説明

4−メチルペンテン−1(共)重合体を含む横延伸用樹脂フィルム、およびその製造方法

【課題】低倍率での横一軸延伸を均一に行うことが可能な、横延伸用の4-メチルペンテン-1(共)重合体を含むフィルムを提供すること。
【解決手段】4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む横延伸用樹脂フィルムであって:膜厚が65μm以上250μm以下であり、極限粘度〔η〕が0.5dl/g以上2.1dl/g以下であり、かつ160℃以上190℃以下の温度範囲で横方向に引張降伏点を有さない、横延伸用樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む横延伸用樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
4-メチルペンテン-1(共)重合体は透明性などに優れる。そこで、4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む、透明で均一性に優れた延伸フィルムが望まれていた。ところが、4-メチルペンテン-1(共)重合体は特異な結晶構造を有し、結晶化がおこりやすい。また4-メチルペンテン-1(共)重合体のフィルムは、破断伸度が比較的小さいため延伸ムラが生じやすく、または破断しやすいなどの理由で、均一な延伸フィルムとすることが困難であった。
【0003】
これらの欠点を克服するため、4-メチルペンテン-1(共)重合体のフィルムを、同時二軸延伸することが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、溶融樹脂フィルムを急冷して延伸用原反を作製することで、フィルムの結晶化度を低下させて、延伸用原反の延伸性を向上させることも提案されている。しかしながら従来の技術では、急冷した延伸用原反であっても、横延伸したときのフィルムの均一性、特に低倍率での横延伸の際のフィルムの均一性は不十分であった。そのため、均一な延伸フィルムを得るために、横延伸の後にさらに縦延伸を行ったり、横延伸の倍率を縦延伸の倍率よりも高く(例えば5倍に)設定したりする必要があった(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−185226号公報
【特許文献2】特開昭61−228932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
横延伸は、縦延伸と比較してロール上での傷つきを生じにくく、表面性状に優れた延伸フィルムを作製するのに好適である。また、特定の用途では、延伸による配向方向とフィルムの長手方向とを特定の角度に設定する必要があるので、横延伸フィルムが求められていた。しかし上述のように、4-メチルペンテン-1(共)重合体フィルムにおいて、低倍率の横一軸延伸を均一に行うことは困難であったため、均一な横一軸延伸フィルムを得るためには、高倍率に延伸する必要があった。高倍率に延伸すると薄い延伸フィルムしか得られないので、厚くかつ均一な横一軸延伸フィルムを得ることができなかった。また延伸倍率や延伸温度などでその特性を精密制御できる製造方法も提案されてこなかった。
【0006】
そこで本発明は、4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む樹脂フィルムであって、低倍率での横一軸延伸することができる、横延伸用の樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、鋭意検討の結果、結晶相および中間相の比率が低く、非晶相比率を高くすることが可能な、特定の極限粘度を有する押出しフィルムを横延伸用原反とすると、低倍率での均一横延伸が可能であること見出した。しかも、この横延伸用原反は、膜厚が大きくても、低倍率での均一横延伸が可能であることを見出して本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明の第一は、以下に示す横延伸用の樹脂フィルムおよびその製造方法に関する。
<1>:4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む横延伸用樹脂フィルムであって、膜厚が65μm以上250μm以下であり、極限粘度〔η〕が0.5dl/g以上2.1dl/g以下であり、かつ160℃および190℃において横方向に引張降伏点を有さない、横延伸用樹脂フィルム。
【0009】
<2>:前記4-メチルペンテン-1(共)重合体が、炭素数8以上のα-オレフィンから導かれる繰返し単位を3重量%以上含有する、<1>に記載の横延伸用樹脂フィルム。
