説明

4価白金錯体及びそれを含む医薬組成物

【課題】悪性腫瘍に対して強い抗腫瘍性活性があり、かつ相対的に副作用が軽減された特徴を有する新規4価白金錯体を提供すること。
【解決手段】シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン、およびその光学活性ジアミンを配位子とする4価白金錯体であって、特に下式(G)で表わされる(S,S,S)- シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6ジアミンを配位子とすることを特徴とする4価白金ジクロロマロン酸塩錯体。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規4価白金錯体およびそれを有効成分とする医薬組成物、特に悪性腫瘍治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、悪性腫瘍は死亡原因のトップを占めるに至っており、これに対し種々の抗腫瘍物質が開発されている。このうち従来から白金錯体は抗腫瘍作用が認められ、シスプラチン[ I ]、カルボプラチン[II]、オキザリプラチン[III]などが開発され、治療に用いられてきた(例えば、非特許文献1−非特許文献3参照)。また本願出願人は、抗腫瘍作用が認められる白金錯体として、スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミンを配位子とする新規白金錯体と、それを有効成分とする医薬組成物に関する特許第46644245号(特許文献1)の登録を得ている。
【0003】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4664424号公報
【特許文献2】US Patent 4,140,707 (February 20, 1979)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nature, 1969 222 385-386
【非特許文献2】Cancer Treat Reviews 1985 12 21-33
【非特許文献3】Cancer Letters 1985 27 135-143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シスプラチンは腎毒性、血液毒性、消化器毒性、神経毒性といった副作用が多いという問題があった。そこでシスプラチンの腎毒性を軽減し、水溶性を増加するものとしてカルボプラチンが開発されたが、カルボプラチンは高価でありながら、その抗腫瘍作用は必ずしも満足のいくものではなかった。これらは抗腫瘍活性を呈する一方、所定の抗腫瘍活性を奏するためには、それに対応する予め定められた所要量を投与する必要があり、このため副作用を有するという欠点がある。
【0007】
本発明の目的は、シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン、およびその光学活性ジアミンを配位子とする4価白金錯体であって、より強い抗腫瘍活性があり、投与量がより少量で効果があり、そのため相対的に副作用が軽減された新規4価白金錯体を提供することにある。
【0008】
特に下式(G)で表わされる(S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6ジアミンを配位子とすることを特徴とする4価白金ジクロロマロン酸塩錯体(G)であって、悪性腫瘍、特にヒト肺がん細胞、ヒト胃がん細胞、ヒト前立腺がん細胞、ヒト悪性黒色腫細胞、ヒト膀胱がん細胞、ヒトリンパ腫細胞、ヒト白血病細胞に対して強い抗腫瘍性活性があり、かつ相対的に副作用が軽減された特徴を有する新規4価白金錯体を提供することにある。
【0009】
【化2】

【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明の悪性腫瘍剤は、下記一般式で表わされるシス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン(A)を配位子とする4価白金錯体である。
【0011】
【化3】

【0012】
本発明は、その光学活性体である(S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6ジアミン(B)および(R,R,R) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6ジアミン(C)を配位子とする4価白金錯体である。
【0013】
【化4】

【0014】
本発明は、下記一般式で表わされるシス-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン(A)を配位子とする4価白金錯体(D)である。
【0015】
【化5】

【0016】
式中、XおよびY、Zは同一または異なり、それぞれハロゲン原子またはアセテート基を含む1価の陰イオン基を示すか、YとZは共同して式(b)で示される2価の残基を示す。
【0017】
【化6】

【0018】
式中Rは単結合または炭素原子数1ないし6個の直鎖状もしくは分枝鎖状の2価の炭化水素残基を示し、該炭化水素残基は不飽和結合を有していてもよく、また該炭化水素残基はスピロ構造を形成していてもよい。
【0019】
本発明は、下式立体構造式で示される光学活性体である(S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン(B)を配位子とすることを特徴とする4価白金錯体(E)および(R,R,R) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン(C)を配位子とすることを特徴とする4価白金錯体(F)である。
【0020】
【化7】

【0021】
式中、XおよびY、Zは同一または異なり、それぞれハロゲン原子またはアセテート基を含む1価の陰イオン基を示すか、YとZは共同して式(b)で示される2価の残基を示す。
【0022】
【化8】

【0023】
式中Rは単結合または炭素原子数1ないし6個の直鎖状もしくは分枝鎖状の2価の炭化水素残基を示し、該炭化水素残基は不飽和結合を有していてもよく、また該炭化水素残基はスピロ構造を形成していてもよい。
【0024】
本発明は、下式(G)で示される(S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミンを配位子とすることを特徴とする4価白金ジクロマロン酸塩錯体である。
【0025】
【化9】

【0026】
本発明は、上記各式の4価白金錯体を有効成分として含有する医薬組成物である。
【0027】
本発明は、上記各式の4価白金錯体を有効成分として含有する悪性腫瘍治療剤である。
【0028】
本発明者らはすでにこのような目的を達成するために、下記一般式(a)であらわされるスピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミンを配位子とする新規白金(II)錯体をおよび該錯体を有効成分とする医薬組成物が悪性腫瘍治療に有効であることを見出し特許出願(特願2008−225698)している。
【0029】
【化10】

【0030】
上記式中、XおよびYは同一または異なり、それぞれハロゲン原子を示すか、あるいはXとYは共同して式(b)で示される2価の残基を示す。
【0031】
【化11】

【0032】
式中Rは単結合または炭素原子数1ないし6個の直鎖状もしくは分枝鎖状の2価の炭化水素残基を示し、該炭化水素残基は不飽和結合を有していてもよく、また、該炭化水素残基はスピロ構造を形成していても良い。
【0033】
また、特に下式(c)で表わされるシス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミンを配位子とすることを特徴とする白金シュウ酸塩錯体(H)は悪性腫瘍、特にヒトリンパ種細胞のような非固形腫瘍に対して強い抗腫瘍活性があり、かつ相対的に副作用が軽減された特徴を有することを明らかにした。
【0034】
【化12】

【0035】
シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミンは2個のすなわち、(S,S,S)体と(R,R,R)の立体構造をもつ光学活性体のラセミ体として存在する。さらに発明を進め、これら光学活性ジアミンの白金錯体を調べ特許出願(特願2009−155399)し、登録を得ている(特許文献1)。
【発明の効果】
【0036】
本発明の新規4価白金錯体によれば、悪性腫瘍、特にヒト肺がん細胞、ヒト胃がん細胞、ヒト前立腺がん細胞、ヒト悪性黒色腫細胞、ヒト膀胱がん細胞、ヒトリンパ腫細胞、ヒト白血病細胞等の多種の悪性腫瘍に対して強い抗腫瘍活性があり、従来の白金錯体悪性腫瘍治療剤に比較し、投与量がより少量で効果があり、そのため相対的に副作用が軽減される。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に本発明の4価白金錯体およびそれを含む悪性腫瘍治療剤をその実施の形態について説明する。
【0038】
シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン(A)、及びその光学活性体である(S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン(B)、(R,R,R) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン(C)、それらからの2価の白金錯体(H)、(I)、(J)の合成については、すでに本発明者による特許で説明済みである(特願2009−155399、国際特許出願PCT/JP2009/004077)。
【0039】
【化13】

【0040】
【化14】

【0041】
本発明の4価の白金錯体(D)、(E)、(F)は公知の手法、例えばJ. Inorg. Biochem. 1996, 61, 291-301., J. Med. Chem. 1997, 40, 112-116に記載されている手法を応用して容易に得られる(反応式(i)および反応式(ii))。
【0042】
【化15】

