説明

4−(3−メタンスルホニルフェニル)−1−n−プロピルピペリジンの合成方法

本発明は,式IIのスルフィドを接触酸化剤及びオキシダントで酸化し,式IIIの化合物を与え,この式IIIの化合物を接触還元することを含む式Iの4−(3−メタンスルホニルフェニル)−1−n−プロピルピペリジンまたはその薬学的に許容され得る塩の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
4−(3−メタンスルホニルフェニル)−1−n−プロピルピペリジンは,ドーパミン神経伝達のモジュレータとして有用であり,例えば,アルツハイマー病,パーキンソン病及び精神分裂病の治療における治療用途を有する。4−(3−メタンスルホニルフェニル)−1−n−プロピルピペリジンを製造するための合成方法は,国際特許公開WO01/46145号公報に記載されている。
【0002】
本発明により,4−(3−メタンスルホニルフェニル)−1−n−プロピルピペリジン及びその薬学的に許容され得る塩の製造のために,複数の方法が提供される。本方法は,4−(3−メタンスルホニルフェニル)−1−n−プロピルピペリジンを高収率かつ高純度で提供するが,合成工程の数は最小限となる。
【0003】
発明の要約
本発明は,式I:

の4−(3−メタンスルホニルフェニル)−1−n−プロピルピペリジン及びその薬学的に許容され得る塩の製造方法に関する。
【0004】
発明の詳細な説明
本発明は,医薬品製剤として有用な4−(3−メタンスルホニルフェニル)−1−n−プロピルピペリジンの製造方法に関する。
【0005】
本発明の実施態様は,式II:

のスルフィドを接触酸化剤及びオキシダントで酸化し,式III:

の化合物を与え,続いてこの式IIIの化合物を接触還元して,式I:


の化合物またはその薬学的に許容され得る塩を与えることを含む,式I:

の4−(3−メタンスルホニルフェニル)−1−n−プロピルピペリジンまたはその薬学的に許容され得る塩の製造方法に関する。
【0006】
本発明の別の実施態様は,さらに,式Ia:

のアルコールを強酸で脱水し,式II:

のスルフィドを与え,この式IIのスルフィドを接触酸化剤及びオキシダントで酸化して,式III:

の化合物を与え,続いてこの式IIIの化合物を接触還元して式I:

の化合物またはその薬学的に許容され得る塩を与えることを含む,式I:

