説明

5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の製造方法およびその組成物

本発明は5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の製造方法について記載しており、該方法では、RNAの実質的な部分が5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであり、そしてRNAの実質的な部分が細胞壁画分と関連したままである条件下で、微生物は自己消化を受ける。前記細胞壁画分は固体/液体分離法により回収され、前記壁画分と関連しているRNAは、5’−リボヌクレオチドに転換される。また本発明は、5’−リボヌクレオチドを含有する組成物と、食品または飼料におけるその使用とについても記載している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の製造方法に関する。本発明は、更に、5’−リボヌクレオチドを含有する組成物と、前記組成物の食品または飼料における使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
自己消化酵母抽出物は、細胞の破壊および高分子酵母材料の消化(溶解)の後に酵母から得られる可溶性材料の濃縮物である。細胞破壊の後に培地に放出される活性酵母酵素は、溶解に寄与する。自己消化工程の間に、天然RNAは5’−リボヌクレオチドに分解できない形で分解または修飾されるので、これらのタイプの酵母抽出物はアミノ酸を多量に含み、一般に、5’−リボヌクレオチドを含まない。これらは、基本的な風味を供給するものとして、食品産業において使用される。酵母抽出物中に存在するアミノ酸は、食品にブイヨンタイプのブロス風味を付加する。
【0003】
これに反して、加水分解酵母抽出物は、細胞の破壊、消化(溶解)、ならびに溶解中の酵母懸濁液へのプロテアーゼおよび/またはペプチダーゼ、そして特にヌクレアーゼの添加の後に酵母から得られる可溶性材料の濃縮物である。天然酵母酵素は、溶解の前に不活性化される。この工程の間に、グアニン(5’−グアニン一リン酸塩、5’−GMP)、ウラシル(5’−ウラシル一リン酸塩、5’−UMP)、シトシン(5’−シトシン一リン酸塩、5’−CMP)およびアデニン(5’−アデニン一リン酸塩、5’−AMP)の5’−リボヌクレオチドが形成される。アデニリックデアミナーゼが混合物に添加されると、5’−AMPは5’−イノシン一リン酸塩(5’−IMP)に変換される。そのため、この方法で得られる加水分解酵母抽出物は、5’−リボヌクレオチドを多量に含み、特に、5’−GMPおよび5’−IMPを多量に含む。酵母抽出物は、グルタミン酸モノナトリウム(MSG)も多量に含むことが多い。5’−IMP、5’−GMPおよびMSGは、そのフレーバー増強特性で知られている。これらは、特定の種類の食品において、香味のよいおいしい風味を高めることができる。この現象は、「口あたり」またはうまみと説明される。
【0004】
5’−リボヌクレオチドを多量に含み、任意でMSGも多量に含む酵母抽出物は、通常、スープ、ソース、マリネおよび調味料に添加される。
【0005】
5’−リボヌクレオチドを多量に含む酵母抽出物は、これまで、高RNA含量を有する酵母株を用いて、かつ/または細胞内容物の部分的な抽出によって製造されている。
【0006】
風味を増強するこの種類の加水分解酵母抽出物の不都合は、アミノ酸および短鎖ペプチドならびにその他の酵母成分の存在のために、風味が純粋であることが必要な用途にはあまり適さないことである。
【0007】
米国特許第4,303,680号明細書は、細胞内RNAが部分的に分解されるだけで、自己消化した細胞に結合したままである条件下における自己消化工程を用いた、5’−リボヌクレオチドを含有する酵母抽出物の製造について記載している。細胞のタンパク質内容物は、オリゴペプチドおよびアミノ酸において加水分解される。熱処理によって自己消化した細胞からRNAが溶液中に放出された後でのみ、RNAは5’−リボヌクレオチドに酵素的に変換される。この方法では、アミノ酸、オリゴペプチド、ならびに炭水化物、ミネラル、脂質およびビタミンのようなその他の成分を多量に含む酵母抽出物が得られる。これらの成分の存在は、この酵母抽出物に、いくつかの食品用途では望ましくないブイヨンのようなブロス風味を付与する。更なる不都合は、酵母抽出物が、比較的少量の5’−リボヌクレオチドを含むことである。
【発明の開示】
【0008】
本発明の目的は、微生物の自己消化に基づく5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の製造方法を提供することであり、得られる組成物は、少なくとも15%w/wの5’−リボヌクレオチドを含み、前記組成物は風味が純粋である。該方法は、非常に簡単であると共に費用効果が高く、従って、商業的に非常に魅力的である。本発明のもう1つの目的は、上記の特性を有する5’−リボヌクレオチドを含有し、組成物の塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づいて少なくとも15%w/wおよび55%w/w未満の量の5’−リボヌクレオチドを含む組成物を提供することである。本発明の更なる目的は、食品、飲料および飼料における本発明の組成物の使用を提供することである。
【0009】
発明の詳細の説明
第1の態様では、本発明は、
a)RNAの実質的な部分が5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであり、そしてRNAの実質的な部分が細胞壁画分と関連したままである条件下で、微生物に自己消化を受けさせることと、
b)自己消化物に固体/液体分離を受けさせ、RNA含有細胞壁画分を回収することと、
c)回収されたRNA含有細胞壁画分中のRNAを5’−リボヌクレオチドに転換することと、
を含む、5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の製造方法を提供する。
【0010】
「5’−リボヌクレオチド」という用語により、本明細書中では、5’−GMP、5’−CMP、5’−UMP、そして更に5’−AMPおよび/または5’−IMPの混合物が意図され、前記5’−AMPは、部分的または完全に5’−IMPに転換され得る。
【0011】
「5’−リボヌクレオチド」という用語は、遊離5’−リボヌクレオチドおよびその塩を包含する。
【0012】
本発明との関連では、微生物の自己消化は、微生物細胞および高分子微生物材料の分解が、少なくとも部分的に、微生物細胞壁の(部分的な)損傷および/または破壊の後に培地に放出される活性天然微生物酵素によって生じる工程であると定義される。
【0013】
本発明の方法では、RNAの自然源として、どんな微生物が使用されてもよい。食品および飼料用途に適した微生物などの細菌および真菌微生物が好ましい。好ましい微生物は、食品グレードの状態を有するもの、およびヒトが食べる食品において安全に適用することができるものである。高RNA含量(すなわち、通常6〜15%のRNA含量)を有する細菌または真菌株は、多量の5’−リボヌクレオチドを有する組成物の製造を可能にする。しかしながら、本発明の方法の利点は、比較的少量のRNA含量を有する細菌または真菌株も使用できることである。これらの株は、出発株のRNA含量に基づいて予期されるよりも高い5’−リボヌクレオチド含量を有する組成物を調製するために、有利に使用することができる。