【0043】
【化16】

【0044】
本錯体は、アコ錯体として水を含む場合があるが、アコ体も本発明に含まれる。
【0045】
本発明の錯体はヒト肺がん細胞、ヒト胃がん細胞、ヒト前立腺がん細胞、ヒト悪性黒色腫細胞、ヒト膀胱がん細胞、ヒトリンパ腫細胞、ヒト白血病細胞に対し、低濃度で増殖を阻害することが分かり、強い抗腫瘍作用を示すことがわかった。悪性腫瘍治療剤として有用である。
【0046】
本発明の白金錯体の有効量を含む治療剤を臨床において投与する場合、経口または非経口により投与される。その剤形は、錠剤、糖衣錠、丸剤、カプセル剤、散剤、トローチ剤、液剤、坐剤、注射剤などを包含し、これらは医薬上許容される賦形剤を配合して製造される。賦形剤としては、次のようなものを例示することができる。乳糖、ショ糖、ブドウ糖、ソルビトール、マンニトール、ばれいしょでんぷん、アミロペクチン、その他各種でんぷん、セルローズ誘導体(例えば、カルボキシメチルセルローズ、ハイドロキシエチルセルローズ、など)、ゼラチン、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールワックス、アラビアゴム、タルク、二酸化チタン、オリーブ油、ピーナッツ油、ゴマ油などの植物油、パラフィン油、中性脂肪基剤、エタノール、プロピレングリコール、生理食塩水、滅菌水、グリセリン、着色剤、調味剤、濃厚剤、安定剤、等張剤、緩衝剤など、およびその他医薬上許容される賦形剤。
【0047】
本発明の治療剤は、本発明の白金錯体を0.001〜85重量%、好ましくは0.005〜60重量%含有することができる。
【0048】
本発明の治療剤の投与量は、主として症状により左右されるが、1日成人体重あたり0.005〜200mg、好ましくは0.01〜50mgである。
【0049】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明する。
【0050】
《実施例1》
50mlの丸底フラスコにPt(II) ((S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン1,6-ジアミン)マロネート錯体0.49gを入れ、蒸留水22ml、30%過酸化水素水5.4mlを加えて70℃で2時間加熱攪拌する。室温まで冷却し、さらに24時間攪拌する。セライトろ過し水洗する。ろ液を濃縮した後、アセトン(200ml)を加えて放置、析出した個体をろ過し、アセトンで洗浄し、乾燥する。水、次いでエタノール、さらにジエチルエーテルで洗い、乾燥する。Pt(IV) ((S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン1,6-ジアミン)マロネートのジヒドロキシ化物が0.48g得られた。収率93.6%。
【0051】
このPt(IV)化合物0.52gを200mlの丸底フラスコに入れ、これに0.02N塩酸98mlを加え暗所で4日間攪拌する。セライトろ過し、水、メタノールで洗い、溶媒を留去する。
残渣をメタノールに溶かし、再度セライトろ過し、メタノールを留去し乾燥する。Pt(IV) ((S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン1,6-ジアミン)マロネートのジ塩素化物(G)0.33gが得られた。
収率は59.4%。
元素分析値 C12H20N2O4Cl2PtとしてC、H、N、Cl、Pt
計算値(%) 27.60、3.86、5.36、13.58、37.4、
実測値(%) 26.95、3.92、5.16、13.11、36.7、
IR(KBr):3177(N-H)、1645(C=O)、1371(C-O)cm-1
MS(ESI) m/z 521
以上の結果から本化合物は(化合物1)で示される化学構造を持っていることが確かめられた。
【0052】
【化17】

