説明

4−アミノキナゾリン誘導体を有効成分とするTLR9阻害剤

【課題】細胞外に存在するDNAを認識する受容体の1つであるTLR9を阻害し、自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病の予防治療効果に優れた薬剤を提供する。
【解決手段】次の一般式(1):


で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なToll様受容体(Toll−like receptor;TLR)9阻害剤に関し、さらに詳細にはTLR9シグナルの活性化に起因する疾患、例えば関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群(SS)、多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患(IBD)、乾癬性関節炎、ベーチェット症候群、血管炎などの自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病(GvHD)の予防、治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
病原体が生体に進入すると、免疫系はそれらの病原体をすみやかに識別し排除する。哺乳類では免疫系は大きく自然免疫と獲得免疫に分けることが出来る。獲得免疫では、遺伝子再構成という方法で無数の個々に異なる抗原特異性を有する受容体がT細胞やB細胞表面に発現され、あらゆる未知の外来抗原に対処する(非特許文献1)。
【0003】
一方で,マクロファージや樹状細胞などによって担われる自然免疫系は非特異的な免疫応答で微生物の排除が行われると考えられていたが、Toll様受容体(Toll−like receptor;TLR)の発見や樹状細胞を中心とした諸研究の急速な進展により、適応免疫系における抗原認識ほどの親和性や特異性は高くない、特徴的な微生物認識機構が存在していることが明らかになってきた(非特許文献2)。とくにTLRに代表される細胞内にシグナルを伝達する認識受容体は、感染をいち早く前線においてキャッチするという役割のみならず、その後、細胞内にシグナルを伝え、自然免疫系活性化のスイッチをオンにする重要な役割がある。その意味において、これまで知られていた自然免疫系の活性化によって誘導されるI型インターフェロン等のサイトカインやケモカイン、そして抗原提示に関与する分子群の遺伝子発現誘導と、その後の適応免疫系の活性化へと連携させて特異的な免疫応答発動へと導くという経路が明らかとなった(非特許文献2)。
【0004】
TLR9は細菌のCpG DNAを認識して活性化される。CpG DNAは細菌のゲノムDNAの特徴的な配列で、メチル化されてないCpG配列がある頻度で繰り返されている。哺乳類のゲノムDNAではCpG配列の頻度が少なく高頻度にメチル化されているため、免疫賦活作用はない(非特許文献3)。
【0005】
これまでDNAセンサーの一つとして知られていたTLR9に関しては多くの研究がなされ、その詳細がかなり明らかになってきている。TLR9はエンドソームやライソソームにおいて細胞外に存在するDNAを認識する受容体として機能し、I型インターフェロンや炎症性サイトカインの遺伝子発現を誘導する。この両者ともMyD88依存性のシグナル伝達経路を介するが、前者がIRAK1/IKKα−IRF−7が関与するのに対し、後者では、NF−κBやIRF−5やMAPキナーゼの経路が関与する。MyD88にはIRF−7やIRF−5の他に、IRF−1やIRF−4が会合することが知られているが(非特許文献4、5、6)、TLR9下流で関与するIRF転写因子の種類や役割は細胞の種類によって異なっている。
【0006】
上記に示したようにTLR9はDNAをリガンドとして認識するが、正常な状態では自己DNAはリガンドとして認識されず、自然免疫を活性化しない。これは細胞死により放出された自己DNAは血清中のヌクレアーゼによりTLRにより認識される前に分解されるからである。またTLR9の細胞表面ではなく、エンドソームでの細胞内局在も自己DNAを認識しない機構として考えられている。しかしながら、自己免疫反応や炎症が起こっている状況下ではこのような防御機構が破綻し、内在性のタンパク質と複合体を形成し、TLR9シグナルを活性化することが考えられる(非特許文献7)。
【0007】
これらのことからTLR9を阻害することにより、RA、SLE、SS、MS、IBD、乾癬性関節炎、ベーチェット症候群、血管炎などの自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病を改善することが可能であると考えられる。
【0008】
RAについてはTLR9阻害作用を有する核酸配列を用いて、TLR9を阻害することによりプリスタン誘導性ラット関節炎モデルにおいて発症と病態が抑制されたことが報告されている(非特許文献8)。また抗マラリア薬であるヒドロキシクロロキンはエンドソームの酸性化抑制によりTLR7,9の阻害作用を有していることが知られ、日本を除くほとんどの国でRA、SLEの治療薬として承認されている(非特許文献9)。
【0009】
SLEについてはTLR9ノックアウトマウスにおいてSLE様の病体において見られる抗核抗体の減弱が報告されており(非特許文献10)、TLR9阻害作用を有する核酸を用いた実験においても同様の結果が報告されている(非特許文献11)。さらに同様の結果を有する低分子化合物についても報告されている(CPG52364:特許文献1)。
【0010】
ヒドロキシクロロキンはTLR9阻害作用としてはそれほど強くなく、さらに強いTLR9阻害作用を有する薬剤により、より強力な薬効が期待できる。またヒドロキシクロロキンにはクロロキン網膜症などの副作用が知られているが、異なる骨格の化合物により、このような副作用の懸念は払拭できる可能性も十分に存在する。
【0011】
したがって、強いTLR9阻害作用を示し、経口投与可能な低分子性の薬剤が、今後のRA、SLE、SS、MS、IBD、乾癬性関節炎、ベーチェット症候群、血管炎などの自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病の治療において有用であると考えられる。