<3>:<1>または<2>に記載の横延伸用樹脂フィルムの製造方法であって、(1)4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む樹脂組成物を、ダイから溶融押出しする工程、(2)前記工程により得られた被押出し体を、5℃以上25℃以下の冷却ロールに、静電密着法で固着する工程、および(3)前記被押出し体を、前記冷却ロール上で冷却固化する工程、を有する横延伸用樹脂フィルムの製造方法。
<4>:<1>または<2>に記載の横延伸用樹脂フィルムの製造方法であって、(1)4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む樹脂組成物を、ダイから溶融押出しする工程、(2)前記工程により得られた被押出し体を、5℃以上30℃以下の対向する複数の冷却ロール間に進入させる工程、および(3)前記被押出し体を、前記冷却ロール間で冷却固化する工程、を有する横延伸用樹脂フィルムの製造方法。
【0010】
また、本発明の第二は、以下に示す横延伸されたフィルムおよびその製造方法に関する。
<5>:4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む樹脂フィルムであって、膜厚が13μm以上227μm以下であり、TMA法で測定した160℃における熱寸法変化が、TD方向で−50から0%であり、MD方向で0から5%である、横延伸樹脂フィルム。
【0011】
<6>:<5>に記載の横延伸樹脂フィルムの製造方法であって、(4)<1>または<2>に記載の横延伸用樹脂フィルムを、160℃以上190℃以下の温度において、1.1倍以上5倍以下の延伸倍率でTD方向に延伸する工程、および(5)前記工程(4)で得られた延伸フィルムを、ヒートセットする工程、を有する横延伸樹脂フィルムの製造方法。
<7>:前記横延伸用樹脂フィルムが、<3>または<4>に記載の製造方法により得られたものである、<6>に記載の横延伸樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、低倍率で横一軸延伸された、4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む樹脂フィルムが得られる。つまり、本発明の4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む横延伸用フィルムは、横方向へ延伸されたときのネッキングが抑制され、広範囲の延伸倍率において厚みが均一な横延伸フィルムを提供することができる。したがって、本発明の横延伸用フィルムは、低倍率の横一軸延伸を均一に、かつ容易に行うことができ;しかも、従来よりも厚い樹脂フィルムであっても、低倍率で横一軸延伸を均一に行うことができる。
【0013】
このように本発明により、広い範囲の所望の延伸倍率の、4-メチルペンテン-1(共)重合体のフィルムを得ることができ、実用上高い価値を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、横延伸用の樹脂フィルム(横延伸用樹脂フィルム)および横延伸された樹脂フィルム(横延伸樹脂フィルム)に関するが、いずれにしても4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む樹脂フィルムに関する。
【0015】
本発明の横延伸用樹脂フィルムまたは横延伸樹脂フィルムに含まれる4-メチルペンテン-1(共)重合体とは、4-メチルペンテン-1から導かれる繰返し単位を有していればよく、それ以外の制限はない。つまり、4-メチルペンテン-1(共)重合体とは、4-メチルペンテン-1の単独重合体であっても、他の単量体との共重合体であってもよい。4-メチル-ペンテン-1(共)重合体における、4-メチル-ペンテン-1に由来する構成単位の含有率は、通常、85モル%以上であり、好ましくは90モル%以上である。
【0016】
4-メチル-ペンテン-1(共)重合体における、4-メチル-ペンテン-1との共重合成分は、4-メチル−ペンテン-1と共重合可能な単量体であればよい。4-メチル−ペンテン-1と共重合可能な単量体は、入手の容易さや共重合特性などの観点から、エチレンまたは炭素数3〜20のα-オレフィンが好ましく例示される。炭素原子数3〜20のα-オレフィンの例には、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが含まれる。なかでも、本発明の課題の一つである「均一延伸可能な樹脂フィルムを得る」という観点から、好ましい共重合成分として、炭素数8以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上のα-オレフィンが挙げられる。
