説明

4層積層体及びその製造方法

【課題】 高い表面硬度を有していると共に、クラックの伸展が十分に抑制されて割れが防止される4層積層体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 波長550nmでの光透過率が90%以上の透明樹脂層であり、ガラス転移温度が250℃以上であり、表面硬度が鉛筆硬度3H以上であり、引張弾性率が2000MPa以上であり、引張伸度が5%以下であり、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させてなる第1層と、
前記第1層上に積層された透明樹脂層であり、ガラス転移温度が70℃以上であり、引張伸度が40〜400%であり、熱可塑性樹脂からなる第2層と、
前記第2層上に積層された透明樹脂層であり、引張伸度は30%以下である、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させてなる第3層と、
前記第3層上に積層された透明樹脂層であり、引張伸度が40〜400%である第4層を備えることを特徴とする4層積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4層積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、デジタルカメラや携帯電話等の電子機器においては、液晶ディスプレイ等の基板として、又は液晶ディスプレイ等の表面をキズや汚れ等から守るための保護板等としてアクリルやポリカーボネート等で作られた積層体が用いられている。例えば、特開2005−225018号公報(特許文献1)には、ポリカーボネート樹脂層の両面にアクリル樹脂層を積層した3層構造の積層体が開示されている。しかしながら、近年需要が増加傾向にあるタッチパネル形式の液晶表示装置に用いる場合には、特許文献1に記載の積層体は表面硬度において十分ではなく、使用する際に爪や専用のペンで表面に触れると傷がつきやすいという問題を有していた。
【0003】
そこで、表面硬度を向上することを目的とした積層体として、特開2008−37101号公報(特許文献2)には、透明プラスチックフィルムの両面に光硬化性樹脂を硬化させて得た樹脂層を積層させたフィルム積層体が開示されており、特開2010−125719号公報(特許文献3)にはガラス/樹脂層/透明プラスチックフィルム/樹脂層の順に積層された飛散防止機能付きガラスが開示されている。しかしながら、特許文献2に開示されているフィルム積層体や特許文献3に開示されている飛散防止機能付きガラスにおいては、高い表面硬度が達成されてはいるものの、加工時にルーター切削や打抜き等のせん断により切断を行うとせん断応力によってマイクロクラックが発生する傾向にあり、画面のクリーニング時等に押し圧力がかかってたわみが起こると、クラックが伸展して割れてしまう可能性があるという点で未だ十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−225018号公報
【特許文献2】特開2008−37101号公報
【特許文献3】特開2010−125719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高い表面硬度を有していると共に、クラックの伸展が十分に抑制されて割れが防止される4層積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、所定のガラス転移温度を有する熱可塑性透明樹脂層の表面及び裏面に硬化性樹脂を硬化させてなる透明樹脂層をそれぞれ積層した高い表面硬度を有する3層積層体の裏面に更に、高い引張伸度を有する第4層を積層することによって、高い表面硬度が得られると共に、クラックの伸展が十分に抑制でき、積層体の割れが防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の4層積層体は、
波長550nmでの光透過率が90%以上の透明樹脂層であり、ガラス転移温度が250℃以上であり、表面硬度が鉛筆硬度3H以上であり、引張弾性率が2000MPa以上であり、引張伸度が5%以下であり、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させてなる第1層と、
前記第1層上に積層された透明樹脂層であり、ガラス転移温度が70℃以上であり、引張伸度が40〜400%であり、熱可塑性樹脂からなる第2層と、
前記第2層上に積層された透明樹脂層であり、引張伸度は30%以下である、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させてなる第3層と、
前記第3層上に積層された透明樹脂層であり、引張伸度が40〜400%である第4層とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、前記第1層としては、かご型シルセスキオキサン樹脂を含有することが好ましく、前記第1層、前記第2層、前記第3層及び前記第4層の厚さとしては、それぞれ10〜500μmであることが好ましい。さらに、本発明の4層積層体としては、波長550nmでの光透過率が85%以上であることが好ましい。
【0009】
本発明の4層積層体を製造する方法は、
前記第2層として用いる熱可塑性樹脂層を準備する第2層準備工程と、
硬化後に前記第1層となる熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含有する第1層形成用樹脂組成物を、前記第2層の一方の面上に塗布する第1層積層工程と、
硬化後に前記第3層となる熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含有する第3層形成用樹脂組成物を、前記第2層の他方の面上に塗布する第3層積層工程と、
前記第4層として用いる透明樹脂層を前記第3層の前記第2層と反対側の面上に積層する第4層積層工程と、
前記第1層形成用樹脂組成物及び前記第3層形成用樹脂組成物を硬化せしめる硬化工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0010】
なお、本発明の4層積層体が高い表面硬度を有していると共に、クラックの伸展が十分に抑制されて割れが防止される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の4層積層体においては、高い表面硬度を有する3層積層体の裏面に高い引張伸度を有する第4層を更に積層することによって、高い表面硬度を有する第1層側の面の反対側の面に高伸度を有する第4層が配設されるため、第1層側の面に押し荷重圧を加えても第4層が伸展して積層体におけるクラックの伸展が十分に抑制されるようになり、その結果、積層体における割れが抑制されるようになると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い表面硬度を有していると共に、クラックの伸展が十分に抑制されて割れが防止される4層積層体及びその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
