説明

5−アミノレブリン酸の有効性予測方法

【課題】5−アミノレブリン酸−光線力学的療法(ALA−PDT)又は5−アミノレブリン酸−光線力学的診断(ALA−PDD)の施術前に、生体内に投与する5−アミノレブリン酸(ALA)の有効性の判定方法、及びそれらのためのキットを提供すること。
【解決手段】がん患者から採取した生体試料における、PEPT1(ペプチドトランスポーター1)の発現量が多い場合、また、がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異を検出する場合に、5−アミノレブリン酸(ALA)類を投与することが、ALA−PDT又はALA−PDDに有効であることを確認した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−アミノレブリン酸類投与による光線力学治療の有効性を手術前に判断しうる有効性予測方法に関し、さらに詳しくは、5−アミノレブリン酸類投与後のPEPT1発現とp53の変異の有無を確認することを特徴とする5−アミノレブリン酸−光線力学的療法や5−アミノレブリン酸−光線力学的診断の手術前有効性予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内のがんによる死亡率の年次推移は、20年前から大きな変化が見られていない。このことは、現在の治療だけでは、がんを克服することが困難であることを示している。がんという疾患を克服するためには、全身に存在するがん細胞や目に見えない微小ながんの転移に適用可能で、進行がん(再発がん、転移がん)を食い止める必要があるが、今後高齢化社会を迎えるにあたり、生活の質(Quality of Life:QOL)を高いレベルで維持できる新しい治療技術の普及が急務であり、その要請はますます強くなると考えられる。
【0003】
光線力学的療法(Photodynamic Therapy:以下「PDT」ともいう。)は、光に反応する化合物を投与し、光を照射することにより標的箇所を治療する方法であり、治療が簡便で、生体侵襲性が小さく、臓器温存が可能であることなどから、近年、QOLを考慮した新たながん治療法として注目されている。PDTは、投与されたポルフィリン関連化合物が直接腫瘍組織や新生血管へ特異的に集積した後、レーザー光などの光の励起により生ずる一重項酸素が細胞を変性、壊死に陥らせることにより治療効果を発揮するものである。
【0004】
現在、PDTは、早期肺がん(病期0期又は病期I期肺がん),表在型早期胃がん,表在型食道がん,子宮頸部初期がん及び異形成に対して保険適用されている。がん治療を目的に国内で承認されている光増感剤にはヘマトポルフィリン誘導体のポルフィマーナトリウム(商品名:フォトフリン)や、植物クロロフィル由来のタラポルフィンナトリウム(商品名:レザフィリン)がある。ポルフィマーナトリウムは代謝が遅く、表皮組織付近に集積しやすい性質を持っているため、日光過敏症をおこす。患者は治療後約1ヵ月間、遮光された環境で生活する必要がある。タラポルフィンナトリウムは皮膚への残留性が低く、日光過敏症がより軽度で、組織透過性のよりよい長波長側(664nm)でのレーザー光で励起可能であるという特徴を有している。その他、がん治療以外にも、ベルテポルフィン(ビスダイン)が滲出型加齢性黄班変性症による脈絡膜新生血管に対して優れた治療効果を持つことが証明され、国内においては2003年10月に承認されている。
【0005】
また、5−アミノレブリン酸(以下「ALA」ともいう)は動物や植物や菌類に広く存在する、生体内に含まれる天然アミノ酸の一種であり、クロロフィルやヘムの共通前駆体として細胞内で代謝を受ける。ALAは他のポルフィリン関連化合物と同様に腫瘍組織に選択的に集積する性質を有するが、それ自体には光感受性はなく、細胞内でヘム生合成経路の一連の酵素群によりプロトポルフィリンIX(以下「PpIX」ともいう)に代謝活性化され、がん細胞内で蓄積した後に、光線を照射すると細胞内で一重項酸素を生じ、細胞を変成・壊死させることができるとされており、5−アミノレブリン酸−光線力学的療法(以下「ALA−PDT」ともいう)の研究が進められている。PpIXは405nmの励起光を受けると、635nmにピークを持つ赤色蛍光を発することから、光線力学的診断(Photodynamic diagnosis:以下「PDD」ともいう。)による腫瘍の診断において、ALAを用いる5−アミノレブリン酸−光線力学的診断(以下「ALA−PDD」ともいう、特許文献1参照)への応用が可能であり、現在、ALAは脳腫瘍や膀胱がんの診断、貧血予防やアトピー対策などでの用途が期待されている。
【0006】
一方、ペプチドトランスポーター1(以下「PEPT1」ともいう)は、1994年以降ウサギ、ヒト及びラットの小腸からクローニングされ(例えば、非特許文献1〜4参照)、PEPT1を介した輸送研究が急速に発展してきた。ヒトPEPT1は、小腸上皮細胞の刷子縁膜側に高い発現が認められるプロトン共輸送型ペプチドトランスポーターであり(例えば、非特許文献5参照)、小腸からの栄養吸収のために短鎖ペプチドを輸送するのみならず、βラクタム抗生物質、抗がん剤ベスタチン、抗ウイルス薬バラシクロビルなど、多様な薬剤の消化管吸収に大きな役割を果たしていることで注目を集めている。
【0007】
他方、p53は全長393アミノ酸からなり、N末端ドメイン、コアドメイン、C末端ドメインの3つの領域から構成されているペプチドであり、コアドメインはDNA結合に関与する領域で、がんに認められる変異のほとんどがこの領域に集中していることが知られている。p53タンパク質は多彩な活性によって遺伝子の異常から生体を守る機能を担っており、その主な活性としては、遺伝子に異常が発生した細胞における、遺伝子転写制御を介した細胞周期進行の制御・遺伝子修復酵素の活性化・アポトーシス誘導能等を挙げることができる。p53遺伝子自体に突然変異が生じるとこれらのp53タンパク質の機能が欠損し、腫瘍の発生に至るというメカニズムが考えられている。ヒトがん細胞におけるp53遺伝子の変異は、大腸・胃・乳腺・肺・脳・食道など多くのヒトの腫瘍においてp53遺伝子が突然変異を起こしていることが見い出され、変異したp53タンパク質の異常な蓄積が多くの腫瘍組織において観察されている。さらにがん高発家系においてp53遺伝子に変異が見られることが報告されている(Li-Fraumeni症候群)。また、DNAに損傷が起こると、リン酸化酵素であるATM(ataxia telangiectasia, mutated)が活性化されて、p53のセリン15をリン酸化することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2731032号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Biol. Chem. 270, 6456-63, 1995
