説明

4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドの製造方法

【課題】4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを高い収率で得ることのできる新規な工業的製造方法の提供。
【解決手段】ピリジン−2−カルボン酸又はピリジン−2−カルボン酸ハロゲン化水素塩と塩化チオニルとを、触媒としての臭化物および触媒としての一般式(4)


(式中、RとRは、アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であるが、RとRが相互に結合した環状アミノ基であってもよい。)
で示されるN−置換ホルムアミドの存在下に反応させることを特徴とする、4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬等の原料として有用である4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドの製造方法としては、ピリジン−2−カルボン酸を原料として過剰量の塩化チオニルと触媒量乃至過剰量の臭化ナトリウムを作用させて製造する方法(非特許文献1)が知られている。しかしながら、この方法で触媒量の臭化ナトリウムを用いた場合は反応時間が21時間と長時間を要するため、効率的な製造方法とは言い難い。一方、過剰量の臭化ナトリウムを用いた場合は反応時間が4時間と短時間で終了するものの、ジクロロ体などの副生成物が増加し収率が75%程度と低く満足できるものではない。
【0003】
また、ピリジン−2−カルボン酸を原料として過剰量の塩化チオニルと触媒量のN,N−ジメチルホルムアミドを作用させて製造する方法(非特許文献2)が知られている。この方法においても、反応時間が24時間という長時間を要するため効率的な製造方法とは言い難い。
【0004】
【非特許文献1】Org.Prep.Proced.Int.,29巻(1号),1997年,117〜122頁
【非特許文献2】Heterocycles,47巻(2号),1998年,811〜828頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドをおどろくべき高い収率で得ることのできる新規な工業的製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述の問題点を解決するため、4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを工業的にかつ高収率で製造する方法について鋭意研究を重ねた結果、ピリジン−2−カルボン酸又はそのハロゲン化水素塩と塩化チオニルとを、触媒としての臭化物及び触媒としてのN−置換ホルムアミドの存在下に反応させる方法を見出し、本発明を完成するにいたった。
【0007】
すなわち、本発明の第1は、一般式(1)
【化10】

で表されるピリジン−2−カルボン酸および一般式(2)
【化11】

(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
で示されるピリジン−2−カルボン酸ハロゲン化水素塩よりなる群から選ばれたピリジン−2−カルボン酸類に塩化チオニルを反応させて、一般式(3)
【化12】

で示される4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを製造する方法であって、前記反応に当り、触媒としての臭化物および触媒としての一般式(4)
【化13】

(式中、RとRは、アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であるが、RとRが相互に結合した環状アミノ基であってもよい。)
で示されるN−置換ホルムアミドを存在させることを特徴とする、一般式(3)
【化14】

で示される4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドの製造方法に関する。
【0008】
本発明の第2は、一般式(5)
【化15】

で示されるピリジン−2−カルボン酸臭化水素塩に塩化チオニルを反応させて、一般式(3)
【化16】

で示される4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを製造する方法であって、前記反応に当り、触媒としての一般式(4)
【化17】

(式中、RとRは、アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であるが、RとRが相互に結合した環状アミノ基であってもよい。)
で示されるN−置換ホルムアミドを存在させることを特徴とする、一般式(3)
【化18】

