説明

3Dメガネ

【課題】 強電界液晶素子を使用し高速のシャッター動作が可能であって、かつ、機械的強度も十分な3Dメガネを得る。
【解決手段】 3Dメガネのメガネフレームの前面に取り付けられた前部液晶保護カバーと、メガネフレームの後面に配置された後部液晶保護カバーと、を有し、液晶素子が、前部液晶保護カバーと後部液晶保護カバーとの間に形成される空隙内に、25%圧縮荷重(kg/cm)が0.2以下の反発係数を有する素材からなるクッション材を介して固定されている、強電界液晶素子によるシャッター機構を備えた3Dメガネによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体映像の視聴に用いられるシャッターグラス方式のメガネであって、いわゆる3Dメガネに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、人間が知覚する立体感は、観察しようとする物体の位置による水晶体の厚さの変化度合い、両眼と対象物との角度の差、そして左右眼に見える対象物の位置及び形の相違、対象物の運動によって生じる時差、その他に各種心理及び記憶による効果等が複合的に作用して生じる。
【0003】
その中でも、人の両眼が横方向に約6〜7cm程離れていることで生じる両眼視差は、立体感において最も重要な要因といえる。すなわち、両眼視差によって左右の網膜に感じる像は完全には重ならない。この左右の網膜に感じる像の僅かな違いが脳へと伝達されると、脳はこの二つの像を合成して3D立体映像を感じることができる。
【0004】
3D立体画像を見る装置には、特殊眼鏡を使う眼鏡式と、特殊眼鏡を使わない非眼鏡式に分けられる。眼鏡式には、相互補色関係にある色フィルターを用いて映像を分離選択する色フィルター方式、直交した偏光素子の組み合わせによる遮光効果を用いて左眼と右眼との映像を分離する偏光フィルター方式及び左眼映像信号と右眼映像信号とをスクリーンに投射する同期信号に対応して、左眼と右眼とを交互に遮断することで、立体感が感じられるようにするシャッターグラス方式が存在する。
【0005】
シャッターグラス方式には、液晶素子を用いたシャッター機構(以下、「液晶シャッターモジュール」という。)が用いられる。液晶シャッターモジュールに用いられる液晶素子は、複数あるが、一般にはSTN(Super Twisted Nematic)液晶やOCB−STN(Optically
Compensated Bend, Optically Compensated Birefringence−STN)及び、TN(Twisted Nematic)が知られている。高品質の3D立体画像を視聴するには、シャッターの動作速度が高速のものが望ましい。
【0006】
STN液晶、OCB−STN、またはTN液晶は、ドライブ電圧(駆動電圧)を上げることで、液晶子の配向変化の立ち上がり動作を速くすることができる。しかし、もう一方の液晶分子の配向変化の立ち下がりは、配向変化の自然な緩和を利用するため動作速度を速めることは困難で、概ね1.8ms以下にすることはできない。
【0007】
3Dメガネの開閉時間は最長でも8.33msから10.4msであり、これらの約20%前後が液晶素子のシャッター速度で制限されることになる。このように、液晶素子の動作速度は、3D立体画像の視聴に係る品質に重大な影響を与えるものである。
【0008】
より高速の動作が可能な液晶素子として、「強誘電液晶」を用いた液晶素子が知られている。強誘電液晶素子を用いた液晶シャッターモジュールであれば、シャッターの動作速度を開動作・閉動作ともに1ms以下にすることができ、最速では300μs以下にすることもできる。
しかし、強誘電液晶は他の液晶に比べて特に液晶の流動性が低く、少しの面圧力や落下衝撃(例えば高さ20cmからの落下)が加わることで、液晶の配向が変化してしまうと、液晶の流動性の低さから一部の配向は壊れて元に戻らなくなる。このため、衝撃が加えられた後は、透過率にムラが出来るという課題がある。このように、強誘電液晶は高速動作が可能であっても、煩雑に取り扱われる可能性が高い3Dメガネには不向きである。
【0009】
強誘電液晶素子を用いた液晶シャッターモジュールに衝撃保護構造を施せば、3Dメガネのように煩雑に取り扱われる製品に利用できると考えられる。例えば、3Dメガネに用いる液晶素子を保護する方法に転用可能な方法として、液晶素子を堅牢に固定し、かつ複数の衝撃吸収材(クッション材)を用いる方法がある(例えば、特許文献1を参照)。しかし、特許文献1の記載の方法や液晶素子を固定する一般的な周知技術は、液晶素子の機械的損傷を防止したり固定位置を安定させたりする目的で固定されているため、強誘電液晶分子自体に加わる衝撃を緩和するような能力を持たない。したがってこれらの方法を用いても強誘電液晶を十分に保護することはできない。
【0010】
