説明

4−[2,3−ジフルオロ−6−(2−フルオロ−4−メチル−フェニルスルファニル)−フェニル]−ピペリジン

構造(式I)


に従った化合物である4−[2,3−ジフルオロ−6−(2−フルオロ−4−メチル−フェニルスルファニル)−フェニル]−ピペリジン、およびその薬学的に許容可能な塩が、CNS関連障害の治療用として提供され、その障害には、うつ病性障害;気分変調性障害;全身状態に起因する気分障害;非定型うつ病;季節性感情障害;メランコリー;治療抵抗性うつ病;部分反応者;双極性障害、痛み、アルツハイマー病、精神病、パーキンソン病、レビー小体病、ハンチントン病、多発性硬化症または不安に関連したうつ病;全般性不安障害;社会不安障害;パニック発作;恐怖症;社会恐怖症、強迫性障害;心的外傷後ストレス障害;急性ストレス;ADHD;および痛みなどがある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物である4−[2,3−ジフルオロ−6−(2−フルオロ−4−メチル−フェニルスルファニル)−フェニル]−ピペリジン、前記化合物を含む医薬組成物および前記化合物の治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
痛み、特に慢性疼痛とうつ病は合併疾患であることが多く、そのため、両方の疾患に効果的な化合物を提供することは、患者にとって有益であろう。
【0003】
選択的セロトニン(5−HT)再取り込み阻害剤(SSRI)は、幾年にもわたって、多数の中枢神経疾患(うつ病および不安など)を治療する場合に医師に支持されてきた。なぜなら、それらは効果があり、前世代の中枢神経系用薬(すなわち、いわゆる三環系(tricyclics))と比べて好ましい安全プロファイルを有するからである。それにもかかわらず、SSRIは、相当な割合の無反応者(すなわち、治療に反応しない、または十分に反応しない患者)のため広まらない。さらに、一般にSSRIは、治療の数週間後まで効果が出始めない。最後の点として、SSRIは典型的には、与える有害効果が三環系より少ないが、SSRIの投与によって、例えば睡眠障害などの有害効果がもたらされることが多い。
【0004】
セロトニントランスポーター(SERT)の阻害と、1種または2種以上の5−HT受容体における活性が組み合わさると、SSRIと比べて5−HTのレベルがかなり増大しうること、またこのことがSSRIと比べて早い作用発現および有効性の増大と結びつけられてきたことが、知られている。例えば、ピンドロール(これは、5−HT1A受容体部分アゴニストである)をセロトニン再取り込み阻害剤(SRI)と組み合わせると、効果の発現が早くなることが報告されている[非特許文献1]。SRIを、5−HT2C受容体アンタゴニストまたはインバースアゴニスト(5−HT2C受容体において負の有効性を有する化合物)と組み合わせると、微小透析実験で測定した場合に、SRI単独と比べて終末領域(terminal areas)での5−HTのレベルが著しく増大することも見出されている[特許文献1]。SRIの治療有効性が5−HTのレベルの増大と結びついていると考えられているので、こうした活性の組合せは、診療における治療効果までの時間短縮およびSRIの治療効果の増大または増強を意味するであろう。
【0005】
痛みの知覚は、体の傷害部分から脳内の特定受容体へ信号が直接伝達されて、知覚される痛みが損傷に比例するというものより複雑である。むしろ、末梢組織への損傷および神経への傷害が、疼痛知覚に関与する中枢神経構造に変化を生じさせて、それに続く痛覚感受性に影響しうる。この神経可塑性は、長く続く侵害刺激に対して中枢性感作をもたらしうる。その刺激は、例えば、慢性疼痛(すなわち、侵害刺激が止まった後でさえ痛みの知覚が残るもの)、または痛覚過敏(すなわち、刺激に対する反応の増大(increased response)であり、これは通常痛みを伴う)として現れうる。これに関していっそう不思議で印象的な例の1つが、「幻肢症候群」(すなわち、肢が切断される前に肢に存在していた痛みが持続すること)である。中枢神経可塑性および痛みに関する最近の概説については、非特許文献2を参照されたい。
【0006】
慢性疼痛の主要な要素によって、慢性疼痛(例えば、神経因性疼痛など)が、伝統的な鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびオピオイド鎮痛薬など)に対して十分な反応を示さないことが多い理由が説明されうる。三環系抗うつ薬(TCA)(アミトリプチリンによって代表される)は、神経因性疼痛の治療の標準となってきており、その効果は、SERTおよびノルアドレナリン(NA)トランスポーター(NAT)における複合阻害効果によって仲介されると考えられる[非特許文献3]。もっと最近では、5−HTおよびNA再取り込みの両方において阻害効果のある、いわゆる二重作用抗うつ薬が、神経因性疼痛の治療に臨床的に使用されてきた[非特許文献4]。二重作用抗うつ薬の例には、ベンラファキシンおよびデュロキセチンがあり、この部類の抗うつ薬はSNRIと呼ばれることが多い。
【0007】
神経因性疼痛の治療へのSSRIの使用に関するデータは十分ではないが、概して効果が限られていることを示唆している[非特許文献5]。事実、SSRIはそれ自体では弱い抗侵害受容性であるというだけであるが、SERTの阻害によりNA再取り込み阻害の抗侵害受容作用は増大するという仮説が立てられてきた。この見解は、SNRIがNA再取り込み阻害剤と比べて優れた抗侵害受容作用を有する(それはまた、SSRIよりも優れている)ことを示す22匹の動物および5人のヒトの研究の調査により裏付けられる[非特許文献6]。
【0008】
したがって、SERTおよび5−HT2C受容体を阻害し、かつノルアドレナリントランスポーターも阻害する化合物は、情動障害および痛みの治療に有効な化合物になると思われるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第01/41701号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2003/029232号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/087156号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Psych.Res.,125,81−86,2004
【非特許文献2】Melzack et al in Ann.N.Y.Acad.Sci.,933,157−174,2001
【非特許文献3】Clin Ther.,26,951−979,2004
【非特許文献4】Human Psychopharm.,19,S21−S25,2004
【非特許文献5】Bas.Clin.Pharmacol.,96,399−409,2005
【非特許文献6】Pain Med.4,310−316,2000
【非特許文献7】Psychopharmacol.Bull.,39,147−166,2006
