説明

4−ビニルフェノール系化合物

【課題】公知のアルテピリンCより強力な生理活性を有する4−ビニルフェノール系化合物および該4−ビニルフェノール系化合物を効率よく、安全に生成する方法、前記4−ビニルフェノール系化合物を含有する抗癌剤、さらには前記4−ビニルフェノール系化合物を含有する食品又は医薬品を提供する。
【解決手段】特定な4−ビニルフェノール系化合物又はその薬学的に許容可能な塩、前記4−ビニルフェノール系化合物及びその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有する抗癌剤、さらには食品又は医薬品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌活性を有する4−ビニルフェノール系の新規化合物、該新規化合物を含む抗癌剤、食品又は医薬品に関するものである。また、本発明は、前記4−ビニルフェノール系の新規化合物をプロポリスから生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロポリスはセイヨウミツバチが巣内を病原菌やウイルスから守るため、巣の中に塗りこめている樹脂状の物質である。プロポリスの成分は巣の周りの樹木や薬草などの植物の分泌液や新芽、花粉、さらにはこれらを集めたセイヨウミツバチ自らが分泌した蜜蝋が含まれている。そのため、巣の周囲の環境やミツバチの種類により、プロポリスの原塊の成分も異なることが知られている(非特許文献1参照)。また、「ポリス(都市国家)のプロ(前面)」(を守る)というギリシャ語が「プロポリス」の語源となっているように、ヨーロッパにおいては古代ギリシャの時代よりこの物質の持つ抗菌力を様々な形で利用し、東ヨーロッパを中心に民間薬として用いられてきたことが報告されている。その後、プロポリスには抗菌性、鎮痛、抗炎症、抗酸化、免疫力増強、血液浄化などの作用が知られ、経口投与のほか塗布など外用する地域もある。これらの作用の有効成分は抗酸化活性の高いフラボノイドのほか、テルペノイド、多糖成分が明らかにされている。
【0003】
さらに、前記の通り、生産地域によってプロポリスに含まれる成分に違いがあるように、生産地域によってプロポリスの有効成分の種類や含量も様々であり、その生理的効果も様々な特徴を持つことが報告されている。
【0004】
プロポリスの抗癌作用については、プロポリスより単離したキナ酸誘導体に癌細胞に対する増殖抑制作用、細胞分化誘導作用、アポトーシス誘導作用を確認したという報告あり、特にプロポリスに含まれるアルテピリン(Artepillin)Cについては、正常なアポトーシスに影響を与えずに異常細胞のアポトーシスを促進する効力や抗癌作用が報告されている (特許文献1、2、非特許文献2参照) 。
【0005】
以上のように、プロポリスは生理活性を有する化合物を数多く含有しており、それらの効果は様々である。しかしながら、プロポリスに含まれるそれらの含有量はごく微量であり、工業的な規模で生産するのが難しい状況である。
【0006】
そこで、プロポリスの生理活性効果や生理活性化合物含量を高める技術が開示されている抗癌活性の向上については、プロポリスと紅豆杉を配合する方法、プロポリス中の有機酸をエステル化する方法、プロポリス又はプロポリス由来のアルテピリンCを担子菌類の菌糸体により発酵処理を行い、新規桂皮酸誘導体を得る方法が報告されている。
(特許文献3、4、5参照)
【0007】
しかし、上記の酵素反応は工業レベルにおいては高コストであり、反応を制御することは困難である。また菌体培養法については培養後の目的物の精製・単離方法が複雑である。さらにその他の手法においては反応工程で化学物質を用いるから、最終産物を食品に応用するにはハードルが多い。よって、上記のような従来の手法は、簡便かつ安全にプロポリスの有効性を向上させる点では不十分なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−213636号公報
【特許文献2】特開平9−328425号公報
【特許文献3】特開2003−252773号公報
【特許文献4】特開2007−53947号公報
【特許文献5】特開2008−81号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日経バイオ 最新用語辞典 第5版
【非特許文献2】Boil. Pharm. Bull. 26(7) 1057-1059 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らはプロポリスに関する前記の状況を鑑みて、より強力な生理活性を有する新規化合物の探索と、その製造方法を確立すべく鋭意検討した結果、驚くべきことにプロポリスを特定の条件下で加熱処理することのみで、これまで報告されていなかった新規化合物を初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