【特許文献1】特開2005−165219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであって、強誘電液晶素子を用いたシャッター機構を備えた3Dメガネにおいて、煩雑な取り扱いによって生じる衝撃によっても配向の破壊や透過率のムラがでることなく、高品質の立体画像を視聴することができる3Dメガネを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、液晶素子によるシャッター機構を備える3Dメガネであって、3Dメガネのメガネフレームの前面に取り付けられた前部液晶保護カバーと、メガネフレームの後面に配置された後部液晶保護カバーと、を有し、液晶素子は、前部液晶保護カバーと後部液晶保護カバーとの間に形成される空隙内にクッション材を介して液晶素子の封止部分を支えるように固定されていることを主な特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、1ms以下の高速のシャッター動作を実現できる強誘電液晶を使用した3Dメガネを実現でき、さらに、3Dメガネとして充分な強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る3Dメガネの例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明に係る3Dメガネの例を示す横断面図である。
【図3】本発明に係る3Dメガネの別の例を示す横断面図である。
【図4】本発明に係る3Dメガネのさらに別の例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る3Dメガネの実施の形態について説明する。図1は、本実施例に係る3Dメガネの分解斜視図である。図1において3Dメガネ10は、メガネフレーム1と、液晶素子2と、前部液晶保護カバー3と、後部メガネカバー4と、クッション材5と、後部液晶保護カバー6を有してなる。
【0016】
メガネフレーム1の前枠部分には、前部液晶保護カバー3が嵌め込まれている。後部メガネカバー4にはメガネフレーム1の前枠部分に対応する位置に孔が形成されている。後部メガネカバー4の孔には、後ろ側(当該3Dメガネを掛けた利用者側)から後部液晶保護カバー6が嵌め込まれている。この後部液晶保護カバー6の前面側にクッション材5を介して液晶素子2が固定される。
【0017】
液晶素子2のシャッター動作を制御する制御回路と、当該制御回路の駆動電源は、メガネフレーム1の両端にある智(ヨロイ)と呼ばれる部分に内蔵されている。
【0018】
図2は、本実施例に係る3Dメガネ10の横断面図である。図2において3Dメガネ10のメガネフレーム1に形成されている前枠孔1aには、前部液晶保護カバー3が嵌め込まれて固定されている。メガネフレーム1智部分1bには、メガネフレーム1の横幅寸法と略同等の長手方向寸法を有する略矩形の部材である後部メガネカバー4の側端部が固定されている。
【0019】
後部メガネカバー4の長手方向中央部分には、鼻あて4aが配置されている。また、後部メガネカバー4には、メガネフレーム1の前枠孔1aに対応する位置に、孔4bが形成されており、この孔4bに後部液晶保護カバー6が嵌め込まれて固定されている。
【0020】
後部液晶保護カバー6の前面側には、クッション材5を介して液晶素子2が固定されている。液晶素子2は、透明電極の間に強誘電液晶を封止してなる。液晶素子2に用いられる封止材は、透明電極の外周付近を取り囲むように配置される。よって、液晶素子2の面方向の機械的強度は、封止材が存在する付近が最も強くなる。この封止材がある場所にクッション材5を配置することで、液晶素子2に作用する振動や曲げ方向、圧縮方向の歪を最小限にすることができる。クッション材5は、液晶素子2の封止部分の四隅に配置されればよい。
【0021】
クッション材5と後部液晶保護カバー6の固定、また、クッション材5を液晶素子2の固定には両面テープなどの粘着剤を用いればよい。
【0022】
前部液晶保護カバー3は厚さ1mmの透明なポリカーボネートからなる部材であって、液晶素子2との空間は3mm以上確保されている。後部液晶保護カバー6は厚さ1mmの透明なポリカーボネートからなる部材である。クッション材5は、硬さ(圧縮荷重)300N/314cm、反発弾性20以下、厚さ5mmの低反発ウレタンであって、25%圧縮荷重(kg/cm)が0.2以下の反発係数を有する素材からなる。クッション材5は、上記の特性を有する低反発ウレタン、低反発ジェルなどからなる。
【0023】
落下や衝撃で液晶素子2に50Nの衝撃力が加えられたとしても、クッション材5が衝撃を吸収することによって、液晶素子2が前部液晶保護カバー3または後部液晶保護カバー6に接触することを防ぐ。また1.5m以上の高さから落下させたとしても、衝撃荷重はクッション材5によって吸収される。クッション材5の硬さは、液晶素子2の耐衝撃荷重より小さいため、液晶素子2に負担をかけることなく落下衝撃を吸収することができる。また、液晶素子の封止部分を支えるようにクッション材5を配置することにより、低反発素材の特性と相まって落下時の衝撃の際に発生する振動を効率よく抑えることができる。
【0024】
なお、クッション材5の配置は、液晶素子2の四隅によるだけでなく、メガネフレーム1、液晶素子2、前部液晶保護カバー3、後部メガネカバー及び後部液晶保護カバー6の形状に応じて、全周または2個〜8個の間で適宜選択すればよい。また、クッション材5は、後部液晶保護カバー6、に代えて後部メガネカバーに固定されてもよい。
【0025】
上記の構造に係る3Dメガネ10によれば、液晶素子2を、前部液晶保護カバー3と、後部液晶保護カバー6の間に形成される空隙部分に、クッション材5を介して配置することができるので、外部圧力や落下衝撃によって液晶分子の配向が壊れることを防ぐことができ、強誘電液晶の欠点であった液晶の耐衝撃荷重の低さを克服して、高速シャッター動作が可能な3Dメガネを得ることができる。
【0026】
