説明

4通路式多機能トルクコンバータ

【課題】インペラクラッチの両側における改良された差圧を備えた多機能トルクコンバータを提供する。
【解決手段】インペラクラッチ102と、ロックアップクラッチ150と、第1のチャネル114に接続された、インペラクラッチのための放圧室110と、第2のチャネル140に接続された、インペラクラッチのための加圧室112と、第3のチャネル158に接続された、ロックアップクラッチのための加圧室160と、第4のチャネル141に接続されたトーラス134とが設けられており、第2、第3及び第4のチャネルがトルクコンバータのための長手方向軸線を含む空間へ開放しており、該空間が、トランスミッションのための入力軸156を受容するように配置されており、第1のチャネルがトランスミッションのためのポンプハウジングにおけるラインに接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転駆動ユニット(自動車のエンジン等)と回転被駆動ユニット(自動車における変速トランスミッション等)との間で力を伝達するための装置における改良に関する。特に、本発明は、4つの通路と、トーラスを通る増大した冷却流と、インペラクラッチの両側の増大した差圧とを有する多機能トルクコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
トルクをトルクコンバータのためのカバーからタービンハブ又はその他の出力エレメントに伝達するために使用される、インペラクラッチ及びロックアップクラッチを備えたトルクコンバータ(多機能トルクコンバータ)のために、3通路構成が知られている。トルクコンバータモードにおける作動中、冷却油はオイルクーラからトルクコンバータのトーラスを通って循環させられる。通常、冷却流は、インペラクラッチのための放圧室をも通過する。あいにく、オイルクーラからの背圧は放圧室における圧力を増大させ、インペラクラッチの両側の差圧を減少させ、クラッチの動作に悪影響を与える。その結果、望ましくないことに冷却流が減じられなければならない及び/又は望ましくないことに加圧室における圧力が背圧をオフセットするために増大されなければならない。幾つかの構成における、冷却流は、トルクコンバータモードにおいて、閉鎖されたインペラクラッチを通過する。あいにく、望ましくないことにクラッチを通過することは冷却流を制限し、背圧問題を悪化させる。
【0003】
したがって、望ましくない背圧を低減しかつトルクコンバータのためのトーラスを通る冷却流を増大させるように構成された多機能トルクコンバータが長い間必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一般的な目的は、インペラクラッチの両側における改良された差圧を備えた多機能トルクコンバータを提供することである。
【0005】
本発明の別の目的は、トーラスを通る改良された冷却流を備えた多機能トルクコンバータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、広くは、係合されている時にトルクをトルクコンバータのための第1のカバーからインペラのためのシェルに伝達するように配置されたインペラクラッチと、係合されているときにトルクをトルクコンバータのための第2のカバーから出力ハブに伝達するように配置されたロックアップクラッチと、第1のチャネルに接続された、インペラクラッチのための放圧室と、第2のチャネルに接続された、インペラクラッチのための加圧室と、第3のチャネルに接続された、ロックアップクラッチのための加圧室と、第4のチャネルに接続されたトーラスとを備えるトルクコンバータを含む。第2、第3及び第4のチャネルは、トルクコンバータのための長手方向軸線を有する空間へ開放しており、空間は、トランスミッションのための入力軸を受容するように配置されている。第1のチャネルは、トランスミッションのためのポンプハウジングにおけるラインに接続されるように配置されている。好適な実施形態において、トルクコンバータは、トランスミッションのためのポンプに回転方向で結合されるように配置されており、ポンプハウジングにおけるラインはトランスミッションのための油溜めに通じている。
【0007】
第2及び第4のチャネルはトーラスを通る流体回路の一部を形成しており、回路はインペラクラッチをバイパスしている。好適な実施形態において、インペラクラッチが係合しているときに流体は放圧室から第1のチャネルを通って流出する。好適な実施形態において、トルクコンバータは、インペラシェルをカバーから離反させる弾性変形可能なエレメントを有する。インペラクラッチは、弾性変形可能なエレメントと、トーラスを流過する冷却油のための流量の減少とに応答して切断されるように配置されている。
【0008】
好適な実施形態において、ロックアップクラッチのための加圧室は、第3のチャネル以外はシールされており、トルクコンバータは、インペラクラッチのための加圧室と流体連通した、ロックアップクラッチのための放圧室を有している。
【0009】
本発明は、広くは、トルクコンバータにおいてインペラクラッチを作動させる方法をも含む。
【0010】
