説明

4級カチオン性ビニルモノマーからなる帯電防止剤及び帯電防止組成物

【課題】樹脂や有機溶媒との相溶性が良好であり、非水溶性で耐加水分解性が高く、ハロゲンフリーで環境への負荷が少なく、各種電気化学デバイスにも好適に用いられる、帯電防止効果の優れた4級カチオン性ビニルモノマー、該モノマーからなる帯電防止剤及び帯電防止性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】正イオンとしてアンモニウム、負イオンとしてテトラフェニルホウ酸イオンから構成されたオニウム塩の一般式(1)(式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基、Rは炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基、またはベンジル基を表し、Yは酸素原子または−NH−を表し、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。)で示されるカチオン性ビニルモノマーを合成し、該モノマー、そのオリゴマー又はポリマーを帯電防止の有効成分として、基材上にコーティングすることで帯電防止層を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な疎水性4級カチオン性ビニルモノマー、該モノマーからなる帯電防止剤及び該帯電防止剤を含有する帯電防止性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
第4級アンモニウム塩は優れた帯電防止効果を持つため、樹脂用帯電防止剤として従来から知られている。例えば、特許文献1、2では、アニオンとしてハロゲンイオン又はアルキルスルホン酸イオンを含有する第4級アンモニウム塩をアクリレート系モノマーなどの重合性化合物に添加し、紫外線照射により帯電防止性樹脂組成物を得る方法が報告された。しかし、これらの第4級アンモニウム塩が非重合性であるため、樹脂との間に有効な化学結合が形成されておらず、時間経過とともに樹脂組成物表面に徐々にブリードアウトし、水拭き、摩擦などで容易に剥がれてしまい、帯電防止性能を持続できないという問題点があった。
【0003】
持続できる帯電防止性能を提供するため、重合性基を持つカチオン性ビニルモノマーを用いて他の共重合可能なモノマーと共重合させることで高分子型帯電防止剤として使用する方法が報告された(特許文献3)。その中でも、アミド系カチオン性ビニルモノマーが耐加水分解性を有するため、帯電防止剤のベースモノマーとして使用することが公知化されている。しかし、多くのアミド系カチオン性ビニルモノマーは極性が高く、吸湿性が高く、また製造上の関係で通常水溶液の状態で流通している。例えば、不飽和第3級アミンであるN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに4級化剤としてメチルクロライドを加えて、水とアプロティックな有機溶媒からなる混合溶媒存在下で4級化反応を行う方法がよく使われている(特許文献4)。当然ながら、これらの公知の方法により得られるアミド系カチオン性ビニルモノマー溶液は通常水溶液であるため、塗膜時の乾燥性が悪く、また、汎用樹脂、多官能アクリルモノマー、オリゴマー、有機溶媒などとの相溶性が乏しく、均一に分散できず、有効な帯電防止性が発現できないという問題点があった。仮にアミド系カチオン性ビニルモノマーを高純度に精製し、極性有機溶媒に溶解させたとしても、該モノマー自身の親水性が高いために、有機溶媒を除去して使用する際に樹脂中の他成分に対する溶解性が低く、樹脂中で凝縮するか樹脂から析出し、連続した帯電防止膜を形成できず、目標とする帯電防止性能を達成できない場合があった。
【0004】
また、これらのアミド系カチオン性第4級アンモニウム塩基を有するビニルモノマーが水溶性であり、耐湿性が低いので、周囲環境の湿度による帯電防止効果が大きく変化し、持続的、かつ安定的に帯電防止性能を提供することが困難である。一般的には、湿度の高い条件において、帯電防止効果が十分に発揮できるが、湿度が低くなるとともにその効果が低下し、最終的に全くその機能を失ってしまう可能性もある。
【0005】
そこで、アミド系カチオン性ビニルモノマーを使用せず、耐加水分解性、耐湿性および樹脂、有機溶媒との相溶性を同時に改良しようとする種々の試みも行われてきた。例えば、アクリレート系カチオン性ビニルモノマーとアミド基を有する重合性モノマーを共重合して使用する方法が報告されている(特許文献5、6)。しかし、これらの方法では、帯電防止組成物中のカチオン性ビニルモノマーの含有量が低下するため、目標とする帯電防止性能を得るためには、この共重合体を多量に添加する必要があり、その結果、樹脂の各種特性が低下するとともに、樹脂組成物の価格が高くなってしまうという問題点があった。
【0006】
また、カチオン性ビニルモノマー自身の相溶性向上の目的で、例えば、特許文献7、8では、窒素オニウムカチオン及び該オニウムカチオンに弱く配位する弱配位性アニオンを有する重合性化合物を提案している。しかし、該提案のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等のアニオンは一分子に4〜6個のフッ素原子を含有する有機フッ素化合物であり、自然環境において極めて難分解性であるため、環境有害化学物質としてその使用量の削減と全面廃止が環境対策として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−231240号公報
【特許文献2】特開2008−13636号公報
【特許文献3】特開2008−231196号公報
【特許文献4】特開昭63−201151号公報
【特許文献5】特開2007−332181号公報
【特許文献6】特開2000−129245号公報
【特許文献7】特開2007−9042号公報
【特許文献8】特開2005−255843号公報
【0008】
以上述べたように、UV硬化に応用でき、硬化後も長く帯電防止効果が持続する帯電防止剤であって、クロル、フッ素などのハロゲンを含まず、優れる耐水性、耐湿性を有し、かつ有機溶媒、汎用アクリルモノマーとの相溶性の良好な4級アンモニウム塩化合物は未だに得られていない。

