説明

4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの保存方法

【課題】
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む溶液を安定に保存する方法を提供すること
【解決手段】
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含有する溶液のpHを7以下に調整することを特徴とする、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−ハロ−3−ヒドロキシブチルニトリルの保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは、種々の医薬品や生理活性物質の原料(中間体)として有用であり、特にそのR体はL−カルニチン等の原料として有用である。
【0003】
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法としては、(i)エピハロヒドリンと青酸のアルカリ金属塩を反応させる方法(特許文献1参照)、(ii)エピハロヒドリンと青酸を反応させる方法(特許文献2参照)、(iii)1,3−ジハロ−2−プロパノールに青酸又は青酸のアルカリ金属塩を反応させる方法(特許文献3参照)、(iv)エピハロヒドリンと青酸のアルカリ金属塩とを酵素触媒下で反応させる方法(特許文献4参照)、(v)1,3−ジハロ−2−プロパノールと青酸又は青酸のアルカリ金属塩とを酵素触媒下で反応させる方法(特許文献5〜8参照)が知られている。
【0004】
このようにして製造された4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは、必要に応じて、精製工程を経て次の反応に利用される。しかしながら、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは、不安定な化合物であるために、次の反応に供するまでに長時間保存した場合、純度の低下及び/又は不純物の増加が認められる。純度の低下した4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを原料として用いて製品を製造すると、純度が低い製品が得られるだけでなく、不純物及び不純物に起因する副反応による副生物により製品品質も低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−316758号公報
【特許文献2】特開2002−241357号公報
【特許文献3】特開平5−219965号公報
【特許文献4】特開平03−053890号公報
【特許文献5】特開平03−053889号公報
【特許文献6】特開2001−025397号公報
【特許文献7】特開2008−017838号公報
【特許文献8】特開2008−131861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを安定に保存する際に、安定化させる方法が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを安定に保存する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む溶液を特定のpHに調整することにより、安定に4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを保存することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含有する溶液のpHを7以下に調整することを特徴とする、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの保存方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安定に4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを保存することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0012】
(1)4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル
本発明で使用する4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは、市販されているものを使用することもできるし、公知又は新規な方法で製造したものを使用することもできる。
【0013】
公知の方法としては、例えば、(イ)特許文献1に示されるような、エピハロヒドリンと青酸のアルカリ金属塩を反応させる方法;(ロ)特許文献2に示されるような、エピハロヒドリンと青酸を反応させる方法;(ハ)特許文献3に示されるような、1,3−ジハロ−2−プロパノールに青酸または青酸のアルカリ金属塩を反応させる方法;(ニ)特許文献4に示されるような、エピハロヒドリンと青酸のアルカリ金属塩とを酵素触媒下で反応させる方法;(ホ)特許文献5〜7に示されるような、1,3−ジハロ−2−プロパノールと青酸または青酸のアルカリ金属塩とを酵素触媒下で反応させる方法を挙げることができる。
【0014】
これらの中でも、(ハ)で得られる4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを好適に使用することができる。当該方法によれば、収率が高く、不純物も抑制された4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを使用することができるからである。
