説明

4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との新規な組み合わせ、及びそれを含む医薬組成物

【課題】脳の加齢及び神経変性疾患に関連する認知障害の処置における使用のための医薬組成物の提供。
【解決手段】式(I):


で示される4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又は薬学的に許容しうる酸もしくは塩基とのその付加塩と、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせ。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジル、リバスチグミン又はガランタミン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳の加齢及び神経変性疾患に関連する認知障害の処置における使用のための医薬組成物を得るための、式(I):
【化1】


で示される4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又は薬学的に許容しうる酸もしくは塩基とのその付加塩と、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤との新規な組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドは、インビボで中枢ヒスタミン作動系と相互作用する特徴を有している。これらの特性は、中枢神経系における活性、そしてさらに特別には、脳の加齢及び神経変性疾患に関連する認知障害の処置における活性を、それに付与する。
【0003】
4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、その製造及びその治療用途は、特許出願国際公開公報第2005/089747号に記載されている。
【0004】
本出願人は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせで用いられる、式(I)で示される4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又は薬学的に許容しうる酸もしくは塩基とのその付加塩は、脳の加齢及び神経変性疾患に関連する認知障害の処置のための貴重な特性を有することを、今、見い出した。
【0005】
アルツハイマー病のような脳の加齢に関連する神経変性疾患は、記憶障害及び認知機能障害を特徴とする。認知障害は、通常、特定の神経伝達物質を合成及び放出するニューロンの能力の低下に関連している。更にシナプス可塑性及び神経突起の進行性損失が観察されており、このニューロンの損失は、脳のある特定領域において加速されている。様々な神経伝達物質の中で、中枢ヒスタミン及びアセチルコリンは、認知機能の制御において重大な役割を担い(Witkin and Nelson, Pharmacol.& Therap., 2004, 103, 1-20)、それらのレベルが、健康な高齢者で観察されるレベルに比較して、アルツハイマー病の患者において非常に減少していることが示された(Panula et al., Neuroscience, 1998, 82(4), 993-997)。
【0006】
中枢神経系に特に豊富である、H型ヒスタミン作動性受容体は、主に神経伝達のシナプス前モジュレータであり、認知に関する様々な神経回路中に存在する(Blandina et al., Learn Mem., 2004, 11(1), 1-8)。それらは、ヒスタミン、アセチルコリン、セロトニン、ノルアドレナリン及びドーパミンのような神経伝達物質の放出を負に制御することによって作用する。アルツハイマー病においてヒスタミン作動性ニューロンが大部分使われていないようであることを考慮すると、H受容体のアンタゴニスト又はインバースアゴニストである化合物は、脳の加齢に関連する認知障害に対して新たな処置の道を開くこともできる。
【0007】
反対に、コリン作動性ニューロンの進行性変性がアルツハイマー病の過程で観察される。ドネペジルのようなアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、アセチルコリンエステラーゼの作用を遮断することによって脳内のアセチルコリンレベルの低下を制限するために、アルツハイマー病の対症療法において一般的によく使用されている。H受容体のアンタゴニスト/インバースアゴニストのようなアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、エピソード記憶及び作動記憶の様々な動物モデルにおいて認知特性を改善することを可能にすることが示された(Esbenshade et al., Br. J. Pharmacol., 2008, 154(6), 1166-1181; Yuede et al., Behav. Pharmacol., 2007, 18(5-6), 347-363)。したがって認知機能の改善は、ヒスタミン又はアセチルコリンのいずれかを標的にする2種類の方略に基づくことができる。
【0008】
