説明

5−ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法

【課題】穏和な反応条件で糖類からHMFを環境低負荷で(環境に優しい方法で)且つ低コストで製造出来る方法を提供する。
【解決手段】酸触媒と光照射により活性化された光触媒との存在下でフルクトースを脱水反応させて5-ヒドロキシメチルフルフラールを形成させる脱水工程を含む、5-ヒドロキシメチルフルフラールを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒を用いてフルクトースから5-ヒドロキシメチルフルフラールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は、蜂蜜等の多くの食品に微量に含まれる化合物として知られている。食品に含まれるHMFは、糖類の熱化学反応によって生じる不純物である。
【0003】
HMFは、プラスチック、ポリマー及びバイオ燃料の原料としての利用が提案されている。近年、HMFは、米国において鎌形赤血球病の治療薬として承認された(米国食品医薬品局認可2007年2月)。またメタボリック症候群、高血圧症及び糖尿病等の治療又は予防効果が期待される血圧降下作用又は血中遊離脂肪酸の低減作用のような種々の薬理活性が見出された(非特許文献1〜3)。
【0004】
HMFは、糖類を種々の条件下で加水分解及び脱水反応をさせることによって製造することが出来る。特許文献1は、酸及び触媒存在下、高温高圧水中でセルロースを分解することによってHMFを製造する方法を記載する。特許文献2は、無水カルボン酸存在下、高温高圧状態の亜臨界流体又は超臨界流体中で糖類を反応させることによってHMFを製造する方法を記載する。特許文献3は、ヘキソースを含む原料を有機酸である溶媒中で加熱してHMFを製造する方法を記載する。当該文献は、上記のヘキソースとしてフルクトースを使用し得ること、スルホン酸型のイオン交換樹脂である酸触媒を添加して上記の方法を実施し得ることを記載する。特許文献4は、単糖類又は二糖類を含水ニオブ酸と反応させ、反応生成物からHMFを製造する方法を記載する。当該文献は、上記の単糖類としてグルコースが好ましく、フルクトースも使用し得ることを記載する。特許文献5は、多くても1 mol%の微量の触媒存在下、高温高圧状態の亜臨界流体又は超臨界流体中で糖類を反応させることによってHMFを製造する方法を記載する。当該文献は、上記の糖類としてフルクトース等の単糖類を使用し得ること、微量の触媒として無機酸又は有機酸を使用し得ることを記載する。
【0005】
非特許文献4は、ジメチルスルホキシドのような有機溶媒中で、固体酸触媒を用いてフルクトースからHMFを合成する方法を記載する。非特許文献5は、イオン性液体中で、ゲルマニウムクロライドを用いてフルクトースからHMFを合成する方法を記載する。非特許文献6は、高温条件下で、ヘテロポリ酸を用いてフルクトース又はグルコースからHMFを合成する方法を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-145736号公報
【特許文献2】特開2007-269766号公報
【特許文献3】特開2009-57345号公報
【特許文献4】特開2009-215172号公報
【特許文献5】特開2010-248113号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】B. Kamm, Angew. Chem. Int. Ed., 第46巻 (2007), p. 5056-5058
【非特許文献2】T. Husoyら, Food and Chemical Toxicology, 第46巻(2008), p. 3697-3702
【非特許文献3】Gema Arribas-Lorenzoら, Food and Chemical Toxicology, 第48巻 (2010), p. 644-649
【非特許文献4】Ken-ichi Shimizuら, Catalysis Communications, 第10巻 (2009), p. 1849-1853
【非特許文献5】Zehui Zhangら, ChemSusChem, 第4巻 (2011), p. 131-138
【非特許文献6】Chunyan Fanら, Biomass and Bioenergy 第35巻 (2011), p. 2659-2665
