混合物を溶離液として用いることによって、両者の分離が可能であることを見出した。
【0012】
また、本発明者は、この場合のクロマトグラフィー処理で擬似移動床法を用いる方法は、従来のクロマトグラフィー処理の問題とされていた溶媒使用量について大幅な削減が可能であり、かつ、クロマトグラフィー処理において回収した溶離液の再使用が可能であり、工業的に有利に実施できることを見出した。
【0013】
本発明は、上記した新規な知見に基づくものであり、以下の要旨を有する。
1.式(1)で表される(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸アルキル(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基を表わす)を含む溶液を、充填剤としてシリカゲルを用いる液体クロマトグラフィー処理し、含有するそのエピマーを分離することを特徴とする式(1)で表される化合物の製造方法。
【0014】
【化7】

2.クロマトグラフィー処理において、溶離液としてヘキサン/イソプロピルアルコールを含む混合溶媒を用いる、上記1に記載の製造方法。
3.混合溶媒中のヘキサン/イソプロピルアルコールの比率が体積比で99/1〜50/50である、上記2に記載の製造方法。
4.充填剤であるシリカゲルが、平均粒径0.1μm〜10mm及び平均細孔径1nm〜100μmを有する上記1〜3のいずれか記載の製造方法。
5.クロマトグラフィー処理が、擬似移動床法装置を用いる処理である、上記1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6.クロマトグラフィー処理において、回収したエクストラクトとラフィネートの蒸留液に、溶離液のいずれかの成分を添加し、その組成比を使用前の溶離液の組成比に合わせて調整した蒸留液を再利用する、上記5に記載の製造方法。
7.式(1)で表される化合物のRがエチル基である、上記1〜6の何れかに記載の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において、分離、精製する対象は、式(2)で表される(3S,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸アルキル(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表わす)及び式(3)で表される(3R,5R)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸アルキル(式中Rは上記と同じ意味を表わす)の一方又は両者を含有する式(1)で表される(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸アルキル(式中Rは上記と同じ意味を表わす)である。
【0016】
アルキル基Rの種類としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基などを挙げることができる。なかでも、アルキル基は炭素数1又は2のもの、特にエチル基が好ましい。
【0017】
式(1)、式(2)及び式(3)で表される化合物が含有される比率については特に制限はないが、式(1)の化合物の比率が高いほど分離効率は良好となり、高純度のものを得ることができる。
【0018】
式(2)と式(3)で表される化合物は、エナンチオマーの関係にあり、クロマトグラフ上の挙動は同一であり、両化合物の比率は、1:1であっても、異なっていてもよい。
【0019】
また式(1)の化合物の光学純度も特に制限はないが、本発明の目的である医薬品中間体の製造という観点からは95%e.e.以上が好ましい。
【0020】
本発明のクロマトグラフィー処理では、単カラムを使用する一般的な回分式(実施例2参照)と連続分取可能な擬似移動床法(実施例3〜6参照)のどちらの方法を用いても目的を達成することができる。しかし、本発明の方法を実施するためのプロセスとしては、擬似移動床法を適用することがより好ましい。擬似移動床法は、例えば混合キシレンから純p−キシレンの分離に工業的に使用されており(特公昭42−15681号公報等を参照)、以下、簡単にその概念を説明する。
【0021】