【0014】
好ましい微生物の例としては、トリコデルマ(Trichoderma)またはアスペルギルス(Aspergillus)などの糸状菌類、ならびにサッカロミセス(Saccharomyces)、クルイベロミセス(Kluyveromyces)およびカンジダ(Candida)などの酵母が挙げられる。サッカロミセス属に属する株、特にサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)種に属する株が最も好ましい。
【0015】
適切な細菌微生物の例は、乳酸菌、例えばラクトバシラス(Lactobacillus)である。
【0016】
本発明の方法で使用される微生物は、当該技術分野において知られる適切な発酵方法によって調製することができる。微生物バイオマスは、本発明の方法における使用の前に、例えば遠心分離またはろ過によって濃縮されてもよい。例えば、クリーム酵母(15〜27%w/wに濃縮されたパン酵母)が使用されてもよい。任意で、醸造用酵母または醸造所から生じる残渣酵母(使用済みの醸造用酵母)を含む発酵ブロスが使用されてもよい。
【0017】
本発明は、5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の大規模な製造に特に適した方法を提供する。大規模とは、発酵が10mよりも大きい発酵槽で行われることを意味する。
【0018】
自己消化工程は、微生物細胞壁を損傷および/または部分的に破壊することによって開始される。このように細胞が部分的に開放され、そして細胞内容物の少なくともいくらかが放出される。微生物細胞壁を損傷および/または部分的に破壊するために、細胞は、当業者には既知の方法を用いて、化学的、機械的または酵素的に処理される。
【0019】
機械的な処理には、均質化技法が含まれる。この目的では、高圧ホモジナイザーの使用が可能である。その他の均質化技法としては、粒子、例えば砂および/またはガラスビーズとの混合、もしくはミリング装置(例えば、ビードミル)の使用があり得る。
【0020】
化学的な処理には、塩、アルカリおよび/もしくは1つまたは複数の界面活性剤または洗浄剤の使用が含まれる。化学的な処理は、特にアルカリが使用される場合には、RNAの部分的な分解をもたらし、その結果、2’−リボヌクレオチドおよび3’−リボヌクレオチドが形成されることがあるので、あまり好ましくない。
【0021】
好ましくは、微生物細胞壁の損傷および/または部分的破壊は、酵素的に行われる。何故なら、それにより工程のより良い制御が達成可能であり、この方法は大規模で使用されるのに特に適するからである。セルラーゼ、グルカナーゼ、ヘミセルラーゼ、キチナーゼ、プロテアーゼおよび/またはペクチナーゼのようないくつかの酵素調製物を使用することができる。好ましくは、プロテアーゼが使用され、より好ましくは、エンドプロテアーゼが使用される。自己消化工程を開始させるために使用される条件は、使用される酵素の種類に依存し、当業者により容易に決定され得る。一般に、微生物細胞壁を酵素的に損傷および/または破壊するために使用される条件は、微生物の自己消化の間に適用される条件と一致するであろう。
【0022】
微生物の自己消化は、少なくとも部分的に、微生物細胞壁を(部分的に)損傷および/または破壊した後に溶液中で放出される活性天然微生物酵素によって生じ、微生物細胞壁を損傷および/または破壊するために添加された化学物質、またはより好ましくは酵素は、微生物細胞および高分子微生物材料の分解に寄与し得る。
【0023】
本発明の方法では、自己消化工程において使用される条件は、RNAの実質的な部分が5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであるような条件である。これに関連して、「RNAの実質的な部分」とは、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも70%を意味する。従って、RNAは、自己消化工程の間、完全に無傷のままである必要はないが、少なくとも、RNAの実質的な部分は、5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままでなければならない。一般に、100%までのRNAが5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであり得る。5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態であるとは、RNAが、適切な酵素による5’−リボヌクレオチドへの転換を可能にする形態でなければならないことを意味する。好ましくは、適切な酵素は、5’−ホスホジエステラーゼ(5’−Fdase)である。
【0024】
5’−リボヌクレオチドに分解可能なRNAの形態は、少なくとも2つのリボヌクレオチド単位を含有するオリゴヌクレオチドを含む。従って、5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のRNAは、無傷のRNAと、様々な長さのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドとを含む混合物からなることができる。本発明との関連では、オリゴヌクレオチドは2〜10個のリボヌクレオチド単位を含み、ポリヌクレオチドは10個よりも多いリボヌクレオチド単位を含む。
【0025】
本発明の方法では、自己消化工程で使用される条件は、自己消化の間、RNAの実質的な部分が細胞壁画分と関連したままである、すなわち、損傷された細胞内にある、および/または細胞壁またはその断片に結合したままであるような条件である。これに関連して、「RNAの実質的な部分」とは、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、最も好ましくは少なくとも40%を意味する。一般に90%までのRNAが、細胞壁画分と関連したままであり得る。
【0026】
自己消化工程の間、5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであるRNAの百分率は、a)自己消化およびRNAの5’−リボヌクレオチドへの転換に関与する酵素の不活性化の後、自己消化物中で測定される5’−GMPの重量パーセント(その二ナトリウム七水和物(disodium heptahydrate)として、塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づいて計算される)と、b)RNAの完全なアルカリ加水分解の後、出発材料中で測定されるGMPの重量パーセント(その二ナトリウム七水和物として、塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づいて計算される)との間の比率(×100)で定義される。アルカリ加水分解後に出発材料中で測定されるGMPの重量パーセント(その二ナトリウム七水和物として、塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づいて計算される)は、対応する遊離GMPの重量パーセント(塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づく)から、それと係数1.47とを乗じることによって決定することができる。自己消化物中の5’−GMPの量および塩基性加水分解後のGMPの量を決定するための方法は、実施例1に記載されている。5’−GMPの量を決定するために使用される方法は、必要であれば、十分に当業者の知識の範囲内であるいくらかの変更を用いて、5’−IMP、5’−AMP、5’−CMPおよび5’−UMPの量を決定するためにも使用することができる。