で示される4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドの製造方法に関する。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において使用する出発原料は、ピリジン−2−カルボン酸又はピリジン−2−カルボン酸ハロゲン化水素塩である。ピリジン−2−カルボン酸ハロゲン化水素塩の具体例としては、ピリジン−2−カルボン酸塩化水素塩、ピリジン−2−カルボン酸臭化水素塩、ピリジン−2−カルボン酸ヨウ化水素塩、ピリジン−2−カルボン酸フッ化水素塩が挙げられる。好ましくは、ピリジン−2−カルボン酸塩化水素塩、ピリジン−2−カルボン酸臭化水素塩である。
【0010】
塩化チオニル(SOCl)の使用量は、ピリジン−2−カルボン酸又はそのハロゲン化水素塩に対して2倍モル以上であればよく、通常は2.5〜5倍モルである。
【0011】
臭化物としては、臭素を含有する化合物であれば特に制限されない。例えば、臭素;臭化水素;臭化チオニル;臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化バリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム、臭化ストロンチウムなどの臭化金属塩;ピリジン臭化水素塩、トリエチルアミン臭化水素塩などの第3級アミン臭化水素塩を挙げることができる。好ましくは、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化チオニルである。
原料としてピリジン−2−カルボン酸臭化水素塩を用いた場合は、臭化物を用いなくても良い。ただし、臭化物を用いても反応において影響はない。
【0012】
臭化物の使用量は触媒量でよく、ピリジン−2−カルボン酸又はそのハロゲン化水素塩に対して0.01〜1.0倍モルであり、好ましくは0.02〜0.5倍モルであり、更に好ましくは0.1〜0.3倍モルである。0.01倍モル未満の場合は、臭化物の効果が見られず、また1.0倍モルを超える場合は、ジクロロ体などの副生成物が増加して選択性及び収率が低下する。
【0013】
N−置換ホルムアミドのRとRにおけるアルキル基としては、直鎖または分岐のアルキル基であり、通常炭素数6以下の低級アルキル基が好ましい。また前記RとRにおけるアリール基としては、アルキル基およびアルコキシ基よりなる群から選ばれた置換基を有することもあるアリール基であることができ、このアリール基としてはフェニル基、ナフチル基などであることができ、ここにおけるアルキル基やアルコキシ基は、前記炭素数6以下の直鎖または分岐のものが好ましい。
【0014】
N−置換ホルムアミドにおいて、RとRが同一でも異なっていてもよいアルキル基又はアリール基の場合のN−置換ホルムアミドとしては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジイソプロピルホルムアミド、N,N−ジブチルホルムアミド、N−メチルホルムアニリドなどを挙げることができる。また、RとRが相互に結合した環状アミノ基の場合のN−置換ホルムアミドとしては、1−ホルミルピペリジン、1−ホルミルピロリジンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。とくに好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミドである。
【0015】
N−置換ホルムアミドの使用量は触媒量でよく、ピリジン−2−カルボン酸又はそのハロゲン化水素塩に対して0.01〜0.5倍モルであり、好ましくは0.02〜0.3倍モルであり、更に好ましくは0.05〜0.2倍モルである。0.01倍モル未満の場合は、N−置換ホルムアミドの効果が見られず、また0.5倍モルを超える場合は、塩化チオニルとN−置換ホルムアミドの塩からなる副生成物が多量に発生するなど後処理が煩雑になるばかりか、収率も低下する。
【0016】
反応溶媒は特に用いなくても良いが、必要により用いても良い。反応溶媒を用いる場合は、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限はない。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類などを挙げることができる。又は、混合溶媒であってもよい。反応溶媒としては芳香族炭化水素類が好ましい。
【0017】
反応温度は溶媒を使用しない場合や使用する溶媒の種類によっても異なるが、通常30〜140℃が好適であり、好ましくは50〜120℃であり、更に好ましくは70〜90℃である。30℃未満では著しく反応速度の低下がみられ、140℃を超えると収率が低下する。反応時間は、反応組成物の種類及びその量比、反応温度などによって異なるが、通常は4〜8時間である。
【0018】
原料の仕込み手順は特に限定されないが、以下に例示する。(1)塩化チオニルに触媒としての臭化物及び触媒としてのN−置換ホルムアミドを混合した溶液に、ピリジン−2−カルボン酸又はそのハロゲン化水素塩を添加する方法、(2)ピリジン−2−カルボン酸又はそのハロゲン化水素塩、溶媒、触媒としての臭化物及び触媒としてのN−置換ホルムアミドを加えた懸濁液に、塩化チオニルを滴下する方法、(3)ピリジン−2−カルボン酸又はそのハロゲン化水素塩と溶媒の懸濁液に、触媒としての臭化物及び触媒としてのN−置換ホルムアミドの塩化チオニル溶液を滴下する方法などが挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、一般式(3)で示される4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを比較的反応時間を短くしてかつ高収率で製造することができる新規な製造方法を提供することができた。
【実施例】
【0020】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0021】
実施例1(請求項1に対応)
1000mLの反応フラスコに室温にて塩化チオニル387g (3.25モル)、臭化ナトリウム 8.35g (0.0812モル:原料の1/10モル)を仕込み、攪拌しながら50℃に昇温し、この反応系にN,N−ジメチルホルムアミド 8.90g (0.122モル) を滴下し、ピリジン−2−カルボン酸100g (0.812モル)をガスの発生に注意しながら、固体添加した。添加終了後、バス温を90℃に昇温して、8時間熟成したところで、原料の消失を確認し反応終了とした。4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを含む反応液を得た。目的物は不安定な物質であり、そのままでは単離して同定することができないため、カルボン酸のメチルエステル物とした後、収率を求めた。
すなわち、反応液をメタノールで処理して、高速液体クロマトグラフィーでの標品との比較による絶対保持時間法により同定した。その結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの収率は90%(対ピリジン−2−カルボン酸)であった。
【0022】
実施例2(請求項1に対応)
実施例1において、N,N−ジメチルホルムアミドに代えて1−ホルミルピペリジンをピリジン−2−カルボン酸に対して0.15倍モル用いること以外は、実施例1と同様に行った。8時間熟成したところで、原料の消失を確認し反応終了とした。得られた4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを含む反応液を実施例1と同様にしてメタノールで処理し、高速液体クロマトグラフィーで分析した。その結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの収率は88%(対ピリジン−2−カルボン酸)であった。
【0023】
実施例3(請求項1に対応)
実施例1において、臭化ナトリウムに代えて臭化チオニルをピリジン−2−カルボン酸に対して0.1倍モル用いること以外は、実施例1と同様に行った。8時間熟成したところで、原料の消失を確認し反応終了とした。得られた4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを含む反応液を実施例1と同様にしてメタノールで処理し、高速液体クロマトグラフィーで分析した。その結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの収率は90%(対ピリジン−2−カルボン酸)であった。
【0024】
実施例4(請求項2に対応)
200mLの反応フラスコに室温にてピリジン−2−カルボン酸30.0g (0.244モル) 、47%臭化水素酸 50.0g (0.292モル)を仕込み、減圧濃縮することにより、ピリジン−2−カルボン酸臭化水素塩49.3g(0.242モル)を灰白色結晶として得た。実施例1において、ピリジン−2−カルボン酸に代えてピリジン−2−カルボン酸臭化水素塩をピリジン−2−カルボン酸と同モル用いること及び臭化ナトリウムを用いないこと以外は、実施例1と同様に行った。4時間熟成したところで、原料の消失を確認し反応終了とした。得られた4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを含む反応液を実施例1と同様にしてメタノールで処理し、高速液体クロマトグラフィーで分析した。その結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの収率は88%(対ピリジン−2−カルボン酸臭化水素塩)であった。
【0025】
比較例1
実施例1において、臭化ナトリウムをピリジン−2−カルボン酸に対し2倍モル用いること以外は、実施例1と同様に行った。4時間熟成したところで、原料の消失を確認し反応終了とした。得られた4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを含む反応液をメタノールで処理して、高速液体クロマトグラフィーで分析した。その結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの収率は75%(対ピリジン−2−カルボン酸)であり、ジクロロ体などの副生成物が多く生成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

