説明

5,6−ベンゾクマリン化合物

【課題】新規な5,6−ベンゾクマリン化合物を提供すること。
【解決手段】式[I]で表される5,6−ベンゾクマリン化合物を提供する:


式[I]
[式中、XおよびXは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素原子数1〜6のアルキル基から選択される基;ただし、Xが炭素原子数1〜6のアルキル基である場合は、Xは水素原子ではない]。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な5,6−ベンゾクマリン化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多くの5,6−ベンゾクマリン化合物が知られており、これらの化合物は、染料、顔料等の着色用途(特許文献1および2を参照)、蛍光増白剤(特許文献3および4を参照)、抗菌剤(特許文献5を参照)など様々な分野で利用されている。
【0003】
これらの5,6−ベンゾクマリン化合物のなかでも、特に色材について、耐熱性、耐候性、色相などの種々の特性に関しての要求が多様化している。したがって、かかる化合物の選択の幅を広げるために、新たな5,6−ベンゾクマリン化合物の合成が望まれている。
【0004】
また、種々の有機色素について蛍光性が確認されており、このような蛍光色素は電界発光素子、蛍光標識試薬、レーザー用色素、光学記録媒体、シンチレータなどの材料として様々な用途に使用されている。そこで、かかる用途に応じた種々の要求に応えるため、新たな蛍光色素の開発が望まれている。
【特許文献1】特開昭53−097025号公報
【特許文献2】特開昭54−117534号公報
【特許文献3】米国特許第3271412号明細書
【特許文献4】米国特許第3966755号明細書
【特許文献5】米国特許第4341703号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、電界発光素子、蛍光標識試薬、レーザー用色素、光学記録媒体、シンチレータなどの材料として有用な、新規な5,6−ベンゾクマリン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、式[I]で表される新規な5,6−ベンゾクマリン化合物を提供する:
【化1】

式[I]
[式中、XおよびXは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素原子数1〜6のアルキル基から選択される基;ただし、Xが炭素原子数1〜6のアルキル基である場合は、Xは水素原子ではない]。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の式[I]で表される5,6−ベンゾクマリン化合物において、XおよびXは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素原子数1〜6のアルキル基から選択される基である。ただし、Xが炭素原子数1〜6のアルキル基である場合には、Xは水素原子ではない。
【0008】
および/またはXが炭素原子数1〜6のアルキル基である場合の該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ペンチル基、イソヘキシル基、またはn−ヘキシル基が挙げられる。
【0009】
本発明の式[I]で表される5,6−ベンゾクマリン化合物の製造方法は特に制限されない。例えば、式[I]において、XおよびXがともに炭素原子数1〜6のアルキル基である場合、または、Xが炭素原子数1〜6のアルキル基であり、Xが水素原子である場合、式[II]で表される1−ホルミル−2−ナフトール誘導体と、式[III]で表されるマロン酸ジエステルを、ピペリジンの存在下で反応させることによって、式[IV]で表されるベンゾクマリン化合物として製造することができる:
【化2】