擬似移動床(SMB)の概念は、図1に示した実移動床法(TMB)を調べると、容易に理解される。実移動床法(TMB)は、向流吸着分離処理であり、4ゾーンから構成され、固体と液体が逆方向に流れる。入口流路は2本あり、分離する溶液(フィード)と溶離液を連続的に注入する。2本の出口流路(エクストラクトとラフィネート)から、純粋生産物を連続的に回収する。ゾーンIVから出てくる液体は、ゾーンIに戻され(リサイクル)、ゾーンIから出てくる固体はゾーンIVに戻される(リサイクル)。例えば成分Aの方が保持時間の短い2成分混合物(A+B)の場合、成分Aが上方に移動し、成分Bが下方に移動するように、操作条件(各ゾーンにおける流量)を設定する。成分Aと成分Bをラフィネート出口とエクストラクト出口から、それぞれ純粋生産物として回収することができる。しかし、このような、実移動床法(TMB)では、固体の吸着剤を循環させる必要があるため、操作するのは実際には非常に困難となる。
【0022】
次に実移動床(TMB)を踏まえて、擬似移動床(SMB)について考える。擬似移動床(SMB)では固定したカラムを数個直列に接続し、注入点と回収点を適切に移動させることにより(図2)、向流を事実上生じさせるため、フィード、溶離液、エクストラクト、ラフィネートの各流路を、溶液の流れる方向に1カラム(もしくは数カラム)づつ一定時間間隔で移動させることになる。なお、具体的な方法については実施例の中で説明する。
【0023】
本発明のクロマトグラフィー処理では、充填剤としてシリカゲルが分離特性上、有利に使用できる。シリカゲルは、安価で、品質の一定したものを容易に入手することができるので特に有利である。本発明で、シリカゲル以外の充填剤を使用した場合、例えば、アルミナを使用した場合には、式(1)で表わされる化合物はラクトン化を起こしやすく好ましくない。また、ケイ酸塩やケイソウ土などを使用した場合には、金属や有機物などの不純物の混入が危惧されることから、医薬品の原料である本発明にかかる化合物に適用するには好ましくない。一方、シリカゲルは、破砕状の充填剤も使用することはできるが、球状のものが好ましい。シリカゲルは、平均粒径が0.1μm〜10mmが好ましく、特には、1μm〜300μm、更には、5μm〜100μmのものが好適である。シリカゲルの平均細孔径は1nm〜100μmが好ましく、特には5nm〜5μmのものが好ましい。なお、ここで、平均粒径、中央値、形態値は、光散乱/レーザー回折法により求めたものであり、また、平均細孔径は、ガス吸着法又は水銀ポロシメーターにより求めたものである。
【0024】
クロマトグラフィーの溶離液としては、炭化水素/アルコールの混合溶媒などが使用でき、特に、ヘキサン/イソプロピルアルコールの混合物が好ましい。しかし、充填剤の安定性に影響を及ぼさない限り、特に限定されるものではない。ヘキサン/イソプロピルアルコール混合溶媒を用いる場合、ヘキサン/イソプロピルアルコールの比率は体積比で99/1〜50/50の範囲であり、好ましくは98/2〜70/30の範囲であり、更に好ましくは96/4〜85/15である。第三の溶媒を混合することもできるが、クロマトグラフィー処理の場合、特に擬似移動床法では、溶媒の回収、再利用のためには、なるべく単純な組成が好ましい。
【0025】
回収した溶離液(擬似移動床法においてはラフィネートとエクストラクト)から、溶媒を蒸留し、再利用することができる。ガスクロマトグラフィー等により該溶媒の組成を分析し、溶離液のいずれかの成分を添加し、所定の組成に調整することにより、カラム分離に容易に再使用することが可能である(実施例6参照)。上記溶媒の蒸留には、蒸発器又は濃縮器を用いることができる。通常は、薄膜式の濃縮器が好適に使用される。
【0026】
本発明のクロマトグラフィー処理においては、カラム温度は10〜50℃の範囲、好ましくは20〜45℃の範囲で一定温度(例えば、実施例1の如く40℃)に設定するのが好ましい。その他、溶離液や異性体混合物含有液の供給量やラフィネートやエクストラクトの抜き出し口の流量、カラムの切り替え時間、カラム圧などのクロマトグラフィー処理の実施上の条件は、充填材、溶離液、製造量等の条件に適したものが当業者にとって既知のクロマトグラフの技術に従って適切に設定される。
【実施例】
【0027】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0028】