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、有機溶媒や他の帯電防止剤組成物との相溶性に優れ、帯電防止効果が長期持続し、ハロゲンフリーで環境への負荷が少なく、非水溶性で優れる耐加水分解性、耐湿性かつ高硬度、高透明性を有する帯電防止剤および該帯電防止剤を含有する帯電防止性組成物を提供することを課題とする。

【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はこれらの課題を解決するために鋭意検討を行った結果、下記一般式(1)で示される4級カチオン性ビニルモノマーを用いることでこれらの課題が解決できることを見出した。
【0011】
すなわち本願発明は、
1)一般式(1)で表される化合物である4級カチオン性ビニルモノマー。
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基、またはベンジル基を表し、Yは酸素原子または−NH−を表し、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。)
2)上記1)記載の4級カチオン性ビニルモノマーを構成成分として含むオリゴマー又はポリマー。
3)上記1)記載の4級カチオン性ビニルモノマー及び/又は上記2)記載のオリゴマー若しくはポリマーからなる帯電防止剤。
4)上記3)記載の帯電防止剤又は該帯電防止剤を含有する帯電防止組成物であって、上記1)記載の4級カチオン性ビニルモノマーを構成単位として0.1〜90重量%含有するもの。
5)上記3)記載の帯電防止剤を含有する帯電防止組成物であって、さらに多官能(メタ)アクリレート及び/又は多官能(メタ)アクリルアミドを含有する帯電防止組成物。
6)基材上に上記3)〜5)いずれか一に記載の帯電防止剤又は帯電防止組成物を塗布した後、活性エネルギー線又は熱により重合して形成されることを特徴とする帯電防止層。
7)少なくとも片面に上記6)記載の帯電防止層を有することを特徴とする帯電防止フィルム。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の帯電防止剤及び帯電防止剤組成物は、ハロゲンフリーであり、有機溶媒への溶解性、親和性に優れるため、取り扱いが容易で基材上にムラなく塗工でき、硬化後も帯電防止効果が持続するというものである。
本発明の帯電防止剤及び帯電防止剤組成物の構成成分である新規4級カチオン性(メタ)アクリルアミド系モノマーは疎水性のテトラフェニルホウ酸アニオンから構成されるため、非水溶性で、優れる耐加水分解性を有し、周囲環境の湿度による帯電防止効果の影響が極めて小さい。
本発明の新規4級カチオン性(メタ)アクリルアミド系モノマーはテトラフェニル基の骨格を有するため、高硬度、高耐磨耗性と優れる透明性の帯電防止層、帯電防止膜または帯電防止フィルムが提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の帯電防止剤は、一般式(1)で表わされる4級カチオン性(メタ)アクリルアミド系モノマー、4級カチオン性(メタ)アクリレート系モノマー、及びそれらのモノマーから構成されるオリゴマー若しくはポリマーのうちいずれか1種以上からなるものである。
【0014】
一般式(1)の式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基、またはベンジル基を表し、Yは酸素原子または−NH−を表し、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。
【0015】
本発明の帯電防止剤である前述のモノマー、オリゴマー及びポリマーは、非水溶性であることを特徴とする。ここで非水溶性であるとは、水100mLに対して1g以上が溶解できないことを言う。
【0016】
本発明の帯電防止剤であるモノマーとして、具体的には、アクリロイルアミノメチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノメチルトリエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノメチルトリプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノエチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノプロピルメチルジエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノプロピルエチルジメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノプロピルメチルジプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノプロピルトリエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノプロピルトリプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノエチルジメチルベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノプロピルジエチルベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノプロピルメチルジベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルアミノプロピルエチルジベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノメチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノメチルトリエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノメチルトリプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノエチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノプロピルメチルジエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノプロピルエチルジメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノプロピルメチルジプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノプロピルトリエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノプロピルトリプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノエチルジメチルベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノプロピルジエチルベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノプロピルメチルジベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノプロピルエチルジベンジルアンモニウムテトラフェニルボレートなどの(メタ)アクリルアミド系アンモニウムアルキルテトラフェニルボレート4級カチオン性モノマーなどが挙げられ、またはアクリロイルオキシメチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシメチルトリエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシメチルトリプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシプロピルメチルジエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシプロピルエチルジメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシプロピルメチルジプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシプロピルトリエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシプロピルトリプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシプロピルジメチルベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシプロピルジエチルベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシプロピルメチルジベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシプロピルエチルジベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシメチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシメチルトリエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシメチルトリプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシプロピルメチルジエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシプロピルエチルジメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシプロピルメチルジプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシプロピルトリエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシプロピルトリプロピルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシプロピルジメチルベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシプロピルジエチルベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシプロピルメチルジベンジルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシプロピルエチルジベンジルアンモニウムテトラフェニルボレートなどの(メタ)アクリレート系アンモニウムアルキルテトラフェニルボレート4級カチオン性モノマーなどが挙げられる。
これらの中では、安価な工業的原料を入手しやすい点で、特にアクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレートが好ましい。
【0017】
本発明の疎水性4級カチオン性ビニルモノマーは、種々の方法で製造できる。その代表的な方法を下記反応式(1)(式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基、またはベンジル基を表し、Yは酸素原子または−NH−を表し、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、X-はCl-、Br-、I-などハロゲンイオンまたはOH-、CHCOOH-、NO-、ClO-、HSO-、CHSO-、CHSO-など無機酸アニオンまたは有機酸アニオンを表し、MはH、Na、K、Li、Agを表す)を用いて説明する。
【0018】
【化2】

【0019】
即ち、一般式(2)
【化3】


(式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基、またはベンジル基を表し、Yは酸素原子または−NH−を表し、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、X-はCl-、Br-、I-などハロゲンイオンまたはOH-、CHCOOH-、NO-、ClO-、HSO-、CHSO-、CHSO-など無機酸アニオンまたは有機酸アニオンを表す)で表されるアニオンを有する4級カチオン性ビニルモノマーと一般式(3)