したがって、本発明は、公知のアルテピリンCより強力な生理活性を有する4−ビニルフェノール系化合物および該4−ビニルフェノール系化合物を効率よく、安全に生成する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記4−ビニルフェノール系化合物を含有する抗癌剤、さらには前記4−ビニルフェノール系化合物を含有する食品又は医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は、
〔1〕 下記式(1)で表される4−ビニルフェノール系化合物又はその薬学的に許容可能な塩、
【0013】
【化1】

【0014】
〔2〕 前記〔1〕記載の4−ビニルフェノール系化合物及びその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有する抗癌剤、
〔3〕 前記〔1〕記載の4−ビニルフェノール系化合物及びその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする食品又は医薬品、
〔4〕 プロポリスを含有する組成物を、金属塩の存在下において、前記組成物温度110℃以上に加熱処理することを特徴とする、前記〔1〕記載の4−ビニルフェノール系化合物又はその薬学的に許容可能な塩の生成方法
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、従来のプロポリスの活性化合物であるアルテピリンCと比べて、生理活性に優れた4−ビニルフェノール系の新規化合物を提供することができる。また、本発明の4−ビニルフェノール系化合物及びその薬学的に許容可能な塩は、アルテピリンCと比べて、特に抗癌活性が高いことから、優れた抗癌剤を提供することができる。
また、本発明の4−ビニルフェノール系化合物は、前記のような生理活性に優れることに加えて、安全性にも優れることから、食品又は医薬品に配合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例2で行ったプロポリスエキスのHPLCの分析結果を示す。上図が加熱後、下図が加熱前のプロポリスエキスの結果であり、「※」が4−ビニルフェノール系化合物のピークを示す。
【図2】図2は実施例3の細胞増殖抑制試験より得られた結果を示すグラフである。 図2の縦軸は細胞生存率を、横軸は各試料の濃度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明の4−ビニルフェノール系化合物は、式(1):
【0019】
【化2】

【0020】
で表される構造式を有する。
【0021】
また、本発明では、前記式(1)で表される4−ビニルフェノール系化合物は、薬学的に許容可能な塩でもよい。薬理学的に許容可能な塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩; アルミニウム塩;アルミニウムヒドロキシド塩等の金属ヒドロキシド塩; アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、アルキレンジアミン塩、シクロアルキルアミン塩、アリールアミン塩、アラルキルアミン塩、複素環式アミン塩等のアミン塩; α−アミノ酸塩、ω−アミノ酸塩等のアミノ酸塩;ペプチド塩又はそれらから誘導される第1級、第2級、第3級若しくは第4級アミン塩等が挙げられる。これらの薬理的に許容し得る塩は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
前記4−ビニルフェノール系化合物または薬理学的に許容可能な塩(以下、本発明の4−ビニルフェノール系化合物と略する)は、後述のようにプロポリス由来の成分から生成されていることから、プロポリスと同様に様々な生理活性を有することが予想される。特に、前記式(1)で表される4−ビニルフェノール系化合物の構造式は、ヒドロ桂皮酸の構造(C65CH2CH2COOH)と2−ヒドロキシプレニル−4−ビニル−6−プレニルフェノールの構造:
【0023】
【化3】

【0024】
とを共に有していることから、本発明の4−ビニルフェノール系化合物はヒドロ桂皮酸と2−ヒドロキシプレニル−4−ビニル−6−プレニルフェノールの両者の生理活性を備えた、優れた生理活性を奏する化合物であると予想される。
【0025】
例えば、本発明の4−ビニルフェノール系化合物は、従来のプロポリスの活性化合物であるアンテピリンCと比べて、抗癌活性が高いものである。
【0026】
