説明

5−アミノレブリン酸若しくはその誘導体、又はそれらの塩を有効成分とするがんの予防・改善剤

【課題】がんに対して、単なる対処療法ではない、真に有効で副作用の低い予防・改善剤を提供すること。
【解決手段】5−アミノレブリン酸(ALA)若しくはその誘導体又はそれらの塩や、5−アミノレブリン酸(ALA)若しくはその誘導体又はそれらの塩と1種又は2種以上の鉄化合物とを、有効成分として含有するがんの予防・改善組成物や、該組成物を添加したがんの予防・改善用食品又は食品素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−アミノレブリン酸(以下「ALA」ともいう)若しくはその誘導体、又はそれらの塩と、必要に応じて鉄化合物(以下「ALA類と鉄化合物」ともいう)を含有するがんの予防・改善剤に関し、詳しくは、経口、静脈注射、舌下錠、腹腔投与、経腸輸液、経皮剤、座薬等で投与するがんの予防・改善組成物や、がんの予防・改善方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、感染症を克服した人類にとって現在もっとも恐ろしい病気であり、先進国において死因のトップに位置する。高齢化に向かう先進国では急激な患者数の増大が起こっており、医療費高騰が社会問題化している。がんは感染症などと異なり自分自身の細胞の遺伝子異常による疾患のため、正常細胞との差異が少なく、感染症などと異なり抗生物質などの特効薬が存在しない。現在行われているがんの治療法としては、手術による切除、放射線照射、抗がん剤の3つを挙げることができるが、いずれも患者に苦痛を与えQOLを下げるばかりか効果も不十分である。
【0003】
特に抗がん剤については、多くの抗がん剤が、がん細胞の増殖が早い点に着目し、DNA複製や細胞周期に着目した阻害剤であるため、増殖の早い正常細胞にも傷害を与え患者に耐え難い苦痛を与える。奏功例ではがんを縮小することもあるが通常増殖していないがん幹細胞を殺すことができないため、いずれ再発する可能性が高い。近年分子標的薬の開発も盛んだが、効果は限定されている。また、これらを補完する療法として免疫療法や温熱療法などが研究されているが、効果は不明である。
【0004】
一方、ALAは、動物や植物や菌類に広く存在する色素生合成経路の中間体として知られており、通常5−アミノレブリン酸シンセターゼにより、スクシニルCoAとグリシンとから生合成される。ALA自体には光感受性はないが、細胞内でヘム生合成経路の一連の酵素群によりプロトポルフィリンIX(以下「PpIX」ともいう)に代謝活性化され、直接腫瘍組織や新生血管へ特異的に集積した後にレーザー光を照射すると、光の励起により生ずる一重項酸素が細胞を変性・壊死させることができるとされている。また、ALAを用いた光線力学的療法又は光動力学的治療(以下「ALA−PDT」ともいう)も開発され、侵襲性が低くQOLが保たれる治療法として注目されており、ALA等を用いた腫瘍診断・治療剤等が報告されている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、光照射が必須であるためすべてのがんに適用できるわけではない。
【0005】
また、がんの予防と称して各種の健康食品や施術が提案されているが、多くの詐欺事件が摘発されているように、そのニーズは大きいが、有効な予防薬や予防方法は知られていない。さらに、活性酸素をがんの原因と考え、抗酸化物質ががんの予防に役立つと期待されていたが、大規模な試験でベータカロチンが、むしろ喫煙者のがん発生を増やす結果が得られ衝撃を与えたことは記憶に新しい。一般に野菜中心の食事がよいとか30種類以上の食材を採るべきなどと喧伝されているがこれらも統計的な根拠をもっていわれているわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2731032号公報
【特許文献2】特開2006−124372号公報
【特許文献3】特表2002−512205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、がんに対して、単なる対処療法ではなく、真に有効で副作用の低い予防・改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
生命は36億年前の原始の地球で誕生したと言われ、膜を挟んだイオン濃度の差等の化学エネルギーを利用するものや光のエネルギーを利用する原始的な微生物が初期の生物であろうといわれている。現在の緻密な仕組みを持つ生命が誕生する契機になったのは、真核生物の誕生で、16億年前に古細菌に光合成細菌の祖先が寄生したことがきっかけだと言われている。宿主となった古細菌は有機物を嫌気的に代謝して嫌気条件下で生きていたが、光合成細菌の祖先は酸素を利用した効率的なエネルギー獲得が可能だったため、真核生物は酸素の存在下で生きられるばかりか酸素を利用して効率的なエネルギー生産が可能となり、やがては複雑な多細胞生物に進化していったと考えられている。進化の過程で寄生種の遺伝子は宿主の核の遺伝子にその大部分が移り、真核生物のエネルギー生産を司るミトコンドリアに変化したと考えられている。
