説明

4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩の結晶

【課題】4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸の結晶の提供、その製造方法及びそれを含有する医薬の提供。
【解決手段】粉末X線回折パターン及び/又は示差走査熱量分析サーモグラムで特徴付けられ、室温で安定な、4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸のβ型結晶及びγ型結晶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩の結晶、その製造方法及びそれを含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(I)で表される4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩
【0003】
【化1】

【0004】
(以下、「モサプリドクエン酸塩」ということがある。)の2水和物は、選択的セロトニン4受容体アゴニストであり、良好な消化管運動促進作用を示し(後記特許文献1参照)、慢性胃炎に伴う消化器症状の改善を目的として既に実用化されている。
特許文献1には、4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド及びその塩、ならびに製造方法が開示されている。また、特許文献2には、4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド及びその塩の工業的な製造方法が記載され、実施例1〜4には、50vol%イソプラノール−水から4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミドのクエン酸塩が再結晶されている開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−54937号公報
【特許文献2】特開2008-247753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、医薬品の原薬として可能性がある化合物(I)の結晶多形を確認すべく、検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、式(I)の化合物の結晶多形について鋭意検討を行った結果、2種類の結晶(以下、2種類の結晶を、「β型結晶」及び「γ型結晶」と称することもある。)を見出すと共に、両結晶共に室温で安定な結晶として存在し、医薬品の製造に用い得る可能性があることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミドのβ型結晶及びγ型結晶、具体的には以下の結晶を提供するものである。
【0008】
[項1]下記(a1)及び(b1)又は(a2)及び(b2)で示される物理化学的性質のいずれか一つ又は複数で特定される4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩の結晶:
(a1)ピーク角度2θ(CuKα1線)で表して、ほぼ、6.49o 、7.53o 、11.19o 、15.06o 、15.45o 、15.74o 、16.56o 、17.08o 、17.51o 及び18.80oにピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b1)10℃/分の昇温速度で、ほぼ149℃にピークを有する示差走査熱量サーモグラムを示す;
(a2)ピーク角度2θ(CuKα1線)で表して、ほぼ、10.03o 、11.35o 、16.28o 、16.75o 、17.50o 、19.71o 、22.78o 、26.04o 、26.32o 及び26.50oに特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b2)10℃/分の昇温速度で、ほぼ158℃にピークを有する示差走査熱量サーモグラムを示す。
【0009】
[項2]下記(a1)及び(b1)で示される物理化学的性質のいずれか一つ又は両方で特定される4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩のβ型結晶:
(a1)ピーク角度2θ(CuKα1線)で表して、ほぼ、6.49o 、7.53o 、11.19o 、15.06o 、15.45o 、15.74o 、16.56o 、17.08o 、17.51o 及び18.80oにピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b1)10℃/分の昇温速度で、ほぼ149℃にピークを有する示差走査熱量サーモグラムを示す。
【0010】
[項3]図3に例示される粉末X線回折パターンを示す4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩のβ型結晶。
【0011】
[項4]下記(a2)及び(b2)で示される物理化学的性質のいずれか一つ又は両方で特定される4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩のγ型結晶:
(a2)ピーク角度2θ(CuKα1線)で表して、ほぼ、10.03o 、11.35o 、16.28o 、16.75o 、17.50o 、19.71o 、22.78o 、26.04o 、26.32o 及び26.50oに特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b2)10℃/分の昇温速度で、ほぼ158℃にピークを有する示差走査熱量サーモグラムを示す。
【0012】
[項5]図5に例示される粉末X線回折パターンを示す4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩のγ型結晶。
【0013】
[項6]4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩を含むアセトニトリル溶液から該化合物を結晶化させることを特徴とする製造方法。
【0014】