【非特許文献2】Nature 368, 563-6, 1994
【非特許文献3】J. Pharma. Exp. Ther. 275, 1631-7, 1995
【非特許文献4】Biochim. Biophys. Acta, 1305,34-8, 1996
【非特許文献5】Pharm. Res. 13, 963-77, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、ALA−PDT又はALA−PDDについて、広く研究・開発が行われるようになったが、ALAを生体内に投与しても、がんの種類によっては、がん細胞に取り込まれるALA量に差が生じて、がん細胞内でALAが変換されたPpIXにレーザー光を照射した場合に、がん細胞を死滅させる効果に差が生じるという問題があった。本発明の課題は、ALA−PDT又はALA−PDDの施術前にALAの有効性を予測する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、ALAをがん細胞に取り込む、細胞表面に存在するトランスポーターの発現と、がん抑制タンパク質p53の変異との関係に注目して鋭意研究を重ねた結果、がん細胞から、mRNAを採取し、既に知られているPEPT1の塩基配列(ヒトPEPT1:GenBank NM_005073、増幅産物402bp)から、以下のオリゴヌクレオチドプライマー: 5’-GAGGGCCAGGAGAAACAAAGAAACAG-3’(forward)(配列番号1)及び5’-CAGGAACATCACCCTCGTAACCATCT-3’(reverse)(配列番号2)を用いて、RT−PCRを行うことによって、PEPT1の発現が確認された場合に、ALAが効率よくがん細胞に取り込まれ、ALA−PDT及び/又はALA−PDDに効果があることを確認し、また、がん細胞におけるがん抑制タンパク質p53の遺伝子配列を決定し、がん抑制タンパク質p53が変異せずに野生型として存在する場合に、ALAの投与が、ALA−PDT及び/又はALA−PDDに有効であることを見い出し、本発明を完成するに至った。さらに、本発明者らは、がん細胞におけるp53の15番目のセリンがリン酸化されている場合に、ALAの投与がALA−PDT及び/又はALA−PDDに効果があることを見い出した。本発明はこれら知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち本発明は、[1]5−アミノレブリン酸−光線力学的療法(ALA−PDT)又は5−アミノレブリン酸−光線力学的診断(ALA−PDD)の施術前に5−アミノレブリン酸(ALA)類を投与することの有効性を予測する方法であって、がん患者から採取した生体試料における、PEPT1(ペプチドトランスポーター1)の発現量の多寡を指標として、PEPT1の発現量が多いときに、5−アミノレブリン酸(ALA)類がALA−PDT、及び/又は、ALA−PDDに有効であると判定することを特徴とする有効性予測方法や[2]がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異の有無を指標とし、がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異を検出しないときに、ALA−PDT、及び/又は、ALA−PDDに有効であると判定することを特徴とする、上記[1]記載の有効性予測方法に関する。
【0013】
また本発明は、[3]PEPT1の発現量を、PEPT1遺伝子のmRNAを検出することにより測定することを特徴とする上記[1]又は[2]記載の有効性予測方法や、[4]PEPT1遺伝子のmRNAを、RT−PCR法、FISH法、ノーザンハイブリダイゼーション法、又はリアルタイムPCR法により検出することを特徴とする上記[3]記載の有効性予測方法や、[5]PEPT1の発現量を、ウエスタンブロット法又はELISA法により測定することを特徴とする上記[1]又は[2]記載の有効性予測方法や、[6]がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異を、117〜142番目のコドン、171〜181番目のコドン、234〜258番目のコドン又は270〜286番目のコドンにおいて検出することを特徴とする上記[2]〜[5]のいずれか記載の有効性予測方法や、[7]がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異を、173番目、245番目又は273番目のコドンにおいて検出することを特徴とする上記[6]記載の有効性予測方法や、[8]がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異を、ダイレクトシークエンシング法、MASA法、PCR−DGGE法、DNA FISH法、PCR−SSCP法、PCR−SSOP法、PCR−RFLP法、又はDNA−FISH法により検出することを特徴とする上記[2]〜[7]のいずれか記載の有効性予測方法や、[9]さらに、がん患者から採取した生体試料に、5−アミノレブリン酸(ALA)類を投与した後における、phospho−ser15p53タンパク質の発現量の多寡を指標として、phospho−ser15p53タンパク質の発現量が多いときに、ALA−PDT、及び/又は、ALA−PDDに有効であると判定することを特徴とする上記[1]〜[8]のいずれか記載の有効性予測方法や、[10]phospho−ser15p53タンパク質を、抗phospho−ser15p53抗体を用いて検出することを特徴とする上記[9]記載の有効性予測方法に関する。
【0014】
