説明

5−アミノレブリン酸による子宮頸がん判定・治療システム

【課題】既存のPDTと比較して、副作用も無く安全で、投与方法が簡単で、治療後の遮光時間が短かく、簡便な外来治療ができる子宮頸がんのPDTに有効なシステムの提供。
【解決手段】(a)5−アミノレブリン酸(ALA)類を経口投与するステップ;(b)380nm〜420nmの波長の励起光を子宮頸部に照射して、赤色の蛍光を検出することで、プロトポルフィリンIX(PpIX)蓄積部位を判定し、切除すべき病変部組織の範囲を判断するALA−PDDステップ;(c)625nm〜642nmの波長の光を照射し、病変部組織を壊死させるALA−PDTステップ;の各ステップを順次備えた5−アミノレブリン酸による子宮頸がん判定・治療(ALA−PDD/PDT)に用いられる5−アミノレブリン酸−光線力学的診断(ALA−PDD)手段と5−アミノレブリン酸−光線力学的療法(ALA−PDT)手段とを具備した子宮頸がん判定・治療システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−アミノレブリン酸による子宮頸がん判定・治療(以下「ALA−PDD/PDT」ともいう)システムに関し、より詳しくは、5−アミノレブリン酸−光線力学的診断(以下「ALA−PDD」ともいう)ステップと5−アミノレブリン酸−光線力学的療法(以下「ALA−PDT」ともいう)ステップとを備えたALA−PDD/PDTシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
子宮頸がんは、女性生殖器の悪性腫瘍であって、発症する平均年齢はおよそ50歳であるが、20歳の若い女性でも発症することがある。子宮頸がんは本質的には性感染症であり、ヒト−パピローマウイルス(HPV)感染と頸部新生物の発症は強い関連があるとされるが、他の因子も悪性への変質に寄与していると思われる。例えば,喫煙は頸がんの危険増加と関連があるとされる(例えば、メルクマニュアル第17版日本語版、インターネット版等参照)。
【0003】
従来広く行われている子宮頸がんの治療方法としては、円錐切除を挙げることができ、腫瘍部分が切除されていれば転移の可能性がないことから、子宮頸がんを含む上皮内がんについて一般的に用いられている。しかし、子宮頸がんにこの方法を用いると治療後に流産が多くなるという問題があった。
【0004】
近年、光に反応する化合物を投与し、光を照射することにより標的箇所を治療する方法である光線力学的療法(Photodynamic Therapy:以下「PDT」ともいう)が開発されてきた。PDTは、治療が簡便で、生体侵襲性が小さく、臓器温存が可能であることなどから、近年、QOLを考慮した新たながん治療法として注目されている。しかし、現在一般的に用いられているポルフィマーナトリウム(商品名:フォトフリン)を用いるPDTは、1989年10月より370例以上の症例において、1回のPDTで96%以上が、2回目のPDTで98%以上が治癒している。しかし、フォトフリンは代謝が遅く、日光過敏症を発症するのを防ぐために遮光管理下で約40日間過ごす必要がある等の問題がある。
【0005】
また、治療用光源として従来用いられてきた高出力型レーザー機器では、レーザー光照射の際の照射径が小さく、広い面積の患部に照射する場合には長時間の照射が必要となり、患者に多大な負担をかける場合があったり、装置が大型になり、コスト面や可搬性に問題が生じる場合があった。
【0006】
一方、5−アミノレブリン酸(以下「ALA、又はδ−アミノレブリン酸」ともいう)は、動物や植物や菌類に広く存在する色素生合成経路の中間体として知られており、通常5−アミノレブリン酸シンセターゼにより、スクシニルCoAとグリシンとから生合成される。ALA自体には光感受性はないが、細胞内でヘム生合成経路の一連の酵素群によりプロトポルフィリンIX(以下「PpIX」ともいう)に代謝活性化され、直接腫瘍組織や新生血管へ特異的に集積した後にレーザー光を照射すると、光の励起により生ずる一重項酸素が細胞を変性・壊死させることができると考えられている。
【0007】