【0012】
これまでに、TLR9阻害を目的とした化合物の報告は幾つかなされている。例えば、2位に芳香環や飽和ヘテロ環が置換されたキナゾリン誘導体(特許文献2、3)や、2位に芳香環やアルキル基が置換されたキナゾリン誘導体を含むヘテロ環化合物(特許文献4、5)が報告されている。しかし、本発明の化合物である、2位にシクロアルキル基の置換基を有するキナゾリン誘導体を含むものではなく、本発明の化合物を示唆する記載もない。
【0013】
また、2位にシクロアルキル基の置換基を有するキナゾリン誘導体の用途としては、α1c受容体アンタゴニストの良性前立腺過形成治療薬や、カンナビノイド受容体修飾薬の抗炎症作用が知られている(特許文献6、7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO2008/152471号パンフレット
【特許文献2】WO2009/089401号パンフレット
【特許文献3】WO2009/006141号パンフレット
【特許文献4】WO2008/030455号パンフレット
【特許文献5】WO2005/007672号パンフレット
【特許文献6】GB2295387号公報
【特許文献7】WO2008/157500号パンフレット
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】植松智ら ウイルス,54:145−152(2004)
【非特許文献2】高岡晃教ら ウイルス,58:37−46(2008)
【非特許文献3】Takeda K et al.,Annu. Rev. Immunol., 21: 335−376 (2003)
【非特許文献4】Honda K et al.,Proc. Natl. Acad. Sci.USA, 101: 15416−15421 (2004)
【非特許文献5】Negishi H et al.,Proc. Natl. Acad.Sci. USA, 102: 15989−15994 (2005)
【非特許文献6】Negishi H et al.,Proc. Natl. Acad.Sci. USA, 103: 15136−15141 (2006)
【非特許文献7】Kim, Y.M et al., Nature,452: 234-238 (2008)
【非特許文献8】Herman S et al.,Ann. Rheum. Dis., 70 : A39 doi:10.1136/ard.2010.148973.8 (2011)
【非特許文献9】横川直人、Current Therapy, 28: 85−91,2010
【非特許文献10】Christensen, S.R et al.,J. Exp. Med., 202: 321−331 (2005)
【非特許文献11】Pawar, R.D et al.,J. Am. Soc. Nephrol., 18: 1721−1731 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、低分子性のTLR9阻害作用を有する化合物を提供することにある。さらに詳細には、RA、SLE、SS、MS、IBD、乾癬性関節炎、ベーチェット症候群、血管炎などの自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病(GvHD)の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記実情に鑑み、本発明者らは、鋭意TLR9阻害作用を持つ化合物を探索した結果、下記一般式(1)で表される4−アミノキナゾリン誘導体が、TLR9阻害作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明は、次の一般式(1):
【0019】
【化1】

【0020】
[式中、R1、R2、R3は、互いに同一又は異なっていてもよく、水素原子、C1-4アルキル基を示し、A環は、C3-7シクロアルキル基を示し、nは、1〜3の整数を示す。]
で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とするTLR9阻害剤に関する。また、前記一般式(1)に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物に関する。
【0021】
さらに詳細には、本発明は、N1−(2−シクロプロピルキナゾリン−4−イル)エタン−1,2−ジアミンを有効成分として含有してなるTLR9阻害剤又は医薬組成物に関する。
【0022】
また、本発明は、前記一般式(1)で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とするTLR9シグナルの活性化に起因する疾患の予防及び/又は治療剤に関する。より詳細には、本発明は、前記一般式(1)で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群(SS)、多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患(IBD)、乾癬性関節炎、ベーチェット症候群、血管炎などの自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病(GvHD)の予防及び/又は治療剤に関する。
【0023】
また、本発明は、TLR9シグナルの活性化に起因する疾患、例えば、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群(SS)、多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患(IBD)、乾癬性関節炎、ベーチェット症候群、血管炎などの自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病(GvHD)等の予防及び/又は治療剤の製造のための、前記一般式(1)で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の使用に関する。
【0024】
