説明

3,7−ジアザ−ビシクロ[3.3.1]ノナン−金属錯体溶液の製造方法

本発明は、一般式(2):[M]Y [式中、Mは、Mn(II)、Mn(III)、Mn(IV)、Fe(II)、Fe(III)またはFe(IV)の群からの金属であり、Xは、単一、二重もしくは三重荷電アニオンまたは非荷電分子から選択され、金属に単座、二座もしくは三座配位できる配位化合物であり、Yは、錯体の荷電平衡を保証する非配位性対イオンを表し、Lは一般式(1)の配位子、またはそのプロトン化もしくは脱プロトン化体を表し、そして、a、x、n、m、R、R、R、Rおよびzは請求項1において定義されたとおりである]で表される1種またはそれ以上の金属錯体を、ジオール類もしくはポリオール類、これらのモノエーテル類、またはこれらの物質の混合物中に含有する均一溶液の製造方法に関する。前記方法は、式(1)で表される配位子を、不均一反応において鉄もしくはマンガン塩と、ジオールもしくはポリオール、これらの物質のモノエーテル類または混合物中において反応させることを特徴とする。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配位子化合物と金属塩とのin situ錯化による、非プロトン有機溶剤、特にプロピレングリコール類における3,7−ジアザ−ビシクロ[3.3.1]ノナン−鉄−またはマンガン錯体溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3,7−ジアザ−ビシクロ[3.3.1]ノナン化合物は、種々の用途に関して興味深い化合物である。特に、式(1)の配位子を含有する遷移金属錯体は非常に効率的な触媒であり、これは大気酸素と組み合わせて洗剤および洗浄剤において油性の染みの漂白のために使用することができる。その際、さもなければ慣用される過酸化水素または無機過酸塩を使用しないことが可能である。これらの例は、特許文献1に記載されている。
【0003】
【化1】

【0004】
これらの酸素との作用メカニズムにより、近年、この物質クラスに関する使用領域がさらに切り開かれてきた。例えば、特許文献2には、そのような遷移金属錯体の、アルキドをベースとする塗料およびコーティングの乾燥用触媒としての使用が記載されている。ここでそれらは、癌を引き起こすことが疑われているコバルト含有脂肪酸誘導体の環境にやさしい代替物として使用されている。塗料およびコーティングにおける使用のために、前記錯体は通常溶解した形態で、例えば、プロピレングリコールにおける1重量%溶液として、例えばインターネットアドレス「www.rahucat.com/pdfs/Borchi_OXY_Coat_ECS_Congress.pdf」で利用可能な参考文献に記載されるように使用される。
【0005】
式(1)の配位子およびその金属錯体は、前記文献に詳細に記載されている。配位子の合成は、例えば特許文献3に記載されており、一方、特許文献4、非特許文献1および非特許文献2には、錯化反応が記載されている。そこでは、配位子と金属塩は別々に異なる有機溶剤に溶解され、引き続いて均一溶液において錯体形成が行われる。前記金属錯体はまた、前記溶剤混合物において良好な溶解性を有するので、前記錯体の単離には、結晶形態の生成物を単離できるように、さらなる溶剤を使用しなければならない。従って、そのように単離された錯体のプロピレングリコール溶液は、プロピレングリコールにその粉末を溶解することにより製造することができる。しかしながら、そのためには、プロピレングリコールへの前記錯体の溶解性が乏しいため、長い反応時間が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第03/104234号
【特許文献2】国際公開第2008/003652号
【特許文献3】国際公開第2006/133869号
【特許文献4】国際公開第02/48301号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Inorg. Chimica Acta, 337 (2002) 407 − 419
【非特許文献2】Eur. J. Org. Chem. (2008) 1019−1030
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先行技術に相当するこの方法は、第一に種々の溶剤が使用され、その後に後処理をしなければならず、そして第二に前記錯体をまず単離して乾燥し、その後再度溶解しなければならないので、非経済的である。従って、そのような錯体の溶液の製造のために工業的規模で実施可能な方法であって、前記錯体の単離および乾燥を省くことができる方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに今回、式(2)の鉄錯体およびマンガン錯体の溶液が、ジオールまたはポリオール、それらのモノエーテル類、またはこれらの物質の混合物において、特にプロピレングリコールにおいてin situで、式(1)で表される配位子がこれらの溶剤に実質的に不溶性であるにもかかわらずに製造できることが、見出された。さらに、選択された条件下で、カルボニル基がジヒドロキシケタール(水和物)として存在する式(2)の錯体を形成させられることは、ケタール化反応に酸性反応条件下で同様に参加できる溶剤の存在下で操作されるので、当業者にとって明らかではなかった。
