説明

4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドの製造方法

【課題】医薬品、農薬等の中間体原料として有用である4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを高純度かつ高収率で得ることができる工業的に有利な製造方法を提供する。
【解決手段】ピリジン−2−カルボン酸誘導体またはその塩を塩化チオニルと反応させる方法において、臭素を触媒として用いることで、効率的に高純度かつ高収率で4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを得る製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、農薬等の中間体原料として有用である4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドまたはその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドの製造方法としては、触媒存在下でピリジン−2−カルボン酸と塩化チオニルとを反応させる製造方法が知られている(非特許文献1及び2並びに特許文献1)。
非特許文献1では、触媒に臭化ナトリウムを用いた製造方法が開示されている。
また、非特許文献2では、触媒にN,N−ジメチルホルムアミドを用いた製造方法が開示されている。
【0003】
さらに、特許文献1では、触媒に臭化物およびN−置換ホルムアミド類を用いた製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−223927号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Org.Prep.and Proced.INT.,29巻(1号), 1997年,117〜122頁
【非特許文献2】Heterocycles,47巻(2号),1998年,811〜827頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では反応時間が20時間以上と長時間を要するため工業的な使用には適さない。触媒である臭化ナトリウムを大過剰に用いることで反応時間が短縮されるという報告はあるものの、その一方で4,5−ジクロロ体等の副生物が増加し、収率低下を招くことから、工業的に満足できる製造法とは言い難い。
【0007】
また、非特許文献2に記載の製造方法においては、反応時間が24時間と長時間を要するため、工業的に満足できる製造方法とは言い難い。
【0008】
さらに、特許文献1に記載の製造方法においては、触媒の組み合わせにより反応が4〜6時間と短時間で終了するものの、4,5−ジクロロ体等の副生物が生成し、目的の4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドの収率が低いため、工業的に満足できる製造方法とは言い難い。
【0009】
そこで、本発明の目的は、4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドまたはその塩を高純度かつ高収率で得ることができる、工業的に有利な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前述の問題点を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ピリジン−2−カルボン酸誘導体またはその塩を塩化チオニルと反応させる方法において、臭素を触媒として用いることで高純度かつ高収率で4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドが得られる事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
(1)下式(I)
【0012】
【化1】