【0027】
細胞壁画分と関連したままであるRNAの百分率は、a)一定量の出発材料から得られる自己消化物の細胞壁画分中のRNAの量(グラム)と、b)同じ一定量の出発材料中に存在するRNAの量(グラム)との間の比率(×100)で定義される。細胞壁画分中および出発材料中のRNAの量を決定するための方法は、実施例1に記載されている。
【0028】
RNAの実質的な部分が5−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであることと、RNAの実質的な部分が細胞壁画分と関連したままであることとを保証するために自己消化において適用される条件は、一般に、使用される微生物に依存するであろう。これらの条件は、自己消化の間の温度および/またはpH、ならびに/もしくは特定の温度および/またはpHが保持される時間のような工程パラメータを変更し、続いてこのような工程パラメータが、5−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままである、および/または細胞壁画分と関連したままであるRNAの量に与える効果を決定することによって、当業者により容易に決定され得る。
【0029】
特に、自己消化の第一相は、特定の温度と組み合わせて特定のpH範囲において実行される。
【0030】
例えば、サッカロミセス・セレビシエの自己消化において、RNAの実質的な部分が5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであることと、RNAの実質的な部分が細胞壁画分と関連したままであることとを保証するために適用される条件は、自己消化の第一相におけるpHが4.5〜9であり、かつ/または温度が50〜65℃であるような条件である。好ましくは、まず8時間の自己消化、より好ましくはまず4時間の自己消化が、4.5〜5.5のpHおよび57〜65℃の温度、あるいはpH5.5〜9および50〜65℃の温度で実行される。
【0031】
自己消化の第一相の後に保持すべき条件は、あまり重要ではない。第一相の後、pHは通常4〜10に保持され、温度は通常40℃〜70℃に保持される。一般に、第一相を含む自己消化工程の持続時間は、24時間以下である。
【0032】
本発明は、ステップa)において、RNAの実質的な部分が5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであり、そしてRNAの実質的な部分が細胞壁画分と関連したままである条件下で、微生物が加水分解を受ける方法も包含することができる。本発明との関連では、微生物の加水分解は、天然微生物酵素が不活性化されており、適切な外因性酵素が微生物バイオマスに添加されて微生物細胞および高分子微生物材料の分解がもたらされる工程であると定義される。
【0033】
自己消化の後、微生物細胞壁画分と、実質的な部分が5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態にあり、そして実質的な部分が細胞壁画分と関連しているRNAと、可溶性細胞成分(例えば、タンパク質、炭水化物、その他種々のもの)とを含む懸濁液(自己消化物)が得られる。細胞壁画分は、不溶性細胞残渣、特に細胞壁またはその断片を含む。
【0034】
自己消化工程の最後に、そしてステップb)よりも前に、微生物細胞壁の損傷および/または部分的破壊のために使用された化学物質、ならびに/もしくは自己消化工程に関与した酵素は、好ましくは、中和および/または不活性化されるべきである。自己消化に関与した酵素は、自己消化工程を開始するために使用された天然微生物酵素、および任意で添加された外因性酵素である。化学物質および/または酵素の中和および/または不活性化は、RNAの実質的な部分が5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであり、そしてRNAの実質的な部分が細胞壁画分と関連したままである条件下で生じなければならない。自己消化に関与した酵素の不活性化は、pH処理によって、あるいは好ましくは熱処理によって行うことができ、これにより酵素が不活性化され、RNAの実質的な部分は、5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであり、RNAの実質的な部分は細胞壁画分と関連したままである。酵素は、例えば、混合物を65℃〜95℃の温度で5分〜1時間で加熱することによって、より好ましくは65℃〜75℃の温度で30分〜1時間加熱することによって熱処理により不活性化することができ、通常、より高い反応温度ではより短い反応時間を用いることができる。例えば、混合物を65℃で1時間、または75℃で30分間の加熱は酵素を不活性化させるのに十分であり、これにより、RNAの実質的な部分は、5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであり、そしてRNAの実質的な部分は細胞壁画分と関連したままである。
【0035】
本発明の方法のステップb)では、自己消化物は固体/液体分離を受け、RNA含有細胞壁画分が回収される。
【0036】
RNA含有細胞壁画分は、一般的な固体−液体分離法、好ましくは遠心分離またはろ過によって回収されるのが好ましい。遠心分離またはろ過の使用は、特に、方法が大規模で実行される場合には経済的に有利である。
【0037】
5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態である回収RNAの量を増大させるために、自己消化物は、遠心分離またはろ過のような一般的な固体−液体分離法の代わりに、限外ろ過(UF)を受けることができる。このようにして、RNA含有細胞壁画分と、微生物の可溶性画分から得られるRNAとの混合物が回収される。従って、細胞壁画分と関連しているRNAだけでなく、自己消化の間に溶液中に放出されたRNAも、微生物の可溶性画分から分離される。RNAを回収するためにUFが使用される場合には、好ましくは、10〜50kD、または好ましくは20〜50kDの分子量カットオフを有する膜が使用され得る。一般に、より大きい分子量カットオフは、膜を通るより高い流速を可能にするが、より大きい損失および/またはより純度の低い生成物を生じさせるかもしれない。使用される固体−液体分離のタイプおよび前記固体−液体分離の効率は、いくつかの因子の中でも特に、本発明の組成物中で得られる5’−リボヌクレオチドの量に影響を与え得る。
【0038】
回収された画分中のRNAは、5’−リボヌクレオチドに転換される。これは、UFで得られる微生物の可溶性画分から得られるRNAと任意で混合されたRNA含有細胞壁画分を酵素的に処理することによって実行される。
【0039】
好ましくは、5’−ホスホジエステラーゼ(5’−Fdase)を用いて、RNAを5’−リボヌクレオチドに転換する。5’−ホスホジエステラーゼは、微生物または植物源(例えば、麦芽根抽出物)から得ることができる。市販の微生物5’−Fdaseの一例は、天野(Amano)(日本)により製造される酵素RP−1である。