【0009】
寄生種と宿主のせめぎ合いの痕跡は現在の我々の細胞にも残っている。元々のミトコンドリアの遺伝子情報のほとんどは核に移行したが、エネルギー生産に関する重要な遺伝子はミトコンドリアの中に残されており母系遺伝で核の情報とは独立して伝えられる。また、核の遺伝子異常を察知して細胞自身を排除するシステムにはミトコンドリアが深く関与している。たとえばミトコンドリアのエネルギー生産に必要な膜電位が下がってしまうとアポトーシスで排除されるし、何らかの理由でミトコンドリアの膜が傷つき、ミトコンドリアの電子伝達系で電子を運ぶ役割を果たすシトクロムCが細胞質に漏出する場合も同様にアポトーシスで排除される。また、がん抑制遺伝子として有名なp53遺伝子はミトコンドリアでの好気的糖代謝を促進する働きを持つことも知られている。好気的な代謝時におけるミトコンドリアの監視機構はBax及びBakシステムとして知られ、好気的な条件でのミトコンドリアの異常を察知するシステムと考えられる。
【0010】
がん化は細胞の核の遺伝子異常により引き起こされることは疑う余地がないが、がんの研究では非常に多様な遺伝子の異常が知られており、このことががんの治療を難しくしている。多様性を持つがん細胞に共通な点としては十分な酸素がある条件下でもがん細胞は嫌気的な代謝、解糖系を優先し、ミトコンドリアを用いた好気代謝が低いといわれている。この現象は1950年代にワールブルグによって見いだされ、がんの代謝異常の基礎的な法則としてワールブルグ効果と呼ばれている。現在もっとも正確ながん診断法と言われるPET診断もがんが解糖系を優先するため大量のグルコースを消費することに基づく診断方法である。
【0011】
なぜ、がんは真核生物が取り入れた効率的な好気呼吸を捨てて嫌気代謝を選んだかは興味ある課題であるが、増殖の異常に関する遺伝子はランダムに起こるが、ミトコンドリアの好気的な代謝を使う限りBax及びBakシステムなどの監視システムにより異常細胞は排除されてしまうが、解糖系を優先する変異も同時に起こる場合は、好気代謝を前提としたこれらの監視システムは作動しない。たくさんの増殖異常の変異は起こるが、嫌気代謝を優先する変異が同時に起きた場合だけ排除システムをくぐり抜けたがんが成長してしまうと考えれば理解しやすい。
【0012】
比較的大量のアミノレブリン酸をがん患者に投与すると、代謝物であり、ヘムやシトクロムの前駆体であるPpIXをがんに蓄積することが知られている。このPpIXは光増感物質であるため、ALA投与と光照射と組み合わせたがんの診断や治療が可能であり、それぞれ光動力学的診断(PDD)又は光動力学的治療(PDT)と呼ばれ、既に皮膚がん、脳腫瘍などの一部のがんでは実用化されている。
【0013】
ALA投与でなぜがんにだけPpIXが蓄積するかについては諸説有るがまだ定説はない。人体の細胞中でアミノレブリン酸は、ミトコンドリア内でアミノレブリン酸合成酵素によりグリシンとスクシニルCoAの縮合で生合成される。生合成されたアミノレブリン酸は一度細胞質に移送され、細胞質内のアミノレブリン酸脱水素酵素(ポルフォビリノーゲン合成酵素)により2分子が縮合しピロール環を形成、ポルフォビリノーゲンを形成する。このポルフォビリノーゲン4分子がポルフィリン環を形成してテトラピロール構造を形成し、順次細胞質内の酵素で変換されコプロポルフィリノーゲンIIIとなる。コプロポルフィリノーゲンIIIはABCトランスポーターでミトコンドリアに取り込まれ、PpIXにまで順次酸化され、フェロキラターゼによって2価の鉄が配位されヘムやシトクロムとなる。この時体内の鉄は3価であるが、フェロキラターゼにより2価に還元される。フェロキラターゼはNADHの還元力を使い3価の鉄を2価に還元しPpIXに配位することでヘムを生成する。生成したヘムはヘムとして、またヘム酵素やシトクロムとして様々な働きをするが、とりわけミトコンドリアの中の電子伝達系の重要な構成因子となる。先述のシトクロムCも元をたどればALAから合成される。
【0014】
がん細胞が共通の性質としてミトコンドリアの好気代謝が弱いことはすでに述べた。ミトコンドリアの好気代謝が弱いと言うことはTCAサイクルの低下を伴い、ミトコンドリア内のNADHが不足する。NADHが不足するとフェロキラターゼが鉄を還元できないためヘムが生成できずPpIXが蓄積するとともにヘム不足により電子伝達系はさらに低下する。ミトコンドリアの代謝が落ちるのでALA自身の生産も低下し、負の連鎖はミトコンドリアの好気代謝を低下させ、Bax及びBakシステムの監視をすり抜け、がんの増殖を許すことになる。
【0015】
自身のALA合成能の落ちたがんは周辺からのALAを吸収しポルフィリンのまま排出してしまうのでがんが進行すると全身がALA不足になり、ヘモグロビンが低下するため貧血が、肝臓の毒物分解酵素であるP450が低下するため肝機能が低下する、当然シトクロムも不足するため体力の消耗が激しくなる。
