説明

5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を含む食品及び容器詰飲料、並びに5−ヒドロキシメチルフルフラールを含む食品及び飲料の製造方法

【課題】食品または飲料本来の風味を損なわず、長期間にわたり通常の生活において摂取して本来の食品または飲料として利用されると同時に、高脂血症、糖尿病、動脈硬化、血栓、肝炎などの生活習慣病の原因の発生を予防し健康を維持し得る食品及び飲料を提供する。
【解決手段】5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を特定量含有させた食品または飲料、及び有機酸の存在下、六炭糖またはショ糖を含む食品または飲料を加熱する、特定量の5−ヒドロキシメチルフルフラールを含む食品及び飲料をの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を特定量含有する食品及び容器詰飲料に関する。また、本発明は、5−ヒドロキシメチルフルフラールを特定量含む食品及び飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5−ヒドロキシメチルフルフラール(5−HMF)は、微量ながらある種の食品、熱湯で煎じた漢方薬等に含まれていることが知られている(非特許文献1〜7参照)。
これまで研究されてきた食品中の5−HMFは、食品を不適切な環境で長期に保存したり、高温に加熱することによって産生する不純物としての産物であった。
最近になってからの5−HMFについての研究には、好ましい薬理作用に関する報告も見られるようになった(非特許文献8〜12参照)。しかし、これらの研究はすべて薬物としての研究であった。
【0003】
また、5−HMFは従来から香料として食品または飲料に非常に微量添加されている。しかし、一定量を超える5−HMFを添加することによってその食品及び飲料が本来持つ風味が損なわれてしまうことがあり、実際には一定量を超える使用はされていなかった。
【0004】
また、多糖類から5−HMFの製造方法についても研究がなされており、酸化チタンを触媒として用いると5−HMFの産出量が増大することが報告されている(非特許文献13参照)。しかし、この方法では触媒として酸化チタンを用いているので、この方法は、安全性の観点から、5−HMFを含有させた食品または飲料の製造には好ましくない。
【0005】
【非特許文献1】M.J.Nozal,et al.、J.Chromatogr A.、917、95−103、2001
【非特許文献2】Y.Shinoda,et al.、Biosci.Biotechnol.Biochem.、69、2129−37、2005
【非特許文献3】R.Consonni,et al.、J.Agric.Food Chem.、52、3446−50、2004
【非特許文献4】T.Fujita,et al.、J.Agric.Food Chem.、46、1746、1998
【非特許文献5】長岡隆夫、酪農科学・食品の研究、35、A1−4、1986
【非特許文献6】Y−H.Li,et al.、J.Zhejiang Univ.Sci.、6B:1015−21、2005
【非特許文献7】A.J.Charlton.,et al.,J.Agric.Food Chem.、50、3098−103、2002
【非特許文献8】Y.C.Hou,et al.、J.Pharm.Pharmacol.、57、247−51、2005
【非特許文献9】T.P.Rao,et al.、J.Med.Food、8、362−8、2005
【非特許文献10】A.Abdel−Lateff,et al.、Planta Med.、69、831−4、2003
【非特許文献11】M.Munekata,et al.、Agric.Biol.Chem.、45、2149−50、1981
【非特許文献12】O.Abdulmalik,et al.、Br.J.Haematol.128、552−61、2005
【非特許文献13】M.Watanabe,et al.、Carb.Res.、340、1925−30、2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決し、かつ健康にも有益な5−HMFまたは5−HMFAを特定量含む、本来の風味を持った、スープ類、ソース類、ジャム等の食品及びコーヒー、生薬エキス、漢方薬エキス等の容器詰飲料を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、5−HMFを特定量含む、本来の風味を持った、健康にも有益な食品または飲料として、スープ類、ソース類、ジャム等の食品及びコーヒー、生薬、漢方薬エキス等の飲料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1)5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を0.1〜1.0質量%以上含有させた食品、