【0040】
任意で、5’−AMPは、デアミナーゼ、例えばアデニルデアミナーゼにより5’−IMPに転換される。市販のデアミナーゼの一例は、天野(Amano)(日本)により製造されるデアミナーゼ500である。
【0041】
5’−FdaseおよびデアミナーゼによるRNAの処理は、二段階または一段階の方法で実行することができる。
【0042】
RNAの5’−リボヌクレオチドへの転換後、5’−リボヌクレオチドを含有する画分は、好ましくは、細胞壁画分から分離される。前記分離は、遠心分離またはろ過によって、あるいは固体/液体分離を達成するのに適する他の方法によって達成され得る。
【0043】
実施形態では、5’−リボヌクレオチドを含有する画分は、5’−リボヌクレオチドよりもより高い分子量を有する成分から、限外ろ過により精製される。精製の程度は、使用される限外ろ過膜の分子量カットオフに依存する。例えば上記のような限外ろ過膜を使用することができる。
【0044】
本発明との関連では、「RNAを回収する」または「RNAを転換する」のような表現がそれぞれ、必ずしも全てのRNAが回収されるまたは転換されることを意味するわけではないことは理解されるであろう。回収されるRNAの量が、使用される分離法のタイプに依存し得ることは、当業者には明らかであろう。転換されるRNAの量がいくつかの因子に依存し、その1つは、細胞壁の不溶性画分と関連しているRNAがこのステップで使用される酵素に到達しやすいことであることも明らかであろう。
【0045】
本発明は、RNAの大規模の分離に特に有用で、食品および飼料用途で使用するために商業的に魅力的な大規模で5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の製造を可能にする方法を提供する。本発明は、5’−リボヌクレオチドを含有する良好な純度の組成物をもたらし、損失がかなり少ない方法を提供する。
【0046】
第2の態様では、本発明は、組成物の塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づいて、少なくとも15%w/wおよび55%w/w未満、好ましくは少なくとも30%w/wおよび55%w/w未満、より好ましくは少なくとも40%w/wおよび55%w/w未満の量の5’−リボヌクレオチドを含む、第1の態様の方法により得ることができる5’−リボヌクレオチドを含有する組成物を提供する。この組成物は、高い5’−リボヌクレオチド含量を有し、風味が純粋であり、そして食品または飼料におけるいくつかの用途を有する。
【0047】
本発明の組成物中の5’−GMP、5’−AMPおよび5’−IMPなどの5’−リボヌクレオチドの量は、組成物の塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づく重量百分率(%w/w)で与えられる。5’−リボヌクレオチドの重量百分率は、他に指定されない限りは、その二ナトリウム塩七水和物に基づいて計算される。塩化ナトリウムを含まないとは、本発明の組成物が塩化ナトリウムを含有するはずがないことを意味するのではなく、重量百分率の計算では、塩化ナトリウムの重量が組成物から排除されることを意味する。組成物中の塩化ナトリウムの測定および上記の計算は、当業者には既知の方法で実行することができる。
【0048】
好ましくは、本発明の組成物は、5’−AMPおよび5’−IMPの合計量よりも多量の5’−GMPを含む。5’−GMPはフレーバー増強に関して5’−IMPよりも機能的であり、5’−AMPはフレーバー増強に寄与しないので、これは有利である(T.ナゴダウィサナ(Nagodawithana)、香味のよいフレーバー(Savoury Flavours)、(1995年)、米国ウィスコンシン州のエスティーケイ・アソシエーツ社(Esteekay associates,Inc,Wisconsin,USA)編、302頁)。
【0049】
5’−リボヌクレオチドを含む市販の酵母抽出物は全て、5’−IMPおよび5’−AMPの合計量よりも少量の5’−GMPを含有する。従って、本発明の組成物は、現在市販されている酵母抽出物よりも強いフレーバー増強を有する。
【0050】
本発明の組成物は、好ましくは、グルタメートを含み、5’−リボヌクレオチドに対するグルタメートの比率は、好ましくは、0.1以下、より好ましくは0.05以下、最も好ましくは0.01以下である。グルタメート/5’−リボヌクレオチド比の下限は、通常0.001である。本発明の組成物のグルタメート含量は、組成物の塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づいて、0.01〜10%w/w、好ましくは0.05〜5%w/w、より好ましくは0.1〜2%w/wのグルタメートの範囲で変化し得る。
【0051】
組成物中のグルタメートの量は、遊離グルタミン酸の重量百分率(%w/w)で与えられ、組成物の塩化ナトリウムを含まない乾燥物を基準とする。
【0052】
本発明の第2の態様の組成物は、一般に、組成物の乾燥物に基づいて、10%w/w未満、好ましくは5%w/w以下、より好ましくは2%w/w以下、更により好ましくは、1%w/w以下の塩化ナトリウムを含む。
【0053】
本発明に従う5’−リボヌクレオチドを含有する組成物は、高い5’−リボヌクレオチド含量を有し、風味が純粋であり、そして食品または飼料におけるいくつかの用途を有する。本明細書全体にわたって、「風味が純粋」という表現は、本発明の組成物が適切な量で食品または飼料に添加されたときに、組成物をもたらす微生物に特有の特定の風味および/または感じ、もしくは組成物から発生されるブイヨンのようなブロス風味および/または感じが、前記食品または飼料中では最小限であるか、あるいは存在しないことを意味する。好ましくは、微生物に特有の特定の風味および/または匂いおよび/または感じは、本発明の組成物中において最小限であるか、または存在しない。例えば、出発材料としてサッカロミセスが使用された場合に、組成物は「酵母」風味または匂いを有さない、あるいは出発材料としてカンジダが使用された場合に、甘い風味を有さないであろう。
【0054】
本発明に従う5’−リボヌクレオチドを含有する組成物は、食料品または飼料品において使用することができる。本発明との関連では、「食品」という単語は、固体形態にある栄養分または飲料のいずれかを意味する。
【0055】
本発明の実施形態によると、本発明に従う5’−リボヌクレオチドを含有する組成物は、所望される量で従来の酵母抽出物に添加することができる。このことは、所望の5’−リボヌクレオチド含量を有する酵母抽出物の調製を可能にする。本発明の組成物は、自然源、すなわち好ましくは食品グレードである微生物に由来する。このことにより、組成物は食品または飼料に添加するのに非常に適切であるとされる。
【0056】
本発明の第2の態様の組成物は、いくつかの種類の食品の風味および/または芳香を改善および/または増強するために使用することができる。前記組成物を添加することができる典型的な種類の食品としては、乳製品、ベーカリー食品、野菜、果実、食肉、菓子類、飲料またはこれらから派生される加工食品が挙げられる。
【0057】