【0016】
この、がん化の悪循環をストップさせるには外生的にALAを投与することが有効で、鉄の同時投与はさらに効果的である。ミトコンドリアの好気代謝が低下し、ALA生産能が下がってきた、がん化の危険性が増した細胞に外生的にALAと鉄を与えると生成されるヘムやシトクロムの作用で電子伝達系が強化され、好気代謝を回復しがん化を予防できる。また、好気代謝の回復はすでに遺伝子に異常をきたしている細胞をアポトーシスに導くことによりがんを治療することができる。がん化が進行している場合はミトコンドリアの活性化は難しいが、ALA投与はがん細胞の細胞質中にも各種のポルフィリンを蓄積させポルフィリンの毒性やポルフィリン排出のためのエネルギー消費でがん細胞を弱らせることができる。光を照射するPDTは公知技術であるが光の照射を伴わなくても上述のメカニズムによりがん細胞にダメージを与えることができる。また、ALAはアポトーシス誘導のシグナルであるシトクロムの原料でもあるので、細胞そのものが持つアポトーシス誘導を手助けする。これらは通常の増殖しているがん細胞はもちろん、休止中のがん幹細胞にも有効である。
【0017】
ALA投与はがん細胞にALAを搾取されていた他の器官にALAを供給し貧血の改善、肝機能の改善、体力の向上などの全身症状の改善にも役立つものである。がん化は遺伝子の異常から起こることはすでに述べたが、遺伝子異常を引き起こす要因には放射線や化学物質も知られているが、最大の原因はミトコンドリアの電子伝達系で発生する活性酸素だと言われている。電子伝達系からの電子の漏れが活性酸素を生成し、DNAを傷つける。ミトコンドリア内でアミノレブリン酸から誘導されたヘムやシトクロムは電子伝達系の複合体のII,III,IVの反応中心であり、また、シトクロムCは複合体IIIからIVに直接電子を運搬する。反応中心であるヘムやシトクロムが不足すると電子がスムースに流れず電子の漏洩がおき、活性酸素を生ずるが、ALAと鉄の投与は電子伝達系をスムースに動かし電子の漏洩を防ぐのでがんの発生を予防する。
【0018】
本発明者等は、たかだかテニスボール大にも満たないがんが、なぜ、体力低下、貧血、肝機能の低下などを引き起こしついには人を死に至らしめるのか、正常細胞ががん化するのは何故なのか、何故がんには様々な種類があり性質が多様なのか、そもそもがんとは何なのかと言った、聞きようによっては哲学的とも聞こえ、多くの生化学者が避けてきた根本的な問題に正面から取り組み、遺伝子異常により生じたがんが免疫をかいくぐり異常増殖するにはミトコンドリア活性の低下、さらに詳しく述べればミトコンドリアの電子伝達系の弱体化が必要であること、がん細胞のミトコンドリア活性低下が、電子伝達系の反応を司るヘムやシトクロムの生成を抑えてしまうため、さらにミトコンドリア活性が低下するという悪循環があること、ミトコンドリアのTCAサイクルの低下が、がん細胞にALAを投与した場合、選択的なポルフィリンの蓄積を引き起こす原因であること、がん細胞が本来ヘムやシトクロムになるべきALAを無駄に消費してしまうことががんの病態、体力低下、貧血、肝機能の低下の原因であることを知るに至った。
【0019】
本発明者らは、ALAの投与方法や併用して用いる化合物について、鋭意検討してきたが、がん化への悪循環を断ち切るためにはミトコンドリアの活性強化が必須であり、このためにはALAと鉄の投与が効果的であること、すなわちALAと鉄の投与はがん細胞、又はがん細胞になりかけている核に異常を生じた細胞のミトコンドリアでヘムやシトクロムを増強し、電子伝達系、TCAサイクルなどのミトコンドリア活性を向上させ、回復できない核の異常を持つ場合はBax及びBakのシステムを呼び起こしカスパーゼIX型のアポトーシスを引き起こすことでがん細胞を排除するのであろうとの予測の下、今回ALAや、ALA類と鉄化合物とを有効成分とする組成物をがん患者に投与すると、驚くべきことに特定の波長の光を照射することなしに、がんの縮小効果やがんの着生阻害をもたらすことを見い出した。さらに、本発明者らはALAと組み合わせる鉄の種類や量に関して検討を続け、5−アミノレブリン酸を含むことを特徴とするがんの予防・改善剤を確立し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち本発明は、(1)5‐アミノレブリン酸(ALA)若しくはその誘導体、又はそれらの塩を有効成分として含有することを特徴とするがんの予防・改善組成物や、(2)さらに、鉄化合物を含有することを特徴とする上記(1)記載のがんの予防・改善組成物や、(3)鉄化合物が、クエン酸第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、デキストラン鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、DTPA鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン五酢酸鉄アンモニウム、トリエチレンテトラアミン鉄、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸アンモニウム鉄アンモニウム、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、塩化第二鉄、三二酸化鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、フマル酸第一鉄、ピロリン酸第一鉄、含糖酸化鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、硫酸鉄、及び硫化グリシン鉄から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項2記載のがんの予防・改善組成物や、(4)上記(1)〜(3)いずれか記載の組成物を添加したことを特徴とするがんの予防・改善用食品又は食品素材や、(5)上記(1)〜(3)いずれか記載の組成物をがんの予防・改善剤の調製に使用する方法や、(6)上記(1)〜(5)いずれか記載の組成物、食品又は食品素材、又はがんの予防・改善剤を投与することを特徴とするがんの予防・改善方法に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のがんの予防・改善組成物を投与することで、基礎代謝を改善することによりがんを改善又は予防できる。本発明は既存の抗がん剤やALA等を用いたPDTとは全くメカニズムが異なり、がん細胞の代謝に注目したものであるので副作用がほとんど無く、薬剤耐性も生じにくく、がんの治療にきわめて有効である。また、既存薬と作用メカニズムが異なるため既存薬と併用することでより効果を高めることも期待される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】膵臓がん患者(45歳男性)において、50mgのALAリン酸塩とモル比で1:0.5のクエン酸第一鉄ナトリウムを含むカプセルの摂取開始からの尿に排出されるポルフィリンの量を示す。
【図2】BALB−c−nu/nuヌードマウス(雄:10週令)にヒト前立腺がん由来培養細胞((PC−3)10cells/mouse)を大腿部の皮下に移植し、がんが十分生育した移植後4週間目からのマウスに、ALAリン酸塩を、それぞれ無投与、15mg/kg.bw.、50mg/kg.bw.とモル比で1:0.5に相当するクエン酸第一鉄ナトリウムを溶かした水溶液を1日一回強制的に経口投与した後の体重の変動を示す。
【図3】BALB−c−nu/nuヌードマウス(雄:10週令)にヒト前立腺がん由来培養細胞((PC−3)10cells/mouse)を大腿部の皮下に移植し、がんが十分生育した移植後4週間目からのマウスに、ALAリン酸塩を、それぞれ無投与、15mg/kg.bw.、50mg/kg.bw.とモル比で1:0.5に相当するクエン酸第一鉄ナトリウムを溶かした水溶液を1日一回強制的に経口投与した後の体重当たりの腫瘍サイズの変動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のがんの予防・改善組成物(予防・改善剤)としては、ALAやその誘導体やそれらの塩から構成されるALA類を含有する組成物であれば特に制限されず、ALA類と鉄化合物とを有効成分や主成分として含有する組成物を特に好適に例示することができる。上記ALAは、δ−アミノレブリン酸とも呼ばれ、式HOOC−(CH2)2−(CO)−CH2−NH2で表されるアミノ酸の一種である。これらALA類は、化学合成、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法によっても製造することができる。
【0024】
ALA類のうち、ALAの誘導体としては、例えば、ALAのエステル基とアシル基を有するものを挙げることができ、好ましくはメチルエステル基とホルミル基、メチルエステル基とアセチル基、メチルエステル基とn−プロパノイル基、メチルエステル基とn−ブタノイル基、エチルエステル基とホルミル基、エチルエステル基とアセチル基、エチルエステル基とn−プロパノイル基、エチルエステル基とn−ブタノイル基の組合せを例示することができる。
【0025】