さらに本発明は、[11]PEPT1の発現量を測定する試薬を備えたことを特徴とする、ALA−PDT又はALA−PDDの施術前に5−アミノレブリン酸(ALA)類を投与することの有効性を判定するためのキットや、[12]PEPT1のmRNAを検出するためのプライマー対、若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えたことを特徴とする上記[11]記載のキットや、[13]PEPT1に特異的に結合する抗体、又は抗体の標識物を備えたことを特徴とする上記[11]記載のキットや、[14]がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異を検出するための、がん抑制タンパク質p53の遺伝子の117〜142番目のコドン、171〜181番目のコドン、234〜258番目のコドン又は270〜286番目のコドンを含む1又は2以上の遺伝子をコードする塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするプローブを備えたことを特徴とする上記[11]記載のキットや、[15]さらに、phospho−ser15p53を検出するための、抗phospho−ser15p53抗体を備えたことを特徴とする上記[11]〜[14]のいずれか記載のキットに関する。
【発明の効果】
【0015】
ALA−PDT又はALA−PDDの施術前に5−アミノレブリン酸類を投与することの有効性を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】細胞の種類によるPEPT1及びPEPT2の発現を示す図である。
【図2】ダイレクトシークエンシング法によるp53遺伝子の変異の検出の様子を示す図である。
【図3】ALA−PDTにより誘導されるp53の安定性とser15のリン酸化に対するpifithrin−αの影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のALA−PDT又はALA−PDDの施術前にALA類を投与することの有効性を予測する方法としては、がん患者から採取した生体試料における、PEPT1(ペプチドトランスポーター1)の発現量の多寡を指標として、PEPT1の発現量が多いときに、ALA−PDT、及び/又は、ALA−PDDに有効であると判定する有効性予測方法であれば特に制限されないが、がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異の有無を検出し、遺伝子変異を検出しない場合、すなわち、がん抑制タンパク質p53の遺伝子が野生型である場合に、ALA−PDT、及び/又は、ALA−PDDに有効であると判定する有効性予測方法を併用することが好ましい。
【0018】
上記ALA−PDTは、光に反応する化合物を投与し、光を照射することにより標的箇所を治療するPDTを行う際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を投与し、色素生合成経路を経て誘導されたPpIXががん細胞内に特異的に集積し、がん細胞内に蓄積したPpIXが、光照射されることにより周囲の酸素分子を光励起し、その結果生成する一重項酸素が、その強い酸化力による殺細胞効果を有することを利用するがんの治療方法であり、上記ALA−PDDは、腫瘍の治療(手術)において、腫瘍の箇所を判断するPDDを行う際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を投与し、色素生合成経路を経て誘導されたPpIXががん細胞内に特異的に集積し、がん細胞内に蓄積したPpIXが青紫色の光(例えば405nm±10nm)をあてると赤色の蛍光(例えば636nm±5nm)を発することを利用して、腫瘍の浸潤範囲を評価することにより、切除すべき腫瘍の箇所を判断する方法である。
【0019】
本発明の有効性予測方法に用いられるがん患者から採取した生体試料としては、がん患者の骨、脳組織、乳房組織、結腸組織、筋組織、神経組織、卵巣組織、前立腺組織、網膜組織、皮膚組織等のがん細胞や、脳脊髄液、心膜液、腹腔液、唾液、血清、尿等を含む体液の他、新生物を有することが疑われる任意の組織や、新生物を有すると考えられる任意の組織を挙げることができ、がん患者から採取する生体試料は標準的手順を用いて取り出すことができ、例えば、バイオプシーによって組織を取り出すことができる。
【0020】
本発明におけるPEPT1の発現量を測定する方法としては、がん患者から採取した上記生体試料において、PEPT1遺伝子のmRNAを検出する方法や、PEPT1タンパク質の発現量を測定する方法を挙げることができる。
【0021】
上記PEPT1遺伝子のmRNAを検出する方法としては、例えば、RT−PCR法、FISH法、ノーザンハイブリダイゼーション法、リアルタイムPCR法等を挙げることができる。これらの方法に用いられるプローブやプライマーは、PEPT1遺伝子の配列情報に基づいて適宜設計し、適当なオリゴヌクレオチド合成装置を用いて適宜作製することができる。
【0022】
上記RT−PCR法としては、当業者において周知の技術を用いて容易に行なうことができるが、具体的には、被検者のがん細胞中のPEPT1遺伝子の転写産物であるmRNA又はその断片に対して相補的な一本鎖DNAを合成し、該DNA又はその断片を特異的に増幅することができるプライマーにより該DNA又はその断片をPCR増幅した後、増幅産物を電気泳動などで検出することができる。RT−PCR法については、例えば、Ishikawaら, J.Clin. Oncol., 28:723-728, 1998などを参照して行なうこともできる。また、FISH(Fluorescent in situ hybridization)法により、被検者のがん細胞中のPEPT1遺伝子の転写状態を検出することができる。
【0023】