カナダクイーンズ大ケネディー教授が、ALAを塗布し、光を照射することで皮膚がん、子宮内膜等の悪性及び非悪性阻止の異常及び病変の治療方法(特許文献1参照)について提案して以来、ALAを用いた様々な部位の病変部等の診断及び治療方法が報告されており、子宮頚部を含む組織について、δ−アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩を含有する腫瘍診断剤を投与後に体内又は体外から採取した試料中のポルフィリン類を測定することにより診断する腫瘍診断剤(特許文献2参照)や、膣、子宮頚管および子宮の裏打ちを含む、その最上層が上皮細胞からなる身体表面である上皮被覆表面の、悪性の、悪性になる前のおよび非悪性の異常または疾患であって、腫瘍または他の新生物、特に基底細胞がん、形成異常または他の増殖性疾病、および他の疾病又はバクテリア性、ウィルス性或いは真菌性による感染、たとえばヘルペスウィルス感染等による疾病、疾患に対して、光化学的治療を行うためのALA等の光増感性化合物を内包するリポソームを含むことを特徴とする光線力学療法製剤を、子宮頸がんを含む転移が少ない限局性のがん組織に直接注入し、前記導入用カテーテルを通じて、ダイオードレーザーファイバーをがん組織に挿入し、600〜800nm、好ましくは650〜700nmの波長を持つ光の照射によって、前記がん組織を治療する動注化学療法(特許文献3参照)や、光エネルギー源から放射された放射線の局部的照射による物質であって、診断時には、5−アミノレブリン酸(ALA)、または5−アミノレブリン酸エステル(E−ALA)を前駆体とする物質、特に、プロトポルフィリンIX(PpIX)から放射された蛍光の以降の検知による、組織病変部または細胞病変部の診断または治療に使用できる調剤薬を調製するための5−アミノレブリン酸エステル(E−ALA)溶液(特許文献4参照)が提案されている。
【0008】
また、PpIXは波長405nmの励起光を受けると、波長635nmにピークを持つ赤色蛍光を発することから、光線力学的診断(Photodynamic diagnosis:以下「PDD」ともいう)による腫瘍の診断に用いることができることが知られており、ALA−PDDとして、脳腫瘍や膀胱がんの診断、貧血予防やアトピー対策などでの用途が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2731032号公報
【特許文献2】特開2006−124372号公報
【特許文献3】特開2006−056807号公報
【特許文献4】特表2002−512205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
既存のPDTと比較して、副作用も無く安全で、投与方法が簡単で、治療後の遮光時間が短かく、簡便な外来治療ができる子宮頸がんのPDTに有効なシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、患者に対するALAの投与を、ALAをジュース等の非常の飲み易い溶媒に溶かして服用させることで、患者の負担を非常に少なくし、また、LED(Light Emitting Diode)光源を利用してALA−PDD/PDTを2回以上繰り返して行うことで、正常部位の損傷が少なく、かつ病変部組織の除去がより効果的に行うことができることを確認し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、(1)(a)5−アミノレブリン酸(ALA)類を経口投与するステップ;(b)380nm〜420nmの波長の励起光を子宮頸部に照射して、赤色の蛍光を検出することで、プロトポルフィリンIX(PpIX)蓄積部位を判定し、切除すべき病変部組織の範囲を判断するALA−PDDステップ;(c)625nm〜642nmの波長の光を照射して、病変部組織を壊死させるALA−PDTステップ;の各ステップを順次備えた5−アミノレブリン酸による子宮頸がん判定・治療(ALA−PDD/PDT)に用いられる5−アミノレブリン酸−光線力学的診断(ALA−PDD)手段と5−アミノレブリン酸−光線力学的療法(ALA−PDT)手段とを具備した子宮頸がん判定・治療システムや、(2)ALA−PDD/PDTが、(a)〜(c)の各ステップに続いて、(d)再度、380nm〜420nmの波長の励起光を子宮頸部に照射して、赤色の蛍光を検出することで、PpIX蓄積部位を判定し、切除すべき病変部組織の範囲を判断するALA−PDDステップ;及び(e)再度、625nm〜642nmの波長の光を照射して、病変部組織を壊死させるALA−PDTステップ;の各ステップを順次備えている上記(1)記載の子宮頸がん判定・治療システムや、(3)病変部組織が、パピローマウイルス感染による病変部組織であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の子宮頸がん判定・治療システムや、(4)フラッシュライト型紫色LEDにより、380nm〜420nmの波長の励起光を照射するALA−PDD手段を備えたことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の子宮頸がん判定・治療システムや、(5)ALA−PDDステップにおいて、PpIXを励起させるために励起光を導光照射する光源用細径光ファイバーと、該光源用細径光ファイバーと一体化され、前記励起光によって励起されたPpIXが発する蛍光を受光し、検出器に導光する計測用細径光ファイバーとを有するALA−PDD手段を備えたことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の子宮頸がん判定・治療システムや、(6)ポリマーライトガイド導光赤色LEDにより、625nm〜642nmの波長の光を照射するALA−PDT手段を備えたことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載の子宮頸がん判定・治療システムに関する。
