説明

4−アミノ−m−クレゾールの製造方法

【課題】高収率かつ高純度で4−アミノ−m−クレゾールを安価かつ簡便に製造すること。
【解決手段】水素および遷移金属触媒の存在下、接触還元によって、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩から、4−アミノ−m−クレゾールを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−アミノ−m−クレゾールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−アミノ−m−クレゾールは、以下の構造:
【化1】

を有する化合物(別名:4−アミノ−3−メチルフェノール)であり、アミノ基とヒドロキシル基とを有することから、樹脂、染料、酸化防止剤、化学品、化学薬品、農薬、医薬などの合成中間体として、非常に工業的に有用な化合物である。
【0003】
また、4−アミノ−m−クレゾールは、それ自体を染毛剤、化粧品、医薬などに直接配合することもできる。
例えば、特許文献1(特開2003−238369号公報)は、4−アミノ−m−クレゾールを含む染毛剤を開示する。より具体的には、特許文献1は、以下の成分A〜C:
A成分として、p−フェニレンジアミン、トルエン−2,5−ジアミン、2−クロロ−p−フェニレンジアミン及びそれらの塩の中から選ばれる1種以上と、
B成分として、「4−アミノ−3−メチルフェノール」及びその塩の中から選ばれる1種以上と、
C成分として、5−アミノ−2−メチルフェノール、5−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−2−メチルフェノール、及びそれらの塩の中から選ばれる1種以上を含有するとともに、
剤型が粉末であることを特徴とする染毛剤を開示する。
特許文献1には、B成分として、「4−アミノ−3−メチルフェノール」(すなわち、4−アミノ−m−クレゾール)を開示するが、4−アミノ−m−クレゾールの入手先、製造元および合成方法は、全く開示されていない。
【0004】
特許文献2(特公平6−89115号公報)は、「25℃における粘度が15ポイズ以下である、4−アミノ−m−クレゾールのトリグリシジル誘導体と、硬化剤とを含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物」を開示する。特許文献2に開示の4−アミノ−m−クレゾールのトリグリシジル誘導体を含むエポキシ樹脂組成物は、耐熱性に優れ、なおかつ、低粘度であるために、その作業性が優れている。しかし、特許文献2においても、4−アミノ−m−クレゾールの入手先、製造元および合成方法は、全く開示されていない。
【0005】
特許文献3(米国特許第2765342号明細書)は、o−ニトロトルエンから、4−アミノ−m−クレゾールを製造する方法を開示するが、この製造方法では、o−ニトロトルエンのニトロ基をアミノ基に還元すると同時に、バンバーガー(Bamberger)転位反応によって、ニトロ基由来のアミノ基のパラ位に、ヒドロキシル基を導入して、4−アミノ−m−クレゾールを製造している(以下の反応式を参照のこと)。しかし、この方法では、4−アミノ−m−クレゾールの収率は低く、また、不純物として、その除去が困難なo−トルイジンが副生するので、4−アミノ−m−クレゾールの純度も低下する。従って、特許文献3に開示の製造方法では、高純度の4−アミノ−m−クレゾール、特に、電子部品に使用するエポキシ樹脂の中間体として望ましい高純度の4−アミノ−m−クレゾールを得ることはできない。
【0006】
【化2】

【0007】
さらに、非特許文献1(Yanqing Peng et al.,Indian Journal of Chemistry,Vol.43B,September 2004,pp.2021−2023)は、還元剤として、過剰量の亜ジチオン酸ナトリウム(Na)の存在下にマイクロ波(MW)を照射して、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸のナトリウム塩から、4−アミノ−m−クレゾールを製造する方法を開示する(以下の反応式を参照のこと)。
【0008】
【化3】

【0009】
さらに、非特許文献1に開示の製造方法では、還元剤である亜ジチオン酸ナトリウムが再利用不可能であり、しかも、硫黄含有廃液の処理の問題や、原料に使用したスルファニル酸の回収が不可能であるため、4−アミノ−m−クレゾールの製造コストは非常に高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−238369号公報
【特許文献2】特公平6−89115号公報
【特許文献3】米国特許第2765342号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Yanqing Peng et al.,Indian Journal of Chemistry,Vol.43B,September 2004,pp.2021−2023
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、高収率かつ高純度で4−アミノ−m−クレゾールを安価かつ簡便に製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究の結果、水素および遷移金属触媒の存在下での接触還元によって、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸のアゾ基(−N=N−)を還元して、高収率かつ高純度で4−アミノ−m−クレゾールだけを選択的に製造する方法を見い出し、本発明を完成するに至った。従って、本発明は以下を提供する。
【0014】
[1]
水素および遷移金属触媒の存在下、接触還元によって、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩から、4−アミノ−m−クレゾールを製造する方法。
【0015】
[2]
前記接触還元後、反応液のpHを4.0〜8.0に調整して4−アミノ−m−クレゾールを沈殿させた後、濾過によって、沈殿物と濾液とを分離する工程をさらに含む、上記[1]に記載の方法。
【0016】
[3]
前記沈殿物から、再結晶によって、4−アミノ−m−クレゾールの結晶を得る工程をさらに含む、上記[1]または[2]に記載の方法。
【0017】
[4]
前記濾液から、スルファニル酸を回収する工程をさらに含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
【0018】
[5]