【0017】
4-メチル-ペンテン-1(共)重合体における共重合成分に由来する構成単位の含有率は、通常は3重量%以上であり、好ましくは4重量%以上であり、さらに好ましくは5重量%以上である。
【0018】
4-メチル-ペンテン-1(共)重合体の、荷重5kg、温度260℃の条件にてASTM D1238に準じて測定したメルトフローレート(MFR)は、通常、おおよそ1〜400g/10分であり、好ましくは2〜200g/10分であり、さらに好ましくは5〜100g/10分の範囲であるが、特に横延伸フィルムの用途に応じて適宜設定されればよい。4-メチル-ペンテン-1(共)重合体のメルトフローレートが上記範囲内にあると、樹脂フィルムの成形性および延伸樹脂フィルムの外観が良好となる。
【0019】
また4-メチル-ペンテン-1(共)重合体の融点は、通常は100〜240℃であり、好ましくは150〜240℃の範囲にある。
【0020】
4-メチル-ペンテン-1(共)重合体は、従来公知の方法で製造することができ、例えば特開昭59−206418号公報に記載されているように、触媒の存在下に4-メチル-ペンテン-1と、必要に応じてエチレンまたはα-オレフィンとを(共)重合することにより得ることができる。
【0021】
4-メチル-ペンテン-1(共)重合体の極限粘度は、1.0〜4.5dL/gであることが好ましいが、必ずしも必要な要件ではない。一方、後述するように、本発明の横延伸用樹脂フィルムの極限粘度は重要な要件であるので、横延伸用樹脂フィルムの極限粘度が所望の範囲になるように4-メチル-ペンテン-1(共)重合体の極限粘度を設定することが好ましい。
【0022】
本発明の横延伸用樹脂フィルムまたは横延伸樹脂フィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、4-メチル-ペンテン-1(共)重合体に加えて、各種の添加剤を含有していてもよい。各種の添加剤の例には、可塑剤が含まれる。可塑剤の例には、パラフィン系、ナフテン系、アロマ系等の鉱油類;α-オレフィン類のオリゴマ−、コオリゴマ−;エステル系可塑剤;各種植物油;動物油などが含まれる。このような可塑剤は、横延伸用の樹脂フィルムの延伸時の成形加工性をさらに向上させうる。
【0023】
また、本発明の横延伸用樹脂フィルムまたは横延伸樹脂フィルムは、4-メチル-ペンテン-1(共)重合体に加えて、他の樹脂を含有していてもよい。他の樹脂の例には、ポリオレフィン類、ポリアミド類、ポリエステル類などが含まれる。
【0024】
さらに、本発明の横延伸用樹脂フィルムまたは横延伸樹脂フィルムには、耐候安定剤、耐熱安定剤、スリップ剤、核剤、顔料、染料などの、通常のポリオレフィンに添加して使用される各種配合剤を、本発明の目的を損なわない範囲で添加されうる。
【0025】
横延伸用の樹脂フィルムについて:
本発明の横延伸用樹脂フィルムは、1)膜厚が65μm以上250μm以下であること、2)極限粘度〔η〕が0.5dl/g以上2.1dl/g以下であること、3)160℃以上190℃以下の温度範囲で、横方向に引張降伏点を有さないこと、を特徴とする。
【0026】
本発明の横延伸用樹脂フィルムの膜厚は、65μm以上250μm以下であり、好ましくは70〜220μm、より好ましくは75〜200μmである。横延伸用の樹脂フィルムの厚みがこの範囲にあると、所望の延伸倍率で延伸すると、実用上多く用いられる13〜227μm程度の厚みの延伸フィルムを得ることができるからである。所望の延伸倍率とは、通常1.1〜5倍であり、好ましくは1.1〜4倍であり、より好ましくは1.5〜3倍である。延伸倍率1.1〜5倍の延伸フィルムは、その機械的諸特性や光学的諸特性を適切に制御されうるからである。
【0027】
本発明の横延伸用樹脂フィルムは、その極限粘度〔η〕が0.5dl/g以上2.1dl/g以下であることを特徴とする。当該範囲の極限粘度〔η〕を有する樹脂フィルムは、結晶相および中間相の比率が過大にならず(過剰に結晶化度が高まらずに)、均一な横延伸が実現できるからである。
【0028】
樹脂の結晶化度の向上を抑制するためには、従来は、樹脂を構成する高分子の分子量を上げること(つまり、樹脂のMFRを高めたり、極限粘度〔η〕を高めたりすること)により、結晶化を遅くすることが有効とされていた。一方、本発明の横延伸用樹脂フィルムは、比較的小さい分子量の4-メチル-ペンテン-1(共)重合体で構成されるため、その極限粘度が比較的低い。それにも係わらず、本発明の横延伸用樹脂フィルムは、驚くべきことに均一な横延伸が可能である。