また、本発明は、前記一般式(1)で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の有効量を患者に投与することを特徴とする、TLR9シグナルの活性化に起因する疾患、例えば、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群(SS)、多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患(IBD)、乾癬性関節炎、ベーチェット症候群、血管炎などの自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病(GvHD)等の予防及び/又は治療方法に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のTLR9阻害剤の有効成分である、一般式(1)で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物は、RA、SLE、SS、MS、IBD、乾癬性関節炎、ベーチェット症候群、血管炎などの自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病等の予防及び/又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明における用語の定義は以下のとおりである。
【0027】
本明細書中で使用するとき、「C3-7シクロアルキル基」としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0028】
本明細書中で使用するとき、「C1-4アルキル基」としては、例えば、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜4のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0029】
本発明の一般式(1)で表される4−アミノキナゾリン誘導体の具体例として、下記化合物を挙げることができる。
【0030】
【表1】

【0031】
本発明の一般式(1)で表される4−アミノキナゾリン誘導体、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物は、本発明の4−アミノキナゾリン誘導体のみならず、その医薬として許容される塩、それらの各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形を有する物質、及びこれらの物質のプロドラッグとなる物質を包含している。
【0032】
本発明の一般式(1)で表される4−アミノキナゾリン誘導体として許容される塩としては、具体的には、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等)や有機酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等)との酸付加塩等が挙げられる。
【0033】
本発明の一般式(1)で表される4−アミノキナゾリン誘導体やその医薬として許容される塩の溶媒和物としては、水和物や各種の溶媒和物(例えば、エタノール等のアルコールとの溶媒和物等)が挙げられる。
【0034】
本発明の一般式(1)で表される4−アミノキナゾリン誘導体は、公知の方法(US2008/0207614)を参考に製造することができる。4−アミノキナゾリン誘導体の製造方法を下記反応工程図に示すが、製造法はこれに限定されるものではない。また、必要に応じて、これらの製造工程には、保護、脱保護の工程を適宜組み合わせることができるが、保護、脱保護条件としては一般に用いられる方法(Protective Groups in Organic Synthesis Third Edition, John Wiley & Sons, Inc.)を参考にして行うことができる。
【0035】
【化2】

【0036】
[式中、A環、R1、R2、R3、nは、前記定義と同じものを示し、X1、X2は、ハロゲン原子を示す。]
【0037】
[工程1]2−アミノベンズアミド(II)を塩基存在下、酸ハロゲン化物(III)と反応させ、2−アミノベンズアミド誘導体(IV)を製造することができる。本工程で用いる塩基としては、特に制限はないが、例えば、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、コリジン、ルチジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクテン(DABCO)、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジイソプロピルペンチルアミン、トリメチルアミン等の有機塩基類;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基類等が挙げられる。本工程で用いる溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。本工程における反応温度は、使用する原料、溶媒によって異なるが、通常、室温〜120℃、好ましくは50℃〜100℃であり、反応時間は、通常、1時間〜3日間、好ましくは3時間〜24時間である。
【0038】
[工程2]2−アミノベンズアミド誘導体(IV)を塩基存在下、反応させることによりキナゾリン−4−オン誘導体(V)を製造することができる。本工程で用いる塩基としては、特に制限はないが、例えば、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、コリジン、ルチジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクテン(DABCO)、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジイソプロピルペンチルアミン、トリメチルアミン等の有機塩基類;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基類等が挙げられる。本工程で用いる溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。本工程における反応温度は、使用する原料、溶媒によって異なるが、通常、室温〜120℃、好ましくは50℃〜100℃であり、反応時間は、通常、1時間〜3日間、好ましくは3時間〜24時間である。