[項7]項1〜6のいずれか一項に記載のβ型結晶又はγ型結晶と同定された4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩の原薬。
【0015】
[項8]項7に記載の原薬を含む医薬。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安定した品質の4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩の原薬を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】X'Pert Alpha1 systemを用いて得られた参考例1のα型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図2】参考例1のα型結晶の示差走査熱量サーモグラムである。
【図3】X'Pert Alpha1 systemを用いて得られた本発明のβ型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図4】本発明のβ型結晶の示差走査熱量サーモグラムである。
【図5】X'Pert Alpha1 systemを用いて得られた本発明のγ型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図6】本発明のγ型結晶の示差走査熱量サーモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書における「α型結晶」、「β型結晶」及び「γ型結晶」とは、通常の粉末X線回折、示差走査熱量分析等で示される物理化学的性質によって、それぞれ他の結晶及び他の結晶との混合物とは区別される結晶を意味する。
本明細書における「α型結晶」、「β型結晶」及び「γ型結晶」は、高純度の結晶を意味しており、具体的にはそれぞれ他の結晶が検出されない結晶であることを意味する(他の結晶の通常の検出限界は5%未満)。
【0019】
「原薬」とは、「医薬品の生産に使用することを目的とする物質で、医薬品の製造に使用された時に医薬品の有効成分となるもの」を意味し、医薬品の製造で通常用いられる方法で適宜粉砕された原薬も含まれる。「医薬」とは、一般的には医薬品有効成分である原薬を含む製剤を意味する。したがって、「原薬(結晶)からなる医薬」とは、上記原薬(結晶)を含み、適宜製剤用担体を混合して調製された製剤を意味する。この製剤はまた、治療上有効な他の成分を含有していてもよい。
【0020】
本発明者らの研究によって、式(I)の化合物の結晶には結晶多形が存在し、少なくとも2種類の異なる結晶、すなわち、β型結晶及びγ型結晶(以下、「本発明の結晶」と称することもある)が存在することが見出された。これらの結晶は、以外にも室温で安定に存在することが明らかになった。
【0021】
「C1−5アルコール」とは、炭素数が1〜5の直鎖状又は分枝鎖状のアルコールを意味し、具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロパノール)、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール(イソブチル アルコール)、1−ペンタノール(アミル アルコール)、3−メチル−1−ブタノール(イソアミル アルコール)などが挙げられる。これらのうち、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール又は3−メチル−1−ブタノールが好ましい。
【0022】
「C5−8アルカン」とは、炭素数が5〜8の直鎖状又は分枝鎖状の炭化水素(アルカン)を意味し、具体例としては、n−ヘキサン、n―ヘプタン、n−オクタンなどが挙げられる。これらのうち、n―ヘプタンが好ましい。
【0023】
本発明の結晶は、本明細書に記載の物理化学的性質によって特定される。しかし、後記の実施例において、例えば、同一の結晶形の粉末X線回折を異なるX線の波長で測定すると観測されるピーク角度が異なることからも明らかなように、これらの物理化学的性質を示すデータは、測定方法や測定器具によって多少変わるものであるから、本明細書に記載の結晶形を特定する物理化学的性質は厳密に解されるべきではない。
【0024】
β型結晶の製法:
β型結晶は、式(I)の化合物又はその水和物若しくは溶媒和物を含むアセトニトリル、テトラヒドロフラン又は1,2−ジメトキシエタン溶液から該化合物を常法に従って結晶化することによって製造される。結晶化溶媒として好ましくは、アセトニトリルが挙げられる。また、式(I)の化合物を含むC1−5アルコール(例えば、エタノール、2−プロパノール)、テトラヒドロフラン又はアセトンと、鎖状若しくは分岐鎖状のC5−8アルカン(例えば、n−ヘキサン、n―ヘプタン、n−オクタン)又はエーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル)との混液の溶液から該化合物を常法に従って結晶化させることによって製造される。具体例を実施例1に示すが、本方法に限定されるものではない。
【0025】
γ型結晶の製法:
γ型結晶は、式(I)の化合物又はその水和物若しくは溶媒和物を含む酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、ギ酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ターシャルブチルメチルエーテル溶液から該化合物を常法に従って結晶化することによって製造される。また、式(I)の化合物を含む2−プロパノール、アセトン又はテトラヒドロフラン溶液と、鎖状若しくは分岐鎖状のC5−8アルカン(例えば、n−ヘキサン、n―ヘプタン、n−オクタン)又はエーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル)との混液の溶液から該化合物を常法に従って結晶化させることによって製造される。好ましい溶媒の組み合わせとしては、2−プロパノールと、n−ヘプタン又はジイソプロピルエーテルの混合溶液が挙げられ、さらに好ましくは、2−プロパノールとn―ヘプタンの混合溶液が挙げられる。該混合溶媒中のC3−5アルコールの重量%は、通常5〜60vol%が挙げられるが、好ましくは、10〜50vol%、さらに好ましくは、20〜40vol%が挙げられる。具体例を実施例3に示すが、本方法に限定されるものではない。実施例2では、式(I)の化合物を含む2−プロパノール溶液をn―ヘプタンに滴下した後に該化合物の結晶を得ているが、本方法に限定されず該混液の溶液を得ることができれば、これら方法に限定されない。
