説明

4,4−ジ置換シクロヘキサンプロパン酸の立体選択的合成

式(1):


(式中、RはH又はアルカリ金属を表し、Arは4−クロロフェニルを表し、Arは2,5−ジフルオロフェニルを表す)の化合物の立体選択的合成経路を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成有機化学の分野であり、特に有用な治療特性をもち、治療特性をもつ別の化合物の合成における中間体である特定類の4,4−ジ置換シクロヘキサンプロパン酸の新規合成経路に関する。
【背景技術】
【0002】
WO03/018453に開示されているように、特定類のシクロヘキサン誘導体はγ−セクレターゼによるアミロイド前駆体蛋白質(APP)からβ−アミロイドペプチドへのプロセシングの阻害剤としての活性をもつことが分かっている。β−アミロイドの分泌はアルツハイマー病の発症と進行に主要な役割を果たすと考えられているので、前記シクロヘキサン誘導体はアルツハイマー病の治療及び/又は予防に有用である。
【0003】
上記類のシクロヘキサン誘導体としては、シクロヘキサンプロパン酸と、シクロヘキシル環の4位の炭素原子がアリール又はヘテロアリール基及びアリールスルホニル又はヘテロアリールスルホニル基に結合したその誘導体である塩、エステル及びアミドが挙げられる。前記シクロヘキサンプロパン酸はプロパン酸基とアリール又はヘテロアリールスルホニル基がシクロヘキサン環に対してシス又はトランスに配置された2種類の立体異性体形態で存在する。シス異性体のみが必要な生物活性をもつ。WO03/018453及びUS2003/0114496に開示されている合成経路は適当な4,4−ジ置換シクロヘキサノンをイリドと縮合し、得られたオレフィンを還元するものである。所望シス異性体の単離には、大規模化できない分離法や、工場規模の製造が不経済になる高価な不斉還元剤とエネルギー集約的低温条件を使用する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、大規模化することができる上記シクロヘキサンプロパン酸の効率的な立体選択的合成が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によると、式I:
【0006】
【化10】

(式中、RはH又はアルカリ金属を表し、Arは4−クロロフェニルを表し、Arは2,5−ジフルオロフェニルを表す)の化合物の製造方法であって、
(a)式(2)のシス−スルフィドと式(3)のトランス−スルフィド:
【0007】
【化11】

の混合物に4−クロロベンゼンチオールを加え、前記スルフィド混合物が部分的に可溶性である酸性媒体中で撹拌し、式(2)のシス−スルフィドを優先的に結晶化させる段階と;
(b)式(2)のシス−スルフィドを回収する段階と;
(c)式(2)のシス−スルフィドを対応するスルホンに酸化する段階と;場合により
(d)段階(c)の生成物をアルカリで中和する段階を含む方法が提供される。
【0008】
Rの適切な例としてはH、Na、K及びLiが挙げられるが、RはH又はNaが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記方法の主要な段階はスルフィド基とプロパン酸基が必要なシス配置に配置された式(2)のスルフィドの単離である。その後、WO03/018453に記載されているようにスルフィド基を慣用手段により必要なスルホンに酸化し、(必要に応じて)プロパン酸基を適当なアルカリで中和することによりナトリウム塩等の対応するアルカリ金属塩、又は適当なエステルもしくはアミド誘導体に変換することができる。
【0010】
式(2)のシス−スルフィドは多様な溶媒に対する溶解度がそのトランス異性体(3)よりも有意に低いため、2種の異性体の混合物から優先的に結晶化できることが意外にも判明した。更に、異性体は式(4):
【0011】
【化12】