先ず、本発明の4層積層体について説明する。本発明の4層積層体は、波長550nmでの光透過率が90%以上の透明樹脂層であり、ガラス転移温度が250℃以上であり、表面硬度が鉛筆硬度3H以上であり、引張弾性率が2000MPa以上であり、引張伸度が5%以下であり、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させてなる第1層と、前記第1層上に積層された透明樹脂層であり、ガラス転移温度が70℃以上であり、引張伸度が40〜400%であり、熱可塑性樹脂からなる第2層と、前記第2層上に積層された透明樹脂層であり、引張伸度が30%以下であり、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させてなる第3層と、前記第3層上に積層された透明樹脂層であり、引張伸度が40〜400%である第4層とを備えることを特徴とするものである。
【0014】
本発明にかかる第1層は、波長550nmでの光透過率が90%以上の透明樹脂層であり、ガラス転移温度が250℃以上であり、表面硬度が鉛筆硬度3H以上であり、引張弾性率が2000MPa以上であり、引張伸度が5%以下であり、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させてなり、本発明の4層積層体の表面に配設される高表面硬度を有する層である。
【0015】
本発明にかかる第1層としては、波長550nmでの光透過率が90%以上の透明樹脂層である必要がある。光透過率が前記下限未満では、得られる積層体を液晶ディスプレイ等に用いる場合において光透過性が不十分となり、画像の視認性等に問題が生じる。また、本発明にかかる第1層のガラス転移温度は250℃以上である。ガラス転移温度が前記下限未満では、得られる積層体を電子機器等に用いる場合において耐熱性が不十分となる。さらに、本発明にかかる第1層の表面硬度は鉛筆硬度3H以上である。表面硬度が前記下限未満では、得られる積層体をタッチパネル等に用いる場合において硬度が不十分となり、傷がつきやすくなる。また、本発明にかかる第1層の引張弾性率は2000MPa以上であり、引張伸度は5%以下である。曲げ弾性率が前記下限未満、若しくは、引張伸度が前記上限を超えると、剛性が低くなって全体としてたわみやすくなるため、得られる積層体を液晶ディスプレイ等に用いる場合に内側の液晶を傷つけやすくなる。また、本発明にかかる第1層の厚さは10〜500μmであることが好ましく、50〜200μmであることがより好ましい。厚さが前記下限未満では表面硬度が十分に発揮されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、硬化時の成形性が悪くなり、得られる積層体にしわやカールが発生する傾向にある。
【0016】
本発明にかかる第1層は、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させてなる層である。前記熱硬化性樹脂としては、加熱して硬化可能な樹脂であればよく、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ユリア樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂が挙げられ、中でもエポキシ樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂を用いることが好ましい。また、前記光硬化性樹脂としては、活性エネルギー線を照射して硬化可能な樹脂であればよく、例えば、(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂、シリコーン樹脂、イミド樹脂が挙げられ、中でも(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂を用いることが好ましく、後述のかご型シルセスキオキサン樹脂を用いる場合には、樹脂間の相溶性及び反応性に優れるという観点から、(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ樹脂を用いることがより好ましい。また、本発明の4層積層体は厚さ方向に非対称であるため、そりの発生を抑制するという観点から、後述の第3層において硬化時に収縮性を示す樹脂を用いる場合には本発明にかかる第1層においても硬化時に収縮性を示す樹脂を用いることが好ましく、後述の第3層において硬化時に膨張性を示す樹脂を用いる場合には本発明にかかる第1層においても硬化時に膨張性を示す樹脂を用いることが好ましい。このような熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合又は積層して用いてもよい。
【0017】
また、本発明にかかる第1層としては、表面硬度がより向上するという観点から、かご型シルセスキオキサン樹脂を含有することが好ましい。このようなかご型シルセスキオキサン樹脂を含有する場合、その含有量は、第1層において、3〜50質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。含有量が前記下限未満では得られる積層体の透明度及び耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる積層体の靭性が低下し、外観不良が発生しやすくなる傾向にある。なお、前記ガラス転移温度は用いられる樹脂のガラス転移温度により変動するため、前記かご型シルセスキオキサン樹脂の含有量は目的のガラス転移温度に応じて調整することができる。
【0018】
前記かご型シルセスキオキサン樹脂としては、例えば、下記一般式(1):
RSiX
・・・(1)
で表されるケイ素化合物を有機極性溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解反応させると共に一部縮合させ、得られた加水分解生成物を更に非極性溶媒及び塩基性触媒存在下で再縮合させてなるものが挙げられる。なお、前記一般式(1)において、Rは(メタ)アクリロイル基、グリシジル基及びビニル基のうちのいずれか一つの基を有する有機官能基を示し、Xはアルコキシ基、アセトキシ基等の加水分解性基を示す。また、本発明においては、このようなかご型シルセスキオキサン樹脂が、下記一般式(2):
[RSiO3/2
・・・(2)
で表されるかご型シルセスキオキサン樹脂であることが好ましい。なお、前記一般式(2)において、Rは(メタ)アクリロイル基、グリシジル基及びビニル基のうちのいずれか一つの基を有する有機官能基を示し、nは8、10、12又は14を示す。さらに、本発明においては、前記Rが、下記一般式(3)〜(5):
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
で表される有機官能基であることが特に好ましい。なお、前記一般式(3)において、Rは水素原子又はメチル基を示す。また、前記一般式(3)及び(4)において、mは1〜3の整数を示す。
【0023】
このようなかご型シルセスキオキサン樹脂としては、樹脂中のケイ素原子全てに(メタ)アクリロイル基、グリシジル基又はビニル基を有する有機官能基からなる反応性官能基を有し、且つ、分子量分布及び分子構造の制御されたかご型シルセスキオキサン樹脂であることが好ましいが、一部の有機官能基がアルキル基、フェニル基等に置き換わっているものであってもよい。また、このようなかご型シルセスキオキサン樹脂の分子構造は、完全に閉じた多面体構造でなくてもよく、例えば、一部が開裂したような構造であってもよい。また、このようなかご型シルセスキオキサン樹脂の平均分子量も特に制限されず、このようなかご型シルセスキオキサン樹脂としてはオリゴマーであってもよい。
