説明

5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミド水和物の結晶

【課題】保存安定性に優れる5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミド水和物の結晶を提供する。
【解決手段】粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される8.1、12.6、17.1、19.3、20.3及び21.6°の回折角度に回折ピークを有する5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミド水和物の結晶である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミド水和物の結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミド(以下、「化合物A」ともいう)は、制癌剤として有用な化合物である(例えば、特許文献1参照)。
化合物Aは、例えば、2−アミノマロンアミドから製造される(例えば、非特許文献1及び特許文献1、2参照)。
非特許文献1には、2−アミノマロンアミドをエチルホルムイミダートと反応させることによって化合物Aが得られることが記載されている。しかし、この製造方法は、収率が低く、満足できるものではない。
【0003】
特許文献1には、2−アミノマロンアミドのベンゼンスルホン酸塩をベンゼンスルホン酸の存在下、オルトギ酸トリメチルと反応することによって化合物Aのベンゼンスルホン酸塩が得られることが記載されている。さらに、化合物Aのベンゼンスルホン酸塩を炭酸水素ナトリウムで中和することによって化合物Aが得られることが記載されている。
しかし、この製造方法は、遺伝毒性を有するベンゼンスルホン酸エステルが生成すること、大過剰のオルトギ酸トリメチルが必要であること、等の欠点を有する。従ってこの製造方法は、工業的に優れた製造方法とは言い難い。また、得られた化合物Aは、着色し、保存安定性に劣るものであった。特許文献1の試験例1及び試験例2には、化合物Aのスルホン酸塩及び化合物Aの塩酸塩は安定であったが、化合物Aは藍色又は青色に変色したことが記載されている。さらに、特許文献1には、保存安定性に優れる化合物Aを得るためには、化合物Aに微量の酸を含有させることが必要であると記載されている。そして、実施例6には、約2.5%の安息香酸を含有する化合物Aが記載されている。しかし、安定性についての具体的な記載はない。
【0004】
特許文献2には、硫酸の存在下、2−アミノマロンアミドをオルトギ酸トリエチルと反応させることによって化合物Aの粗結晶が得られることが記載されている。しかし、この製造方法は、大過剰のオルトギ酸トリエチルが必要であること、大量の活性炭が必要であること、等の欠点を有する。従ってこの製造方法は、工業的に優れた製造方法とは言い難い。さらに、特許文献2には、化合物Aの粗結晶を酸と反応させた後、アンモニアで中和することによって化合物Aが得られることが記載されている。しかし、安定性についての具体的な記載はない。
【0005】
化合物Aの製剤化において、酸性物質を含有させることにより、着色を防止できることが知られている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3には、「本化合物はそれ自体、酸素、熱、光等によって着色を示す性状を有しており、例えば経口剤に応用した場合、共存する賦形剤の相互作用を受け、さらに複雑な反応経路でより一層顕著な着色を示す傾向が認められる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/035168号パンフレット
【特許文献2】特開昭58−24569号公報
【特許文献3】特開昭60−185727号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティー(J.Am.Chem.Soc.)、第74巻、第2892〜2894頁、1952年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、保存安定性に優れる化合物Aの水和物の結晶を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような状況下、本発明者は鋭意研究を行った結果、本発明を完成させた。前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
【0010】
[1] 粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される8.1、12.6、17.1、19.3、20.3及び21.6°の回折角度に回折ピークを有する化合物Aの水和物の結晶(以下、「β型結晶」ともいう)。
【0011】
[2] 粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される8.1、12.6、17.1、19.3、20.3及び21.6°の回折角度に回折ピークを有する化合物Aの水和物の結晶を含有する医薬組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保存安定性に優れる化合物Aの水和物の結晶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】β型結晶の赤外吸収スペクトル(ATR法)の一例を示す図である。
【図2】β型結晶の粉末X線回折パターンの一例を示す図である。
【図3】比較例1で得られた化合物Aの結晶の粉末X線回折パターンの一例を示す図である。
【図4】β型結晶の一例を示す写真である。
【図5】60℃、相対湿度75%の条件で1週間保存した後のβ型結晶の状態を示す写真である。
【図6】比較例1で得られた化合物Aの結晶の一例を示す写真である。