ALA類のうち、ALA又はその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩、及びナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等を挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において溶液として用いられ、その作用は、ALAの場合と同効なものが好ましい。これらの塩類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明のがんの予防・改善組成物としてALA類と併用される鉄化合物としては、鉄を分子内に有する化合物であって、本発明の効果に害を及ぼさない限り特に制限されず、例えば、クエン酸第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、デキストラン鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、DTPA鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン五酢酸鉄アンモニウム、トリエチレンテトラアミン鉄、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸アンモニウム鉄アンモニウム、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、塩化第二鉄、三二酸化鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、フマル酸第一鉄、ピロリン酸第一鉄、含糖酸化鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、硫酸鉄、硫化グリシン鉄等を挙げることができるが、なかでもクエン酸第一鉄やクエン酸鉄ナトリウムが好ましい。これらの鉄化合物は、それぞれ単独でも、2種以上を混合しても用いてもよく、本発明のがん予防・改善組成物に含有される鉄化合物は、ALA類と同時に又は別個に投与することができる。剤型や投与方法はALAと同様であったとしてもかまわないし、また、別々に用いてもよい。
【0027】
本発明においてがんとは、悪性黒色腫(メラノーマ)、皮膚がん、肺がん、気管及び気管支がん、口腔上皮がん、食道がん、胃がん、結腸がん、直腸がん、大腸がん、肝臓及び肝内胆管がん、腎臓がん、膵臓がん、前立腺がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、脳腫瘍等の上皮細胞などが悪性化したがん・腫瘍や、筋肉腫、骨肉腫、ユーイング肉腫等の支持組織を構成する細胞である筋肉や骨が悪性化したがん・腫瘍や、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫、バーキットリンパ腫等の造血細胞由来のがん・腫瘍などを挙げることができる。
【0028】
本発明のがんの予防・改善組成物はがんの予防・改善剤として有用であり、経口投与剤型静脈注射剤型、又は経皮剤型として用いることができる。経口投与剤型の予防・改善剤の剤型としては、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等を挙げることができ、静脈注射剤型の予防・改善剤の剤型としては、注射剤、点滴剤等を挙げることができる。本発明のがんの予防・改善組成物を注射剤等の水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意して調製することが好ましい。アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって有効成分の分解を防ぐことができる。
【0029】
本発明の予防・改善組成物には、必要に応じて他の薬効成分、栄養剤、担体等の他の任意成分を加えることができる。任意成分として、例えば結晶性セルロース、ゼラチン、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物性及び動物性脂肪、油脂、ガム、ポリアルキレングリコール等の、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、溶剤、分散媒、増量剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。
【0030】
本発明のがんの予防・改善剤に含まれるALA類のうち、もっとも望ましいものは、ALA、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル、これらALAエステル類等の塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩などである。
【0031】
本発明のがんの予防・改善剤の望ましい投与法としては、舌下投与も含む経口投与及び点滴を含む静脈注射、発布剤、座薬等による経皮投与を挙げることができ、これら予防・改善剤に含まれるALA類の量は、ALA塩酸塩換算で成人1人1日当たり、1mg〜10000mgであればよく、望ましくは3mg〜3000mg、さらに望ましくは10mg〜1000mgである。また、鉄の投与量はALAの投与量に対してモル比で0〜100倍であればよく、0.01倍〜10倍が望ましく、0.1倍〜8倍がより望ましい。本発明のがんの予防・改善剤の投与時期は特に制限されず、朝でも夕方でもよいが、投与量が多い場合は複数回に分けて投与する方がよい。