【0015】
上記4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの光学活性の種類は限定されない。例えば、光学的に純粋なL体又はR体の4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、ラセミ体の4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、光学活性に偏りがある(L体又はR体のどちらかがもう一方よりも多く含まれる)4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを使用することができる。好ましくは、(R)−4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルである。
【0016】
更に、本発明においては、上記4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルだけでなく、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの誘導体も使用することができる。当該誘導体の種類は限定されず、例えば、水酸基がエステルを形成したものを挙げることができる。
【0017】
ここで、本明細書において、エピハロヒドリン、1,3−ジハロ−2−プロパノール、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル及び4−ハロ−3−ヒドロキシブチルアミドの「ハロ」とは、ハロゲン元素を示す。より詳細にはフッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)、ヨウ素原子(I)を示す。好ましくは塩素、臭素であり、より好ましくは塩素である。
【0018】
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルとしては、(R)−4−フルオロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(S)−4−フルオロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(R)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(S)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(R)−4−ヨード−3−ヒドロキシブチロニトリル、(S)−4−ヨード−3−ヒドロキシブチロニトリルが挙げられる。好ましくは、(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(R)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチロニトリル、(S)−4−ブロモ−3−ヒドロキシブチロニトリルであり、より好ましくは(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルである。
【0019】
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが酵素反応により製造されたものである場合、溶媒(溶液)中には使用した酵素由来の固形物が存在する。この場合は、当該固形物が残存したまま保存しても良いし、除去してから保存してもよい。当該固形物を除去する場合には、常法によって行えば良く、ろ過や遠心分離といった方法が例示される。
【0020】
(2)4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの保存
(2−1)溶媒
本発明において、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを保存する際の溶媒の種類は、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが十分に溶解し、且つ、安定に保存できれば限定されない。水、有機溶媒又はこれらの混合物を使用することができる。好ましくは水である。
【0021】
有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、メタクリル酸メチルなどのエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルムなどの塩素系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、テロラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド等の有機溶媒が挙げられる。
【0022】
有機溶媒は単一のものを単独で用いることもできるし、複数のものを混合して用いることもできる。複数の溶媒を混合して用いる場合、その種類や混合比は限定されず、適宜選択することができる。水と有機溶媒の混合物を溶媒として使用する場合も、その混合比等は限定されない。
【0023】
例えば、公知の方法により製造した4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含む水溶液を、精製することなくそのまま使用することができる(このときの溶媒は水)。また、水溶液から抽出したり、カラムクロマトグラフィー等の常法の精製法により精製したりした4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを、溶媒と混合して使用することができる。