【化4】


(式中、MはH、Na、K、Li、Agを表す)で表されるテトラフェニルホウ酸またはその金属塩を溶媒中で中和またはアニオン交換により合成することができる。
【0020】
反応溶媒は、原料である一般式(2)で表される親水性アニオンを有する4級カチオン性ビニルモノマーと一般式(3)で表されるテトラフェニルホウ酸またはその金属塩が可溶であり、生成物である一般式(1)で表される疎水性4級カチオン性ビニルモノマーが不溶又は難溶(100g溶媒に対して5g以下溶解する)であり、かつ反応に悪影響を及ぼさない溶媒であれば、広く使用することができる。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。これらの中では、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルが安価の工業品を入手し易く、安全性が高く、取り扱いやすいため、好ましい。これらの溶媒は、1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0021】
本発明で用いられる親水性アニオンを有する4級カチオン性ビニルモノマーは、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、下記一般式(4)
【化5】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Yは酸素原子または−NH−を表し、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、)で表されるN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド又は/及びN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートに4級化剤としてのハロゲン化アルキルまたはジアルキル硫酸、炭酸ジアルキルあるいはアルキルトルエンスルフォネートを水または有機溶媒中で4級化反応させ、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド4級塩又は/及びN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート4級塩を得ることができる。
【0022】
上記N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−メチルプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−メチルエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−メチルプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0023】
上記N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−メチルプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−メチルエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−メチルプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
また、水溶性4級カチオン性ビニルモノマーを原料として使用する場合、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライド塩水溶液(株式会社興人製「DMAPAA−Q」)とN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートのメチルクロライド塩水溶液(株式会社興人製「DMAEA−Q」)が安価な工業品原料として入手し易い観点から特に好ましい。
【0025】
本発明の疎水性4級カチオン性ビニルモノマーを合成するときの反応温度は、通常10℃以上、15〜60℃が好ましく、20〜40℃が特に好ましい。反応温度が10℃未満の場合、反応速度が遅くなり、完結する所要反応時間が長くなる。一方、60℃を超えるとビニルモノマーが重合してしまう可能性がある。
【0026】
本発明の疎水性4級カチオン性ビニルモノマーは反応溶媒に対して不溶又は難溶であり、反応終了後に反応溶媒から分離し、高純度品を取得し易い。該疎水性4級カチオン性ビニルモノマーが固体である場合は、ろ過で分離、反応溶媒により洗浄して乾燥すればよい。また、液体である場合は、分液操作で分離、反応溶媒により洗浄、分離して乾燥すればよい。さらに、着色が問題となる場合は、該疎水性4級カチオン性ビニルモノマーを適切な溶媒に溶解させ、活性炭などの脱色剤を用いて処理し、その後溶媒を通常の方法で除去して乾燥させることができる。
【0027】
以上の方法により99%以上の高純度4級カチオン性ビニルモノマーを得ることができる。
必要に応じて、イオン交換樹脂処理による残存金属イオンの低減、再沈殿、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの精製手段により精製してもよい。
【0028】
本発明の帯電防止剤で4級カチオン性ビニルモノマー及び/又は該モノマーを構成成分とするオリゴマー又は/及びポリマーは、プラスチックなどの成形品に塗布した後、乾燥して使用する場合、単独でも帯電防止性、プラスチックへの塗膜性、耐擦傷性、高硬度の効果を十分に示すことができる。また、本発明の本来の帯電防止性、耐水性、透明性、相溶性などの特性を阻害しない範囲で、2個以上のエチレン基を有する多官能(メタ)アクリレートまたは多官能(メタ)アクリルアミドを添加し、架橋性被膜を基材表面に形成させることにより、さらなる製膜性や耐擦傷性などの塗膜の性能を向上させることができる。
【0029】
このような多官能(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1、6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等のモノマーとオリゴマーが挙げられる。