【0053】
《実施例2》
50mlの丸底フラスコにPt(II)((R,R,R) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン1,6-ジアミン)マロネート錯体1.23gを入れ、蒸留水18ml、30%過酸化水素水4.4mlを加えて70℃で2時間加熱攪拌する。室温まで冷却し、さらに24時間攪拌する。セライトろ過し、水洗する。ろ液を濃縮した後、アセトン(200ml)を加えて放置、析出した個体をろ過し、アセトンで洗浄し、乾燥する。Pt(IV)((R,R,R) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン1,6-ジアミン)マロネートのジヒドロキシ化物1.19g得られた。収率90.0%。
【0054】
このPt(IV)化合物1.04gを300mlの丸底フラスコに入れ、これに0.02N塩酸204mlを加え暗所で4日間攪拌する。セライトろ過し、水、メタノールで洗い、溶媒を留去する。
残渣をメタノールに溶かし、再度セライトろ過し、メタノールを留去し乾燥する。Pt(IV)((R,R,R) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン1,6-ジアミン)マロネートのジ塩素化物(G)の光学異性体0.84g得られた。収率は74.8%。
【0055】
IR測定の結果、実施例1の4価白金錯体と一致し、(化合物2)と確認された。
【0056】
【化18】

【0057】
《実施例3》
50mlの丸底フラスコにPt(II)((S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン1,6-ジアミン)オキザレート錯体1.07gを入れ、蒸留水50ml、30%過酸化水素水12.4mlを加えて70℃で2時間加熱攪拌する。室温まで冷却し、さらに2日間攪拌する。セライトろ過し、水洗。ろ液を濃縮した後、アセトン(200ml)を加えて放置、析出した個体をろ過し、アセトンで洗浄し、乾燥する。水、次いでエタノール、さらにジエチルエーテルで洗い、乾燥する。Pt(IV)((S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン1,6-ジアミン)オキザレートのジヒドロキシ化物が1.15gが得られた。収率99.6%。
【0058】
このPt(IV)化合物0.88gを300mlの丸底フラスコに入れ、これに蒸留水165ml、1.2N塩酸2.85mlを加え、暗所で3日間攪拌する。セライトろ過し、水、メタノールで洗い、溶媒を留去する。
残渣をメタノールに溶かし、再度セライトろ過し、メタノールを留去し乾燥する。Pt(IV)((S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン1,6-ジアミン)オキザレートのジ塩素化物0.79gが得られた。収率は83.1%。
元素分析値 C11H18N2O4Cl2PtとしてC、H、N、Cl、Pt
計算値(%) 25.99、3.57、5.51、13.95、38.4、
実測値(%) 25.55、3.65、5.26、13.35、37.9、
IR(KBr):3175(N-H)、1715(C=O)、1357(C-O)cm-1
MS(ESI) m/z 507
この結果から本化合物は(化合物3)で示される化学構造を持っていることが確かめられた。
【0059】
【化19】

【0060】
《実施例4》
50mlの丸底フラスコにPt(II)((R,R,R) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン1,6-ジアミン)オキザレート錯体1.06gを入れ、蒸留水49ml、30%過酸化水素水12.8mlを加えて70℃で2時間加熱攪拌する。室温まで冷却し、さらに3日間攪拌する。セライトろ過し、水洗する。ろ液を濃縮した後、アセトン(250ml)を加えて放置、析出した個体をろ過し、アセトンで洗浄し、乾燥する。Pt(IV)((R,R,R) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン1,6-ジアミン)オキザレートのジヒドロキシ化物1.11g得られた。収率97.3%。
このPt(IV)化合物0.92gを300mlの丸底フラスコに入れ、これに蒸留水190m、1.2N塩酸3.3mlを加え暗所で3日間攪拌する。セライトろ過し、水、メタノールで洗い、溶媒を留去する。
残渣をメタノールに溶かし、再度セライトろ過し、メタノールを留去し乾燥する。Pt(IV)((R,R,R) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン1,6-ジアミン)オキザレートのジ塩素化物0.92g得られた。収率は92.4%。
【0061】
IR測定の結果、実施例3の4価白金錯体と一致し、(化合物4)と確認された。
【0062】
【化20】