の4−(3−メタンスルホニルフェニル)−1−n−プロピルピペリジンまたはその薬学的に許容され得る塩の製造方法に関する。
【0007】
本発明の実施態様においては,強酸は強い無機酸または強い有機酸である。本発明の実施態様において,強酸は,硫酸,塩酸,フッ化水素酸,硝酸及びトリフルオロ酢酸から選択される。所望により,強酸による式Iaのアルコールの脱水は,溶媒中で行なわれる。本発明の実施態様において,該溶媒は,トルエン,キシレン,ヘキサン及び水から選択される。
【0008】
本発明の実施態様において,接触酸化剤はタングステン,ルテニウム,モリブデン,オスミウムまたはクロム酸化剤である。
【0009】
本発明の実施態様において,接触酸化剤はタングステン酸化剤である。この実施態様の一つの態様において,タングステン酸化剤はタングステン酸ナトリウムである。
【0010】
本発明の実施態様において,オキシダントは過酸化物である。この実施態様の一つの態様においては,過酸化物は過酸化ナトリウム,過酸化水素,次亜塩素酸ナトリウム,臭素酸ナトリウム,ナトリウム過ヨウ素酸(sodium periodate),ペルオキシ酢酸またはペルオキシ安息香酸である。この実施態様の別の態様では,該過酸化物は過酸化ナトリウムである。この実施態様の範囲内においては,該過酸化物は過酸化ナトリウムの水溶液である。
【0011】
本発明の実施態様において,式IIのスルフィドを酸化する工程は,3未満のpHで行われる。この実施態様の範囲内において,式IIのスルフィドを酸化する工程は,2未満のpHで行われる。さらに,この実施態様の範囲内において,式IIのスルフィドを酸化する工程は,1未満のpHで行われる。
【0012】
本発明の実施態様において,式IIのスルフィドを酸化する工程は30℃以上の温度で行われる。この実施態様の範囲内において,式IIのスルフィドを酸化する工程は,40℃以上の温度で行われる。さらに,この実施態様の範囲内において,式IIのスルフィドを酸化する工程は,40℃〜60℃の温度で行われる。さらに,この実施態様の範囲内において,式IIのスルフィドを酸化する工程は,50℃〜55℃の温度で行われる。
【0013】
式IIのスルフィドを酸化する工程を行うための好ましい溶媒は,トルエン,テトラヒドロフラン(THF),ジエチルエーテル,ジグリム及びメチルt−ブチルエーテルから選択される有機溶媒を含む水溶液を含む。最も好ましい有機溶媒はトルエンである。
【0014】
本発明の実施態様において,式IIIの化合物の接触還元の工程は,接触水素化を含む。この実施態様の範囲内において,式IIIの化合物の接触還元の工程は,パラジウム触媒,白金触媒またはルテニウム触媒による接触水素化を含む。この実施態様の範囲内において,式IIIの化合物の接触還元の工程は,パラジウム触媒による接触水素化を含む。この実施態様の範囲内において,式IIIの化合物の接触還元の工程は,炭素触媒上のパラジウムによる接触水素化を含む。さらに,この実施態様の範囲内において,式IIIの化合物の接触還元の工程は,炭素触媒上の10%のパラジウムまたは炭素触媒上の5%のパラジウムによる接触水素化を含む。
【0015】
本発明の別の実施態様において,式IIIの化合物の接触還元の工程は,接触転移水素化(catalytic transfer hydrogenation)を含む。この実施態様の範囲内において,式IIIの化合物の接触還元の工程は,ロジウム触媒またはルテニウム触媒及び水素転移源による接触転移水素化を含む。この実施態様の範囲内において,ロジウム触媒は,所望により別のリガンドの存在下でのビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ロジウムクロライド)及びビス((シクロペンタジエニル)ロジウムクロライド)から選択され得る。この実施態様の範囲内において,ルテニウム触媒は,所望により別のリガンドの存在下でのビス((4−イソプロピルトルエニル)ルテニウムクロライド)及びビス((シクロペンタジエニル)ルテニウムクロライド)から選択され得る。この実施態様の範囲内において,水素転移源は,ギ酸,メタノール,エタノール,イソプロパノール,イソブタノールまたはn−ブタノールのような,酸またはアルコールであり得る。この実施態様においては,所望により,水素転移源と共に塩基が存在する。該塩基は,水酸化カリウムもしくはナトリウム,炭酸カリウムもしくはナトリウム,重炭酸カリウムもしくはナトリウム,またはカリウムもしくはナトリウムアルコキシド等から選択される塩基のような無機塩基であり得る。アルコキシドは低級(C1〜C5),高級(>C6)の第一,第二または第三アルコールから誘導することができる。
【0016】
式IIIの化合物の接触還元の工程を行うための溶媒は,メタノール,エタノール,イソプロパノール,イソブタノールまたはn−ブタノールから選ばれるアルコールのようなアルコールを含む水溶液を含む。この実施態様の範囲内において,アルコールはメタノールであり得る。
【0017】
「薬学的に許容され得る塩」の用語は,薬学的に許容され得る非毒性の塩基または酸,例えば無機または有機塩基及び無機または有機酸から製造される塩を意味する。塩は,無機及び有機酸を含む薬学的に許容され得る非毒性の酸から調整されてもよい。そのような酸には,酢酸,ベンゼンスルホン酸,安息香酸,カンフルスルホン酸,クエン酸,エタンスルホン酸,フマル酸,グルコン酸,グルタミン酸,臭化水素酸,塩酸,イセチオン酸,乳酸,マレイン酸,リンゴ酸,マンデル酸,メタンスルホン酸,ムチン酸,硝酸,パモン酸,パントテン酸,リン酸,コハク酸,硫酸,酒石酸,p-トルエンスルホン酸等が含まれる。特に好ましいのは,ベンゼンスルホン酸,クエン酸,臭化水素酸,塩酸,マレイン酸,フマル酸,コハク酸及び酒石酸である。ここで使用される限り,本発明の化合物への言及は,薬学的に許容され得る塩も含む意味であることが理解されるであろう。
【0018】
本発明の方法のための出発物質及び試薬は市販されているか,文献により公知であるか,または類似の化合物について記載された文献記載の方法により製造され得る。該反応及び得られた反応生成物の精製を行うのに必要な技術は,当該分野の技術者に公知である。精製方法には,結晶化,蒸留,順相または逆相クロマトグラフィーが含まれる。
【0019】
下記の実施例は,説明のためにのみ提供されるものであって,いかなる場合も本発明の範囲を制限するものではない。
実施例1