【0030】
このような多官能(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、アロニックスM−400、M−450、M−305、M−309、M−310、M−315、M−320、TO−1200、TO−1231、TO−595、TO−756(以上、東亞合成製)、KAYARD
D−310、D−330、DPHA、DPHA−2C(以上、日本化薬製)、ニカラックMX−302(三和ケミカル社製)等が挙げられる。
【0031】
また、多官能(メタ)アクリルアミドとしては、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド、エチレンビスメタアクリルアミド、ジアリルアクリルアミド等のモノマーとウレタンアクリルアミド(特開2002−37849)等のオリゴマーが挙げられる。
【0032】
これらの多官能(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリルアミドは、1種類でも、複数の多官能モノマー、オリゴマーを組み合わせて使用してもよい。また、このような多官能モノマー、オリゴマーを使用する場合、本発明の4級カチオン性ビニルモノマー構成単位に対して0.1〜25000重量%含有させることが好ましく、また50〜20000重量%含有させることが特に好ましい。含有量が0.1重量%未満ではその添加効果が認められず、25000重量%を越えると、架橋率が高くなるため、塗膜の硬度、耐擦傷性は向上するが、弾力性が失われて割れやすくなる。
【0033】
本発明の疎水性4級カチオン性ビニルモノマーは、帯電防止組成物及び帯電防止層の種々の性能、例えば硬化物性を硬くあるいは、柔らかく調整する際には、他の重合性化合物を混合し、共重合させてもよく、重合性化合物としては、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、不飽和ニトリルモノマー、不飽和カルボン酸、アミド基含有モノマー、メチロール基含有モノマー、アルコキシメチル基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、多官能性モノマー、ビニルエステル、オレフィンなど分子鎖中に反応性二重結合をもつラジカル重合化合物が挙げられる。
【0034】
アルキル(メタ)アクリレートの例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレートなどが挙げられる。
【0035】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及びヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
不飽和ニトリルモノマーの例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0037】
不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、モノアルキルイタコネート等がある。
【0038】
このような重合性化合物は、1種類に限らず、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
本発明の4級カチオン性ビニルモノマーは重合性化合物と公知の方法によって重合体または共重合体とすることができる。重合方法としては、例えば、乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等の方法を用いることができる。
【0040】
ラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル等のアゾ化合物系触媒や、ベンゾイルパーオキシド、過酸化水素等の過酸化物系触媒、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩系触媒等を用いることができる。重合開始剤の使用量は、重合性単量体100重量%に対して0.05〜10重量%、好ましくは0.2〜3重量%である。
【0041】
本発明の4級カチオン性ビニルモノマーの含有量は、使用する多官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリアミドの粘度、他の重合性化合物の配合量、樹脂組成物に要求される物性によるので、特に限定されるものではないが、帯電防止組成物中の固形分比で0.1〜90重量%、好ましくは1〜60重量%である。この4級カチオン性ビニルモノマーの含有量が0.1重量%以下では帯電防止性能が不十分となり、90重量%を超えると透明性に劣るものとなる。
【0042】
本発明の4級カチオン性ビニルモノマー及び/又は該モノマーを構成成分とするオリゴマーもしくはポリマーを含む帯電防止剤、該帯電防止剤に多官能(メタ)アクリレート又は/及び多官能(メタ)アクリルアミドをさらに含有する帯電防止組成物は基材上に塗布して硬化させることによりコーティングすることから、塗布可能な粘度に調整するため、反応性希釈剤や有機溶媒を含有していることが好ましい。
【0043】
反応性希釈剤は25℃の粘度が500mPa・s以下である低粘度ビニルモノマーであれば、特に限定するものではないが、速硬性、低臭気、高引火点、高塗膜硬度が要求される観点から、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリンなどが好ましい。
【0044】
有機溶媒は本発明の4級カチオン性ビニルモノマー、該モノマーを構成成分とするオリゴマー及びポリマーを溶解できるものが好ましい。特に、該疎水性4級カチオン性ビニルモノマー及び単独重合で得られるオリゴマーとポリマーに対して、溶解性パラメータが9〜12(cal/cm3)の有機溶媒が好ましい。
【0045】
本発明の4級カチオン性ビニルモノマーを構成成分として含む帯電防止組成物は、活性エネルギー線又は熱による硬化が可能であるので、プラスチックなどの成形品に塗布し、乾燥後、硬化することによって、帯電防止性ハードコート樹脂組成物として使用することができる。
【0046】
