説明

4−[トランス−4−[(フェニルメチル)アミノ]シクロヘキシル]安息香酸のエチルエステルおよびこのヘミフマル酸塩の調製方法

本発明は、式(I)の化合物、および式(A)の化合物または医薬的に許容されるこの塩を合成するための中間体としてのこの使用に関する:式(II)。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、式(I)の化合物:
【0002】
【化1】

を調製する方法である。
【0003】
本発明の対象はまた、式(IA)に対応する、式(I)の化合物のヘミフマラート:
【0004】
【化2】

である。
【背景技術】
【0005】
式(I)の化合物は、特許出願WO03/099772、WO03/099819およびWO02/44139に記載されており、これらの出願において、この化合物は、式(A)の化合物または医薬的に許容されるこの塩
【0006】
【化3】

を調製するための中間体として使用することができる:
上記特許出願に記載の合成方法によれば、式(I)の化合物は、式(II)の化合物:
【0007】
【化4】

を式(III)の化合物:
【0008】
【化5】

と反応させることにより合成される。
【0009】
シス/トランス混合物が得られ、シリカクロマトグラフィーにより式(I)の化合物(トランス異性体)が得られ、シス異性体から分離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第03/099772号
【特許文献2】国際公開第03/099819号
【特許文献3】国際公開第02/44139号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、工業スケールに移すことができ、シリカクロマトグラフィー段階を省くことを可能にする、新規な改善された方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
化合物(II)と化合物(III)との反応から得られた反応粗製物をフマル酸により塩化することにより、トランス配置の式(I)の結晶化合物を良好な化学純度で得ることができることを目下発見し、これが本発明の対象の1つである。従って、この方法により、従来技術のシリカクロマトグラフィー段階に頼る必要なく、式(I)の化合物を容易に分離することができる。
【0013】
本発明によれば、式(I)の化合物を、一般式(IA)の化合物:
【0014】
【化6】

の形成を介して調製する。
【0015】
本発明によれば、式(IA)の化合物を調製する方法は、式(II)の化合物を式(III)の化合物
【0016】
【化7】

と反応させることを含み、
前記反応に続いてフマル酸を添加することにより塩化する段階を行うことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0017】
式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応の終了時、式(I)の化合物がラセミ体(シス/トランス異性体の混合物)で得られる。フマル酸を添加することにより、式(IA)のトランス体のヘミフマル酸付加塩を分離することができる。それというのも、前記塩が沈殿し、従って、シス異性体から容易に分離することができるからである。
【0018】
一般に、式(II)の化合物に対して半当量のフマル酸を添加する。
【0019】
本発明によれば、式(I)の化合物を調製する方法は、塩基を式(IA)の化合物に添加する段階を含む。
【0020】
塩基を添加する間に、式(IA)の化合物がこの塩基形態、即ち、式(I)の化合物に変換される。
【0021】
式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応は、WO02/44139に記載の通り実施することができる。この反応は、有機溶媒中で、周囲温度から溶媒の還流温度の温度において実施することができる。用語「周囲温度」は、18℃から25℃の温度を意味するものとする。溶媒として、特に、エタノールまたはオルトギ酸トリメチルを挙げることができる。有利には、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)またはこの誘導体(例えば、NaBHCN)を添加する。反応混合物は、好ましくは、0℃から周囲温度の温度において撹拌させておく。得られた反応混合物は、残りの反応にこのまま使用することができ、または定型的な方法により、有機溶媒、例えば、酢酸エチルにより抽出し、洗浄し、乾燥させ、蒸発させて後続の塩化段階において使用することができる。
【0022】
有利には、塩化段階は、有機溶媒中で、周囲温度から溶媒の還流温度の温度において実施することができる。溶媒として、特にエタノールを挙げることができる。
【0023】
フマル酸を添加した後、高温条件下での反応媒体の溶解性、および冷却時の沈殿物の形成が一般に観察される。得られた結晶は、式(I)のトランス化合物のヘミフマル酸塩(化合物(IA)に対応する。
【0024】
式(I)の化合物は、当業者に公知の方法により、例えば、有機溶媒中で塩基を添加することにより得ることができる。
【0025】
塩基として、特に、有機塩基、例えば、アンモニア水またはNHOHの溶液を挙げることができる。有機溶媒として、特に、酢酸(C−C)アルキル、エステル、芳香族溶媒、例えば、トルエン、エーテル、例えば、イソプロピルエーテルまたはtert−ブチルメチルエーテル(TBME)、ジクロロメタン、メチルテトラヒドロフラン(THF)、さらにメトキシシクロプロパンを挙げることができる。
【0026】
こうして得られた式(I)の化合物は、WO02/44139に記載の方法による式(A)の生成物をもたらす調製方法の後続の段階において使用することができる。
【0027】
式(I)の化合物を調製する方法は、直接的に実施することができ、または式(IA)の化合物を塩化の終了時、塩基の添加前に分離する段階を含むことができる。この分離は、自体公知の任意の技術、例えば、濾過、および場合により、式(IA)の化合物が不溶である適切な溶媒により沈殿物を洗浄することにより実施することができる。従って、塩化段階に使用される溶媒を特に使用することができる。
【0028】
従って、本発明はまた、この対象の別のものによれば、式(IA)の化合物:
【0029】
【化8】