【非特許文献8】Int.Clin.Psychpharm.,21(suppl 1),S25−S29,2006
【非特許文献9】Hum.Psychopharm.Clin.Exp.,20,533−559,2005
【非特許文献10】Bioorg.Med.Chem.Lett.,15,3665−3669,2005
【非特許文献11】Clin.Neurophys.113,429−434,2002
【非特許文献12】Biol.Psychiatry,44,3−14,1998
【非特許文献13】Psychiatr.Clin.Neurosci.,53,193−194,1999
【非特許文献14】Neuropharmacology,33,467−471,1994
【非特許文献15】J.Clin.Psych.,67,suppl 11,18−21,2006
【非特許文献16】Depres.Anxiety,12,50−54,2000
【非特許文献17】Drugs,64,205−222,2004
【非特許文献18】Remington:The Science and Practice of Pharmacy,19 Edition,Gennaro,Ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA,1995
【非特許文献19】S.E.Tunney and J.K.Stille,J.Org.Chem.,52,748−53(1987)
【非特許文献20】Bennett and Xie,Pain,1988
【非特許文献21】Gilchristetal.,Pain 1996
【非特許文献22】Neuropharm.,48,252−263,2005;Pain,51,5−17,1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2として公開されている国際特許出願は、例えば、化合物である4−[2−(4−メチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペリジンを、遊離塩基およびその対応するHCl塩として開示している。この化合物は、SERTおよび5−HT2C受容体の阻害剤であると報告されており、情動障害(例えば、うつ病および不安)の治療に役立つとされている。特許文献3として公開されている国際特許出願は、特許文献2に開示されている化合物と同じ薬理学的プロファイルを有するある種のフェニルスルファニルフェニルピペリジンも開示している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、意外にも、化合物I、すなわち4−[2,3−ジフルオロ−6−(2−フルオロ−4−メチル−フェニルスルファニル)−フェニル]−ピペリジンおよびその薬学的に許容可能な酸付加塩が、SERTの強力な阻害剤であり、5−HT2Aおよび5−HT2C受容体を阻害し、そしてNAトランスポーター(NAT)を阻害することを見出した。したがって、1つの実施態様では、本発明は、4−[2,3−ジフルオロ−6−(2−フルオロ−4−メチル−フェニルスルファニル)−フェニル]−ピペリジンおよびその薬学的に許容可能な酸付加塩に関する。
【0013】
1つの実施態様では、本発明は、治療的に有効な量の化合物Iを、それを必要とする患者に投与することを含む、治療方法に関する。
【0014】
1つの実施態様では、本発明は、化合物Iおよび少なくとも1種の薬学的に許容可能なキャリヤーまたは希釈剤を含む、医薬組成物に関する。
【0015】
1つの実施態様では、本発明は療法に使用するための化合物Iに関する。
【0016】
1つの実施態様では、本発明はある種の病気の治療に使用するための化合物Iに関する。
【0017】
1つの実施態様では、本発明は、ある種の病気の治療用薬剤の製造における化合物Iの使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
4−[2,3−ジフルオロ−6−(2−フルオロ−4−メチル−フェニルスルファニル)−フェニル]−ピペリジンの構造は、
【化1】

であり、本発明は、この化合物として定義される化合物Iおよびその薬学的に許容可能な酸付加塩に関する。
【0019】
1つの実施態様では、前記酸付加塩は、無毒性の酸の塩である。前記塩としては、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、アスコルビン酸、コハク酸、シュウ酸、ビスメチレンサリチル酸(bis−methylenesalicylic acid)、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、ケイ皮酸、シトラコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、イタコン酸、グリコール酸、p−アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸、テオフィリン酢酸などの有機酸から作られる塩、ならびに8−ハロテオフィリン(8−halotheophyllines)、例えば、8−ブロモテオフィリンがある。前記塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸および硝酸などの無機塩から作られるものであってもよい。
【0020】
経口剤形(特に錠剤およびカプセル剤)は、投与しやすく、その結果として服薬遵守が向上するため、患者および開業医に好まれることが多い。錠剤およびカプセル剤の場合、有効成分は結晶性であることが好ましい。1つの実施態様では、化合物Iは結晶性である。
【0021】
本発明に使用される結晶は、溶媒和物、すなわち溶媒分子が結晶構造の一部を形成している結晶として存在しうる。溶媒和物は水から形成されうるが、その場合、溶媒和物は水和物と呼ばれることが多い。あるいはまた、溶媒和物は他の溶媒(例えば、エタノール、アセトン、または酢酸エチルなど)から形成されうる。溶媒和物の正確な量は、多くの場合、条件に依存する。例えば、水和物は、典型的には温度が増大するにつれて、または相対湿度が減少するにつれて、水を失うであろう。条件(例えば、湿気など)が変わっても変化しないか、またはほんの少ししか変化しない化合物は、一般に医薬配合物(pharmaceutical formulations)にいっそう適していると見なされる。
【0022】
化合物によっては吸湿性である。すなわち、湿気にさらされると水分を吸収する。吸湿性は一般に、医薬配合物として(特に、錠剤またはカプセル剤などの乾燥配合物として)提供される化合物にとって望ましくない性質と見なされる。1つの実施態様では、本発明は吸湿性の低い結晶を提供する。
【0023】
結晶性有効成分を使用した経口剤形の場合、前記結晶が明確に定義された場合も有益である。この文脈において、「明確に定義された」という用語は、特に化学量論が明確に定義されること、すなわち塩を形成しているイオン間の比が小さい整数間の比(1:1、1:2、2:1、1:1:1など)であることを意味する。1つの実施態様では、本発明の化合物は明確に定義された結晶である。