(2)5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を0.1〜1.0質量%以上含有する飲料を充填した容器詰飲料、
(3)5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を含有する食品が、スープ類、ソース類、及びジャムからなる群から選ばれる食品であることを特徴とする、前記(1)項に記載の5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を含有する食品、
(4)5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を含有する飲料が、コーヒー、ココア、茶、ジュース、炭酸水、ミネラル水、生薬エキス、及び漢方薬エキスからなる群から選ばれる飲料であることを特徴とする、前記(2)項に記載の5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を含有する飲料を充填した容器詰飲料、
(5)有機酸の存在下、六炭糖またはショ糖を含む食品を加熱することを特徴とする、0.1〜1.0質量%の5−ヒドロキシメチルフルフラールを含む食品の製造方法、
(6)有機酸の存在下、六炭糖またはショ糖を含む飲料を加熱することを特徴とする、0.1〜1.0質量%の5−ヒドロキシメチルフルフラールを含む飲料の製造方法、
(7)六炭糖がフルクトースまたはグルコースであることを特徴とする、前記(5)または(6)項に記載の製造方法、
(8)有機酸が、蟻酸、酢酸、シュウ酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、またはクエン酸のいずれかであることを特徴とする、前記(5)〜(7)のいずれか1項に記載の製造方法、
(9)有機酸の量が六炭糖に対して0.1〜1.0質量%であることを特徴とする、前記(5)〜(8)のいずれか1項に記載の製造方法、及び
(10)pH、温度、圧力、または時間のいずれか1つを調節することにより5−ヒドロキシメチルフルフラールの産生量が最大になるように調節することを特徴とする、前記(5)〜(9)のいずれか1項に記載の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、0.1〜1.0質量%の5−HMFを含有しても、本来の食品または飲料の風味を損なわない、健康上好適な、スープ類、ソース類、ジャム等の食品及びコーヒー、生薬、漢方薬エキス等の飲料を提供することができる。
また、本発明の食品及び飲料は、長期間にわたり通常の生活において摂取して本来の食品または飲料として利用することにより、高脂血症、糖尿病、動脈硬化、血栓、肝炎などの生活習慣病の原因の発生を予防し健康を維持し得るという効果を奏する。
さらに、本発明の5−HMFを特定量含有する食品及び飲料の製造方法によれば、上記健康上好適な食品及び飲料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らの研究によれば、5−HMFの代謝産物である5−HMFAは、高脂血症、糖尿病、動脈硬化、血栓、肝炎などの生活習慣病の原因の発生を予防し健康を維持し得るので、本発明の食品及び飲料は、長期間にわたり通常の生活において摂取して本来の食品及び飲料として利用されると同時に、高脂血症、糖尿病、動脈硬化、血栓、肝炎などの生活習慣病の原因の発生を予防し健康を維持し得るという効果を奏する。
【0010】
5−HMFは、ヒトにおいて、そのほぼ全量が5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸(5−HMFA)に代謝される(M.Murkovic,et al.、Mol.Nutr.Food Res.、50、842−6、2006参照)。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明者らは、後述するように、5−HMFAはGタンパク質共役受容体(GPCR)の一種であるHM74に対して高い親和性を有し、血中遊離脂肪酸濃度を低下させる機能を有すること、肝機能障害の予防効果を有すること、及び出血時間延長効果並びに抗血栓効果を有することを発見した。また、5−HMF及び5−HMFAは、既知のHM74結合性物質であるニコチン酸等と同様、薬理学的多面性(Pleiotropia)を有することもわかった。
このことから、本発明の食品及び飲料は、長期間にわたり日常的に摂取することにより高脂血症、糖尿病、動脈硬化、血栓、肝炎などの生活習慣病の原因を予防し健康を維持するための食品及び飲料として有効である。
【0013】