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来技術のHMFの製造方法は、主として酸触媒存在下、高温及び高圧条件下で糖類を反応させる工程を含む。かかる工程を実施するためには、耐酸性且つ耐圧性の反応容器が必要となるため、工業的規模で実施する場合、安全性及びコスト面から不利である。加えて、高温条件下で反応させるため、熱エネルギーの投入が必要となる。
【0009】
それ故、本発明は、穏和な反応条件で糖類からHMFを環境低負荷で(環境に優しい方法で)且つ低コストで製造出来る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、フルクトースに光触媒を作用させることにより、室温及び大気圧のような穏和な条件下でも効率良くHMFを製造出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 酸触媒と光照射により活性化された光触媒との存在下でフルクトースを脱水反応させて5-ヒドロキシメチルフルフラールを形成させる脱水工程を含む、5-ヒドロキシメチルフルフラールを製造する方法。
(2) 光触媒が、可視光領域の光照射により活性化される、前記(1)の方法。
(3) 光触媒が、シリコン、シリコンカーバイド、酸化タングステン、酸化鉄及び酸化チタンからなる群より選択される1種以上の光触媒成分を含有する、前記(1)又は(2)の方法。
(4) 酸触媒が、ギ酸、塩酸、硫酸及びパラトルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸成分を含有する、前記(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5) 酸触媒と光触媒との組み合わせを含む、フルクトースを脱水反応させて5-ヒドロキシメチルフルフラールを形成させるための触媒。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、穏和な反応条件で糖類からHMFを環境低負荷で(環境に優しい方法で)且つ低コストで製造出来る方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の方法の一実施形態を示す工程図である。
【図2】本発明の方法を実施するための閉鎖循環式光反応装置の一実施形態を示す図である。
【図3】実施例1の反応混合物(濾液)のHPLCクロマトグラムを示す図である。HMFと同一の保持時間(24.2分)を示すピークを丸印で示す。
【図4】実施例1の反応混合物(濾液)の1H NMRスペクトルを示す図である。HMFに由来するピークA〜Dを四角で示す。
【図5】実施例2の反応混合物(濾液)のHPLCクロマトグラムを示す図である。HMFと同一の保持時間(24.2分)を示すピークを丸印で示す。
【図6】比較例1の反応混合物(濾液)のHPLCクロマトグラムを示す図である。HMFと同一の保持時間(24.2分)を示すピークを丸印で示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
<1. 5-ヒドロキシメチルフルフラールを製造する方法>
本発明は、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を製造する方法に関する。
【0015】
図1は、本発明のHMFを製造する方法の一実施形態を示す工程図である。以下、図1に基づき、本発明の方法の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0016】
[1-1. 脱水工程]
本発明の方法は、酸触媒と光触媒との存在下でフルクトースを脱水反応させてHMFを形成させる脱水工程(工程S1)を含む。
【0017】
本明細書において、「光触媒」は、光照射によって電子が励起されて励起電子(e-)及び正孔(h+)を形成し、触媒作用を発現する物質を意味する。本発明者は、光触媒存在下で酸触媒によるフルクトースの脱水反応を行うと、反応が促進されて5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の収量が増大することを見出した。
【0018】
本工程において使用される光触媒は、シリコン、シリコンカーバイド、酸化タングステン、酸化鉄及び酸化チタンからなる群より選択される1種以上の光触媒成分を含有することが好ましく、シリコン又はシリコンカーバイドを含有することがより好ましい。当該光触媒は、上記の光触媒成分のうちの1種のみからなる単体若しくは化合物、又は複数の光触媒成分の組み合わせからなる混合物若しくは合金の形態であってもよく、例えばカーボン担体のような当該技術分野で慣用される担体に光触媒成分が担持された形態であってもよい。
