説明

4−(3’−クロロ−4’−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリンの製造方法

【課題】薬理学的に有効なキナゾリン誘導体の製造に有用な手段を提供する。
【解決手段】式II及び式IIIの化合物の中間体はそれぞれ、キナゾリン誘導体、4−(3’−クロロ−4’−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリンのような薬理学的に有効なキナゾリン誘導体の製造方法に有用である。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗増殖特性を有し、ヒトのような温血動物におけるがんの治療又は予防に有用な化合物の製造に役立つ、改良された化学プロセス及び中間体に関する。特に、本発明は、抗増殖活性を有するキナゾリン誘導体、又はその製薬学的に許容しうる塩の製造に有用な化学プロセス及び中間体に関する。本発明はまた、前記中間体の製造方法、及び前記中間体を利用するそのようなキナゾリン誘導体の製造方法にも関する。
【0002】
特に、本発明は、国際特許出願WO96/33980の実施例1に開示されている化合物である、キナゾリン誘導体4−(3’−クロロ−4’−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリンの製造に有用な化学プロセス及び中間体に関する。該化合物は、erbB1のようなチロシンキナーゼ酵素の上皮増殖因子受容体(EGFR)ファミリーのインヒビターで、抗がん活性のような抗増殖活性を有しており、従ってヒト又は動物体内のがんのような増殖性疾患の治療法に有用である。
【0003】
該化合物は、式I:
【0004】
【化1】

【0005】
の構造を有し、現在イレッサ(Iressa、登録商標)及びゲフィチニブ(米国一般名)として、並びにコード番号ZD1839及びケミカルアブストラクツ登録番号184475−35−2によって知られている。
【0006】
国際特許出願WO96/33980には式Iの化合物の2つの製造経路が開示されている。それぞれの経路は、化合物4−(3’−クロロ−4’−フルオロアニリノ)−6−ヒドロキシ−7−メトキシキナゾリンを中間体として使用し、合成の最終段階で6位に3−モルホリノプロポキシ側鎖の形成を伴う。これらの既存の経路は比較的少量の式Iの化合物の合成には十分であるが、それらは収斂型(convergent)合成というより直線型合成を伴うので、それぞれ複数回のクロマトグラフィー精製ステップの使用及び相当数の中間体の単離を必要とする。従って、これらの合成の総体的収率は高くない。そこで、大量の式Iの化合物の製造に使用するのに適切な、該化合物のより効率的な合成が求められている。新規合成は、コストが高く時間もかかるクロマトグラフィー精製操作を伴わないのがよい。
【0007】
今回我々は式Iの化合物の製造に適切な方法を考案した。新規方法は、最終生成物を大規模に高品質及び高収率で製造することを可能にするという点で好都合である。該方法は従前の経路より収斂的で、単離しなければならない中間体の数をかなり削減することを許容する。これにより時間及びコストに著しい利益がもたらされる。クロマトグラフィーに
よる精製操作は必要ない。本発明に従って、式Iの化合物の調整に使用されうる主要中間体の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の第一の側面に従って、式II:
【0009】
【化2】

【0010】
の7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)−3,4−ジヒドロキナゾリン−4−オンの製造方法を提供する。該方法は、
(a)式III:
【0011】
【化3】

【0012】
の4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)−2−ニトロベンゾニトリルを還元して、式IV:
【0013】
【化4】

【0014】
の2−アミノ−4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)ベンゾニトリルを得、(b)式IVの化合物を水和して、式V:
【0015】
【化5】