【0024】
有効成分の溶解度は、生物学的利用能への直接的な影響を及ぼしうるので、これも剤形の選択にとって重要である。経口剤形の場合、有効成分の溶解度が大きくなると、生物学的利用能が増大するので、一般に有益であると考えられる。
【0025】
化合物Iの薬理学的プロファイルを実施例で示すが、以下のように要約することができる。化合物Iは、5−HTおよびNAの再取り込みを阻害し、5−HT2Aおよび5−HT2C受容体を阻害する。したがって、化合物Iは、うつ病および不安などの情動障害の治療に有用でありうるが、その薬理学的プロファイルにより、更なる適応症の治療にも有用であり得る。
【0026】
5−HT2Aおよび5−HT2C受容体は、例えば、それぞれNAおよびドーパミン作動性(DA)ニューロンに位置しており、活性化がそれぞれNAおよびDA放出において持続性抑制作用を発揮し、5−HT2Aおよび5−HT2C受容体アンタゴニストがそれぞれNAおよびDAのレベルの増大を起こすであろう。こうした背景に基づいて、5−HT2Aおよび5−HT2C受容体アンタゴニストは、SRIによる治療に対して抵抗性のあるうつ病(治療抵抗性うつ病(treatment resistant depression)、TRD、または難治性うつ病)の治療に大変適していると仮定することができる[非特許文献7]。
【0027】
一部のうつ病患者は、臨床的に重要なうつ病尺度、例えばMADRD(Montgomery Aasbergうつ病評価尺度およびHAMD(ハミルトンうつ病評価尺度)では改善するという意味で、例えば、SSRIによる治療に対して反応するであろうが、その場合に、睡眠障害および認知機能障害など他の症状は残る。この文脈において、こうした患者は部分反応者(partial responders)と呼ばれる。化合物Iの5−HT2A受容体および5−HT2C受容体拮抗作用(睡眠における効果に反映されると考えられる)のせいで、化合物Iは、部分反応者の治療に有用でありうる。または言い換えれば、本発明の化合物によるうつ病の患者の治療では、部分反応者の割合が減少するであろう。
【0028】
睡眠障害は、大抵の抗うつ薬の一般的な有害効果であると思われる。特に、SSRI、NRIおよびSNRIは入眠および睡眠維持の問題を生じることが報告されており、さらに不眠症の問題も報告されることが多い[非特許文献8]。ほかにも、そのような化合物は、レム睡眠の抑制、睡眠潜時の増大、有効睡眠(efficient sleep)の減少、夜間覚醒の増大、および睡眠の分断化を引き起こすことが報告されている[非特許文献9]。
【0029】
一般に、5−HT2Aおよび5−HT2C受容体を刺激することによって睡眠に悪影響が及ぶことが推測される。R.L.Fishは、非特許文献10において、ある種の4−フルオロスルホニルピペリジン(これは、高度に選択的な5−HT2A受容体アンタゴニストである)が、ラットでの徐波睡眠期間を増大させ、かつ覚醒回数を減少させる点で有効であることを報告している。こうした前臨床所見は臨床知見により確認されている。リタンセリン(5−HT2A受容体アンタゴニスト)は、ヒトにおいて、合計睡眠時間、徐波睡眠期間、レム睡眠期間を増大させ、主観的な睡眠の質を向上させることが明らかにされている[非特許文献11]。ネファゾドン(5−HT2A受容体の強力な阻害剤であり、かつ5−HTおよびNA再取り込みの弱い阻害剤)は、臨床治験において、睡眠継続性(sleep continuity)および合計REM睡眠時間を増大させ、かつ覚醒の回数を減少させることが明らかにされている[非特許文献12]。同様に、トラゾドン(これは、5−HT2A受容体アンタゴニストであり、かつ5−HT再取り込みの中程度の阻害剤である)は、HAS(睡眠障害)およびHRSD(早朝覚醒、熟睡不足および入眠)の臨床スコアを改善することが明らかにされている[非特許文献13]。Sharpleyは非特許文献14で、5−HT2A受容体アンタゴニスト、特に5−HT2C受容体アンタゴニストにより、徐波睡眠が改善されることを報告している。
【0030】
上記の知見および所見は、5−HT及び/またはNA再取り込みの阻害効果を5−HT2A/C受容体アンタゴニスト活性と組み合わせて有する化合物を識別するなら、睡眠への有害効果が減少するか否かにかかわらず、情動障害(例えば、うつ病および不安など)の治療に適した化合物が提供されるであろうことを示唆している。
【0031】
双極性障害は以前、躁うつ病として知られていたものであり、躁病とうつ病のエピソードが繰り返されることを特徴としている。双極性うつ病(または双極性疾患と関連したうつ病)の治療において大きな挑戦となるのは、躁への移行が起こらないようにすることである。すなわち、抗抑うつ治療の結果として躁病のエピソードがうつ病患者に起こらないようにすることである。相当の割合の双極性うつ病の患者において、抗うつ薬による治療の後に、治療によって発症する躁病が報告されている[非特許文献15]。普通は、躁病エピソードは、クエチアピンまたはオランザピンなど(どちらも5−HT2A受容体アンタゴニスト作用を示す)の抗精神病薬か、またはリチウムで治療する。したがって、5−HTおよびNAの再取り込み阻害と5−HT2A受容体における拮抗作用とを併せ持つ化合物は、双極性うつ病の治療に理想的な化合物であり、躁へ移行しないようにすると考えられるであろう。
【0032】
睡眠障害および不安は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の特徴であり、それゆえにこれら両方の症状に対して効果のある化合物はこの病気の治療に大変適しているであろう。
【0033】
メランコリーは、うつ病の特定サブタイプであり、重度のうつ病と結びつけられることが多い。このタイプのうつ病は、メランコリー型うつ病とも呼ばれる。メランコリーは、不安、将来への不安、不眠症、および食欲不振と関連している。5−HTとNAの再取り込みの両方を阻害する化合物(例えば、ベンラファキシンなど)は、重度のうつ病およびメランコリーの患者の治療に特に有効であることが明らかにされている[非特許文献16]。
【0034】
注意欠陥多動性障害(ADHD)は、もっとも一般的な神経行動学的な障害の1つである。ADHDは、制限された行動(restricted behaviour)、反復的な行動または定型行動(stereotyped behaviours)を伴う、社会的障害およびコミュニケーション障害の三徴候の存在を特徴としている。ADHDは普通、幼児期または青年期に発症するが、症状は成人期まで継続することがある。アトモキセチンは、現在、ADHDの治療に関してFDAが認可している唯一の非刺激物である[非特許文献17]。アトモキセチンはNA再取り込み阻害剤であり、これは化合物IをADHDの治療に使用できることを示唆している。さらに、5−HT2A/C受容体のアンタゴニストである化合物は、上述のように睡眠改善効果を有することができ、これはADHDの治療に有益である。
【0035】