のオレフィンを介して酸性条件下で相互変換すると考えられる。従って、上記方法の段階(a)によると、スルフィド(2)及び(3)の混合物を酸性媒体中で過剰のARSH(即ち4−クロロベンゼンチオール)の存在下に撹拌すると、(3)から(2)へのほぼ定量的な変換が得られ、後者が高純度状態で結晶化する。
【0012】
酸性媒体の種類と容量は当初のスルフィド混合物を相当程度まで溶解できるように選択しなければならず、そうしないと、異性体の相互変換は実用不能に遅くなる(又は行われなくなる)。一般に、酸性媒体に対するスルフィド混合物の溶解度が増すにつれて相互変換速度は増すが、結晶物の収率が低下し、溶液中に有意量の生成物が残留する場合がある。初期溶解度が約0.1〜1.0%w/vであれば適切な折衷が得られるが、必要に応じてこの範囲外の値を使用することもできる。
【0013】
系に過剰の4−クロロベンゼンチオールを加えると、オレフィン(4)の平衡濃度が低下し、従って、スルフィド(2)の収率が増加する。少なくとも所定溶媒中では、過剰の4−クロロベンゼンチオールが存在すると、スルフィド(2)及び(3)の溶解度及び/又はスルフィド(2)及び(3)の溶解度差も増加する。過剰の4−クロロベンゼンチオールの量は重要ではないが、約2〜3モル当量が一般に使用される。
【0014】
1態様では、酸性媒体は溶媒と酸を含む。原則として、トランス−スルフィド(3)の溶解度のほうが高い任意溶媒を使用することができる。例としては、n−ヘプタン、メチルシクロヘキサン、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロトルエン、ヘキサフルオロプロパン−2−オール、アセトニトリル及びその混合物が挙げられる。他の溶媒も簡単な実験により確認できる。特に好ましい溶媒としては、ヘキサフルオロプロパン−2−オールと別の過フッ素化溶媒(例えばペルフルオロヘキサン又は過フッ素化2−ブチルテトラヒドロフラン(FC−75))の混合物、例えばヘキサフルオロプロパン−2−オールとFC−75の1:1v/v混合物が挙げられる。
【0015】
酸は一般にスルホン酸や過フッ素化カルボン酸等の強有機酸である。好ましい酸としては、トリフルオロ酢酸、ベンゼンスルホン酸、樟脳スルホン酸及び炭素原子の1個以上が場合により過フッ素化されていてもよいC1−4アルキルスルホン酸が挙げられる。特に好ましい酸としては、トリフルオロ酢酸(TFA)、トリフルオロメタンスルホン酸(トリフリック酸)及びメタンスルホン酸(MSA)が挙げられる。酸の含有量は一般にトリフリック酸の場合には(スルフィド混合物を基にして)約10モル%であり、一般にMSAの場合には約25モル%である。必要に応じてもっと多量に使用することもできるが、特に有利ではない。
【0016】
第2の態様では、酸性媒体は主に酸自体から構成され、必要に応じてスルフィドの溶解度を適当なレベルに調整するように水で希釈する。本態様で使用するのに好ましい酸はMSAであり、例えば約5〜約15%v/vの水分、好ましくは約9〜約11%v/vの水分を含有する。
【0017】
スルフィド(2)及び(3)の混合物を好ましくは酸性媒体中で少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも10時間(例えば一晩)撹拌する。前記撹拌は周囲温度又は高温で実施することができる。ヘキサフルオロプロパン−2−オールと別の過フッ素化溶媒の混合物を酸性媒体として使用する場合には、周囲温度で一晩撹拌すると適切である。水性MSA溶媒を酸性媒体として使用する場合には、約35〜45℃で一晩撹拌すると適切である。
【0018】
(必要に応じて)冷却後に式(2)のシス−スルフィドを例えば濾過により回収する。必要に応じて濾液を回収して再使用してもよい。これは酸性媒体が1種以上の高価なフッ素化溶媒を含む場合に重要であると思われる。濾過の代用として、酸性媒体に対して不混和性の溶媒で抽出することによりシス−スルフィド(2)を回収してもよい。例えば、酸性媒体が水性MSAである場合には、酢酸エチル又は酢酸イソプロピルで抽出してもよく抽出液を次に蒸発乾涸させることによりスルフィドを単離することができる。シス−スルフィドを回収する前に、混合物をスルフィドの貧溶媒で希釈し、結晶化を更に助長してもよい。例えば、含水率5〜15%v/vのMSAを酸性媒体として使用する場合には、シス−スルフィドの回収前にほぼ等容量の水で媒体を希釈すると有利である。こうして得られた材料は一般に90%を上回る純度である。必要に応じて、(例えばアセトニトリル又は別の溶媒系から)再結晶により更に精製すると、トランス異性体(3)を実質的に含まないシス−スルフィド(2)が得られる。
【0019】
本発明の方法の段階(c)、即ちシス−スルフィド(2)を対応するスルホンに酸化する段階はスルフィドからスルホンへの変換に慣用的に使用されている酸化剤の任意のもの(例えば過酸化水素、ペルオキシ酢酸又はm−クロロペルオキシ安息香酸)により実施することができる(例えば、Trost and Fleming,Comprehensive Organic Synthesis,1993,Vol 7,766参照)。好ましい方法は過酸化水素約3当量をスルフィドの酢酸溶液に加えた後に約55〜60℃で約5時間加熱し、周囲温度まで冷却し、水で希釈してスルホン生成物を沈殿させる。
【0020】
本発明の方法の任意段階(d)、即ちカルボン酸基の中和は公表手順(例えばUS2003/0114496)に従って実施することができる。適切な方法は2M水酸化ナトリウム水溶液を酸のプロパン−2−オール溶液に加えた後に溶媒を蒸留する。
【0021】
本発明の方法の段階(a)で使用されるシス−スルフィドとトランス−スルフィドの混合物は適当な任意手段により生成することができる。本発明の1態様では、前記混合物は4−クロロベンゼンチオールを式(4):
【0022】
【化13】