【0063】
《実施例5》
100ml丸底フラスコにヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム0.49g、塩化ナトリウム0.24g、蒸留水60mlを入れ、溶解する。この溶液に(S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6ジアミン0.16gの水溶液10ml溶液を加える。次第に濁り固体が析出してくる。暗所で24時間攪拌する。ろ過し、水洗し、乾燥する。Pt(IV)((S,S,S) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6ジアミン)4塩化物が0.22g得られた。収率は43.6%.
元素分析値 C9H18N2Cl4PtとしてC、H、N、Cl、Pt
計算値(%) 22.01、3.69、5.70、28.87、39.7、
実測値(%) 21.54、3.58、5.36、24.88、39.2、
IR(KBr):3227(N-H)cm−1
MS(ESI) m/z 490
この結果から本化合物は(化合物5)で示される化学構造を持っていることが確かめられた。
【0064】
【化21】

【0065】
《実施例6》
実施例5と同様にして、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウムと(R,R,R) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6ジアミン0.16gからPt(IV)((R,R,R) -シス、シス-スピロ[4,4]ノナン-1,6ジアミン)4塩化物が0.27g得られた。収率は55.0%.
IR測定の結果、実施例5の4価白金錯体と一致し、(化合物6)と確認された。
【0066】
【化221】

【0067】
《実施例7》薬剤効果試験
試験溶液は、(化合物1)をDMSO(ジメチルスルホキシド)に8mg/mlの濃度で溶解することにより調製した。
【0068】
試験は、がん細胞として、ヒト肺がん細胞(LU99)、ヒト胃がん細胞2種(KATO III, MKN-45)、ヒト前立腺がん細胞(DU145)、ヒト悪性黒色腫細胞(G-361)、ヒト膀胱がん細胞(T24)、ヒトリンパ腫細胞2種(U937, Jurkat E6.1)、ヒト白血病細胞(HL60)を用いて行った。
【0069】
これらの細胞は10%血清添加の各培養培地に懸濁し、96ウェルプレートに分注した。その後37℃、5%CO2の中で一晩培養した。試験溶液を培養培地にて種々の濃度に調製し、あらかじめ細胞を播いておいたプレートに分注した。さらに3日間、37℃、5%CO2の中で培養した。
【0070】
薬剤添加後の細胞の増殖は、薬剤添加後1〜3日目にMTS法(Promega社製細胞増殖試験用キットCell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay)により測定した。
【0071】
測定したMTS値より、細胞増殖の阻害率(%)を以下の式で求めた。
【0072】
阻害率(%)=(1-薬剤添加群のMTS値/薬剤未添加群MTS値)×100
上記式で求められた値は、細胞増殖阻害率を表すため、数値が高いほど薬剤効果が高いことになる。その値が50(%)以上のものを薬剤効果があるものとした。効果の高かった細胞種の結果を以下に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
従来からの抗がん剤であるオキザリプラチンと比較してヒトリンパ腫細胞およびヒト白血病細胞において強い薬効が認められた。特に低濃度(5μg/ml)における細胞増殖阻害率は高く、オキザリプラチンより少量で効果があった。
《実施例8》薬剤効果試験
(化合物2)を試験溶液として調整し、実施例7と同様の方法によって細胞増殖阻害率を測定した。効果の高かった細胞種の結果を以下に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
従来からの抗がん剤であるオキザリプラチンに比較してヒト胃がん細胞、ヒト膀胱がん細胞および人リンパ腫細胞において強い薬効が認められた。特に低濃度(5および10μg/ml)における細胞増殖阻害率は高く、オキザリプラチンより少量で効果があった。
《実施例9》薬剤効果試験
(化合物5)を試験溶液として調整し、実施例7と同様の方法によって細胞増殖阻害率を測定した。効果の高かった細胞種の結果を以下に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
従来からの抗がん剤であるオキザリプラチンに比較してヒト肺がん細胞、ヒト胃がん細胞、ヒト悪性黒色腫細胞およびヒト膀胱がん細胞において強い薬効が認められた。特に低濃度(5および10μg/ml)における細胞増殖阻害率は高く、オキザリプラチンより少量で効果があった。
《実施例10》薬剤効果試験
(化合物6)を試験溶液として調整し、実施例7と同様の方法によって細胞増殖阻害率を測定した。効果の高かった細胞種の結果を以下に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
従来からの抗がん剤であるオキザリプラチンに比較してヒト肺がん細胞、ヒト悪性黒色腫細胞およびヒト膀胱がん細胞において強い薬効が認められた。特に低濃度(5および10μg/ml)における細胞増殖阻害率は高く、オキザリプラチンより少量で効果があった。
【0081】
以上、実施例7〜10の結果より、本発明の新規4価白金錯体によれば、ヒト肺がん細胞、ヒト胃がん細胞、ヒト前立腺がん細胞、ヒト悪性黒色腫細胞、ヒト膀胱がん細胞、ヒトリンパ腫細胞、ヒト白血病細胞等の多種の悪性腫瘍に対して強い抗腫瘍活性があり、従来の白金錯体悪性腫瘍治療剤に比較し、投与量がより少量で効果があり、そのため相対的に副作用が軽減される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように本発明の白金錯体は強い抗腫瘍活性を有し、悪性腫瘍治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式立体構造式で示されるシス、シス−スピロ[4,4]ノナン−1,6−ジアミン(A)を配位子とすることを特徴とする4価白金錯体。
【化1】