以下、実施例では、式(1)で表され、Rがエチル基の化合物を使用し、この化合物を(3R,5S)DOLE(1)、式(2)で表される化合物を(3S,5S)DOLE(2)、式(3)で表される化合物を(3R,5R)DOLE(3)としてそれぞれ記載する。
【0029】
実施例1
市販の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析用シリカゲルカラムを用いて(3S,5S)DOLE(2)と(3R,5S)DOLE(1)の1:1混合物を分離した。以下に条件を示す。
カラム:YMC Pack Sil S-5(YMC社製、直径 4.6mm、長さ 250mm、充填剤 平均粒径5μm及び平均細孔径12nmのシリカゲル)
溶離液:ヘキサン/イソプロピルアルコール=20/1
温 度:40℃
流 量:1.0mL/min
検 出:UV(254 nm)
保持時間:(3S,5S)DOLE(2) 11.4 min
(3R,5S)DOLE(1) 13.7 min
【0030】
実施例2
市販のシリカゲルカラムであるYMC-Pack SILを用いてHPLCによる回分式の分取を実施した。条件は下記の通りであった。
カラム:YMC Pack Sil(株式会社YMC社製、直径 2cm、長さ 25cm、充填剤 平均粒径 10μm及び平均細孔径 12nmのシリカゲル)
溶離液:ヘキサン/イソプロピルアルコール=95/5
温 度:40℃
流 量:8.0mL/min
分取に使用したサンプルは,(3S,5S)DOLE(2)を質量比で3%含有する(3R,5S)DOLE(1)1.01gである。これを溶離液と同組成の溶媒に溶解して濃度を3%w/vに調製したものを2mL注入し、保持時間9.42minから10.54minに相当するフラクション[(3S,5S)DOLE(2)を含む]と11.03minから13.03minに相当するフラクション[(3R,5S)DOLE(1)を含む]を集めた。この操作を17回繰り返し、それぞれ溶媒留去をした結果、HPLC分析でエピマーを検出しない(3R,5S)DOLE(1)を892mg(収率 89%)、HPLC相対面積百分率96.5%の(3S,5S)DOLE(2)を29.0mg(収率 2.8%)得た。HPLC分析条件は実施例1と同条件とした。
(3R,5S)DOLE(1)
1H-NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):1.01-1.05(2H,m,C9+C10),1.27-1.35(3H,m,C9+C10+C4),1.29(3H,t,J=7.2Hz,Et),1.43-1.55(1H,m,C4),2.36-2.45(3H,m,C8+C2),3.17(1H,d,J=1.7Hz,OH),3.64(1Hd,J=2.7Hz,OH),4.08-4.23(1H,m,C3),4.19(2H,q,J=7.2Hz,Et),4.38-4.43(1H,m,C5),5.58(1H,dd,J=6.2,16.1Hz,C6),6.64(1H,dd,J=1.3,16.1Hz,C7),7.12-7.23(4H,m,Ar),7.29-7.36(2H,m,Ar),7.58(1H,ddd,J=2.1,6.3,8.5Hz,C17),7.95(1H,d,J=8.3Hz,C18).
【0031】
【化8】

(3S,5S)DOLE(2)
1H-NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):1.03(2H,dd,J=2.8,8.0Hz,C9+C10),1.29(3H,t,J=7.2Hz,Et),1.27-1.36(2H,m,C9+C10),1.37-1.44(1H,m,C4),1.62-1.71(1H,m,C4),2.33-2.49(3H,m,C2+C8),2.95(1H,d,J=5.5Hz,3-OH),3.47(1H,brs,5-OH),3.97-4.08(1H,m,C3),4.20(2H,q,J=7.2Hz,Et),4.39-4.49(1H,m,C5),5.66(1H,dd,J=5.5,16.2Hz,C6),6.70(1H,dd,J=1.4,16.0Hz,C7),7.13-7.33(6H,m,Ar),7.58(1H,ddd,J=3.0,5.2,8.3Hz,C17),7.95(1H,d,J=8.5Hz,C18).