【0010】
従って、本発明は、一般式(2):
[M]Y (2)
[式中、
Mは、Mn(II)、Mn(III)、Mn(IV)、Fe(II)、Fe(III)またはFe(IV)の群からの金属であり、
Xは、単一、二重もしくは三重荷電アニオンまたは非荷電分子から選択され、金属に単座、二座もしくは三座配位できる配位化合物、好ましくは、OH、NO、NO、S2−、R、PO3−、HO、CO2−、ROH、Cl、Br、CN、ClO、RCOOまたはSO2−であり(式中、RはHまたはC〜Cアルキルであり、そしてRはC〜C アルキルである)、特に好ましくはClまたはSO2−、そして殊に好ましくはClであり、
Yは、錯体の荷電平衡を保証する、非配位性対イオン、好ましくはRSO、SO2−、NO、Cl、Br、I、ClO、BF、PFまたはRSO(式中、RはHまたはC〜Cアルキルである)、特に好ましくはClまたはSO2−、そして殊に好ましくはClを表し、
aは1〜2の数であり、
xは1〜2の数であり、
nは0〜4の数であり、
mは0〜8の数であり、そして
Lは、一般式(1)の配位子、またはそのプロトン化もしくは脱プロトン化 体を表し、
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、
Rは水素、ヒドロキシルまたはC〜Cアルキルであり;
はC〜Cアルキル、C〜C10アリール、ピリジニル−C−C−アルキルまたは(CHN(C〜C−アルキル)であり、
はC〜C20アルキル、C〜C10アリールまたはピリジニル−C−C−アルキルであり、
はC〜Cアルキルであり、
zはC=OまたはC(OH)であり、そして
kは1〜6の数を意味する)]
で表される1種またはそれ以上の金属錯体を、ジオール類もしくはポリオール類、これらのモノエーテル類、またはこれらの物質の混合物中に含有する均一溶液の製造方法であって、式(1)で表される1種またはそれ以上の配位子を、不均一反応において鉄もしくはマンガン塩と、ジオールもしくはポリオール、これらの物質のモノエーテル類または混合物中において反応させることを特徴とする、製造方法に関する。
【0013】
特に好ましくは、本発明の方法を用いて、式[FeLCl]Cl、[FeL(SO)]、[MnLCl]Clまたは[MnL(SO)]の1種またはそれ以上の錯体を含有する溶液が製造され、Lは特に以下からなる群から選択される:
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3o)、
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−(ピリジン−2−イルメチル)−7−メチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3u)、
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジエチル−ジカルボキシレート、
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ビス−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py4)、
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py2)、
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジエチル−ジカルボキシレート、
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(N,N´−ジメチルエチルアミン)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート、および
対応のジヒドロキシケタール類。
【0014】
本発明の同様に好ましい実施形態においては、本発明の方法を用いて、式[FeLCl]Clまたは[MnLCl]Clで表される1種またはそれ以上の錯体を含有する溶液、特に好ましくは式[FeLCl]Clで表される1種またはそれ以上の錯体を含有する溶液が製造される。
【0015】
本発明の方法において使用されるジ−またはポリオール類は、好ましくは2〜6個の炭素原子および2〜4個のOH基を有し、これらのジ−またはポリオール類のモノエーテル類は、好ましくは、1〜4個の炭素原子を有するモノアルコール、特に好ましくは1〜4個の炭素原子を有する飽和モノアルコールに由来するアルコール単位を含有する。
【0016】
本発明の方法は、好ましくは、ジ−またはポリオール類において、またはそれらの混合物において実施される。ジ−またはポリオール類としては、好ましくは、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、グリセロールまたは1,4−ブタンジオールが使用され、1,2−プロピレングリコールが特に好ましい。
【0017】
本発明の方法によって製造される溶液は、好ましくは、0.01〜30重量%、特に好ましくは0.1〜15重量%、殊に好ましくは0.5〜8重量%の式(2)の錯体を含有する。