化合物Iの薬理学的プロファイル、特にSERTとNATの阻害効果と5−HT2Aおよび5−HT2C受容体の拮抗作用とによって5−HTおよびNA神経伝達が複合的に促進されることは、化合物Iが痛み(特に慢性疼痛)の治療に特に有用でありうることを示唆している。情動障害(うつ病および不安など)も患っている患者の痛みおよび特に慢性疼痛の治療に、化合物Iを使用することも特別に言及しておく。
【0036】
実施例に示すように、化合物Iは、事実、動物試験において、神経因性疼痛の治療で顕著な用量依存性効果を有することが明らかになった。
【0037】
1つの実施態様では、本発明は、大うつ病性障害;気分変調性障害;全身状態(general medical condition)に起因する気分障害;非定型うつ病;季節性感情障害;メランコリー;治療抵抗性うつ病;部分反応者;双極性障害、痛み、アルツハイマー病、精神病、パーキンソン病、レビー小体病、ハンチントン病、多発性硬化症または不安に関連したうつ病;全般性不安障害;社会不安障害;パニック発作;恐怖症;社会恐怖症、強迫性障害;心的外傷後ストレス障害;急性ストレス;ADHD;および痛みから選択される疾患の治療に関する。
【0038】
1つの実施態様では、本発明は、大うつ病性障害;気分変調性障害;全身状態に起因する気分障害;非定型うつ病;季節性感情障害;メランコリー;治療抵抗性うつ病;部分反応者;双極性障害、痛み、アルツハイマー病、精神病、パーキンソン病、レビー小体病、ハンチントン病、多発性硬化症または不安に関連したうつ病;全般性不安障害;社会不安障害;パニック発作;恐怖症;社会恐怖症、強迫性障害;心的外傷後ストレス障害;急性ストレス;ADHD;および痛みから選択される疾患の治療に使用するための化合物Iに関する。
【0039】
1つの実施態様では、本発明は、大うつ病性障害;気分変調性障害;全身状態に起因する気分障害;非定型うつ病;季節性感情障害;メランコリー;治療抵抗性うつ病;部分反応者;双極性障害、痛み、アルツハイマー病、精神病、パーキンソン病、レビー小体病、ハンチントン病、多発性硬化症または不安に関連したうつ病;全般性不安障害;社会不安障害;パニック発作;恐怖症;社会恐怖症、強迫性障害;心的外傷後ストレス障害;急性ストレス;ADHD;および痛みから選択される疾患の治療用薬剤の製造における化合物Iの使用に関する。
【0040】
1つの実施態様では、前記痛みは、幻想肢痛、神経因性疼痛、糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛(PHN)、手根管症候群(CTS)、HIV神経障害、複合性局所疼痛症候群(CPRS)、三叉神経痛(trigeminal neuralgia)/三叉神経痛(trigeminus neuralgia)/疼痛性チック、外科的処置(例えば、術後鎮痛薬(post−operative analgesics))、糖尿病性血管症(diabetic vasculopathy)、インスリン炎と関連した毛細血管抵抗または糖尿病の症状、アンギナと関連した痛み、月経と関連した痛み、癌と関連した痛み、歯痛、頭痛、片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経痛、顎関節症候群、筋筋膜疼痛 筋損傷、線維筋痛症候群、骨および関節の痛み(変形性関節症)、関節リウマチ、やけどと関連した外傷によってもたらされる関節リウマチおよび浮腫、変形性関節症、骨粗しょう症、骨への転移または未知の理由に起因する捻挫または骨折の痛み、痛風、結合組織炎、筋筋膜疼痛、胸郭出口症候群、上背部(upper back)の痛みまたは下背部の痛み(背部痛は、全身性、局所性、または原発性脊椎疾患(神経根障害)に起因する)、骨盤痛、心臓性胸痛、非心臓性胸痛、脊髄損傷(SCI)に関連した痛み、中枢性卒中後痛(central post−stroke pain)、癌性神経障害、AIDSの痛み、鎌状赤血球による痛み(sickle cell pain)または老人性の痛みからさらに選択されうる慢性疼痛である。
【0041】
一実施態様では、本発明の化合物は、1日当たり約0.001〜約100mg/kg(体重)の量だけ投与する。
【0042】
典型的な経口薬用量は、1日当たり約0.001〜約100mg/kg(体重)、好ましくは1日当たり約0.01〜約50mg/kg(体重)の範囲であり、1〜3回の投薬のように1回または複数回の投薬で投与される。厳密な用量は、投与の頻度および方法、治療する対象者の性別、年齢、体重および全身状態、治療する状態および治療する任意の合併症の性質および重症度、ならびに当業者にとって明白な他の因子に依存するであろう。
【0043】
大人の典型的な経口薬用量は、本発明の化合物が1〜100mg/日の範囲(1〜30mg/日、または5〜25mg/日など)である。これは、典型的には、0.1〜50mg(1〜25mgなど(1、5、10、15、20または25mgなど))の本発明の化合物を1日に1回または1日に2回投与することによって成し遂げることができる。
【0044】
本明細書で使用される化合物の「治療的に有効な量」とは、前記化合物の投与を含む治療的介入において、所与の病気およびその合併症の臨床症状の治癒、軽減または部分的抑止を行うのに十分な量を意味する。このことを成し遂げるのに十分な量を「治療的に有効な量」と定義する。この用語は、前記化合物の投与を含む治療において、所与の病気およびその合併症の臨床症状の治癒、軽減または部分的抑止を行うのに十分な量も包含する。それぞれの目的での有効量は、病気または傷害の重症度ならびに対象者の体重および全身状態によって異なるであろう。適切な薬用量の決定は、値の行列を構成し、その行列内の種々のポイントを試験することにより、ごく普通の実験を用いて行うことができることが理解できるであろう。そうしたことはすべて、訓練を受けた医師の通常の技量の範囲に含まれる。
【0045】
本明細書で使用される「治療」および「治療する」という用語は、病気または障害などの状態と戦う目的で患者の管理および世話を行うことを意味する。この用語は、患者の苦しみの原因である所与の状態に対するあらゆる範囲の治療を包含することを意図しており、治療には、症状または合併症を軽減するため、病気、障害または状態の進行を遅らせるため、症状および合併症を軽減または緩和するため、及び/または病気、障害または状態を治癒または除去するため、さらにはその状態を防止するために、活性化合物を投与することなどがある。ここで、防止とは、病気、状態、または障害と戦う目的で患者の管理および世話を行うことと理解されるべきであり、これには、症状または合併症が発現するのを防ぐために活性化合物を投与することが含まれる。とはいえ、予防的(防止的)処置および治療的(治癒的)処置は、本発明の2つの別個の態様である。治療対象の患者は、好ましくはほ乳動物、特にヒトである。
【0046】
本発明の化合物は、純粋の化合物として単独で、または薬学的に許容可能なキャリヤーまたは賦形剤と組み合わせて、単回投与または複数回投与のいずれかで投与してよい。本発明による医薬組成物は、非特許文献18に開示されているものなど従来の手法に従って、薬学的に許容可能なキャリヤーまたは希釈剤ならびに任意の他の周知の佐剤および賦形剤と一緒に配合してよい。