(式中、Arは2,5−ジフルオロフェニルを表す)のオレフィンと反応させることにより生成される。前記反応はシス−スルフィドとトランス−スルフィドの混合物がin situ生成されるように、後に本発明の方法の段階(a)で使用される酸性媒体中で実施すると有利である。
【0023】
本発明の別の態様では、前記混合物は4−クロロベンゼンチオールを式(5):
【0024】
【化14】

(式中、Arは2,5−ジフルオロフェニルを表す)のカルビノールと反応させることにより生成され、前記反応はルイス酸の存在下で実施され、スルフィド混合物は本発明の方法の段階(a)を実施する前に単離される。原則として、公知ルイス酸の任意のものを使用することができる(例えば “Lewis Acids in Organic Synthesis”,ed.Yamamoto,pub.Wiley,2000に開示されているもの)。好ましい例としてはスカンジウムトリフラート、三フッ化ホウ素−ジエチルエーテル、二塩化エチルアルミニウム、ヨウ化亜鉛、三塩化アルミニウム、四塩化錫、塩化インジウム(II)、塩化インジウム(III)、四塩化チタン、二塩化メチルアルミニウム及び亜鉛トリフラートが挙げられ、三フッ化ホウ素−ジエチルエーテルが特に好ましい。反応はジクロロメタンやアセトニトリル等の非プロトン性溶媒中で低温(例えば約−10〜−15℃)で実施することができる。
【0025】
当業者に自明の通り、式(5)により表されるカルビノールはシス及びトランス異性体として存在する。構造式(5)は純化合物又は任意割合の混合物として前記異性体の両者を含む。どちらの異性体も本発明では同等に有用であり、カルビノール(5)は一般にシス異性体とトランス異性体の約1:1混合物として生成及び使用される。
【0026】
本発明の好ましい1態様では、シス−スルフィドとトランス−スルフィドの前記混合物は後に本発明の方法の段階(a)で使用される酸性媒体中で4−クロロベンゼンチオールを式(5)のカルビノール混合物と反応させることにより生成される。
【0027】
本発明による典型的手順では、4−クロロベンゼンチオールを適当な反応容器に仕込み、約40℃まで加熱した場合にチオールの大部分を溶解するために十分な量のメタンスルホン酸(例えばチオール1モル当たり酸約2.4リットル)を加える。次に、約30〜40℃の温度を維持するように冷却しながら撹拌下に(酸に対して約8%〜約12%v/vの)水をゆっくりと加える。その後、カルビノール(5)及び/又はオレフィン(4)(チオールに対して約0.8〜0.9当量)を混合物に加える。この結果、カルビノールが迅速に消費され、オレフィン(4)及びシス−スルフィド(2)とそのトランス異性体を含む混合物が形成される。上記反応混合物をエージングさせると、所望シス異性体が選択的に蓄積し、水で希釈し、濾過し、洗浄すると、純シス−スルフィド(2)>90%を含有する粗生成物が高収率で得られる。エージング段階前に少量の純シス−スルフィド(2)をシードとして加えることにより再現性が助長される。このプロトコールを使用すると、粗生成物を1回再結晶させるだけで純度>99%の生成物を定常的に獲得可能である。シード材料の量は重要ではなく、カルビノール(5)及び/又はオレフィン(4)に対して約1重量%で十分である。エージングは少なくとも1時間、好ましくは少なくとも3時間、最も好ましくは少なくとも10時間(例えば一晩)実施する。エージングは周囲温度で実施することもできるが、例えば約35℃〜約45℃の中高温で撹拌により実施することが好ましい。
【0028】
エージング期間後に混合物を周囲温度まで冷却し、例えば水で希釈し、濾過し、粗固体生成物を更に水で希釈することにより粗生成物を単離する。あるいは、希釈水性混合物を非水混和性有機溶媒(例えば酢酸エチル又は酢酸イソプロピル)で抽出した後、前記溶媒を蒸発乾涸しても、同一粗生成物が得られる。アセトニトリル等の適当な溶媒から再結晶させることにより粗シス−スルフィド(2)を更に精製することが好ましい。
【0029】
本発明の別の態様では、式(5)のカルビノール混合物は、
(a)カルボン酸(6a)をマグネシウム塩(6b):
【0030】
【化15】