【0024】
また、本発明にかかる第1層としては、熱重合開始剤、光重合開始剤、フィラー系添加物、脱可塑剤、重合度調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、無機充填剤、強化材、着色剤、粘度調節剤、難燃剤、変色防止剤、抗菌剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、離型剤等の添加剤を更に含有していてもよい。
【0025】
本発明にかかる第2層は、前記第1層上に積層された透明樹脂層であり、ガラス転移温度が70℃以上であり、引張伸度が40〜400%であり、熱可塑性樹脂からなる層であり、前記第1層及び後述の第3層の支持体となる層である。
【0026】
前記透明樹脂層としては、得られる積層体を液晶ディスプレイ等に用いる場合に表示画像の視認性に優れる傾向にあるという観点から、波長550nmでの光透過率が80%以上であることが好ましい。また、本発明にかかる第2層のガラス転移温度は70℃以上である。本発明においては前記第1層のガラス転移温度が250℃以上であるため、前記第2層のガラス転移温度が高い必要はないが、ガラス転移温度が前記下限未満では、得られる積層体を車内等の高温となる環境で使用する場合に熱によるうねりやそりが発生する。また、本発明にかかる第2層の引張伸度は40〜400%である。引張伸度が前記下限未満では、第1層が破損したときの飛散防止効果がなくなるため安全性が低下し、他方、前記上限を超えると、第1層を塗工するときの支持性がなくなるため平滑な表面が得られず、また、第1層に局部的な力が加わったときに力が分散しにくくなるため割れやすくなる。さらに、本発明にかかる第2層の厚さは10〜500μmであることが好ましく、50〜250μmであることがより好ましい。厚さが前記下限未満では第1層及び第3層の硬化収縮又は硬化膨張に耐えられずにしわが発生する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、第1層及び第3層の樹脂の厚さの可変幅が少なくなるため、硬化時の体積変化のバランスがとりにくくなり、平坦な積層体を作成することが困難になる傾向にある。
【0027】
また、本発明にかかる第2層は、熱可塑性樹脂からなる層である。前記熱可塑性樹脂としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンフタレート)、COP(シクロオレフィンポリマー)、COC(シクロオレフィンコポリマー)、PC(ポリカーボネート)、アセテート系樹脂、アクリル系樹脂、フッ化ビニル系樹脂、ポリアミド、ポリアリレート、セロファン、ポリエーテルスルホン、ノルボルネン系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性及び透明性に優れ、諸特性のバランスがとれているという観点から、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、COP(シクロオレフィンポリマー)、及びCOC(シクロオレフィンコポリマー)を用いることが好ましい。このような熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合又は積層して用いてもよい。また、これらの熱可塑性樹脂としては、フィルムの形態で用いてもよく、前記フィルムとしては、第1層及び第3層との密着性をより向上させるという観点から、例えば、表面にコロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理等の表面活性処理が施されたものであってもよい。このような熱可塑性樹脂を本発明にかかる第2層に用いることにより、第1層及び第2層、並びに、第3層及び第2層の間の密着性がそれぞれ高くなり、また、第1層目が破壊された場合の割れ飛散を防止することができる。なお、本発明にかかる第2層としては、前記熱可塑性樹脂の他にフィラー系添加物、脱可塑剤、重合度調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、無機充填剤、強化材、着色剤、粘度調節剤、難燃剤、変色防止剤、抗菌剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、離型剤等の添加剤を更に含有していてもよい。
【0028】
本発明にかかる第3層は、前記第2層上に積層された透明樹脂層であり、引張伸度が30%以下であり、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させてなる層である。
【0029】
前記透明樹脂層としては、得られる積層体を液晶ディスプレイ等に用いる場合に、表示画像の視認性に優れる傾向にあるという観点から、波長550nmでの光透過率が90%以上であることが好ましい。また、熱によるうねりやそりを防止するという観点から、本発明にかかる第3層のガラス転移温度は180℃以上であることが好ましい。また、本発明にかかる第3層の引張伸度は30%以下である。引張伸度が前記上限を超えると、硬化時の体積変形が小さくなり第1層の硬化時の体積変形に対してバランスがとりにくくなるため平坦な積層体にすることが難しくなる。さらに、本発明にかかる第3層の厚さは10〜500μmであることが好ましく、50〜350μmであることがより好ましい。厚さが前記下限未満では第1層の硬化収縮又は硬化膨張とのバランスが十分にとれず、得られる積層体にそりが発生する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、硬化時の成形性が悪くなり、得られる積層体にしわやカールが発生する傾向にある。
【0030】
また、本発明にかかる第3層は、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させてなる層である。前記熱硬化性樹脂及び前記光硬化性樹脂としては、前記第1層に用いられる熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂として挙げたものと同様のものが挙げられる。中でも、前記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂を用いることが好ましく、前記光硬化性樹脂としては、(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂を用いることが好ましい。また、本発明の4層積層体は厚さ方向に非対称であるため、そりの発生を抑制するという観点から、前記第1層において硬化時に収縮性を示す樹脂を用いる場合には本発明にかかる第3層においても硬化時に収縮性を示す樹脂を用いることが好ましく、前記第1層において硬化時に膨張性を示す樹脂を用いる場合には本発明にかかる第3層においても硬化時に膨張性を示す樹脂を用いることが好ましい。
【0031】
本発明にかかる第3層としては、かご型シルセスキオキサン樹脂、添加剤等を更に含有していてもよい。前記かご型シルセスキオキサン樹脂及び添加剤としては、前記第1層において挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0032】