【0016】
の2−アミノ−4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)ベンズアミドを得、そして
(c)式Vの化合物のギ酸、又はその反応性誘導体による環化反応で式IIの化合物を得ることを含む。
【0017】
ステップ(a)のプロセスに関し、還元は、そのようなトランスフォーメーションのために知られている多くの方法のいずれかによって都合よく実施されうる。例えば、還元は、炭素及び/又は硫酸バリウムのような不活性担体上のパラジウム又は白金などの適切な金属触媒の存在下、不活性溶媒又は希釈剤(例えば水)、極性プロトン性溶媒(例えばメタノール又はエタノール)、又は極性非プロトン性溶媒(例えば酢酸エチル)の中で、該ニトロ化合物の溶液の水素化によって実施できる。さらに適切な還元剤は、例えば、活性鉄(鉄粉を塩酸、臭化水素酸、硫酸又は酢酸のような酸の希釈溶液で洗浄して製造する)のような活性金属である。従って、例えば、還元は、ニトロ化合物と活性金属の混合物を、極性プロトン性溶媒、又は水とアルコール(例えばメタノール又はエタノール)との混合物のような適切な溶媒又は希釈剤中で、例えば30〜150℃の範囲の温度、好都合には70℃又はその付近の温度で加熱することによって実施できる。さらに適切な反応条件は、例えば、ギ酸アンモニウム又は水素ガスを、触媒(例えばパラジウム−オン−カーボンのような金属触媒)の存在下で使用することなどである。還元は、亜ジチオン酸ナトリウムのような水溶性無機還元剤の存在下、例えば20〜100℃の範囲の温度、好都合には50℃又はその付近の温度で実施するのが好都合である。
【0018】
ステップ(b)のプロセスに関し、反応は、そのようなトランスフォーメーションのために知られている多くの方法のいずれかによって都合よく実施されうる。例えば、水和は、酸性又は塩基性条件下で実施できる。適切な塩基は、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウムの炭酸塩又は水酸化物(例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム若しくは水酸化アンモニウム)である。反応は、水及び適切な溶媒又は希釈剤、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール又はペンタノールのような極性プロトン性溶媒の存在下で都合よく実施できる。反応は20〜150℃の範囲の温度、適切には75℃又はその付近の温度で実施できる。水和反応は、水酸化カリウムのようなアルカリ金属塩基の存在下、2−ブタノール、tert−ブタノール又はtert−アミルアルコールのような極性プロトン性溶媒中、例えば60〜100℃の範囲の温度、好都合的には80℃又はその付近の温度で実施するのが好都合である。
【0019】
ステップ(c)のプロセスに関し、適切なギ酸の反応性誘導体は、例えば、ギ酸アミド(例えばホルムアミド又は−ジメチルホルムアミド);混合無水物、例えばギ酸とクロロホルメート(例えばイソブチルクロロホルメート)との反応によって形成される無水物;ギ酸とカルボジイミド(例えばジシクロヘキシルカルボジイミド又は1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド)との反応の生成物;又はギ酸と、アゾ化合物(例えばジエチル又はジ−tert−ブチルアゾジカルボキシレート)及びホスフィン(例えばトリフェニルホスフィン)の混合物との反応の生成物である。
【0020】
環化反応は、適切な不活性溶媒又は希釈剤、例えば、極性非プロトン性溶媒(例えばアセトニトリル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン若しくは1,4−ジオキサン)、又は双極性非プロトン性溶媒(例えば−ジメチルホルムアミド、−ジメチルアセトアミド、−メチルピロリジン−2−オン若しくはジメチルスルホキシド)の存在下で都合よく実施できる。反応は、反応物及び溶媒として働く過剰のホルムアミドの存在下で都合よく実施できる。反応は例えば50〜150℃の範囲の温度、好都合には100℃又はその付近の温度で実施するのが好都合である。環化反応は、ギ酸及びホルムアミドの存在下、例えば50〜150℃の範囲の温度、好都合には100℃又はその付近の温度で実施するのが好都合である。
【0021】
式IVの中間体は、本発明の更なる特徴を構成する新規化合物である。好都合には、式IV及びVの中間体はそのものとして単離せず、それぞれ有機溶媒中の溶液として調製及び使用される。それにより、式IIの化合物は式IIIの化合物からワンポット(one-pot)法で製造できる。
【0022】
本発明のこの第一の側面において、商業的に許容しうる収率及び高品質の式IIの化合物が提供される。式IIの化合物の調整は、国際特許出願WO01/04102の実施例25に既述されている。その合成経路は、酸性条件下、高めた温度での式Iの化合物の切断を伴う。式IIの化合物はケミカルアブストラクツ登録番号199327−61−2を付与されている。式Vの化合物も公知化合物である。該化合物は特開平11−292855の参考例3に記載されており、それによれば該化合物は対応する4,5−ジ置換アントラニル酸から合成し得ると記載されている。式Vの化合物はケミカルアブストラクツ登録番号246512−44−7を付与されている。
【0023】
キナゾリン−4−オン類の製造方法は、特許出願WO03/051849(2003年6月26日公開)及びWO03/064377(2003年8月7日公開)に記載され、2−アミノ安息香酸誘導体を、例えばアンモニア及びギ酸又はその誘導体(例えばギ酸エステル又はオルトギ酸エステル)を用いて環化することを伴う。
【0024】
式IIの化合物は、従来法を用いて式Iの化合物に転化できる。例えば、式IIの化合物を、塩化チオニル、酸塩化リン又は四塩化炭素とトリフェニルホスフィンとの混合物のようなハロゲン化剤と反応させて、式VI:
【0025】
【化6】