本発明における「食品」及び「飲料」とは通常の日常生活において摂取できる食品及び飲料であり、溶液、懸濁物、粉末、ソフトカプセル、タブレット等、経口摂取可能な形態であれば特に限定はされない。
本発明の、5−HMFまたは5−HMFAを含有する食品の具体例としては、スープ類、ソース類、ジャムが挙げられる。5−HMFまたは5−HMFAを含有する飲料の具体例としては、コーヒー、ココア、茶、ジュース、炭酸水、ミネラル水、生薬エキス、及び漢方薬エキス等が挙げられる。
【0014】
本発明において、食品または飲料に、食品または飲料の本来の風味を損なわない範囲で5−HMFを含有させることができ、通常0.1質量%以上、0.1〜1.0質量%が好ましい。5−HMFは香料、香辛料、製造用剤などの食品添加剤として用いられる場合、通常その含有量は0.01質量%未満であるが、この含有量では生活習慣病の原因を予防し健康を維持するための食品または飲料としての効果は期待できない。
同様に、本発明の食品または飲料に、本発明の効果を損なわない範囲で5−HMFAを含有させることができ、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.1〜1.0質量%含有させるのが好ましい。
【0015】
本発明の5−HMFまたは5−HMFAを特定量含有する飲料は、PETボトル、アルミニウムまたはスチール製の缶、紙、レトルトパウチ、瓶(ガラス)等の容器に充填して容器詰飲料とすることができる。本発明の5−HMFまたは5−HMFAを含有する飲料を容器に充填する方法としては特に限定はなく、通常の方法により行うことができる。
【0016】
次に、本発明の5−HMFまたは5−HMFAを含有する食品または飲料の製造方法の具体例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明者らは、食品または飲料に僅かしか含まれていない5−HMFを自然な加熱調理法によって増量しようとするとき、六単糖またはショ糖から5-HMFへの転換率を向上させるためには、有機酸の触媒作用により解決できることを見出した。
すなわち、本発明の食品及び飲料は、有機酸による触媒作用により5−HMFを人間が長期的に日常的に摂取することができる食料・飲料に含有させたものである。
なお、本発明において、加熱される食品または飲料に通常含まれている有機酸を触媒としてもよいし、加熱される食品または飲料に有機酸を添加してもよい。
【0017】
有機酸(例えば、蟻酸、酢酸、シュウ酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、またはクエン酸)と糖類(例えば、六炭糖、ショ糖)を含有する食品または飲料(例えば、穀類、豆類、芋類、根菜類、葉菜類、果実類、種子類、生薬、漢方薬、またはこれらの植物性食品を添加した動物性食品)、または有機酸と糖類を混合したものを高温(好ましくは100℃以上)で加熱処理することにより、0.1質量%以上、好ましくは0.1〜1.0質量%の5−HMFを含有する食品または飲料を製造することができる。加熱処理の時間は特に限定されない。
【0018】
本発明において、有機酸の存在下で六炭糖またはショ糖を含む食品または飲料を加熱することにより、5−ヒドロキシメチルフルフラールを特定量含む食品または飲料を製造する。六炭糖の具体例としてはグルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースが挙げられ、この中でもフルクトース又はグルコースであることが好ましい。
本発明において、六炭糖またはショ糖を含む食材や漢方薬を直接加熱してもよいし、これらの原料に水を加えてから加熱してもよい。
本発明の5−ヒドロキシメチルフルフラールを特定量含む食品または飲料の製造方法において、原料としては穀類、豆類、芋類、根菜類、葉菜類、果実類、種子類、生薬、漢方薬、が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0019】
本発明では、有機酸の存在下で5−ヒドロキシメチルフルフラールを特定量含む食品または飲料を製造する。有機酸を触媒として用いるので、本発明の方法により得られる5−ヒドロキシメチルフルフラールを特定量含む食品または飲料から有機酸を除く工程を経ずに、そのまま食品または飲料として摂取することができる。
【0020】
本発明で用いる有機酸は特に限定されないが、蟻酸、酢酸、シュウ酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、またはクエン酸が好ましい。本発明において、有機酸は単独で用いてもよいし、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、5−ヒドロキシメチルフルフラールを特定量含む食品または飲料を製造するための原料に有機酸が予め含まれていてもよいし、5−ヒドロキシメチルフルフラールを特定量含む食品または飲料を製造するための原料に有機酸を添加してもよい。