本発明にかかる第4層は、前記第3層上に積層された透明樹脂層であり、引張伸度が40〜400%であり、前記第1層の反対側の面に配設されることによりクラックの伸展を抑制する、高引張伸度を有する層である。
【0033】
前記透明樹脂層としては、得られる積層体を液晶ディスプレイ等に用いる場合に表示画像の視認性に優れる傾向にあるという観点から、波長550nmでの光透過率が80%以上であることが好ましい。また、本発明にかかる第4層のガラス転移温度は、70℃〜220℃であることが好ましい。ガラス転移温度が前記下限未満では、得られる積層体を車内等の高温となる環境で使用する場合に熱によるうねりやそりが発生する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、本発明においては、前記第1層のガラス転移温度が250℃以上であるため、前記第4層のガラス転移温度が高い必要性がなくなる傾向にある。また、本発明にかかる第4層の引張伸度は40〜400%である。引張伸度が前記下限未満では、クラックの伸展を抑制する効果が小さくなるため得られる積層体が割れやすくなる。他方、前記上限を超えると、第3層を硬化するときの支持性がなくなるため得られる積層体にうねりが発生することがあり、また、クラックの伸展を抑制する効果が小さくなるため得られる積層体が割れやすくなる。さらに、本発明にかかる第4層の厚さは10〜500μmであることが好ましく、50〜250μmであることがより好ましい。厚さが前記下限未満では得られる積層体においてクラックの伸展を抑制する効果が十分に得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記第3層の樹脂の厚さの可変幅が少なくなるため、硬化時の体積変化のバランスがとりにくくなり、平坦な積層体を作成することが困難になる傾向にある。
【0034】
また、本発明にかかる第4層に用いられる樹脂としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンフタレート)、COP(シクロオレフィンポリマー)、COC(シクロオレフィンコポリマー)、PC(ポリカーボネート)、アセテート系樹脂、アクリル系樹脂、フッ化ビニル系樹脂、ポリアミド、ポリアリレート、セロファン、ポリエーテルスルホン、ノルボルネン系樹脂等等が挙げられる。これらの中でも、クラックの伸展を抑制する効果を得られるような高い引張伸度を有すること、塗工時にかかる圧力によってしわがよらないような剛性があること、及び、ディスプレイとして使用する場合のために高い光透過率を有するという観点から、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、COP(シクロオレフィンポリマー)、COC(シクロオレフィンコポリマー)、PC(ポリカーボネート)を用いることが好ましい。このような樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合又は積層して用いてもよい。また、これらの樹脂としては、フィルムの形態で用いてもよく、前記フィルムとしては、表面に凹凸加工が施されたものであってもよく、また、第3層との密着性をより向上させるという観点から、例えば、表面にコロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理等の表面活性処理が施されたものであってもよい。なお、本発明にかかる第4層としては、前記樹脂の他に添加剤等を更に含有していてもよく、このような添加剤としては、前記第2層において挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0035】
本発明の4層積層体は、前記第1層、前記第2層、前記第3層、前記第4層を備える積層体である。このような4層積層体としては、液晶ディスプレイ等に用いる場合に表示画像の視認性に優れる傾向にあるという観点から、波長550nmでの光透過率が85%以上であることが好ましい。
【0036】
本発明の4層積層体においては、このような前記第1〜4層を備えることにより、高い表面硬度が達成されると共に、クラックの伸展が十分に抑制されて割れが防止される。さらに、透明性、耐熱性及び加工性に優れると共に、最表面が硬化性樹脂であるため、従来の熱可塑性樹脂からなる層を最表面に備える積層体に比べて優れた耐薬品性及び耐擦傷性が達成される。
【0037】
次に、本発明の4層積層体を製造する方法について説明する。
【0038】
本発明の4層積層体を製造する方法は、前記第2層として用いる熱可塑性樹脂層を準備する第2層準備工程と、硬化後に前記第1層となる熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含有する第1層形成用樹脂組成物を、前記第2層の一方の面上に塗布する第1層積層工程と、硬化後に前記第3層となる熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含有する第3層形成用樹脂組成物を、前記第2層の他方の面上に塗布する第3層積層工程と、前記第4層として用いる透明樹脂層を前記第3層の前記第2層と反対側の面上に積層する第4層積層工程と、前記第1層形成用樹脂組成物及び前記第3層形成用樹脂組成物を硬化せしめる硬化工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0039】
本発明にかかる第2層準備工程は、本発明の4層積層体における第2層として用いる熱可塑性樹脂層を準備する工程である。前記第2層としては、熱可塑性樹脂を含有する第2層形成用樹脂組成物を、形成後の第2層がガラス転移温度が70℃以上であり、引張伸度が40〜400%である透明樹脂層となるように調製してプラスチックフィルムやガラス等の支持体上に塗布して形成したものが挙げられる。
【0040】
前記第2層形成用樹脂組成物に含有される熱可塑性樹脂としては、本発明の4層積層体における第2層に用いられる熱可塑性樹脂として挙げたものと同様のものを用いることができる。このような第2層形成用樹脂組成物の固形分濃度は、溶媒を用いて適宜調整することができる。前記溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)等のアミド化合物;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、フェネトール等のエーテル化合物;o−ジクロロベンゼン、3,4−ジクロロトルエン等の芳香族ハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、テトラメチル尿素、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等を用いることができる。前記第2層形成用樹脂組成物の固形分濃度としては、20〜100質量%であることが好ましい。
【0041】
また、前記目的のガラス転移温度、引張伸度及び透明性を得る方法としては、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、樹脂の種類、組み合わせ、含有量等の選択による方法;前記組成物にフィラー系添加剤、可塑剤又は脱可塑剤、重合度調製剤等の添加剤を添加する方法;組成物の塗布量を調整する方法;温度、時間、光、酸素濃度等の雰囲気等の形成条件を調整する方法等が挙げられる。なお、前記添加剤を添加する場合の含有量は、第2層形成用樹脂組成物において、5質量%以下であることが好ましい。