【0018】
本発明の方法はさらに、錯化反応が好ましくは5〜80℃、特に10〜70℃、特に好ましくは15〜55℃の温度範囲で行われることを特徴とする。
【0019】
以下、本発明の方法において使用される鉄またはマンガン塩を、簡単に「金属塩」とも呼ぶ。
【0020】
式(1)の配位子:金属塩のモル比は、好ましくは0.90:1〜1.10:1、特に好ましくは0.95:1〜1.05:1である。
【0021】
大規模スケールでの配位子の製造は、独国特許第60120781号または国際公開第2006/133869号における記載に従って、以下の反応スキームによって行うことができる。
【0022】
【化3】

【0023】
ジカルボン酸ジエステルから出発して、C〜C−アルコール、例えば、エタノール、プロパノールまたはブタノールにおいて、2つのマンニッヒ縮合工程を 脱水を伴って行う。脱水の終了後に冷却し、生成物をろ過して洗浄する。錯化反応には、配位子をその後、溶剤で湿らした形態で、または乾燥形態で使用することができる。製造に応じて、配位子が大なり小なり結晶の形態で生じる。錯化反応にはできる限り小さい結晶を不均一錯化反応において使用することが有利であるが、細かく粉砕することは反応を成功裏に実施するために必ずしも必要ではない。
【0024】
本発明方法のさらに好ましい実施形態において、一般式(1)の配位子は、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート(N2Py3o)、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート(N2Py2)および対応のジヒドロキシケタール類からなる群から選択される。
【0025】
錯化反応の実施のために、まず式(1)で表される1種またはそれ以上の配位子を、ジ−またはポリオール、それらのモノエーテル類またはこれらの物質の混合物に加えることにより、好ましくは0.5〜60、特に好ましくは1〜60、さらに好ましくは3〜50、極めて好ましくは5〜30重量%の配位子を含む懸濁液を製造する。引き続き、固体もしくは溶解形態の金属塩を、好ましくは5〜80℃、特に好ましくは10〜70℃、殊に好ましくは15〜55℃の温度範囲で添加する。
【0026】
金属塩としては、式(1)の配位子と安定な金属錯体を形成する全ての鉄塩またはマンガン塩が使用される。好ましくは硫酸塩および塩化物が使用され、特に好ましくは塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、塩化マンガン(II)または硫酸マンガン(II)が使用される。本発明の特に好ましい実施形態において、これらの金属塩は金属塩水和物として使用される。その中でも、四水和物Fe(II)Cl・4HOおよびMn(II)Cl・4HOが好ましい。
【0027】
本発明の方法は、場合により、水の存在下で行われ、そしてzがC(OH)の意味を有する一般式(2)の金属錯体を製造する場合には、好ましくは水の存在下で行われる。好ましくは、水は、金属塩水和物の使用により、特に好ましくはFe(II)Cl・4HOまたはMn(II)Cl・4HOとして、本発明の方法に供給される。場合により、前記金属塩は、金属塩の濃厚水溶液またはスラリーの形態で投入することもできる。ここで、最終生成物における水含有量をできるだけ低く保つために、20〜80重量%溶液またはスラリーが好ましい。
【0028】
本発明の方法において使用される一般式(1)の配位子は、上記方法により錯化され、従って、製造された一般式(2)の金属錯体において見い出される。ただしそれは、一般式(1)の出発配位子に含まれるケトン−もしくはカルボニル基z(z = C=O)が、必要に応じて存在する水により、本発明の方法の間に水和形態に変わるように、一般式(2)の金属錯体において修飾されて存在することができる。これは、前記配位子が、本発明の方法においてケトンの形態で使用された場合であっても、水が存在する場合に、一般式(2)の金属錯体においてジヒドロキシケタール類として存在できることを意味する。
【0029】
一般式(2)の特に好ましい錯体(ケト基(zがC=O)が水和物形態(zがC(OH))で存在する)を得るために、さらに好ましくは、反応混合物において式(1)の配位子1分子あたり少なくとも1分子の水が存在する。このことは特に、式(1)の配位子として、zがC=Oであるものが本発明方法において使用される場合に当てはまる。
【0030】
式(1)の配位子は水にほとんど不溶性なので、特に、zがC(OH)である式(2)の錯体を当該方法において使用されるzがC=Oである式(1)の配位子から製造する場合に、1モルの配位子あたり少なくとも1モルの水が存在する限り、反応の間に存在する水量は、反応速度に影響を及ぼさない。
【0031】
ジヒドロキシケタール(z=C(OH))として錯化形態にある配位子の存在は、例えば、X線構造解析により示すことができる(例えば「Inorg. Chimica Acta, 337 (2002) 407− 419」参照)。
【0032】