【0024】
(2−2)濃度
本発明において保存する4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度は限定されない。製造した4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル水溶液を、抽出や精製を行わずに使用する場合には、そのままの濃度で保存することもできる。また、溶媒を添加することにより希釈したり、減圧下で濃縮することにより濃度を高くしたりすることにより、任意の濃度に調整して保存することもできる。
【0025】
例えば、0.1〜30質量%の濃度とすることが好ましく、1〜25質量%とするのがより好ましい。0.1質量%以上とするのは、低い濃度で保存することにより大量の溶媒を必要としなくなるからである。また、30質量%以下とするのは、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの合成反応条件によっては、ハロゲン化水素の塩などが析出して取り扱いが困難となるのを防ぐためである。
【0026】
(2−3)pH調整
本発明において、保存する4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル溶液のpHは、7以下とする。好ましくは1〜6であり、より好ましくは1.7〜5である。pHを7以下とすることにより、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの分解による不純物の生成を抑えることができる。
【0027】
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル水溶液のpHを調整する方法は限定されない。例えば、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル水溶液のpHが7を超えている場合、酸を添加したり、反応液を30℃以上、沸点以下に加熱したりすることで、pHを7以下に下げることできるが、酸を添加することが好ましい。これは、加熱を行った場合、pHが下がるまでに、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの分解と不純物である4−ヒドロキシクロトノニトリルが生成することがあるからである。
【0028】
使用できる酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、クエン酸、安息香酸、トルイル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸や、塩酸、亜硝酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、次亜燐酸、亜燐酸、燐酸等の無機酸が例示される。これらの中でも、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸が好ましい。これらの塩の使用形態(方法)は限定されないが、取り扱いの容易さから水溶液として添加するのが好ましい。
【0029】
酸の添加量は、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造条件、保存する際の濃度、温度、時間、雰囲気により異なるが、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含有する溶液のpHを7以下とすることができれば限定されない。
【0030】
また、pHを所望の値よりも下げすぎた場合には、アルカリを添加することにより所望のpHに調整することができる。使用するアルカリの種類は限定されない。例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニアの、水酸化物又は弱酸との塩が例示され、これらの中でも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。アルカリの使用形態としては限定されないが、取り扱いの容易さから水溶液が好ましい。なお、アルカリを添加することによるpH調整は、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの分解と、不純物である4−ヒドロキシクロトノニトリルの生成を誘発するため、pH調整時の温度を30℃以下とすることが好ましい。
【0031】
pHの調整を容易にするために、添加物として緩衝液を使用することもできる。緩衝液としては、例えば、リン酸、ホウ酸、クエン酸、グルタル酸、リンゴ酸、マロン酸、o−フタル酸、コハク酸又は酢酸等の塩等によって構成される緩衝液、トリス緩衝液あるいはグッド緩衝液等が例示される。緩衝液の添加量も限定されず、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度等に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0032】
(2−4)その他
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを保存する際の温度は、水溶液の凝固点から沸点までの温度範囲で特に限定されない。例えば、0〜100℃が好ましく、1℃〜90℃がより好ましく、5〜35℃の室温程度が更に好ましい。
【0033】