(式I中、Xは水酸基またはハロゲン原子を表す)
で表される化合物またはその塩と塩化チオニルとを反応させることにより下式(II)
【化2】

で表される化合物またはその塩を製造する方法であって、N−置換ホルムアミドの不存在下で臭素を触媒として用いることを特徴とする前記方法、および(2)式(I)で表される化合物1モルに対して、臭素を0.01〜1.0モル用いる、(1)記載の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ピリジン−2−カルボン酸誘導体またはその塩を塩化チオニルと反応させる方法において、臭素を触媒として用いることで効率的に高純度かつ高収率で4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを工業的に有利な方法で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳述するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0015】
本発明において使用する式(I)で表される化合物は、市販品として入手可能なピリジン−2−カルボン酸またはそれを公知の方法により塩化チオニル等の酸ハロゲン化物で酸ハロゲン化したピリジン−2−カルボン酸クロリド等のピリジン−2−カルボン酸ハライドであり、さらにそれらは塩酸塩などの塩を形成していてもよい。
【0016】
本発明において、ハロゲン原子とはフッ素、塩素、臭素及びヨウ素を意味する。
【0017】
式(I)で表される化合物の塩としては塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、安息香酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、スルホン酸塩などを挙げることができるが、好ましくは塩酸塩である。
【0018】
本発明において使用する塩化チオニルの使用量はピリジン−2−カルボン酸またはその塩を用いた場合は出発原料に対し2倍モル以上であれば良く、ピリジン−2−カルボン酸ハライドまたはその塩を用いた場合は出発原料に対し1倍モル以上であれば良い。好ましくは、各基質に対し2.0〜7倍モルの範囲であり、特に好ましくは、各基質に対し2.5〜5倍モルの範囲である。
【0019】
本発明において、触媒には工業的に安価で入手可能な臭素を用いる。臭素の使用量は触媒量で良く、出発物質に対し通常0.01〜1.0倍モルであり、好ましくは0.05〜0.5倍モルであり、更に好ましくは0.1〜0.3倍モルである。0.01倍モル未満の場合は触媒の効果が見られず、また、1.0倍モルを超えて使用した場合は4,5−ジクロロ体等の副生成物が増加して収率が低下する。
【0020】
本発明では臭素を触媒として使用するが、N−置換ホルムアミドを触媒として併用することはない。N−置換ホルムアミドとしてはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジイソプロピルホルムアミド、N,N−ジブチルホルムアミド、N−メチルホルムアニリド、1−ホルミルピペリジン、1−ホルミルピロリジンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
反応溶媒は特に用いなくても反応は進行するが必要により用いても良い。反応溶媒を用いる場合は反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限はない。例えば、アセトニトリルなどのニトリル類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、THFなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル類;これらの混合溶媒などを挙げることができる。
【0022】
反応温度は溶媒の有無、使用する溶媒の種類によっても異なるが、通常30〜140℃であり、好ましくは50〜120℃であり、更に好ましくは70〜90℃である。30℃未満では著しく反応速度の低下がみられ140℃を超えると分解が進み収率が低下する。
【0023】
反応時間は反応溶媒の有無、溶媒の種類、触媒量、反応温度等により異なるが通常は3〜7時間である。
【0024】
反応により生成した4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドは公知の方法(例えば、非特許文献1及び2を参照)によりアミド化またはエステル化等の処理を行い医薬品、農薬等の中間体として使用できる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例および比較例により本発明を更に詳細に説明するが本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0026】
目的生成物である4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドは不安定な化合物であり、そのままでは分析することができない。このため少量の反応液をメタノール中に添加し目的生成物をメチルエステル化した後に下記HPLC条件により分析を行ない4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの面積百分率としての生成率を確認した。
【0027】
HPLC条件
検出器 :紫外吸収光度計(検出波長 254nm)
カラム :YMC−Pack Pro C18(4.6×150mm)
カラム温度:24℃
移動相 :アセトニトリル/水/70%過塩素酸水=400/600/1
流量 :1.0mL/min
【0028】
実施例1
窒素気流下ピリジン−2−カルボン酸5.0g(40.6ミリモル)、塩化チオニル24.1g(原料の5倍モル)、臭素0.6g(原料の0.1倍モル)を仕込み、ゆっくりと温度を上げ85℃で7時間反応を行なったところで原料の消失を確認したため、反応を終了した。HPLC分析の結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの生成率は88.5%(対ピリジン−2−カルボン酸)であり、不純物である4,5−ジクロル体の生成率は5.2%であった。
【0029】
実施例2
窒素気流下ピリジン−2−カルボン酸5.0g(40.6ミリモル)、塩化チオニル24.1g(原料の5倍モル)、臭素1.3g(原料の0.2倍モル)を仕込み、ゆっくりと温度を上げ85℃で3時間反応を行なったところで原料の消失を確認したため、反応を終了した。HPLC分析の結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの生成率は89.3%(対ピリジン−2−カルボン酸)であり、不純物である4,5−ジクロル体の生成率は2.3%であった。