【0020】
THF中の3−ブロモチオアニソールの-45℃の溶液に,ヘキシルリチウムを1時間かけて添加し,添加の間,反応温度を-35℃より低く維持した。添加完了後,このバッチを出発物質からアリールリチウムへの転化について分析した。3−ブロモチオアニソールが0.5A%未満になるまで,バッチを-35℃〜-45℃に維持した。1−プロピル−4−ピペリドンを,-45℃の該バッチにゆっくり添加し,添加の間,反応温度を-35℃より低く維持した。添加が完了したら,添加漏斗をTHFで濯ぎ,反応を-35℃より低い温度で10分間熟成した。反応を5NのHClでクエンチし,クエンチの間温度を20℃より低く維持した。生じたスラリーにMTBEを添加し,この混合物を0℃に冷却し,30分間熟成した。このスラリーを濾過し,得られた固体をMTBE(出発物質Br−チオアニソールのグラム当たり5mL/gで1回)で洗浄した。濾過ケーク塩をN下で乾燥した。
実施例2

【0021】
アルコールをトルエン中でスラリー化し,硫酸を添加した。反応物を水の共沸除去を行いながら,還流下で1〜2時間加熱した。完了後,反応物を70℃に冷却し,水を添加した。該反応物を室温に冷却し,相を分離した。水相に,温度を30℃より低く維持しながらトルエン(6L/kg)及び5NのNaOH(2当量,〜1.6L/kg,pH>9)を添加した。相を分離し,有機相を1N硫酸(1当量HSO,〜8L/kg,pH〜1)で処理した。相を分離し,水相を直接酸化反応に用いた。
実施例3

【0022】
SO水溶液中のスルフィド−アルケンの溶液に,NaWO×2HOを添加した。H(30%)を,0.5〜1時間かけて添加し,その間温度を55℃より低く維持した。生じた混合物をスルホキシド中間体が0.5A%未満になるまで(1〜2時間),50℃〜55℃で熟成した。生じた混合物を10℃に冷却し,トルエン(5L/kg)及び続いて5NのNaOHを添加し,その間,内部温度を30℃より低く維持した。水相を除去し,トルエン相を1NのNaOHで洗浄し,そして続いて20%の塩水で洗浄した。トルエン相は典型的には85〜90%の収率で分析する。反応物を3ml/g総量(10L)まで濃縮し,その間,スルホン−アルケンを溶液から結晶化させた。この溶液を50℃〜55℃に加温し,ヘプタン(3mL/g)を,内部温度を50℃〜55℃に維持しながら添加した。生じた溶液に,さらにヘプタン(3ml/g)を50℃〜55℃で1時間かけて添加した。生じたスラリーを,0.5〜1時間かけて23℃に冷却し,0.5時間熟成し,室温で濾過した。濾過ケークを,1:3トルエン/ヘプタン(4mL/g,12L)で洗浄し,N2パージを用い,真空下50℃で乾燥した。典型的な収率は99重量%及び99A%より高い純度で,75〜80%であった。合わせた水相(5NのNaOH洗浄後,1NのNaOH洗浄後,20%の塩水洗浄後の水相)に,23℃で,固体のNaSOを,過酸化物テストがクアントフィックス(Quantofix)テストストリップで陰性となるまで添加した。3℃以下の発熱が生じる。
実施例4