【0019】
上記の特徴を有する光触媒を用いることにより、環境低負荷で(環境に優しい方法で)且つ低コストでHMFを製造することが可能となる。
【0020】
本工程において使用される光触媒は、結晶質であっても非晶質であってもよく、結晶質に非晶質が混在している形態でもよい。結晶質であることが好ましい。光触媒の結晶形態は、限定するものではないが、例えば、光触媒のX線回折(XRD)を測定することによって決定することが出来る。
【0021】
本工程において使用される光触媒は、10〜5000 nmの範囲の平均粒径を有する微粒子の形態であることが好ましい。光触媒の平均粒径は、限定するものではないが、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)により長軸方向の長さを測定し、10程度の測定値の平均値として算出するか、又はX線回折装置(XRD)により小角散乱測定を行うことによって決定することが出来る。
【0022】
上記の形態の光触媒を用いることにより、光触媒の触媒効率を向上させることが可能となる。
【0023】
本発明者は、フルクトースの脱水反応に対する光触媒の触媒効果は、光照射をしていない光触媒存在下でも発現するが、光照射により活性化された光触媒存在下でより顕著に発現することを見出した。それ故、本工程において使用される光触媒は、光照射により活性化されていることが好ましい。ここで、光触媒を活性化させるために照射される光の照射波長は、使用される光触媒成分の種類に基づき適宜選択される。上記の光触媒成分を使用する場合、可視光領域〜紫外光領域の波長の光を含む様々な光源(例えば、太陽光)を、光触媒を活性化させるために使用することが出来る。光照射に要するコストの観点から、可視光領域の波長の光を含む光照射により光触媒を活性化させることが好ましく、波長270〜800 nmの範囲の可視光領域の波長の光を含む光照射により光触媒を活性化させることがより好ましい。上記の条件の光照射により活性化された光触媒存在下で本工程を実施することにより、HMFの収量を飛躍的に増大させることが可能となる。
【0024】
本工程において使用される酸触媒は特に制限されず、通常の無機酸及び有機酸から適宜選択することが出来る。コスト及び安全性の観点から、ギ酸、塩酸、硫酸及びパラトルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸成分を含有する酸触媒を使用することが好ましい。酸触媒は、上記の1種以上の酸成分のみを含有する形態であってもよく、以下で説明する溶媒に1種以上の酸成分が分散又は溶解された酸分散液又は酸溶液の形態であってもよい。上記の酸触媒を用いることにより、低コストで安全にHMFを製造することが可能となる。
【0025】
本工程は、酸触媒、光触媒、フルクトース及びHMFを分散又は溶解させる溶媒存在下で実施することが好ましい。本工程において使用される溶媒は、フルクトースの脱水反応を阻害するものでなければ特に制限されず、糖類の脱水反応に慣用される溶媒を使用することが出来る。当該溶媒は、限定するものではないが、例えば、水、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフランを挙げることが出来る。本発明の方法が環境に配慮した製造方法であることを考慮した場合、揮発性であり環境負荷を与える有機溶媒を用いずに、水を溶媒として用いることが好ましい。上記の溶媒存在下で本工程を実施することにより、フルクトースの脱水反応を促進させることが可能となる。
【0026】
本発明の方法は、光触媒の作用によって酸触媒によるフルクトースの脱水反応が促進されることを特徴とする。このため、特許文献1、2、4及び5に記載の方法のように、高温及び/又は高圧条件下で反応を実施する必要はなく、常温及び常圧条件下で反応を実施することが出来る。本工程を実施する温度は、15〜80℃の範囲であることが好ましく、20〜40℃の範囲であることがより好ましい。本工程を実施する圧力は、10〜120 kPaの範囲であることが好ましく、80〜100 kPaの範囲であることがより好ましい。また、本工程を実施する時間は、1〜14時間の範囲であることが好ましく、5〜12時間の範囲であることがより好ましい。上記の条件で本工程を実施することにより、加熱及び/又は加圧することなく、HMFを製造することが可能となる。