【図7】60℃、相対湿度75%の条件で1週間保存した後の5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミドの結晶の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について以下に詳述する。本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
なお、本明細書において、特に断らない限りアルカリ金属塩とは、リチウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩を意味する。
【0015】
<化合物Aの水和物の結晶>
本発明の化合物Aの水和物の結晶は、粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される8.1、12.6、17.1、19.3、20.3及び21.6°の回折角度に回折ピークを有することを特徴とする。
また本発明の結晶は、(1)添加物を含まない、(2)高温・高湿度条件下でも着色等の劣化がなく、長期保存が可能である、(3)不純物が少ない、(4)取り扱いが容易である、(5)人体に対して安全な溶媒を用いて製造される、(6)環境負荷が少ない条件で製造される、(7)大量製造が可能である、という特徴の少なくとも1つを有し、医薬の原薬として有用である。
【0016】
前記β型結晶は、これまで全く知られておらず、国際公開第2009/035168号パンフレット等にも一切記載されていない新規な結晶である。なお、粉末X線回折による特徴的なピークは、測定条件により変動することがある。一般に、2θは、±0.2°の範囲内で誤差が生じる。従って、「2θで表されるX°の回折角度」は、「2θで表される((X−0.2)〜(X+0.2))°の回折角度」を意味する。
X線回折は日本工業規格JIS K 0131等に基づいて測定することができる。
【0017】
前記β型結晶の粉末X線回折の測定結果の一例を図2に示す。また粉末X線回折の測定条件を以下に示す。
(測定条件)
対陰極:Cu
管電圧:40kV
管電流:40mA
走査軸:2θ
【0018】
また前記β型結晶は、以下の条件において測定した赤外吸収スペクトルにおける吸収波長によっても特徴付けられる。
β型結晶の赤外吸収スペクトル測定結果の一例を図1に示す。なお、赤外吸収スペクトルは、日本薬局方、一般試験法、赤外吸収スペクトル全反射測定法(ATR法)に従って測定した。
図1に示すように、前記β型結晶は、1614cm−1、1576cm−1、1550cm−1に特徴的なピークを有する。
【0019】
次に、前記β型結晶の製造方法について説明する。β型結晶は、例えば、次の製造方法で製造することができる。
【0020】
[製造方法]
前記β型結晶は、化合物Aを、酸の水溶液に加熱溶解させた後、徐冷して晶析することによって製造することができる。ここで化合物Aは、例えば、国際公開第2009/035168号パンフレットに記載されている方法で製造できる。
【0021】
酸としては、酢酸及びシュウ酸等の有機酸、並びに塩酸等の無機酸が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を混合して使用してもよい。好ましい酸としては酢酸及びシュウ酸等の有機酸が挙げられ、酢酸がより好ましい。
酸の水溶液における酸の濃度は、特に限定されず、用いる酸の種類等に応じて適宜選択できる。酸の濃度は、例えば1質量%〜10質量%が好ましく、3質量%〜7質量%がより好ましい。
【0022】
酸の水溶液に化合物Aを加熱溶解する温度は特に限定されず、用いる酸の水溶液の種類や量に応じて適宜選択することができる。例えば50℃〜100℃とすることができ、75℃〜100℃が好ましく、80℃〜98℃がより好ましい。
晶析温度は、特に限定されない。50℃〜100℃が好ましく、50℃〜80℃がより好ましく、60℃〜80℃がさらに好ましい。
【0023】
化合物Aを溶解する酸の水溶液の使用量は特に限定されない。例えば化合物Aに対して10倍量(v/w)〜50倍量(v/w)が好ましく、15倍量(v/w)〜40倍量(v/w)がより好ましい。
【0024】
前記製造方法においては、晶析時に塩を共存させることが好ましい。塩の存在下で徐冷することで、保存安定性がより優れる結晶を効率よく得ることができる。
所望により使用される塩としては、カルボン酸のアルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、安息香酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム及びコハク酸ナトリウム等から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム及びコハク酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ギ酸ナトリウム及び酢酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。
【0025】
前記製造方法において、晶析に要する時間は特に限定されない。例えば0.5時間〜48時間が好ましく、0.5時間〜6時間がより好ましい。
【0026】
またβ型結晶の晶析時には、種晶を用いることが好ましい。これにより結晶形をより均一に制御することができる。
なお、種晶は先に製造した際に得られたものを用いてもよく、晶析した結晶の一部を予め濾取して種晶としてもよい。
【0027】
晶析したβ型結晶を濾取する温度は特に限定されないが、晶析温度と同じであることが好ましい。
また晶析の雰囲気は特に限定されないが、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気としては、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気等を挙げることができる。
【0028】
<医薬組成物>
本発明の医薬組成物は、前記β型結晶を含み、必要に応じてその他の成分を含んで構成される。前記医薬組成物は、前記β型結晶を含むことで保存安定性に優れる。