【0026】
上記2種類のβ型及びγ型結晶の製法に用いる出発物質の式(I)の化合物は特許文献1又は2に記載の方法によって製造することができる。いずれの製法においても、式(I)の化合物1gの結晶化に用いる溶媒量は、1〜100mlが挙げられ、より好ましくは、5〜50mlが挙げられる。さらに好ましくは5〜30mlが挙げられ、最も好ましくは、5〜20mlが挙げられる。式(I)の化合物を上記の結晶化溶媒に溶解させる際は、通常は加熱する。加熱温度は特に限定されないが、通常は、溶媒の還流温度である。加熱して得られた式(I)の化合物の溶液を冷却することによって、結晶が得られる。溶液の冷却速度は、室温にそのまま放置して徐冷するなどでも良く、特に限定されないが、好ましくは、−0.1〜−10℃/分、より好ましくは、−0.25〜−5℃/分、さらに好ましくは、−0.5〜−3℃/分である。溶液中に析出した結晶を濾取し、常法に従って乾燥すれば、目的の結晶が得られる。結晶化のときに、目的の結晶を種晶(種結晶)として加えてもよい。
【0027】
本発明の結晶は、選択的セロトニン4受容体アゴニスト作用を示し、良好な消化管運動促進作用を示すので、制吐剤あるいは消化管機能亢進剤として、急・慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃神経症、胃下垂などの疾患における食欲不振、悪心、嘔吐、腹部膨満感等の治療薬及び予防薬として有用である。このことは特許文献1に記載の式(I)の化合物の薬理試験結果から説明される。
【0028】
本発明の結晶の投与経路としては、経口投与あるいは非経口投与のいずれでもよい。投与量は、投与方法、患者の症状・年齢等により異なるが、通常0.01〜10mg/kg/日、好ましくは0.05〜1mg/kg/日である。
【0029】
本発明の結晶は通常、製剤用担体と混合して調製した製剤の形で投与される。製剤用担体としては、製剤分野において常用され、かつ本発明の結晶と反応しない物質が用いられる。
【0030】
剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、坐剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製され、例えば、特許文献1に記載の製剤例をそのまま具体例として挙げることができる。これらの製剤は、本発明の結晶を0.01%以上、好ましくは0.1〜70%の割合で含有することができる。これらの製剤はまた、治療上有効な他の成分を含有していてもよい。
【実施例】
【0031】
以下、参考例及び実施例を挙げて本発明の結晶について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、実施例に記載のデータは、通常、同じ実験を繰り返しても数値が多少変わるものであるから、厳密に解されるべきではない。参考例及び実施例で得られた結晶は以下の方法で同定した。
【0032】
(1)スペクトリス社製X’Pert Alpha1 systemを用いた粉末X線回折:CuKα1線、シリコン板、ステップ0.0167(2θ)、測定時間500秒/ステップ、入射スリット20mm(オート)、発散防止スリット20mm(オート)、検出器X’Celeratorで集中法により測定した。
【0033】
(2)示差走査熱量分析:ティ・エイ・インスツルメント社製Q1000を用い、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下50mL/分で測定した。温度及び熱量校正は、インジウム(156.6℃、28.45J/g)を用いた。1〜2mgの結晶を1つの小さな穴があるアルミニウムハーメチックパンに入れ、アルミニウムハーメチックカバーでクリンプした後、測定に供した。
【0034】
(3)熱重量分析:ティ・エイ・インスツルメント社製Q500を用い、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下、サンプル流量60mL/分、バランス流量40mL/分で測定した。温度校正は、ニッケル(355.3℃)を用いた。重量校正は、分銅(100mg及び1g)を用いた。1〜4mgの結晶をプラチナパンに入れ、測定に供した。
【0035】
(4)水分吸脱着等温線試験:HIDEN社製IGAsorpを用い、25℃、窒素雰囲気下250mL/分で、湿度を0〜90%RH(RHは相対湿度を意味する)の間で変化させ、測定した。設定した最初の相対湿度において、重量が平衡に達した場合に、測定を開始した。ただし、重量が平衡に達するまでの最大時間を180分と設定した。また、設定した相対湿度において、重量が平衡に達した場合に、次のステップの相対湿度へと移行する設定とした。ただし、重量が平衡に達するまでの最大時間を90分と設定した。重量校正は、分銅(20、50及び100 mg)を用いた。相対湿度センサ及び同部相対温度計の校正は、HIDEN社キャリブレータを用いた。サンプル室温度計及びチャンバー部温度計の校正は、HIDEN社専用キャリブレータを用いた。5〜10 mgの結晶をパンに入れ、測定に供した。
【0036】
(5)イオンクロマトグラフィーの試験法:イオンクロマトグラフ(Dionex.Co.)、検出器:電気伝導度検出器、カラム:IonPac AS17 (4 mm i.d.×250 mm,Dionex.Co.)を用い、水酸化カリウム溶離液の濃度1→30(mM)、恒温槽温度: 35℃、流量:1.0 mL/min、分析時間:30minの測定条件下で測定した。常法により、標準溶液及び信頼性確認用サンプル溶液(QC溶液)を調製し、試料溶液は被験物質の1〜2mgを量り(n=3)、精製水50〜80gを加え全量(g)を量り,室温で溶解した後、各々2〜3mLを試料溶液とし、上記条件にて測定した。また、試料におけるクエン酸は、イオンクロマトグラムのリテンションタイムから同定した。
【0037】
データ解析
以下の式により各クエン酸イオン標準溶液におけるクエン酸イオン濃度(ppm)を求めた(表1参照)。
クエン酸イオン濃度(ppm)=V×(Ws×1000)/Wv×Xs/Xv×Ys/Yv×P/100
【0038】
【表1】