【0029】
本発明の横延伸用樹脂フィルムは、160℃および190℃において横方向に引張降伏点を有さない。そのため、横延伸においてネッキングが生じにくく、低い延伸倍率であっても均一な横延伸を行うことができる。さらに、均一延伸をより容易に行うために、縦(MD)方向にも、引張降伏点を有さないことが好ましい。
【0030】
前記横方向に引張降伏点を有さない延伸用フィルムは、例えば延伸用フィルムの非晶化度を高くすることにより実現することができる。延伸用フィルムの好ましい非晶化度は、分子パラメータや製法によって異なるので一概に規定できないものの、通常37%以上、好ましくは39%以上、より好ましくは41%以上、さらに好ましくは45%以上である。
【0031】
特に、溶融押出しフィルムを片面から冷却して延伸用フィルムを得る場合は、非晶化度を41%以上とすることが好ましく;両面から冷却して延伸用フィルムを得る場合は、非晶化度を37%以上とすることが好ましい。フィルムの非晶化度は、試料量約5mg相当に切断した延伸用フィルムを使用し、50ml/minの窒素気流中−80℃〜300℃の間、昇温速度2℃/min、モジュレーション周期60sec、モジュレーション振幅±1℃でDSC測定を行い決定する。
【0032】
前記横方向に引張降伏点を有さない延伸用フィルムは、原料樹脂の非晶化度を高くすることによっても実現することができる。原料樹脂の好ましい非晶化度は、分子パラメータや製法によって異なるので一概に規定できないものの、通常50%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上である。
【0033】
原料樹脂の非晶化度の測定は、2mgのサンプル(サンプルパン内での計算上の膜厚は122μm)を、320℃で溶融した後、液体窒素で急冷した試料について行う。なお、原料樹脂の非晶化度が50%未満である場合には、実成形での冷却速度ではネッキングを伴うフィルムとなる可能性が高いため、より高い非晶化度の樹脂を原料とするか、冷却速度を高めるための処理を講ずることが好ましい。
【0034】
本発明の横延伸用樹脂フィルムは、160℃での破断伸びが600%以上であることが好ましく、700%以上であることがさらに好ましい。また、190℃での破断伸びが400%以上であることが好ましく、500%以上であることがさらに好ましい。破断伸びが上記要件を満たすと、局所的な不均一による破断の発生が有効に抑制され、5倍前後の高倍率での延伸を安定的に行うことができる。破断伸びを高めるためには、0.5dl/g以上2.1dl/g以下の範囲内において、できるだけ極限粘度を高めることが好ましい。
【0035】
さらに本発明の横延伸用樹脂フィルムは、ヘイズが5%以下であることが好ましい。ヘイズが5%以下であれば、横延伸されたフィルムのヘイズも低くすることが容易である。ヘイズの低いフィルムは、外観に優れた包装用フィルムや、光学損失の小さな光学用フィルムとして用いられうる。
【0036】
本発明の横延伸用樹脂フィルムは、任意の方法で製造され、製法に特に制限はない。例えば、4-メチル-ペンテン-1(共)重合体と、任意の材料とを含む樹脂組成物を、例えば溶融押出しや、溶融流延することによってフィルム成形することにより得ることできる。なかでも好ましい製造方法は、以下の(a)または(b)でありうる。
【0037】
(製法a):
(1)4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む樹脂組成物を、ダイから溶融押出しする工程、(2)前記工程により得られた被押出し体を5℃以上25℃以下の冷却ロールに静電密着法で固着する工程、および(3)前記被押出し体を前記冷却ロール上で冷却固化する工程と、を有する。
【0038】
製法aによれば、被押出し体である樹脂フィルムが冷却ロール上で急冷される。よって、樹脂フィルム中の非晶化部の割合が向上する。非晶化部の割合の高い樹脂フィルムは、更に容易な均一延伸が可能となる。製法aにより製造される樹脂フィルムの膜厚は65μm以上100μm以下であることが好ましい。冷却ロールで効率的に樹脂フィルムを冷却するためである。
【0039】
また、製法aにおける、(押出し前の)樹脂組成物には、静電密着時のイオン伝導性を付与するため、添加剤および/またはフィラーが添加されていることが好ましく、それにより300℃での溶融樹脂の交流体積抵抗率(20V100HZで、10℃/minで昇温し、4分後測定)を1×10〜1×1012Ω・cmとすることが好ましい。静電密着法により、被押出し体である樹脂フィルムを、冷却ロールに密着性よく固着するためである。静電密着法とは、フィルムの片面に静電荷を付与し、この静電力でシートを冷却ロールに密着させる方法をいう。