【請求項2】
請求項1において、下式立体構造式で示される光学活性体である(S,S,S)−シス、シス−スピロ[4,4]ノナン−1,6−ジアミン(B)および(R,R,R)−シス、シス−スピロ[4,4]ノナン−1,6−ジアミン(C)を配位子とすることを特徴とする4価白金錯体。
【化2】

【請求項3】
請求項1において、下式一般式(D)で示されるシス、シス−スピロ[4,4]ノナン−1,6−ジアミン(A)を配位子とすることを特徴とする4価白金錯体。
【化3】

(式中、XおよびY、Zは同一または異なり、それぞれハロゲン原子またはアセテート基を含む1価の陰イオン基を示すか、YとZは共同して式(b)で示される2価の残基を示す。)
【化4】

(式中Rは単結合または炭素原子数1ないし6個の直鎖状もしくは分枝鎖状の2価の炭化水素残基を示し、該炭化水素残基は不飽和結合を有していてもよく、また該炭化水素残基はスピロ構造を形成していてもよい。)
【請求項4】
請求項2において、下式立体構造式(E)および(F)で示される光学活性体である(S,S,S)−シス、シス−スピロ[4,4]ノナン−1,6−ジアミン(B)を配位子とすることを特徴とする4価白金錯体および(R,R,R)−シス、シス−スピロ[4,4]ノナン−1,6−ジアミン(C)を配位子とすることを特徴とする4価白金錯体。
【化5】

(式中、XおよびY、Zは同一または異なり、それぞれハロゲン原子またはアセテート基を含む1価の陰イオン基を示すか、YとZは共同して式(b)で示される2価の残基を示す。)
【化6】

(式中Rは単結合または炭素原子数1ないし6個の直鎖状もしくは分枝鎖状の2価の炭化水素残基を示し、該炭化水素残基は不飽和結合を有していてもよく、また該炭化水素残基はスピロ構造を形成していてもよい。)
【請求項5】
請求項3及び請求項4において、Xが塩素原子であることを特徴とする4価白金錯体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4において、下式(G)で示される(S,S,S)−シス、シス−スピロ[4,4]ノナン−1,6−ジアミンを配位子とし、Xが塩素原子であることを特徴とする4価白金ジクロロマロン酸塩錯体。
【化7】

【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の4価白金錯体を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の4価白金錯体を有効成分として含有することを特徴とする悪性腫瘍治療剤。

【公開番号】特開2013−23444(P2013−23444A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156527(P2011−156527)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(500194946)ユニーテック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】