【0026】
の4−クロロ−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリンを製造し、これを置換反応で3−クロロ−4−フルオロアニリンと反応させて式Iの化合物を得ることができる。
【0027】
置換反応は、適切な酸の存在下又は適切な塩基の存在下で都合よく実施できる。適切な酸は、例えば無機酸(例えば塩化水素若しくは臭化水素)である。適切な塩基は、例えば、有機アミン塩基(例えばピリジン、2,6−ルチジン、コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、モルホリン、−メチルモルホリン若しくはジアザビシクロ[5.4.0]ウンデス−7−エン)、又は、例えば、アルカリ若しくはアルカリ土類金属の炭酸塩若しくは水酸化物(例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム)、又は、例えば、アルカリ金属の水素化物(例えば水素化ナトリウム)である。反応は、適切な不活性溶媒又は希釈剤、例えば、アルコール(例えばイソプロパノール、sec−ブタノール若しくはtert−ブタノール)、エステル(例えば酢酸エチル)、ハロゲン化溶媒(例えば塩化メチレン、クロロホルム若しくは四塩化炭素)、エーテル(例えばテトラヒドロフラン若しくは1,4−ジオキサン)、芳香族溶媒(例えばトルエン)、又は双極性非プロトン性溶媒(例えば−ジメチルホルムアミド、−ジメチルアセトアミド、−メチルピロリジン−2−オン若しくはジメチルスルホキシド)の存在下で都合よく実施される。反応は、例えば10
〜250℃の範囲、適切には40〜120℃の範囲の温度で都合よく実施される。
【0028】
典型的には、置換反応は、イソプロパノールのようなプロトン性溶媒の存在下、例えば25〜150℃の範囲の温度、好都合には反応溶媒の還流温度又はその付近の温度で実施されうる。所望により、置換反応は、酸、例えばジエチルエーテル中の塩化水素ガス、又は式IIの化合物を塩化チオニルのようなハロゲン化剤と反応させたときに形成される塩化水素の存在下で、実施してもよい。
【0029】
式Iの化合物は、このプロセスから遊離塩基の形態で得られる。あるいは、塩酸塩のような酸付加塩の形態で得ることもできる。塩から遊離塩基を得るのが望ましい場合、該塩を適切な塩基、例えば有機アミン塩基(例えばピリジン、2,6−ルチジン、コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン若しくはジアザビシクロ[5.4.0]ウンデス−7−エン)、又は、例えば、アルカリ若しくはアルカリ土類金属の炭酸塩若しくは水酸化物(例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム)で処理すればよい。
【0030】
好都合には、式VIの中間体はそのものとして単離せず、有機溶媒中の溶液又はスラリーとして使用する。それにより、式Iの化合物は式IIの化合物からワンポット法で製造できる。式IIの化合物から式Iの化合物への転化(conversion)の説明は以下の実施例2〜4に提供した。
【0031】
以下の実施例3及び4に記載の方法は、式Iの化合物のジメチルスルホキシド一溶媒和物の形成と、その式Iの化合物への逆転化に関する。これらのステップは、高純度で総体的収率も高い式Iの化合物を提供する精製工程を構成する。
【0032】
式II及び式IIIの化合物並びに式IV及び式Vの中間体はそれぞれ、式Iの化合物のよう
な薬理学的に有効なキナゾリン誘導体の製造方法に有用である。
式IIIの2−ニトロベンゾニトリル化合物は、式IIの化合物の製造に至るプロセスの出
発材料を構成する新規化合物である。従って、式IIIの化合物は、本発明の更なる特徴を
構成する新規化学中間体である。
【0033】
モノニトロ化芳香族エーテル化合物の製造方法は国際特許出願WO02/48089(2002年6月20日公開)に記載されている。それには、例えば、4−アルコキシ安息香酸エステルを、硫酸及び有機溶媒の存在下で1〜2当量の硝酸と反応させることによってモノニトロ化できると開示されている。化合物メチル4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)−2−ニトロベンゾエートについての開示はあるが(その実施例5及び6)、式IIIの2−ニトロベンゾニトリル化合物については開示されていない。
【0034】
本発明の第二の側面に従って、式III:
【0035】
【化7】