前記接触還元の前に、スルファニル酸をジアゾ化して、さらに、m−クレゾールと反応させることによって、前記p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩を調製する工程を含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
【0019】
[6]
前記遷移金属触媒が、Pd/C、Pt/C、Pd(II)X、Pt(0)L、Pt(II)X、Pt(0)L、ラネーニッケル、NiXおよびNi(0)Lからなる群から選択され、式中、X、XおよびXは、それぞれ独立して、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選択され、L、LおよびLは、それぞれ独立して、dba(ジベンジリデンアセトン)、dppf(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)、dppp(1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン)、acac(アセチルアセトナート)、dppb(o−ジフェニルホスフィノベンゾイル)、cod(1,5−シクロオクタジエン)、TPP(トリフェニルホスフィン)、TPB(テトラフェニルボレート)およびBINAP(2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチルからなる群から選択される、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
【0020】
[7]
前記接触還元を0.1〜3.0MPaの圧力下で行う、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
【0021】
[8]
前記接触還元を0〜90℃の温度で行う、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
【0022】
[9]
前記接触還元をアルカリ水溶液中で行う、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
【0023】
[10]
スルファニル酸をジアゾ化して、さらに、m−クレゾールと反応させることによって、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩を調製する工程、
水素および遷移金属触媒の存在下、接触還元によって、前記p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩から、4−アミノ−m−クレゾールを調製する工程、
前記接触還元後、反応液のpHを4.0〜8.0に調整して4−アミノ−m−クレゾールを沈殿させた後、濾過によって、沈殿物と濾液とを分離する工程、
前記沈殿物から、再結晶によって、4−アミノ−m−クレゾールの結晶を得る工程、および、
前記濾液から、スルファニル酸を回収する工程、
を含む、4−アミノ−m−クレゾールの製造において、原料であるスルファニル酸を回収する方法。
【0024】
[11]
前記遷移金属触媒が、Pd/C、Pt/C、Pd(II)X、Pt(0)L、Pt(II)X、Pt(0)L、ラネーニッケル、NiXおよびNi(0)Lからなる群から選択され、式中、X、XおよびXは、それぞれ独立して、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選択され、L、LおよびLは、それぞれ独立して、dba(ジベンジリデンアセトン)、dppf(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)、dppp(1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン)、acac(アセチルアセトナート)、dppb(o−ジフェニルホスフィノベンゾイル)、cod(1,5−シクロオクタジエン)、TPP(トリフェニルホスフィン)、TPB(テトラフェニルボレート)およびBINAP(2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチルからなる群から選択される、上記[10]に記載の方法。
【0025】
[12]
前記接触還元を0.1〜3.0MPaの圧力下で行う、上記[10]または[11]に記載の方法。
【0026】
[13]
前記接触還元を0〜90℃の温度で行う、上記[10]〜[12]のいずれかに記載の方法。
【0027】
[14]
前記接触還元をアルカリ水溶液中で行う、上記[10]〜[13]のいずれかに記載の方法。
【0028】
[15]
上記[10]〜[14]のいずれかに記載の方法で回収したスルファニル酸をジアゾ化して、さらに、m−クレゾールと反応させることによって、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩を製造する方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、水素および遷移金属触媒の存在下での接触還元によって、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩から、高収率かつ高純度で4−アミノ−m−クレゾールだけを選択的にしかも安価かつ簡便に製造することができる。また、本発明では、接触還元後の廃液から、接触還元によって副生したスルファニル酸を高収率かつ高純度で回収することができる。回収したスルファニル酸を再利用することによって、回収したスルファニル酸から、再び、上記p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩を再度合成することができ、さらに、大量に4−アミノ−m−クレゾールを製造することができるので、4−アミノ−m−クレゾールの製造コストを大幅に削減することができ、工業生産に適している。また、本発明の方法は、廃液を再利用するので、環境にやさしく、非常に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1で製造した4−アミノ−m−クレゾールのHPLCチャートである。
【図2】実施例1で製造した4−アミノ−m−クレゾールのH−NMRスペクトルである。
【図3】実施例1で製造した4−アミノ−m−クレゾールの13C−NMRスペクトルである。
【図4】比較例1で製造した4−アミノ−m−クレゾールのHPLCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、4−アミノ−m−クレゾールの製造方法に関し、以下のスキームに従って、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
【化4】

【0033】