本発明の方法の特に好ましい実施態様において、1,2−プロピレングリコールにおける1種またはそれ以上の式[MnLCl]Clまたは[FeLCl]Clの錯体を含有する均一溶液が製造され、式中、Lは2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3o)、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py2)または対応のジヒドロキシケタール類(z=C(OH))を意味する。ここで、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート, 2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1] ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレートまたは対応のジヒドロキシケタール類またはこれらの物質の混合物を塩化マンガン(II)または塩化鉄(II)と1,2−プロピレングリコールにおいて反応させる。その場合に塩化マンガン(II)または塩化鉄(II)は好ましくは、固体の塩の形態で、それらの水和物、特に四水和物の形態で、または固体の塩の濃厚溶液もしくはスラリー、または水おける水和物(好ましくは20〜80重量%)もしくは1,2−プロピレングリコールにおける水和物の形態で使用される。従って、前記方法は、場合により水の存在下で行われる。同様にさらに好ましい本発明方法の実施態様において、1種またはそれ以上の式[MnLCl]Cl(Lは2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1] ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py2)または対応のジヒドロキシケタールを意味する)の錯体を含有する均一溶液が製造され、そしてその際、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート(N2Py2)または対応するジヒドロキシケタールまたはそれらの混合物を塩化マンガン(II)と1,2−プロピレングリコール中で反応させる。さらなる好ましい本発明方法の実施態様において、1種またはそれ以上の式[FeLCl]Cl(Lは2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3o)または対応のジヒドロキシケタールを意味する)の錯体を含有する溶液が製造され、そしてその際、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3o) または対応のジヒドロキシケタールまたはそれらの混合物を塩化鉄(II)と1,2−プロピレングリコール中で反応させる。ここで挙げた本発明の方法の特に好ましい実施態様において、特に系に水が供給されるべき場合には、金属塩水和物、好ましくは四水和物が、固体形態で、または水または1,2−プロピレングリコール、好ましくは1,2−プロピレングリコールにおける溶液もしくはスラリーとして、使用される。しかしながら、水和物の形態で存在しない金属塩を、水における溶液もしくはスラリーとして使用することもできる。
【0033】
透明な均一溶液が形成するまで撹拌する。従って、本発明の方法により、ジ−もしくはポリオール類、それらのモノエーテル類またはこれらの物質の混合物における、一般式(2)の金属錯体の均一溶液を直接得ることができる。しかしながら、溶液の形成後、さらなるジ−もしくはポリオール、それらのモノエーテル類、またはこれらの物質の混合物の添加により、溶液の濃度をさらに希釈することもできる。
【0034】
一般式(2)の金属錯体の配位化合物Xは、好ましくは、本発明の方法において使用される鉄もしくはマンガン塩に由来する。
【0035】
また、非配位性対イオンYは好ましくは、例えばYがXと同一の意味を有する場合には、本発明の方法において使用される鉄もしくはマンガン塩に由来することができる。
【0036】
本発明の1つの好ましい実施態様において、XおよびYは同一の意味を有する。
【0037】
本発明のさらなる好ましい実施態様において、XおよびYは異なる意味を有する。この場合に、例えば、第一に、XおよびYにおいて同一の意味を有し、特に好ましくはクロリドを意味する一般式(2)の金属錯体を製造することができ、その後、非配位性対イオンYを交換することができる。この方法では、Yの交換のために好ましくは、新しい非配位性対イオンYを含有するアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を使用する。例えば、まずX=Y=Clを有する金属錯体を製造し、引き続き非配位性対イオンClをKPFにより新しい非配位性対イオンPFと交換することにより、Y=PF(ヘキサフルオロホスフェート)を有する一般式(2)の金属錯体を得ることができる。このような交換反応は、当業者にとって公知である。
【0038】
本発明の方法のさらなる好ましい実施態様において、配位子Lはケトン(z = C=O)の形態で前記方法において使用される。
【0039】
本発明の方法のさらなる好ましい実施態様において、1種またはそれ以上の一般式(2)の金属錯体を含む溶液が製造され、ここで錯化された配位子Lはジヒドロキシケタール類(z = C(OH))の形態で存在する。