で表されるピリジン−2−カルボン酸および一般式(2)
【化2】

(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
で示されるピリジン−2−カルボン酸ハロゲン化水素塩よりなる群から選ばれたピリジン−2−カルボン酸類に塩化チオニルを反応させて、一般式(3)
【化3】

で示される4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを製造する方法であって、前記反応に当り、触媒としての臭化物および触媒としての一般式(4)
【化4】

(式中、RとRは、アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であるが、RとRが相互に結合した環状アミノ基であってもよい。)
で示されるN−置換ホルムアミドを存在させることを特徴とする、一般式(3)
【化5】

で示される4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドの製造方法。
【請求項2】
一般式(5)
【化6】

で示されるピリジン−2−カルボン酸臭化水素塩に塩化チオニルを反応させて、一般式(3)
【化7】

で示される4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを製造する方法であって、前記反応に当り、触媒としての一般式(4)
【化8】

(式中、RとRは、アルキル基およびアリール基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であるが、RとRが相互に結合した環状アミノ基であってもよい。)
で示されるN−置換ホルムアミドを存在させることを特徴とする、一般式(3)
【化9】

で示される4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドの製造方法。

【公開番号】特開2007−223937(P2007−223937A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45987(P2006−45987)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000246398)有機合成薬品工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】