本発明の第2の態様の組成物は、減脂肪または低脂肪の食品において適切な用途を見出す。本発明との関連では、減脂肪または低脂肪の食品は、一般に、対応する全脂肪食品から、そこに含まれる脂肪の低下、および/または脂肪代替物による前記脂肪の置換をもたらす加工、変質、調合または再調合によって得られる。前記方法および前記脂肪代替物は、当該技術分野において知られている。本発明との関連における脂肪は、「総脂肪」、すなわち飽和および不飽和脂肪酸の両方を含有する脂肪を意味する。「減脂肪」および「低脂肪」という用語は、栄養学用語において一般に使用される食品表示である。またこれらは、食品医薬品局(Food Drug Administration)によって米国連邦規則集(US Code of Federal Regulation)、タイトル21、Vol.2、パート101「食品の表示付け(Food labelling)」、Sec.101.62(b)(2002年4月1日に改訂)(21CFR101.62(b)と略される)において定義される。
【0058】
減脂肪または低脂肪の食品の明らかな不都合は、この種類の食品には、対応する全脂肪食品のフレーバーの豊かさが欠けていることである。この不都合は、本発明の第2の態様の組成物を用いて、減脂肪または低脂肪の食品の風味および/または芳香および/または口あたりにおける脂肪感を改善することによって克服することができる。このことは、組成物を含む前記減脂肪または低脂肪食品が、減脂肪食品または低脂肪食品そのものと比較して、対応する全脂肪食品の風味および/または芳香および/または口あたりにより類似している風味および/または芳香および/または口あたりを有することを意味する。
【0059】
本発明の第2の態様の組成物は、人工甘味料を含む食品においてもう1つの適切な用途を見出す。人工甘味料の使用に関連する明らかな不都合は、人工的に風味をつけられた食料における付随的な味またはあと味、例えば苦味の存在または発生である。単独または組み合わせて使用されたときに上記の問題を示す最も一般的な人工甘味料は、アセスルファーム−K、アリテーム、アスパルテーム、シクラメート、ネオテーム、ネオヘスペリジン、サッカリン、ステビオシド、スクラロース、およびタウマチンである。この不都合は、本発明の第2の態様の組成物を用いて、食品中の人工甘味料の付随的な味またはあと味を隠すことによって克服することができる。本発明は、人工甘味料および第2の態様の組成物を含む組成物も包含する。
【0060】
本発明の第2の態様の組成物は、飲料の風味および/または芳香および/または口あたりを改善するため、より具体的に言うと、特に、飲料の風味および/または芳香において特有の野菜感および/または果実感および/またはアルコール感を改善するために使用することができる。例えば、これらは、野菜ジュースの特有の野菜風味および/または野菜芳香、果実ジュースの特有の果実風味および/または果実芳香、もしくはワインおよびビールのようなアルコール飲料、特に、低アルコール含量または減アルコール含量のアルコール飲料の特有のアルコール風味および/またはアルコール芳香を改善するために使用することができる。
【0061】
上記の用途において食品に添加される5’−リボヌクレオチド組成物の量は、食品の種類および用途に依存するであろう。5’−リボヌクレオチド組成物の量は、食品または飲料に関して、例えば0.0001%w/w〜10%w/wの間で変化し得る。
【0062】
本発明は、いくつかの実施例によってこれから説明されるが、これらは限定されることを意図しない。
【実施例】
【0063】
実施例1
自己消化工程を用いる5’−リボヌクレオチドを含む組成物の調製
サッカロミセス・セレビシエからのクリーム酵母2lを60℃に暖めた。続いて、0.4mlのペスカラーゼ(Pescalase)(オランダのDSM N.V.から市販されているセリンプロテアーゼ)を添加し、混合物をpH6.0および60℃で4時間インキュベートした。条件をpH5.1および51.5℃に調整し、更に2mlのペスカラーゼ(Pescalase)を反応混合物に添加した。混合物をpH5.1、51.5℃において20時間インキュベートした。次に、混合物または自己消化物を65℃で1時間加熱し、全ての酵素活性を不活性化した。抽出物(可溶性画分)を遠心分離によって不溶性細胞壁から分離した。
【0064】
得られた細胞壁画分を5’−ホスホジエステラーゼで処理し、65℃の温度および5.3のpHで、RNAを5’−リボヌクレオチドに加水分解した。次に、55℃の温度およびpH5.1において酵素デアミナーゼにより5’−AMPを5’−IMPに転換した。最後に、遠心分離によって5’−リボヌクレオチドを不溶性細胞壁画分から分離した。
【0065】
出発のクリーム酵母と、自己消化物と、第1の遠心分離後の上澄みと、細胞壁画分と、第2の遠心分離の後、すなわち5’−Fdaseおよびデアミナーゼ処理の後の上澄みとのサンプルを、RNA含量および/または5’−リボヌクレオチド含量について、以下の方法に従ってHPLCにより分析した。サンプル中のRNAをアルカリ処理の間に加水分解した。標準物として5’−GMPを用い、ワットマン・パーティシル(Whatman Partisil)10−SAXカラム、溶離液としてpH3.35のリン酸緩衝液、およびUV検出を用いて、GMP(すなわち、RNAの加水分解から誘導される2’−GMPおよび3’−GMP)をHPLCによって定量した。塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づくRNA含量の重量百分率は、塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づく遊離GMPの重量百分率の〜4倍に相当する。
【0066】
またいくつかのサンプルは、サンプル中に存在するRNAが5’−リボヌクレオチドに転換されるかどうか(すなわち、RNAが例えば、5’−Fdaseにより5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態にあるかどうか)を立証するために、5’−Fdaseと共にインキュベートし、これらのサンプルのうちのいくつかは、5’−AMPを5’−IMPに転換するためにデアミナーゼによっても処理した。続いて、サンプル中の5’−GMP、5’−AMPおよび5’−IMPの量(塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づいてその二ナトリウム七水和物の重量百分率で表される)を、以下の方法に従ってHPLCにより決定した。ワットマン・パーティシル(Whatman Partisil)10−SAXカラム、溶離液としてpH3.35のリン酸緩衝液、およびUV検出を用いて、酵母抽出物中の5’−GMP、5’−AMPおよび5’−IMPをHPLCによって定量した。5’−GMP、5’−IMPおよび5’−AMP標準物に基づいて濃度を計算した。ジェンウェイ(Jenway)塩化物測定器PCLM3(英国エセックス州のジェンウェイ(Jenway,Essex,England))によりサンプル中の塩化物イオンを測定し、対応する塩化ナトリウムの量を計算することによって塩化ナトリウムを決定した。
【0067】
RNAおよび5’−リボヌクレオチドのデータは表1に与えられる。
【0068】
【表1】

【0069】
この実施例において本発明の方法で得られる5’−リボヌクレオチドを含有する組成物は、約50%w/wの5’−リボヌクレオチドを含む。
【0070】
上記の実施例で得られた結果は、以下の結論を導く。