本発明は、驚くべきことに、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の効果が、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又は薬学的に許容しうる酸もしくは塩基とのその付加塩の効果によって増強されることを示した。それゆえ、これらの化合物の同時投与は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の単一投与と比べて、患者の認知能力を改善することを可能にすることができたが、また一方で、処置に関連する副作用(特に、吐気又は下痢のような胃腸障害、頭痛又は疲労)は増やさなかった。したがって、換言するならば、単剤療法で通例用いられる治療用量よりも低用量のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の治療用量を用いる処置は、今や、同等の又は更に優れた認知能力及びより少ない副作用をもたらすと考えることができる。
【0009】
この予測不可能な効果により、脳の加齢及び神経変性疾患に関連する認知障害の処置において、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又はその付加塩と、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせを用いることを考慮することを可能にする。アルツハイマー病及びパーキンソン病に関連する認知障害が、特に目標である。
【0010】
4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドを、本発明において、好ましくはシュウ酸塩又は塩酸塩の形態で用いる。
【0011】
本発明のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤としては、ドネペジル、リバスチグミン及びガランタミンが、特に好ましい。好ましくは、ドネペジルは、塩酸塩の形態で、リバスチグミンは、酒石酸水素塩の形態で、そしてガランタミンは、臭化水素酸塩の形態で用いる。
【0012】
より特別には、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドとドネペジルとの組み合わせは、アルツハイマー病に関連する認知障害の処置に用いられるが、一方、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドとリバスチグミンとの組み合わせは、パーキンソン病に関連する認知障害の処置において好ましい。
【0013】
それゆえ、本発明は、脳の加齢及び神経変性疾患に関連する認知障害の処置を目的とした医薬組成物を得る際の、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又は薬学的に許容しうる酸もしくは塩基とのその付加塩と、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせの使用に関する。
【0014】
本発明はまた、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又は薬学的に許容しうる酸もしくは塩基とのその付加塩と、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせを、1つ以上の薬学的に許容しうる賦形剤と併せて含む、医薬組成物にも関する。
【0015】
本発明の医薬組成物において、活性成分の重量比率(組成物の総重量に対する活性成分の重量)は、好ましくは5〜50%である。
【0016】
本発明の医薬組成物としては、より特別には、経口、非経口及び特に静脈内、経皮もしくは貫皮、経鼻、直腸、経舌、眼内又は呼吸経路による投与に適切であるもの、より具体的には、錠剤、糖衣錠、舌下錠、硬ゼラチンカプセル剤、グロセット(glossette)剤、カプセル剤、トローチ剤、注射用製剤、エアロゾル、点眼液又は点鼻剤、坐剤、クリーム、軟膏、経皮ゲルなどが使用される。
【0017】
4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤化合物の他に、本発明の医薬組成物は、希釈剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、防腐剤、吸収剤,着色剤、甘味料、香料料などより選択される1つ以上の賦形剤又は担体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実験手順(Tronche et al., 2010に倣って改変した)を示す。
【図2】正解反応のパーセンテージ(識別D1)(化合物Sとドネペジルとの組み合わせ)を示す。
【図3】文脈記憶能力(化合物Sとドネペジルとの組み合わせ)を示す。
【図4】文脈記憶能力(化合物Sとリバスチグミンとの組み合わせ)を示す。
【図5】文脈記憶能力(化合物Sとガランタミンとの組み合わせ)を示す。
【0019】
非限定的例として、以下を挙げることができる
・希釈剤として: 乳糖、デキストロース、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、セルロース、グリセリン、
・滑沢剤として: シリカ、タルク、ステアリン酸ならびにそのマグネシウム塩及びカルシウム塩、ポリエチレングリコール、
・結合剤として: ケイ酸アルミニウムマグネシウム、デンプン、ゼラチン、トラガカンタ、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及びポリビニルピロリドン、