本発明のこれらの目的及び利点並びにその他の目的及び利点は、発明の好適な実施形態の以下の説明及び添付の図面及び請求の範囲から容易に分かるであろう。
【0011】
本発明の性質及び態様は、ここで、添付の図面に関連した発明の以下の詳細な説明により詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のトルクコンバータの部分的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
最初に、異なる図面における同じ参照符号は発明の同一の又は機能的に類似の構造エレメントを表していることが認識されるべきである。本発明は、現時点で好適な態様であると考えられるものに関して説明されているが、請求の範囲に記載された発明は、開示された態様に限定されないことが理解されるべきである。
【0014】
さらに、本発明は、説明された特定の方法、材料及び変化態様に限定されず、もちろん変化することがあることが理解されるべきである。ここで使用される用語は特定の態様のみを説明するためのものであり、添付の請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0015】
そうでないことが定義されない限り、ここで使用されている全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。ここで説明されたものと同様の又は均等のあらゆる方法、装置又は材料が発明の実施又は試験において使用されることができるが、好適な方法、装置及び材料がここで説明される。
【0016】
図1は、本発明のトルクコンバータの部分的な断面図である。トルクコンバータ100は、係合されているときにトルクをトランスミッション側カバー104から、インペラ108のためのシェル106に伝達するように配置されたインペラクラッチ102を有している。クラッチ102は、放圧室110及び加圧室112内の流体圧力と、その他の力発生エレメント(以下で説明される)とによって制御される。例えば、インペラクラッチは、加圧室内の圧力が、放圧室内の対抗する圧力又は力よりも大きな所定のレベルに達すると係合するように配置されている。放圧室はチャネル114と流体連通している、すなわち接続されており、放圧室内の流体(矢印116によって示されている)は放圧室からチャネル114を通って流出可能である。特に、流体は、インペラクラッチが係合しているときにチャネル114を通って放圧室から流出する。
【0017】
トルクコンバータは、トランスミッション(図示せず)のためのポンプハウジング118に接続されるように配置されている。トランスミッションのためのポンプのための部分119は、例えばポンプハブとこの部分との間の結合部122によってポンプハブ120に回転方向で結合されている。回転方向で結合、又は固定されているとは、部分とハブとが、2つのコンポーネントが一緒に回転するように、すなわち2つのコンポーネントが回転に関して固定されているように結合されていることを意味する。2つのコンポーネントを回転方向で結合することは、必ずしも他の方向での相対移動を制限しない。例えば、回転方向で結合された2つのコンポーネントは、スプライン結合を介して互いに対して軸方向に移動することができる。しかしながら、回転方向の結合は、他の方向での移動が必ず存在することを意味しないことが理解されるべきである。例えば、回転方向で結合された2つのコンポーネントは、互いに軸方向で固定されていることができる。回転方向の結合の前の説明は、以下の説明に当てはまる。
【0018】
チャネル114は、ポンプハウジング118におけるチャネル124と流体連通するように、若しくは接続されるように配置されている。チャネル124は、トランスミッションのための油溜め(図示せず)に接続されている。概して、チャネル124は、矢印126によって示されているように流体流れを可能にし、離反するシール128を回避するために油溜めに向かってほとんど又は全く背圧を有さない。すなわち、チャンバ110における流体は、公称抵抗を備えてチャンバからチャネル114及び124を通って油溜めへ押し出される。
【0019】
クラッチ102は、軸方向130でのコア132(インペラ108、トーラス134、及びタービン136を含む)の移動によって係合し、カバーとのシェル106の接触を生じる。この移動の結果、チャンバ110の容積が減じられる。しかしながら、チャンバにおける対抗する流体圧力は、チャネル114及び124を通るチャンバ110からの流体の流れによって実質的に排除され、上述の問題のうちの1つに対応する。特に、チャンバ内の圧力の減少は、クラッチ102の両側のより高い差圧を維持するのを助け、インペラクラッチのための加圧室137内の流体圧力の効率を向上させる。
【0020】