【0039】
各クエン酸イオン標準溶液につき、クエン酸イオンの濃度を横軸(x)にクエン酸イオンのピーク面積を縦軸(y)にプロットし、最小二乗法によって求めた回帰直線 y=ax+b を検量線とする。上記の検量線を用いて,以下の式により、各クロマトグラムのクエン酸イオンのピーク面積(y)よりクエン酸イオンの濃度(ppm)を算出(小数点以下4桁目を四捨五入して小数点以下3桁とする)した後、被験物質のクエン酸イオンの含有率(%)を求める。このとき、クエン酸イオンの含有率(%)は、小数点第3位を四捨五入して小数点以下2桁とする。なお、QC溶液については、測定濃度が理論濃度±10%の範囲を越えるものが各濃度1/3以内であれば、試料溶液の測定濃度は妥当と判定する。
【0040】
下記の計算式により、クエン酸イオン含有率を求めることができる。
クエン酸イオン濃度x(ppm)=(ピーク面積y−回帰直線のy切片b)/(回帰直線における傾きa)
クエン酸イオン含有率(%)=(濃度x(ppm)×試料溶液質量(g))×100/(披験物質質量(mg))
【0041】
参考例1 4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩・2水和物の製造:
本参考例は特許文献2の実施例1〜4に記載の化合物の製法及び特許文献1の実施例1の製法に準じる製法に準じて行った。
(1)特許文献2に記載の製法に準じて製造した4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ安息香酸(特許文献2の化合物(I))20.0gとトリエチルアミン11.3gをアセトン160mLに懸濁させ、これにクロル炭酸エチル11.1gを滴下し、0〜20℃で2時間撹拌した。次に、該混合液に4−アミノメチル−4−(4−フルオロベンジル)モルホリン(特許文献2の化合物(II))21.8gを滴下し、0〜20℃で1時間撹拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、50vol%2−プロパノール水90mLを加え、攪拌した。さらに水70mLを加え、析出した結晶を濾取し、4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミドの粗生成物を得た。粗生成物に2−プロパノール440mL及び活性炭2gを加え、還流下で30分間攪拌した。熱時濾過後放冷し、析出した結晶を濾取・乾燥した4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド39.0gを得た。
【0042】
(2)上記(1)で得られた4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド39.0g及びクエン酸・1水和物13.9gを50vol%2−プロパノール水314mLに加え、混合溶液を還流下で30分間攪拌した。放冷後、析出した結晶を濾取・乾燥し、乾燥した(I)の化合物54.4gを得た。α型結晶のX’Pert Alpha1 systemを用いて得られたパターン(CuKα1線)、示差走査熱量サーモグラム及びイオンクロマトグラフィーによるクエン酸イオン濃度測定結果をそれぞれ図1、図2及び表3に示す。
【0043】
X’Pert Alpha1 systemを用いて得られたα型結晶の粉末X線回折のピーク角度(CuKα1線)(図1の角度)とその相対強度を表2に示す。これらのうち、α型結晶に特徴的なピーク角度(CuKα1線)は10.40o 、13.68o 、18.16o 、21.80o 、22.31o 、22.84o 、23.96o 、26.14o 及び30.23o であった。
【0044】
【表2】