【0040】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0041】
実施例1
配位子2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3o)の製造
11.2kgのアセトンジカルボン酸ジメチルエステル(純度97重量%;64モル)を、15kgのイソブタノールに溶解する。該溶液を10℃に冷却し、その後10kgのイソブタノールにおける13.4kgのピリジン−2−アルデヒド(純度99重量%、125モル)、続いて4.8kgのメチルアミン(水における40重量%、62モル)を、温度が一定の冷却で維持されるように滴加する。続いて、反応混合物を40〜45℃に加熱し、減圧下40〜45℃の内部温度でイソブタノールおよび水の共沸混合物(17リットル)を留去する。その間に、15リットルのイソブタノールを連続的に計り入れる。室温に冷却した後、8.4kgのアミノメチルピリジン(78モル)を加え、添加用漏斗を7.0kgのイソブタノールで洗浄する。その後、13.5kgのホルムアルデヒド溶液(水における37重量%、166.5モル)を15〜30分以内に添加する。添加終了後、該混合物を55〜60℃に加熱し、1.5時間さらに撹拌する。引き続き、最大60℃の内部温度で、36kgのイソブタノールを連続的に添加しながらイソブタノールおよび水の55kgの共沸混合物を留去する。窒素で換気し、室温に冷却する。形成した沈殿をろ過し、イソブタノールで洗浄する。配位子を湿ったろ過ケーキの形態で錯化反応に使用することができ、あるいは減圧下で50℃で乾燥することができる。これにより、23.3 kg(72.1 %)の2,4−ジ−(ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレートが無色の結晶性粉末の形態で得られる。
【0042】
実施例2
配位子2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレートを文献「R. Haller, Arch. Pharm., 1968, 301, 741ff」および「R. Haller, Arch. Pharm., 1968, 302, 113ff」と同様に製造した。
【0043】
実施例3
4.39 g(0.01 mol)の2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート(実施例2に従って製造)を室温で、576.5gの1,2−プロピレングリコールに懸濁する。続いて、1.98 g (0.01 mol)のMn(II)Cl四水和物を添加し、不均一の混合物を5時間撹拌し、均一なベージュ色の溶液が生じる。マンガン錯体[MnLCl]Cl(L = 2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート)の1重量%の溶液が得られ、ケトンは水和物の形態で存在することができる。
【0044】
以下の実施例4〜7において、「N2Py3o−ジヒドロキシケタール」という表記は、金属錯体における配位子のケト基が水和物またはジヒドロキシケタールとして存在することを意味する。
【0045】
実施例4
77.7g(0.15モル)のN2Py3o粗結晶(実施例1と同様に製造)を350.8gの1,2−プロピレングリコールに懸濁する。撹拌しながら、室温で2時間以内に29.7gの塩化鉄(II)四水和物を、1,2−プロピレングリコールにおける30重量%溶液の形態で滴加すると、わずかに発熱反応が生じる。室温での5時間のさらなる撹拌時間内に、1,2−プロピレングリコールにおける[Fe(N2Py3o−ジヒドロキシケタール)Cl]Clの均一な黄色の溶液が得られる。HPLC分析により、1,2−プロピレングリコールにおける[Fe(N2Py3o−ジヒドロキシケタール)Cl]Clの19.7重量%溶液が得られるが、これはこの濃度では不安定であることが判明し、1,2−プロピレングリコールのさらなる添加により8重量%以下の濃度に希釈しない限り、長時間の静置の間に懸濁液が生じる。遊離の配位子N2Py3oは、反応混合物において分析的に検出不能である。分析的研究により、金属錯体における配位子のケト基が水和物またはジヒドロキシケタールとして存在し、1,2−ジプロパンジオールの環状ケタールとしては存在しないことが示される。
【0046】
実施例5
77.7g(0.15モル)のN2Py3o粗結晶(実施例1と同様に製造)を394gの1,2−プロピレングリコールに懸濁する。撹拌しながら、室温で31.6 g (0.157 mol)の固体の塩化鉄(II)四水和物を分けて添加し、その間にわずかに発熱反応が生じる。50℃での3時間のさらなる撹拌時間内に、1,2−プロピレングリコールにおける[Fe(N2Py3o−ジヒドロキシケタール)Cl]Clの均一な黄色の溶液が得られる。HPLC分析により、1,2−プロピレングリコールにおける[Fe(N2Py3o−ジヒドロキシケタール)Cl]Clの20.9重量%溶液が得られる。遊離の配位子N2Py3oは、反応混合物において検出不能である。溶液は不安定であり、8重量%以下の[Fe(N2Py3o−ジヒドロキシケタール)Cl]Clに希釈しない限り、長期間かけて懸濁液に移行する。