・ 結果は、クリーム酵母中に存在するほとんど全てのRNAが、自己消化工程の間、5’−Fdaseにより5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであったことを明白に示す。
・ RNAの実質的な部分は、自己消化酵母の細胞壁画分と関連したままであった。
・ 可溶性画分の除去によって、RNAを多量に含む画分が得られた。
・ RNAを多量に含む画分中のRNAの主要部分は、5’−リボヌクレオチドに加水分解された。これらの5’−リボヌクレオチドは、遠心分離またはその他の適切な固体/液体分離によって不溶性細胞壁画分から容易に分離された。
・ この方法は、例えば、酵母抽出物マキサロム・プラス(Maxarome Plus)(登録商標)(6%の5’−GMP+5’−IMP、12%の5’−リボヌクレオチド)(オランダのDSM N.V.)のようないくつかの従来の5’−リボヌクレオチド含有酵母抽出物と比べて、5’−リボヌクレオチド、特に5’−GMPおよび5’−IMPが比較的高濃度である組成物の製造を可能にする。
【0071】
5’−リボヌクレオチドを含有するこの種類の組成物の顕著な特性は、組成物中の5’−GMPの量が組成物中の5’−AMPおよび5’−IMPの合計量よりも多いという事実である。これは、5’−IMPにも転換され得るATPから誘導される量の5’−AMPも含有する通常の5’−リボヌクレオチド含有酵母抽出物とは異なる。
【0072】
この実施例で小規模において適用されたような条件が、任意で、十分に当業者の技能および知識の範囲であるいくらかの調整をすることにより、より大きい規模においても適用可能であることは、当業者には明らかであろう。
【0073】
実施例2
自己消化工程の間の天然酵母酵素の寄与の実証
サッカロミセス・セレビシエからのクリーム酵母の2リットル部分を95℃で10分間加熱処理して、全ての天然酵母酵素を不活性化し(対照部分)、第2の部分は以下の抽出方法においてそのまま使用した。
【0074】
サッカロミセス・セレビシエからのクリーム酵母の2lの両方の部分を60℃まで急速に加熱した。それぞれの部分に、0.4mlのペスカラーゼ(Pescalase)(オランダのDSM N.V.から市販されているセリンプロテアーゼ)を添加し、混合物をpH6.0および60℃で4時間インキュベートした。条件をpH5.1および51.5℃に調整し、更に2mlのペスカラーゼ(Pescalase)を各反応混合物に添加した。混合物をpH5.1、51.5℃において20時間インキュベートした。最後に、両方の部分を65℃で1時間加熱し、全ての酵素活性を不活性化した。両方のインキュベーションの抽出物(可溶性画分)を遠心分離によって不溶性細胞壁から分離した。
【0075】
得られた抽出物を分析して、可溶化率(solubilisation yield)およびタンパク質画分の加水分解の程度を決定した。可溶化率は、本明細書では、抽出物の乾燥物の量と出発材料の乾燥物の量との間の比率と定義される。
【0076】
結果は表2に記載される。
【0077】
【表2】

【0078】
遊離アミノ酸%は、本明細書では、存在するアミノ酸の総量、すなわち、遊離アミノ酸と、タンパク質およびペプチド内に結合されたアミノ酸との合計に関する遊離アミノ酸%と定義される。この百分率は、当業者には知られているTNBS(2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸)法によって、HPLCにより決定することができる。
【0079】
結果は、実験1および実施例1で使用される自己消化条件を適用することによって、天然酵母酵素が細胞内容物の可溶化に寄与することを示す。特に、天然酵母酵素は、酵母タンパク質画分をペプチドおよび遊離アミノ酸に加水分解することにおいて活性である。
【0080】
実施例3
RNAの5’−リボヌクレオチドへの転換と、可溶性画分および細胞壁画分間のRNAの分配とに対する自己消化条件の効果
サッカロミセス・セレビシエからのクリーム酵母の第1の200mlの部分(実験1)を、40μlのペスカラーゼ(Pescalase)(DSMフード・スペシャルティーズ(DSM Food Specialties)から市販されているセリンプロテアーゼ)の存在下、pH6.0および60.0℃で4時間インキュベートした。サッカロミセス・セレビシエからのクリーム酵母の200mlの第2の部分(実験2)を、40μlのペスカラーゼ(Pescalase)の存在下、pH5.1および51.5℃で4時間インキュベートした。次に、両方のインキュベーション混合物の条件をpH5.1および51.5℃に調整し、更に0.2mlのペスカラーゼ(Pescalase)を反応混合物に添加した。混合物をpH5.1、51.5℃で20時間インキュベートした。続いて、自己消化物を65℃で1時間加熱することによって、酵素を不活性化した。自己消化物中および出発クリーム酵母中のRNA含量を、実施例1で記載したようにHPLCによって測定した。
【0081】
自己消化物中のRNAが5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態であるかどうかを決定するために、各反応混合物の半分を酵素5’−Fdaseと共に更にインキュベートした。実施例1で説明したように5’−GMP含量を分析した。
【0082】
反応混合物のもう半分を遠心分離して、細胞壁画分と関連しているRNAの量を決定した。
【0083】
遠心分離から得られた細胞壁画分を5’−Fdaseと共にインキュベートし、RNAを5’−リボヌクレオチドに加水分解した。5’−リボヌクレオチドを含む可溶性画分を遠心分離によって細胞壁不溶性画分から分離した。5’−リボヌクレオチド含量およびグルタメート含量について上澄みを分析した。食料中のL−グルタミン酸を決定するためのL−グルタミン酸比色法およびその他の材料試験キットによって、グルタミン酸の量を決定した(ベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim)/R−バイオファーム(Biopharm)、酵素バイオ分析/食品分析(Enzymatic BioAnalysis/Food Analysis)、カタログNo.10139092035、カタログ2004年、独国ダルムシュタッドのR−バイオファーム社(R−BIOPHARM AG,Darmstad,Germany))。グルタメートの量は、当該技術分野において既知の方法、例えば、HPLC分析によって測定することもできる。
【0084】
分析の結果は、表3で与えられる。
【0085】
出発材料中のRNAレベルは、塩化ナトリウムを含まない乾燥物に関して7.7%w/wである。RNAのこの量は、最大限で、5’−Fdase処理後の自己消化物中に2.8%w/wの5’−GMP(二ナトリウム七水和物塩として測定)をもたらすことができる(100%の転換)。それは、実験1では5’−リボヌクレオチドに分解可能なRNAの%が78%であり、実験2では21%であることを意味する。
【0086】
上記の実験において得られた結果は、以下の結論を導く。
・ RNA分析は、実験2では自己消化の間の高度のRNA残存を示唆する。しかしながら、このRNAの主要部分は、5’−リボヌクレオチドに分解されないであろう。
・ 実験1では、5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のRNAがほとんど80%である。
・ 実験1では、微生物中にもともと存在するRNAの46%が細胞壁画分と関連したままである。実験2では、この割合はわずか12%であった。