上記ノーザンハイブリダイゼーション法におけるハイブリダイゼーションとしては、例えばモレキュラー・クローニング、ア・ラボラトリーマニュアル(Molecular cloning, A laboratory manual)、第3版、第9.52−9.55頁(1989)に記載の方法で行うことができる。使用されるプローブの標識化に用いられる標識物質としては、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質、ランタニド元素、スピン試薬を例示することができる。上記放射性同位元素としては、〔125I〕、〔131I〕、〔H〕、〔14C〕、〔32P〕、〔33P〕、〔35S〕、〔59Fe〕を例示することができる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素を例示することができ、上記蛍光物質としては、シアニン蛍光色素(Cy2、Cy3、Cy5、Cy5.5等)、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートを例示することができ、上記発光物質としては、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリンを例示することができる。
【0024】
上記リアルタイムPCR法としては、例えば、細胞内のトータルRNAやmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、このcDNAを鋳型に目的領域をPCRで増幅し、リアルタイムモニタリング用試薬を用いて増幅産物の生成過程をリアルタイムでモニタリングし解析する方法を挙げることができる。リアルタイムモニタリング試薬としては、例えば、SYBR(登録商標:Molecular Probes社製)GreenIや、TaqMan(登録商標:Applied Biosystems社製)プローブ等を挙げることができる。
【0025】
前記PEPT1タンパク質の発現量を測定する方法としては、がん患者から採取した生体試料において、ウエスタンブロット法やELISA法を用いて測定する方法を例示することができる。
【0026】
上記ウエスタンブロット法としては、タンパク質を、SDSを含むポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で分画し、ニトロセルロースフィルターに移し、抗体により検出する方法を挙げることができ、フィルターへ付着したタンパク質はこれらタンパク質に対する抗体をプローブとすることによって同定できる。抗体検出には標識化二次抗体法を用いることができる。ゲルからフィルターへのトランスファーは多くの場合エレクトロブロッティングによって行われる。PEPT1がコードするタンパク質に対する抗体はモノクローナル抗体のほかポリクローナル抗体でもよく、これらの抗体は常法により作製することができる。
【0027】
上記ELISA法としては、サンドイッチ法(非競合法)と競合法の二つを挙げることができるが、サンドイッチ法によれば、マイクロプレートのウェルやプラスチックチューブなどの固相に、本発明におけるPEPT1等の、目的物質に対する抗体をあらかじめ結合させておき、これにサンプルを添加してサンプル中の目的物質を抗原抗体反応により固相に結合させ、夾雑物を洗い流した後、酵素標識した第二の抗体を添加すると再度抗原抗体反応が起きることで、固相化抗体−目的物質−酵素標識抗体のサンドイッチ構造が構築され、その後遊離の酵素標識抗体を洗い流し、発色基質を添加することで、サンドイッチ構造の量(すなわちサンプル中の目的物質量)に比例して生起する発色反応により目的物質量を定量することができる。一方、競合法によれば、あらかじめ目的物質に対する抗体を結合させた固相に、サンプルと酵素標識抗原を添加して抗原抗体複合体を形成させ、固相に結合しなかった酵素標識抗原を洗い流した後に発色基質を添加し、生成した発色物質の吸光度を吸光度計で測定することによりサンプル中の目的物を定量することができる。
【0028】
本発明におけるp53タンパク質遺伝子の変異を検出する方法としては、1塩基置換(点突然変異)等の遺伝子変異部位を検出することができる方法であれば特に制限されないが、かかる変異を野生型のがん抑制タンパク質p53の遺伝子の塩基配列と上記p53タンパク質遺伝子の塩基配列とを対比することにより見い出すために、ジデオキシヌクレオチドを用いてDNAポリメラーゼの合成を塩基特異的に停止させるジデオキシ法等の、公知のダイレクトシークエンシング法を好適に例示することができる。また、特定位置の塩基置換だけを検出する場合に有用な、20塩基の合成オリゴヌクレオチドと標的塩基配列とのハイブリッド形成の有無を利用したアレル特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション法(MASA法)(Hum. Mutation 2, 112-117, 1993)や、DNA配列をPCRで増幅する際に、その一端にGCに富んだ塩基配列(GCクランプ)をつけ、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(denaturing gradient gel electrophoresis:DGGE)を行って1塩基置換を検出する方法(PCR−DGGE法)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 232-236, 1989)や、特定の遺伝子領域をPCR法により増幅して得られた増幅産物を試料DNAとして、2本鎖DNA断片を1本鎖に解離し、熱変性させた一本鎖DNAが僅かな塩基配列の違いにより高次構造に変化することを応用したPCR−SSCP法(Single Strand Conformation Polymorphism:一本鎖コンフォメーション多型解析法)や、塩基配列特異的プローブ(SSOP)を用いたハイブリダイゼーション法(PCR−SSOP法)や、ある領域をPCR法で増幅した後、点突然変異が生じた部位を切断部位と認識する制限酵素で処理して点突然変異を生じなかったDNAとはサイズの違ったアリルとして検出するPCR−RFLP法(特開平5−308999号公報)や、クローン化された遺伝子やDNA断片を非アイソトープ化合物で標識後、スライドグラス上の染色体DNAとハイブリダイゼーションし、その分子雑種形成部位を蛍光シグナルとして直接染色体上に検出する方法であるDNA FISH法(DNA fluorescence in situ hybridization)等を用いることができる。
【0029】