に変換し;
(b)(6b)をAr−M’と反応させ;
(c)得られた生成物を酸で処理することにより製造され、
前記式中、M’はLi、MgX又はCeXを表し;XはCl、Br又はIを表し;Arは2,5−ジフルオロフェニルを表す。
【0031】
XはClを表すことが好ましい。M’はLiを表すことが好ましい。
【0032】
Ar−M’と反応させる前に、例えばRMgX(式中、RはC1−6アルキル、好ましくはメチル、エチル、n−プロピル又はイソプロピル等のC1−4アルキル(特にイソプロピル)を表し、XはCl、Br又はI、好ましくはClを表す)1当量で処理することによりカルボン酸(6a)をマグネシウム塩(6b)に変換する。この方法はエーテル溶媒(好ましくはTHF)中で低温、例えば−60℃未満で窒素又は他の不活性ガス下に実施することができる。あるいは、例えばTHF中でトリエチルアミン等の塩基の存在下に(6a)を固体MgXで処理してもよい。
【0033】
試薬Ar−M’は慣用手段により製造することができる。例えば、−60℃未満で窒素下にTHF中、Ar−HをN,N,N,N−テトラメチルエチレンジアミン1当量の存在下に僅かに過剰のn−ブチルリチウムで処理すると、本方法で使用するのに適したAr−Liの溶液が得られる(Ongら,J.Med.Chem.1981,24,74及びBridgesら,J.Org.Chem.1990,55,773参照)。同様に、−10℃未満で窒素下にTHF中、Ar−BrをRMgX(式中、R及びXは上記と同義であり、好ましい例についても上記の通りである)1当量で処理しても本方法で使用するのに適したAr−MgXの溶液が得られる(Abarbriら,Tetrahedron Lett.1999,40,7449参照)。Ar−MgXのTHF溶液を約−10〜0℃のTHF中のCeXのスラリーに加えると、本方法で使用するのに適したAr−CeXの溶液が得られる。
【0034】
(6b)とAr−M’の反応は一般に約−60〜−20℃(M’=Liの場合)又は約−30〜−20℃(M’=MgXの場合)又は約0℃(M’=CeXの場合)でTHF中で実施される。慣用ワークアップ(例えば低温で酢酸によりクエンチし、周囲温度まで加温し、希塩酸で希釈し、トルエンで抽出)により、式(5)の粗カルビノール混合物が得られ、(例えばトルエンとヘプタンの混合物からの)再結晶により更に精製してもよい。
【0035】
化合物(6a)は文献公知である(Adkinsら,J.Am.Chem.Soc.,1938,60,1467;及びAdkinsら,J.Am.Chem.Soc.,1940,62,2422)。この化合物は約70℃で酢酸イソプロピル中、Rh/Al上で3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン酸又は3−(4−ヒドロキシフェニル)プロペン酸を水素化した後、得られたシクロヘキサノールを酢酸イソプロピル中、RuClと酢酸の存在下にNaOClで酸化することにより簡便に製造される。本発明の方法の上記及び他の全段階の詳細は下記実施例に記載する。
【0036】
式(2)、式(4)及び式(5)の化合物はそれ自体新規であり、夫々本発明の別の側面を構成する。式(4)の化合物は式(5)の化合物を水性メタンスルホン酸及びAr−SHと混合する時にin situ形成される。しかし、所望により、ジクロロメタン等の非プロトン性溶媒中、Ar−SHの不在下にカルビノール(5)を酸(例えばトリフルオロ酢酸)で処理することにより純形態で単離することができる。
【0037】
本明細書に開示する新規方法の生成物はγセクレターゼによるAPPのプロセシングの阻害剤としての活性をもつため、β−アミロイドの過剰分泌及び/又は沈着を伴う疾患、特にアルツハイマー病の治療又は予防に有用である。
【0038】
本発明の方法により形成された生成物は前記生成物又はその医薬的に許容可能な塩の1種以上と医薬的に許容可能なキャリヤーを含有する医薬組成物を製造するために使用することができる。好ましくはこれらの組成物は経口、非経口、鼻腔内、舌下もしくは直腸投与用、又は吸入もしくは吸気による投与用として、タブレット、ピル、カプセル、散剤、顆粒剤、滅菌非経口溶液もしくは懸濁液、定量噴霧式エアゾールもしくは液体スプレー、滴剤、アンプル、経皮パッチ、自己注射器又は座剤等の単位用量形態である。タブレット等の固体組成物を製造するには、主活性成分を例えばWO01/70677に記載されているような当業者に公知の慣用錠剤化成分等の医薬キャリヤーと混合し、単位用量形態に成形する。典型的な単位用量形態は活性成分1〜100mg、例えば1、2、5、10、25、50又は100mgを含有する。組成物のタブレット又はピルは例えばWO01/70677に記載されているように、長時間作用の利点を付与する剤形を提供するようにコーティング又は他の方法で混合することができる。
【0039】
組成物を経口又は注射投与するように配合することができる液体形態としては、WO01/70677に記載されているように、水溶液、適当なフレーバー入りシロップ、水性又は油性懸濁液、及び食用油によるフレーバー入りエマルションが挙げられる。
【0040】