【0027】
上記の条件で本工程を実施する手段は特に制限はなく、当該技術分野で慣用される反応装置を用いることが出来る。
【0028】
図2は、本発明の方法を実施するための閉鎖循環式光反応装置の一実施形態を示す図である。閉鎖循環式光反応装置101を用いて本工程を実施する場合、ガラス製反応管1に酸触媒、光触媒、フルクトース及び溶媒を入れ、所望によりスターラーを用いて撹拌しながら真空ポンプ9を用いて減圧・脱気する。その後、アルゴンガスボンベ7からアルゴンガスを所定の圧力となるように充填し、反応管1の上部から、紫外光及び赤外光カットフィルターを装着したキセノンランプ2を用いて可視光を照射し、フルクトースを脱水反応させる。
【0029】
光触媒を活性化させるために使用される光源が太陽光の場合、光透過性の反応容器(例えばガラス容器)に酸触媒、光触媒、フルクトース及び溶媒を入れ、所望によりスターラーを用いて撹拌しながら反応容器の外部より太陽光を照射して、本工程を実施してもよい。
以上のように本工程を実施することにより、環境低負荷で(環境に優しい方法で)且つ低コストでHMFを製造することが可能となる。
【0030】
[1-2. 分離工程]
本発明の方法は、脱水工程で得られた反応混合物から反応液と使用済み光触媒とを分離する分離工程(工程S2)を含んでもよい。
【0031】
反応液と使用済み光触媒とを分離する手段は特に制限されず、遠心分離又は濾過のような、当該技術分野で慣用される通常の分離手段を使用すればよい。その後、反応液に含有されるHMFを、相分離又は分取クロマトグラフィーのような精製手段によって反応液から精製及び単離することが出来る。
【0032】
[1-3. 洗浄工程]
分離工程で得られた使用済み光触媒は、強酸及び/又は強アルカリで処理して夾雑物を除去及び洗浄した後、本発明の方法に再使用してもよい。それ故、本発明の方法は、分離工程で得られた使用済み光触媒を洗浄して再利用可能な状態にする洗浄工程(工程S3)を含んでもよい。
【0033】
以上のように、本発明により、穏和な反応条件で糖類からHMFを環境低負荷で(環境に優しい方法で)且つ低コストで製造出来る方法を提供することが可能となる。
【0034】
<2. 5-ヒドロキシメチルフルフラールを形成させるための触媒>
本発明はまた、フルクトースを脱水反応させて5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を形成させるための触媒に関する。
【0035】
本発明のHMFを形成させるための触媒は、酸触媒と光触媒との組み合わせを含む。当該組み合わせは、上記で説明した酸触媒と光触媒との組み合わせであることが好ましい。
【0036】
本発明のHMFを形成させるための触媒は、酸触媒と光触媒とを、両者が一緒に配合された混合物の形態で含む触媒であってもよく、酸触媒と光触媒とを、それぞれ別々の形態で含むキットであってもよい。いずれの形態も、本発明の酸触媒と光触媒との組み合わせを含む、フルクトースを脱水反応させてHMFを形成させるための触媒に包含される。
【0037】
上記の特徴を有することにより、本発明の触媒は、穏和な反応条件でフルクトースを脱水反応させて、環境低負荷で(環境に優しい方法で)且つ低コストでHMFを形成させることが可能となる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
<実施例1:明条件下における5-ヒドロキシメチルフルフラールの合成>
図2に示す閉鎖循環式光反応装置101を用いて、以下の実験を行った。閉鎖循環式光反応装置101は、ガラス製反応管1と、紫外光及び赤外光カットフィルターを装着したキセノンランプ2と、反応管1及びキセノンランプ2を収容し、ガス導入口を有する遮光容器3と、遮光容器3に設置された冷却装置4と、反応管1を収容するように遮光容器3に設置された保温ジャケット5と、ガス導入口に設置された保温ジャケット6と、アルゴンガスボンベ7と、熱伝導検出器(TCD)8と、真空ポンプ9とを備え、遮光容器3のガス導入口とアルゴンガスボンベ7とを接続する流路と、遮光容器3のガス導入口と熱伝導検出器8とを接続する流路と、遮光容器3のガス導入口と真空ポンプ9とを接続する流路とを備え、遮光容器3のガス導入口とアルゴンガスボンベ7とを接続する流路に配設された圧力計10と、遮光容器3のガス導入口と熱伝導検出器8とを接続する流路に配設されたグリスコック12と、遮光容器3のガス導入口と真空ポンプ9とを接続する流路に配設された真空計11及びグリスコック12とを備える。遮光容器3のガス導入口とアルゴンガスボンベ7とを接続する流路、遮光容器3のガス導入口と熱伝導検出器8とを接続する流路、及び遮光容器3のガス導入口と真空ポンプ9とを接続する流路は、各流路の途中に分岐点を有し、該分岐点を介して互いに接続されるように配設される。また、閉鎖循環式光反応装置101は、上記の分岐点に少なくとも1個の三方分岐グリスコック13を備える。