【0036】
の4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)−2−ニトロベンゾニトリルの製造方法を提供する。該方法は、
(a)式VII:
【0037】
【化8】

【0038】
の3−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾニトリルを、式VIII:
【0039】
【化9】

【0040】
[式中、Zは置換可能基]の3−モルホリノプロパン誘導体とカップリングさせて、式IX:
【0041】
【化10】

【0042】
の4−メトキシ−3−(3−モルホリノプロポキシ)ベンゾニトリルを得、そして
(b)式IXの化合物をニトロ化して式IIIの4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポ
キシ)−2−ニトロベンゾニトリルを得ることを含む。
【0043】
ステップ(a)のプロセスに関し、該カップリングステップは好都合には、そのようなトランスフォーメーションのために知られている多くの方法のいずれかによって実施できるアルキル化反応であり得る。アルキル化反応に関し、適切な置換可能基Zは、例えば、ハロゲノ、アルコキシ、アリールオキシ又はスルホニルオキシ基、例えば、クロロ、ブロモ、メトキシ、フェノキシ、メタンスルホニルオキシ又は4−トルエンスルホニルオキシ基である。アルキル化は、例えば、適切な塩基の存在下、適切な不活性溶媒又は希釈剤中で、例えば10〜150℃の範囲の温度、好都合には80℃又はその付近の温度で実施できる。
【0044】
適切な塩基は、例えば、有機アミン塩基(例えばピリジン、2,6−ルチジン、コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン若しくはジアザビシクロ[5.4.0]ウンデス−7−エン)、又は、例えば、アルカリ若しくはアルカリ土類金属の炭酸塩若しくは水酸化物(例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム)、又は、例えば、アルカリ金属の水素化物(例えば水素化ナトリウム)である。
【0045】
適切な不活性溶媒又は希釈剤は、例えば、アルコール(例えばメタノール、エタノール
若しくはイソプロパノール)、ハロゲン化溶媒(例えば塩化メチレン、クロロホルム若しくは四塩化炭素)、芳香族溶媒(例えばトルエン)、極性非プロトン性溶媒(例えばアセトニトリル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン若しくは1,4−ジオキサン)、又は双極性非プロトン性溶媒(例えば−ジメチルホルムアミド、−ジメチルアセトアミド、−メチルピロリジン−2−オン若しくはジメチルスルホキシド)である。
【0046】
あるいは、ステップ(a)のプロセスに関し、該カップリングステップは好都合には、適切な脱水剤の存在下で実施できる脱水反応でもよい。脱水反応の場合、適切な置換可能基Zは、例えばヒドロキシ基である。適切な脱水剤は、例えば、カルボジイミド試薬(ジシクロヘキシルカルボジイミド若しくは1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド)又はアゾ化合物(例えばジエチル若しくはジ−tert−ブチルアゾジカルボキシレート)とホスフィン(例えばトリフェニルホスフィン)との混合物である。脱水反応は、適切な不活性溶媒又は希釈剤、例えば塩化メチレン、クロロホルム又は四塩化炭素のようなハロゲン化溶媒の存在下、例えば10〜150℃の範囲の温度、好都合には周囲温度又はその付近の温度で都合よく実施される。
【0047】
好都合には、該カップリング反応は、炭酸カリウムのようなアルカリ金属炭酸塩の存在下、−ジメチルホルムアミドのような双極性非プロトン性溶媒中で、例えば40〜120℃の範囲の温度、好都合には80℃又はその付近の温度でアルキル化反応として実施される。
【0048】
ステップ(b)のプロセスに関し、該ニトロ化ステップは好都合には、そのようなトランスフォーメーションのために知られている多くの方法のいずれかによって実施できる。好都合には、該ニトロ化は、濃硝酸を用い、所望により濃硫酸の存在下、及び所望により酢酸のような極性プロトン性溶媒の存在下、例えば0〜80℃の範囲の温度、好都合には周囲温度又はその付近の温度で実施できる。該硫酸濃度は50%(水との重量/重量%)より大きく、好ましくは約70%であるのが好都合である。反応が完了したら、反応混合物を水酸化ナトリウム又は水酸化アンモニウム溶液のような塩基水溶液で中和し、式III