【0013】
また本発明の子宮頸がん判定・治療システムの実施の態様には、(1)(a)5−アミノレブリン酸(ALA)類を経口投与するステップ;(b)380nm〜420nmの波長の励起光を子宮頸部に照射して、赤色の蛍光を検出することで、プロトポルフィリンIX(PpIX)蓄積部位を判定し、切除すべき病変部組織の範囲を判断する5−アミノレブリン酸−光線力学的診断(ALA−PDD)ステップ;(c)625nm〜642nmの波長の光を照射して、病変部組織を壊死させる5−アミノレブリン酸−光線力学的療法(ALA−PDT)ステップ;の各ステップを順次備えた5−アミノレブリン酸による子宮頸がん判定・治療(ALA−PDD/PDT)方法や、(2)光線力学的療法が、(a)〜(c)の各ステップに続いて、(d)再度、380nm〜420nmの波長の励起光を子宮頸部に照射して、赤色の蛍光を検出することで、PpIX蓄積部位を判定し、切除すべき病変部組織の範囲を判断するALA−PDDステップ;及び(e)再度、625nm〜642nmの波長の光を照射して、病変部組織を壊死させるALA−PDTステップ;の各ステップを順次備えている上記の子宮頸がん判定・治療方法や、(3)病変部組織が、パピローマウイルス感染による病変部組織であることを特徴とする上記の子宮頸がん判定・治療方法や、(4)フラッシュライト型紫色LEDにより、380nm〜420nmの波長の励起光を照射することを特徴とする上記の子宮頸がん判定・治療方法や、(5)ポリマーライトガイド導光赤色LEDにより、625nm〜642nmの波長の光を照射することを特徴とする上記の子宮頸がん判定・治療方法や、(d)のALA−PDDステップが、(c)ALA−PDTステップの2時間後に行われることを特徴とする上記の子宮頸がん判定・治療方法が含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の子宮頸がん判定・治療システムを用いると、副作用も無く安全で、投与方法が簡単で、治療後の遮光時間が短く、子宮頸がんの簡便な外来治療(ALA−PDD/PDT)が可能となる。また、本発明のALA−PDD/PDTによると経過は良好であり、有効な方法といえる。もし1回で違残が生じても何回でも追加治療は可能である。広い範囲に病変がある症例のLEEP(Loop Electrosurgical Excision Procedure)は妊娠分娩にも悪影響があるのに対して、本発明のALA−PDD/PDTによると影響は少ない。さらに、治療用光源として従来用いられてきた高出力型レーザー機器に代えてLED光源を用いたことにより、光照射の際の照射径が大きく、広い面積の患部に照射する場合にも長時間の照射が必要なく、患者に多大な負担をかけない上に、装置がコンパクトになり、コスト面や可搬性において有利である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のALA−PDD/PDTシステムとしては、患部組織を効率的に壊死させる方法としては、(a)ALAを経口投与するステップ;(b)380nm〜420nmの波長の励起光を局所に照射して、610nm〜650nmの波長を放射しているPpIX蓄積部位を検出するALA−PDDステップ;(c)625nm〜642nmの波長の光を照射して、患部細胞を壊死させるALA−PDTステップ;必要に応じて、(d)再度、380nm〜420nmの波長の励起光を照射して、610nm〜650nmの波長を放射しているPpIX蓄積部位を検出するALA−PDDステップ;(e)再度、625nm〜642nmの波長の光を照射して、患部組織を壊死させるALA−PDTステップ;の各ステップを順次備えたALA−PDD/PDTに用いられる、ALA−PDD手段とALA−PDT手段とを具備したシステムであれば特に制限されず、上記ALA−PDDは、病変部の治療(手術)において、病変部の範囲を判断する際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を投与し、色素生合成経路を経て誘導されたPpIXが、病変部組織内に特異的に蓄積し、紫色〜青色の励起光を照射すると、赤色の蛍光を放射することを利用して、赤色の波長を検出することで、病変部の範囲を判断する方法・手段であり、上記ALA−PDTは、光に反応する化合物を投与し、光を照射することにより病変部組織を治療するPDTを行う際に、それ自身は光増感作用を有さない、ALA類を投与し、色素生合成経路を経て誘導されたPpIXが、病変部組織内に特異的に蓄積し、光照射されることにより周囲の酸素分子を光励起し、その結果生成する一重項酸素が、その強い酸化力による殺細胞効果を有することを利用する病変部組織を壊死させる方法・手段である。