上記のスキームに示す通り、本発明は、4−アミノ−m−クレゾールの製造方法に関し、より具体的には、本発明では、水素および遷移金属触媒の存在下、接触還元によって、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸から、4−アミノ−m−クレゾールを製造する方法に関する。
【0034】
また、本発明において使用するp−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸は、以下の式で表される通り、塩の形態であってもよい。
【0035】
【化5】

【0036】
(式中、Xは、水素原子、リチウム、ナトリウムまたはカリウムを表すが、特にこれらに限定されない)
【0037】
本発明において、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩は、上記のスキームに示す通り、スルファニル酸をジアゾ化し、さらにm−クレゾールとカップリングすること、すなわち、「ジアゾ化カップリング反応」によって得られたものであることが好ましい。
【0038】
ジアゾ化カップリング反応
まず、スルファニル酸を水に加え、さらに、塩基を加えて、スルファニル酸を完全に水中に溶解させる。
【0039】
水の量は、1モル当量のスルファニル酸に対して、1.0〜5.0L、好ましくは1.2〜2.5Lである。1.0L未満であると、完溶しないなどの問題の恐れがあり、5.0Lを超えると、最終生成物の収率が低下する、廃液量が増えるなどの問題の恐れがある。
【0040】
塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩等が挙げられる。
【0041】
塩基の添加量は、1モル当量のスルファニル酸に対して、0.5〜1.5モル当量、好ましくは0.5〜1.2モル当量である。0.5モル当量未満であると、完溶しないなどの問題の恐れがあり、1.5モル当量を超えると、酸析時に大量の酸が必要かつ目的物回収量が少なくなるなどの問題の恐れがある。
【0042】
スルファニル酸水溶液を0〜10℃、好ましくは0〜5℃に冷却し、この水溶液に、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等の亜硝酸塩またはその水溶液を加え、次いで、塩酸、硫酸等の酸を加えて、スルファニル酸をジアゾ化する(すなわち、ジアゾニウム塩の形成)。酸を加える際には、液温が10℃以下、好ましくは5℃以下になるように添加、好ましくは滴下することが望ましい。
【0043】
スルファニル酸水溶液の温度が0℃未満であると、溶媒が凍結したり、シャーベット状になったりするなどの問題の恐れがあり、10℃を超えると、ジアゾニウム塩が分解するなどの問題の恐れがある。
【0044】
亜硝酸塩の添加量は、1モル当量のスルファニル酸に対して、1.01〜2.0モル当量、好ましくは1.05〜1.2モル当量である。1.01モル当量未満であるとジアゾ化反応が不完全になるなどの問題の恐れがあり、2.0モル当量を超えると、過剰の亜硝酸塩のために副反応が起こったり、脱亜硝のためのスルファミン酸が大量に必要になるなどの問題の恐れがある。
【0045】
酸の添加量は、1モル当量のスルファニル酸に対して、2.0〜5.0モル当量、好ましくは2.5〜4.0モル当量である。2.0モル当量未満であると、ジアゾ化反応が不完全になるなどの問題の恐れがあり、5.0モル当量を超えると、副反応が生じるなどの問題の恐れがある。
【0046】
この温度で撹拌を10分〜1時間、好ましくは20分〜40分間続けて、スルファニル酸のジアゾ化を行い、スルファニル酸のジアゾニウム塩を含む溶液(以下、ジアゾ含有溶液)を得る。ジアゾ含有溶液には、過剰量の亜硝酸塩が存在するので、亜硝酸塩を分解(脱亜硝)するために、例えば、スルファミン酸を加える。このとき、スルファミン酸をジアゾ含有溶液に少量ずつ添加し、ガラス棒で搾取したジアゾ含有溶液をKIデンプン紙に付して、変色しなくなるまでスルファミン酸をジアゾ含有溶液に添加する。
【0047】
次に、m−クレゾールとのカップリング反応を行うために、別途に、m−クレゾールを水に加え、さらに、塩基を加えて、m−クレゾールを水中に完全に溶解させて、カップラー溶液を調製する。
【0048】
水の添加量は、1モル当量のm−クレゾールに対して、1.0〜5.0L、好ましくは1.5〜2.5Lである。1.0L未満であると、完溶しないなどの問題の恐れがあり、5.0Lを超えると、酸析時に大量の酸が必要かつ目的物回収量が少なくなるなどの問題の恐れがある。
【0049】
塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩等が挙げられる。
【0050】
塩基の添加量は、1モル当量のm−クレゾールに対して、1.0〜1.5モル当量、好ましくは1.0〜1.1モル当量である。1.0モル当量未満であると、完溶しないなどの問題の恐れがあり、1.5モル当量を超えると、酸析時に大量の酸が必要かつ目的物回収量が少なくなるなどの問題の恐れがある。
【0051】
次に、カップラー溶液を0〜10℃、好ましくは0〜5℃に冷却する。0℃未満であると、溶媒である水が凍結したり、シャーベット状となったりするなどの問題の恐れがあり、10℃を超えると、ジアゾニウム塩が分解するなどの問題の恐れがある。
【0052】
冷却したカップラー溶液に、上述のスルファニル酸のジアゾ含有溶液を滴下する。滴下の際、反応系の温度を0〜10℃、好ましくは0〜5℃に調整することが望ましい。温度が0℃未満であると、溶媒である水が凍結したり、シャーベット状となるなどの問題の恐れがあり、10℃を超えると、ジアゾニウム塩が分解し、副反応が生じるなどの問題の恐れがある。
【0053】
また、反応溶液に、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ金属の炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)等の塩基の水溶液を適宜加えて、反応系のpHが8〜14、好ましくは9〜11、より好ましくはpH10となるように、反応系のpHを調整することが望ましい。pHが8未満であると、副反応(カップリング位置が違うもの)が生じるなどの問題の恐れがあり、pHが14を超えると、副反応(カップリングが2箇所おこる)、酸析時に大量の酸が必要で回収率が減るなどの問題の恐れがある。
【0054】
ジアゾ化カップリング反応において、m−クレゾールの使用量は、1モル当量のスルファニル酸に対して、0.99〜1.01モル当量、好ましくは当モル量である。
【0055】
滴下終了後、30分〜5時間、好ましくは1時間〜3時間撹拌し、塩析および/または酸析を行って、ジアゾ化カップリング反応生成物、すなわち、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩を析出させる。
【0056】