【0045】
α型結晶の示差走査熱量サーモグラム(図2)は、116℃で脱水に伴う吸熱ピークを示した。
【0046】
【表3】

【0047】
以上のことから、α型結晶は1クエン酸塩・2水和物の結晶であることを特定した。
また、このような式(I)の2水和物のα型結晶の製造方法としては、式(I)の化合物又はその水和物若しくは溶媒和物を含む2−プロパノール、エタノール又は2−メチル−1−プロパノール溶液から該化合物を常法に従って結晶化させることによって製造される。結晶化溶媒として好ましくは、2−プロパノールが挙げられる。本製法は、C1−4アルコール単体でも可能であるが、好ましくは含水溶媒が好ましく、30〜70vol%C3−5アルコール水、より好ましくは、40〜60vol%C3−5アルコール水、最も好ましくは45〜55vol%2−プロパノール水が挙げられる。
【0048】
実施例1 β型結晶の製造及び測定:
参考例1で得られた化合物50mgを10mLナスフラスコに入れ、これにアセトニトリル0.5mLを加えて栓をした後、水浴(80℃)上で参考例1の化合物を溶解した。この溶液を室温で一昼夜放置した後、析出した結晶を濾取し、室温で放置乾燥してβ結晶を得た。β型結晶のX’Pert Alpha1 systemを用いて得られたパターン(CuKα線)、示差走査熱量サーモグラム及びイオンクロマトグラフィーによるクエン酸イオン濃度測定結果をそれぞれ図3、図4及び表5に示す。
【0049】
X’Pert Alpha1 systemを用いて得られたβ型結晶の粉末X線回折のピーク角度(CuKα1線)(図3の角度)とその相対強度を表4に示す。これらのうち、β型結晶に特徴的なピーク角度(CuKα1線)は6.49o 、7.53o 、11.19o 、15.06o 、15.45o 、15.74o 、16.56o 、17.08o 、17.51o 及び18.80oであった。
【0050】
【表4】

【0051】
β型結晶の示差走査熱量サーモグラム(図4)は、149℃で融解に伴う吸熱ピークを示した。
【0052】
β型結晶について熱重量分析を行った結果、重量変化は観測されなかった。
【0053】
【表5】

【0054】
以上のことから、β型結晶は1クエン酸塩(無水和物)の結晶であることを特定した。
【0055】
実施例2 γ型結晶の製造:
参考例1で得られた化合物50mgを10mLナスフラスコに入れ、これに2−プロパノール2mLを加えて栓をした後、水浴(50℃)上で参考例1の化合物を溶解した。n−ヘプタン5mLを加えた別の10mgナスフラスコに、溶解した化合物を滴下した。室温で一昼夜放置した後、析出した結晶を濾取し、室温で放置乾燥してγ結晶を得た。γ型結晶のX’Pert Alpha1 systemを用いて得られたパターン(CuKα線)、示差走査熱量サーモグラム及びイオンクロマトグラフィーによるクエン酸イオン濃度測定結果をそれぞれ図5、図6及び表7に示す。
【0056】
X’Pert Alpha1 systemを用いて得られたγ型結晶の粉末X線回折のピーク角度(CuKα1線)(図5の角度)とその相対強度を表6に示す。これらのうち、γ型結晶に特徴的なピーク角度(CuKα1線)は10.03o 、11.35o 、16.28o 、16.75o 、17.50o 、19.71o 、22.78o 、26.04o 、26.32o 及び26.50oであった。
【0057】
【表6】

【0058】
γ型結晶の示差走査熱量サーモグラム(図5)は、158℃で融解に伴う吸熱ピークを示した。
【0059】
γ型結晶について熱重量分析を行った結果、重量変化は観測されなかった。
【0060】
【表7】