【0032】
本発明のがんの予防・改善組成物は他のがんの予防剤や改善剤や治療剤と組み合わせて使うこともできる。本発明の投与予防・改善組成物は既存の当該分野の医薬品が特定の反応の阻害剤であり、基礎代謝を高めるという本剤の作用メカニズムと異なるため、相加的な、場合によっては相乗的な抗がん効果が期待できる。
【0033】
本発明のがんの予防・改善用食品又は食品素材としては、上記本発明のがんの予防・改善組成物を添加したものであれば特に制限されず、ALA類を含む本発明の組成物や、ALA類と鉄化合物とを含む本発明の組成物を飲食品に添加することによりがんの予防・改善用の食品又は食品素材とすることができる。また、本発明の使用方法としては、上記本発明のがんの予防・改善組成物をがんの予防・改善剤の調製に使用する方法であれば特に制限されず、予防・改善剤の調製に本発明の組成物を使用する方法には、ALA類に鉄化合物や前記任意成分を配合して経口投与剤型や静脈注射剤型の予防・改善剤を調製する方法を例示することができる。さらに、本発明のがんの予防・改善方法としては、上記本発明のがんの予防・改善組成物を投与する方法であれば特に制限されず、投与法としては、前記のように、経口投与、静脈注射、経皮投与を挙げることができる。
【0034】
上記本発明のがんの予防・改善用食品又は食品素材の実施態様として、ALA類単独又はALA類と鉄化合物を添加したことを特徴とし、がんの予防・改善のために用いられるものである旨の表示が付された食品又は食品素材;ALA類単独又はALA類と鉄化合物を添加した食品又は食品素材を、がんの予防・改善用の食品又は食品素材として使用する方法;ALA類単独又はALA類と鉄化合物を、がんの予防・改善用の食品又は食品素材の配合剤として使用する方法;ALA類単独又はALA類と鉄化合物を食品又は食品素材に添加することを特徴とするがんの予防・改善用の食品又は食品素材の製造方法等を挙げることができる。
【0035】
本発明のがんの予防・改善用の食品又は食品素材としては、例えば、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ジュース、牛乳、豆乳、酒類、コーヒー、紅茶、煎茶、ウーロン茶、スポーツ飲料等の各種飲料や、プリン、クッキー、パン、ケーキ、ゼリー、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、冷菓、チューインガム等のパン・菓子類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、チーズ、バター等の乳製品や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ等の各種総菜、栄養食品などを挙げることができる。なお、がんの予防・改善用とは、食品又は食品素材の包装容器や説明書等に、がんの予防・改善に有効である旨表示されている場合など本発明の組成物の使用用途ががんの予防・改善に向けられていることを意味する。
【0036】
以下実施例にて本発明を補足するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
子宮筋腫患者(47才女性)は重度の貧血(RBC250万)と体力不足から手術不適であったが、アミノレブリン酸塩酸塩を朝夕100mgずつ砂糖水に溶解して服用したところ、徐々に体力が回復し、3ヶ月後に貧血も改善したため(RBC300万)手術可能と判断し、手術を実施し完治した。摘出した子宮筋腫は手術不適時に予想された病態より明らかに軽かった。本実施例により、ALA投与が体力回復やがんの治療に有効であることがわかる。
【実施例2】
【0038】
膵臓がん患者(45歳男性)は、摘出手術を受けたが膵頭にがんの残存を見た。術後抗がん剤による治療(ジェムザール(登録商標)イーライリリー社製)と合わせ、50mgのALAリン酸塩とモル比で1:0.5のクエン酸第一鉄ナトリウムを含むカプセルを摂取した。摂取開始からの尿に排出されるポルフィリンの量を図1に示す。がん細胞が存在するとALA投与によりがん細胞で生成するポルフィリンが尿に排出され、その量は、がんの大きさに比例することが知られている。
【0039】
図1より明らかなようにALAの摂取で尿中ポルフィリンは直線的に低下し、がんが縮小していることがわかる。患者は手術後1年を経過しているが、元気で社会復帰しており再発の兆しは見られない。術後がん細胞の残存を見る症例で抗がん剤だけの治療でこれほどの卓効を見ることはなく、ALAの効果であると考えられる。なお、抗がん剤治療時も副作用も少なかった。
【実施例3】
【0040】
事前の診断で2期か3期と診断された大腸がん患者(70歳女性)に50mgのALAリン酸塩とモル比で1:0.5のクエン酸第一鉄ナトリウムを含むカプセルを朝夕各1粒摂取した。2週間後切除術を受けたが、切除されたがんは1期相当であった。ALAの効果でがんが縮小した事が示された。