アルツハイマー病を治療又は予防するためには、活性成分の適切な用量レベルは約0.01〜250mg/kg/日、好ましくは約0.05〜100mg/kg/日、特に約0.1〜50mg/kg体重/日である。化合物は1日1〜4回のレジメンで投与することができる。しかし、場合によっては、これらの範囲外の用量を使用することもできる。
【0041】
γ−セクレターゼに対する関連化合物の活性レベルを測定するためのアッセイはWO01/70677とBiochemistry,2000,39(30),8698−8704に記載されている。J.Neuroscience Methods,2000,102,61−68も参照されたい。
【実施例1】
【0042】
3−(4−オキソ−シクロヘキシル)プロパン酸
3−(4−ヒドロキシフェニル)プロペン酸(3.33Kg)、5%Rh/Al触媒(248g)及び酢酸イソプロピル(IPAc)(30L)の混合物を70℃で12時間水素化(200psi)した後、冷却し、濾過した。
【0043】
得られた3−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン酸溶液にRuCl(42g)と酢酸(5.6Kg)を加えた。5℃まで冷却後、温度を5℃に維持しながらNaOCl水溶液(10−13%,26Kg)をゆっくりと撹拌下に加えた。5℃で更に3時間撹拌後、3N HCl(20L)とIPAc(15L)を加え、層分離し、水層をIPAc(2x20L)で抽出した。有機層を合わせて2M NaHSO水溶液(10L)で洗浄し、乾燥(MgSO)し、活性炭で処理し、濾過した。得られた溶液を濃縮し、溶媒をヘプタン:IPAc 2:1(20L)に交換した。この溶液にシーディングし、溶媒を9:1ヘプタン:IPAcに交換すると生成物が白色固体として得られ、これを集め、ヘプタンで洗浄し、窒素下に乾燥した。
【実施例2】
【0044】
シス及びトランス−3−[4−(2,5−ジフルオロフェニル)−4−ヒドロキシシクロヘキシル]プロパン酸(方法1)
N,N,N,N−テトラメチルエチレンジアミン(8.8ml,57.8mmol)をTHF(70mL)で希釈し、N(3x)でパージした後、−70℃まで冷却した。次に、温度を−60℃未満に維持しながらn−ブチルリチウム(25.2mL,57.8mmol)を滴下した。10分間−65℃でエージング後、温度を−60℃未満に維持しながら1,4−ジフルオロベンゼン(6g,5.4mL,52.6mmol)を滴下し、得られた溶液を−60℃で90分間エージングさせた。
【0045】
別の容器で、THF(80mL)中の3−(4−オキソ−シクロヘキシル)プロパン酸(5.38g,31.6mmol)をN(3x)でパージした後、−65℃まで冷却した。温度を−60℃未満に維持しながら塩化イソプロピルマグネシウム(THF中2M)(15.5mL,31.0mmol)を30分間かけて滴下した。得られた溶液を−10℃まで加温した後、温度を−60℃未満に維持しながら、上記のように調製したアリールリチウム溶液へゆっくりと加えた。添加が完了したら、温度を−20℃までゆっくりと上昇させた。酢酸(6mL,104mmol)を0℃未満で滴下することにより粘稠スラリーをクエンチし、周囲温度まで上昇させた。2M HCl(140mL)を反応混合物に加えた後、トルエン(140mL)を加えた。層分離し、有機層をHO(1x100mL)で洗浄した。
【0046】
減圧蒸発乾涸すると、粗生成物〜13gが得られた。これを80℃でトルエン(45mL)に再溶解した後、45℃まで放冷し、シーディングすると、この時点でシードベッドが形成された。45℃でヘプタン(45mL)を30分間滴下した後、スラリーを周囲温度まで放冷した。19時間後に、スラリーを濾過し、2:1ヘプタン:トルエン(15ml)に続きヘプタン(15ml)で洗浄し、50℃で減圧乾燥した。
【0047】
方法2
1−ブロモ−2,5−ジフルオロベンゼン(157.3g,0.815mol)をTHF(500mL)で希釈し、N(3x)でパージした後、−30℃まで冷却した。次に、温度を−10℃未満に維持しながら塩化イソプロピルマグネシウム(THF中2.0M)(400mL,0.80mol)を滴下した。得られた2,5−ジフルオロフェニルマグネシウムグリニャールの不透明溶液を1.0時間−10℃でエージングさせた。
【0048】
別の容器で、THF(1000mL)中の3−(4−オキソ−シクロヘキシル)−プロピオン酸(85.1g,0.50mol)をN(3x)でパージした後、−58℃まで冷却した。温度を−55℃未満に維持しながら塩化イソプロピルマグネシウム(THF中2.0M)(240mL,0.48mol)を滴下した。得られた溶液を0.5時間−55〜−50℃でエージングさせた後、15分間かけて−30℃まで加温し、この温度に更に0.5時間維持した。温度が−30〜−20℃に維持されるように、−30℃まで冷却したジフルオロフェニルマグネシウムグリニャール溶液にこの溶液をゆっくりと加えた。得られた粘稠スラリーを0.75時間−10℃未満でエージングさせた。混合物を5℃未満で酢酸(86mL,1.50mol)によりクエンチし、10℃まで加温した後、1M HCl(750mL)とトルエン(750mL)で処理し、25℃で10分間エージングさせた後、層分離した。有機層をHO(1x1250mL)で洗浄した後、1M NaOH(1250mL)で抽出した。NaOH層にトルエン(1500mL)を加えて撹拌した後、22℃で2M HCl(700mL)を加え、混合物を5分間撹拌した。トルエン層をHO(2x1000mL)で洗浄した後、濾過し、減圧濃縮乾涸した。粗生成物を方法1に記載したように精製した。