の化合物を有機溶媒中に抽出する。
【0049】
式IXの中間体は、本発明の更なる特徴を構成する新規化合物である。さらに、式IXの中間体は、式Iの化合物のような薬理学的に有効なキナゾリン誘導体の製造方法に有用である。好都合には、式IXの中間体は、そのものとして単離せず、有機溶媒中の溶液として調製及び使用する。それにより、式IIIの化合物は式VIIの化合物からワンポット法で製造できる。
【0050】
本発明のこの第二の側面において、商業的に許容できる収率及び高品質の式IIIの化合
物が提供される。
本発明の方法は、式Iの化合物の製造に従来使用されていた方法より著しく改良された収率及び品質の中間体を提供する。好都合には、式VIIの化合物は式IIIの化合物にワンポット法で転化でき、該化合物は式IIの化合物に第二のワンポット法で転化でき、次に該化合物は式Iの化合物に第三のワンポット法で転化できる。従って、式Iの化合物は、ただ二つの中間体の事前の単離で製造できる。
【0051】
本発明を以下の実施例でさらに説明するが、本発明はそれによって制限されない。
【実施例1】
【0052】
7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)−3,4−ジヒドロキナゾリン−4−オンの製造
亜ジチオン酸ナトリウム(89%、81.4kg)を、4−メトキシ−5−(3−モル
ホリノプロポキシ)−2−ニトロベンゾニトリル(48.8kg)の水(867リットル)中撹拌スラリーに加え、得られた混合物を50℃に約2時間加熱して反応を完了させた。該反応混合物の温度を約70℃に上げ、濃塩酸水溶液(36%、270kg)を3時間かけて加えた。得られた混合物を20〜25℃に冷却し、水酸化ナトリウム液(47%、303.7kg)を反応混合物の撹拌を続けながら加えた。該反応混合物を塩化メチレンで2回に分けて抽出し(それぞれ1082kg及び541kg)、合わせた有機抽出物を水(510リットル)で洗浄した。有機相を蒸留により濃縮して800リットルの溶媒を除去した。このようにして次の段階での使用に適した2−アミノ−4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)ベンゾニトリル(46.3kg、収率99%)を含有する塩化メチレン溶液(503.5kg)を得た。
【0053】
[2−アミノ−4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)ベンゾニトリルのポーションを以下の手順を用いて単離した:
塩化メチレン溶液のサンプルを蒸発させた。このようにして2−アミノ−4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)ベンゾニトリルを固体として得た。融点87.5℃;NMR スペクトル: (DMSOd6) 1.79 (m, 2H), 2.36 (t, 4H), 2.36 (t, 2H), 3.56 (t, 4H), 3.73 (s, 3H), 3.86 (t, 2H), 5.66 (br s, 2H), 6.4 (s, 1H), 6.89 (s, 1H); マス
スペクトル: M+H+ 292。]
【0054】
還元ステップを繰り返した後、2−アミノ−4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)ベンゾニトリル(81.6kg)を含有する塩化メチレン溶液(894.3kg)をtert−アミルアルコール(186kg)に少しずつ加え、得られた混合物を留出物の温度が57℃に達するまで蒸留した。追加のtert−アミルアルコール(726kg)を少しずつ加え、反応混合物の残留体積が約770リットルになるまで蒸留を続けた。水酸化カリウム(フレーク状;51kg)を加え、混合物を79℃に4時間加熱した。得られた混合物を周囲温度に冷却し、2−アミノ−4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)ベンズアミドを得た。これを単離せずに使用した。
【0055】
[2−アミノ−4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)ベンズアミドのポーションを以下の手順を用いて単離した:
tert−アミルアルコール溶液のサンプルを蒸発させて油を得た。二塩化メチレン及び水を加えて混合物を加熱還流した。得られた混合物を周囲温度に冷却した。沈殿した固体を単離した。ろ液を硫酸マグネシウム上で乾燥させ蒸発させて油を得た。沈殿した固体と油を合わせ、熱酢酸エチルに溶解し、水で洗浄した。温有機溶液を分離し、イソヘキサンを加えて結晶化を開始させた。得られた混合物を周囲温度に冷却し、沈殿物を単離し、冷酢酸エチルで洗浄し、乾燥させた。このようにして2−アミノ−4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)ベンズアミドを固体として得た。融点153.5℃;NMR スペクトル: (DMSOd6) 1.8 (m, 2H), 2.4 (t, 4H), 2.4 (t, 2H), 3.56 (t, 4H), 3.7 (s, 3H), 3.88 (t, 2H), 6.27 (s, 1H), 6.43 (br s, 2H), 6.81 (br s, 1H), 7.13 (s, 1H),
7.56 (br s, 1H); マススペクトル: M+H+ 310。]
【0056】
このようにして得られた溶液をギ酸(45.8kg)で酸性化し、得られた混合物を減圧下(0.12バール)で蒸留により濃縮し、460リットルの溶媒を除去した。ホルムアミド(438kg)を加え、減圧下(0.12バール)での蒸留を蒸留温度が95℃に達するまで続けた。該混合物を約100℃でさらに5時間加熱した。混合物を20℃に冷却し、得られた固体をろ過により回収し、水、イソプロパノール及びtert−ブチルメチルエーテルの順で洗浄し、乾燥させた。このようにして7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)−3,4−ジヒドロキナゾリン−4−オン(63kg)を得た。NMR スペクトル: (DMSOd6) 1.93 (m, 2H), 2.37 (t, 4H), 2.43 (t, 2H), 3.58 (t, 4H), 3.91 (s, 3H), 4.11 (t, 2H), 7.13 (s, 1H), 7.44 (s, 1H), 7.98 (s, 1H), 12.05 (broad
s, 1H); マススペクトル: M+H+320。
【実施例2】
【0057】
4−(3’−クロロ−4’−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリンの製造
反応混合物の温度を約50℃に維持しながら、酸塩化リン(365kg)を7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)−3,4−ジヒドロキナゾリン−4−オン(220kg)、トリエチルアミン(105kg)及びトルエン(1790リットル)の撹拌スラリーに加えた。得られた混合物を約50℃で5時間撹拌し、4−クロロ−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリンの形成を完了させた。
【0058】
得られた撹拌スラリーを約0℃に冷却し、イソプロパノール(527リットル)を、反応混合物の温度を0℃〜5℃に維持しながら加えた。反応物を約20℃に温め、約1時間その温度に維持した。3−クロロ−4−フルオロアニリン(168kg)のイソプロパノール(228リットル)中溶液を加え、得られた反応混合物を撹拌し、約66℃に温め、約1時間その温度に維持した。該混合物を撹拌し約30℃に冷却し、イソプロパノール(662リットル)及び水(1486リットル)を順に加えた。水酸化ナトリウム水溶液(47%w/w、755kg)と水(40リットル)の混合物を撹拌反応混合物に少しずつ加えた。得られた混合物を約64℃に温め、二つの液相を分離させた。下の水性層を流した。残った有機相をまず約30℃に冷却し、約50℃に温め、最後に約20℃に冷却した(1時間当たり約10℃の速度で)。得られた固体をろ過により回収し、イソプロパノール及び酢酸エチルで順に洗浄し、温窒素ガス(60℃)で乾燥させた。このようにして4−(3’−クロロ−4’−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリン(224kg)を得た。融点約194℃〜198℃。
【実施例3】
【0059】
4−(3’−クロロ−4’−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリン・ジメチルスルホキシド一溶媒和物の製造