【0016】
上記病変部組織としては、子宮頸部のパピローマウイルス感染による病変部組織を挙げることができる。
【0017】
上記経口投与されるALA類としては、ALA若しくはその誘導体又はこれらの塩が含まれ、5−アミノレブリン酸とも呼ばれるALAは、式HOOC−(CH−(CO)−CH−NHで表されるアミノ酸の一種であり、その代謝が24時間と早いことから、光線過敏症などの副作用が極めて少なく、例えば特開平4−9360号公報等に記載された化学合成法や、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法によっても製造することができる。
【0018】
上記ALA類のうち、ALAの誘導体としては、ALAのエステル基とアシル基を有するものを挙げることができ、好ましくはメチルエステル基とホルミル基、メチルエステル基とアセチル基、メチルエステル基とn−プロパノイル基、メチルエステル基とn−ブタノイル基、エチルエステル基とホルミル基、エチルエステル基とアセチル基、エチルエステル基とn−プロパノイル基、エチルエステル基とn−ブタノイル基の組合せを例示することができる。
【0019】
また、ALA類のうち、ALA又はその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩、及びナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等を挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において、溶液として用いることもでき、その作用はALA及びその誘導体の場合と同一である。
【0020】
以上のALA類は、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口投与される。また、ALA類は水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、いずれかを単独で又は2種類以上を適宜組み合わせて用いて経口投与することができるが、水和物又は溶媒和物の形成は、ALA類をジュース、果汁、牛乳、スープ等の液状食品に溶かして形成をおこなうことが、患者にとってALA類の投与が容易となることから好ましく、なかでもジュースを好適に挙げることができる。ALA類の投与量は、ALA類の合計が、ALA換算で体重1kgあたり、1mg〜100mg、好ましくは10mg〜50mg、より好ましくは15mg〜25mg、さらに望ましくは20mgである。
【0021】
上記のALA−PDDステップにおいてはALA−PDD手段が用いられる。ALA−PDD手段としては、PpIXの励起光照射手段と、励起状態のPpIX特有の赤色蛍光検出手段、あるいは、これらが一体化された手段を例示することができる。PpIXの励起光照射手段から照射する光としては、PpIXを励起させることで、PpIX特有の赤色蛍光が観察できる波長の光が好ましく、いわゆるソーレー帯に属するPpIXの吸収ピークに属する紫外光に近い紫色の波長であって、具体的には380nm〜420nm、好ましくは400〜410nm、特に好ましくは403〜407nm、中でも405nmの波長を有する励起光を挙げることができる。
【0022】
上記励起光を照射する光源としては、公知のものを使用することができ、例えば紫色LED、好ましくはフラッシュライト型紫色LEDや、半導体レーザー等のレーザー光を挙げることができるが、装置がコンパクトになり、コスト面や可搬性において有利である紫色LED、中でもフラッシュライト型紫色LEDや、紫色半導体ダイオードを好適に例示することができる。また、PpIX蓄積部位を判定し、切除すべき病変部の範囲を判断するために、赤色の蛍光、具体的には610nm〜650nm、好ましくは625〜638nmの波長の蛍光を検出するための赤色蛍光検出手段としては、肉眼による検出手段やCCDカメラによる検出手段に限らず、膣拡大鏡(コルポスコープ)等の機器を用いた検出手段を挙げることができる。
【0023】