【0047】
医薬組成物は、経口、直腸、経鼻、肺、局所的(頬および舌下を含む)、経皮、大槽内、腹腔内、膣および非経口(皮下、筋肉内、くも膜下腔内、静脈内および皮内を含む)経路などの任意の好適な経路で投与するために特に配合することができ、経口経路が好ましい。好ましい経路は、治療対象の対象者の全身状態および年齢、治療する状態の性質および選択する有効成分によって異なることが理解されるであろう。
【0048】
経口投与用の医薬組成物としては、カプセル剤、錠剤、糖衣丸、丸剤、ロゼンジ、散剤および顆粒剤などの固体剤形がある。適切な場合には、コーティングと一緒に調製できる。
【0049】
経口投与用の液状剤形としては、液剤、エマルジョン、懸濁液、シロップ剤およびエリキシル剤がある。
【0050】
非経口投与用の医薬組成物としては、無菌の水性および非水性の注射用の溶液、分散液、懸濁液またはエマルジョンならびに無菌粉末(使用前に、無菌の注射用の溶液または分散液で元に戻される)がある。
【0051】
他の好適な投与形態としては、坐剤、噴霧剤、軟膏剤、クリーム、ゲル、吸入剤、皮膚パッチ、インプラントなどがある。
【0052】
本発明の化合物は、約0.1〜50mgの量の前記化合物(1mg、5mg 10mg、15mg、20mgまたは25mgなどの本発明の化合物)を含む単位投薬形態として投与するのが便利である。
【0053】
非経口経路(静脈内投与、くも膜下腔内投与、筋肉内投与および類似の投与など)では、通常、用量は経口投与に使用する用量の約半分程度である。
【0054】
非経口投与では、無菌の水溶液、水性プロピレングリコール、水性のビタミンE(aqueous vitamin E)またはゴマ油またはピーナッツ油中における本発明の化合物の溶液を使用してよい。そのような水溶液は、必要に応じて好適に緩衝化するべきであり、液体希釈剤は十分な食塩水またはブドウ糖で最初に等張性にするべきである。水溶液は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与および腹腔内投与に特に適している。使用する無菌水性媒体はすべて、当業者に知られている標準的手法によって容易に得られる。
【0055】
好適な薬学的キャリヤーとしては、不活性固体希釈剤または増量剤、無菌水溶液および様々な有機溶媒がある。固体キャリヤーの例には、乳糖、白土、スクロース、シクロデキストリン、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸およびセルロースの低級アルキルエーテルがある。液体キャリヤーの例には、シロップ、ピーナッツ油、オリーブ油、リン脂質、脂肪酸、脂肪酸アミン(fatty acid amines)、ポリオキシエチレンおよび水がある。次いで、本発明の化合物と薬学的に許容可能なキャリヤーとを組み合わせて形成される医薬組成物は、開示されている投与経路に適した様々な剤形で容易に投与される。
【0056】
経口投与に適した本発明の配合物は、カプセル剤または錠剤(それぞれ所定量の有効成分を含有しており、好適な賦形剤を含むことができる)などの個別の単位として提供することができる。さらに、経口摂取可能な配合物は、粉末または顆粒、水性液体または非水性液体における溶液または懸濁液、または水中油型または油中水型の液体エマルジョンの形態であってよい。
【0057】
固体キャリヤーを経口投与に用いる場合、調合物は、錠剤(例えば、硬質ゼラチンカプセルに入れる)、粉末またはペレットの形態、またはトローチ剤または舐剤の形態であってよい。固体キャリヤーの量は、様々でありうるが、普通は約25mg〜約1gであろう。
【0058】
液体キャリヤーを用いる場合、調合物は、シロップ、エマルジョン、軟質ゼラチンカプセルまたは無菌の注射用液(水性液または非水性液の懸濁液または溶液など)の形態であってよい。
【0059】
錠剤は、有効成分を通常の佐剤及び/または希釈剤と混合し、その後で従来のタブレットマシンでその混合物を圧縮することによって調製できる。佐剤または希釈剤の例として、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ゼラチン、乳糖、ゴムなどがある。そのような目的に普通用いられる他の任意の佐剤または添加剤(着色剤、香味料、防腐剤など)は、有効成分と適合性があるという条件で、使用することができる。
【0060】
本発明の化合物を含むカプセル剤は、前記化合物を含む粉末を、微結晶性セルロースおよびステアリン酸マグネシウムと混ぜ合わせ、前記粉末を硬質ゼラチンカプセルに入れることによって調製できる。任意選択で、前記カプセルは好適な色素で着色してよい。典型的には、カプセル剤は、0.25〜20%の本発明の化合物(0.5〜1.0%、3.0〜4.0%、14.0〜16.0%などの本発明の化合物)を含むであろう。こうした力価を用いて、好都合にも、1、5、10、15、20および25mgの本発明の化合物を単位投薬形態で送達できる。
【0061】
注射用溶液は、有効成分および可能な添加剤を注射用溶媒(好ましくは滅菌水)の一部に溶かし、溶液を調節して所望の容量にし、その溶液を滅菌し、好適なアンプルまたはバイアルに充填することによって、調製することができる。当技術分野において従来から使用される任意の好適な添加剤(等張化剤、防腐剤、酸化防止剤など)を加えてもよい。
【0062】
化合物Iは、単独で、または別の治療的に有効な化合物と組み合わせて投与することができ、組み合わせる場合、その2種類の化合物は同時かまたは順次に投与することができる。化合物Iと有利に組み合わせることのできる治療的に有効な化合物の例としては、ベンゾジアゼピンなど鎮静剤または睡眠剤;ラモトリジン、バルプロ酸、トピラメート、ガバペンチン、カルバマゼピンなどの抗痙攣薬;リチウムなどの気分安定剤;ドーパミンアゴニストおよびL−ドーパなどのドーパミン作用薬;アトモキセチンなどのADHD治療薬;モダフィニル、ケタミン、メチルフェニダートおよびアンフェタミンなどの精神刺激薬;ミルタザピン、ミアンセリンおよびブプロプリオン(buproprion)などの他の抗うつ薬;T3、エストロゲン、DHEAおよびテストステロンなどのホルモン;オランザピンおよびアリピプラゾールなどの非定型抗精神病薬;ハロペリドールなどの定型抗精神病薬;コリンエステラーゼ阻害剤およびメマンチン、葉酸塩(またはエステル)などのアルツハイマー病の治療薬;S−アデノシルメチオニン(S−Adenosyl−Methionine);インターフェロンなどの免疫モジュレーター(immunmodulators);ブプレノルフィンなどのオピエート;アンギオテンシンII受容体1アンタゴニスト(AT1アンタゴニスト);ACE阻害剤;スタチン;およびプラゾシンなどのアルファ1アドレナリン拮抗薬がある。
【0063】