有機酸の量は特に限定されないが、六炭糖に対して0.1〜1.0質量%であることが好ましい。
【0021】
本発明の5−ヒドロキシメチルフルフラールを特定量含む食品または飲料の製造方法において、pH、温度、圧力、または時間のいずれか1つを調節することにより5−ヒドロキシメチルフルフラールの含有量を調節することが好ましい。
本発明において、pHを0.5〜7.0に調節することが好ましく、0.5〜3.0に調節することがより好ましく、0.5〜1.0に調節することが特に好ましい。
本発明において、反応温度を100℃〜150℃に調節することが好ましく、120℃〜150℃に調節することがより好ましく、130℃〜150℃に調節することが特に好ましい。
本発明において、圧力を20〜120kPaに調節することが好ましく、50〜120kPaに調節することがより好ましく、110〜120kPaに調節することが特に好ましい。
本発明において、反応時間を30〜120分に調節することが好ましく、30〜60分に調節することがより好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
実施例1
グルコースの5%水溶液に、触媒として蟻酸、酢酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、シュウ酸、5%塩酸を質量/容積比で1%となるように添加し、滅菌用オートクレーブに入れ、120℃で1時間加熱した。室温まで冷却し、溶液の0.7mLをNMR測定管に取り、内部標準化合物としてTsp0.58mmolを添加して、600MHzの測定装置を用い、水シグナル消去法で測定した。5−HMFのホルミル基プロトンに基づくシグナルは9.45ppmの一重線であり、0.00ppmに見られるTspシグナルを基準として、シグナル面積比を用いる検量線を作成した。この検量線を基に、下記式(1)により得られた5−HMFの量から、5−HMFの含有量(濃度)を計算した。
【0024】
【数1】

【0025】
式(1)において、Xはサンプル0.7mLに含まれている5−HMFのモル当量を表し、S5−HMFは5−HMF由来のシグナルの面積を表し、STspはTsp由来のシグナルの面積を表す。
測定の結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、本発明の製造方法により、特定量の5−HMFを含有する飲料を製造することができた。また、有機酸のうち、シュウ酸、蟻酸、クエン酸を用いた場合、5−HMFの含有量をより増加させることができた。
【0028】
実施例2
有機酸を含み酸味を呈する生薬として五味子(ゴミシ)、山査子(サンザシ)、木瓜(モッカ)、烏梅(ウバイ)、山茱萸(サンシュユ)、営実(エイジツ)、訶子(カシ)、川楝子(センレンシ)の8種に、生薬重量の10倍量の水を加え、以下に示す(1)〜(4)の方法で加熱した。
【0029】
(1)100℃で1時間緩やかに加熱
(2)100℃で1時間かけて沸騰させ、溶液の量を10分の1量まで濃縮
(3)オートクレーブ内で、120℃で1時間加熱
(4)100℃で1時間かけて沸騰させ、溶液の量を10分の1量まで濃縮後、オートクレーブ内で、120℃で1時間加熱
【0030】
加熱終了後、必要であれば初期の量まで水を加え、上澄液0.7mLを用いて、実施例1と同じ方法でNMR測定を行った。
その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2から明らかなように、高圧下で生薬を加熱することにより5−HMFの産出量が増加した。特に、比較的酸性度の低いサンシュユ等の生薬は常圧ではほとんど5−HMFを産生しなかったが、高圧下で加熱することにより5−HMFの産出量が大幅に増加した。
また、5−HMF産生の効率は、有機酸と熱のみではなくショ糖または果糖等の糖類の含量によって異なるが、糖が大量に存在しても有機酸がなければ5−HMFが多く産生することはない。
【0033】
実施例3
構成生薬としてゴミシ(五味子)を配合している市販の漢方エキス顆粒剤(株式会社ツムラ)5種類を、各1包ずつ水溶液として加熱した。小青竜湯(3.0gショウセイリュウトウ)、清肺湯(3.0gセイハイトウ)、人参栄養湯(3.0gニンジンエイヨウトウ)、苓甘姜味辛夏仁湯(2.5gリョウカンキョウミシンカニントウ)、清暑益気湯(2.5gセイショエッキトウ)に温湯(ぬるま湯、40℃の水)50mLを加えて10分間攪拌し、120℃のオートクレーブに入れて1時間加熱した。その間の圧力は100〜110kPaを維持した。冷却後、遠心分離した上澄液0.7mLをNMR測定管に取り、実施例1と同じ方法で測定した。
その結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