励起光照射手段と赤色蛍光検出手段とが一体化されたALA−PDD手段としては、光源・計測用細径光ファイバーを挙げることができ、蓄積されたPpIXを励起させるALA−PDDステップにおいて照射する励起光の光源としては、被検体の生体組織の微小に点在する腫瘍についてもPpIXの検出を行うことを可能とするために放射照度が強く、精確な自動識別を可能とするために照射面積が狭い半導体レーザー光源が好ましく、励起光を導光して一端から外部へ出射する励起光導光部を有することが好ましく、励起光導光部としては、具体的には細径光ファイバーを挙げることができる。光源に用いられる素子としては、InGaN等の半導体混晶を用いることができ、InGaNの配合比を変えることで、紫色光を発振することができる。具体的には直径5.6mm程度のコンパクトなレーザーダイオードを好適に例示することができる。レーザーダイオードから4レーザーアウトプットのポートと、スペクトル測定用のポートはビルトイン高感度スペクトロスコープで連結されたデスクトップPCほどのサイズである装置を例示することができる。また、前記励起光によって励起されたPpIXが発する蛍光を受光する受光工程においては計測用細径光ファイバーが用いられ、該計測用細径光ファイバーは前記光源用細径光ファイバーと一体化され、受光した蛍光を検出器に導光してPpIX蓄積部位の判定を行う。
【0024】
上記のALA−PDD/PDTにおけるALA−PDDステップ(b)は、ALA類を経口投与してから30分〜8時間、好ましくは1時間から6時間、より好ましくは2時間から5時間、さらに好ましくは3.5時間〜4.5時間後に実施することが病変部組織と正常組織とのPpIX濃度の差が大きくなるため好ましい。また、病変部組織を完全に壊死させるためにALA−PDDステップとALA−PDTステップを2回以上繰り返すこともできる。その場合、ALA−PDDステップ(d)はALA−PDTステップ(c)を行った後、30分〜4時間後、好ましくは1〜3時間後、より好ましくは1.5〜2.5時間後、特に好ましくは2時間に実施することが病変部組織と正常組織とのPpIX濃度の差が大きくなるため好ましい。
【0025】
上記のALA−PDTステップにおいては、切除すべき病変部組織の範囲に625nm〜642nmの波長の光、好ましくは630〜640nm、更に好ましくは635nmの波長の光を照射することができるALA−PDT手段が用いられる。上記光を照射する光源としては、公知のものを使用することができ、例えば赤色半導体レーザー、赤色LED、強い赤色発光スペクトルをもつ放電ランプ等を挙げることができるが、装置がコンパクトになり、コスト面や可搬性において有利である波長635nmのLED光源、とりわけPDT用ポリマーライトガイド導光赤色LEDを好適に例示することができる。また、赤色半導体レーザーを光源とする場合、レーザーのパワー密度は、20mW/cm〜200mW/cmが好ましく、エネルギー密度は、25J/cm〜100J/cmが好ましい。レーザー光は、連続光であってもよく、パルス光であってもよいが、パルス光を利用することにより、正常な皮膚表面への損傷を小さくできる点で、パルス光がより好ましい。具体的な照射方法としては、子宮頸部病変をコルポスコープにて、観察・観察しながら、例えば100J/cmのエネルギー密度で照射する方法を挙げることができ、患部に照射したときの照射径が、10mm以上であることが好ましく、15mm以上であることが、患部への照射時間が短くなることから好ましい。
【実施例1】
【0026】
[治療方法]
被検者は、外来治療であった3名である。自宅にて5−ALA1g(20mg/kg)を治療開始予定時間の約4時間前にジュースなどに溶かして内服投与する。内服後は食事をしないように指導し治療予定時間の1時間前に外来を受診させる。5−ALAは腫瘍細胞などの活動性のある細胞に選択的に取り込まれ細胞内でプロトポルフィリンIX(PpIX)に生合成され、波長405nmの紫青色の光を照射すると赤色の蛍光を発する。まずPDD用のフラッシュライト型紫色LEDないし半導体レーザーを用いて腫瘍組織が発する赤色の蛍光量を測定しPDDを行った。次にPpIXの励起波長である波長635nmの赤色のLED光源・PDT用ポリマーライトガイド導光赤色LEDを照射して、腫瘍組織を光化学反応にて治療した。照射径は従来の10mmより広くなり約15mm〜20mmの照射が可能になった。一回の照射は5〜6分で、照射残しが無いように照射する。照射後さらにPDDを再度行いPpIXが検出される場合には必要に応じてPDTを追加した。治療当日のみは強い光に当たらない様に指導して帰宅させる。
【0027】
[結果]