【0040】
0.2 gのSi光触媒(シリコンパウダー、60メッシュ、99.999%;SIGMA ALDRICH)、20 mlのイオン交換水、2 mlのギ酸(98%;和光純薬工業株式会社)及び0.2 gのD(-)-フルクトース(和光純薬工業株式会社)を反応管1に入れ、スターラーを用いて400 rpmの撹拌速度で撹拌しながら脱気した。その後、反応管1に、アルゴンガスボンベ7からアルゴンガスを98 kPa(1気圧)の圧力となるように充填した。反応管1の上部から、紫外光及び赤外光カットフィルターを装着したキセノンランプ2を用いて可視光を照射(照射波長:270〜800 nm)しながら、25℃で5時間反応させた。反応終了後、反応混合物を25℃、3000 rpmで30分間遠心分離して上清液を得た。上清液を、孔径0.45 μmのメンブレンフィルターを用いて濾過し、濾液を得た。
【0041】
HPLC及び1H NMRにより、濾液に含まれる成分を分析した。HPLCクロマトグラムを図3に、1H NMRスペクトルを図4に、それぞれ示す。なお、HPLC分析及び1H NMR分析の条件は以下の通りである。
【0042】
HPLC分析
装置 :島津HPLC分析装置
カラム:ULTRON PS-80H.G (50LX8.0 mm)/ULTRON PS-80H (300L.G50LX8.0 mm)
溶出液:H2O/HClO4 (pH = 2.1)
検出 :UV 280 nm
1H NMR分析
装置 :ブルカーAC250P、400 MHz
溶媒 :重水
基準物質:TMS
【0043】
図3に示すように、濾液のHPLCクロマトグラム上には、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)と同一の保持時間(24.2分)を示すピークが確認された。また、図4に示すように、濾液の1H NMRスペクトル上には、HMFに由来するピーク(δ (ppm), A: 9.28 (s, 1H, CO-H); B: 7.36 (d, J=3.5 Hz, 1H, フラン環H-3); C: 6.50 (d, J=3.5 Hz, 1H, フラン環H-4); D: 4.52 (s, 2H, CH2))が確認された。
【0044】
<実施例2:暗条件下における5-ヒドロキシメチルフルフラールの合成>
図1に示す閉鎖循環式光反応装置を用いて、以下の実験を行った。0.2 gのSi光触媒(シリコンパウダー、60メッシュ、99.999%;SIGMA ALDRICH)、20 mlのイオン交換水、2 mlのギ酸(98%;和光純薬工業株式会社)及び0.2 gのD(-)-フルクトース(和光純薬工業株式会社)を反応管1に入れ、スターラーを用いて400 rpmの撹拌速度で撹拌しながら脱気した。その後、反応管1に、アルゴンガスボンベ7からアルゴンガスを98 kPa(1気圧)の圧力となるように充填した。キセノンランプ2を点灯せず、暗条件下、20℃で5時間反応させた。反応終了後、反応混合物を25℃、3000 rpmで30分間遠心分離して上清液を得た。上清液を、孔径0.45 μmのメンブレンフィルターを用いて濾過し、濾液を得た。
【0045】
HPLCにより、濾液に含まれる成分を分析した。HPLCクロマトグラムを図5に示す。なお、HPLC分析の条件は実施例1と同一である。
【0046】
図5に示すように、濾液のHPLCクロマトグラム上には、明条件下における合成(実施例1)の場合と比較すれば少量であるものの、HMFと同一の保持時間(24.2分)を示すピークが確認された。
【0047】
<比較例1:光触媒を用いない5-ヒドロキシメチルフルフラールの合成>
図2に示す閉鎖循環式光反応装置を用いて、以下の実験を行った。20 mlのイオン交換水、2 mlのギ酸(98%;和光純薬工業株式会社)及び0.2 gのD(-)-フルクトース(和光純薬工業株式会社)を反応管1に入れ、スターラーを用いて400 rpmの撹拌速度で撹拌しながら脱気した。その後、反応管1に、アルゴンガスボンベ7からアルゴンガスを98 kPa(1気圧)の圧力となるように充填した。キセノンランプ2を点灯せず、暗条件下、20℃で5時間反応させた。反応終了後、反応混合物を25℃、3000 rpmで30分間遠心分離して上清液を得た。上清液を、孔径0.45 μmのメンブレンフィルターを用いて濾過し、濾液を得た。