に関する。
【0030】
この化合物は、WO02/44139、WO03/099819およびWO03/099772に記載の方法を適用または適合することにより、式(A)の化合物の調製において中間体として使用される。
【0031】
別の対象によれば、本出願はまた、式(A)の化合物または医薬的に許容されるこの塩を調製するにあたり、式(I)の化合物を式(IA)の化合物から上記の通り調製することを含む方法に関する。
【0032】
好ましくは、式(A)の化合物、または医薬的に許容されるこの塩を調製する方法は、式(IA)の化合物を上記の通り調製する段階も含む。
【0033】
式(A)の化合物を調製する方法は、以下の段階:
こうして式(IA)の化合物から得られた式(I)の化合物を、式(IV)の化合物:
【0034】
【化9】

[式中、
Pgは、アルコール官能基の保護基を表し;
Pg’は、水素原子またはアミン官能基の保護基を表す。]とカップリングする段階;
得られた化合物中に存在する保護基を脱保護して式(A)の化合物を得る段階;次いで、場合により、
塩化、さらに特定すると、塩酸により塩化して所望の式(A)の化合物の塩酸塩を得る段階
も含む。
【0035】
好ましくは、Pgは、ベンジルを表し;好ましくは、Pg’は、Hまたは−C(=O)(OR)基(Rは、(C−C)アルキル基、さらに特定すると、tert−ブチルを表す。)を表す。
【0036】
式(A)の化合物を調製する方法は、以下のスキームにより表される:
【0037】
【化10】

【0038】
本発明はまた、式(IA)の化合物の、式(A)の化合物または医薬的に許容されるこの塩を調製するための使用に関する。
【0039】
上記において、用語「保護基」は、第一に、合成時に反応性官能基、例えば、ヒドロキシルまたはアミンを保護し、第二に、合成終了時に完全な反応性官能基を再生することを可能にする基を意味するものとする。保護基の例、さらに保護および脱保護の方法の例は、Protective Groups in Organic Synthesis,Green et al.,2nd Edition(John Wiley&Sons,Inc.,New York)に挙げられている。
【0040】
以下の実施例は、本発明を説明するものであるが、本発明を限定するものではない。
【0041】
これらの実施例および説明において、以下の略語を使用する:
DCM:ジクロロメタン。
【0042】
質量スペクトルは、「エレクトロスプレー」(ES)イオン化モードにおいて測定する。
【0043】
プロトン核磁気共鳴(H NMR)スペクトルは、DMSO−dまたはCDCl中で200MHzまたは300MHzにおいて記録する。化学シフトδは、百万分率(ppm)で表現する。
【0044】
NMRにおいて観察されるシグナルは、以下の様式で表現する:s:一重線;bs:幅広一重線;d:二重線;d.d.:二重の二重線;t:三重線;dt;二重の三重線;q:四重線;up:未分割ピーク;mt:多重線。
【0045】
=水に起因する幅広ピークによる干渉のため積分不可能。
【0046】
質量スペクトルは、ESI源を備えたThermoelectron LCQ DecaXP MCXイオントラップ質量分析器を使用して得た。
【0047】
HPLCは、ダイオードアレイ検出器を備えたThermoelectron Surveyorシステムにより実施した。
【0048】
薄層クロマトグラフィーは、Merckシリカゲル60シリカゲルTLCプレート上で実施した。フラッシュカラムクロマトグラフィー用のシリカゲルは、Biotageから販売されている。
【0049】
使用される全ての溶媒は、「試薬グレード」または「HPLCグレード」純度のものである。
【実施例1】
【0050】
段階1:式(IA)の化合物の合成
【0051】
【化11】