【0042】
本発明にかかる第2層準備工程においては、前記熱可塑性樹脂と、必要に応じて、前記添加剤及び前記溶媒とを混合することにより目的の第2層形成用樹脂組成物を得ることができる。前記混合方法としては公知の方法を適宜用いることができるが、目的の光透過率を得るという観点から、前記第2層形成用樹脂組成物には脱泡処理を施すことが好ましい。
【0043】
前記塗布方法としては、グラビアコート、ロールコート、リバースコート、ナイフコート、ダイコート、スロットダイコート、リップコート、ドクターコート、エクストルージョンコート、スライドコート、ワイヤーバーコート、カーテンコート、押出コート、スピナーコート等の方法が挙げられる。このような第2層形成用樹脂組成物の塗布量としては、本発明の4層積層体における第2層の厚さと同様の観点から、形成後の第2層の厚さが10〜500μm(より好ましくは50〜250μm)となる塗布量であることが好ましい。
【0044】
また、前記第2層としては、目的のガラス転移温度及び引張伸度を有し、熱可塑性樹脂からなる既存の透明フィルムを用いてもよい。このようなフィルムとしては、本発明の4層積層体における第2層に用いられるフィルムとして挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0045】
本発明にかかる第1層積層工程は、硬化後に本発明の4層積層体における第1層となる熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含有する第1層形成用樹脂組成物を、前記第2層の一方の面上に塗布する工程である。
【0046】
前記第1層形成用樹脂組成物としては、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含有する。このような熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂としては、本発明の4層積層体における第1層に用いられる熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂として挙げたものと同様のものを用いることができる。また、このような第1層形成用樹脂組成物としては、表面硬度がより向上するという観点から、かご型シルセスキオキサン樹脂を含有することが好ましい。前記かご型シルセスキオキサン樹脂としては、本発明の4層積層体において挙げたものと同様のものを用いることができ、このようなかご型シルセスキオキサン樹脂を含有する場合の含有量は本発明の4層積層体における第1層での含有量と同様の観点から、第1層形成用樹脂組成物において、3〜50質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。
【0047】
また、前記第1層形成用樹脂組成物の固形分濃度は、溶媒を用いて適宜調整することができる。このような溶媒としては、例えば、前記第2層準備工程において溶媒として挙げたものを用いることができる。このような第1層形成用樹脂組成物の固形分濃度としては、20〜100質量%であることが好ましい。
【0048】
本発明にかかる第1層積層工程においては、硬化後の第1層が波長550nmでの光透過率が90%以上の透明樹脂層となり、硬化後の第1層のガラス転移温度が250℃以上となり、表面硬度が鉛筆硬度3H以上となり、引張弾性率が2000MPa以上となり、引張伸度が5%以下となるように前記第1層形成用樹脂組成物を調製及び混合して塗布する。
【0049】
このようなガラス転移温度、引張伸度及び光透過率を得る方法としては、前記第2層準備工程において目的のガラス転移温度、引張伸度及び透明性を得る方法として挙げた方法と同様の方法を用いることができる。なお、前記添加剤を添加する場合の含有量は、前記第1層形成用樹脂組成物において、5質量%以下であることが好ましい。また、前記表面硬度及び引張弾性率を得る方法としては、前記かご型シルセスキオキサン樹脂を前記第1層形成用樹脂組成物に含有させる方法の他に、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、光硬化性樹脂を含有する前記第1層形成用樹脂組成物にアクリル樹脂エマルジョンを添加する方法;前記第1層形成用樹脂組成物に脱可塑剤を添加する方法等が挙げられる。
【0050】
前記混合方法及び前記塗布方法としては、前記第2層準備工程において述べたとおりである。なお、前記光硬化性樹脂を用いる場合には、筋や異物の発生を防止するという観点から、塗布部分には紫外線が当たらないようにすることが好ましい。このような第1層形成用樹脂組成物の塗布量としては、本発明の4層積層体における第1層の厚さと同様の観点から、硬化後の第1層の厚さが10〜500μm(より好ましくは50〜200μm)となる塗布量であることが好ましい。また、前記塗布方法としては、厚さの制御が容易であることから、別の支持体上に第1層形成用樹脂組成物を塗布してから前記第2層上へ転写する方法を採用してもよい。
【0051】
本発明にかかる第3層積層工程は、硬化後に本発明の4層積層体における第3層となる熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含有する第3層形成用樹脂組成物を、前記第2層の他方の面上に塗布する工程である。
【0052】
前記第3層形成用樹脂組成物としては、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含有する。このような熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂としては、本発明の4層積層体における第3層に用いられる熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂として挙げたものと同様のものを用いることができる。また、前記第3層形成用樹脂組成物としては、かご型シルセスキオキサン樹脂を含有していてもよい。このようなかご型シルセスキオキサン樹脂としては、前記第1層積層工程において述べたとおりである。また、前記第3層形成用樹脂組成物の固形分濃度は、溶媒を用いて適宜調整することができる。このような固形分濃度及び溶媒としては、前記第1層積層工程において述べたとおりである。
【0053】
本発明にかかる第3層積層工程においては、硬化後の第3層の引張伸度が30%以下の透明樹脂層となるように、前記第3層形成用樹脂組成物を調製及び混合し、前記第1層積層工程と同時に、あるいは前記第1層積層工程の前又は後に、前記第2層の前記第1層と反対側の面上に塗布する。このような引張伸度及び透明性を得る方法としては、前記第2層準備工程において目的のガラス転移温度、引張伸度及び透明性を得る方法として挙げた方法と同様の方法を用いることができる。なお、前記添加剤を添加する場合の含有量は、第3層形成用樹脂組成物において、5質量%以下であることが好ましい。前記混合方法及び前記塗布方法としては、前記第1層積層工程において述べたとおりである。このような第3層形成用樹脂組成物の塗布量としては、本発明の4層積層体における第3層の厚さと同様の観点から、硬化後の第3層の厚さが10〜500μm(より好ましくは50〜350μm)となる塗布量であることが好ましい。
【0054】