表3から明らかなように、市販の製品に5−HMFは微量であるが、高温・高圧で処理することによって5−HMFの含有量は5〜17倍に増加した。表3に記載の5種の漢方薬には酸性生薬の五味子が配合されているので、その有機酸が触媒となって5−HMFが生じたと考えられる。酸性の生薬を配合していない漢方薬を同条件で加熱しても5−HMFは生じてこない。また、糖分としては市販製品に賦形薬として添加されているデンプンまたは乳糖が原料となっていると考えられる。
【0036】
実施例4
インドネシア産のロブスタ種コーヒー生豆100gを正確に計量し、220℃に予熱した電気オーブンで焙煎した。焙煎時間5、10、15、20分の豆を取り出して、その各10gを粉末とし、50mLの熱水に加えて10分間抽出した。抽出液の0.5mLをNMR測定管に取り、内部標準化合物としてのTspを0.58mmol添加して、600MHzのHNMRスペクトルを実施例1と同様に測定した。焙煎時間の短いサンプルから順に、焙煎豆10g中の5−HMF含量を計算すると、各々0mg、1.1mg、14.5mg、及び0mgで、焙煎時間15分で最大含量14.5mg/焙煎豆10g(0.15質量%)であった。焙煎時間20分の5−HMF含量は0mgであった。焙煎時間が長くなると、一旦産生した5−HMFが分解するためであると考えられる。
また、これらの試料を用いて、焙煎時間の違いによりコーヒーの風味がどのように変化するか官能試験を行った。その結果、焙煎時間が5分の場合の風味は未成熟で酸味が強く、焙煎時間が10分の場合の風味はまろやかな芳香性でやや酸味があり、焙煎時間が15分の場合の風味は強い芳香性で酸味がきえ、焙煎時間が20分の場合の風味は濃厚な芳香を発し若干の苦味を伴うものであった。
【0037】
実施例5
以下の方法により、本発明の5−HMFまたは5−HMFAを含む食品を製造した。
成熟した五味子より製造した市販の五味子ジャム10gを試験管に取り、120℃のオートクレーブに入れて1時間加熱し、5-HMFを増量した五味子ジャムを作成した。本品を50mLの水で希釈し、その0.5mLをNMR測定管に取り、内部標準化合物としてのTspを0.58mmol添加して、600MHzのHNMRスペクトルを実施例1と同様に測定した。本品10gに含まれている5−HMF含量を計算すると25mg(0.25質量%)であった。また、本実験に用いた市販の五味子ジャム10gに25mgの5−HMFAを加え、よく練り合わせて溶解させ、5−HMFAを増量した五味子ジャムを作成した。
上記により得られた食品について官能評価を行ったところ、5-HMFを増量した製品は原料よりもやや芳香が増していたのに対し、5−HMFAを増量した製品は原料と区別できない風味であった。
【0038】
参考例(1)
以下の方法により、5−HMFA及びその類似化合物であるフラン−2−カルボン酸(FA)のHM74に対する親和性について測定した。
7週齢Wistar系雄性ラットの脾臓を摘出し、常法に従って全行程を4℃以下で実験し、膜分画を調製した。含有タンパク質の重量が75mg/mLとなるように膜分画試料を秤量し、FA(フラン−2−カルボン酸)と5−HMFAの水溶液を添加して10分間インキュベートした(25℃)。次にHで標識したニコチン酸(添加量:15kBq)を添加して、25℃で3.5時間インキュベートした。膜分画をガラス繊維濾紙で回収し、濾紙上の総放射能を液体シンチレーションカウンター(商品名:LSC3500、アロカ社製)で測定した。得られた結果を図1に示す。この結果からFAと5−HMFAのKi値を算出したところ、FAでは150μM、5−HMFAでは144μMであった。
この結果から、5−HMFA及びFAはHM74に結合することがわかった。
【0039】
参考例(2)
以下の方法により、5−HMFA及びFAの血中遊離脂肪酸低下作用について検討した。
12時間絶食させたウィスター系雄性ラットに、FA100mg/kgまたは5−HMFA 300mg/kgを経口投与し、投与前及び投与後1,2,4,6時間に尾静脈から静脈血10μLを採血した。比較のために、5−HMFAまたはFAのいずれも投与しないラットからも静脈血を採血した。遠心分離し、血漿を用いて血中遊離脂肪酸を常法どおりに定量分析した。結果を図2に示す。この結果より、5−HMFAまたはFAを投与してから1〜2時間経つと、血中遊離脂肪酸の濃度が低下していることがわかる。
【0040】
参考例(3)
以下の方法により、5−HMFA及びFAの、LPS(リポポリサッカライド)による肝障害に対する予防効果について検討した。