【0040】
(製法b):
(1)4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む樹脂組成物を、ダイから溶融押出しする工程、(2)前記工程により得られた被押出し体を、5℃以上30℃以下の対向する複数の冷却ロール間に進入させる工程、および(3)前記被押出し体を前記冷却ロール間で冷却固化する工程と、を有する。
【0041】
製法bによれば、被押出し体である樹脂フィルムが、複数の冷却ロール間に狭圧されたまま冷却される。よって、比較的膜厚の大きな樹脂フィルムも冷却されやすく、非晶化部の割合が高まり、均一延伸しやすくなる。前記の通り、本発明の横延伸用の樹脂フィルムの膜厚は、65μm以上250μm以下であることが好ましいが、比較的膜厚の大きい横延伸用の樹脂フィルムを製造する場合には、製法bを採用することが好ましい。
【0042】
樹脂フィルムを狭圧する複数の冷却ロールのうち、キャストロールは金属キャストロールであることが好ましく;かつタッチロールは、可撓性を有する薄肉金属外筒を有するフレキシブルロールまたはスリーブタッチロールであることが好ましい。
【0043】
横延伸された樹脂フィルムについて:
本発明の横延伸された樹脂フィルム(横延伸樹脂フィルム)は、1)膜厚が13μm以上227μm以下であること、2)TMA法で測定した160℃における熱寸法変化が、TD方向で−50〜0%であり、MD方向で0〜5%であること、を特徴とする。
【0044】
本発明の横延伸樹脂フィルムは、その用途に応じて所望の膜厚に設定されうる。横延伸樹脂フィルムの用途は特に限定されず、包装用、医療用、光学用、電気電子用などの各種用途に適用されうる。これらの用途に適用するには、通常、膜厚が13μm以上227μm以下であることが好ましい。
【0045】
本発明の横延伸樹脂フィルムのMD方向の熱寸法変化が小さいことが好ましい。具体的には、昇温速度5℃/min、試料サイズ3mm幅、測定荷重9.8mNの条件下でTMA法により測定された、160℃におけるMD方向の熱寸法変化が、通常+5%以下であり、好ましくは+3%以下であり、より好ましくは+1%以下である。MD方向の熱寸法変化は、延伸条件やヒートセット条件などによって制御される。
【0046】
前記熱寸法変化が+5%以下であると、高温使用時のフィルム皺を防止でき、さらに高温で長時間使用しても機械的性質や光学的性質が安定する。よって、小型電気電子機器、車載用機器等に搭載して使用する際に特に好適である。一方、TD方向の熱寸法変化も、用途により適宜調整される。
【0047】
本発明の横延伸樹脂フィルムの23℃での機械物性は、MD方向、TD方向ともに破断強度が20MPa以上、引張弾性率が500MPa以上、破断伸びが50%以上であることが好ましい。上記要件を満たすと、使用の際の破断が有効に抑制され、特に応力がかかる箇所での使用に好適である。
【0048】
本発明の横延伸樹脂フィルムのヘイズは、4%以下であることが望ましい。ヘイズが4%以下であれば、外観に優れた包装用フィルムや、光学損失の小さな光学用フィルムとして使用することができる。
【0049】
前述の横延伸用の樹脂フィルムは、横延伸をしたときにネッキング延伸を生じさせにくいため、横延伸用の樹脂フィルムの膜厚分布にほぼ対応した膜厚分布を有する横延伸樹脂フィルムを得ることができる。そのため、横延伸用の樹脂フィルムの厚さ均一性を高めることにより、横延伸樹脂フィルムの膜厚の均一性も高くすることができる。
【0050】
本発明の横延伸樹脂フィルムは、所定の素材、膜厚、熱寸法変化が所定の条件を満たしていればよく、その製造方法に特に制限はない。例えば、前述の横延伸用の樹脂フィルムを横延伸して得ることができ、以下の(製法c)で製造されうる。
【0051】
(製法c):
(4)前述の横延伸用の樹脂フィルムを、160℃以上190℃以下の延伸温度において、1.1倍以上5倍以下の延伸倍率でTD方向に延伸する工程、および(5)前記工程(4)で得られた延伸フィルムを、ヒートセットする工程を有する。
【0052】
製法cにおいて用いられる横延伸用の樹脂フィルムは、前記(a製法)または(b製法)により製造された樹脂フィルムでありうる。
【0053】
延伸温度が低すぎると、ネッキング延伸が発生することがあり;ネッキング延伸が発生すると、延伸フィルムの膜厚が不均一となることがあり好ましくない。一方、延伸温度が高すぎると、所定の延伸倍率が得られなくなるだけでなく、膜厚分布が大きくなる恐れがあり、好ましくない。
【0054】