本発明にかかる第4層積層工程は、本発明の4層積層体における第4層として用いる透明樹脂層を前記第3層の前記第2層と反対側の面上に積層する工程である。このような第4層としては、樹脂を含有する第4層形成用樹脂組成物を引張伸度が40〜400%の透明樹脂層となるように調製して前記第3層の前記第2層と反対側の面上に塗布して形成したものが挙げられる。
【0055】
このような樹脂としては、本発明の4層積層体における第4層に用いられる樹脂として挙げたものと同様のものを用いることができる。また、前記目的の引張伸度及び透明性を得る方法としては、前記第2層準備工程において目的のガラス転移温度、引張伸度及び透明性を得る方法として挙げた方法と同様の方法を用いることができる。なお、前記添加剤を添加する場合の含有量は、第4層形成用樹脂組成物において、5質量%以下であることが好ましい。また、前記第4層形成用樹脂組成物の固形分濃度は、溶媒を用いて適宜調整することができる。このような溶媒としては、例えば、前記第2層準備工程において溶媒として挙げたものを用いることができる。このような第4層形成用樹脂組成物の固形分濃度としては、20〜100質量%であることが好ましい。
【0056】
本発明にかかる第4層積層工程においては、前記樹脂と、必要に応じて、前記添加剤及び前記溶媒とを混合することにより目的の第4層形成用樹脂組成物を得ることができる。前記混合方法及びこのような第4層形成用樹脂組成物の塗布方法としては、前記第2層準備工程において述べたとおりである。このような第4層形成用樹脂組成物の塗布量としては、本発明の4層積層体における第4層の厚さと同様の観点から、硬化後の第4層の厚さが10〜500μm(より好ましくは50〜250μm)となる塗布量であることが好ましい。
【0057】
また、前記第4層としては、目的の引張伸度を有する既存の樹脂からなる透明フィルムを第4層として用いてもよい。このようなフィルムとしては、本発明の4層積層体における第4層に用いられるフィルムとして挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0058】
本発明にかかる硬化工程は、前記第1層形成用樹脂組成物及び前記第3層形成用樹脂組成物を硬化せしめる工程である。
【0059】
本発明にかかる第1層積層工程又は第3層積層工程において光硬化性樹脂を用いる場合は、光硬化を行う。前記光硬化の方法としては、例えば、紫外線ランプを用いて紫外線照射を行う紫外線照射法が挙げられる。このような紫外線ランプとしては、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、パルス型キセノンランプ、キセノン/水銀混合ランプ、低圧殺菌ランプ、無電極ランプ等を用いることができ、中でも、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプが好ましい。前記紫外線照射の条件は用いる紫外線ランプによって異なるが、照射露光量が20〜10000mj/cm2程度であればよく、100〜10000mj/cm2であることが好ましい。また、光エネルギーの有効利用の観点から、前記紫外線ランプには楕円型、放物線型、拡散型等の反射板を取り付けることが好ましく、冷却対策として熱カットフィルター等を更に装着してもよい。また、前記紫外線ランプの照射箇所には、得られる4層積層体の熱変形を抑制する観点から、空冷方式、水冷方式等の冷却装置を有していることが好ましい。
【0060】
本発明にかかる硬化工程において、前記第1層形成用樹脂組成物に光硬化性樹脂を含有する場合には、酸素阻害を防止する観点から、前記光硬化前に第1層の表面に透明カバーフィルムを施すことが好ましい。前記透明カバーフィルムとしては、第1層表面において酸素濃度を1容量%以下にするものであることが好ましく、0.1容量%以下にするものであることがより好ましい。このような透明カバーフィルムとしては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、ポリプロピレン、ポリエチレン、アセテート系樹脂、アクリル系樹脂、フッ化ビニル系樹脂、ポリアミド、ポリアリレート、セロファン、ポリエーテルスルホン、ノルボルネン系樹脂等からなるフィルムを単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらの透明カバーフィルムとしては、第1層との剥離が容易であるという観点から、表面にシリコン塗布、フッ素塗布等の易剥離処理が施されているものが好ましい。
【0061】
本発明にかかる第1層積層工程又は第3層積層工程において熱硬化性樹脂を用いる場合は、加熱により熱硬化を行う。前記熱硬化としては、熱硬化性樹脂を含有する組成物を無溶媒で溶融状態に維持して行うことが好ましい。前記熱硬化の温度条件としては50〜300℃であることが好ましい。なお、前記温度条件を100℃以上とする場合は、ポリイミド等の耐熱性フィルムをカバーフィルムとして用いることが好ましい。前記熱硬化の圧力条件としては特に制限されず、減圧、常圧、加圧のいずれでもよく、時間条件としては、組成物中の化合物の種類や前記温度条件及び圧力条件により異なるが、0.1〜10時間が好ましく、0.5〜3時間程度がより好ましい。また、このような熱硬化は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。本発明にかかる硬化工程において熱硬化を行う場合は、加熱後に空冷、水冷等の常法により常温まで得られる積層体を冷却し、必要に応じて熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の公知の方法により100℃以下で2〜10時間乾燥することが好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において、引張伸度、引張弾性率、反応率、光透過率及び表面硬度は以下に示す測定方法により測定し、曲げ試験は以下に示す方法で行った。
【0063】
<試験例>
(引張伸度測定、引張弾性率測定)
プラスチック−引張特性の試験方法(JIS−K−7161−1994)に準じて行った。試験片は厚さ0.1mmのPETフィルムの面上に各実施例で得られた樹脂組成物を厚さ0.2mmとなるように塗工し、その上に厚さ0.1mmのPETフィルムを圧着した後、メタルハライドランプにて紫外線を1000mJ/cmで照射して硬化せしめ、はさみこんでいた両側のPETフィルムを剥がし、8mm×110mmの大きさにCOレーザー加工機(レーザーマチックL−906PC、飯田工業株式会社 製)で正角して作成した。作成した試験片について、引張破断するときの引張荷重(N)と試験片長の変位量(ひずみ量)(mm)を測定し、また、変位(ひずみ)が0.2mmから0.4mmのときの引張荷重(N)を0.01mm単位で測定した。(つかみ具間距離:3mm、引張速度:2mm/min、温度:25℃、機器:ストログラフVES5D 株式会社東洋精機製作所製)。引張伸度は、次式:
引張伸度(%)=変位量(mm)/初期試験片長(mm)×100
により算出し、
引張弾性率は、最小2乗法により縦軸を引張荷重(N)、横軸を変位(mm)としたときの変位0.2mmから0.4mmの間の傾き(N/mm)を算出し、次式:
引張弾性率(MPa)=傾き(N/mm)×初期試験片長(mm)÷初期試験片断面積(mm
により算出した。
【0064】
(反応率測定)