塩析に用いる塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられ、塩の添加量は、1モル当量のp−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩に対して、1〜20モル当量、好ましくは5〜15モル当量、より好ましくは8〜12モル当量である。1モル当量未満であると、生成物回収率が低くなるなどの問題の恐れがあり、20モル当量を超えると、製品に塩が混入し、純度が下がるなどの問題の恐れがある。
【0057】
酸析に用いる酸としては、塩酸、硫酸等が挙げられる。これらの酸は、反応液のpHが中性付近となるまで添加する。
【0058】
塩析および/または酸析を行う際の液温は、析出物の種類にもよるが、特に限定はなく、例えば、0〜30℃、好ましくは5〜15℃であり、0℃未満であると、副生成物も析出するなどの問題の恐れがあり、30℃を超えると、生成物が分解するなどの問題の恐れがある。
【0059】
塩析および/または酸析を行う際のpHとしては、析出物の種類にもよるが、特に限定はなく、例えば、3〜9、好ましくは6〜9であり、3未満であると、副生成物も析出するなどの問題の恐れがあり、9を超えると、生成物が析出しないなどの問題の恐れがある。
【0060】
従って、このような塩析および/または酸析によって析出するp−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩は、式:
【化6】

(式中、Xは、水素原子、リチウム、ナトリウムまたはカリウムを表すが、特にこれらに限定されない)
で表され、遊離酸(X=H)の形態であっても、塩(X=Li、NaまたはKなど)の形態であっても、あるいは、これらの混合物であってもよい。析出したp−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩は、必要に応じて、濾取し、水で洗浄し、乾燥してもよく、あるいは、ウェットケーキの状態で次の反応に用いてもよい。
【0061】
接触還元
次に、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩の接触還元について説明する。
【0062】
本発明では、上記のスキームに示す通り、接触還元によって、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩に含まれるアゾ基(−N=N−)を水素および遷移金属触媒の存在下で還元して開裂し、「4−アミノ−m−クレゾール」と「スルファニル酸」とに分解することができる。
【0063】
より具体的には、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩をオートクレーブ等の加圧容器に仕込み、アルカリ性水溶液中、遷移金属触媒存在下、水素を加圧容器に吹き込むことによって、アゾ結合(−N=N−)を還元的に開裂することができる。
【0064】
遷移金属触媒としては、接触水素還元作用を有する金属触媒であれば特に限定はなく、例えば、Pd/C、Pt/C、Pd(II)X、Pt(0)L、Pt(II)X、Pt(0)L、ラネーニッケル(Raney Ni)、NiXおよびNi(0)Lからなる群から選択されるものが好ましい。X、XおよびXは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を示し、好ましくは、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選択される。L、LおよびLは、それぞれ独立して、配位子を示し、好ましくは、dba(ジベンジリデンアセトン)、dppf(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)、dppp(1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン)、acac(アセチルアセトナート)、dppb(o−ジフェニルホスフィノベンゾイル)、cod(1,5−シクロオクタジエン)、TPP(トリフェニルホスフィン)、TPB(テトラフェニルボレート)およびBINAP(2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチルからなる群から選択される。遷移金属触媒としては、収率向上の観点から、Pd/Cが特に好ましい。
【0065】
遷移金属触媒の使用量としては、接触還元が進行する触媒量であれば特に限定はなく、例えば、1モルのp−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩に対して、0.001mol%〜10.0mol%、好ましくは0.01mol%〜5.0mol%、より好ましくは0.01mol%〜1.0mol%であり、0.001mol%未満であると、反応が完結しない可能性などの問題の恐れがあり、10.0mol%を超えると、高価になるなどの問題の恐れがある。
【0066】
反応温度は、0〜90℃、好ましくは15〜85℃、より好ましくは20〜80℃、特に好ましくは60℃であり、圧力は、0.1〜3.0MPa、好ましくは0.25〜0.75MPa、より好ましくは0.4〜0.6MPaである。この条件で水素の吸収がなくなるまで反応を行うことが望ましい。
【0067】
反応温度が0℃未満であると、反応が進行しないなどの問題の恐れがあり、90℃を超えると、危険である、副反応が生じるなどの問題の恐れがある。
【0068】
また、圧力が0.1MPa未満であると、反応が進行しないなどの問題の恐れがあり、3.0MPaを超えると、危険である、副反応が生じるなどの問題の恐れがある。
【0069】
本発明において、接触還元は、アルカリ性水溶液中、好ましくは、水酸化ナトリウム水溶液中または水酸化カリウム水溶液中で行うことが望ましい。
【0070】
接触還元において使用するアルカリ性水溶液の濃度は、1重量%〜20重量%、好ましくは3重量%〜17重量%、より好ましくは5重量%〜10重量%である。濃度が、1重量%未満であると、原料が均一に溶解・分散せず接触還元反応の効率が低下するなどの問題の恐れがあり、20重量%を超えると、酸析時に大量の酸が必要になるなどの問題の恐れがある。
【0071】
アルカリ性水溶液の添加量は、1モル当量のp−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩に対して、0.3L〜3.0L、好ましくは0.5L〜1.5Lである。0.3L未満であると、原料が均一に溶解・分散せず接触還元反応の効率が低下するなどの問題の恐れがあり、3.0Lを超えると、酸析時に大量の酸が必要になるなどの問題の恐れがある。
【0072】
また、接触還元において、反応液のpHは、7〜12、好ましくは8〜12である。pHが、7未満であると、原料が均一に溶解・分散せず接触還元反応の効率が低下するなどの問題の恐れがあり、12を超えると、酸析時に大量の酸が必要になるなどの問題の恐れがある。