【実施例3】
【0049】
シス−及びトランス−3−[4−(4−クロロフェニル)チオ−4−(2,5−ジフルオロフェニル)シクロヘキシル]プロパン酸
ジクロロメタン(46ml)中の4−クロロベンゼンチオール(15.67g,108mmol)を窒素下に−15℃まで冷却し、三フッ化ホウ素−ジエチルエーテル(14.3g,101mmol)で処理した。温度を−9〜−15℃に維持しながら、実施例2からのカルビノール混合物(22g,77mmol)のジクロロメタン(245ml)溶液をゆっくりと加えた。更に2時間撹拌後、溶媒を蒸発させ、アセトニトリルに交換し、これも蒸発させた。残渣をアセトニトリル(30ml)でスラリー化し、水(100ml)を加えた。得られた固体を濾過し、水洗し、40℃で減圧乾燥し、ヘプタンから再結晶させた。HPLC分析した処、シス異性体とトランス異性体の1:1混合物であった
【実施例4】
【0050】
シス−3−[4−(4−クロロフェニル)チオ−4−(2,5−ジフルオロフェニル)シクロヘキシル]プロパン酸
実施例2からの生成物(100mg)と4−クロロチオフェノール(70mg)をヘキサフルオロプロパン−2−オール(0.5ml)とFC−75(0.5ml)の混合物に加えた後、トリフリック酸(8μl)を加えた。得られたスラリーを周囲温度で一晩撹拌した後、濾過した。固体生成物をHPLC分析した処、シス異性体98.5%とトランス異性体1.5%の混合物が得られた。
【実施例5】
【0051】
シス−3−[4−(4−クロロフェニル)チオ−4−(2,5−ジフルオロフェニル)シクロヘキシル]プロパン酸
30〜40℃の温度を維持するように冷却しながら、4−クロロチオフェノール(65.0g,0.449mol)とメタンスルホン酸(1.07L)の混合物に窒素下で撹拌下に水(118ml)をゆっくりと加えた。実施例2からのカルビノール(106.8g,0.374mol)を一度に加え、10分後に精製シス−スルフィド1gをシードとして加えた。混合物を一晩36〜42℃で撹拌し、冷却し、22〜39℃の温度を維持するように引き続き冷却しながら、水(1.07L)をゆっくりと加えて希釈した。更に30分間エージング後に白色固体を濾取し、水洗し、40℃で減圧乾燥した。粗生成物をアセトニトリル(生成物100g当たり約300ml)でスラリー化し、完全に溶解するまで加熱還流した後、放冷した。得られた結晶物を集め、更にアセトニトリルで洗浄し、40℃で減圧乾燥した。最終純度をアッセイした処、98.7重量%であった。
【実施例6】
【0052】
シス−3−[4−(4−クロロフェニル)スルホニル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)シクロヘキシル]プロパン酸
酢酸(50ml)中の実施例5からの生成物(5.0g,12.17mmol)に50℃で過酸化水素(27.5重量%,4.07ml,36.5mmol)を滴下し、混合物を55〜60℃に4.75時間に維持した。周囲温度まで冷却後、水(100ml)を滴下し、得られたスラリーを更に1時間撹拌した。生成物を濾取し、水洗し、40℃で減圧乾燥した。
【実施例7】
【0053】
シス−3−[4−(4−クロロフェニル)スルホニル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)シクロヘキシル]プロパン酸,ナトリウム塩
45℃のイソプロパノール(2L)中の実施例6からの生成物(100g,0.226mol)を2M水酸化ナトリウム水溶液(112ml)で処理した。得られた溶液を大気圧で蒸留し、蒸留液1Lを除去した。新たにイソプロパノール(1L)を加え、蒸留を繰返した。更に新たにイソプロパノール(1L)を加え、再び蒸留を繰返した後、混合物を周囲温度まで放冷し、更に1時間エージングさせた。生成物を濾取し、イソプロパノールで洗浄し、40℃で減圧乾燥した。
【実施例8】
【0054】
[4−(2,5−ジフルオロフェニル)シクロヘキス−3−エニル]プロパン酸
実施例2の生成物(2.5g,8.79mmol)のジクロロメタン(40ml)溶液にトリフルオロ酢酸(6.8ml,87.9mmol)を加えた。得られた混合物を周囲温度で一晩撹拌した後、水(50ml)とIPAc(150ml)に分配した。層分離した。有機層を水(50ml)とブライン(50ml)で洗浄し、乾燥(NaSO)し、蒸発させた。残渣をIPAcから結晶させ、40℃で減圧乾燥した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、RはH又はアルカリ金属を表し、Arは4−クロロフェニルを表し、Arは2,5−ジフルオロフェニルを表す)の化合物の製造方法であって、
(a)式(2)のシス−スルフィドと式(3)のトランス−スルフィド:
【化2】