反応器中で、3g(12.18mmol)の4−(4−エトキシカルボニルフェニル)シクロヘキサノンを36mlのオルトギ酸トリメチル中に導入し、次いで1.56g(14.61mmol、1.2当量)のN−ベンジルアミンを添加する。
【0052】
反応媒体を窒素下で12時間加熱し、次いで周囲温度に戻し、続いてロータリーエバポレーター中で油状物が得られるまで蒸発させる。残留物を次の段階においてこのまま使用する。
【0053】
形成されたイミンを50mlのエタノール中に取る。得られた混合物を5℃に冷却し、0.460g(12.18mmol、1当量)の水素化ホウ素ナトリウムを窒素下で15分間添加する。反応媒体を5℃において2時間撹拌しておく。次いで、15mlの水を添加し、得られた混合物を15分間撹拌しておき、次いで酢酸エチル(50ml)により抽出する。有機相を15mlの水により洗浄し、次いで15mlの飽和塩化ナトリウム溶液により洗浄する。得られた生成物を硫酸マグネシウムにより脱水し、濾過し、次いでロータリーエバポレーター中で蒸発させる。油状残留物(2種のアミンのトランス/シス混合物、比85/15)を塩化段階においてこのまま使用する。反応粗製物を50mlのエタノール中に取る。得られた混合物を50℃に加熱する。0.710g(0.5当量)のフマル酸を添加する。媒体は可溶性になり、周囲温度に戻しておく。得られた沈殿物を5℃に冷却する。濾過を実施し、結晶を5mlの氷冷エタノールにより2回洗浄する。乾燥を真空下で50℃において実施する。2.40gの4−[トランス−4−[(フェニルメチル)アミノ]シクロヘキシル]安息香酸エチルエステルのヘミフマル酸塩を得る。
【0054】
段階2:式(1)の4−[トランス−4−[(フェニルメチル)アミノ]シクロヘキシル]安息香酸エチルエステル化合物の合成
【0055】
【化12】

100mlの3口フラスコ中で、2g(5.06mmol)の4−[トランス−4−[(フェニルメチル)アミノ]シクロヘキシル]安息香酸エチルエステルのヘミフマル酸塩を50mlのジクロロメタン中に導入する。次いで、10mlの28%アンモニア水溶液を添加し、混合物を周囲温度において30分間撹拌しておく。2相を沈降分別により分離しておき、次いで有機相を水により洗浄し、続いて硫酸マグネシウムにより乾燥させる。濾過を実施し、溶液をロータリーエバポレーター中で蒸発させる。1.60gの4−[トランス−4−[(フェニルメチル)アミノ]シクロヘキシル]安息香酸エチルエステルを白色固体の形態で得、即ち、収率は95%である。融点=74−76℃、T.L.C.:(95:5:0.5 CHCl/MeOH/NH):Rトランス=0.40。
【0056】
こうして得られた化合物は、WO02/44139、WO03/099772およびWO03/099819に記載の方法を適用または適合することにより、または以下の段階3および4により、式(A)の化合物を調製するために使用することができる。
【0057】
段階3:4−[トランス−4−[(フェニルメチル)−(2S)−3−(4−ベンジルオキシ−3−メタンスルホニルアミノフェノキシ)−2−ヒドロキシプロピル]アミノ}シクロヘキシル)安息香酸エチルエステルの合成:
【0058】
【化13】