6週齢Wistar系雄ラット3匹を1週間飼育し、18時間絶食後、FAまたは5−HMFAを投与した。FAの投与量は90mg/kg、5−HMFAは115mg/kgとし、モル濃度としては両者ともに0.16mmol/kgとした。これらの薬物を経口投与して1時間後にLPS1mg/kgとD−GalN(D−ガラクトサミン)250mg/kgの混合溶液を腹腔内に投与した。LPS投与直前と投与後の6,12,24時間後に尾静脈から血液を採取し、常法に従ってGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)とGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)を測定した。測定時刻に死亡したラットについては、測定しなかった。結果を図3(a)〜図3(d)に示す。
図3(a)〜図3(d)から明らかなように、5−HMFAまたはFAを投与したいずれの場合も、LPSによる肝障害予防の効果が明らかで、LPSによる肝障害が抑制されていた。
これに対し、5−HMFA及びFAのいずれも投与しなかった場合には、LPSを投与してから12時間後のGOT及びGPT値が、5−HMFAまたはFAを投与した場合と比べ非常に高くなっている。さらに、LPSを投与してから24時間後には死亡したラットもあった。
【0041】
参考例(4)
以下の方法により、5−HMFAによるマウスの出血時間延長効果について検討した。
7週齢のddy系雄性マウスをプラスチックケージに入れ、23±1℃、7:00点灯19:00消灯の12時間間隔で照明が調節された環境で自由に摂餌させ飼育した。飼育開始1週間後に12時間絶食させ、生理食塩水または5−HMFA水溶液を100mg/kgの投与量でそれぞれ5匹のマウスに経口投与した。1回投与分の溶液量は体重10gに対して0.1mLとした。投与1時間後、マウスをホルダーに固定して尾先端4−5mmを切断した。直ちに切断部を37℃の生理食塩水に垂直に懸垂し、出血が停止するまでの時間(秒)を測定して出血時間とした。その後、30秒間再出血がなかったときに測定を終了した。生理食塩水を投与したマウスの出血時間は平均197±26秒、5−HMFAを投与したマウスの出血時間は平均449±78秒で、5−HMFAの投与により出血時間は約2〜3倍に延長され、5−HMFAに明らかな抗凝固作用が認められた。結果を図4(5-HMFAが出血時間に及ぼす効果)に示す。
【0042】
参考例(5)
以下の方法により、アラキドン酸誘発性、コラーゲン/エピネフリン誘発性、及びアデノシン−二−リン酸(ADP)誘発性の肺血栓塞栓症モデルマウスを用いて、フラン−2−カルボン酸(FA)と5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸(5−HMFA)の肺血栓塞栓予防効果について検討した。
5週齢のddy系雄性マウスを参考例4と同じ方法で飼育した。飼育開始1週間後に12時間絶食させ、生理食塩水(10mL/kg)、シロスタゾール(100mg/kg)、FA(100または300mg/kg)、または5−HMFA(100または300mg/kg)の水溶液をそれぞれ10匹のマウスに経口投与した。1回投与分の溶液量は体重10gに対して0.1mLとした。投与1時間後、マウスの尾静脈からアラキドン酸(90mg/kg)、コラーゲン(250μg/kg)とエピネフリン(50μg/kg)の混合物、またはADP(400mg/kg)の水溶液を投与した。その後2時間以内に死亡したマウスを計数し、生存率(%)を計算した。
結果を表4(FA及び5−HMFAによる肺血栓塞栓予防効果)に示す。表中の数値は「生存個体数/実験個体数(生存率%)」を示している。
【0043】
【表4】

【0044】
表3から明らかなように、5−HMFAはADP及びコラーゲン/エピネフリン誘発性の肺血栓塞栓症に対し救命効果を示した(P<0.05)。5−HMFA(100mg/kg)のADPに対する救命効果を医療用のシロスタゾールと比較すると50%であったが、シロスタゾールがコラーゲン/エピネフリンに無効であるのに対し、5−HMFAは有効であった。また、アラキドン酸に対する5−HMFAの救命効果は認められなかったため、5−HMFAはアスピリンとも異なるメカニズムで抗血栓作用を示すと考えられる。
【0045】
上記参考例(1)〜(5)の結果及び下記の点から、本発明の5−ヒドロキシメチルフルフラールまたはその代謝物である5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を含む食品または飲料は、長期的に日常的に摂取することにより生活習慣病(高脂血症、糖尿病、動脈硬化、血栓、肝炎)の予防に好適な食品または飲料であることが明らかである。