・崩壊剤として: 寒天、アルギン酸及びそのナトリウム塩、発泡性混合物。
【0020】
組み合わせの化合物は、同時又は逐次投与することができる。投与経路は、好ましくは経口経路であり、対応する医薬組成物は、活性成分の瞬時放出又は遅延放出を可能にすることができる。組み合わせの化合物は更に、各々が活性成分の1種を含有している2種類の別々の医薬組成物の形態で、又は活性成分が混合されている単一の医薬組成物の形態で投与することができる。
【0021】
医薬組成物は、錠剤であることが好ましい。
【0022】
有用な投与計画は、患者の性別、年齢及び体重、投与経路、障害及びあらゆる関連処置の特質によって異なり、そして4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドを24時間あたり0.5mg〜100mgまで、より好ましくは1日あたり5mgの範囲とする。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の用量は、それがそれ自体単独で投与される場合に用いられる用量と同じであるか又は少ない。ドネペジルの場合、投与計画は、ドネペジル塩酸塩について1日あたり0.5mg〜30mgであり、好ましい1日量は、5mg及び10mgである。リバスチグミンに関しては、投与計画は、1日あたり1mg〜20mgである。リバスチグミンが錠剤の形態で投与される場合、好ましい1日量は、1日2回で3mg及び6mgであるが、その製剤がパッチ剤の形態で提供される場合、リバスチグミンは、1日あたり4.6mg及び9.5mgである。ガランタミンの場合、投与計画は、1日あたり1〜30mg、好ましい1日量は、16及び24mgである。
【0023】
本発明の好ましい実施態様において、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド(化合物S)とドネペジルとの組み合わせは、以下の1日量で投与される:
【0024】
【表1】

【0025】
医薬組成物:
1000錠剤の調剤処方; それぞれ、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド塩酸塩5mg(塩基として表記した)及びドネペジル塩酸塩10mgを含有している:
4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド塩酸塩(塩基として表記した) 5g
ドネペジル塩酸塩 10g
トウモロコシデンプン 20g
マルトデキストリン 7.5g
コロイド状シリカ 0.2g
グリコールデンプンナトリウム 3g
ステアリン酸マグネシウム 1g
乳糖 55g
【0026】
実施例A:
エピソード記憶のモデルにおける実験、文脈系列識別テスト:
それぞれ単独で又は組み合わせて投与される、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド及びドネペジル(両方とも塩酸塩の形態で)の効果を、中年(14〜15か月齢)C57B16マウス(1群につきn=12匹)で文脈系列識別テストを使用して試験した(Celerier et al., Learn Mem., 2004, 11(2), 196-204; Tronche et al., Behav. Brain Res., 2010, 215(2): 255-60)。このモデルにおいて、中年マウスは、空間記憶の欠損は無いが、若年マウスに比較して文脈記憶の特定機能障害を有している。このモデルは、アルツハイマー病の製剤の効果を評価するために適切であり、なぜならアルツハイマー型認知症を患っている患者は、文脈エピソード記憶の障害も有しているからであり、このことはかなり初期の段階から該当する(Gold and Budson, Expert Rev Neurother., 2008, 8(12): 1879-1891)。
【0027】
隆起した縁を有する箱に入れられたマウスは、4つの穴を有する床で2種類の連続空間識別(D1:白色の床、次にD2:黒色の床)を学習し、それら穴のうちの1つだけで餌付けされ、穴の配置は、D1中とD2中では反対であった(図1を参照のこと)。各識別を特異な床(黒色又は白色)で実施し、これが各識別に対して特異である内部文脈を構成した。学習ステップの24時間後、マウスを白色の文脈床に戻し、以下を測定した:
− 正解反応のパーセンテージ(すなわち、白色の床で学習訓練中に餌付けされた穴に頭を下げ入れる%)、
− 妨害反応のパーセンテージ(すなわち、黒色の床(マウスに提示された最後の文脈)で学習訓練の間に餌付けされた穴に頭を下げ入れる%)、
− そして間違いのパーセンテージ(すなわち、白色の床又は黒色床にかかわらず、学習中に餌付けされなかった2つの穴に頭を下げ入れる%(図1を参照のこと)。
【0028】
担体で処置した中年マウスは、4−穴付き板でのこのテストにおいて偶然のレベル(およそ25%)に近い正解反応のパーセンテージを有することを、この結果が示した。ドネペジル塩酸塩(経口投与にて塩基として0.1mg/kg)での9日間の長期間処置の後に、担体と比較して、正解反応のパーセンテージの有意な改善は観察されなかった(図2を参照のこと)。対照的に、経口投与にて塩基として0.3及び1mg/kgの用量で4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド塩酸塩(図2中で、「S」と称する化合物)での9日間の長期間処置の後に、正解反応のレベルは、担体と比較して60%超増大した。最後に、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド(経口投与にて塩基として0.3及び1mg/kg)とドネペジル(経口投与にて塩基として0.1mg/kg)の組み合わせ投与は、担体それ自体単独と比較して、100%超の正解反応のレベルの増大をもたらした。これらの結果は、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドの存在下でのドネペジルの効果の明白な増強作用を示した。