【0029】
前記β型結晶を医薬組成物として用いる場合、通常、製剤化に使用される賦形剤、担体及び希釈剤等の製剤補助剤を適宜混合してもよい。これらは、常法に従って、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、液剤、粉体製剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、貼付剤、軟膏剤又は注射剤等の形態で、経口又は非経口で投与することができる。また投与方法、投与量及び投与回数は、患者の年齢、体重及び症状に応じて適宜選択することができる。通常、成人に対しては、経口又は非経口(例えば、注射、点滴及び直腸部位への投与等)投与により、1日、0.01mg/kg〜1000mg/kgを1回から数回に分割して投与すればよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断らない限り、「%」は「質量%」である。
【0031】
(実施例1)
5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミド5.0gに窒素雰囲気下、5%酢酸水溶液150mLを加え、82℃で加熱溶解した後、徐冷した。50℃で結晶の析出を確認した後、内温75℃に加熱し、同温度で15分間撹拌した。溶液を徐冷し、50℃で析出した結晶を濾取し、アセトン10mLで3回洗浄し、風乾することにより、β型結晶1.7gを得た。
得られたβ型結晶の赤外吸収スペクトル(ATR法)を図1に示す。
IR(ATR)1614cm−1、1576cm−1、1550cm−1
また得られたβ型結晶の粉末X線の回折パターンは、後述する実施例2と同様であった。
【0032】
(実施例2)
5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミド10.0g及びシュウ酸7.04gに窒素雰囲気下、水200mLを加え、95℃で加熱溶解した。混合物に酢酸ナトリウム5.54gを添加し、徐冷し、85℃で、実施例1で得られた結晶0.1gを添加した。65℃で40分間撹拌し、同温度で析出した結晶を濾取し、5%酢酸水溶液30mL、次いでアセトン30mLで2回洗浄し、風乾することにより、β型結晶4.65gを得た。
得られたβ型結晶の粉末X線回折のパターンを図2及び表1に示す。
また、赤外吸収スペクトル(ATR法)は、実施例1と同様であった。
【0033】
【表1】

【0034】
(実施例3)
5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミド5.0gに窒素雰囲気下、5%酢酸水溶液150mLを加え85℃で加熱溶解した後、結晶が析出し始めるまで徐冷した。結晶析出後、溶液を83℃まで加熱し、再度冷却して溶液温度を50℃とした。析出した結晶を濾取し、アセトン5mLで3回洗浄し、風乾することにより、β型結晶2.3gを得た。
得られたβ型結晶の粉末X線回折のパターンは実施例2と同様であり、赤外吸収スペクトル(ATR法)は、実施例1と同様であった。
【0035】
(比較例1)
国際公開第2009/035168号パンフレットの実施例6に記載の方法に準じて、5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミドを淡黄色粉末として得た。
高速液体クロマトグラフィーによって分析した結果、得られた5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミドは、約0.15%の安息香酸を含有していた。
粉末X線回折のパターンを図3及び表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
(試験例) 高温・高湿度条件下での保存安定性試験
試験物質として、実施例3及び比較例1で得られた結晶を選択した。
試験物質約0.2gをそれぞれガラス瓶に入れ、60℃、相対湿度75%の条件で1週間保存した。
試験開始前の実施例3の結晶の状態を図4に、試験終了後の実施例3の結晶の状態を図5に示す。また試験開始前の比較例1の結晶の状態を図6に、試験終了後の比較例1の結晶の状態を図7に示す。
【0038】
実施例3で得られたβ型結晶は、比較例1の化合物と比較して、明らかに着色の度合いが小さく、保存安定性に優れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の結晶は、(1)添加物を含まない、(2)高温・高湿度条件下でも着色等の劣化がなく、長期保存が可能である、(3)不純物が少ない、(4)取り扱いが容易である、(5)人体に対して安全な溶媒を用いて製造される、(6)環境負荷が少ない条件で製造される、(7)大量製造が可能である、という特徴の少なくとも1つを有し、医薬の原薬として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される8.1、12.6、17.1、19.3、20.3及び21.6°の回折角度に回折ピークを有する5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミド水和物の結晶。
【請求項2】
粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される8.1、12.6、17.1、19.3、20.3及び21.6°の回折角度に回折ピークを有する5−ヒドロキシ−1H−イミダゾール−4−カルボキサミド水和物の結晶を含有する医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−82706(P2013−82706A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−217331(P2012−217331)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】