の混合物に4−クロロベンゼンチオールを加え、前記スルフィド混合物が部分的に可溶性である酸性媒体中で撹拌し、式(2)のシス−スルフィドを優先的に結晶化させる段階と;
(b)式(2)のシス−スルフィドを回収する段階と;
(c)式(2)のシス−スルフィドを対応するスルホンに酸化する段階と;場合により
(d)段階(c)の生成物をアルカリで中和する段階を含む前記方法。
【請求項2】
前記酸性媒体がトリフルオロ酢酸及び炭素原子の1個以上が場合により過フッ素化されていてもよいC1−4アルキルスルホン酸から選択される酸を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸がトリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸又はメタンスルホン酸である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸性媒体が更にn−ヘプタン、メチルシクロヘキサン、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロトルエン、ヘキサフルオロプロパン−2−オール、アセトニトリル及びその混合物から選択される溶媒を含む請求項2に記載の方法。
【請求項5】
酸性媒体が約5〜約15容量%の水分を含有するメタンスルホン酸である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
式(2)のシス−スルフィドと式(3)のトランス−スルフィドの混合物が4−クロロベンゼンチオールを式(4):
【化3】

(式中、Arは2,5−ジフルオロフェニルを表す)のオレフィンと反応させることにより生成され、
前記反応が前記方法の段階(a)で使用される酸性媒体中で実施される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
式(2)のシス−スルフィドと式(3)のトランス−スルフィドの混合物が4−クロロベンゼンチオールを式(5):
【化4】