本発明の4−ビニルフェノール系化合物は、プロポリスを含有する組成物を、金属塩の存在下において、前記組成物温度110℃以上に加熱処理することで、生成することができる。
【0027】
本発明の4−ビニルフェノール系化合物は、例えば、ヒドロ桂皮酸および2−ヒドロキシプレニル−4−ビニル−6−プレニルフェノールを原料として化学合成することも可能ではあるが、反応工程が複雑であり有害な試薬や工程を必要とする。また、不純物を除去するという安全性の観点から精製を徹底する必要もあり、工業的には不向きな方法である。これに対して、前記の本発明の4−ビニルフェノール系化合物の製造方法は、プロポリスを金属塩存在条件下で高温処理する工程を有するものであり、有害な試薬や、危険な工程を必要としない効率的で安全な製造方法である。
【0028】
本発明の生成方法で使用されるプロポリスを含有する組成物としては、プロポリス原塊やプロポリス原塊を公知の方法で抽出したプロポリス抽出物など、プロポリス成分を僅かでも含有している組成物であれば何ら制限されるものではないが、4−ビニルフェノール系化合物の生成効率の観点から、プロポリス原塊やプロポリス抽出物を高含有している組成物が好適に使用される。特に他素材の含有量が少ないため4−ビニルフェノール系化合物の生成反応が行いやすく、取り扱いやすいなどの観点から、プロポリス抽出物がより好適に使用される。
【0029】
プロポリス抽出物を得るために用いられるプロポリス原塊としては、ブラジルを含む南アメリカ諸国、中国や日本などのアジア諸国、ヨーロッパ諸国、北アメリカ諸国、オセアニア諸国などのあらゆる産地のものが使用可能である。ブラジル産プロポリスを作るミツバチは在来種のセイヨウミツバチとアフリカミツバチの交配したミツバチであり、プロポリスの生産量はセイヨウミツバチよりも多いことが知られている。よって、上記の中でもブラジル産プロポリスを用いることは原材料の確保、ロット差の問題を考慮した場合、より好ましい。
【0030】
また、プロポリス抽出物の種類としては、プロポリスの水抽出物、アルコール抽出物、含水アルコール抽出物、有機溶媒抽出物、超臨界抽出物、ミセル化抽出物などが挙げられる。以上の中からどの抽出物を用いてもよいが、中でも高い生理活性を有することが頻繁に報告されているアルコール抽出物や含水アルコール抽出物を使用することが好ましい。なお、アルコール抽出物や含水アルコール抽出物を調製するために用いられるアルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの主に低級アルコールが用いられるが、最終産物の食品への利用を考慮すると、上記の中でもエタノールを用いることがより好ましい。
【0031】
さらに、プロポリスの抽出物の処理物から該新規成分を含む分画物を分離して使用してもよい。分離の方法は特に限定はないが、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどの各種カラムクロマトグラフィーを適宜組み合わせることにより行うことが可能であり、その場合は常法に従って実施することができる。
【0032】
次に、前記金属塩は、どのような形状でもよく、粉末状、インゴット状、粉末を焼結などした成形体などが挙げられる。また、金属塩としては、無機金属化合物、有機金属化合物、単核錯体、多核錯体、水素化合物やこれらの誘導体など、これらのうちどのカテゴリーに属するものを用いてもよい。
【0033】
金属塩としては、酸性塩、塩基性塩、正塩のいずれでもよく、また、単塩、複塩、錯塩のいずれでもよい。さらに、金属塩は1種類であっても、複数種類の混合物であってもよい。金属塩の例としては、食品添加物として認可されているものが安全性の面で好ましい。例えば、食品に添加することが認められているマグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、銅塩などが挙げられる。
【0034】
また、前記金属塩の混合物としては、例えば、ミネラルプレミックス(田辺製薬株式会社 グルコン酸亜鉛、クエン酸鉄アンモニウム、乳酸カルシウム、グルコン酸銅、リン酸マグネシウムを主成分としたミネラル混合物)のように金属塩を数種類含む物質が挙げられる。また、複数の金属塩を含む混合物として、ミネラルウォーターも挙げることができる。さらに、金属塩として、適当な植物由来の抽出物を使用することができる。
【0035】
前記プロポリスを含有する組成物中における金属塩の存在量としては、4−ビニルフェノール系化合物の生成反応が進む量であれば良く、特に制限はないが、効率面からはプロポリスの固形分値に対して、0.01〜60重量%程度用いられることが好ましい。特に加熱処理後の反応物中の4−ビニルフェノール系化合物の生成量を考慮すると、金属塩が1〜30重量%程度用いられることがより好ましい。
【0036】