延伸倍率が低すぎると、横延伸樹脂フィルムのヘイズを低減したり、熱膨張率を低減したりすることができず、かつ機械特性も改善されにくいため好ましくない。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限を受けない。
【0056】
各実施例および比較例で使用した4-メチルペンテン-1(共)重合体を、表1に示す。表1に示された4-メチルペンテン-1(共)重合体は、4-メチルペンテン-1の単独重合体であるか(原料No1および2);4-メチルペンテン-1とデセン-1との共重合体であるか(原料No3、4および11);4-メチルペンテン-1と1-ドデセン・1-テトラデセン混合物との共重合体であるか(原料No5);4-メチルペンテン-1とヘキサデセン・オクタデセン混合物との共重合体である(原料No6〜10)。共重合体はランダム共重合体であり、かつ共重合成分の含有率は表1に示された通りである。
【0057】
4-メチルペンテン-1(共)重合体の特性が、表1に示される。各特性は、特に別段の記載が無い限り、以下の方法で評価した。
【0058】
(1)極限粘度[η]:デカリン溶媒中、135℃で測定した。
【0059】
(2)結晶化度Xc:DSC法で測定した。
測定装置は、Q2000(TA Instruments社製)を用いた。パウダー状またはペレット状の原料を測定試料として、320℃で溶融後、液体窒素にて冷却固化した後、50ml/minの窒素気流中−80℃〜300℃の間、昇温速度10℃/minでDSC測定を行った。試料量は約2mg(サンプルパン内での計算上の膜厚は122μm)、および約5mg(サンプルパン内での計算上の膜厚は305μm)とした。
【0060】
得られた測定チャートより、融解熱量ΔHを読み取った。4-メチルペンテン-1の単独重合体の完全結晶物の結晶融解熱量を、118.35J/gとして、「結晶化度Xc(%)=ΔH/118.35×100」の計算式にあてはめて、結晶化度Xc(%)を求めた。
【0061】
(3)非晶化度Xa:温度変調DSC法で測定した。
結晶化度と同様に、測定装置はQ2000(TA Instruments社製)を用いた。パウダー状またはペレット状の原料を測定試料として、320℃で溶融後、液体窒素にて冷却固化した後、50ml/minの窒素気流中−80℃〜300℃の間、昇温速度2℃/min、モジュレーション周期60sec、モジュレーション振幅±1℃でDSC測定を行った。試料量は約2mg(サンプルパン内での計算上の膜厚は122μm)、および約5mg(サンプルパン内での計算上の膜厚は305μm)とした。
【0062】
可逆成分から、ガラス転移温度の中心温度(Tg)と、Tgにおける比熱差(ΔCp)を読み取った。4-メチルペンテン-1の単独重合体の完全非晶物の比熱差を、0.400J/g℃として、「非晶化度Xa(%)=ΔCp/0.400×100」の計算式にあてはめて、非晶化度Xa(%)を求めた。
【0063】
【表1】

【0064】
各実施例および比較例において、表1に示された4-メチルペンテン-1(共)重合体(原料No1〜11)を用いて溶融押出しフィルムを作製し;作製した溶融押出しフィルムを横延伸して、延伸フィルムを得た。溶融押出しフィルムや、延伸フィルムの各物性を、以下の方法で評価した。
【0065】
(1)フィルム膜厚:延伸用のフィルムおよび延伸フィルムの膜厚を、YMABUN製 TOF−4R厚み計を使用して1cm間隔で測定し、測定値の平均を求めた。
【0066】
(2)フィルムのヘイズ:延伸用のフィルムおよび延伸フィルムのヘイズを、東京電色製オートマチックヘイズメータMODEL:Tc−HIIIDRKを使用し、JIS K7105−1981に準拠し測定した。
【0067】
(3)フィルムの極限粘度[η]およびフィルムの非晶化度:4-メチルペンテン-1(共)重合体と同様の手法で求めた。
【0068】
(4)引張試験:引張試験は、恒温槽付き引張試験機オリエンテック製RTG−1250を使用し、各測定温度(130℃、160℃、190℃)にて、試料幅5mm、チャック間30mm、試験速度30mm/minの条件で、引張降伏点の有無と、引張破断伸度(TD破断伸び%)を測定した。TD破断伸びは、n=3で測定し、その平均値(%)とした。
【0069】
(5)延伸可否:160℃で延伸した場合に、ネッキング延伸を生じなかった場合を「○」とし;ネッキング延伸が生じた場合を「×」とした。
【0070】
(6)延伸倍率:連続のクリップテンター方式の横延伸機の設定延伸倍率、またはバッチ延伸機(岩本製作所製)の設定延伸倍率を、延伸倍率とした。
【0071】
(7)延伸フィルムの外観:目視で50cm長の範囲内に観察される欠点がない場合を「◎」、目視で気泡の同伴による欠点が一部に観察されるものの、白濁は見られない場合を「○」、目視で白濁または、表面にメルトフラクチャーによる凹凸が認められる場合を「×」とした。