【0039】
[工程3]キナゾリン−4−オン誘導体(V)をハロゲン化剤と反応させ、4−ハロゲノキナゾリン誘導体(VI)を製造することができる。本工程で用いるハロゲン化剤としては、特に制限はないが、例えば塩化チオニル、オキシ塩化リン、オキシ臭化リン等が挙げられる。本工程で用いる溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。本工程における反応温度は、使用する原料、溶媒によって異なるが、通常、室温〜120℃、好ましくは50℃〜100℃であり、反応時間は、通常、1時間〜3日間、好ましくは3時間〜24時間である。
【0040】
[工程4]4−ハロゲノキナゾリン誘導体(VI)をアミン誘導体(VII)と反応させ、4−アミノキナゾリン誘導体(I)を製造することができる。場合によっては、ヨウ化ナトリウムやヨウ化カリウムを加え反応させてもよい。また、アミン誘導体(VII)としては、市販されているものを用いればよい。例えば、エチレンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジメチル−N’−エチルエチレンジアミン、N−プロピル−1,3−プロパンジアミン、N−イソプロピル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’−トリメチル−1,3−プロパンジアミン、N−ブチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジエチル−N’−メチルエチレンジアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、N,N,N’−トリエチルエチレンジアミン、N,N’−ジイソプロピルエチレンジアミン、N,N’−ジイソプロピル−1,3−プロパンジアミン等が、Aldrich社より入手可能である。本工程で用いる溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。本工程における反応温度は、使用する原料、溶媒によって異なるが、通常、室温〜120℃、好ましくは50℃〜100℃であり、反応時間は、通常、1時間〜3日間、好ましくは3時間〜24時間である。
【0041】
前記の各反応で得られた中間体及び目的物は、有機合成化学で常用されている精製法、例えば、ろ過、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、再結晶、各種クロマトグラフィー等に付して必要に応じて単離、精製することができる。また、中間体においては、特に精製することなく次反応に供することもできる。
【0042】
さらに、各種の異性体は異性体間の物理化学的性質の差を利用した常法を適用して単離できる。例えば、ラセミ混合物は、例えば、酒石酸等の一般的な光学活性酸とのジアステレオマー塩に導き光学分割する方法、又は、光学活性カラムクロマトグラフィーを用いた方法等の一般的ラセミ分割法により、光学的に純粋な異性体に導くことができる。また、ジアステレオマー混合物は、例えば、分別結晶化又は各種クロマトグラフィー等により分割できる。また、光学活性な化合物は適当な光学活性な原料を用いることにより製造することもできる。
【0043】
本発明のTLR9阻害剤、又は自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病の予防及び/又は治療剤は、一般式(1)で表される4−アミノキナゾリン誘導体、その塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有するものであって、医薬組成物として使用することができる。その場合、本発明の化合物を単独で用いてもよいが、通常は医薬として許容される担体、及び/又は希釈剤を配合して使用される。
【0044】
投与経路は、特に限定されないが、治療目的に応じて適宜選択することができる。例えば、経口剤、注射剤、坐剤、吸入剤等のいずれでもよい。これらの投与形態に適した医薬組成物は、公知の製剤方法を利用することによって製造できる。
【0045】
経口用固形製剤を調製する場合は、一般式(1)で表される化合物に医薬として許容される賦形剤、更に必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法を利用して、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。添加剤は、当該分野で一般的に使用されているものでよい。例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等が挙げられる。結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。矯味剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0046】
経口用液体製剤を調製する場合は、一般式(1)で表される化合物に、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法を利用して内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。矯味剤としては上記に挙げられたものでよく、緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム等が、安定化剤としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0047】
注射剤を調製する場合は、一般式(1)で表される化合物にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法を利用して皮下、筋肉及び静脈内注射剤を製造することができる。pH調製剤及び緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA(エデト酸ナトリウム)、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が挙げられる。