・ 実験1におけるグルタミン酸/5’−リボヌクレオチドの比は、約0.02である。
【0087】
【表3】

【0088】
上記を要約すると、自己消化工程の第一相で適用される条件は、5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであるRNAの量の決定において重要であると結論される。更に、条件は、細胞壁画分と関連したままであるRNAの量の決定においても重要である。
【0089】
実施例4
大規模の自己消化工程を用いる5’−リボヌクレオチドを含む組成物の調製
実施例1で記載した条件を適用することによって、自己消化酵母抽出物を大規模で製造した。自己消化物中で測定される5’−リボヌクレオチドに分解可能なRNAの量は、83%w/w(塩化ナトリウムを含まない乾燥物に関して測定される)であった。遠心分離により得られる残りの細胞壁画分を、これも実施例1に記載される条件下において、更に5’−Fdaseおよびデアミナーゼで処理し、RNAを5’−リボヌクレオチドに転換し、放出された5’−AMPを5’−IMPに転換した。100kDaの分子量カットオフを有する膜を用いて5’−リボヌクレオチドを限外ろ過により固体(細胞壁)から分離し、組成物は透過物中に回収された。透過物を真空下で蒸発によって濃縮した。
【0090】
工程データは表4に与えられる。
【0091】
【表4】

【0092】
示された結果は、以下の結論を導く。
・ 表4に与えられるデータは、記載された経路による5’−リボヌクレオチドの大規模製造が実行可能であることを明白に実証する。
・ 微生物中にもともと存在するRNAの46%が細胞壁画分と関連したままであり、遠心分離によって可溶性画分から分離され得る。
・ 5’−Fdaseおよびデアミナーゼによる細胞壁の処理後に得られる5’−リボヌクレオチド組成物は、限外ろ過により固体(例えば、細胞壁)から回収され得る。
・ 塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づいて53%w/wの5’−リボヌクレオチドを含有する組成物が得られた。
・ 組成物中の5’−GMP/(5’−IMP+5’−AMP)比は、1.14であった(この比は、従来のヌクレオチド含有酵母抽出物中ではほとんど約0.9である)。
【0093】
実施例5
人工甘味コカ・コーラ(Coca Cola(登録商標))または通常のファンタ(Fanta(登録商標))における5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の使用の効果
本発明に従う5’−リボヌクレオチドを含有する組成物を人工甘味コカ(登録商標)(コカ・コーラ・ライト(登録商標)−コカ・コーラ・カンパニー(Coca Cola Company)−ロッテルダム(Rotterdam))または通常のファンタ(登録商標)(ファンタ・オレンジ(Fanta Orange(登録商標))、コカ・コーラ・カンパニー−ロッテルダム)に添加することの効果を研究した。
【0094】
組成物は、塩を含まない乾燥物に関して10.1%w/wの5’−GMP、8.7%w/wの5’−IMP、(〜40%w/wの5’−リボヌクレオチド)および0.96%w/wのグルタミン酸を含有した。塩化ナトリウム含量は、乾燥物に関して<1%であった。飲料1リットルあたり100mgの用量の組成物を使用した。
【0095】
組成物を含む飲料の風味および/または芳香を、食品テイスティングにおける専門家集団によって分析し(実験1および2)、飲料そのものの風味と比較した。コカ・コーラ・ライト(登録商標)の場合には、組成物を含む飲料の風味を通常のコカ・コーラ(登録商標)(コカ・コーラ・カンパニー−ロッテルダム)の風味とも比較した。
【0096】
結果はそれぞれ、表5(コカ・コーラ・ライト(登録商標))および表6(ファンタ(登録商標))に示される。
【0097】
【表5】

【0098】
【表6】

【0099】
結果は、コカ・コーラ・ライト(登録商標)またはファンタ(登録商標)の風味および/または芳香および/または口あたりに対する本発明の組成物の肯定的な効果を明白に示す。組成物を含むコカ・コーラ・ライト(登録商標)では、飲料中の人工甘味料(アスパルテーム、ナトリウムシクラメートおよびアセスルファーム)の存在によるあと味が隠される。組成物を含むファンタ(登録商標)では、全体的な風味、そして特にその中の果実感が改善される。
【0100】
更に、従来の酵母抽出物を使用した場合には通常そうであるように飲料に導入される酵母感(yeasty note)はなかった。これは、本発明に従う組成物が、風味が純粋であり、酵母抽出物または組成物に由来する酵母風味の存在があまり望ましくない飲料用途に特に適することを実証する。
【0101】
実施例6
プロセスチーズにおける5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の使用の効果
実施例5の組成物を、チーズスプレッド100gあたり100mgの用量で、低脂肪チーズスプレッド(オランダのERU−ウールデン(ERU−Woerden−The Netherlands)により製造されるスリムクイプジェ(Slimkuipje)(登録商標)ナチュレル15+、5%w/wの脂肪、14%w/wのタンパク質、4%w/wの炭水化物を含む)に添加した。組成物を含むチーズスプレッドの風味および/または芳香(実験1)を、食品テイスティングにおける専門家集団によって分析し、チーズスプレッドそのもの(低脂肪)の風味、および対応する全脂肪製品(全脂肪)(オランダのERU−ウールデンにより製造されるゴウドクイプジェ(Goudkuipje)(登録商標)ナチュレル48+、21%w/wの脂肪、12%w/wのタンパク質、2%w/wの炭水化物を含む)の風味と比較した。
【0102】
結果は表7に示される。
【0103】
【表7】

【0104】
結果は、低脂肪のプロセスチーズの風味および/または芳香および/または口あたりに対する本発明の組成物の効果を明白に示す。特に、組成物を含む低脂肪スプレッドチーズの風味および/または芳香および/または口あたりは、全脂肪スプレッドチーズの風味および/または芳香および/または口あたりにより類似している。
【0105】
更に、食品内に導入される組成物に由来する酵母感はなかった。
【0106】
実施例7
酵母抽出物の調製における本発明の5’−リボヌクレオチド組成物の使用
実施例4で得られる5’−リボヌクレオチド組成物を、従来の自己消化酵母抽出物(オランダのDSM N.V.により製造されるギステックス(Gistex)LS(登録商標)、65%w/wのタンパク質、全アミノ酸含量に基づいて40%の遊離アミノ酸、〜0%w/wの5’−リボヌクレオチドを含む)と混合し、塩化ナトリウムを含まない乾燥物に関して19.1%w/wの5’−GMP+5’−IMP(〜40%w/wの5’−リボヌクレオチド)を含む酵母抽出物をもたらした(YE1)。いくつかの種類の食料品の風味に対する前記酵母抽出物の添加の効果を、ほぼ同じ量の5’−リボヌクレオチドおよび5’−GMP+5’−IMP(アロマイルド(Aromild)、日本のコージン(Kohjin,Japan)、21%w/wの5’−GMP+5’−IMPおよび42%w/wの5’−リボヌクレオチドを含む(いずれも塩化ナトリウムを含まない乾燥物に関して))を含む市販の酵母抽出物の添加の効果と比較した(YE2)。
【0107】