なお、プロポリス原塊を含有している組成物を用いる場合においては、必ずしも金属塩を添加する必要はない。そもそもプロポリス原塊は様々な成分の混合物であるから何らかの金属塩を含有している。よって、プロポリス原塊を用いた場合に金属塩を添加するか否かは、4−ビニルフェノール系化合物の生成反応の効率をもとに判断すればよい。
【0037】
上記の生成反応時の加熱温度は限られたものではないが、温度はより高い方が4−ビニルフェノール系化合物の生成量が増大するため好ましい。本発明においては、加熱処理により前記組成物温度を110℃以上、好ましくは130℃以上とすることで、反応時に生成される4−ビニルフェノール系化合物が顕著に増加する。また、前記温度の上限は、生成した4−ビニルフェノール系化合物が熱による分解などで顕著に低減しない温度であればよいが、安全性や加工コストを考えると500℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。
化学反応や酵素反応を用いる従来法に比べると、加熱処理は、低エネルギーの方法であり、労力の点でも簡便な方法といえる。
【0038】
生成反応時の加熱時間も加熱温度と同様に限られたものではなく、効率的に目的の反応が進行する時間条件とすればよい。特に、加熱時間は加熱温度との兼ね合いによるものであり、加熱温度に応じた加熱時間にすることが望ましい。例えば、130℃付近で加熱する場合は、5分〜60分の加熱時間が望ましい。
【0039】
加熱時に必ずしも圧力を加える必要はないが、加圧させることは有効な手法であり反応効率面から適宜取り入れることができる。圧力条件も限られたものではなく、4−ビニルフェノール系化合物の生成反応が効率的に進む条件であればよい。圧力を上昇させることにより、分子に運動エネルギーをさらに付加することが可能であり、4−ビニルフェノール系化合物の生成効率を高めることができる。この観点から、加熱処理時には、0.1MPa以上の圧力を付加することが好ましい。また、作業上の安全性や、装置スペックに限界がある観点から、150MPa以下の圧力に調整することが好ましい。
【0040】
加熱時の熱源については、前記組成物の温度を110℃以上に加熱できるものであれば特に制限はなく、適切な反応容器を直火で加温、マイクロウェーブで加温、スチームで加温、温水で加温、電熱線で加温など何でも良く、容器を湯浴やオイルバス中で加温しても良い。また反応温度を上昇させる上で、水やアルコールよりも高沸点の液体油脂等を溶媒に使用することも有効な手法である。オートクレーブで加圧加温することや、工業的にはレトルト殺菌機を本目的のために使用して加熱する手法は、反応効率を高めた条件を設定できたなら、その作業性の高さから実用的であり好ましい。
中でも、前記加熱処理は、処理予定のプロポリスおよび金属塩を含む組成物を加熱および加圧しやすい観点から、オートクレーブ処理することが好ましい。使用するオートクレーブ装置については、加熱処理時に前記温度および圧力の範囲に調整できるものであればよく、特に限定はない。
【0041】
さらに、上記反応時のプロポリスおよび金属塩を含有する組成物のpH範囲は限られたものではなく、4−ビニルフェノール系化合物の生成反応が進むpHであればよい。
【0042】
4−ビニルフェノール系化合物を生成する反応条件を最適化するためには、プロポリスを含有する組成物と金属塩それぞれが、どのような状態のものを利用するかに合わせて、随時、反応条件を工夫することで、4−ビニルフェノール系化合物の生成量をより増大させることが可能である。
例えば、プロポリスを含有する組成物として、プロポリスのエタノール抽出物を、金属塩として炭酸水素ナトリウムを使用する場合について以下に挙げる。
プロポリスのエタノール抽出物は、それに含まれているプロポリスの固形分を考慮し、希釈または濃縮する必要がある。生成反応時のプロポリスの濃度としては0.01〜20重量%程度が好ましい。実際には3〜10%程度がより反応効率が高く、より好ましい。
また、炭酸水素ナトリウムは水溶性であるため、固形のままプロポリスのエタノール抽出物に添加して反応させるよりも、水に溶かして添加する方が反応性は高く、より好ましい。実際には0.01〜3重量%の炭酸水素ナトリウム水溶液が好ましく、0.05〜0.3重量%程度の水溶液にして、両者を反応させるとさらに好ましい。
なお、本発明では、エタノール抽出物以外の組成物、炭酸水素ナトリウム以外の金属塩を適当に選択した場合でも、それぞれ反応効率を考慮して適当な条件を調整すればよい。
【0043】
また、本発明において、加熱処理の際の温度、圧力そして時間を管理する方法は、様々な方法があり、どのような方法で制御を行ってもよい。
【0044】
本発明の生成方法により得られる4−ビニルフェノール系化合物は、プロポリスを含有する組成物を金属塩の存在下で該組成物温度を110℃以上となるように熱処理することで、未処理時よりもその含有量を顕著に高めることが可能な化合物である。