【0029】
正解反応のレベルの増大と妨害反応のレベルの減少との間に、非常に良好な相関関係が更に観察され、それにより、文脈記憶に対する各化合物及びそれらの組み合わせの特定の効果を確認した。それゆえ、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド(経口投与にて塩基として0.3及び1mg/kg)とドネペジル(経口投与にて塩基として0.1mg/kg)との組み合わせ投与は、文脈記憶の能力(正確反応−妨害反応)を、化合物それぞれ単独で観察されるその能力に比べて、有意に増大させた。組み合わせの場合に観察されるこの増大は、それぞれ単独で投与される化合物の効果を単に一緒に加えることによって説明することはできず、それらが同時投与された場合に2種類の化合物の相乗活性を示した(図3を参照のこと)。
【0030】
結果は、これら2種類の化合物の組み合わせ投与が、全くの予想外であった大きな相乗効果を得ることを可能にすることを、明らかに立証した。薬物動態学的分析によると、上記の相乗効果を正当化又は妨げるかもしれない2つの処置の間には、薬物動態学的タイプの相互作用は全くなかったことを更に示していた。
【0031】
実施例B:
同じ文脈系列識別テストにおけるリバスチグミンでの実験:
それぞれ単独で又は組み合わせて投与される、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド及びリバスチグミン(酒石酸水素塩の形態で用いた)の効果を、先の実施例に記載されている中年C57B16マウスで文脈系列識別テストを使用して試験した。
【0032】
このモデルにおいて、餌付けされた穴の位置を学んだ最後の文脈(すなわち、黒色の床)が、学習中に提示された第1の文脈(すなわち、白色の床)の餌付けされた穴の記憶を実質的に邪魔しているという事実のせいで、若年マウスと比較して、中年マウスは、文脈記憶欠損を有していることが示された。この事実により、妨害反応のパーセンテージが正解反応のパーセンテージよりも高いので、老齢マウスは、文脈記憶の能力(正解反応−妨害反応)に関して負の値を有していた。対照的に、若年マウスは、文脈記憶の正の能力を有していた(Tronche et al., Behav. Brain Res., 2010, 215(2): 255-60)。
【0033】
上記の実施例のように、この試験の結果は、担体で処置されたマウスが−28%の負の文脈記憶能力を示して(図4を参照のこと)、中年マウスの文脈記憶欠損を裏付けた。経口投与にて塩基として0.1mg/kgの用量でリバスチグミンでの9日間の長期処置の後、担体と比較して(−9% 対 −28%)、文脈記憶の能力に僅かな増大が観察されたが、しかし妨害反応のパーセンテージがまだ正解反応のパーセンテージよりも大きいので、文脈記憶の能力は依然として負のままであり、リバスチグミンの0.1mg/kgの用量は、準活性用量であるという結果をもたらした。
【0034】
同様に、文脈記憶の能力は、経口投与にて塩基として0.3及び1mg/kgの用量で4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド塩酸塩での9日間の長期処置の後、担体と比較して、ほんの僅かに増大した(+6%及び+10%、それぞれ 対 −28%)。対照的に、リバスチグミン(経口投与にて塩基として0.1mg/kgの準活性用量)と4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド(経口投与にて塩基として0.3又は1mg/kg)との組み合わせ投与は、文脈記憶の能力に相当な増大をもたらし、そこで、一方では担体で得られた値と比較し、かつ他方ではリバスチグミンそれ自体単独で得られた値と比較すると(+28%及び+28% 対 −9%、それぞれ)、これは顕著に優位となった(正解反応の%>妨害反応の%)。これらの結果は、活性用量の4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドの存在下での準活性用量でのリバスチグミンの効果の明白な増強作用を示しており、このことは、該組み合わせで処置されたマウスの記憶力の増大によって表わされた。
【0035】
この第2の実施例においても、組み合わせの2つに関して観察された文脈記憶の能力の増大は、それぞれ単独で投与される化合物の効果を単に一緒に加えることによって説明することはできず、2種類の化合物が同時投与された場合に、それらについて全くの予想外の相乗活性を示した。
【0036】
薬物動態学的分析によると、上記の相乗効果を正当化又は妨げるかもしれない2つの処置の間には、薬物動態学的タイプの相互作用は全くなかったことを更に示していた。
【0037】
結論として、先に示した結果は、認知能力の観点から4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドとリバスチグミンの間の相乗活性を立証しており、このことは、いかなる薬物動態学的相互作用もない場合に該当する。