各実施例で得られた硬化前及び硬化後の樹脂組成物についてそれぞれIR測定(測定範囲:650〜4000cm−1、積算回数:16回、機器:IRT−5000 日本分光株式会社製)を行い、得られたメチル基のピークの高さに対する官能基のピークの高さの比率を算出した。反応率は、次式:
反応率(%)=(1−硬化前のピークの高さの比率/硬化後のピークの高さの比率)×100
により算出した。
【0065】
(光透過率測定試験)
プラスチック透明材料の全光線透過率の試験方法(JIS−K7361−1)に準じて、各実施例で得られた積層体及び層について光源波長550nmで行った。光透過率は、次式:
光透過率(%)=入射光/試験片を透過した全光線×100
により算出した。なお、各層の光透過率は、得られた積層体から各層を分離して、それぞれ単層で測定を行った。
【0066】
(表面硬度測定試験)
鉛筆法(JIS−K5600−5−4)に準じて、各種硬度の鉛筆を積層体の表面(第1層)に角度45°、荷重750kgで押し付けて行った。表面硬度は、試験片の表面に傷が発生した時の鉛筆の硬度で示した。
【0067】
(曲げ試験)
プラスチック曲げ特性の求め方(JIS−K7171)に準じて行った。試験片は25mm×50mmとした。ただし、試験片はルーター切削(片刃ルーター、回転数:10000rpm、速度:1200mm/min)によりせん断し、断面観察でチッピングが生じた試験片を用いて行った。試験は3点曲げ試験(支持間距離:30mm、試験速度:2mm/min、温度:25℃、機器:ストログラフVES5D 株式会社東洋精機製作所製)で行い、試験片が割れ破断したときのたわみ(mm)と荷重(N)を計測して示した。
【0068】
(実施例1)
先ず、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(ライトアクリレートHPP−A、共栄社化学社製)80質量部、シルセスキオキサンオリゴマー20質量部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)2.5質量部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の第1層形成用樹脂組成物を得た。次いで、トリメチロールプロパントリアクリレート(KS−TMPA、日本化薬社製)100質量部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)2.5質量部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の第3層形成用樹脂組成物を得た。
【0069】
次いで、得られた第1層形成用樹脂組成物及び第3層形成用樹脂組成物をそれぞれ塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した第2層用の透明フィルム(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.25mm、波長550nmでの光透過率90%)の両面上にそれぞれスロットダイコーター法にて同時に塗布した。次いで、第1層側の面に透明カバーフィルム(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、光透過率90%以上)を圧着し、第3層側の面には第4層用の透明フィルム(PEN:ポリエチレンナフタレートフィルム、厚さ0.1mm、波長550nmでの光透過率90%)を圧着した後、メタルハライドランプにて紫外線を1000mJ/cmで両面から照射し、第1層及び第3層の厚さがそれぞれ0.2mm及び0.35mmとなるように硬化せしめ、透明カバーフィルムを剥離除去し、4層積層体を得た。
【0070】
得られた4層積層体は「第1層(厚さ:0.2mm、引張伸度:4%、引張弾性率:2600MPa)−第2層(厚さ:0.25mm、引張伸度:140%)−第3層(厚さ:0.35mm、引張伸度:4%)−第4層(厚さ:0.1mm、引張伸度:90%)」であり、合計厚さは0.9mmであった。また、第1層において、ガラス転移温度は250℃以上、波長550nmでの光透過率は92%であり、第2層において、ガラス転移温度は78℃であった。各層の反応率は85%以上であった。
【0071】
(実施例2)
第1層及び第3層の厚さがそれぞれ0.1mm及び0.2mmとなるように硬化せしめたこと以外は実施例1と同様にして4層積層体を得た。得られた4層積層体は「第1層(厚さ:0.1mm、引張伸度:4%、引張弾性率:2600MPa)−第2層(厚さ:0.25mm、引張伸度:140%)−第3層(厚さ:0.2mm、引張伸度:4%)−第4層(厚さ:0.1mm、引張伸度:95%)」であり、合計厚さは0.65mmであった。また、第1層において、ガラス転移温度は250℃以上、波長550nmでの光透過率は92.0%であり、第2層において、ガラス転移温度は78℃であった。各層の反応率は85%以上であった。
(実施例3)
第3層形成用樹脂組成物に代えて、グリセンポリグリシジルエーテル−アクリル酸付加物(80MFA、共栄社化学社製)50質量部、ポリプロピレン(n≒3)グリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物(200PA、共栄社化学製)50質量部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)2.5質量部を均一に攪拌混合した後、脱泡して得られた液状の第3層形成用樹脂組成物を用いたこと、及び、第1層及び第3層の厚さがそれぞれ0.1mm及び0.2mmとなるように硬化せしめたこと以外は実施例1と同様にして4層積層体を得た。得られた4層積層体は「第1層(厚さ:0.1mm、引張伸度:4%、引張弾性率:2600MPa)−第2層(厚さ:0.25mm、引張伸度:140%)−第3層(厚さ:0.2mm、引張伸度:24%)−第4層(厚さ:0.1mm、引張伸度:95%)」であり、合計厚さは0.65mmであった。また、第1層において、ガラス転移温度は250℃以上、波長550nmでの光透過率は92.0%であり、第2層において、ガラス転移温度は78℃であった。各層の反応率は85%以上であった。
【0072】
(比較例1)
第3層形成用樹脂組成物に代えて第1層形成用樹脂組成物を用い、第1層及び第3層の厚さがそれぞれ0.325mmとなるように硬化せしめ、第4層に代えて透明カバーフィルム(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、光透過率90%以上)を用いて硬化後にこれを剥離除去したこと以外は実施例1と同様にして3層積層体を得た。得られた3層積層体は「第1層(厚さ:0.325mm、引張伸度:4%)−第2層(厚さ:0.25mm、引張伸度:140%)−第3層(厚さ:0.325mm、引張伸度:4%)」であり、合計厚さは0.9mmであった。また、各層の反応率は85%以上であった。
【0073】
(比較例2)
第1層及び第3層の厚さがそれぞれ0.2mmとなるように硬化せしめたこと以外は比較例1と同様にして3層積層体を得た。得られた3層積層体は「第1層(厚さ:0.2mm、引張伸度:4%)−第2層(厚さ:0.25mm、引張伸度:140%)−第3層(厚さ:0.2mm、引張伸度:4%)」であり、合計厚さは0.65mmであった。また、各層の反応率は85%以上であった。
【0074】
(比較例3)