保存する際の圧力については、水溶液の状態が保持されていれば特には限定されない。加圧、減圧、常圧条件下のいずれも選択できる。保存する際の雰囲気についても特に限定されなし。空気(大気)雰囲気下でもよく、酸素雰囲気下でもよく、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下でもよい。
【0034】
また、保存場所は明所でも暗所でもどちらでもよいが、暗所の方が好ましい。光により4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの分解が進む可能性があるからである。暗所での保存は、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル溶液を含む透明(光を通す)容器を暗い(光の当たらない)場所に保存することも含むし、褐色ビンのような光を通さない容器に4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル溶液を入れて保存することも含む。
【0035】
保存する期間は限定されない。例えば、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの溶液のpHを7以下に調整してから1分〜5年の範囲とすればよく、5分〜3年が好ましく、10分〜2年がより好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示して本発明の詳細に説明する。
[分析方法]
本実施例における各成分の分析は、以下に示す方法により行った。
【0037】
(HPLC分析(1))
4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル(以下、「CHBN」という)及び4−ヒドロキシクロトノニトリル(以下、「HC−CN」という)の定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて以下に示す分析条件で行った。
【0038】
試料調製方法: 反応液を移動相に溶解
カラム: Inertsil ODSー3V(GLサイエンス製)
(4.6mmI.D.×250mm、粒径5μm)
カラムオーブン温度: 40℃
移動相: 0.05% トリフルオロ酢酸水溶液
流速: 1mL/分
検出: 至差屈折計(RI)
リテンションタイム: CHBN 約15分
HC−CN 約10分。
【0039】
前記HPLC定量分析においては、予め、濃度既知のCHBN及びHC−CNの溶液を用いて検量線を作成し、該検量線を用いて反応液中のCHBN及びHC−CNの濃度を算出した。
CHBNの標品については、(R)−CHBNはアヅマックス(株)製であり、ラセミ体のCHBNは特公平5−69818号公報の記載に従って製造した。
【0040】
HC−CNの標品については、次のようにして製造した。20%(R)−CHBN水溶液100gに、30%水酸化ナトリウム水溶液25gを、2〜5℃に保ちながら、ゆっくりと滴下した。滴下を開始してから3時間後、HPLCによって(R)−CHBNが消失したことを確認した。これを酢酸エチルによって抽出し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。シリカゲルショートカラムによって疎精製を行った後、減圧蒸留によって精製した。製造したヒドロキシクロトノニトリルの同定は、1H−NMR、ガスクロマトグラフィーによって行い、ガスクロマトグラフィーによる分析により純度は99.9%であることを確認した。
【0041】
(HPLC分析(2))
(R)−CHBNの光学純度は、次のようにして測定した。
【0042】
(R)−CHBNを含む水溶液を約3mL採取し、等量の酢酸エチル加えて抽出を行った。ついで、酢酸エチル層を分取し、少量の無水硫酸ナトリウムを加えて撹拌した後、上清をエバポレーター(バス温度40℃、30Torr)にて濃縮し酢酸エチルを留去し、(R)−CHBN及び/又は(R)−CHBAを主成分とするオイルを回収した。ついで、1.5mLのマイクロチューブに前記オイルを2μL採取し、ジクロロメタン20μL、ピリジン20μLを加えた後、(R)−α−メトキシ−α−(トリフルオロメチル)フェニルアセチルクロライド(以下、(R)−MTPAという)2μLを添加し、10秒程度振り混ぜた後にそのまま室温で5時間〜24時間静置してエステル化反応を行った。反応終了後、その反応液にジイソプロピルエーテル(以下、IPEという)約300μLを添加し、続いて1N塩酸水溶液を約300μL用いて洗浄して、IPE層を回収した。さらに、そのIPE層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液約300μLで洗浄し、回収したIPE層をアスピレーターにより減圧濃縮して、残渣をn−ヘキサンと2−プロパノールの混合液(混合比4:1)に溶解させ、これをHPLCにより以下に示す分析条件で分析した。
【0043】
試料調製方法: 反応液を移動相に溶解
カラム: Partisil−5(GLサイエンス製)
(4.6mmI.D.×250mm、粒径5μm)
カラムオーブン温度: 40℃
移動相: n−ヘキサン:2−プロパノール=99:1
流速: 1mL/min
検出: UV 254nm
リテンションタイム: (R)−CHBN−(R)MTPAエステル 約20分
(S)ーCHBNー(R)MTPAエステル 約24分。
【0044】
(R)−CHBNの光学純度は、(R)−CHBN−(R)−MTPAエステル及び(S)−CHBN−(R)−MTPAエステルのエリア面積比から下記式により算出した。
【0045】
((R)体の光学純度)(単位:%ee)=100×([R]−[S]×r)/([R]+[S]×r)