【0073】
接触還元反応終了後、必要に応じて、反応液から触媒を除去することが望ましい。例えば、通常の濾過等の操作によって、反応液から触媒を除去することができる。なお、回収した触媒は、再利用することができるので、非常に経済的である。
【0074】
また、接触還元反応終了後、反応液のpHを4.0〜8.0、特に好ましくは、pHを7.0に調整することによって、反応液から、4−アミノ−m−クレゾールだけを沈殿させることができる。pHが4.0未満であると、スルファニル酸が共析し目的化合物純度が下がり、スルファニル酸回収率が下がるなどの問題の恐れがあり、pHが8.0を超えると、目的物収率が下がるなどの問題の恐れがある。
【0075】
また、このときの反応液の温度は、0℃〜40℃、好ましくは5℃〜20℃である。0℃未満であると、不純物が析出するなどの問題の恐れがあり、40℃を超えると、4−アミノ−m−クレゾールの回収率が低下するなどの問題の恐れがある。
【0076】
反応液のpHを上記範囲内に調整するために、塩酸、硫酸、硝酸などの酸を使用することができるが、使用する酸の量および濃度は、上記範囲にpHを調整することができれば、特に限定はない。
【0077】
このように、接触還元反応終了後、反応液のpHを4.0〜8.0にすることによって、目的の4−アミノ−m−クレゾールが沈澱し、副生成物として、スルファニル酸が溶液(濾液)中に残存することになる。
【0078】
従って、本発明では、上記のスキームに示す通り、濾過によって、4−アミノ−m−クレゾールを沈殿物として回収し、スルファニル酸を濾液中に回収することができる。なお、濾過温度には特に制限はなく、通常、10〜30℃である。また、濾取した沈澱物を水で洗浄してもよい。
【0079】
濾過後、沈殿物を50〜150℃、好ましくは70〜120℃で乾燥させることによって、4−アミノ−m−クレゾールを得る。
【0080】
さらに、4−アミノ−m−クレゾールをさらに精製することによって、高純度化することが望ましい。
【0081】
まず、乾燥した4−アミノ−m−クレゾールを水に分散して分散体とする。水の使用量は、1モル当量の4−アミノ−m−クレゾールに対して、300〜3000mL、好ましくは500〜2000mLである。300mL未満であると、十分な精製効果が得られないなどの問題の恐れがあり、3000mLを超えると、4−アミノ−m−クレゾールの回収率が低下するなどの問題の恐れがある。
【0082】
さらに、少量の還元剤および活性炭を加えて、加熱および撹拌してもよい。
【0083】
還元剤は、4−アミノ−m−クレゾールのアミノ基の酸化による着色を防ぎ、白色生成物として目的物を得るためである。この還元剤としては、例えば亜硫酸水素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム等が挙げられる。還元剤の使用量は、4−アミノ−m−クレゾールの重量に対して、0.5〜5.0重量%、好ましくは1.0〜3.0重量%である。0.5重量%未満であると、十分な効果が得られないなどの問題の恐れがあり、5.0重量%を超えると、不純物として生成物に混入するなどの問題の恐れがある。
【0084】
活性炭は、反応系内の着色物や臭気物の除去のために用いるものであり、活性炭の使用量は、4−アミノ−m−クレゾールの重量に対して、0.5〜5.0重量%、好ましくは1.0〜3.0重量%である。0.5重量%未満であると、十分な効果が得られないなどの問題の恐れがあり、5.0重量%を超えると、除去に時間がかかるなどの問題の恐れがある。
【0085】
次に、4−アミノ−m−クレゾールの水分散体を80〜100℃、好ましくは85〜95℃で、0.1〜3時間、好ましくは0.5〜2時間、加熱および撹拌し、その後、熱時濾過を行う。
【0086】
熱時濾過の温度は、60〜100℃、好ましくは70〜80℃であり、60℃未満であると、4−アミノ−m−クレゾールが多量に析出するなどの問題の恐れがあり、100℃を超えると、4−アミノ−m−クレゾールが分解したり、他の基質と反応したりするなどの問題の恐れがある。
【0087】
熱時濾過後、濾液を0〜40℃、好ましくは10〜25℃に冷却し、望ましくは、上記の温度になるまで、1〜24時間、好ましくは6〜16時間かけて放冷することによって、4−アミノ−m−クレゾールを結晶として得ることができる(すなわち、再結晶精製)。析出した結晶をさらに、必要に応じて、濾過、洗浄および乾燥することによって、純度95〜100%の4−アミノ−m−クレゾール結晶を得ることができる。
【0088】
このように、本発明では、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩から、4−アミノ−m−クレゾールを高収率かつ高純度で製造することができる。また、本発明によると、上述の通り、4−アミノ−m−クレゾールだけを簡便に選択的に製造することができる。
【0089】
さらに、本発明では、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩から、選択的に4−アミノ−m−クレゾールだけを高収率かつ高純度で製造することができるだけでなく、上述の接触還元反応の副生成物として、原料であるスルファニル酸を回収することができるので、非常に安価に4−アミノ−m−クレゾールを製造することができる。
【0090】
スルファニル酸の回収
スルファニル酸は、上記のスキームに示す通り、接触還元の反応液から沈澱した4−アミノ−m−クレゾールを濾別した濾液から回収することができる。
【0091】
まず、スルファニル酸を含む濾液を70〜150℃、好ましくは90〜120℃に加熱して濃縮する。
【0092】
次に、濃縮物の温度を50〜70℃、特に好ましくは60℃に調整し、酸を加えてpHを0.1〜2.0、好ましくは0.3〜1.0、特に好ましくは0.5に調整する。酸としては、スルファニル酸よりも強い酸であれば特に限定はないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などの酸を使用することができる。使用する酸の濃度および量は、上記範囲のpHを達成できれば、特に限定はない。
【0093】
その後、20〜30℃、特に好ましくは25℃まで冷却し、スルファニル酸を沈殿させる。
【0094】
最後に、沈澱したスルファニル酸を濾取し、さらに、必要に応じて、洗浄および乾燥することによって、スルファニル酸を高純度かつ高収率で回収することができる。
【0095】
スルファニル酸の洗浄には、水、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸およびその水溶液、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類などを使用することができるが、スルファニル酸を溶解せずに不純物のみを溶解するという観点から、塩酸とメタノールとを組み合わせて使用することが好ましい。