【0048】
坐剤を調製する場合は、一般式(1)で表される化合物に公知の坐剤用担体、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセライド等、更に必要に応じて界面活性剤(例えば、ツイーン(登録商標))等を加えた後、常法を利用して製造することができる。
【0049】
上記以外に、常法を利用して適宜好ましい製剤とすることもできる。
【0050】
本発明の一般式(1)で表される4−アミノキナゾリン誘導体の投与量は年齢、体重、症状、投与形態及び投与回数等によって異なるが、通常は成人に対して一般式(1)で表わされる化合物として1日あたり0.1mg〜1000mg、好ましくは1mg〜1000mg、より好ましくは1mg〜500mgを、1回又は数回に分けて経口投与又は非経口投与するのが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
[試験例1] TLR9発現レポーター細胞を用いたTLR9活性化阻害試験
1)TLR9発現レポーター細胞の樹立
ヒト胎児腎臓細胞株であるHEK293にヒトTLR9を発現させた細胞をInvivoGen社より購入した(hTLR9/293xL)。hTLR9/293xLを、10%ウシ胎仔血清、ペニシリン、ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM(sigma))を用いて継代培養した。NFκB認識配列の4回繰り返しにホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結したpGL4.28(Promega社)を、Fugene6(Roche社)を用いてリポフェクションにより遺伝子導入した。ハイグロマイシン、ブラストサイジン耐性細胞クローンを選択し、TLR9発現レポーター細胞とした(hTLR9 NFκB−luc/293xL)。
【0053】
2)TLR9活性化阻害試験
hTLR9 NFκB−luc/293xLを96ウェルホワイトマイクロタイタープレートに1.0×104/80μLで播き、CO2インキュベータ中で37℃、1晩培養した。DMEMにより希釈した上記表1に示す被検化合物1(10μL)を添加し、終濃度0.01,0.03,0.1,0.3,1μMとした。1時間後にTLR9リガンドであるCpG−B DNA(ODN2006)(InvivoGen社)を終濃度1μMとなるように添加した(10μL)。合計100μLとして4時間CO2インキュベータ中でインキュベート後にルシフェラーゼ活性をTLR9活性として測定した。ルシフェラーゼ活性を、Bright Glo(Promega社)を60μL添加し、マルチマイクロプレートリーダーARVO(Perkin Elmer社)により発光量を測定した。被検化合物を添加していない場合のルシフェラーゼ活性を100%として、各被検化合物の50%阻害濃度(IC50値)を計算した。また、被検化合物である化合物1をAMRI(Albany Molecular Research Inc.)社より入手し、本試験において使用した。
【0054】
3)結果
化合物1は0.24μMのIC50値を示した。以上より、本発明の化合物は強いTLR9阻害作用を有していることが確認された。したがって、本発明の一般式(1)で表される4−アミノキナゾリン誘導体は、TLR9阻害剤として、TLR9下流のシグナルの阻害に関連する疾患、例えば、RA、SLE、SS、MS、IBD、乾癬性関節炎、ベーチェット症候群、血管炎などの自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病の予防剤や治療剤の有効成分として有用であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、一般式(1)で表される4−アミノキナゾリン誘導体若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物が、優れたTLR9阻害作用を有していることを初めて見出し、自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病の予防及び/又は治療剤を提供するものである。本発明は、自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病の予防及び/又は治療剤を提供し、製薬工業において有用であり、産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1):
【化1】

[式中、R1、R2、R3は、互いに同一又は異なっていてもよく、水素原子、C1-4アルキル基を示し、A環は、C3-7シクロアルキル基を示し、nは、1〜3の整数を示す。]
で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とするTLR9阻害剤。
【請求項2】
一般式(1)で表される化合物が、N1−(2−シクロプロピルキナゾリン−4−イル)エタン−1,2−ジアミンである、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする自己免疫疾患、炎症、アレルギー、喘息、移植片拒絶又は移植片対宿主病の予防及び/又は治療剤。
【請求項4】
自己免疫疾患が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、多発性硬化症、炎症性腸疾患、乾癬性関節炎、ベーチェット症候群又は血管炎である、請求項3に記載の予防及び/又は治療剤。

【公開番号】特開2013−23492(P2013−23492A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163338(P2011−163338)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】