【0030】
実施例3
窒素気流下ピリジン−2−カルボン酸145.0g(1.18モル)、塩化チオニル700.6g(原料の5倍モル)、臭素37.6g(原料の0.2倍モル)を仕込み、ゆっくりと温度を上げ85℃で4時間反応を行なったところで原料の消失を確認したため、反応を終了した。HPLC分析の結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの生成率は88.0%(対ピリジン−2−カルボン酸)であり、不純物である4,5−ジクロル体の生成率は5.0%であった。
【0031】
実施例4
窒素気流下ピリジン−2−カルボン酸7.0g(56.9ミリモル)、アセトニトリル7.0mL(原料の1倍容量)、塩化チオニル33.8g(原料の5倍モル)、臭素1.8g(原料の0.2倍モル)を仕込み、ゆっくりと温度を上げ85℃で4時間反応を行なったところで原料の消失を確認したため、反応を終了した。HPLC分析の結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの生成率は85.2%(対ピリジン−2−カルボン酸)であり、不純物である4,5−ジクロル体の生成率は3.4%であった。
【0032】
実施例5
アセトニトリル200L(原料の2倍容量),ピリジン−2−カルボン酸100Kg(812.3モル)を仕込み、冷却撹拌下塩化チオニル145.0Kg(原料の1.5倍モル)を滴下し、混合液を40℃で2時間撹拌後、減圧により溶媒を留去した。溶媒留去後、塩化チオニル289.9Kg(原料の3倍モル)、臭素26.0Kg(原料の0.2倍モル)を仕込み、ゆっくりと温度を上げ85℃で3時間反応を行なったところで原料の消失を確認したため、反応を終了した。HPLC分析の結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの生成率は82.4%(対ピリジン−2−カルボン酸)であり、不純物である4,5−ジクロル体の生成率は3.7%であった。
【0033】
比較例1
窒素気流下ピリジン−2−カルボン酸1.0Kg(8.12モル)、塩化チオニル4.8Kg(原料の5倍モル)、臭化ナトリウム83.6g(原料の0.1倍モル)を仕込み、ゆっくりと温度を上げ85℃で行なったところ、原料の消失に22時間を要した。HPLC分析の結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの生成率は75.4%(対ピリジン−2−カルボン酸)であり、不純物である4,5−ジクロル体の生成率は7.1%であった。
【0034】
比較例2
窒素気流下ピリジン−2−カルボン酸100.0g(812.3ミリモル)、塩化チオニル483.3g(原料の5倍モル)、N,N−ジメチルホルムアミド59.4g(原料の1.0倍モル)を仕込み、ゆっくりと温度を上げ85℃で12時間反応を行なった。HPLC分析の結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの生成率は53.7%(対ピリジン−2−カルボン酸)であり、中間体として生成するピリジンカルボン酸メチルの生成率は30.8%であり、不純物である4,5−ジクロル体の生成率は2.7%であった。
【0035】
比較例3
塩化チオニル19.3g(原料の4倍モル)、臭化ナトリウム0.4g(原料の0.1倍モル)およびN,N−ジメチルホルムアミド0.5g(原料の0.15倍モル)を仕込み、ピリジン−2−カルボン酸5.0g(40.6ミリモル)を添加した。添加終了後、ゆっくりと温度を上げ、85℃で6.5時間反応を行なったところで原料の消失を確認したため、反応を終了した。HPLC分析の結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの生成率は76.3%(対ピリジン−2−カルボン酸)であり、不純物である4,5−ジクロル体の生成率は6.2%であった。
【0036】
比較例4
塩化チオニル19.3g(原料の4倍モル)を仕込み、ピリジン−2−カルボン酸臭化水素酸塩8.3g(40.6ミリモル)およびN,N−ジメチルホルムアミド0.5g(原料の0.15倍モル)を添加した。添加終了後、ゆっくりと温度を上げ、85℃で3時間反応を行なったところで原料の消失を確認したため、反応を終了した。HPLC分析の結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの生成率は49.7%(対ピリジン−2−カルボン酸)であり、不純物である4,5−ジクロル体の生成率は6.2%であった。
【0037】
比較例5
塩化チオニル19.3g(原料の4倍モル)、臭素0.65g(原料の0.1倍モル)およびN,N−ジメチルホルムアミド0.5g(原料の0.15倍モル)を仕込み、ピリジン−2−カルボン酸5.0g(40.6ミリモル)を添加した。添加終了後、ゆっくりと温度を上げ、85℃で6時間反応を行なったところで原料の消失を確認したため、反応を終了した。HPLC分析の結果、4−クロロピリジン−2−カルボン酸メチルの生成率は83.7%(対ピリジン−2−カルボン酸)であり、不純物である4,5−ジクロル体の生成率は5.3%であった。
【0038】
以下の表1に実施例の結果をまとめる。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は医薬品、農薬等の中間体原料として有用である4−クロロピリジン−2−カルボン酸クロリドを工業的規模で効率的に高収率ならびに高純度で製造する方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I)
【化1】

(式I中、Xは水酸基またはハロゲン原子を表す)
で表される化合物またはその塩と塩化チオニルとを反応させることにより下式(II)
【化2】

で表される化合物またはその塩を製造する方法であって、N−置換ホルムアミドの不存在下で臭素を触媒として用いることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
式(I)で表される化合物1モルに対して、臭素を0.01〜1.0モル用いる、請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−153081(P2011−153081A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14006(P2010−14006)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【出願人】(307013570)株式会社DNPファインケミカル福島 (11)
【Fターム(参考)】