【0032】
【化9】

【0033】
実施例3
(3S,5S)DOLE(2)が質量比で3%混入した(3R,5S)DOLE(1)をヘキサンとイソプロピルアルコールの混合液(体積比で20/1)に溶解し、濃度30g/Lの原料液(フィード)を調製した。
【0034】
図3に示す擬似移動床式分取装置LICOSEP-LAB(ノバセップ社製)に市販のシリカゲル[YMC-SIL-120-S15/30(平均粒子径 15/30μm、平均細孔径 12nm)]を充填した内径3cm、長さ10cmの8個のカラムを直列に接続し、フィードが位置7で注入され、溶離液が位置3で注入され、エクストラクトが位置5で回収され、ラフィネートが位置1で回収される装置構成から分取を開始した。溶離液として、ヘキサン/イソプロピルアルコールの混合液(体積比で20/1)を用い、運転温度は35℃、原料液は30g/Lとした。リサイクル流量を98.6mL/min、フィード流量を4.14mL/min、ラフィネート流量を13.56mL/min、エクストラクト流量を12.84mL/min、溶離液流量を22.26mL/min、切り替え時間を2.68minで運転した結果、エクストラクトより、99.98%HPLC純度(分析条件は実施例1参照)の(3R,5S)DOLE(1)を得た。一方、ラフィネートより(3S,5S)DOLE(2)(96.83%HPLC純度)と(3R,5S)DOLE(1)(3.17%HPLC純度)の混合物が得られており、(3R,5S)DOLE(1)はほぼ定量的に分離できた。
【0035】
実施例4
実施例3において、リサイクル流量を132.12mL/min、フィード流量を5.55mL/min、ラフィネート流量を18.17mL/min、エクストラクト流量を17.21mL/min、溶離液流量を29.83mL/min、切り替え時間を2.00minに変更して運転した結果、エクストラクトより、99.96%HPLC純度の(3R,5S)DOLE(1)を得た。一方、ラフィネートより(3S,5S)DOLE(2)(88.14%HPLC純度)と(3R,5S)DOLE(1)(11.86%HPLC純度)の混合物が得られた。
【0036】
実施例5
実施例3と同じ擬似移動床装置を使用した。ヘキサン/イソプロピルアルコール混合液の比率を体積比で20/3に変更し、原料液(フィード)の濃度も45g/Lに変更した。
【0037】
リサイクル流量を132.00mL/min、フィード流量を5.66mL/min、ラフィネート流量を21.79mL/min、エクストラクト流量を18.58mL/min、溶離液流量を34.71mL/min、切り替え時間を0.83minで運転した結果、エクストラクトより、99.66%HPLC純度の(3R,5S)DOLE(1)を得た[(3S,5S)DOLE(2)0.26%]。一方、ラフィネートより(3S,5S)DOLE(2)(38.36%HPLC純度)と(3R,5S)DOLE(1)(60.38%HPLC純度)の混合物が得られた。
【0038】
実施例6
実施例3と同じ擬似移動床装置を使用した。ヘキサン/イソプロピルアルコール混合液の比率を体積比で、20/3とし、原料液(フィード)の濃度を45g/Lとした。
【0039】
リサイクル流量を132.00mL/min、フィード流量を5.66mL/min、ラフィネート流量を20.79mL/min、エクストラクト流量を19.58mL/min、溶離液流量を34.71mL/min、切り替え時間を0.83minで運転した結果、エクストラクトより、99.31%HPLC純度の(3R,5S)DOLE(1)を得た[(3S,5S)DOLE(2)0.35%]。一方、ラフィネートより(3S,5S)DOLE(2)(68.99%HPLC純度)と(3R,5S)DOLE(1)(30.79%HPLC純度)の混合物が得られた。
【0040】
次に上記の運転で得られたエクストラクト及びラフィネート約40サイクル分を薄膜濃縮器でそれぞれ濃縮し、各濃縮液を合わせて約9.87L回収した。蒸留液の組成比をガスクロマトグラフィーにより分析し、ヘキサン/イソプロピルアルコールの組成比が20/3となるようヘキサンを2154mL追加した。さらに新規に調製したヘキサン/イソプロピルアルコール混合液(20/3)を5L加えた。合計で約17Lの溶離液を調製した。
【0041】
この液を使用し、45g/Lの原料液を調製し、再び実施例3と同じ擬似移動床装置で分離を行った。
【0042】
リサイクル流量を132.00mL/min、フィード流量を5.66mL/min、ラフィネート流量を20.79mL/min、エクストラクト流量を19.58mL/min、溶離液流量を34.71mL/min、切り替え時間を0.83minで運転した結果、エクストラクトより、99.22%HPLC純度の(3R,5S)DOLE(1)を得た[(3S,5S)DOLE(2)0.21%]。一方、ラフィネートより(3S,5S)DOLE(2)(30.51%HPLC純度)と(3R,5S)DOLE(1)(68.50%HPLC純度)の混合物が得られた。