【0047】
実施例6
77.7g(0.15モル)のN2Py3o粗結晶(実施例1と同様に製造)を350.8gの1,2−プロピレングリコールに懸濁する。撹拌しながら、室温で2時間以内に塩化鉄(II)の30重量%水溶液(0.152 molの塩化鉄(II))64.0gを添加し、わずかに発熱反応が生じる。20℃での3時間のさらなる撹拌時間内に、1,2−プロピレングリコールにおける[Fe(N2Py3o−ジヒドロキシケタール)Cl]Clの均一な黄色の溶液が得られ、さらなる1,2−プロピレングリコールの添加により、1,2−プロピレングリコール中、1重量%の[Fe(N2Py3o−ジヒドロケタール)Cl]Cl濃度に調節する。遊離の配位子N2Py3oは、反応溶液中において分析的に検出不能である。
【0048】
実施例7
3.9g(0.0075モル)のN2Py3o粗結晶(実施例1と同様に製造)を488gの1,2−プロピレングリコールに懸濁する。撹拌しながら、室温で2時間以内に塩化鉄(II)四水和物の水もしくは1,2−プロピレングリコールにおける30重量%溶液(0.0075 molの塩化鉄(II)四水和物)5.0gを添加する。20℃での3時間のさらなる撹拌時間内に、1,2−プロピレングリコールにおける[Fe(N2Py3o−ジヒドロキシケタール)Cl]Clの均一な黄色の溶液が得られる。HPLCにより、遊離配位子はもはや検出されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2):
[M]Y (2)
[式中、
Mは、Mn(II)、Mn(III)、Mn(IV)、Fe(II)、Fe(III)またはFe(IV)の群からの金属であり、
Xは、単一、二重もしくは三重荷電アニオンまたは非荷電分子から選択され、金属に単座、二座もしくは三座配位できる配位化合物であり、
Yは、錯体の荷電平衡を保証する非配位性対イオンを表し、
aは1〜2の数であり、
xは1〜2の数であり、
nは0〜4の数であり、
mは0〜8の数であり、そして
Lは、一般式(1)の配位子、またはそのプロトン化もしくは脱プロトン化 体を表し、
【化1】

(式中、
Rは水素、ヒドロキシルまたはC〜Cアルキルであり;
はC〜Cアルキル、C〜C10アリール、ピリジニル−C−C−アルキルまたは(CHN(C〜C−アルキル)であり、
はC〜C20アルキル、C〜C10アリールまたはピリジニル−C−C−アルキルであり、
はC〜Cアルキルであり、
zはC=OまたはC(OH)であり、そして
kは1〜6の数を意味する)]
で表される1種またはそれ以上の金属錯体を、ジオール類もしくはポリオール類、これらのモノエーテル類、またはこれらの物質の混合物中に含有する均一溶液の製造方法であって、式(1)で表される1種またはそれ以上の配位子を、不均一反応において鉄もしくはマンガン塩と、ジオールもしくはポリオール、これらの物質のモノエーテル類または混合物中において反応させることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
XがOH、NO、NO、S2−、R、PO3−、HO、CO2−、ROH、Cl、Br、CN、ClO、RCOOおよびSO2−からなる群から選択され、式中、RがHまたはC〜Cアルキルであり、そしてRがC〜Cアルキルであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
YがRSO、SO2−、NO、Cl、Br、I、ClO、BF、PFおよびRSOからなる群から選択され、式中、RがHまたはC〜Cアルキルであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
式[FeLCl]Cl、[FeL(SO)]、[MnLCl]Clまたは[MnL(SO)]で表される1種またはそれ以上の錯体を含有する溶液が製造され、Lが以下:
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3o),
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−(ピリジン−2−イルメチル)−7−メチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py3u),
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジエチル−ジカルボキシレート,
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ビス−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py4),
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート (N2Py2),
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジエチル−ジカルボキシレート,
2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(N,N´−ジメチルエチルアミン)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート、