本発明の活性エネルギー線とは、活性種を発生する化合物(光重合開始剤)を分解して活性種を発生させることのできるエネルギー線と定義される。このような活性エネルギー線としては、可視光、紫外線(UV)、赤外線、X線、α線、β線、γ線等の光エネルギー線が挙げられる。ただし、一定のエネルギーレベルを有し、硬化速度が速く、しかも照射装置が比較的安価で、小型である点から、紫外線を使用することが好ましい。
【0047】
本発明の4級カチオン性ビニルモノマーを光硬化させる際は、光開始剤を添加しておく。光開始剤は、活性エネルギー線として電子線を用いる場合には特に必要はないが、紫外線を用いる場合には必要となる。光開始剤はアセトフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等の通常のものから適宜選択すればよい。光開始剤のうち、市販の光開始剤としてはチバ・スペシャルティーケミカルズ社製、商品名Darocure1116、Darocure1173、IRGACURE184、IRGACURE369、IRGACURE500、IRGACURE651、IRGACURE754、IRGACURE819、IRGACURE907、IRGACURE1300、IRGACURE1800、IRGACURE1870、IRGACURE2959、IRGACURE4265、IRGACURE TPO、UCB社製、商品名ユベクリルP36、などを用いることができる。
【0048】
本発明の4級カチオン性ビニルモノマーの帯電防止性や相溶性などの特性を阻害しない範囲で、顔料、染料、界面活性剤、ブロッキング防止剤、バインダー、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の他の任意成分を併用してもよい。
【0049】
本発明の帯電防止組成物を調製する際に、これらの組成成分の添加順序としては4級カチオン性ビニルモノマー及び/又は該モノマーを構成成分とするオリゴマーもしくはポリマー、反応性希釈剤及び/又は有機溶媒、多官能(メタ)アクリレート又は/及び多官能(メタ)アクリルアミド、光重合開始剤、その他の添加剤の順に行うことが好ましい。

【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
なお、以下の実施例、比較例において、帯電防止組成物の特性評価は、以下の方法により行った。
(1)4級塩の定量方法
電位差自動滴定装置(装置名:AT−610
京都電子工業株式会社製)を用いて、濃度0.1mol/Lの硝酸銀水溶液(和光純薬工業製)により滴定を行い、滴定量から第4級アンモニウム塩濃度を求める。
(2)塗布及び紫外線硬化
厚さ100μmのポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムをガラス製板(縦200×横200×厚さ5mm)の上に貼り付け、動かないように水平面に固定した。PETフィルムの先方の端に帯電防止ハードコート剤を帯状に滴下して、バーコーター(RDS60)で全体に均等な力がかかるように両端を押さえ、回転させずに同じ速さ(5cm/sec)で手前まで引いて塗布し、熱風乾燥機で80℃、3分の条件で溶媒を除去し、塗膜を得た。塗膜の付着状態を目視によって観察し、塗膜の形成性とべたつき性を評価した。
塗膜の形成性
◎:ハジキがなく、均一な塗布膜である;
○:ハジキが極めて僅にあるが、ほぼ均一な塗布膜である;
△:ハジキが幾分あるが、全体としてはほぼ均一な塗布膜である;
×:ハジキが多く、不均一な塗布膜である。

べたつき性
◎:ベタツキが全くない;
○:僅かにベタツキがある;
△:若干のベタツキがある;
×:明らかなベタツキがある。
(3)紫外線硬化
塗布面を上向きにして紫外線照射を行って硬化させ、帯電防止ハードコート膜を得た。紫外線硬化条件は、出力300W、単位当たり出力50W/cmの高圧水銀灯1本を設置した紫外線照射装置(オーク製作所 モデルOHD320M)を使用し、1秒当たりに紫外線エネルギーは10mJ/cmであるように試料板とランプの距離を調節した。塗膜の表面がベタつかなくなるまでに必要な照射時間を硬化時間として測定した。硬化後、各PETフィルム上の塗膜の透明性を目視によって観察し、下記方法により表面抵抗率測定、耐擦傷性試験、鉛筆硬度試験を行った。
硬化後塗膜の透明性
◎:透明で表面が平滑;
○:透明だが凹凸がある;
△:僅かな曇りや凹凸がある;
×:極度な曇りや凹凸がある
(4)表面抵抗率測定
型板 (縦110×横110mm) を用い、カッターナイフで帯電防止ハードコート膜を裁断し、温度25℃、相対湿度30%、60%と90%に調整した恒温恒室機に入れ、24時間静置し、表面抵抗率測定用試料を得た。JIS K 6911 に基づき、YOKOGAWA HEWLETT-PACKARD製HIGH RESISTANFE METER 4329Aを用いて測定を行った。
(5)耐擦傷性試験
スチールウールを#0000のスチールウールを用いて、200g/cmの荷重をかけながら帯電防止ハードコート膜の上で10往復させ、傷の発生の有無を評価した。
耐擦傷性評価
◎:膜の剥離や傷の発生がほとんど認められない;
○:膜にわずかな細い傷が認められる;
△:膜全面に筋状の傷が認められる;
×:膜の剥離が生じる。
(6)鉛筆硬度試験
ガラス製板(縦200×横200×厚さ5mm)の上に帯電防止ハードコート剤を帯状に滴下して、同様にバーコーター(RDS60)で全体に均等な力がかかるように両端を押さえ、回転させずに同じ速さ(5cm/sec)で手前まで引いて塗布し、熱風乾燥機で80℃、3分の条件で溶媒を除去した。得られた塗膜の塗布面を上向きにして紫外線照射を行って硬化させ、鉛筆硬度測定用試料を得た。JIS K 5400 に基づき、鉛筆硬度試験を行った。
【0052】
実施例及び比較例で使用した成分は、以下の通りである。
【0053】
〈4級カチオン性ビニルモノマーの合成〉
合成例1:
1Lの三つ口フラスコに、テトラフェニルホウ酸ナトリウム125g、脱イオン水400gを加え、攪拌しながら均一な溶液を調製した。該溶液を攪拌しながら、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライド塩水溶液(75%)(株式会社興人製「DMAPAA−Q」)100gを25℃で1時間を掛けて滴下し、同時に白色結晶状固形物が析出した。滴下終了後、さらに25℃で2時間攪拌し、結晶をろ過し、脱イオン水で洗浄、減圧下で乾燥した。目的の4級カチオン性ビニルモノマーアクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレートをサラサラした白色結晶として174g得た。電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度を求めたところ、該目的生成物の純度は100%であった。また、収率は98.6%であった。元素分析では、実測値(C:80.42%、H:7.95%、N:5.81%)が理論値(C:80.96%、H:7.84%、N:5.72%)と一致した。イオンクロマトグラフィー分析によりNaとClの含有量はそれぞれ700と400ppmであった。
【0054】
合成例2:
合成例1において、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライド塩水溶液(75%)に替えてN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートのメチルクロライド塩水溶液(79%)88gを用い、合成例1と同様に反応し、目的生成物アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレートをサラサラした白色結晶として170g得た。電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度を求めたところ、該目的生成物の純度は100%であった。また、収率は98.9%であった。元素分析では、実測値(C:80.14%、H:7.49%、N:5.3.08%)が理論値(C:80.65%、H:7.62%、N:2.94%)と一致した。イオンクロマトグラフィー分析によりNaとClの含有量はそれぞれ600と360ppmであった。
【0055】
合成例3
窒素雰囲気下で、1Lオートクレーブガラス容器にN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(興人製:DMAPAA)50g、イソプロパノール(IPA)120gを加え、内温25℃に調整し、撹拌しながらp−トルエンスルホン酸メチル60gを滴下し、4級化反応を実施した。1時間後反応液中の残存遊離アミン(残存DMAPAA)が0.2%以下になったところでテトラフェニルホウ酸ナトリウムの20%溶液548gを25℃で2時間を掛けて滴下し、同時に白色結晶状固形物が析出した。滴下終了後、さらに25℃で2時間攪拌し、結晶をろ過し、脱イオン水で洗浄、減圧下で乾燥した。目的生成物アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレートをサラサラした白色結晶として156g得た。電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度を求めたところ、該目的生成物の純度は100%であった。また、収率は99.4%であった。イオンクロマトグラフィー分析によりNaの含有量は950ppmであったが、Clは検出されなかった(1ppm未満)。
【0056】
合成例4
合成例3において、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに替えてN,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド54gを用い、合成例3と同様に反応し、目的生成物メタクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレートをサラサラした白色結晶として159g得た。電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度を求めたところ、該目的生成物の純度は100%であった。また、収率は99.2%であった。イオンクロマトグラフィー分析によりNaの含有量は910ppmであったが、Clは検出されなかった(1ppm未満)。
【0057】
合成例5
合成例3において、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに替えてN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート46gを用い、合成例3と同様に反応し、目的生成物アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレートをサラサラした白色結晶として159g得た。電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度を求めたところ、該目的生成物の純度は100%であった。また、収率は99.1%であった。イオンクロマトグラフィー分析によりNaの含有量は840ppmであったが、Clは検出されなかった(1ppm未満)。
【0058】
合成例6
合成例3において、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに替えてN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート50gを用い、合成例3と同様に反応し、目的生成物メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレートをサラサラした白色結晶として156g得た。電位差滴定で第4級アンモニウム塩濃度を求めたところ、該目的生成物の純度は100%であった。また、収率は99.2%であった。イオンクロマトグラフィー分析によりNaの含有量は890ppmであったが、Clは検出されなかった(1ppm未満)。
【0059】
実施例A−1
帯電防止ハードコート剤の作製
合成例1で合成したアクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート 14重量部をアセトニトリル120重量部に溶解してから、ペンタエリスリトールトリアクリレート(共栄社化学(株)社製:ライトアクリレートPE−3A)62重量部、、光開始剤として、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製、商品名Darocure1173 3重量部を加え、均一に混合し、紫外線硬化可能な帯電防止ハードコート剤を得た。その後、得られたハードコート剤を厚さ100μmのPETフィルムに塗装し、紫外線硬化を行い、帯電防止性ハードコートを作製した。