【0061】
実施例4 種々の溶媒を用いたβ型結晶又はγ型結晶の製造:
実施例2のアセトニトリルに代えて各種溶媒(例えば、テトラヒドロフラン0.5mL)を用い、実施例2と同様に操作をして式(I)の化合物のβ型の結晶を得た。また、実施例3のヘプタンに代えてジイソプロピルエーテルを用い、実施例3と同様に操作をして式(I)の化合物のγ型の結晶を得た。結晶化に用いた溶媒とその溶媒を用いて得られた結晶を表8に示す。
【0062】
【表8】

【0063】
試験例1
水分吸脱着等温線試験:
前記試験方法により、α型、β型、γ型の各結晶について本試験を行った。α型結晶の水分吸脱着試験の結果、0〜90〜0%RHでは0.5%以上の重量変化は認められなかった。β型結晶の水分吸脱着試験の結果、0〜90%RHでは3.6%の重量増加が、90〜0%RHでは1.5%の重量減少が認められた。水分吸脱着試験後のサンプルをXRD測定した結果、β型結晶は、β型結晶とα型結晶の混合物になっていた。γ型結晶の水分吸脱着試験の結果、0〜90%RHでは1.2%の重量増加、90〜0%RHでは1.4%の重量減少が認められた。水分吸脱着試験後のサンプルをXRD測定した結果、γ型結晶の結晶形に変化は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の結晶は、制吐剤あるいは消化管機能亢進剤として、急・慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃神経症、胃下垂などの疾患における食欲不振、悪心、嘔吐、腹部膨満感等の治療薬及び予防薬の製造に用いる安定した品質の原薬となり得る。本発明のα型結晶型結晶、β型結晶型結晶及びγ型結晶は、いずれも工業的に生産可能な方法で製造でき、加えて安定であるので、医薬製造のための原薬として有用な結晶である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a1)及び(b1)又は(a2)及び(b2)で示される物理化学的性質のいずれか一つ又は複数で特定される4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩の結晶:
(a1)ピーク角度2θ(CuKα1線)で表して、ほぼ、6.49o 、7.53o 、11.19o 、15.06o 、15.45o 、15.74o 、16.56o 、17.08o 、17.51o 及び18.80oにピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b1)10℃/分の昇温速度で、ほぼ149℃にピークを有する示差走査熱量サーモグラムを示す;
(a2)ピーク角度2θ(CuKα1線)で表して、ほぼ、10.03o 、11.35o 、16.28o 、16.75o 、17.50o 、19.71o 、22.78o 、26.04o 、26.32o 及び26.50oに特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b2)10℃/分の昇温速度で、ほぼ158℃にピークを有する示差走査熱量サーモグラムを示す。
【請求項2】
下記(a1)及び(b1)で示される物理化学的性質のいずれか一つ又は両方で特定される4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩のβ型結晶:
(a1)ピーク角度2θ(CuKα1線)で表して、ほぼ、6.49o 、7.53o 、11.19o 、15.06o 、15.45o 、15.74o 、16.56o 、17.08o 、17.51o 及び18.80oにピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b1)10℃/分の昇温速度で、ほぼ149℃にピークを有する示差走査熱量サーモグラムを示す。
【請求項3】
図3に例示される粉末X線回折パターンを示す4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩のβ型結晶。
【請求項4】
下記(a2)及び(b2)で示される物理化学的性質のいずれか一つ又は両方で特定される4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩のγ型結晶:
(a2)ピーク角度2θ(CuKα1線)で表して、ほぼ、10.03o 、11.35o 、16.28o 、16.75o 、17.50o 、19.71o 、22.78o 、26.04o 、26.32o 及び26.50oに特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b2)10℃/分の昇温速度で、ほぼ158℃にピークを有する示差走査熱量サーモグラムを示す。
【請求項5】
図5に例示される粉末X線回折パターンを示す4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩のγ型結晶。
【請求項6】
4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩を含むアセトニトリル溶液から該化合物を結晶化させることを特徴とする製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のβ型結晶又はγ型結晶と同定された4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・クエン酸塩の原薬。
【請求項8】
請求項7に記載の原薬を含む医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−41331(P2012−41331A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−111143(P2011−111143)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】