【実施例4】
【0041】
BALB−c−nu/nuヌードマウス(雄:10週令)にヒト前立腺がん由来培養細胞((PC−3)10cells/mouse)を大腿部の皮下に移植した。がんが十分生育した移植後4週間目のマウスに、ALAリン酸塩を、それぞれ無投与、15mg/kg.bw.、50mg/kg.bw.とモル比で1:0.5に相当するクエン酸第一鉄ナトリウムを溶かした水溶液を1日一回強制的に経口投与した。投与後の体重の変動及び体重当たりの腫瘍サイズの変動をそれぞれ図2及び図3に示す。無投与区(コントロール)は投与から18日目より体重が減少し、26日までには全頭が死亡した。一方、ALA投与区は順調に成長を維持し、体重の現象は観察されず、観察を行った29日までに死亡例は一例も出なかった。体重当たりの腫瘍の大きさはコントロールが死亡する前の26日で比較して15mg区で18%、50mg区で9%であった。これらのことからALA投与ががんを縮小させ、また、がんによる傷害や死亡を抑制することがわかる。
【実施例5】
【0042】
C57BL/6マウス(雄:10週令)にALAリン酸塩を、それぞれ無投与、15mg/kg.bw.、50mg/kg.bw.とモル比で1:0.5となる量のクエン酸第一鉄ナトリウムを水溶液として一日1回強制的に経口投与した。投与後2週間目に4×10の細胞数のルイス肺がん2(LL/2)を腹腔に注射し、さらにALAの経口投与を4週間続け、その後尊殺し腹腔内のがんの着生の有無を調べたところ以下の表1の結果を得た。ALAと鉄の投与でがんの着生が妨げられた結果となっており、ALAの投与ががんの予防に役立つことがわかる。
【0043】
【表1】

【実施例6】
【0044】
70歳女性、右肺に初期がんを発症し胸空鏡手術にてがんを摘出した。左肺にも陰を認めていたが、アミノレブリン酸リン酸塩5mgとクエン酸鉄23mgを含むカプセルを1日3カプセル摂取したところ体力の改善を感じた。半年後の検査では左肺の陰は消失していた。このことよりアミノレブリン酸投与ががんに伴う体力低下の改善とがんの予防、改善に有効であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5‐アミノレブリン酸(ALA)若しくはその誘導体、又はそれらの塩を有効成分として含有することを特徴とするがんの予防・改善組成物。
【請求項2】
さらに、鉄化合物を含有することを特徴とする請求項1記載のがんの予防・改善組成物。
【請求項3】
鉄化合物が、クエン酸第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、デキストラン鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、DTPA鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン五酢酸鉄アンモニウム、トリエチレンテトラアミン鉄、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸アンモニウム鉄アンモニウム、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、塩化第二鉄、三二酸化鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、フマル酸第一鉄、ピロリン酸第一鉄、含糖酸化鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、硫酸鉄、及び硫化グリシン鉄から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項2記載のがんの予防・改善組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の組成物を添加したことを特徴とするがんの予防・改善用食品又は食品素材。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか記載の組成物をがんの予防・改善剤の調製に使用する方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか記載のがんの予防・改善組成物を投与することを特徴とするがんの予防・改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−16753(P2011−16753A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161657(P2009−161657)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(508123858)SBIアラプロモ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】