上記参考例では、100mg/kgの5−HMFAをラットに一回だけ投与して効果を認めたが、この投与量をヒトに換算すると約5gに相当する。日本人の1日の平均食事量は通常、乾燥重量で100〜200gであるので、この量を本発明の5−HMFを0.1〜1.0質量%含有する食品または飲料で摂取した場合、1日の5−HMF摂取量は100mg〜2gとなる。これを連日摂取すれば長期にわたる緩和な薬理作用の発現は十分に予測できる量である。また、上記参考例1に示したように、5−HMFAはニコチン酸受容体であるHM74に結合する。即ち、5−HMFAの薬理作用は受容体HM74を介して発現するニコチン酸様作用であるといえる。ニコチン酸は生活習慣病である高脂血症と心血管系疾患の治療・予防薬として長期に服用しながら効果が証明されている医薬品であることはよく知られているので(有効最小1日投与量は100mg)、上記参考例で示した5−HMFA量よりも少量の5−HMFAを含有させた食品または飲料を日常的(継続的)に摂取することによっても、生活習慣病の予防に好適であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、5−HMFA及びFAのHM74に対する親和性を示すグラフである。
【図2】図2(a)および図2(b)は、それぞれFA及び5−HMFAの血中遊離脂肪酸低下作用を示すグラフである。
【図3】図3(a)〜図3(d)は、5−HMFAまたはFAを投与したラットのGOT値及びGPT値を示すグラフである。
【図4】図4は、5−HMFAのマウス出血時間延長作用を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を0.1〜1.0質量%以上含有させた食品。
【請求項2】
5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を0.1〜1.0質量%以上含有する飲料を充填した容器詰飲料。
【請求項3】
5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を含有する食品が、スープ類、ソース類、及びジャムからなる群から選ばれる食品であることを特徴とする、請求項1に記載の5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を含有する食品。
【請求項4】
5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を含有する飲料が、コーヒー、ココア、茶、ジュース、炭酸水、ミネラル水、生薬エキス、及び漢方薬エキスからなる群から選ばれる飲料であることを特徴とする、請求項2に記載の5−ヒドロキシメチルフルフラールまたは5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を含有する飲料を充填した容器詰飲料。
【請求項5】
有機酸の存在下、六炭糖またはショ糖を含む食品を加熱することを特徴とする、0.1〜1.0質量%の5−ヒドロキシメチルフルフラールを含む食品の製造方法。
【請求項6】
有機酸の存在下、六炭糖またはショ糖を含む飲料を加熱することを特徴とする、0.1〜1.0質量%の5−ヒドロキシメチルフルフラールを含む飲料の製造方法。
【請求項7】
六炭糖がフルクトースまたはグルコースであることを特徴とする、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
有機酸が、蟻酸、酢酸、シュウ酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸、またはクエン酸のいずれかであることを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
有機酸の量が六炭糖に対して0.1〜1.0質量%であることを特徴とする、請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
pH、温度、圧力、または時間のいずれか1つを調節することにより5−ヒドロキシメチルフルフラールの産生量が最大になるように調節することを特徴とする、請求項5〜9のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−193933(P2008−193933A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31220(P2007−31220)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1) 和漢医薬学会「和漢医薬学雑誌 23巻 増刊号(第23回 和漢医薬学会大会岐阜大会 要旨集)」、表紙、目次(24〜25頁)、164頁及び奥付(223頁)、平成18年8月10日発行。 (2) 社団法人日本薬学会第127年会、プログラム集・要旨集及び「生薬煎出液中に産生する5−HMFの産生特性およびその抗血栓作用に関する研究」講演予稿が掲載されたページのプリントアウト、平成19年2月1日掲載。
【出願人】(592068200)学校法人東京薬科大学 (32)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】