化合物I(遊離塩基)は、例えば、特許文献3に略述されているようにして調製できる。塩は、適切な酸を加えてから、沈殿させることによって調製できる。沈殿は、例えば、冷却、溶媒の除去、別の溶媒の添加またはそれらを組み合わせることによって生じさせることができる。あるいはまた、化合物Iは実施例に開示されているようにして調製できる。
【0064】
本明細書に引用されているすべての参考文献(刊行物、特許出願、および特許を含む)は、その全体を援用し、さらに、各参考文献が、参照により個別にはっきりと組み込まれることが示されかつ本明細書にその全体が説明されている場合と同じ程度まで(法律によって許される最大限まで)援用する。このことは、本明細書のほかの箇所で特定の文献が別個に組み込まれているかどうかに関わりない。
【0065】
本発明を説明する文脈における「1つ(a)」および「1つ(an)」および「その(the)」という用語ならびに同様の指示物が使用される場合、本明細書において特に記載のない限り、または明らかに文脈と矛盾しない限り、単数と複数の両方を包含すると解釈すべきである。例えば、「その化合物」という語句は、特に記載のない限り、本発明または記載した特定の態様の様々な「化合物」を指すと理解されるべきである。
【0066】
特に記載のない限り、本明細書に示す正確な値はすべて、対応するおおよその値を代表する(例えば、特定の因子または測定に関連して示されている正確な例示的値はすべて、適切な場合には、おおよその測定値(「約」で修飾される)も示すと見なすことができる)。
【0067】
要素(1つまたは複数)に関連して「含む」、「有する」、「包含する」または「含有している」などの用語を使用して本発明の任意の態様または態様について本明細書で説明している場合、それは、特に記載のない限りまたは明らかに文脈と矛盾するのでない限り、その特定の要素(1つまたは複数)「からなる」、「から本質的になる」、または「を実質的に含む」本発明の類似の態様または態様を包含することを意図している(例えば、本明細書において特定の要素を含むものとして説明されている組成物は、特に記載のない限りまたは明らかに文脈と矛盾するのでない限り、その要素からなる組成物も説明していると理解すべきである)。
【実施例】
【0068】
特に記載のない限り、LC/MSは以下の構成で実行した。
【0069】
LC/MS(汎用):溶媒系:A=水/TFA(100:0.05)およびB=水/アセトニトリル/TFA(5:95:0.035)(TFA=トリフルオロ酢酸)。保持時間(RT)は分で表す。MS機器は、PESciex (API)からのものであり、APPIソースを備え、正イオンモード(positive ion mode)で操作される。
【0070】
方法:API 150EXおよびShimadzu LC8/SLC−10A LCシステム。カラム:3.5μMの粒子を有する30×4.6mmのWaters Symmetry C18(室温で操作)。4分間で10%Bから100%Bへの、流量が2ml/分である直線勾配溶出法。
【0071】
実施例1 薬理学的プロファイル
ラットのシナプトソームにおける化合物Iによる再取り込み阻害のIC50(nM)値:
H]−セロトニン:2.4
H]−ノルアドレナリン:12
Cheng−Prusoff式で計算したヒトのセロトニン受容体への化合物Iの親和性(K、nM)
5−HT2A:13
5−HT2C:4.9
機能試験法(functional assay)では、化合物Iは、5−HT2A受容体のアンタゴニストであり、FLIPR試験法で測定した場合にKがおよそ130nMであることが示される。同様に、化合物Iは5−HT2C受容体のアンタゴニストであり、Kはおよそ35nMである。
【0072】
実施例2 化合物Iの合成
【化2】

ステップ1:
3,4−ジフルオロアニソール(25.0g)をテトラヒドロフラン(200mL)中に溶かし、その溶液を−78℃まで冷却した。n−ブチルリチウム(ヘキサン中に1.7M、102mL)を1時間かけて添加し、温度は−70℃未満に維持した。−78℃で3時間たった後に、4−オキソ−ピペリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(100mLのテトラヒドロフラン中に31.2g)を、温度が−65℃未満に保たれるような速度で添加した。翌朝、粗混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液(200mL)および水(100mL)で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、真空中で濃縮して、粗生成物を得た。この物質を、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離剤:酢酸エチル/ヘプタン(1:1))で精製して、生成物(27.7g;4−オキソ−ピペリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルで汚染されたもの)を得た。
【0073】
ステップ2:
前のステップの生成物を、33%臭化水素/酢酸(50mL)と48%臭化水素水溶液(50mL)との混合物に入れて、一晩中還流させた。翌朝、混合物を室温まで冷やし、沈殿固体(12.7g)を濾過で回収し、次のステップに使用した。
【0074】
ステップ3:
前のステップの生成物の一部(7.7g)をエタノール(150mL)中に溶かした。トリエチルアミン(3.8mL)と、その後に二炭酸ジ−tert−ブチル(5.8g)を5分間かけて少しずつ添加した。混合物は、週末の間ずっと室温(rt)で攪拌されるようにした。沈殿した生成物を濾過して取り除き、濾過液を真空中で濃縮して第2粗生成物部分を得た。この物質を、ジエチルエーテル(100mL)と水(100mL)と10%水酸化ナトリウム水溶液(20mL)との間で分配されるようにした。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液(100mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過および真空中での濃縮により、生成物の第2回収物(全収量8.03g)が得られた。
【0075】
ステップ4:
前のステップの生成物の一部(3.0g)を塩化メチレン(100mL)中に溶かした。(1,5−シクロオクタジエン)(ピリジン)(トリ−シクロ−ヘキシル−ホスファン)イリジウム(I)ヘキサフルオロホスフェート(Crabtreeの触媒;775mg;10%)を添加し、パール・シェーカー(Parr shaker)を用いてその混合物を水素ガス(3バール)で処理した。新たな触媒をおよそ24時間かけて何度か添加した(合計で30%)。濾過して白色固体を得た。これを次のステップで使用した。
【0076】
ステップ5:
前のステップの粗混合物をN−N−ジメチルホルムアミド(20mL)中に溶かした。エチル−ジ−イソ−プロピルアミン(Huenigの塩基;0.76g)および4−ジメチルアミノ−ピリジン(0.12g)を添加し、その後で1,1,2,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロ−ブタン−1−スルホニルフルオリド(NfF;1.62g)を添加した。1時間後に、揮発分を真空中で除去し、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離剤:酢酸エチル/ヘプタン(1:4))で精製して、所望の生成物(2.04g)を得た。