【0072】
(8)熱寸法変化:熱寸法変化は、TMA法により、昇温速度5℃/min、試料サイズ3mm幅、チャック間10mm、測定荷重9.8mNの条件下で、160℃における熱膨張率(+)または熱収縮率(−)を測定した。装置は、セイコーインストルメンツ社製 TMA/SS6000を使用した。
【0073】
[実施例1]
表1の原料No7の4-メチルペンテン-1(共)重合体を樹脂原料とした。
原料7(融点226.7℃,直径約200μmの樹脂粉末粒子)100重量部に、耐熱安定剤であるヒンダードフェノール系化合物のテトラキス〔メチレン-3(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(チバガイギー(株)製、商品名:イルガノックス1010)0.89重量部、およびステアリン酸カルシウム0.3重量部を添加した。得られた樹脂組成物を、減圧下窒素置換後、窒素気流下で二軸押出機(株式会社日本製鋼所製:TEX65α−42BPW)に供給し、押出温度250℃、ダイス温度300℃、押出量30kg/hrで幅1170mm、リップ間0.5mmのTダイから押出した。
【0074】
押出し樹脂を、ただちにロール温度25℃に冷却されたキャストロールに、静電密着法により密着固化させて、引取り速度を16.5m/minで巻き取った。作製したフィルムの厚さは、TD方向の平均で84μmであった。フィルムの極限粘度は1.9dl/gであった。
【0075】
得られたフィルムを延伸原反(延伸用のフィルム)として、クリップテンター方式の横延伸機(株式会社日本製鋼所製)に導入し、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱処理ゾーンともに温度160℃で、TD方向に2倍延伸を実施して横延伸フィルムを得た。
【0076】
[比較例1]
引取速度を12.0m/minとすること以外は、実施例1と同様に延伸フィルムを得た。
【0077】
[実施例2]
ステアリン酸カルシウムの添加量を0.1重量部とした以外は、実施例1と同様に延伸フィルムを得た。
【0078】
[比較例2]
樹脂原料を表1の原料8とした以外は、実施例2と同様に延伸フィルムを得た。
【0079】
[実施例3および4]
樹脂原料を表1の原料9として、膜厚70μmおよび膜厚65μmの延伸原反を得た。得られた延伸原反を実施例1と同様に延伸して延伸フィルムを得た。
【0080】
[実施例5]
樹脂原料を表1の原料10としたこと以外は、実施例2と同様に延伸フィルムを得た。
【0081】
[比較例3]
樹脂原料を、表1の原料6と原料7のブレンド(比率;50wt%/50wt%)とし、かつ引取速度を16.5m/minとする以外は、実施例1と同様に延伸フィルムを得た。
【0082】
[比較例4]
樹脂原料を表1の原料6とし、押出温度を300℃、幅を350mm、リップ間を1.1mm、引取速度を10m/minとした以外は、実施例1と同様に延伸フィルムを得た。
【0083】
各実施例および比較例で得られた横延伸用フィルムおよび横延伸フィルムの特性を表2に示す。表2における「*1」は、薄膜化が困難であったことを意味し;「*2」は、MD破断伸びが700%であったことを意味し;「*3」は、原料6と原料7のブレンド比率が50wt%/50wt%であることを意味する。
【0084】
【表2】

【0085】
[実施例6]
ペレット形状の原料11を使用し、90mmφ単軸押出機にて、押出温度310℃、押出量90kg/hrで、幅700mm、リップ間0.5mmのTダイから押出した。押出樹脂を、ただちに約15〜20℃に冷却したフレキシブルロールとキャストロール間で密着固化させて、引取り速度を15.0m/minで巻き取った。
【0086】
得られたフィルムを延伸原反として、クリップテンター方式の横延伸機(株式会社日本製鋼所製)に導入し、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱処理ゾーンともに温度160℃でTD方向に2倍延伸を実施した。得られた横延伸フィルムの特性を、表3に示す。
【0087】
[実施例7および8]
ペレット形状の原料5を使用し、40mmφ単軸押出機にて、押出温度320℃で押出し、スリーブタッチロール(千葉機械工業製)で、キャストロールおよびスリーブタッチロールを15℃に設定し、135μm(実施例7)および200μm(実施例8)のフィルムを得た。
【0088】