【0096】
スルファニル酸の乾燥温度は、40〜120℃、好ましくは60〜100℃である。40℃未満であると、乾燥に時間がかかるなどの問題の恐れがあり、120℃を超えると、スルファニル酸が分解するなどの問題の恐れがある。
【0097】
本発明では、このように、スルファニル酸を回収し、さらに、回収したスルファニル酸を上記のスキームに示すように再利用して、m−クレゾールとのジアゾ化カップリング反応に再び用いることができ、非常に経済的である。
【実施例】
【0098】
以下に本発明の具体例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0099】
実施例1
1−1 スルファニル酸とm−クレゾールのジアゾ化カップリング反応
スルファニル酸87.0g(0.5mol)を水750mLに撹拌しながら加え、これに炭酸ナトリウム29.0g(0.27mol)を徐々に加えて完全に溶解させた。この溶液を0℃に冷却し、36%亜硝酸ナトリウム水溶液100g(0.525mol)を加えた。この溶液に、液温が5℃を超えないように、35%塩酸180g(1.75mol)を徐々に滴下し、30分撹拌することでスルファニル酸をジアゾ化し、スルファニル酸のジアゾニウム塩を含むジアゾ含有溶液を得た。脱亜硝はスルファミン酸を用いて行った。
【0100】
別途に、m−クレゾール55.0g(0.5mol)を水1.0Lに撹拌しながら懸濁させ、20%水酸化ナトリウム水溶液を100g(0.5mol)加えて完全に溶解させ、0℃に冷却し、m−クレゾールのカップラー溶液を得た。このカップラー溶液に、温度が5℃を超えないように、上記のジアゾ含有溶液を徐々に滴下した。この際、pH 10.0を維持するために、20%水酸化ナトリウム水溶液204gを同時に徐々に滴下した。滴下終了後、2時間撹拌し、塩化ナトリウム300gを加え、液温を10℃まで昇温し、塩酸を用いてpH8.1として沈殿を生成させた。この沈殿を濾取し、水500mLで洗浄し、アゾ化合物のウェットケーキとして、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸の遊離の酸体とナトリウム塩との混合物を326.0g(含水率46.0%;換算乾燥収率111%)得た。
【0101】
1−2 p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸の接触還元反応
ビーカーに実施例1−1で得られたp−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸を含むウェットケーキ326.0gを、60℃に加熱した7.4%水酸化ナトリウム水溶液250mLで均一に懸濁させた後、オートクレーブ(容量1L/SUS製)に移し、5% Pd/C 2.96g(0.25mol%)を加え、60℃に加熱した。その後、水素をオートクレーブ内に充填し、0.4〜0.6MPaの圧力を保ちながら、同温度で水素の吸収がなくなるまで、反応させた。反応液から、Pd/Cを濾別し、10℃程度まで冷却し、塩酸を加えてpHを7.0として生じた沈殿を濾取した(このときの濾液を「濾液1」とする)。得られた沈殿を水500mLで洗浄し、乾燥させて得られた固体を、再度、水600mLに分散し、亜硫酸水素ナトリウム1.0gおよび活性炭1.5gを加え、1〜2時間加熱撹拌し、熱時ろ過し、濾液を一昼夜放冷して、再結晶精製を行った。生じた結晶を濾取し、乾燥させて、4−アミノ−m−クレゾールを黄白色の針状結晶として51.8g得た(収率84.2%、HPLC純度:98.7%)。4−アミノ−m−クレゾールの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のチャートを図1に示す。
【0102】
4−アミノ−m−クレゾールの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の測定条件は以下の通りである。
カラム:(財)化学物質評価機構製 L−column ODS 4.6×250mm
移動相:アセトニトリル:水=4:6
検出波長:256nm
流速:1.0mL/min
温度:40℃
本条件では、4−アミノ−m−クレゾールは、図1に示す通り、保持時間が3.2分と3.6分とにおいて、2つのピークを与えるが、これは、4−アミノ−m−クレゾールの水酸基またはアミノ基がイオン化して2つのピークを与えているものと考えられる。従って、4−アミノ−m−クレゾールの純度は、これら2つのピーク面積の合計として、計算した(HPLC純度:98.7%)。なお、本発明で製造し、単離した4−アミノ−m−クレゾールが、単一化合物であることは、以下のH−NMR(300MHz)および13C−NMR(75MHz)の測定結果、ならびに、元素分析の結果から明らかであった。
【0103】
H−NMR(300MHz)および13C−NMR(75MHz)の測定は、いずれも、JEOL社製 JNM−AL300を用いて行った。得られた4−アミノ−m−クレゾールのH−NMRおよび13C−NMRのチャートをそれぞれ図2および図3に示す。
【0104】
元素分析は、Perkin Elmer社製 Series II CHNS/O Analyzer 2400を用いて行った。以下に本発明の実施例1で製造した4−アミノ−m−クレゾールの元素分析の結果を示す。
【0105】
【表1】

【0106】
1−3 スルファニル酸の回収
1−2で得られた「濾液1」(500mL)を加熱して150mLまで濃縮し、60℃で塩酸23gを加え、pHを0.5に調整し、その後25℃まで冷却して生じた沈殿を濾取した。濾取物を3.5%塩酸75mLで洗浄し続いてメタノール250mLで洗い、乾燥させて、HPLC純度99.5%のスルファニル酸64.4gを回収した(原料として使用したスルファニル酸からの回収率74.0%)。
【0107】
回収したスルファニル酸の元素分析結果を以下の表に示す。
【0108】
【表2】

【0109】
実施例2
2−1 スルファニル酸とm−クレゾールのジアゾ化カップリング反応
実施例1の1−1と同じ操作に従い、ジアゾ化カップリング反応を行って、アゾ化合物として、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸の遊離の酸体とナトリウム塩との混合物を得た。
【0110】
2−2 p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸の接触還元反応
実施例1の1−2において、遷移金属触媒をPd/CからPt/C(0.25mol%)に代えたことを除いて、同じ操作を行い、白桃色の針状結晶として、36.4gの4−アミノ−m−クレゾール(収率:29.6%、HPLC純度:99.7%)を得た。HPLCチャートは、実施例1のものと同様であった。