矢印138によって示された、トーラス134を通る冷却流は、トーラスの作動及びクラッチ102の滑りによって生ぜしめられた熱を除去するために必要とされている。すなわち、冷却油は、通路140を通ってトルクコンバータに流入し、通路141を通って流出する。トルクコンバータ100において反対方向の流れも可能であることが理解されるべきである。有利には、流れはクラッチ102をバイパスしている。すなわち、流れは、クラッチを通過しなければならないことによって制限されることはない。例えば摩擦材料143の多孔性による、係合したインペラクラッチを通過する冷却流体は、チャネル114及び124を通って排出される。チャネル140及び141は、トルクコンバータの中央に形成された空間へ開放している。空間142は、長手方向軸線145を有しており、トランスミッションのための入力軸156を受容するように配置されている。
【0021】
チャネル114及び124はチャンバ110から排出するためだけに使用されることができるので、トルクコンバータは、例えばトルクコンバータをアイドル切断モードにおいて作動させるためにインペラクラッチを切断するために弾性変形可能なエレメント146を有している。エレメント146はインペラシェルをカバー104から離れる方向148へ付勢する。コアに方向130に加わる力が所定の力より小さい場合、例えばトーラスを通る冷却流が減じられた場合(加圧室内の流体圧力を減じる)、エレメント146はインペラクラッチを切断する。エレメント146は、技術分野において知られたあらゆるこのようなエレメント、例えばばねであることができる。
【0022】
トルクコンバータ100は、係合された場合にトルクをカバー152からタービンハブ154へ伝達するように配置されたロックアップクラッチ150をも有している。クラッチ150はハブ154に回転方向で結合されており、ハブ154は、トランスミッションのための入力軸156に回転方向で結合されている。チャネル158は、ロックアップクラッチのための加圧室160に流体を供給しかつこの加圧室から流体を排出するために使用される。チャネル158は空間142にも開放している。すなわち、トルクコンバータ100は4通路式(チャネル114,140,141,158)装置である。好適な実施形態において、ロックアップクラッチのための放圧室162は、インペラクラッチのための加圧室と流体連通している。技術分野において知られているように、ロックアップクラッチは、チャンバ160と162との差圧に応答して作動する。別の好適な実施形態において、トルクコンバータはダンパ164を有しており、カバー152は突起166によってエンジン(図示せず)に結合されている。さらに別の好適な実施形態は、チャンバ160は、例えばシール168及び170によって、チャネル158以外はシールされている。
【0023】
トルクコンバータ100は、図示されたエレメント及び構成に限定されず、エレメント及び構成のその他の組み合わせが、請求の範囲に記載された発明の精神及び範囲に含まれることが理解されるべきである。
【0024】
本発明は、トルクコンバータにおけるインペラクラッチを作動させる方法をも有する。この方法は、明瞭にするためにステップの連続として示されているが、明らかに述べられない限り、順序が連続から推測されるべきではない。第1のステップにおいて、流体は、オイルクーラから、トルクコンバータにおける第1及び第2のチャネルの間を流れ、トルクコンバータのためのトーラスを通り、第1及び第2のチャネルは、インペラクラッチのための加圧室と、トーラスとに開放している。第2のステップにおいて、流れる流体はインペラクラッチをバイパスする。第3のステップにおいて、流体は、インペラクラッチのための放圧室から、トランスミッションのためのポンプハウジングにおけるラインを通って排出される。第4のステップにおいて、インペラクラッチが係合させられる。第5のステップにおいて、トルクが、トルクコンバータのためのカバーからインペラクラッチを介してインペラのためのシェルに伝達される。好適な実施形態において、ポンプハウジングにおけるラインは、トランスミッションのための油溜めに通じている。
【0025】
好適な実施形態において、第6のステップにおいて、弾性変形可能なエレメントを用いて力がインペラクラッチに加えられる。第7のステップにおいて、トーラスを通る流体の流れが減じられる。第8のステップにおいて、インペラクラッチが切断される。
【0026】
すなわち、本発明の目的は効率的に達成されるが、発明に対する変更は当業者に容易に明らかであるべきであり、これらの変更は、請求の範囲に記載された発明の精神及び範囲に含まれる。前記説明は本発明の例であり、制限的に考えられるべきではない。したがって、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく本発明のその他の実施形態が可能である。
【符号の説明】
【0027】
100 トルクコンバータ、 102 インペラクラッチ、 104 トランスミッション側カバー、 106 シェル、 108 インペラ、 110 放圧室、 112 加圧室、 114 チャネル、 116 矢印、 118 ポンプハウジング、 119 部分、 120 ポンプハブ、 122 結合部、 124 チャネル、 126 矢印、 128 シール、 130 軸方向、 132 コア、 134 トーラス、 136 タービン、 137 加圧室、 138 矢印、 140,141 チャネル、 142 空間、 143 摩擦材料、 145 長手方向軸線、 146 弾性変形可能なエレメント、 150 ロックアップクラッチ、 152 カバー、 154 タービンハブ、 156 入力軸、 158 チャネル、 160 加圧室、 162 放圧室、 164 ダンパ、 166 突起、 168,170 シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータにおいて、