次に、本発明に係る3Dメガネの別の実施の形態について説明する。図3は、本実施例に係る3Dメガネ10aの横断面図である。すでに図2を用いながら説明をした3Dメガネ10と同様の構成部材からなる。よって、図2で用いた符号と同じ符号を用いて説明する。
【0027】
3Dメガネ10aと3Dメガネ10との違いは、3Dメガネ10aは前部液晶保護カバー3の後ろ側にクッション材5を介して液晶素子2が固定されていることである。前部液晶保護カバー3とクッション材5、および、液晶素子2とクッション材5の固定には、それぞれ両面テープを用いればよい。
【0028】
上記の構造に係る3Dメガネ10aによれば、液晶素子2を、前部液晶保護カバー3と、後部液晶保護カバー6の間に形成される空隙部分に、クッション材5を介して配置することができるので、外部圧力や落下衝撃によって液晶分子の配向が壊れることを防ぐことができ、強誘電液晶の欠点であった液晶の耐衝撃荷重の低さを克服して、高速シャッター動作が可能な3Dメガネを得ることができる。また、クッション材5は、前部液晶保護カバー3、に代えてメガネフレーム1、に固定されてもよい。
【0029】
次に、本発明に係る3Dメガネのさらに別の実施の形態について説明する。図4は、本実施例に係る3Dメガネ10bの横断面図である。図4に示す実施例も図3に示した実施例と同様に、すでに図2を用いながら説明をした3Dメガネ10と同様の構成部材からなるので、図2で用いた符号と同じ符号を用いて説明する。
【0030】
3Dメガネ10bと3Dメガネ10との違いは、3Dメガネ10bは前部液晶保護カバー3の後ろ側にクッション材5が固定され、さらに後部液晶保護カバー6の前側にクッション材5が固定され、液晶素子2の前後がクッション材5を介して固定されていることにある。前部液晶保護カバー3および後部液晶保護カバー6とクッション材5、および、液晶素子2とクッション材5の固定には、それぞれ両面テープを用いればよい。
【0031】
3Dメガネ10bに用いるクッション材5の厚さは3mm程度が最適である。3Dメガネ10bは、液晶素子2の前後をクッション材5によって保持しているので、クッション材5を液晶素子2の前面側または後面側のみ固定して保持するものに比べて、クッション材5の厚さを薄くすることができる。これによって、3Dメガネ10bは、3Dメガネ10および3Dメガネ10aに比べて、全体的に薄くすることができる。
【0032】
上記の構造に係る3Dメガネ10bによれば、液晶素子2の前後を、クッション材5を介して前部液晶保護カバー3と後部液晶保護カバー6に固定することができるので、対衝撃性をさらに強くすることができ、かつ、3Dメガネの前後方向の厚みを薄くしつつ、外部圧力や落下衝撃によって液晶分子の配向が壊れることを防ぐことができ、強誘電液晶の欠点であった液晶の耐衝撃荷重の低さを克服して、高速シャッター動作が可能な3Dメガネを得ることができる。
【0033】
以上のように、本発明に係る3Dメガネによれば、強誘電液晶による液晶素子を用いても、3Dメガネとして充分な強度を持った高速かつ高映像の3Dメガネを提供できる。
【符号の説明】
【0034】
1 メガネフレーム
2 液晶素子
3 前部液晶保護カバー
4 後部メガネカバー
5 クッション材
6 後部液晶保護カバー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶素子によるシャッター機構を備える3Dメガネであって、
上記3Dメガネのメガネフレームの前面に取り付けられた前部液晶保護カバーと、上記メガネフレームの後面に配置された後部液晶保護カバーと、を有し、
上記液晶素子は、上記前部液晶保護カバーと上記後部液晶保護カバーとの間に形成される空隙内にクッション材を介して液晶素子の封止部分を支えるように固定されていることを特徴とする3Dメガネ。
【請求項2】
上記クッション材は、25%圧縮荷重(kg/cm)が0.2以下の反発係数を有する素材からなることを特徴とする請求項1記載の3Dメガネ。
【請求項3】
上記クッション材は、上記液晶素子に50N以上の衝撃力が加えられたときの変形量以上の厚さを有することを特徴とする請求項1、2に記載の3Dメガネ。
【請求項4】
上記クッション材は、上記後部液晶保護カバーの前面側または後部メガネカバーの前面側に粘着剤によって固定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の3Dメガネ。
【請求項5】
上記クッション材は、上記前部液晶保護カバーの後ろ側または上記メガネフレームの後ろ側に粘着剤によって固定されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の3Dメガネ。
【請求項6】
上記クッション材は、上記液晶素子の封止部分の四隅に固定されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の3Dメガネ。
【請求項7】
上記クッション材は、上記液晶素子の封止部分の全周に固定されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の3Dメガネ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−101179(P2013−101179A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243574(P2011−243574)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】