【0060】
実施例A−2〜12、比較例A−13〜20
表1と表2に記載の組成に変えた以外は実施例A−1とで同様に帯電防止ハードコートを作製、評価した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
実施例B−1
共重合体溶液の合成
撹拌翼、還流冷却器、ガス導入口を備えたフラスコに、合成例3で合成したアクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート 10重量部と2−エチルヘキシルアクリレート(EHA)10重量部、アゾイソブチロニトリル(AIBN)0.2重量部をアセトニトリル 60重量部に混合溶解し、窒素気流下70℃で8時間重合し、共重合体溶液(a)を得た。
4級塩ポリマー含有の帯電防止ハードコート剤の作製
共重合体溶液(a)5重量部に、ペンタエリスリトールトリアクリレート(共栄社化学(株)社製:ライトアクリレートPE−3A)とジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学(株)社製:ライトアクリレートDPE−6A)及び光開始剤として、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製、商品名Darocure1173 5重量部をイソプロピルアルコール(IPA)と
メチルエチルケトン(MEK)の1:1重量比の混合溶媒 120重量部に混合溶解して、紫外線硬化可能な級塩ポリマー含有の帯電防止ハードコート剤を得た。その後、得られたハードコート剤を厚さ100μmのPETフィルムに塗装し、紫外線硬化を行い、帯電防止性ハードコートを作製した。
【0064】
共重合体溶液の合成におけるモノマーの配合比を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
実施例B−2〜10、比較例B−7〜8
表3に記載の組成に変えた以外は実施例B−1とで同様に帯電防止性ハードコートを作製、評価した。
【表4】

【0067】
合成例と合成比較例の結果から、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートと塩化メチル又はスルホン酸エステルの4級化反応後、プロトン性の極性溶媒中で、テトラフェニルホウ酸ナトリウムとの金属塩交換反応が常温、常圧でも十分な速度で反応が進行し、重合などのトラブルが発生せず、高純度品を高収率で取得することができた。また、スルホン酸エステルで4級化される場合、得られた本発明の疎水性4級カチオン性ビニルモノマーには、ハロゲンイオンの混入がなく、透明性、耐湿性の高い均一な帯電防止塗膜を形成できる。実施例と比較例のUV硬化性と塗膜の帯電防止性評価結果から、塩素イオンの残存によるUV硬化の所要時間が長くなり、得られた塗膜がべとつき、透明性が悪く、また、それらの原因で均一な塗膜が得られず、帯電防止効果が低かった。さらに、本発明の4級カチオンモノマーは疎水性が高いので、帯電防止剤組成物中の多官能アクリレートなどの非極性成分との相溶性がよく、均一な塗膜が得られる。本発明の製造方法で得られた高品質新規4級カチオン性ビニルモノマーのみが、UV硬化に要するエネルギーが少なく、透明性がよく、高耐擦傷性、高硬度、高耐湿性と高耐加水分解性を併せ持つ、優れた帯電防止性能を有する帯電防止剤を提供できることが明らかであった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明してきたように、本発明の4級カチオン性ビニルモノマーは、常温、常圧でも十分な速度で高純度かつ高収率で製造することができる。また、ハロゲンフリー品が取得できるため、環境負荷が少ないと共に、他の帯電防止組成物及び有機溶媒との相溶性が良好であるため、この4級カチオン性ビニルモノマーからなる帯電防止組成物を用いて形成される帯電防止層は、帯電防止性、透明性、耐擦傷性、高硬度、耐湿性と耐加水分解性に優れる。本発明の4級カチオン性ビニルモノマーからなる帯電防止層は、紫外線硬化型樹脂組成物、粘着剤組成物等の樹脂にあらかじめ添加して使用する場合などに好適に用いることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される化合物である4級カチオン性ビニルモノマー。
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を、R及びRは各々独立に炭素数1〜3のアルキル基で互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基、またはベンジル基を表し、Yは酸素原子または−NH−を表し、Zは炭素数1〜3のアルキレン基を表す。)
【請求項2】
請求項1記載の4級カチオン性ビニルモノマーを構成成分として含むオリゴマー又はポリマー。
【請求項3】
請求項1記載の4級カチオン性ビニルモノマー及び/又は請求項2記載のオリゴマー若しくはポリマーからなる帯電防止剤。
【請求項4】
請求項3記載の帯電防止剤又は該帯電防止剤を含有する帯電防止組成物であって、請求項1記載の4級カチオン性ビニルモノマーを構成単位として0.1〜90重量%含有するもの。
【請求項5】
請求項3記載の帯電防止剤を含有する帯電防止組成物であって、さらに多官能(メタ)アクリレート及び/又は多官能(メタ)アクリルアミドを含有する帯電防止組成物。
【請求項6】
基材上に請求項3〜5いずれか一項に記載の帯電防止剤又は帯電防止組成物を塗布した後、活性エネルギー線又は熱により重合して形成されることを特徴とする帯電防止層。
【請求項7】
少なくとも片面に請求項6記載の帯電防止層を有することを特徴とする帯電防止フィルム。



【公開番号】特開2011−74216(P2011−74216A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227035(P2009−227035)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】