0.1%w/wの濃度で以下の種類の食品において、そして0.05%w/wの濃度で水中において、YE1およびYE2を試験した。
・ スキムミルク(0%脂肪)
・ オプティメル・ビフィット(Optimel Vifit)(登録商標)「フランボワーズ(Framboos)」(オランダ、ウールデンのキャンピナ(Campina,Woerden−The Netherlands)(果実風味のプロバイオティック乳飲料、組成:タンパク質:3.0g/100ml、糖質:4.5g/100ml、脂肪:0.0g/100ml、カルシウム:120mg/100ml、ビタミンB2:0.32mg/100ml、ビタミンB6:0.40mg/100ml、ビタミンC:12mg/100ml)
・ スリムクイプジェ(Slimkuipje(登録商標))(低脂肪スプレッドチーズ、実施例6を参照)
・ ゴウドクイプジェ(Goudkuipje(登録商標))(スプレッドチーズ、実施例6を参照)
・ ファンタ・オレンジ(登録商標)(実施例5を参照)
【0108】
結果は、表8に示される。
【0109】
【表8】

【0110】
結論として、本発明の組成物から調製された酵母抽出物そのもの(水中)は、純粋な風味を有し、同じ量の5’−リボヌクレオチドを含む市販の酵母抽出物(アロマイルド(Aromild(登録商標)))と比較してあと味がない。食品用途において、YE1は風味が純粋であり、YE2(アロマイルド(Aromild(登録商標)))と比較してあと味を加えることなく、食品の全体的なフレーバーを改善する。
【0111】
この実施例は、本発明に従う組成物を用いて調製された酵母抽出物が、同じ量の5’−リボヌクレオチドを含む市販の酵母抽出物よりも風味が更により純粋であることを実証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)RNAの実質的な部分が5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままであり、かつRNAの実質的な部分が細胞壁画分と関連したままである条件下で、微生物に自己消化を受けさせることと、
b)自己消化物に固体/液体分離を受けさせ、RNA含有細胞壁画分を回収することと、
c)回収された前記RNA含有細胞壁画分中のRNAを5’−リボヌクレオチドに転換することと、
を含む、5’−リボヌクレオチドを含有する組成物の製造方法。
【請求項2】
d)5’−リボヌクレオチドを含有する画分を前記細胞壁画分から分離することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)における自己消化が、微生物細胞壁の損傷および/または部分的破壊によって開始される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記微生物細胞壁の損傷および/または部分的破壊が、酵素的に実行される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
a)において、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも70%のRNAが、5’−リボヌクレオチドに分解可能な形態のままである請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
a)において、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、最も好ましくは少なくとも40%のRNAが、前記細胞壁画分と関連したままである請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
b)において、前記RNA含有細胞壁画分が、遠心分離またはろ過によって回収される請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
b)において、前記自己消化物が限外ろ過を受け、それにより、RNA含有細胞壁画分と、微生物の可溶性画分から得られるRNAとの混合物が回収される請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
c)において、RNA含有細胞壁画分と、微生物の可溶性画分から得られる回収RNAとの前記回収混合物中のRNAが、5’−リボヌクレオチドに転換される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
c)において、RNAが、好ましくは5’−Fdaseによって、または5’−Fdaseおよびデアミナーゼによって、5’−リボヌクレオチドに酵素的に転換される請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
組成物の塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づいて、少なくとも15%w/wおよび55%w/w未満、好ましくは少なくとも30%w/wおよび55%w/w未満、より好ましくは少なくとも40%w/wおよび55%w/w未満の量の5’−リボヌクレオチドを含む、5’−リボヌクレオチドを含有する組成物。
【請求項12】
5’−AMPおよび5’−IMPの合計量よりも多量の5’−GMP(組成物の塩化ナトリウムを含まない乾燥物に基づく)を含む請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
グルタメートを更に含み、好ましくは、5’−リボヌクレオチドに対するグルタメートの比率が0.1以下であり、より好ましくは0.05以下であり、最も好ましくは0.01以下である請求項11または12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか一項に記載の組成物の食品または飼料における使用。
【請求項15】
減脂肪または低脂肪食品の風味および/または芳香および/または口あたりにおける脂肪感を改善するための、請求項11〜13のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項16】
食品における人工甘味料の付随的な味またはあと味を隠すための、請求項11〜13のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項17】
飲料の風味および/または芳香および/または口あたりにおける特有の野菜感および/または果実感および/またはアルコール感を改善するための、請求項11〜13のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項18】
5’−リボヌクレオチドを含む酵母抽出物の調製における、請求項11〜13のいずれか一項に記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2007−521805(P2007−521805A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548234(P2006−548234)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000120
【国際公開番号】WO2005/067734
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】