【0045】
反応後の組成物中に4−ビニルフェノール系化合物の含有量が増加したことは、公知の分析方法により確認できる。前述したように、自然産物であるプロポリスは、産地はもちろん、季節によっても成分が変動する天然物であるため、このような場合は原材料および反応後の組成物のロット差が生じることは容易に予測される。よって、反応物中の4−ビニルフェノール系化合物の生成について信頼性を確保するために、反応物中の4−ビニルフェノール系化合物の分析方法を確立しておくことは重要であると考えられる。例えば、反応後の固形物や溶液を一部採取し、溶媒抽出やカートリッジによる前処理の後に、ガスクロマトグラフィー、HPLC、NMR、質量分析などによる機器分析が挙げられる。得られたデータのピーク面積値や定量データをもとに正確に評価することが可能である。
【0046】
本発明の4−ビニルフェノール系化合物は、後述のように、優れた抗癌活性を有するために、これらの4−ビニルフェノール系化合物を含有した有効成分として含有する抗癌剤を提供することができる。また、前記抗癌剤では、他の有効成分を含有しても良い。
【0047】
また、本発明の4−ビニルフェノール系化合物は、前記抗癌効果を目的として、液状、ペースト状、ゲル状、および固形状の食品又は医薬品などとして使用することができる。
【0048】
例えば、食品の場合には、水、アルコール、澱粉室、蛋白質、繊維質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラル、着香料、着色料、甘味料、調味料、安定剤、防腐剤のような食品に通常配合される原料または素材と組み合わせて、また医薬品の場合には、担体、賦形剤、希釈剤、安定剤と組み合わせて、この4−ビニルフェノール系化合物を使用することが出来る。特に、本発明の4−ビニルフェノール系化合物の生理活性分野を考慮すると、癌予防・癌治療などの健康維持増進、さらには疾病治癒分野において用いることが好ましい。
【0049】
本発明の4−ビニルフェノール系化合物が持つさらなる効果効能は、得られた生理活性データより類推できる範囲で使用できる。
【0050】
本発明の4−ビニルフェノール系化合物を医薬用途で使用する場合、例えば、各々の化合物の摂取量は、所望の改善、治療又は予防効果が得られるような量であれば特に制限されず、通常その態様、患者の年齢、性別、体質その他の条件、疾患の種類並びにその程度等に応じて適宜選択される。1日当たり約0.1mg〜1,000mg程度とするのがよく、これを1日に1〜4回に分けて摂取することができる。
【0051】
本発明の4−ビニルフェノール系化合物は、機能性食品、健康食品、健康志向食品等の食品に使用することができる。食品の形態としては、例えば、飲料、アルコール飲料、ゼリー、菓子など、どのような形態でもよく、例えば、菓子類の中でも、その容量などから保存や携帯に優れた、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、タブレットなどが挙げられるが、特に限定はない。
【0052】
また、本発明の4−ビニルフェノール系化合物を医薬品または食品として経口から投与または摂取する場合には、常法に基づいて、錠剤、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等としてもよい。錠剤、丸剤、顆粒剤、顆粒を含有するカプセル剤の顆粒は、必要により、ショ糖などの糖類、マルチトールなどの糖アルコールで糖衣を施したり、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどでコーティングを施したりすることもできる。または胃溶性もしくは腸溶性物質のフィルムで被覆してもよい。また、製剤の溶解性を向上させるために、公知の可溶化処理を施すこともできる。常法に基づいて、注射剤、点滴剤に配合して使用してもよい。
【0053】
前記の医薬品または食品は、安全性に優れたものであるので、ヒトに対してだけでなく、例えば、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなどの哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類などの治療剤または飼料に配合してもよい。
【0054】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
(実施例1:新規化合物の生成)