かかる塩基配列の決定により見い出される本発明におけるがん抑制タンパク質p53としては、GenBankアクセッション番号NP_000537で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質を例示することができ、がん抑制タンパク質p53の遺伝子(例えば、GenBankアクセッション番号NM_000546で表される塩基配列を有する遺伝子)の変異としては、野生型の(正常な)がん抑制タンパク質p53の遺伝子のDNAの塩基配列において、少なくとも1の塩基の変異の結果、アミノ酸配列レベルで野生型のがん抑制タンパク質p53をコードする遺伝子とはいえなくなる遺伝子変異を挙げることができ、ここにおける塩基の変異の種類としては、当該塩基の他の塩基への置換や、当該塩基の欠失や、当該塩基の配列部位への他の塩基の挿入を例示することができる。かかる遺伝子変異の存在する位置としては、がん抑制タンパク質p53の遺伝子の中央部のDNA結合ドメインを含むコアドメイン(102〜292番目のコドン)における、ホットスポットと呼ばれる変異頻度のきわめて高い4ヶ所の保存領域であるII;117〜142番目のコドン、III;171〜181番目のコドン、IV;アミノ酸コドン234〜258番目のコドン、V;270〜286番目のコドンを例示することができ、具体的には、245番目のコドンにおいて見い出される、塩基配列GGCがGACに変異することによるグリシン(Gly)からアスパラギン酸(Asp)へのアミノ酸の変異や、273番目のコドンにおいて見い出される、塩基配列CGTがCATに変異することによるアルギニン(Arg)からヒスチジン(His)へのアミノ酸の変異(Proc. Natl. Acad Sci. USA. 87 : 7555 -7559, 1990)や、173番目のコドンにおいて見い出される、バリン(Val)からメチオニン(Met)へのアミノ酸の変異(Gut. 44:366-71, 1999)等を挙げることができる。
【0030】
本発明の有効性予測方法において、がん患者から採取した生体試料において、ALA−PDT、及び/又は、ALA−PDD施術前に、15番目のセリンの位置でリン酸化しているがん抑制タンパク質p53を検出することで、ALAがALA−PDTに有効であると判断する方法を併用することが好ましい。p53はDNA損傷、UV照射、化学療法剤や放射線処理などによるストレス応答によって活性化を受け、細胞をアポトーシスに導く。活性化される前のp53タンパクの18〜26番目の領域にはユビキチンリガーゼのMDM2タンパクが結合し、ユビキチン−プロテアソーム系によるp53の分解が促進され、不活性化されている。ストレスに応答した細胞ではATM(放射線によるDNAの二本鎖切断に反応)やATR(紫外線と反応)等のリン酸化酵素が活性化し、p53の15番目のセリンがリン酸化される。この15番目のセリンのリン酸化はp53の安定化や転写活性を亢進させると考えられている。15番目のセリンの位置でリン酸化しているがん抑制タンパク質p53の検出方法としては、前記ウエスタンブロット法やELISA法をあげることができる。
【0031】
上記ALA−PDT又はALA−PDDにおいて投与されるALA類としては、ALA若しくはその誘導体又はこれらの塩が含まれ、δ−アミノレブリン酸とも呼ばれるALAは、式HOOC−(CH2)2−(CO)−CH2−NH2で表されるアミノ酸の一種であり、例えば特開平4−9360号公報等に記載された化学合成法や、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法によっても製造することができ、粗精製物は、免疫機能向上に対して有害な物質を含まない限り分離精製することなくそのまま用いることができる。
【0032】
上記ALA類のうち、ALAの誘導体としては、ALAのエステル基とアシル基を有するものを挙げることができ、好ましくはメチルエステル基とホルミル基、メチルエステル基とアセチル基、メチルエステル基とn−プロパノイル基、メチルエステル基とn−ブタノイル基、エチルエステル基とホルミル基、エチルエステル基とアセチル基、エチルエステル基とn−プロパノイル基、エチルエステル基とn−ブタノイル基の組合せを例示することができる。
【0033】
また、ALA類のうち、ALA又はその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩、及びナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等を挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において溶液として用いられ、その作用はALA及びその誘導体の場合と同一である。以上のALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、いずれかを単独で又は2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0034】
本発明のALA類の有効性を判定するためのキットとしては、PEPT1の発現量を測定する試薬を備えたALA−PDT又はALA−PDDの施術前にALA類を投与することの有効性を判定するためのキットであれば特に制限されず、例えば、PEPT1遺伝子のmRNAを検出するためのプライマー対、若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えたキットや、PEPT1の発現量を測定するためのPEPT1に特異的に結合する抗体、抗体の標識物等を備えたキットや、がん抑制タンパク質p53の遺伝子の変異を検出するための、がん抑制タンパク質p53の遺伝子の117〜142番目のコドン、171〜181番目のコドン、234〜258番目のコドン、270〜286番目のコドン等に位置する1又は2以上の遺伝子をコードする塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするプローブを備えたキットを挙げることができ、さらに、phospho−ser15p53タンパク質を検出するための、抗phospho−ser15p53抗体を備えるキットが好ましく、これらのキットを用いることにより、がん治療における5−アミノレブリン酸(ALA)の有効性をALA−PDT、及び/又は、ALA−PDDの施術前により有効に予測することができる。
【0035】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
(細胞の種類によるALA−PDT効果の違い)
【0037】