【0023】
IPA中のスルホン−アルケンのスラリーに,HCOH(5当量)を添加した。生じた溶液に,水中の10%Pd/Cの懸濁液(5ml/g)を添加した。該懸濁液を,スルホンアルケンが0.10A%未満になるまで,16〜24時間室温で熟成した。このバッチを,ソルカフロック(solka floc)パッドで濾過し,濾過ケークを,1:1のIPA/水(2mL/g)で濯いだ。合わせた濾液及び濯ぎ液の典型的な分析値は,95%〜98%の収率であった。濾液を,予め15℃に冷却した5NのNaOH及びMTBEを含む100Lの抽出容器に移した。水相を分離し,MTBE相をHO(3mL/g)で洗浄した。MTBE相を4ml/g総量(12L)まで濃縮し,IPA(2×5ml/g)でフラッシしてMTBE及び水を除去し,その後,IPA(典型的なHO含有量=0.5%〜1%)中で9ml/gに希釈した。濾液を65℃に加温し,IPA中の5NのHClを添加した。生じたスラリーを,固体がすべて溶解するまで,75℃〜80℃に加温した。この溶液をゆっくり冷却し,65℃〜70℃で純粋なHCl塩を種晶添加した。このスラリーを65℃〜70℃で1時間熟成し,続いて23℃まで1時間かけてゆっくり冷却した。このスラリーを濾過し,IPA(3ml/g)で洗浄し,N上で乾燥した。
【0024】
本発明をその特定の実施態様に関して記述し,説明してきたが,当業者は操作及びプロトコルの様々な適合化,変更,修正,置き換え,削除または追加を,本発明の精神及び範囲を逸脱することなく行い得ることを認識するであろう。例えば,ここに上記で述べられたような特定の条件以外の反応条件は,上記の本発明の方法により化合物を製造する試薬または方法におけるバリエーションの結果として適用可能であり得る。同様に,出発物質の特定の反応性は特定の置換基の存在または製造条件により,またこれに応じて変化し得る。そのような予期される変化または結果における差異は,本発明の目的及びプラクティスにより意図されている。従って,本発明は,下記の請求の範囲によって定義され,そのような請求の範囲が合理的である程度に広く解釈されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式II:

のスルフィドを接触酸化剤及びオキシダントで酸化し,式III:

の化合物を与え,続いてこの式IIIの化合物を接触還元して,式I:


の化合物またはその薬学的に許容され得る塩を得ることを含む,式I:

の化合物またはその薬学的に許容され得る塩の製造方法。
【請求項2】
さらに,式Ia:

のアルコールを強酸で脱水し,前記式IIのスルフィドを与えることを含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記強酸が硫酸,塩酸,フッ化水素酸,硝酸及びトリフルオロ酢酸から選択される請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記強酸による前記式Iaの前記アルコールの脱水が,トルエン,キシレン,ヘキサン及び水から選択される溶媒中で行われる請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記接触酸化剤が,タングステン酸化剤である請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記タングステン酸化剤がタングステン酸ナトリウムである請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記オキシダントが過酸化物である請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記過酸化物が過酸化ナトリウムである請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記式IIの前記スルフィドを酸化する工程が2未満のpHで行われる請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記式IIの前記スルフィドを酸化する工程が4O℃〜60℃の温度で行われる請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記式IIIの前記化合物の前記接触還元がパラジウム触媒,白金触媒またはルテニウム触媒による接触水素化を含む請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記式IIIの前記化合物の前記接触還元がパラジウム触媒による接触水素化を含む請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記式IIIの前記化合物の前記接触還元が炭素触媒上のパラジウムによる接触水素化を含む請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記式IIIの前記化合物の前記接触還元が炭素触媒上の10%のパラジウムによる接触水素化を含む請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記式IIIの前記化合物の前記接触還元の工程がアルコールを含む水溶液中で行われる請求項14記載の方法。

【公表番号】特表2008−515951(P2008−515951A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536091(P2007−536091)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011020
【国際公開番号】WO2006/040155
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(506407165)ニューロサーチ スウェーデン アクチボラゲット (5)
【Fターム(参考)】