約75℃に温めながら、4−(3’−クロロ−4’−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリン(204kg)を、珪藻土ろ過助剤(5kg)を含有する酢酸エチル(1021リットル)とジメチルスルホキシド(181リットル)との混合物に溶解した。得られた混合物をろ過し、酢酸エチル(78リットル)を用いてろ過助剤の固体を洗浄した。ろ液と洗液を合わせ、まず約10℃に冷却した。次に該混合物を約40℃に1時間加熱した。この温かい混合物を1時間当たり約10℃の速度で0℃に冷却した。得られた固体をろ過により回収した。このようにして標記化合物をジメチルスルホキシドの一溶媒和物として得た。融点は、DMSOの脱溶媒和点が約125℃〜135℃の範囲にあることに関連して約130℃での吸熱の後に現れ、約194〜198℃。
【実施例4】
【0060】
4−(3’−クロロ−4’−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリン・ジメチルスルホキシド一溶媒和物の脱溶媒和
4−(3’−クロロ−4’−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリン・ジメチルスルホキシド一溶媒和物(実施例3)を酢酸エチル(581リットル)で洗浄した。洗浄した固体を酢酸エチル(895リットル)と混合し、得られたスラリーを撹拌し、34℃に約1時間加熱した。次に、該混合物を0℃に冷却し、その温度に2時間維持し、結晶化を進行させた。得られた固体をろ過により分離し、酢酸エチル(580リットル)で洗浄し、温窒素ガス流(60℃)中で乾燥させた。このようにして4−(3’−クロロ−4’−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリン(161kg)を得た。融点約194〜198℃。
【実施例5】
【0061】
4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)−2−ニトロベンゾニトリルの調整
3−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾニトリル(34.3kg)、炭酸カリウム(54.5kg)及び−ジメチルホルムアミド(226kg)の混合物を撹拌し約85℃に加熱した。−(3−クロロプロピル)モルホリン(41.1kg)を含有するトルエン溶液(91.4kg)を加熱した混合物に加え、得られた混合物を約85℃にさらに10時間加熱した。−ジメチルホルムアミドのバルクを減圧蒸留によって除去し、残渣を水(286リットル)で希釈した。水性混合物をヘプタンと酢酸エチルの1:1混合物で3回に分けて抽出した(それぞれ239リットル、139リットル及び139リットル)。合わせた有機層を水で洗浄し、減圧蒸留によって約150リットルに濃縮し、氷酢酸(133kg)で希釈した。追加の溶媒を減圧蒸留で除去した。氷酢酸(84kg)を追加すると、4−メトキシ−3−(3−モルホリノプロポキシ)ベンゾニトリル(62.5kg)の酢酸(122kg)中溶液が得られた。これを更なる精製をせずに使用した。
【0062】
[4−メトキシ−3−(3−モルホリノプロポキシ)ベンゾニトリルのポーションを以下の手順を用いて単離した:
ヘプタンと酢酸エチル溶液のサンプルを水で洗浄し、蒸発させて油を残した。この油をtert−ブチルメチルエーテルと水の間で分配した。有機溶液を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、蒸発させた。残渣をヘプタン下で粉砕し、得られた固体を単離し、周囲温度で乾燥させた。このようにして4−メトキシ−3−(3−モルホリノプロポキシ)ベンゾニトリルを得た。融点52.4℃。NMR スペクトル: (DMSOd6) 1.87 (m, 2H), 2.38 (t, 4H), 2.38 (t, 2H), 3.57 (t, 4H), 3.84 (s, 3H), 4.05 (t, 2H), 7.11 (d, 1H), 7.39 (s, 1H), 7.42 (s, 1H); マススペクトル: M+H+ 277。]
【0063】
反応混合物の温度を20℃以下に冷却している間、4−メトキシ−3−(3−モルホリノプロポキシ)ベンゾニトリル(62.5kg)の酢酸(122kg)中溶液を、硫酸(70%、245kg)と硝酸(70%、31kg)の撹拌混合物に加えた。2時間後、追加の硝酸(3.4kg)を加え、得られた混合物を約20℃で50時間撹拌した。このようにして得られた混合物を水(1115リットル)に加え、得られた混合物を30〜35℃に温めた。該混合物を濃水酸化ナトリウム液の添加により約pH11に塩基性化した。該反応混合物を塩化メチレンで3回に分けて抽出し(それぞれ679kg、272kg及び272kg)、合わせた有機抽出物をろ過して粒状物を除去した。