ヒト胃がん細胞株MKN−45、ヒト胃がん細胞株KKLS、ヒト胃がん細胞株TMK−1、及びヒト大腸がん細胞株HT−29の各細胞株を35mmディッシュに2×10個播種し、16時間後ALA塩酸塩(コスモバイオ社製)最終濃度200μMを添加し、6時間後にDLD−R2レーザー照射装置(ミワテック)を用いて、200mW、5min、21.6J/cm相当を照射してALA−PDTを行った。照射24時間後、培地を除去し、PBS溶液にクリスタルバイオレット溶液(0.5% crystal violet in 25% methanol)を添加し、室温にて5分反応させた。Crystal violet溶液を捨て、流水で洗い、2%デオキシコール酸ナトリウム溶液に溶解させ、室温で10分放置した。イムノリーダー(日本インターメッド社製)を用いて620nmにおける吸光度を測定し、以下の式を用いて細胞増殖抑制率(inhibition ratio: IR)を算出した。
細胞増殖抑制率(%)=(1−T/C)×100
(但し、Tは各濃度における処理群の平均吸光度、Cは対照群の平均吸光度)
結果を以下の表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
次に、各薬剤濃度におけるIR値を片対数グラフにプロットし、容量反応曲線よりIC50値を求めた。その結果を表2に示す。各細胞腫でIC50値に差が認められた。特にMKN−45では、低濃度でIRが高かった。
【0040】
【表2】

【0041】
[結果]
ALA−PDT最終濃度200μMを添加した場合、ALA−PDTの効果は、ヒト胃がん細胞株MKN−45において最も大きく、ヒト胃がん細胞株TMK−1においては最も小さいことを確認した。
【実施例2】
【0042】
(PEPT1遺伝子のmRNAの検出)
実施例1で用いた細胞株から全mRNAを採取し、ヒトPEPT1遺伝子[GenBank:SLC15A1 NM_005073]又はヒトPEPT2遺伝子[GenBank:SLC15A2 NM_021082]中の特定の配列を増幅するために、以下のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてRT−PCRを実施し、PEPT1遺伝子又はPEPT2遺伝子の断片を増幅した。
PEPT1遺伝子に対するプライマー:5’-GAGGGCCAGGAGAAACAAAGAAACAG-3’(forward)(配列番号1)及び5’-CAGGAACATCACCCTCGTAACCATCT-3’(reverse)(配列番号2)
(増幅産物402bp)。
PEPT2遺伝子に対するプライマー:
5’-AGCCATGAATCCTTTCCAGAAAAATGAGTC-3’(forward)(配列番号3)及び5’-AATCAAGCTCCCTGCATTGATGGAC-3’(reverse)(配列番号4)
(増幅産物595bp)。
【0043】
さらに、全mRNA量について、以下のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて各組織におけるβ−アクチンレベルを測定することにより標準化した。
β−アクチン遺伝子[GenBank:X00351]に対するプライマー:5’-GAAAATCTGGCACCACACCTT-3’(forward)(配列番号5)及び5’-TTGAAGGTAGTTTCGTGGAT-3’(reverse)(配列番号6)
(増幅産物591bp)。
結果を図1に示す。
【0044】
[結果]
実施例1でALA−PDTで用いた細胞株のうち、IC50値の低い細胞ほど、PEPT1遺伝子のmRNA発現量が高かったことが示された(図1参照)。このことは、PEPT1の発現が高いほどALAの取込みが多く、ALA−PDTの効果が大きいものと示唆された。
【実施例3】
【0045】
PEPT1遺伝子のmRNA発現とALA取込み量との関連性を明らかにするため、実施例1で用いた細胞株において、ALAを添加後の細胞内におけるPpIX量をHPLC法により測定し、PEPT1遺伝子のmRNA発現量と比較した。各種ヒトがん細胞1x10cellsを15cmディッシュに播種し、24時間後200μMのALAを培地に添加した。培養4時間後に細胞を回収し、HPLCにより細胞内PpIXを測定し、PpIXを算出した。結果を以下の表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
[結果]
PEPT1の発現を認めたMKN−45において高濃度のPpIXが検出され、ALA取込み量はPEPT1の発現量に相関するものと示唆された。
【実施例4】
【0048】
(各細胞における変異p53変異)
がん細胞におけるp53変異の解析では、まずアミノ酸コード領域内のホットスポットを含むcDNA(GenBank:NM_000546)断片をRT−PCRにより作製し、ダイレクトシークエンシング法によりその塩基配列を決定した。DNAの塩基配列は、Thermo Sequenase Cy5.5 Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Amersham Biosciences社製)を用いて解析した。プラスミドDNA2μgにreaction buffer3.5μL、2μMプライマー2μL、Thermo Sequenase DNAポリメラーゼ2μLを添加し、蒸留水で全量を31.5μLに調製し、反応混合溶液とした。予め1μLずつ分注しておいたDNA/ddATP−mix、DNA/ddCTP−mix、DNA/ddGTP−mix、及びDNA/ddTTP−mixに反応混合溶液を7μLずつ添加した。PCR反応は、94℃にて3分間の加熱後、94℃にて50秒、57℃にて50秒、72℃にて2分を32回繰り返した。反応終了後、各反応チューブに10mg/mLグリコーゲン溶液2μL、7.5M ammonium acetate 2μL、氷冷エタノール30μLを添加し、よく撹拌し、氷中に20分間インキュベートした。4℃で12,000rpm、30分間遠心した後、上清を捨てた。200μLの70%氷冷エタノールを添加し、4℃、12,000rpm、5分間遠心し上清を捨てた後、乾燥させた。その後、6μLのloading bufferを添加し、70℃にて3分間の熱変性を行った。SEQ4×4 personal sequencing system(Amersham Biosciences社製)を用いて1,500Vにて、45分間の泳動後、SEQ4×4 Basecaller software(Amersham Biosciences)を用いてDNA塩基配列の解析を行った。ホットスポットを含む領域のDNA断片の作製に用いたプライマーは、