N−[2−ベンジルオキシ−5−((S)−1−オキシラニルメトキシ)フェニル]メタンスルホンアミド(9.4kg)、4−[トランス−4−[(フェニルメチル)アミノ]シクロヘキシル]安息香酸(7.05kg)およびLi−トリフラート(リチウムトリフルオロメタンスルホナート)(330g)のトルエン(90l)溶液中混合物を、8時間還流させる。この混合物を周囲温度に戻し、次いで混合物をトルエン(60l)中で希釈し、水(15l)により抽出する。有機相を真空下で55lの容量に濃縮する。濃縮物を周囲温度に戻すとき、生成物の結晶化が始まる。結晶化混合物を5℃において90分間撹拌し、生成物を濾過し、トルエン(6l)により洗浄し、真空下で50℃において乾燥させる。収量:12.84kg、無色結晶、融点:99−100℃。
【0059】
段階4:式(A)の化合物の塩酸塩(4−[トランス−4−[(S)−2−ヒドロキシ−3−(4−ヒドロキシ−3−メタンスルホニルアミノフェノキシ)プロピルアミノ]シクロヘキシル]安息香酸エチルエステル塩酸塩)の合成:
【0060】
【化14】

トランス−4−(4−{フェニルメチル−[(2S)−3−(4−ベンジルオキシ−3−メタンスルホニルアミノフェノキシ)−2−ヒドロキシプロピル]アミノ}シクロヘキシル)安息香酸エチルエステル(10kg)、炭素上20%Pd(OH)(Degussa E101 NE/W、0.52kg)および酢酸(48kg)の混合物を、オートクレーブ中で50℃/8barにおいて2時間水素化し、次いで混合物を加圧下で一晩周囲温度に戻す。混合物を2回濾過し、装置を酢酸(25kg)によりすすぐ。濾液を真空下で実質的に濃縮乾固させ、次いでエタノール(45kg)を添加し、次いで30%HCl(2kg)を添加する。種結晶を添加した後、混合物を45℃において3時間撹拌し、0℃において14時間撹拌する。結晶を濾別し、エタノール(12kg)により洗浄し、真空下で40℃において乾燥させる。収量:7.58kg、無色結晶、融点192−193℃。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(IA)の化合物:
【化1】

を調製するにあたり、式(II)の化合物を式(III)の化合物
【化2】

と反応させることを含む方法であって、
前記反応に続いてフマル酸を添加することにより塩化する段階を行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応を、NaBHまたはNaBHCNの存在下で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応を、エタノールおよび/またはオルトギ酸トリメチル中で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
塩化を、式(II)の化合物に対して半当量のフマル酸を添加することにより実施する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応が、シス/トランス混合物の形態の式(I)の化合物:
【化3】

の形成をもたらす、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項6】
式(IA)の化合物を塩化の終了時において分離する段階を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載に方法。
【請求項7】
分離を濾過により実施する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
式(I)の化合物:
【化4】

を式(IA)の化合物:
【化5】

から、塩基を添加することにより調製する方法。
【請求項9】
前記塩基が、アンモニア水またはNHOHである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
得られた化合物を単離することを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
一般式(IA)の化合物。
【化6】

【請求項12】
式(A)の化合物または医薬的に許容されるこの塩:
【化7】

を調製するにあたり、式(I)の化合物:
【化8】

を、記載の式(IA)の化合物:
【化9】

から請求項8または9に記載の通り調製することを含む方法。
【請求項13】
式(A)の化合物を請求項12に記載の通り調製するにあたり、請求項1から7のいずれか一項に記載の式(IA)の化合物を調製することを含む方法。
【請求項14】
式(A)の化合物を請求項12または13に記載の通り調製するにあたり、以下の段階:
式(I)の化合物および式(IV)の化合物:
【化10】

[式中、
Pgは、アルコール官能基の保護基を表し;
Pg’は、水素原子またはアミン官能基の保護基を表す。]とカップリングする段階;
得られた化合物中に存在する保護基を脱保護して式(A)の化合物を得る段階;次いで、場合により、
塩化して所望の式(A)の化合物の塩を得る段階
を含む方法。
【請求項15】
Pgがベンジル基を表す、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
Pg’が、Hまたは−C(=O)(OR)基(Rは、(C−C)アルキル基を表す。)を表す、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
式(IA)の化合物:
【化11】

の、式(A)の化合物:
【化12】

または医薬的に許容されるこの塩を調製するための使用。

【公表番号】特表2012−500251(P2012−500251A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523435(P2011−523435)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【国際出願番号】PCT/FR2009/001013
【国際公開番号】WO2010/020719
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】