塩化メチレンは、6回の等量ずつの酢酸エチル添加(合計840リットル)を伴う一連の蒸留/添加ステップにより除去した。このようにして酢酸エチル中の反応生成物の温溶液(65℃)(360リットル)を得た。該溶液を5℃に冷却し、沈殿物をろ過により単離した。このようにして4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)−2−ニトロベンゾニトリル(56.4kg)を得た。融点127℃;NMR スペクトル: (DMSOd6) 1.92 (m, 2H), 2.36 (m, 4H), 2.41 (t, 2H), 3.58 (m, 4H), 3.98 (s, 3H), 4.24 (t, 2H), 7.69 (s, 1H), 7.86 (s, 1H); マススペクトル: M+H+ 322。
【0064】
出発材料として使用した3−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾニトリル溶液は以下のようにして得た:
3−ヒドロキシ−4−メトキシベンズアルデヒド(36.7kg)とギ酸ナトリウム(30.6kg)をギ酸(96%、204kg)に加え、得られた混合物を約85℃に加熱した。硫酸ヒドロキシルアミン(21.6kg)を30分間隔で8回等量ずつ加え、該混合物を85℃に5時間加熱した。得られた混合物を約25℃に冷却し、塩化ナトリウム(140kg)の水(700リットル)中溶液に加えた。得られた固体をろ過により回収し、水洗し、乾燥させて3−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾニトリル(34kg、94%;ケミカルアブストラクツ登録番号52805−46−6)を得た。
【0065】
出発材料として使用した−(3−クロロプロピル)モルホリン溶液は以下のようにして得た:
モルホリン(178.5kg)とトルエン(560リットル)の混合物を撹拌し約77℃に温めた。1−ブロモ−3−クロロプロパン(147kg)を約2時間かけてゆっくり加え、得られた混合物を約77℃でさらに20時間加熱した。該混合物を周囲温度に冷却し、追加のトルエン(293リットル)で希釈した。該混合物を希塩酸水溶液(18%、206kg)で抽出した。水性層を分離し、濃水酸化ナトリウム水溶液の添加によってpH9〜10に塩基性化し、トルエン(250リットル)で抽出した。得られたトルエン層を、0.065バールで沸点56℃を有する留出物が得られるまで蒸留により濃縮した。このようにしてN−(3−クロロプロピル)モルホリン(58kg;ケミカルアブストラクツ登録番号7357−67−7)を含有するトルエン溶液(129kg)を得た。これを更なる精製をせずに使用した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬理学的に有効なキナゾリン誘導体の製造における式II:
【化1】


の7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)−3,4−ジヒドロキナゾリン−4−オンの使用。
【請求項2】
薬理学的に有効なキナゾリン誘導体の製造における式V:
【化2】


の2−アミノ−4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)ベンズアミドの使用。
【請求項3】
薬理学的に有効なキナゾリン誘導体の製造における式IV:
【化3】


の2−アミノ−4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)ベンゾニトリルの使用。
【請求項4】
薬理学的に有効なキナゾリン誘導体の製造における式III:
【化4】


の4−メトキシ−5−(3−モルホリノプロポキシ)−2−ニトロベンゾニトリルの使用。
【請求項5】
薬理学的に有効なキナゾリン誘導体の製造における式IX:
【化5】


の4−メトキシ−3−(3−モルホリノプロポキシ)ベンゾニトリルの使用。


【公開番号】特開2010−209071(P2010−209071A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61976(P2010−61976)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【分割の表示】特願2004−535657(P2004−535657)の分割
【原出願日】平成15年9月9日(2003.9.9)
【出願人】(300022641)アストラゼネカ アクチボラグ (581)
【Fターム(参考)】