説明

4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン類の製造法

【課題】従来方法に比べて安価な原料を用いて、収率よく4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン類を製造することのできる、新規な製造法の提供。
【解決手段】4−シアノ−1−ベンジル−4−フェニルピペリジンをハロゲノメチルマグネシウムと反応させ、次いで反応生成物を酸の存在下に水と反応させてなる


で表される4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン類又はその塩を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン類の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係る4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン類は、医薬品の中間体として有用な4−フェニルキヌクリジン(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)の原料となるものである。
【0003】
この4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン類の既知の製造法としては、4−シアノ−1−ベンジル−4−フェニルピペリジンを原料にして、メチルリチウムと反応させて製造する方法(非特許文献1参照)が知られている。
しかしながら、メチルリチウムは非常に高価であり、また、空気中の水分とも極めて容易に反応する等工業的な取り扱いが非常に困難である。
【0004】
【特許文献1】WO1998−57972
【特許文献2】US5583134
【非特許文献1】J,Org,Chem,1957,22,1484
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は従来方法に比べて安価な原料を用いて、収率よく4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン類を製造することのできる、新規な製造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の[1]〜[5]に記載の発明を提供するものである。
【0007】
[1]式(1):
【0008】
【化1】

(式中、Rは低級アルキル基又は水素原子を示す。)で表されるピペリジンニトリル誘導体又その塩(以下、これらを総称してシアノ体という)を式(2):
CHMgX (2)
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるハロゲノメチルマグネシウム(以下、ハロゲノメチルマグネシウム(2)という)と反応させ、次いで得られた生成物を酸の存在下に水と反応させることを特徴とする式(3):
【0009】
【化2】

(式中、Rは前記に同じ。)で表される4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン類又はその塩(以下、これらを総称してアセチル体という)を製造する方法。
【0010】
[2][1]記載の製造方法で得られたアセチル体を臭素と反応させて、式(4):
【0011】
【化3】

(式中、Rは前記に同じ。)で表される4−ブロモアセチルピペリジン誘導体又はその塩(以下、これらを総称してブロモ体という)を得た後、該当ブロモ体をそのまま閉環反応させるか又はその塩を中和して次いで閉環反応させることを特徴とする式(5):
【0012】
【化4】

(式中、Rは前記に同じ。)で表される3−オキソキヌクリジン誘導体(以下、オキソキヌクリジン誘導体という)の製造方法。
【0013】
[3]反応温度が50℃〜110℃である[1]記載の製造方法。
【0014】
[4]中和の際に有機溶媒を使用する[2]記載の製造方法
【0015】
[5]有機溶媒がトルエンである[4]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明方法によれば、従来製法に比べて安価なハロゲノメチルマグネシウム(2)を用い且つ収率よくアセチル体の製造ができるので、本発明は工業的利用価値大なるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
式(1)、(3)、(4)、(5)及び(6)において、Rは低級アルキル基又は水素原子を示す。低級アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基等の直鎖アルキル基、イソプロピル基等の分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0018】
式(2)において、Xはハロゲン原子を示し、具体的には塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0019】
シアノ体の具体例としては、例えば4−シアノ−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン、4−シアノ−1−ベンジル−4−(2−メチルフェニル)ピペリジン、4−シアノ−1−ベンジル−4−(3−メチルフェニル)ピペリジン、4−シアノ−1−ベンジル−4−(4−メチルフェニル)ピペリジン、4−シアノ−1−ベンジル−4−(2−エチルフェニル)ピペリジン、4−シアノ−1−ベンジル−4−(3−エチルフェニル)ピペリジン、4−シアノ−1−ベンジル−4−(4−エチルフェニル)ピペリジン、4−シアノ−1−ベンジル−4−(2−n−プロピルフェニル)ピペリジン、4−シアノ−1−ベンジル−4−(3−n−プロピルフェニル)ピペリジン、4−シアノ−1−ベンジル−4−(4−n−プロピルフェニル)ピペリジン、4−シアノ−1−ベンジル−4−(2−イソプロピルフェニル)ピペリジン、4−シアノ−1−ベンジル−4−(3−イソプロピルフェニル)ピペリジン、4−シアノ−1−ベンジル−4−(4−イソプロピルフェニル)ピペリジン、これらの塩が挙げられ、好ましくは4−シアノ−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン及びその塩である。かかる塩としては塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩等の酸塩が挙げられる。
【0020】
ハロゲノメチルマグネシウム(2)の具体例としては、メチルマグネシウム=ブロミド、メチルマグネシウム=クロリド、メチルマグネシウム=ヨージドである。
【0021】
ハロゲノメチルマグネシウム(2)は、それと反応しない非プロトン性溶媒に溶解したものを使用する。非プロトン性溶媒としてはジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒やトルエン等の炭化水素系溶媒が挙げられる。溶液の濃度は通常0.5〜5モル/Lである。ハロゲノメチルマグネシウム(2)の使用量はシアノ体1モルに対し、通常0.9〜5モル倍である。
【0022】
シアノ体とハロゲノメチルマグネシウム(2)との反応における、反応温度は通常20〜120℃、好ましくは50℃〜110℃である。反応時間は通常1〜48時間である。反応には通常溶媒を用いる。使用できる溶媒はハロゲノメチルマグネシウム(2)と反応しない非プロトン性溶媒であり、例えばジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒やトルエン等の炭化水素系溶媒が挙げられる。溶媒の使用量は特に限定されないが、通常シアノ体1重量部に対し、1〜50重量部である。
【0023】
本発明者は、シアノ体とハロゲノメチルマグネシウム(2)との反応による反応生成物が、式(6):
【0024】
【化5】