式中、[R]は被測定試料における(R)−CHBN−(R)−MTPAエステルの、[S]は被測定試料における(S)−CHBN−(R)−MTPAエステルのエリア面積を示す。また、rはr=[R]rac/[S]racで定義して算出される補正係数であり、[R]racはラセミ体のCHBNにおける(R)−CHBN−(R)−MTPAエステルのエリア面積を、[S]racはラセミ体のCHBN(又はCHBA)における(S)−CHBN−(R)−MTPAエステルのエリア面積を示す。
【0046】
なお、前記エリア面積については、事前にラセミ体のCHBNの(R)−MTPAエステルについて前記HPLC分析(2)に示したHPLC分析条件にて分析しておき、その分析条件で得られた(R)−CHBN−(R)−MTPAエステル及び(S)−CHBN−(R)−MTPAエステルのエリア面積の比により補正を行った。
【0047】
[調製例1]ハロヒドリンエポキシダーゼの調製
大腸菌(Escherichia coli) JM109/pST111(FERM P−12065、特開平5−317066号参照)を、LB培地(1%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、0.5%NaCl、1mM IPTG、50μg/mLアンピシリン)を 100mL入れた500mL容三角フラスコに植菌し、37℃で20時間振盪培養した。前記培養菌体を遠心分離により集菌し、集菌した菌体を50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)で洗浄し、50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)で懸濁することで保存菌体液とした。
【0048】
[調製例2](R)−4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造
pH電極及びpHコントローラーにより制御されたアルカリ投入配管を装着した300mLの4つ口フラスコに、水127.55g、HCN4.41g(0.1632mol)を入れ、30%NaOH 0.65g(0.0049mol)で、pH7.5に調整した。1,3−ジクロロ−2−プロパノール10.00g(0.0775mol)を入れ、均一に溶解するまで攪拌した。
【0049】
調製例1で調製した菌体液20.0gを加え、20℃で反応を開始した。系内のpHを7.5〜7.6に維持するよう、30%NaOHを投入するようにpHコントローラーを設定し、投入されたNaOHとほぼ等モルの割合で1,3−ジクロロ−2−プロパノール,HCNを追加していくことで、系内の1,3−ジクロロ−2−プロパノールの濃度が0.5mol/kgを超えないよう、また、系内のシアンイオン濃度が1.1mol/kgを超えないようにした。
【0050】
23時間後、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを0.753mol/kg蓄積することができ、その光学純度は94.8%e.e.の(R)−体過剰であった。反応により消費された1,3−ジクロロ−2−プロパノールからの収率は96.3%であった。この反応液を35質量%塩酸を用いてpH=2.0に調整した後、釜内温60℃、140torrで濃縮することで、(R)−CHBNの濃度が20質量%の水溶液を取得した。
【0051】
[調製例3]
調製例2に従って製造した(R)−CHBN水溶液320gを酢酸エチル200gで2回抽出した。有機層を減圧下に濃縮し、(R)−CHBNの粗生成物を取得した。これを単蒸留にて精製を行い、精製(R)−CHBN 55.2gを取得した。
【0052】
<実施例1,2>
実施例1及び2では、調製例2に従って製造した(R)−CHBN水溶液を、褐色ポリ瓶を保存容器として保存した。表1に保存条件、保存前後のCHBN濃度、(R)−CHBN光学純度及びHC−CN濃度を示す。
【0053】
実施例1
(R)−CHBN水溶液200g(pH2.1,20℃)に対して、35質量%塩酸152mgを攪拌しながら3分間かけて滴下し、当該水溶液のpHを1.7とした。当該水溶液を室温で6ヶ月間保存したところ、CHBN濃度の低下は見られなかった。また、CHBNの分解生成物であるHC−CNの増加は見られなかった。
【0054】
実施例2
塩酸の添加量を146mgとした以外は、実施例1と同様に実験を行い、(R)−CHBN水溶液のpHを1.8に調製した。当該水溶液を室温で18ヶ月間保存したところ、CHBN濃度の低下は見られなかった。また、CHBNの分解生成物であるHC−CNの増加は見られなかった。
【0055】
<実施例3,4、比較例1>
実施例3、4及び比較例1では、調製例2に従って製造した(R)−CHBN水溶液を用いて、200mMのTris−硫酸バッファー存在下で、褐色ポリ瓶を保存容器として保存した。表に保存条件、保存前後のCHBN濃度、(R)−CHBN光学純度及びHC−CN濃度を示す。
【0056】
実施例3
(R)−CHBN水溶液50g(pH7.8,20℃)に対して、3質量%塩酸417mgを攪拌しながら3分間かけて滴下し、(R)−CHBN水溶液のpHを2.0とした。当該水溶液を室温で1ヶ月間保存したところ、CHBN濃度の低下は見られなかった。また、CHBNの分解生成物であるHC−CNの増加は見られなかった。
【0057】
実施例4
塩酸の添加量を306mgとした以外は、実施例3と同様に実験を行い、(R)−CHBN水溶液のpHを5.0に調製した。当該水溶液を室温で1ヶ月保存したところ、CHBN濃度の低下は見られなかった。また、CHBNの分解生成物であるHC−CNの増加は見られなかった。
【0058】
比較例1