p53-37seq
(5’-ttgccgtcccaagcaatggatgatttgatgctgtc-3’)(forward)(配列番号7)
及び、
p53-2seq
(5’-gcggagattctcttcctctgtgcgccggtctctccca-3’)(reverse)(配列番号8)であった。
また、塩基配列の決定には以下のプライマーを用いた;
p53-37seq
(5’-ttgccgtcccaagcaatggatgatttgatgctgtc-3’)(forward)(配列番号9)、
p53-seq5
(5’-GATGAAGCTCCCAGAATGCCAGAGGCTGCT-3’)(forward)(配列番号10)、
p53-1seq
(5’-acctgccctgtgcagctgtgggttgattccaca-3’)(forward)(配列番号11)、
p53-seq4
(5’-TTGCGTGTGGAGTATTTGGATGACAGAAACACTTTT-3’)(forward)(配列番号12)、
p53-44seq
(5’-gcaagtcacagacttggctgtcccagaatgcaag-3’)(reverse)(配列番号13)、
p53-seq6
(5’-tctcccaggacaggcacaaacatgca-3’)(reverse)(配列番号14)、
p53-2seq
(5’-gcggagattctcttcctctgtgcgccggtctctccca-3’)(reverse)(配列番号15)。
図2に結果を示す。
【0049】
[結果]
図2に示すとおり、上述のダイレクトシークエンシング法により、胃がん細胞株KKLSでは245番目のアミノ酸がGlyからAspに変異していることを確認した。また、大腸がん細胞株HT−29では273番目のArgがHisに変異していることを確認したが、ヒト胃がん細胞株MKN−45は野性型のp53遺伝子を有し、変異は確認されなかった。この結果は、ヒト胃がんMKN−45株は野性型のp53遺伝子を有し(Mol Carcinog. 19:243-53, 1997)、大腸がん細胞株HT−29では273番目のArgがHisに変異しているという報告(Proc. Natl. Acad Sci. USA. 87 : 7555 -7559, 1990)と一致する。
【実施例5】
【0050】
(ALA−PDTにより誘導されるp53の安定性とser15のリン酸化に対するがん抑制タンパク質p53特異的阻害剤の影響)
35mm培養シャーレ上にMKN−45(1x10cells)を播種し、24時間37℃にて、5%COインキュベーター内で培養した。ALA塩酸塩を最終濃度0μM、50μM、100μM、200μMになるように添加し、さらにpifithrin−αを、最終濃度50μMになるようにALA塩酸塩と同時に添加した。薬剤処理後4時間から6時間培養を行い、DLD−R2レーザー照射装置を用いて、200mW、4又は2分間、5又は2.5J/cm相当を照射して、ALA−PDTを行った。24時間後、死細胞を含む培養上清を15mLのコニカルチューブに回収し、PBS(−)溶液により洗浄した。付着細胞はRIPA buffer[150 mM NaCl, 20 mM Tris-HCl (pH 7.5), 0.1% SDS, 1% デオキシコール酸ナトリウム, 1% NP-40 (ナカライテスク株式会社製)、1mM フェニルメチルスルフォニルフルオライド(PMSF)、0.5%プロテアーゼインヒビターカクテル(SIGMA社製)]を用いて溶解し、先に回収した浮遊細胞ペレットに添加し、混合した。細胞溶解液は4℃にて30分間振盪し、15,000rpm、10分間の遠心により不溶物を除去し、ウエスタンブロット解析に用いた。
【0051】
タンパク抽出液に試料溶解液(50 mM Tris-HCl (pH 6.5), 10% glycerol, 2% SDS, 0.1% bromophenol blue, 40 mM dithiothreitol (DTT))を添加後、94℃にて3分間の熱変性を行い、泳動緩衝溶液(20 mM Tris, 200 mM glycine, 0.3% SDS)中、36mAの定電流で12.5% e−PAGEL(ATTO株式会社製)を用いて電気泳動を行った。泳動後のタンパクをポリビニリデンフルオライド(PVDF)膜(日本ミリポア・リミテッド社製)に転写した後、2.5%のスキムミルクを溶解した5%Tween−20添加TBS(TBS-Tween)溶液中室温で30分間PVDF膜を振盪させた。その後、0.25%スキムミルクを含むTBS−Tween溶液(洗浄液)で10分、5分、5分と3回PVDF膜を洗浄した。5%Tween−20添加TBS(TBS-Tween)溶液で2000倍希釈した一次抗体とPVDF膜を室温で2時間反応させた後、洗浄液で同様に3回洗浄した。二次抗体としてペルオキシダーゼで標識された抗マウスIgG又は抗ウサギIgG溶液 (Amersham Pharmacia Biotech UK, Buckinghamshire, UK)を洗浄液で5,000倍希釈し、室温にて40分間反応させ、同様に3回洗浄後、ECL Western blotting detection reagents (Amersham Pharmacia Biotech UK社製)にて目的のタンパクを検出した。なお、抗p53(ab-6)モノクローナル抗体はCALBIOCHEM社(Cambridge,MA)より、抗phospho−Ser15・p53ポリクローナル抗体はCell Signaling社(Beverly,MA)より購入した。pifithrin−αはALEXIS社(Lausen, Switzerland)より購入した。結果を図3に示す。
【0052】
[結果]
図3に示されるように、ALA存在下インビトロでPDTを行った細胞において抗p53抗体と、抗phospho−Ser15 p53抗体が観察され、p53タンパクの安定化とphospho−Ser15p53の発現は、ALA存在下PDTを行った細胞においてのみ見られ、pifithrin-αの存在下では、それらの発現は共に減少することが確認された。
【実施例6】
【0053】
(ALA−PDTの殺細胞効果に対するp53特異的阻害剤の影響)