得られたフィルムを延伸原反として、岩本製作所製バッチ式延伸機で延伸およびヒートセットした。予熱温度160℃、予熱時間、3min、延伸温度160℃、延伸速度は10mm/sec、延伸方向はTD方向とした。ヒートセットは、チャッキングしたまま、槽内温度を5℃上げた後、3min間保持して行った。
【0089】
[比較例5および6]
ペレット形状の原料5を使用し、40mmφ単軸押出機にて、押出温度320℃で押出し、静電密着法で、40℃に設定されたロールに密着させて、200μm(比較例5)および80μm(比較例6)のフィルムを得た。得られたフィルムを延伸原反として、実施例6と同様にして延伸フィルムを得た。
【0090】
[比較例7]
300mmφの金属ロール間で成形し、引取速度を7m/minにした以外は、比較例4と同様な方法で実施した。得られたフィルムを延伸原反として、実施例6と同様にして延伸フィルムを得た。
【0091】
各実施例および比較例で得られた横延伸用フィルムおよび横延伸フィルムの特性を表3に示す。表3における「*4」は、バッチ式延伸機で延伸したことを意味する。
【0092】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む樹脂フィルムの横一軸延伸を、低倍率で均一に行うことが可能となる。しかも本発明によれば、従来よりも厚い樹脂フィルムの横一軸延伸を、低倍率で均一に行うことができる。そのため、広い範囲で所望の延伸倍率を有する樹脂フィルムを得ることができる。
【0094】
本発明の横延伸フィルムは、均一性、延伸倍率(膜厚)の自由度に優れるので、包装用、医療用、光学用、電気電子部品用など、広い産業分野において各種の用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む横延伸用樹脂フィルムであって、
膜厚が65μm以上250μm以下であり、極限粘度〔η〕が0.5dl/g以上2.1dl/g以下であり、かつ160℃および190℃において横方向に引張降伏点を有さない、横延伸用樹脂フィルム。
【請求項2】
前記4-メチルペンテン-1(共)重合体が、炭素数8以上のα-オレフィンから導かれる繰返し単位を3重量%以上含有する、請求項1に記載の横延伸用樹脂フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の横延伸用樹脂フィルムの製造方法であって、
(1)4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む樹脂組成物を、ダイから溶融押出しする工程、
(2)前記工程により得られた被押出し体を、5℃以上25℃以下の冷却ロールに、静電密着法で固着する工程、および
(3)前記被押出し体を、前記冷却ロール上で冷却固化する工程、を有する横延伸用樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の横延伸用樹脂フィルムの製造方法であって、
(1)4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む樹脂組成物を、ダイから溶融押出しする工程、
(2)前記工程により得られた被押出し体を、5℃以上30℃以下の対向する複数の冷却ロール間に進入させる工程、および
(3)前記被押出し体を、前記冷却ロール間で冷却固化する工程、を有する横延伸用樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
4-メチルペンテン-1(共)重合体を含む樹脂フィルムであって、
膜厚が13μm以上227μm以下であり、TMA法で測定した160℃における熱寸法変化が、TD方向で−50から0%であり、MD方向で0から5%である、横延伸樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の横延伸樹脂フィルムの製造方法であって、
(4)請求項1または2に記載の横延伸用樹脂フィルムを、160℃以上190℃以下の温度において、1.1倍以上5倍以下の延伸倍率でTD方向に延伸する工程、および
(5)前記工程(4)で得られた延伸フィルムを、ヒートセットする工程、を有する横延伸樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記横延伸用樹脂フィルムが、請求項3または4記載の製造方法により得られたものである、請求項6に記載の横延伸樹脂フィルムの製造方法。


【公開番号】特開2010−222531(P2010−222531A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74204(P2009−74204)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】