【0038】
実施例C:
同じ文脈系列識別テストにおけるガランタミンでの実験:
それぞれ単独で又は組み合わせて投与される、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド及びガランタミン(臭化水素酸塩の形態で用いた)の効果をまた、中年C57B16マウスにおいて文脈系列識別テストを使用して試験した。
【0039】
上記の実施例のように、この試験の結果は、担体で処置されたマウスが−28%の負の文脈記憶能力を示して(図5を参照のこと)、中年マウスの文脈記憶欠損を裏付けた。
【0040】
経口投与にて塩基として0.3mg/kgの用量のガランタミンでの9日間の長期処置の後、担体と比較して(−18% 対 −28%)、文脈記憶の能力に有意な改善は全く観察されず、文脈記憶の能力は依然として顕著に負のままであり(妨害反応の%>正解反応の%);したがってガランタミンの0.3mg/kg用量は、準活性用量であった。経口投与にて塩基として0.3mg/kgの用量の4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド塩酸塩での9日間の長期処置の後もまた、担体と比較して(−3% 対 −28%、それぞれ)、文脈記憶能力は有意に増大しなかった。更に、経口投与にて塩基として1mg/kgの用量の4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド塩酸塩での9日間の長期処置の後、担体と比較して(+9% 対 −28%)、文脈記憶能力はほんの僅かに増大した。対照的に、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド(経口投与にて塩基として0.3及び1mg/kg)とガランタミン(経口投与にて塩基として0.3mg/kgの準活性用量)との組み合わせ投与は、文脈記憶能力に相当な増大をもたらし、担体それ自体単独で得られた値と比較すると(+31%及び+24% 対 −28%、それぞれ)、これは顕著に優位となった。これらの結果は、準活性用量又は僅かに活性用量の4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドの存在下での準活性用量でのガランタミンの効果の明白な増強作用を示しており、このことは、該組み合わせで処置されたマウスの記憶力の増大によって表わされた。
【0041】
ここでもまた、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせのこの第3の実施例において、観察された文脈記憶の能力の増大は、それぞれ単独で投与される化合物の効果を単に一緒に加えることによって説明することはできない。
【0042】
結論として、認知能力の観点から、先に提示された結果は、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドとガランタミンの間の相乗活性を示した。
【0043】
実施例D:
アーウィン(Irwin)の初期観察テスト:
それぞれ単独で又は組み合わせて投与される、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド及びドネペジル(両方共に塩酸塩の形態で)の効果を、安全性の観点から、C57B16マウス(1群につきn=4個体)でアーウィンの初期観察テストを使用して試験した。
【0044】
行動様式の変化、生理的症状及び神経毒性症状、直腸温及び瞳孔径を、アーウィンの文献から得られる標準観察グリッドを使用して記録した。
【0045】
それぞれ単独で又は同時投与される、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド(経口投与にて塩基として0.3及び1mg/kg)及びドネペジル(経口投与にて塩基として0.1及び0.3mg/kg)は、マウスでのアーウィンのテストにおいて観察可能な変化をもたらさなかったことが観察された。最強用量(経口投与にて塩基として1mg/kg)で、それ自体単独で投与されたドネペジルは、感触に対する反応性を減少させ、軽い鎮静状態を引き起こした。ドネペジルが、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド(経口投与にて塩基として0.3及び1mg/kg)と同時投与された場合に、1mg/kgでのドネペジルの副作用の増強作用は、全く観察されなかった。それどころか、最強用量(経口投与にて塩基として1mg/kg)での4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドが、経口投与にて1mg/kgでのドネペジルと同時投与された場合、鎮静作用は全く観察されず、このことは、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドが、経口投与にて1mg/kgでのドネペジルによって引き起こされる鎮静状態をアンタゴナイズしたことを示唆した。
【0046】
結論として、認知能力の観点から、先に示した結果は、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドとドネペジルの間の相乗活性を立証しており、このことは、良好な安全性プロファイルが有り、かつ薬物動態学的相互作用がない場合に該当する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化2】