【0111】
実施例3
3−1 スルファニル酸とm−クレゾールのジアゾ化カップリング反応
実施例1の1−1と同じ操作に従い、ジアゾ化カップリング反応を行って、アゾ化合物として、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸の遊離の酸体とナトリウム塩との混合物を得た。
【0112】
3−2 p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸の接触還元反応
実施例1の1−2において、遷移金属触媒をPd/Cからラネーニッケル2.0gに代えたことを除いて、同じ操作を行い、黄白色の針状結晶として、59.3gの4−アミノ−m−クレゾールを得た(収率:48.2%、HPLC純度:99.0%)。HPLCチャートは実施例1のものと同様であった。
【0113】
比較例1
2−ニトロトルエンのバンバーガー(Bamberger)転位反応
オートクレーブに2−ニトロトルエン165g(1.2mol)と52.6%硫酸水溶液300g、酢酸72gを仕込み、ジメチルスホキシド1滴と3% Pt/C 2.0gを加えた。60℃に加熱し、0.3〜0.5MPaを保ちながら、7.5時間反応させた。Pt/Cを濾去し、撹拌下の50%水酸化ナトリウム水溶液200mL中へ50℃を超えないように滴下した。混合溶液から有機物を抽出し、水層を40℃に保ち、水層に、35%塩酸23mLを滴下し、生じた沈殿を濾取、乾燥させて粗4−アミノ−m−クレゾール136.9gを得た。この粗生成物を実施例1の1−2と同じ再結晶精製を行い、HPLC純度91.7%の薄茶色の針状結晶である4−アミノ−m−クレゾールを30.0g(収率20.3%)得た。HPLCチャートを図4に示す。図4のHPLCチャートでは、保持時間1〜10分にかけて、副生成物に由来する不純物のピークが多く検出された。これは、図1に示す本発明の実施例1と精製方法が同じであるにもかかわらず、比較例1では製造した4−アミノ−m−クレゾールの純度がかなり低いことを示す。その結果、比較例1では、純度だけでなく、収率も著しく低下している。
実施例1:収率84.2%、純度98.7%
比較例1:収率20.3%、純度91.7%
【0114】
比較例2
p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸の亜ジチオン酸を用いた還元反応
スルファニル酸87.0g(0.5mol)を水750mLに撹拌しながら加え、これに炭酸ナトリウム29.0g(0.27mol)を徐々に加えて完全に溶解させた。この溶液を0℃に冷却し、36%亜硝酸ナトリウム水溶液100g(0.525mol)を加えた。この溶液に、液温が5℃を超えないように、35%塩酸180g(1.75mol)を徐々に滴下し、30分撹拌することでスルファニル酸をジアゾ化し、スルファニル酸のジアゾニウム塩を含むジアゾ含有溶液を得た。脱亜硝はスルファミン酸を用いて行った。
【0115】
別途に、m−クレゾール55.0g(0.5mol)を水1.0Lに撹拌しながら懸濁させ、20%水酸化ナトリウム水溶液を100g(0.5mol)加えて完全に溶解させ、0℃に冷却し、m−クレゾールのカップラー溶液を得た。このカップラー溶液に、温度が5℃を超えないように、上記のジアゾ含有溶液を徐々に滴下した。この際、pH 10.0を維持するために、20%水酸化ナトリウム水溶液204gを同時に徐々に滴下した。滴下終了後、0℃で2時間撹拌し、45℃まで加熱し、亜ジチオン酸ナトリウム(Na)270g(1.31mol)を加え、1時間撹拌後、20%水酸化ナトリウム水溶液でpH12に調整した。さらに75℃で45分加熱撹拌後、氷浴下冷却し、35%塩酸でpH7とし、生じた沈殿を濾取した(この濾液を「濾液2」とする)。得られた沈殿を乾燥し、実施例1と同様の再結晶精製を行い、12.7gの4−アミノ−m−クレゾールを得た(収率20.6%、HPLC純度:98.8%)。比較例2で製造した4−アミノ−m−クレゾールの元素分析の結果を以下の表に示す。
【0116】
【表3】

【0117】
「濾液2」からスルファミン酸の回収を試みたが、過剰量の亜ジチオン酸ナトリウム(Na)を使用したので、スルファニル酸を回収することができなかった。
【0118】
比較例1のバンバーガー(Bamberger)転位反応で得られた最終生成物は、図4のHPLCチャートが示すように、実施例1(図1)よりも不純物が多く、純度が低い(実施例1での純度:98.7%、比較例1での純度:91.7%)。また、比較例1の方法では、副生成物が生成するので反応の選択性が悪く、収率も20%程度であり、工業的製造には適していない(実施例1での収率:84.2%、比較例1での収率:20.3%)。
【0119】
比較例2では、HPLCの純度は98.8%と高いが、元素分析の結果をみると、硫黄が検出されていることから、硫黄を含有する無機塩が混入しているので、実際にはその純度が非常に低い。また、このような硫黄を含む無機塩を除去することは、非常に困難である。さらに、比較例2では、還元剤として、亜ジチオン酸ナトリウムが2モル当量以上必要であるので、還元後の濾液(濾液2)から、スルファニル酸を回収することは不可能であり、安価な工業的製法ではない(実施例1でのスルファニル酸の回収率:74.0%、比較例2でのスルファニル酸の回収率:0%)。また、比較例2では、硫黄を含む大量の廃液が発生するので、環境への負荷が増大する。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の製造方法では、高収率かつ高純度で、目的の4−アミノ−m−クレゾールを選択的に製造することができる。比較例1(または特許文献3)において示される通り、バンバーガー(Bamberger)転位反応を利用した4−アミノ−m−クレゾールの製造方法では、副生成物が生じて収率、純度および選択性が著しく低下するので、本発明の製造方法は、バンバーガー(Bamberger)転位反応を利用した4−アミノ−m−クレゾールの製造方法の代替として、非常に有益である。
また、本発明では還元剤として硫黄を用いていないので、硫黄含有廃液を出すことがなく、環境にも優しい製造方法である。例えば、比較例2(または非特許文献1)では、亜ジチオン酸ナトリウム(Na)を還元剤として大量(2モル当量以上)に用いているが、この場合の廃液の処理は、非常に困難であり、工業生産上、望ましくない。また、亜ジチオン酸ナトリウム(Na)は、生成物の純度の低下も引き起こす。さらに、比較例2(または非特許文献1)では、上述の通り、原料であるスルファニル酸の回収が不可能である。従って、本発明の製造方法は、硫黄を含む還元剤を利用した4−アミノ−m−クレゾールの製造方法の代替として、非常に有益である。