プロポリスエキス(ブラジル産プロポリス原塊のエタノール抽出物。固形分13%。以下実施例における「プロポリスエキス」はこれを用いる。)100g、2.5%NaHCO3水溶液100mlを、オートクレーブ(SANYO LABO AUTOCLAVE)にて130℃、20分間、0.2MPaにて加熱した。得られた反応後組成物1mlをメタノールにて50mlにメスアップし、このうちの10μlをHPLCにより分析した。
HPLC分析は以下条件にて行った。
カラム:逆相用カラム「Develosil(登録商標)C−30−UG−5」(4.6mmi.d.×250mm)
移動相:A・・・H2O(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1ml/min
注入:10μl
検出:254nm
勾配(容量%):80%A/20%Bから20%A/80%Bまで30分間、20%A/80%Bから100%Bまで5分間、100%Bで10分間(全て直線)
【0056】
得られたクロマトグラムを図1に示す。上記の反応後に、増大したピークがいくつか確認されたことから、複数の化合物が生成されていることが確認された。中でも、※のピークで示された化合物は、下図におけるピークとの大きさの違いから、上記の反応により多量に生成されていることがわかる。
【0057】
(実施例2:新規化合物の単離・構造決定)
実施例1で得られた反応物として、図1の※で示したピークに含まれる化合物を分取HPLCにより精製した。単離精製した新規化合物は、無色透明油状物質となった。
【0058】
次いで、前記新規化合物の分子量を高分解能電子イオン化質量分析法(Electron Ionization-Mass Spectrometry)にて測定したところ、測定値は404.5410であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
理論値C27H32O3(M+) : 404.5412
分子式C27323
【0059】
次に、前記新規化合物を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、1H−NMR、13C−NMR及び各種2次元NMRデータの解析から式(1)で表される4−ビニルフェノール系化合物の構造であることを確認した。式(1)で表される4−ビニルフェノール系化合物は本発明の方法で効率的に生成できることが示された。
【0060】
なお、NMR測定値について、式(1)で表される4−ビニルフェノール系化合物の各部位を
【0061】
【化4】

【0062】
として、それぞれの1H核磁気共鳴スペクトル、13C核磁気共鳴スペクトルを表1に示す。
値はδ、ppmで、溶媒はCDCl3で測定した。
【0063】
【表1】

【0064】
また、前記4−ビニルフェノール系化合物の物理化学的性状は、以下のようになった。
(性状)
無色透明油状物質
(溶解性)
水: 不溶
メタノール: 可溶
エタノール: 可溶
DMSO: 可溶
クロロホルム: 可溶
酢酸エチル: 可溶
【0065】
(実施例3:抗癌作用)
次に癌細胞に対する4−ビニルフェノール系化合物の効果を見るため、HL−60細胞(Human promyelocytic leokemiacells:ヒト骨髄球性白血病細胞)を用いた癌細胞増殖抑制作用について試験した。
【0066】
細胞の培養としては、高栄養培地RPMI−1690(SIGMA R0883)に、4mMグルタミン(L−Glutamine SIGMA G8540−100G)、10%FBS(Foetal Bovine Serum Biological industries 04−001−1A)を添加したものを培養液とし、継代培養を行った。試験は細胞培養用96ウェルプレート(corning 3595)を用いた。試験当日にHL−60細胞を5×105cell/mlとなるように細胞数を調整し、96ウェルプレートに、1ウェルあたり100μlずつ播種した。
【0067】
試料は、実施例2で得られた4−ビニルフェノール系化合物及びアルテピリンC(和光純薬製)を用いた。試料調製については、各化合物をDMSO(ジメチルスルホキシド、Wako 046−21981)にて溶解し、HL−60細胞の培養液中の最終濃度が10、30、60、100、300μMとなるように調整し、試験を開始した。
【0068】
細胞増殖抑制効果の検出はcell counting kit−8(DOJINDO 347−07621)を用いて検出を行った。試験開始より24時間後、各ウェルにcell counting kit−8の検出液を10μl添加し、よく攪拌した。その後遮光反応を行い、プレートリーダー(BIO−RAD Model 680)を用いて450nmにて吸光度の測定を行い、得られたデータを処理した。
【0069】