【0077】
ステップ6:
ナトリウムtert−ブトキシド(0.45g)と乾燥トルエン(25mL)の入っているフラスコに、前のステップの生成物(2.04g)を加えた。その混合物をアルゴンで脱気してから、乾燥トルエン(10mL)中にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pddba;166mg)とビス[(2−ジフェニル−ホスファニル)フェニル]エーテル(DPEphos;195mg)とを含む脱気された混合物の入っているフラスコに、それを加えた。最後に、トリ−イソ−プロピル−シランチオール(0.78mL)を加え、その混合物をアルゴン下で100℃において一晩攪拌した。室温まで冷やした後、粗混合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離剤 酢酸エチル/ヘプタン(1:9))で精製して、所望の生成物(181mg)を得た。
【0078】
ステップ7:
前のステップの生成物をアルゴン下で乾燥トルエン(8mL)に溶かした。この原液の一部(1mL)を、Mettler−Toledo Bohdanブロック(Mettler−Toledo Bohdan block)の反応バイアルに加え、アルゴン雰囲気を用いて空気を排除した。2−フルオロ−1−ヨード−4−メチル−ベンゼン(0.33mmol;一般文献の手順[非特許文献19]に従って2−フルオロ−4−メチル−フェニルアミンから調製)を、トルエン溶液(1mL)として加え、その後、新たに調製した、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pddba)およびビス[(2−ジフェニル−ホスファニル)フェニル]エーテルのDPEphos(0.3当量のパラジウムおよび0.6当量のDPEphosに相当する)を含むトルエン溶液の原液0.5mLを加えた。カリウムtert−ブトキシド(0.66mmol)を加え、その後、テトラ−n−ブチルアンモニウムフルオリド(TBAF;THF中1.0M;80マイクロリットル)を加えた。混合物を100℃において一晩アルゴン下で攪拌した。翌朝、Genevac器具を用いて揮発分を除去した。残留物をメタノール(4mL)中に溶かし、VacMaster SCX−カラム(10%酢酸/メタノールで活性化)に注入した。生成物をアセトニトリルで溶離させた。揮発分を真空中で除去した。残留物をメタノール(1.5mL)中に溶かし、4M HCl/ジエチルエーテル(1.5mL)を加えた。混合物を室温で週末の間ずっと振盪した後に、揮発分を真空中で除去した。残留物をジメチルスルホキシド(0.18mL)中に溶かし、濾過した。20%アセトニトリル/水を数滴加え、その混合物を再び濾過した。生成物を、説明のとおりに分取LC/MSで分離し、真空中で濃縮し、生成物をジメチルスルホキシド(0.78mL)に溶かして、10mM溶液を得た。LC/MSデータ:方法14、保持時間(UV)2.152分間;UV純度79.5%;ELS純度100%;観測された質量337.407。
【0079】
実施例3 化合物Iの合成
【化3】

ステップ1:
3,4−ジフルオロフェノール(100g)を3,4−ジヒドロ−2H−ピラン(DHP;280mL)中に溶かした。0.5mLの濃塩化水素水溶液(concentrated aqueous hydrogen chloride)を加え、混合物を一晩室温で攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(200mL)およびジエチルエーテル(400mL)で粗混合物を抽出し、有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液(200mL)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過および真空中での濃縮により、所望の化合物(169g)が淡黄色の油状物として得られた。
【0080】
ステップ2:
前のステップの生成物(別のバッチ;214.2g)をテトラヒドロフラン(2L)中に含んだ溶液を窒素で洗浄し、−35℃まで冷却した。n−ブチルリチウムの溶液(ヘキサン中10M;120mL)を70分間にわたって加え、得られた混合物を−35℃で260分間攪拌した。次いで、−30℃未満に温度を保ちながら4−オキシ−ピペリジン−1−カルボン酸エチルエステル(205.4g)を70分間にわたって滴加し、その後で混合物が一晩rtで攪拌されるようにした。翌朝、混合物を0℃まで冷却し、2M塩化水素水溶液(aqueous hydrogen chloride)(200mL)を加えた。混合物を室温で3時間攪拌した。粗混合物を水(500mL)と酢酸エチル(200mL)との間で分配されるようにした。水層を酢酸エチル(200mL)で抽出した。一緒にした有機層を15%塩化ナトリウム水溶液(3×200mL)で洗浄し、トルエン(3×250mL)と一緒に真空中で共濃縮(co−concentration)して黄色油状物(442.4g)を得た。
【0081】
ステップ3+4:
前のステップの生成物をトリエチルシラン(160mL)に加え、その混合物を60℃まで加熱した。トリフルオロ酢酸(TFA;250mL)を加え、その後でトリエチルシラン(50mL)をさらに加えた。90分後に、活性炭(25g)を加え、その混合物を70℃で0.5時間攪拌した。エタノール(500mL)を加え、その混合物を一晩rtで攪拌した。翌朝、混合物を加熱して1時間還流させてから、温かい間にそれを濾過した。濾過液を真空中で濃縮した。残留物をエタノール(100mL)中で、0℃において2.5時間攪拌した。沈殿固体(7.7g)を濾過で回収した。酢酸エチル(50mL)およびヘプタン(300mL)中で濾過液を攪拌して、生成物の第2部分を硬いオフホワイトの物質(153.8g)として得、それを濾過で分離した。一緒にした生成物留分をテトラヒドロフラン/エタノール(1:3;1.5L)中に溶かし、室温においてパール・シェーカーを用いてPd/C(5.4g)および水素ガス(3バール)で処理した。触媒を濾過で取り除き、濾過液を真空中で濃縮して固体物質を得た。それをヘプタン(300mL)中で攪拌してから、濾過で分離して白色固体(144.6g)を得た。
【0082】
ステップ5:
アセトニトリル(1.5L)およびトリエチルアミン(255mL)中に前のステップの生成物(別のバッチ;175g)を含んだ懸濁液を、室温において、1,1,2,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロ−ブタン−1−スルホニルフルオリド(NfF;142.6mL)で処理した。25分後に、混合物を真空中で濃縮して、未精製のノナフレート(nonaflate)(405.2g)を得た。