【0048】
HPLCにより、濾液に含まれる成分を分析した。HPLCクロマトグラムを図6に示す。なお、HPLC分析の条件は実施例1と同一である。
【0049】
図6に示すように、濾液のHPLCクロマトグラム上には、光触媒を用いる合成(実施例1及び2)の場合と比較すれば非常に少量であるものの、HMFと同一の保持時間(24.2分)を示すピークが確認された。
【0050】
<5-ヒドロキシメチルフルフラールの収量比較>
実施例1及び2、並びに比較例1のHPLC分析の結果に基づき、各合成条件におけるHMFの収量を比較した。結果を表1に示す。表中、HMF収量は、HPLCクロマトグラム上のHMFのピーク面積値である。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、光触媒を用いて明条件下で合成した場合(実施例1)、非常に高い収量でHMFが得られた。一方、光触媒を用いない暗条件下で合成した場合(比較例1)でも、微量のHMFが得られた。
【0053】
光触媒を用いない暗条件下で合成した場合でも微量のHMFが得られたのは、上記の反応温度でもギ酸触媒によるフルクトースの脱水反応が僅かながら進行したためと考えられる。ここで、光触媒としてSi触媒を加えて暗条件下で反応させると(実施例2)、光触媒を加えない場合(比較例1)と比較して約5倍のHMFが得られた。この結果は、Si触媒中のSiが水溶液中でSiOH又はSiHの形態に変化し、この形態から解離したH+が酸触媒として作用したことに起因すると考えられる。
【0054】
これに対し、Si触媒を加えて明条件下で反応させると(実施例1)、非常に高い収量でHMFが得られた。Si触媒に可視光を照射すると、励起したSi結晶の電子(e-)が正孔(h+)と再結合して熱エネルギーが発生する。HMFの収量が増加したのは、この熱エネルギーによって上記の酸触媒によるフルクトースの脱水反応が促進されたことに起因すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により、光触媒を用いる穏和な反応条件で糖類からHMFを環境低負荷で(環境に優しい方法で)且つ低コストで製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
101・・・閉鎖循環式光反応装置
1・・・反応管
2・・・紫外光及び赤外光カットフィルターを装着したキセノンランプ
3・・・遮光容器
4・・・冷却装置
5・・・保温ジャケット
6・・・保温ジャケット
7・・・アルゴンガスボンベ
8・・・熱伝導検出器(TCD)
9・・・真空ポンプ
10・・・圧力計
11・・・真空計
12・・・グリスコック
13・・・三方分岐グリスコック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒と光照射により活性化された光触媒との存在下でフルクトースを脱水反応させて5-ヒドロキシメチルフルフラールを形成させる脱水工程を含む、5-ヒドロキシメチルフルフラールを製造する方法。
【請求項2】
光触媒が、可視光領域の光照射により活性化される、請求項1の方法。
【請求項3】
光触媒が、シリコン、シリコンカーバイド、酸化タングステン、酸化鉄及び酸化チタンからなる群より選択される1種以上の光触媒成分を含有する、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
酸触媒が、ギ酸、塩酸、硫酸及びパラトルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸成分を含有する、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
酸触媒と光触媒との組み合わせを含む、フルクトースを脱水反応させて5-ヒドロキシメチルフルフラールを形成させるための触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−53078(P2013−53078A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190674(P2011−190674)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】