(式中、R及びXは前記に同じ。)イミン系化合物又はその塩と推察する。
【0025】
シアノ体とハロゲノメチルマグネシウム(2)との反応による反応生成物は通常反応液から分離しない。反応液をそのまま、又は反応液を塩化アンモニウム水溶液と混合して残存するハロゲノメチルマグネシウム(2)を分解し、その後分液によって得られるオイル層に、水及び酸を添加し室温で攪拌すればアセチル体を得ることができる。
【0026】
斯かる酸としては、例えば塩酸等が挙げられる。酸の使用量としてはシアノ体1モルに対し、通常0.1〜5当量である。酸を1当量以上使用するとアセチル体は塩として溶媒中から析出する為、ろ過操作により容易に得ることが可能である。水の使用量はシアノ体1重量部に対し、通常0.1〜10重量部である。
【0027】
得られたアセチル体を臭素と反応させると、ブロモ体を製造することができる。臭素の使用量はアセチル体1モルに対し通常0.8〜2モル倍である。反応温度は通常20〜50℃、反応時間は通常1〜72時間である。反応には溶媒を用いることができ、溶媒としては酢酸等挙げられる。溶媒の使用量としてはアセチル体1重量部に対し、通常1〜15重量部である。このようにして得られるブロモ体は塩が主体であるが、臭素の使用量(モル)に相当する量(モル)の有機塩基などの脱酸剤の存在下にアセチル体と臭素との反応を行うと、ブロモ体はフリー体が主体で生成する。
【0028】
得られたブロモ体が塩である場合には、閉環反応を行う前に、当該塩を塩基で中和する必要がある。中和は有機溶媒と水との混合溶媒中で行うのが好ましい。
【0029】
斯かる塩基は通常水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリが用いられる。水酸化アルカリは固体状のものでも水溶液のものでもよい。使用量としてはブロモ体1モルに対し0.8〜50モル倍である。
【0030】
斯かる有機溶媒としては、中和によって生成する式(5)で表される4−ブロモアセチルピペリジン誘導体を溶かし且つ水と分液するものであればよく、具体的にはトルエン等の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0031】
閉環反応の温度は通常25〜80℃、反応時間は通常1〜72時間である。反応後、オキソキヌクリジン誘導体は固体として析出する。これをろ過操作することにより、容易に得ることが可能である。
【0032】
得られたオキソキヌクリジン誘導体はJ,Org,Chem,1957,22,1484記載の方法で容易に4−フェニルキヌクリジンとすることが可能である。すなわち、オキソキヌクリジン誘導体の水素還元による脱ベンジル化、ついでヒドラジン還元をすることによって、4−フェニルキヌクリジンを製造できる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明が実施例により限定されるものでないことは言うまでもない。
【0034】
実施例1
4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン塩酸塩の合成
4−シアノ−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン(285g,0.91mol)及びトルエン(707g)を4つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下25℃で2Mメチルマグネシウム=クロリド/THF溶液(960ml、1.92mol)を加えた。86℃で24時間反応を行った後、35℃まで冷却した。この反応液を塩化アンモニウム(517g、9.7mol)、水(1950g)に加え、分液により得たトルエン層に水(450g)と36%塩酸(223g、2.2mol)を加え、攪拌した。析出した固体をろ過・乾燥し、4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン塩酸塩(322g、LC検量純分281g、収率94%)を得た。
【0035】
LC/MS:294[M+H]
【0036】
実施例2
4−ブロモアセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン臭化水素酸塩の合成
実施例1で得られた4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン塩酸塩(295g、純分87%、0.78mol)を酢酸(900g)で溶解させた後、臭素(131g、0.82mol)を25℃で加えた。そのまま24時間攪拌した後、析出した固体をろ過し、酢酸含有の4−ブロモアセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン臭化水素酸塩(667g、乾燥純分303g、収率86%)を得た。
【0037】
LC/MS:372[M+H],374[M+2+H]
【0038】
実施例3
1−ベンジル−3−ケト−4−フェニルキヌクリジン臭素塩の合成