35mm培養シャーレ上にMKN−45(2×10cells)を播種し、24時間37℃にて5%COインキュベーター内で培養した。ALA塩酸塩を最終濃度0μM、50μM、100μM、200μMになるように添加し、さらに4時間から6時間培養を行った。DLD−R2レーザー照射装置を用いて、200mW、3分、3.7J/cm相当を照射した。また、pifithrin−αは最終濃度50μMを照射後に添加するもの、ALA塩酸塩と同時に添加するもの、添加しないものの3群に分けた。照射72時間後、培地を除去し、crystal violet溶液(0.5% crystal violet in 25% methanol)を500μL添加し、室温で5分反応させた。Crystal violet溶液を捨て、流水で洗い、水を切った後5%デオキシコール酸ナトリウム溶液を1mL添加し、室温で10分間反応させ、イムノリーダーを用いて540nmで吸光度を測定し、実施例1と同様に、細胞増殖抑制率(%)を算出した。その結果、以下の表4に示すようにALA塩酸塩と同時にpifithrin−αを添加した場合、他の2群と比較すると細胞増殖抑制率の低下が認められた。
【0054】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−アミノレブリン酸−光線力学的療法(ALA−PDT)又は5−アミノレブリン酸−光線力学的診断(ALA−PDD)の施術前に5−アミノレブリン酸(ALA)類を投与することの有効性を予測する方法であって、
がん患者から採取した生体試料における、PEPT1(ペプチドトランスポーター1)の発現量の多寡を指標として、PEPT1の発現量が多いときに、5−アミノレブリン酸(ALA)類がALA−PDT、及び/又は、ALA−PDDに有効であると判定することを特徴とする有効性予測方法。
【請求項2】
がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異の有無を指標とし、がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異を検出しないときに、ALA−PDT、及び/又は、ALA−PDDに有効であると判定することを特徴とする、請求項1記載の有効性予測方法。
【請求項3】
PEPT1の発現量を、PEPT1遺伝子のmRNAを検出することにより測定することを特徴とする請求項1又は2記載の有効性予測方法。
【請求項4】
PEPT1遺伝子のmRNAを、RT−PCR法、FISH法、ノーザンハイブリダイゼーション法、又はリアルタイムPCR法により検出することを特徴とする請求項3記載の有効性予測方法。
【請求項5】
PEPT1の発現量を、ウェスタンブロット法又はELISA法により測定することを特徴とする請求項1又は2記載の有効性予測方法。
【請求項6】
がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異を、117〜142番目のコドン、171〜181番目のコドン、234〜258番目のコドン又は270〜286番目のコドンにおいて検出することを特徴とする請求項2〜5のいずれか記載の有効性予測方法。
【請求項7】
がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異を、173番目、245番目又は273番目のコドンにおいて検出することを特徴とする請求項6記載の有効性予測方法。
【請求項8】
がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異を、ダイレクトシークエンシング法、MASA法、PCR−DGGE法、DNA FISH法、PCR−SSCP法、PCR−SSOP法、PCR−RFLP法、又はDNA−FISH法により検出することを特徴とする請求項2〜7のいずれか記載の有効性予測方法。
【請求項9】
さらに、がん患者から採取した生体試料に、5−アミノレブリン酸(ALA)類を投与した後における、phospho−ser15p53タンパク質の発現量の多寡を指標として、phospho−ser15p53タンパク質の発現量が多いときに、ALA−PDT、及び/又は、ALA−PDDに有効であると判定することを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の有効性予測方法。
【請求項10】
phospho−ser15p53タンパク質を、抗phospho−ser15p53抗体を用いて検出することを特徴とする請求項9記載の有効性予測方法。
【請求項11】
PEPT1の発現量を測定する試薬を備えたことを特徴とする、ALA−PDT又はALA−PDDの施術前に5−アミノレブリン酸(ALA)類を投与することの有効性を判定するためのキット。
【請求項12】
PEPT1のmRNAを検出するためのプライマー対、若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えたことを特徴とする請求項11記載のキット。
【請求項13】
PEPT1に特異的に結合する抗体、又は抗体の標識物を備えたことを特徴とする請求項11記載のキット。
【請求項14】
がん抑制タンパク質p53の遺伝子変異を検出するための、がん抑制タンパク質p53の遺伝子の117〜142番目のコドン、171〜181番目のコドン、234〜258番目のコドン又は270〜286番目のコドンを含む1又は2以上の遺伝子をコードする塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするプローブを備えたことを特徴とする請求項11記載のキット。
【請求項15】
さらに、phospho−ser15p53を検出するための、抗phospho−ser15p53抗体を備えたことを特徴とする請求項11〜14のいずれか記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−259353(P2010−259353A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111948(P2009−111948)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(508123858)SBIアラプロモ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】