得られた結果を図2に示す。図2に示すグラフの縦軸は細胞生存率を、横軸はそれぞれの試料の濃度について示している。また、細胞生存率とは、DMSOを添加した培養液にて処理を受けた細胞の生存細胞数を100%とし、それぞれの試料10、30、60、100、300μMにおける細胞の生存細胞数を相対値として算出した値である。各試料濃度と細胞生存率の関係から、細胞増殖を50%抑制する濃度IC50(50%阻害濃度:half maximal inhibitory concentration)を求めた。
図2の結果より、実施例2で得られた4−ビニルフェノール系化合物は、アルテピリンCよりも、細胞生存率が低く、HL−60細胞の増殖を抑制する効果がより高いことが示唆される。また、IC50は実施例2で得られた4−ビニルフェノール系化合物は70μM、アルテピリンCは、110μMと1.5倍程度効果が強いことがわかった。
【0070】
(実施例4:加熱温度による4−ビニルフェノール系化合物の生成量の違い)
プロポリスエキス1gと2.5%NaHCO3水溶液1mlを、オートクレーブにて110℃、120℃、130℃の各温度条件で20分間加熱した。それぞれの温度条件で得られた反応後組成物1mlをメタノールにて50mlにメスアップし、実施例2と同様にHPLCにより分析した。
【0071】
その結果、110℃、120℃、130℃いずれでも4−ビニルフェノール系化合物の生成は確認できたが、特に130℃での加熱がもっとも多く4−ビニルフェノール系化合物が生成していた。
【0072】
(実施例5:4−ビニルフェノール系化合物含有固形物の調製)
プロポリスエキス10g、2.5%NaHCO3水溶液を10ml加えて、オートクレーブにて130℃、20分間加熱した。得られた反応溶液を減圧加熱させて乾固し、固形物を1.5g得た。得られた固形物(以下「4−ビニルフェノール系化合物含有固形物」という)1.5g中には、実施例4と同様にメタノールで希釈してHPLCで確認したところ4−ビニルフェノール系化合物が0.025g含有されていた。必要に応じてこの作業を繰り返した。
【0073】
(実施例6:4−ビニルフェノール系化合物を含有する食品)
実施例5で得た4−ビニルフェノール系化合物含有固形物10gをあらかじめ100mLのエタノールに溶解させ、これに砂糖500g、水飴400gを混合溶解し、生クリーム100g、バター20g、練乳70g、乳化剤1.0gを混合した後、真空釜にて−550mmHg減圧させ、115℃の条件下で濃縮し、水分値3.0重量%のミルクハードキャンディを得た。本品は、菓子として食べ易いものであることはもちろん、癌治癒・予防を期待した保健機能食品としても利用できる。
【0074】
(実施例7:4−ビニルフェノール系化合物の調製)
実施例5で得た4−ビニルフェノール系化合物含有固形物30gから、分取HPLC(カラム:ODS C18)を用いて4−ビニルフェノール系化合物を精製し、0.5g得られた。必要に応じてこの作業を繰り返した。
【0075】
(実施例8:4−ビニルフェノール系化合物を含有する医薬品)
実施例6の方法で得た4−ビニルフェノール系化合物をエタノールに溶解し、これを微結晶セルロースに吸着させた後に、減圧乾燥させた。これを常法に従い、打錠品を得た。処方は、4−ビニルフェノール系化合物を10重量部、コーンスターチ23重量部、乳糖12重量部、カルボキシメチルセルロース8重量部、微結晶セルロース32重量部、ポリビニルピロリドン4重量部、ステアリン酸マグネシウム3重量部、タルク8重量部の通りである。本打錠品は、癌治癒を目的とする医薬品として有効に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される4−ビニルフェノール系化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【化1】

【請求項2】
請求項1記載の4−ビニルフェノール系化合物及びその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有する抗癌剤。
【請求項3】
請求項1に記載の4−ビニルフェノール系化合物及びその薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする食品又は医薬品。
【請求項4】
プロポリスを含有する組成物を、金属塩の存在下において、前記組成物温度110℃以上に加熱処理することを特徴とする、請求項1記載の4−ビニルフェノール系化合物又はその薬学的に許容可能な塩の生成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−12326(P2012−12326A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149793(P2010−149793)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】