3質量%塩酸の代わりに4質量%水酸化ナトリウム水溶液132mgを添加した以外は、実施例3と同様に実験を行い、(R)−CHBN水溶液のpHを9.0に調製した。当該水溶液を室温で1ヶ月保存したところ、CHBN濃度の低下があった。また、CHBNの分解生成物であるHC−CNが増加していた。
【0059】
<実施例5,6、比較例2>
調製例3に従って取得した精製(R)−CHBNを用いて、200mMのTris−硫酸バッファー存在下、(R)−CHBN濃度14.0質量%となるように調製した(水溶液)。これを、褐色ポリ瓶を保存容器として保存した。表1に保存条件、保存前後のCHBN濃度、(R)−CHBN光学純度及びHC−CN濃度を示す。
【0060】
実施例5
(R)−CHBN水溶液50g(pH8.0,20℃)に対して、3質量%塩酸401mgを攪拌しながら3分間かけて滴下し、(R)−CHBN水溶液のpHを2.0とした。当該水溶液を室温で1ヶ月間保存したところ、CHBN濃度の低下は見られなかった。また、CHBNの分解生成物であるHC−CNの増加は見られなかった。
【0061】
実施例6
塩酸の添加量を285mgとした以外は、実施例5と同様に実験を行い、(R)−CHBN水溶液のpHを5.0に調製した。当該水溶液を室温で1ヶ月間保存したところ、CHBN濃度の低下は見られなかった。また、CHBNの分解生成物であるHC−CNの増加は見られなかった。
【0062】
比較例2
3質量%塩酸の代わりに4質量%水酸化ナトリウム水溶液102mgを添加した以外は、実施例5と同様に実験を行い、(R)−CHBN水溶液のpHを9.0に調製した。当該水溶液を室温で1ヶ月間保存したところ、CHBN濃度の低下があった。また、分解性生物であるHC−CNが増加していた。
【0063】
<実施例7,8、比較例3>
調製例2に従って製造した(R)−CHBN水溶液を用いて、200mMのTris−硫酸バッファー存在下で、ガラス製フラスコを保存容器として、90℃での保存安定性について試験を実施した。表1に保存条件、保存前後のCHBN濃度、(R)−CHBN光学純度及びHC−CN濃度を示す。
【0064】
実施例7
(R)−CHBN水溶液50g(pH7.8,20℃)に対して、3質量%塩酸408mgを攪拌しながら3分間かけて滴下し、(R)−CHBN水溶液のpHを2.0とした。当該水溶液を90℃で9時間保存したところ、CHBN濃度の低下は見られなかった。また、CHBNの分解生成物であるHC−CNの増加は見られなかった。
【0065】
実施例8
塩酸の添加量を297mgとした以外は、実施例7と同様に実験を行い、(R)−CHBN水溶液のpHを5.0に調製した。当該水溶液を90℃で9時間保存したところ、CHBN濃度の低下は見られなかった。また、CHBNの分解生成物であるHC−CNの増加は見られなかった。
【0066】
比較例3
3質量%塩酸の代わりに4質量%水酸化ナトリウム水溶液134mgを添加した以外は、実施例7と同様に実験を行い、(R)−CHBN水溶液のpHを9.0に調製した。当該水溶液を90℃で9時間保存したところ、CHBN濃度の低下があった。また、分解性生物であるHC−CNが増加していた。
【0067】
<実施例9,10、比較例4>
調製例3に従って製造した(R)−CHBN水溶液を用いて、200mMのTris−硫酸バッファー存在下で、ガラス製フラスコを保存容器として、90℃での保存安定性について試験を実施した。表に保存条件、保存前後のCHBN濃度、(R)−CHBN光学純度及びHC−CN濃度を示す。
【0068】
実施例9
(R)−CHBN水溶液50g(pH8.0,20℃)に対して、3質量%塩酸384mgを攪拌しながら3分間かけて滴下し、(R)−CHBN水溶液のpHを2.0とした。当該水溶液を90℃で9時間保存したところ、CHBN濃度の低下は見られなかった。また、CHBNの分解生成物であるHC−CNの増加は見られなかった。
【0069】
実施例10
3質量%塩酸を384mg添加した以外は、実施例9と同様に実験を行い、(R)−CHBN水溶液のpHを2.0に調製した。当該水溶液を90℃で9時間保存したところ、CHBN濃度の低下は見られなかった。また、CHBNの分解生成物であるHC−CNの増加は見られなかった。
【0070】
比較例4
塩酸の代わりに4質量%水酸化ナトリウム水溶液134mgを添加した以外は、実施例9と同様に実験を行い、(R)−CHBN水溶液のpHを9.0に調製した。当該水溶液を90℃で9時間保存したところ、CHBN濃度の低下があった。また、分解性生物であるHC−CNが増加していた。
【0071】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを含有する溶液のpHを7以下に調整することを特徴とする、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの保存方法。
【請求項2】
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが、エピハロヒドリン又は1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとから製造されたものである、請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2011−246370(P2011−246370A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119700(P2010−119700)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】