同様な操作をあと2回繰り返した。
【0043】
2回目ではエクストラクトより、99.12%HPLC純度の(3R,5S)DOLE(1)を得た[(3S,5S)DOLE(2)0.41%]。一方、ラフィネートより(3S,5S)DOLE(2)(34.07%HPLC純度)と(3R,5S)DOLE(1)(65.83%HPLC純度)の混合物が得られた。
【0044】
3回目ではエクストラクトより、99.33%HPLC純度の(3R,5S)DOLE(1)を得た[(3S,5S)DOLE(2)0.45%]。一方、ラフィネートより(3S,5S)DOLE(2)(28.12%HPLC純度)と(3R,5S)DOLE(1)(71.78%HPLC純度)の混合物が得られた。
【0045】
以上の実施例から、回収した溶媒でも目的物が分離可能であることが確認され、クロマトグラフ法が工業的に一層優れた方法であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、医薬中間体として有用な、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸アルキルとそのエピマーとを特定のクロマトグラフィー処理により効率的に分離する新規な方法が提供される。発明の方法によれば、従来の光学分割による対掌体が無駄にならず、目的物を高い収率で得られるために経済的な効果が極めて大きく、また、クロマトグラフィー処理で使用した溶離液も回収、再使用できることにより優れた工業的製造法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実移動床(TMB)の説明図である。ゾーンI〜IVの定義は次の通りである。 ゾーンI : 溶離液流路とエクストラクト流路間、ゾーンII : エクストラクト流路とフィード流路間、ゾーンIII : フィード流路とラフィネート流路間、ゾーンIV : ラフィネート流路と溶離液流路間
【図2】擬似移動床(SMB)の概念を示す説明図である。
【図3】本発明の方法を実施する一例装置の4ゾーン擬似移動床(SMB)説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸アルキル(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基を表わす)を含む溶液を、充填剤としてシリカゲルを用いる液体クロマトグラフィー処理し、含有するそのエピマーを分離することを特徴とする式(1)で表される化合物の製造方法。
【化1】

【請求項2】
クロマトグラフィー処理において、溶離液としてヘキサン/イソプロピルアルコールを含む混合溶媒を用いる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
混合溶媒中のヘキサン/イソプロピルアルコールの比率が体積比で99/1〜50/50である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
充填剤であるシリカゲルが、平均粒径0.1μm〜10mm及び平均細孔径1nm〜100μmを有する請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
クロマトグラフィー処理が、擬似移動床法装置を用いる処理であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
クロマトグラフィー処理において、回収したエクストラクトとラフィネートの蒸留液に、溶離液のいずれかの成分を添加し、その組成比を使用前の溶離液の組成比に合わせて調整した蒸留液を再利用する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
式(1)で表される化合物のRがエチル基である請求項1〜6の何れかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−500405(P2006−500405A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537553(P2004−537553)
【出願日】平成15年9月11日(2003.9.11)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011643
【国際公開番号】WO2004/026838
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】