実施例2で得た4−ブロモアセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン臭化水素酸塩(613g、乾燥純分279g、0.61mol)、水(856g)及びトルエン(1532g)を4つ口フラスコに入れ、50℃に加熱した。48%水酸化ナトリウム水溶液(226g、2.7mol)を加え、50℃で25時間反応させた。25℃まで冷却した後、48%水酸化ナトリウムを加えてpH6になるよう調整した。析出した結晶をろ過することで1−ベンジル−3−ケト−4−フェニルキヌクリジン臭素塩(381g、乾燥純分198g、LC検量純分167g、収率73%)を得た。
【0039】
LC/MS:292[M+H]
【0040】
参考例1
3−ケト−4−フェニルキヌクリジンの合成
実施例3で得た1−ベンジル−3−ケト−4−フェニルキヌクリジン臭素塩(336g、LC検量純分148g、0.40mol、)、5%Pd/C(7.8g)及び水(1559g)を3Lオートクレーブに入れ、水素加圧(0.5MPa)下50℃で3時間反応させた。30℃に冷却後、ろ過によりPd/C除去した反応液を591gまで濃縮した。濃縮残を50℃に保持したまま、48%水酸化ナトリウムを加えてpH10に調整した。10℃まで冷却し、析出した結晶をろ過・乾燥することで3−ケト−4−フェニルキヌクリジン(78g、収率98%)を得た。
【0041】
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)2.17−2.25(m,2H),2.33−2.42(m,2H),3.09−3.24(m,4H),3.43(s,2H),7.18−7.20(m,2H),7.25−7.30(m,1H),7.35−7.39(m,2H)
【0042】
13C−NMR(100MHz,CDCl):δ(ppm)31.2,47.6,47.9,62.9,126.9,127.1,128.1,139.1,216.9
【0043】
参考例2
4−フェニルキヌクリジンの合成
参考例1で得た3−ケト−4−フェニルキヌクリジン(77g、0.38mol)、エチレングリコール(385g)を4つ口フラスコに入れ、90℃に昇温した。80%ヒドラジン一水和物水溶液(44g、0.71mol)を1時間かけて滴下し、90℃に保持したまま1時間攪拌してヒドラゾン溶液を得た。
別の4つ口フラスコに95%水酸化カリウム(62g)とエチレングリコール(385g)を入れ、165℃に昇温した。そこにヒドラゾン溶液を1時間かけて滴下し、155℃〜165℃で5時間反応させた。室温に冷却後、水(1158g)を加えて結晶を析出させ、ろ過により4−フェニルキヌクリジン粗結晶を得た。
この粗結晶をエタノール(98g)/水(249g)で再結晶することにより、4−フェニルキヌクリジン(44g、収率61%)を得た。
【0044】
DI/MS:187
【0045】
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)1.78(dd,J=7.6and7.8Hz,6H),3.01(dd,J=7.6and7.7Hz,6H),7.18−7.22(m,1H),7.27−7.34(m,4H)
【0046】
13C−NMR(100MHz,CDCl):δ(ppm)32.2,32.3,48.3,125.6,125.8,128.2,148.8

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、Rは低級アルキル基又は水素原子を示す。)で表されるピペリジンニトリル誘導体又はその塩を式(2):
CHMgX (2)
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるハロゲノメチルマグネシウムと反応させ、次いで得られた反応生成物を酸の存在下に水と反応させることを特徴とする式(3):
【化2】

(式中、Rは前記に同じ。)
で表される4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン類又はその塩を製造する方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法で得られた式(3)で表される4−アセチル−1−ベンジル−4−フェニルピペリジン類又はその塩を臭素と反応させて、式(4):
【化3】

(式中、Rは前記に同じ。)で表される4−ブロモアセチルピペリジン誘導体又はその塩を得た後、当該4−ブロモアセチルピペリジン誘導体をそのまま閉環反応させるか又はその塩を中和して次いで閉環反応させることを特徴とする式(5):
【化4】

(式中、Rは前記に同じ。)で表される3−オキソキヌクリジン誘導体の製造方法。
【請求項3】
反応温度が50℃〜110℃である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
中和の際に有機溶媒と水との混合溶媒を使用する請求項2記載の製造方法。
【請求項5】
有機溶媒がトルエンである請求項4記載の製造方法。


【公開番号】特開2007−119406(P2007−119406A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314430(P2005−314430)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】