このように、本発明では、高収率かつ高純度で目的の4−アミノ−m−クレゾールのみを選択的に製造することができる。また、その製造方法は、非常に簡便であり、なおかつ、原料であるスルファミン酸を簡便に高収率かつ高純度で回収でき、しかも、原料として再利用することができるので、本発明の製造方法によると、全体として、4−アミノ−m−クレゾールを非常に安価に高収率で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素および遷移金属触媒の存在下、接触還元によって、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩から、4−アミノ−m−クレゾールを製造する方法。
【請求項2】
前記接触還元後、反応液のpHを4.0〜8.0に調整して4−アミノ−m−クレゾールを沈殿させた後、濾過によって、沈殿物と濾液とを分離する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記沈殿物から、再結晶によって、4−アミノ−m−クレゾールの結晶を得る工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記濾液から、スルファニル酸を回収する工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記接触還元の前に、スルファニル酸をジアゾ化して、さらに、m−クレゾールと反応させることによって、前記p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩を調製する工程を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記遷移金属触媒が、Pd/C、Pt/C、Pd(II)X、Pt(0)L、Pt(II)X、Pt(0)L、ラネーニッケル、NiXおよびNi(0)Lからなる群から選択され、式中、X、XおよびXは、それぞれ独立して、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選択され、L、LおよびLは、それぞれ独立して、dba(ジベンジリデンアセトン)、dppf(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)、dppp(1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン)、acac(アセチルアセトナート)、dppb(o−ジフェニルホスフィノベンゾイル)、cod(1,5−シクロオクタジエン)、TPP(トリフェニルホスフィン)、TPB(テトラフェニルボレート)およびBINAP(2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチルからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記接触還元を0.1〜3.0MPaの圧力下で行う、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記接触還元を0〜90℃の温度で行う、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記接触還元をアルカリ水溶液中で行う、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
スルファニル酸をジアゾ化して、さらに、m−クレゾールと反応させることによって、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩を調製する工程、
水素および遷移金属触媒の存在下、接触還元によって、前記p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩から、4−アミノ−m−クレゾールを調製する工程、
前記接触還元後、反応液のpHを4.0〜8.0に調整して4−アミノ−m−クレゾールを沈殿させた後、濾過によって、沈殿物と濾液とを分離する工程、
前記沈殿物から、再結晶によって、4−アミノ−m−クレゾールの結晶を得る工程、および、
前記濾液から、スルファニル酸を回収する工程、
を含む、4−アミノ−m−クレゾールの製造において、原料であるスルファニル酸を回収する方法。
【請求項11】
前記遷移金属触媒が、Pd/C、Pt/C、Pd(II)X、Pt(0)L、Pt(II)X、Pt(0)L、ラネーニッケル、NiXおよびNi(0)Lからなる群から選択され、式中、X、XおよびXは、それぞれ独立して、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選択され、L、LおよびLは、それぞれ独立して、dba(ジベンジリデンアセトン)、dppf(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)、dppp(1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン)、acac(アセチルアセトナート)、dppb(o−ジフェニルホスフィノベンゾイル)、cod(1,5−シクロオクタジエン)、TPP(トリフェニルホスフィン)、TPB(テトラフェニルボレート)およびBINAP(2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチルからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記接触還元を0.1〜3.0MPaの圧力下で行う、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記接触還元を0〜90℃の温度で行う、請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記接触還元をアルカリ水溶液中で行う、請求項10〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれかに記載の方法で回収したスルファニル酸をジアゾ化して、さらに、m−クレゾールと反応させることによって、p−(4−ヒドロキシ−o−トリルアゾ)ベンゼンスルホン酸またはその塩を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−62252(P2012−62252A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205768(P2010−205768)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000103895)オリヱント化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】