で示される4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又は薬学的に許容しうる酸もしくは塩基とのその付加塩と、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤との組み合わせ。
【請求項2】
4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドが、シュウ酸塩又は塩酸塩の形態で使用されることを特徴とする、請求項1記載の組み合わせ。
【請求項3】
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、ドネペジル、リバスチグミン又はガランタミンである、請求項1又は請求項2のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項4】
ドネペジルが塩酸塩の形態で、リバスチグミンが酒石酸水素塩の形態で、そしてガランタミンが臭化水素酸塩の形態で使用される、請求項1〜3のいずれか一項記載の組み合わせ。
【請求項5】
4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドが、塩酸塩の形態で、2mg、5mg又は20mg(塩基として表記した)の1日量で投与されること、そしてアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、10mgの1日量で投与されるドネペジル塩酸塩であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項記載の組み合わせ。
【請求項6】
活性成分として、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又は薬学的に許容しうる酸もしくは塩基とのその付加塩と、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤との、請求項1〜4のいずれか一項記載の組み合わせであって、1つ以上の薬学的に許容しうる賦形剤を併せて含む、医薬組成物。
【請求項7】
脳の加齢及び神経変性疾患に関連する認知障害の処置における使用のための、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
アルツハイマー病及びパーキンソン病に関連する認知障害の処置における使用のための、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミドが、塩酸塩の形態で、2mg、5mg又は20mg(塩基として表記した)の1日量で投与されること、そしてアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、10mgの1日量で投与されるドネペジル塩酸塩であることを特徴とする、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項10】
脳の加齢及び神経変性疾患に関連する認知障害の処置を目的とした医薬の製造における、請求項1〜5のいずれか一項記載の組み合わせの使用。
【請求項11】
アルツハイマー病及びパーキンソン病に関連する認知障害の処置を目的とした医薬の製造における、請求項1〜5のいずれか一項記載の組み合わせの使用。
【請求項12】
アルツハイマー病に関連する認知障害の処置における使用のための、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又は薬学的に許容しうる酸もしくは塩基とのその付加塩と、ドネペジルとの、請求項1〜5のいずれか一項記載の組み合わせ。
【請求項13】
パーキンソン病に関連する認知障害の処置における使用のための、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又は薬学的に許容しうる酸もしくは塩基とのその付加塩と、リバスチグミンとの、請求項1〜5のいずれか一項記載の組み合わせ。
【請求項14】
アルツハイマー病に関連する認知障害の処置を目的とした医薬の製造における、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又は薬学的に許容しうる酸もしくは塩基とのその付加塩と、ドネペジルとの、請求項1〜5のいずれか一項記載の組み合わせの使用。
【請求項15】
パーキンソン病に関連する認知障害の処置を目的とした医薬の製造における、4−{3−[cis−ヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピロール−2(1H)−イル]プロポキシ}ベンズアミド、又は薬学的に許容しうる酸もしくは塩基とのその付加塩と、リバスチグミンとの、請求項1〜5のいずれか一項記載の組み合わせの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−232978(P2012−232978A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−104353(P2012−104353)
【出願日】平成24年5月1日(2012.5.1)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】