係合しているときにトルクをトルクコンバータのための第1のカバーからインペラのためのシェルに伝達するように配置されたインペラクラッチと、
係合しているときにトルクをトルクコンバータのための第2のカバーから出力ハブに伝達するように配置されたロックアップクラッチと、
第1のチャネルに接続された、インペラクラッチのための放圧室と、
第2のチャネルに接続された、インペラクラッチのための加圧室と、
第3のチャネルに接続された、ロックアップクラッチのための加圧室と、
第4のチャネルに接続されたトーラスとが設けられており、第2、第3及び第4のチャネルがトルクコンバータのための長手方向軸線を含む空間へ開放しており、該空間が、トランスミッションのための入力軸を受容するように配置されており、第1のチャネルがトランスミッションのためのポンプハウジングにおけるラインに接続されていることを特徴とする、トルクコンバータ。
【請求項2】
トルクコンバータがトランスミッションのためのポンプに回転方向で結合されるように配置されており、ポンプハウジングにおけるラインがトランスミッションのための油溜めに通じている、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項3】
第2及び第4のチャネルがトーラスを通る流体回路の一部を形成しており、該回路がインペラクラッチをバイパスしている、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項4】
インペラクラッチが係合しているとき流体が放圧室から第1のチャネルを通って流出する、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項5】
インペラシェルをカバーから離れる方向に付勢する弾性変形可能なエレメントが設けられている、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項6】
インペラクラッチが、弾性変形可能なエレメントの付勢と、トーラスを流過する冷却油の流量の減少とに応答して切断されるように配置されている、請求項5記載のトルクコンバータ。
【請求項7】
ロックアップクラッチのための加圧室が第3のチャネル以外はシールされている、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項8】
インペラクラッチのための加圧室と流体連通したロックアップクラッチのための放圧室が設けられている、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項9】
トルクコンバータにおいてインペラクラッチを作動させる方法において、
流体をオイルクーラからトルクコンバータにおける第1及び第2のチャネルの間及びトルクコンバータのためのトーラスを通って流れさせるステップを有しており、第1及び第2のチャネルがインペラクラッチのための加圧室とトーラスとにそれぞれ開放しており、
流れる流体でインペラクラッチをバイパスするステップを有しており、
トランスミッションのためのポンプハウジングにおけるラインを通じてインペラクラッチのための放圧室から流体を排出するステップを有しており、
インペラクラッチを係合させるステップを有していることを特徴とする、トルクコンバータにおいてインペラクラッチを作動させる方法。
【請求項10】
トルクをトルクコンバータのためのカバーからインペラクラッチを介してインペラのためのシェルに伝達するステップを有する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
ポンプハウジングにおけるラインがトランスミッションのための油溜めに通じている、請求項9記載の方法。
【請求項12】
弾性変形可能なエレメントを用いてインペラクラッチに力を加えるステップと、
トーラスを通る流体の流れを減じるステップと、
インペラクラッチを切断するステップとを有する、請求項9記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−150548(P2009−150548A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−322454(P2008−322454)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(390009070)ルーク ラメレン ウント クツプルングスバウ ベタイリグングス コマンディートゲゼルシャフト (236)
【氏名又は名称原語表記】LuK Lamellen und Kupplungsbau  Beteiligungs KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 3, D−77815 Buehl, Germany