(式中、Arは2,5−ジフルオロフェニルを表す)のカルビノールと反応させることにより生成され、
前記反応がルイス酸の存在下で実施され、スルフィド混合物が前記方法の段階(a)を実施する前に単離される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
式(2)のシス−スルフィドと式(3)のトランス−スルフィドの混合物が4−クロロベンゼンチオールを式(5):
【化5】

(式中、Arは2,5−ジフルオロフェニルを表す)のカルビノールと反応させることにより生成され、
前記反応が前記方法の段階(a)で使用される酸性媒体中で実施される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
酸性媒体が酸とヘキサフルオロプロパン−2−オールに加え、ペルフルオロヘキサン及び過フッ素化2−ブチルテトラヒドロフランから選択される共溶媒を含む請求項6又は8に記載の方法。
【請求項10】
酸がトリフルオロメタンスルホン酸である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
酸性媒体が約5〜約15容量%の水分を含有するメタンスルホン酸である請求項6又は8に記載の方法。
【請求項12】
式(5)のカルビノールが、
(a)カルボン酸(6a)をマグネシウム塩(6b):
【化6】

に変換し;
(b)(6b)をAr−M’と反応させ;
(c)得られた生成物を酸で処理することにより製造され、
前記式中、M’はLi、MgX又はCeXを表し;
XはCl、Br又はIを表し;
Arは2,5−ジフルオロフェニルを表す請求項7又は8に記載の方法。
【請求項13】
式(5):
【化7】

(式中、Arは2,5−ジフルオロフェニルである)の化合物。
【請求項14】
式(4):
【化8】

(式中、Arは2,5−ジフルオロフェニルである)の化合物。
【請求項15】
式(2):
【化9】

(式中、Arは4−クロロフェニルであり、Arは2,5−ジフルオロフェニルである)の化合物。

【公表番号】特表2007−523141(P2007−523141A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553651(P2006−553651)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【国際出願番号】PCT/GB2005/000544
【国際公開番号】WO2005/080309
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(390035482)メルク シャープ エンド ドーム リミテッド (81)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【Fターム(参考)】