第1層形成用樹脂組成物に代えて、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(ライトアクリレートHPP−A、共栄社化学社製)100質量部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)2.5質量部を均一に攪拌混合した後、脱泡して得られた液状の組成物を用いたこと以外は比較例1と同様にして3層積層体を得た。得られた3層積層体は「第1層(厚さ:0.325mm、引張伸度:4%)−第2層(厚さ:0.25mm、引張伸度:140%)−第3層(厚さ:0.325mm、引張伸度:4%)」であり、合計厚さは0.9mmであった。また、各層の反応率は85%以上であった。
【0075】
(比較例4)
第1層形成用樹脂組成物及び第3層形成用樹脂組成物に代えて、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(ライトアクリレートHPP−A、共栄社化学社製)100質量部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)2.5質量部を均一に攪拌混合した後、脱泡して得られた液状の組成物を用いたこと以外は実施例2と同様にして4層積層体を得た。得られた4層積層体は「第1層(厚さ:0.1mm、引張伸度:5%)−第2層(厚さ:0.25mm、引張伸度:140%)−第3層(厚さ:0.2mm、引張伸度:5%)−第4層(厚さ:0.1mm、引張伸度:95%)」であり、合計厚さは0.65mmであった。また、各層の反応率は85%以上であった。
【0076】
(比較例5)
先ず、特開2005−225018号公報に記載の方法に従い、メチルメタクリレート88質量部、メチルアクリレート4質量部、メタノール8質量部、ジ−t−ブチルパーオキサイド0.032質量部(2×10−3モル/L)及びn−ドデシルメルカプタン0.21質量部(10×10−3モル/L)、エチレンビスステアリン酸アミド0.1質量%(全アクリル樹脂質量中)からアクリル樹脂を調製した。これをポリカーボネート樹脂と共に共押出することによってポリカーボネート樹脂層の両面にアクリル樹脂層が積層された3層積層体を得た。得られた3層積層体は「アクリル樹脂層(厚さ:0.02mm)−ポリカーボネート樹脂層(厚さ:0.86mm)−アクリル樹脂層(厚さ:0.02mm)」であり、合計厚さは0.9mmであった。
【0077】
(比較例6)
ポリカーボネート樹脂層の厚さを0.61mmに代えたこと以外は比較例5と同様にして3層積層体を得た。得られた3層積層体は「アクリル樹脂層(厚さ:0.02mm)−ポリカーボネート樹脂層(厚さ:0.61mm)−アクリル樹脂層(厚さ:0.02mm)」であり、合計厚さは0.65mmであった。
【0078】
実施例1〜3及び比較例1〜6で得られた積層体の特性を表1にまとめて示す。また、実施例1〜3及び比較例1〜6で得られた積層体について光透過率測定試験、表面硬度測定試験及びクラックの伸展抑制効果の評価のための曲げ試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
表2に示した結果から明らかなように、本発明の4層積層体(実施例1〜3)は高表面硬度を有すると同時に、曲げ試験における割れ破断時のたわみ及び荷重が大きく、クラックの伸展が高度に抑制されていることが確認された。一方、高表面硬度を有する3層積層体(比較例1〜2)はクラックの伸展の抑制効果において劣るものであり、比較例3で得られた従来の3層積層体及び比較例4で得られた4層積層体は、表面硬度及びクラックの伸展において劣るものであった。また、従来の3層積層体(比較例5〜6)も、表面硬度及びクラックの伸展において劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、本発明によれば、高い表面硬度を有していると共に、クラックの伸展が十分に抑制されて割れが防止される4層積層体及びその製造方法を提供することが可能となる。
【0083】
また、本発明の4層積層体においては、透明性、耐熱性及び加工性に優れると共に、最表面が硬化性樹脂であるため、従来の熱可塑性樹脂を最表面に有する積層体に比べて優れた耐薬品性及び耐擦傷性が達成される。さらに、本発明の4層積層体の製造方法により簡易なプロセスにて本発明の4層積層体を得ることができるため、製造コストの低減、製品の歩溜まり向上も達成される。
【0084】
したがって、本発明の4層積層体は、各種光学部材、液晶ディスプレイ等の基板や保護板として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長550nmでの光透過率が90%以上の透明樹脂層であり、ガラス転移温度が250℃以上であり、表面硬度が鉛筆硬度3H以上であり、引張弾性率が2000MPa以上であり、引張伸度が5%以下であり、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させてなる第1層と、
前記第1層上に積層された透明樹脂層であり、ガラス転移温度が70℃以上であり、引張伸度が40〜400%であり、熱可塑性樹脂からなる第2層と、
前記第2層上に積層された透明樹脂層であり、引張伸度は30%以下である、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を硬化させてなる第3層と、
前記第3層上に積層された透明樹脂層であり、引張伸度が40〜400%である第4層を備えることを特徴とする4層積層体。
【請求項2】
前記第1層がかご型シルセスキオキサン樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の4層積層体。
【請求項3】
前記第1層、前記第2層、前記第3層及び前記第4層の厚さがそれぞれ10〜500μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の4層積層体。
【請求項4】
波長550nmでの光透過率が85%以上であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の4層積層体。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の4層積層体を製造する方法であって、
前記第2層として用いる熱可塑性樹脂層を準備する第2層準備工程と、
硬化後に前記第1層となる熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含有する第1層形成用樹脂組成物を、前記第2層の一方の面上に塗布する第1層積層工程と、
硬化後に前記第3層となる熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を含有する第3層形成用樹脂組成物を、前記第2層の他方の面上に塗布する第3層積層工程と、
前記第4層として用いる透明樹脂層を前記第3層の前記第2層と反対側の面上に積層する第4層積層工程と、
前記第1層形成用樹脂組成物及び前記第3層形成用樹脂組成物を硬化せしめる硬化工程と、
を含むことを特徴とする方法。

【公開番号】特開2012−91370(P2012−91370A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239491(P2010−239491)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】