および対応のジヒドロキシケタール類、
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記のジ−またはポリオール類が、2〜6個の炭素原子および2〜4個のOH基を有し、これらのジ−またはポリオール類のモノエーテルが、1〜4個の炭素原子を有するモノアルコールに由来するアルコール単位を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
ジオール類もしくはポリオール類、またはそれらの混合物において実施されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
1,2−プロピレングリコールにおいて実施されることを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
製造された溶液が0.01〜30重量%の式(2)で表される錯体を含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
錯化反応が5〜80℃の温度範囲で行われることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
一般式(1)の配位子が、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート(N2Py3o)、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート(N2Py2)および対応のジヒドロキシケタール類からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
錯化反応の実施のために、まず式(1)で表される配位子を、ジオールまたはポリオール、それらのモノエーテル類またはこれらの物質の混合物に加えることにより0.5〜60重量%の配位子を含む懸濁液を製造し、引き続き固体もしくは溶解形態の金属塩を5〜80℃の温度範囲で添加することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
金属塩として、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、塩化マンガン(II)または硫酸マンガン(II)が使用されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
式(2)の金属錯体におけるzがC(OH)であり、そして金属塩として金属塩水和物が使用されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記の金属塩水和物がFe(II)Cl・4HOおよびMn(II)Cl−4HOから選択されることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
1,2−プロピレングリコール中に式[MnLCl]Clまたは[FeLCl]Clで表される1種またはそれ以上の錯体を含有する溶液が製造され、式中、Lが2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート(N2Py3o)、2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート(N2Py2)または対応のジヒドロキシケタール類(z=C(OH))を意味し、そして2,4−ジ−(2−ピリジル)−3−メチル−7−(ピリジン−2−イルメチル)−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレート、 2,4−ジ−(2−ピリジル)−3,7−ジメチル−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナン−9−オン−1,5−ジメチル−ジカルボキシレートまたは対応のジヒドロキシケタール類またはこれらの物質の混合物を塩化マンガン(II)または塩化鉄(II)と1,2−プロピレングリコールにおいて反応させることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
配位子Lがケトン(z = C=O)の形態で前記方法において使用されることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1つに記載の方法。

【公表番号】特表2013−518839(P2013−518839A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551539(P2012−551539)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000403
【国際公開番号】WO2011/095307
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(398056207)クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド (182)
【Fターム(参考)】