現在まで3例を経過観察中で、治療後3ヶ月の治療効果判定に至っていないが、コルポ像や細胞診の所見からは明らかに細胞に変化が見られ有効である。PHEとEDLによるPDTと比較すると反応はマイルドであり、治療部位に出血壊死は見られず頚管炎などの炎症も軽度の為発熱する事も無く治療後に患部を消毒する必要もなかった。症例1;CINIII(高度異形成)では4日目の細胞診にて核は残るも細胞質融解の著明なPDTの特徴的な細胞が見られ、CINIII細胞は消失した。HPV感染の所見でclassIIIと判定したが、4W+3d後と8W+3d後の細胞診では異常細胞が無くclassIとなった。12週後に組織検査を行い治療効果判定の予定である。症例2;CINIII(高度異形成)も2W+5d後の細胞診に於いて修復細胞やEC−CellのN/C比の高い細胞が見られ、classIIIと判定されたがCINIII細胞は消失していた。膣の側から子宮頚部を覗いて、コルポスコピーで拡大したコルポスコープ像(コルポ像)も明らかに異常所見が無くなり治療効果は十分にあると思われた。症例3CINIII(上皮内がん)も2W+5d後の細胞像でCINIII細胞は消失しコルポ像も異常所見が明らかに弱くなっていた。また、PDDも病変部はPpIXの存在が明らかに観察された。また全ての症例で膣壁もPpIXが存在しており、恐らくHPVの感染部位もPpIXが生成していると思われた。一方、皮膚にはPpIXは検出されなかった。
【0028】
[術後経過]
経過は良好であり、副作用も無く安全で簡便な外来治療が出来る有効な方法と考えられる。もし1回で違残が生じても何回でも追加治療は可能である。広い範囲に病変がある症例のLEEP(Loop Electrosurgical Excision Procedure)は妊娠分娩にも悪影響があるので、今後ALA−PDTのニーズも多くなると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)の各ステップを順次備えた5−アミノレブリン酸による子宮頸がん判定・治療(ALA−PDD/PDT)に用いられる5−アミノレブリン酸−光線力学的診断(ALA−PDD)手段と5−アミノレブリン酸−光線力学的療法(ALA−PDT)手段とを具備した子宮頸がん判定・治療システム。
(a)5−アミノレブリン酸(ALA)類を経口投与するステップ;
(b)380nm〜420nmの波長の励起光を子宮頸部に照射して、赤色の蛍光を検出することで、プロトポルフィリンIX(PpIX)蓄積部位を判定し、切除すべき病変部組織の範囲を判断するALA−PDDステップ;
(c)625nm〜642nmの波長の光を照射して、病変部組織を壊死させるALA−PDTステップ;
【請求項2】
ALA−PDD/PDTが、(a)〜(c)の各ステップに続いて、以下の(d)及び(e)の各ステップを順次備えている請求項1記載の子宮頸がん判定・治療システム。
(d)再度、380nm〜420nmの波長の励起光を子宮頸部に照射して、赤色の蛍光を検出することで、PpIX蓄積部位を判定し、切除すべき病変部組織の範囲を判断するALA−PDDステップ;
(e)再度、625nm〜642nmの波長の光を照射して、病変部組織を壊死させるALA−PDTステップ;
【請求項3】
病変部組織が、パピローマウイルス感染による病変部組織であることを特徴とする請求項1又は2記載の子宮頸がん判定・治療システム。
【請求項4】
フラッシュライト型紫色LEDにより、380nm〜420nmの波長の励起光を照射するALA−PDD手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の子宮頸がん判定・治療システム。
【請求項5】
ALA−PDDステップにおいて、PpIXを励起させるために励起光を導光照射する光源用細径光ファイバーと、該光源用細径光ファイバーと一体化され、前記励起光によって励起されたPpIXが発する蛍光を受光し、検出器に導光する計測用細径光ファイバーとを有するALA−PDD手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の子宮頸がん判定・治療システム。
【請求項6】
ポリマーライトガイド導光赤色LEDにより、625nm〜642nmの波長の光を照射するALA−PDT手段を備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の子宮頸がん判定・治療システム。

【公開番号】特開2011−1307(P2011−1307A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146316(P2009−146316)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(508123858)SBIアラプロモ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】