【0083】
ステップ6:
前のステップの生成物をトルエン(3.4L)中に溶かした。この溶液に、炭酸カリウム(168.6g)、3−メルカプト−プロピオン酸エチルエステル(85.4g)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pddba;2.84g)およびビス(2−ジフェニル−ホスファニル)エーテル(DPEphos;4.1g)を加えた。混合物を窒素で脱気してから、一晩還流させた。混合物を0℃まで冷却してから、沈殿固体を濾過で取り除き、トルエン(100mL)で洗浄した。一緒にした濾過液を次のステップで使用した。
【0084】
ステップ7:
トルエン(2.8L)中にカリウムtert−ブトキシド(95.4g)を含んだ氷冷した懸濁液に、前のステップの生成物をおよそ2時間にわたって加えた。次いで、1−ブロモ−2−フルオロ−4−メチル−ベンゼン(121g)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pddba;1.7g)およびビス(2−ジフェニル−ホスファニル)エーテル(DPEphos;2.48g)を加え、その混合物をおよそ1時間還流させた。粗混合物を室温まで冷却し、シリカゲルに通して濾過し、真空中で濃縮して粗生成物(240g)を得た。
【0085】
ステップ8:
前のステップの生成物を、33%臭化水素/酢酸(368mL;3当量のHBr)中に溶かし、その溶液を110℃でおよそ4時間攪拌した。次いで、33%臭化水素/酢酸(およそ0.5当量のHBr)をさらに加え、その混合物を110℃で45分間攪拌してから、rtまで冷却した。翌朝、溶液を氷浴で冷却し、ジエチルエーテル(2.25L)を加えた。1.5時間後に、沈殿固体を濾過で回収して、所望の生成物を臭化水素酸塩(185g)として得た。
【0086】
実施例4 神経因性疼痛への効果
薬物の抗侵害の潜在能力の評価に利用できる、幾つかの十分に有効性が評価された神経因性疼痛の動物モデルがある。もっとも頻繁に使用されるモデルの中に、慢性絞扼性神経損傷モデル(chronic constriction injury models)(例えば、非特許文献20)およびカプサイシンモデル(非特許文献21)およびホルマリンモデル[非特許文献22]がある。神経因性疼痛に対する有効性を実証するために、化合物Iを神経因性疼痛のホルマリンモデルで試験した。このモデルでは、マウスの左後足の底面にホルマリン(4.5%、20μl)の注射を行い、その後、観察するためマウスを個別のガラスビーカー(容量2リットル)に入れる。ホルマリン注射によって引き起こされる刺激は、負傷した足をなめるのに費やす時間の量で定量化される、特徴的な二相性の行動反応(biphasic behavioural response)を誘発する。第1相(およそ0〜10分)は、直接の化学的刺激および痛覚を表すが、第2相(およそ20〜30分)は、神経因性の起源の痛みを表すと考えられる。2つの相は、行動が正常に戻る休止期間によって区切られる。負傷した足をなめるのに費やす時間の量を2つの相で測定することにより、神経因性と同様の疼痛の反応を減少させる試験化合物の有効性が評価される。
【0087】
以下の表1は、2つの相(すなわちホルマリン注射後の0〜5分間および20〜30分間)において負傷した足をなめるのに費やした時間の量を示している。マウスはそれぞれの用量群で8匹、媒体群で12匹であった。
【0088】
【表1】

【0089】
表1のデータは、化合物Iが、直接の化学的刺激および痛覚を表す第1相ではほとんど効果がないことを示している。いっそう注目すべきことに、そのデータは、神経因性疼痛の治療における本発明の化合物の効果を示す第2相において、負傷した足をなめるのに費やした時間が用量に依存して明らかに減少していることも示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造
【化1】

で表される化合物およびその薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
療法に用いられる、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物および少なくとも1種の薬学的に許容可能なキャリヤーまたは希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項4】
治療的に有効な量の請求項1記載の化合物をそれを必要とする患者に投与することを含む、大うつ病性障害;気分変調性障害;全身状態(general medical condition)に起因する気分障害;非定型うつ病;季節性感情障害;メランコリー;治療抵抗性うつ病;部分反応者;双極性障害、痛み、アルツハイマー病、精神病、パーキンソン病、レビー小体病、ハンチントン病、多発性硬化症または不安に関連したうつ病;全般性不安障害;社会不安障害;パニック発作;恐怖症;社会恐怖症、強迫性障害;心的外傷後ストレス障害;急性ストレス;ADHD;および痛みから選択される疾患を治療する方法。
【請求項5】
大うつ病性障害;気分変調性障害;全身状態に起因する気分障害;非定型うつ病;季節性感情障害;メランコリー;治療抵抗性うつ病;部分反応者;双極性障害、痛み、アルツハイマー病、精神病、パーキンソン病、レビー小体病、ハンチントン病、多発性硬化症または不安に関連したうつ病;全般性不安障害;社会不安障害;パニック発作;恐怖症;社会恐怖症、強迫性障害;心的外傷後ストレス障害;急性ストレス;ADHD;および痛みから選択される疾患の治療に使用するための、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
大うつ病性障害;気分変調性障害;全身状態に起因する気分障害;非定型うつ病;季節性感情障害;メランコリー;治療抵抗性うつ病;部分反応者;双極性障害、痛み、アルツハイマー病、精神病、パーキンソン病、レビー小体病、ハンチントン病、多発性硬化症または不安に関連したうつ病;全般性不安障害;社会不安障害;パニック発作;恐怖症;社会恐怖症、強迫性障害;心的外傷後ストレス障害;急性ストレス;ADHD;および痛みから選択される疾患の治療用薬剤の製造における、請求項1に記載の化合物の使用。

【公表番号】特表2011−506352(P2011−506352A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537256(P2010−537256)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/DK2008/050301
【国際公開番号】WO2009/076961
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(591143065)ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット (129)
【Fターム(参考)】