式[II]
【化3】

式[III]
【化4】

式[IV]
[式中、Xは水素原子、または炭素原子数1〜6のアルキル基から選択される基;Xは炭素原子数1〜6のアルキル基]。
【0010】
式[II]で表される、1−ホルミル−2−ナフトール誘導体は、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸またはその炭素原子数1〜6であるアルキルエステルを、米国特許第4110375号明細書に記載の方法に従い、Duff法により1−ホルミル化することにより調製することが出来る。
【0011】
式[II]で表される、1−ホルミル−2−ナフトール誘導体の具体例としては、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸メチルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸エチルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸−n−プロピルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸イソプロピルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸−n−ブチルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸イソブチルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸−sec−ブチルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸−tert−ブチルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸−n−ペンチルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸イソペンチルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸ネオペンチルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸−tert−ペンチルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸−n−ヘキシルエステル、1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸イソヘキシルエステルなどが挙げられる。
【0012】
式[III]で表されるマロン酸ジエステルは、マロン酸を常法に従いエステル化することにより調製できる。
【0013】
式[III]で表されるマロン酸ジエステルの具体例としては、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジ−n−プロピル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジ−n−ブチル、マロン酸ジ−n−ペンチル、またはマロン酸ジ−n−ヘキシルなどが挙げられる。これらの中では、反応性や入手の容易さなどから、マロン酸ジメチルまたはマロン酸ジエチルを用いるのが好ましい。
【0014】
式[III]で表されるマロン酸ジエステルは、式[II]で表される1−ホルミル−2−ナフトール誘導体1モルに対して、0.8〜5モル用いるのが好ましく、0.9〜3モル用いるのがより好ましく、1〜2モル用いるのが特に好ましい。
【0015】
式[II]で表される1−ホルミル−2−ナフトール誘導体と、式[III]で表されるマロン酸ジエステルの反応に用いるピペリジンの量としては、式[II]で表される1−ホルミル−2−ナフトール誘導体1モルに対して、0.3〜5モルが好ましく、0.4〜2モルがより好ましく、0.5〜1.5モルが特に好ましい。
【0016】
式[II]で表される1−ホルミル−2−ナフトール誘導体と、式[III]で表されるマロン酸ジエステルの反応においては、所望により、酢酸を加えてもよく、酢酸を用いる場合の量は、ピペリジン1重量部に対して0.01〜0.7重量部用いるのが好ましく、0.05〜5重量部用いるのがより好ましい。
【0017】
式[II]で表される1−ホルミル−2−ナフトール誘導体と、式[III]で表されるマロン酸ジエステルの反応に用いる溶媒は、反応が良好に進行する限り特に制限されない。好適な溶媒の例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物;およびクロロホルム、テトラクロロエタンなどのハロゲン化アルカンが挙げられる。これらの中では、反応後の処理が容易であることなどから、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどのアルコールを用いるのがより好ましい。
【0018】
式[II]で表される1−ホルミル−2−ナフトール誘導体と、式[III]で表されるマロン酸ジエステルの反応に用いる溶媒の使用量は、式[II]で表される1−ホルミル−2−ナフトール誘導体の重量に対して1〜50倍重量用いるのが好ましく、2〜30倍重量用いるのがより好ましく、3〜20倍重量用いるのが特に好ましい。
【0019】
式[II]で表される1−ホルミル−2−ナフトール誘導体と、式[III]で表されるマロン酸ジエステルの反応は、通常、20〜150℃、より好ましくは50〜100℃で行われ、反応時間としては1〜50時間、より好ましくは2〜20時間で行われる。
【0020】
反応時の圧力は特に限定されず、大気圧下、加圧下、または減圧下の何れの条件で行ってもよい。また、反応は窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0021】
反応終了後は、所望により、酢酸などを加え反応液を酸性化した後に、冷却、濃縮、水などの貧溶媒の添加などの方法によって、式[IV]で表される5,6−ベンゾクマリン化合物を反応液中に析出させ、これをろ過により回収し、所望により、再結晶、水や有機溶媒による洗浄などの方法によって精製すればよい。
【0022】
一方、XおよびXが共に水素原子である、式[I]で表される5,6−ベンゾクマリン化合物は、Xおよび/またはXが炭素原子数1〜6のアルキル基である式[IV]で表される5,6−ベンゾクマリン化合物のカルボン酸エステル基を、例えば、水の存在下で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの塩基により加水分解した後に、塩酸、硫酸などによって反応液を酸性化した後に析出物をろ過などの方法により回収することによって調製する事が出来る。
【0023】
このようにして得られる、式[I]で表される、5,6−ベンゾクマリン化合物は、溶液、固体、薄膜などの状態で、蛍光性を示すものであり、電界発光素子、蛍光標識試薬、レーザー用色素、光学記録媒体、シンチレータなどの材料として様々な用途において好適に使用される。
【0024】
また、本発明の式[I]で表される、5,6−ベンゾクマリン化合物は、反応性に富み、種々の基に変換可能であるカルボキシル基またはエステル化されたカルボキシル基を2つ有する事から、さらに多種の5,6−ベンゾクマリン誘導体を合成するための原料としても有用である。
【0025】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
【化5】

[1]
【0027】
1−ホルミル−2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸15g(69.4mmol)、マロン酸ジエチル12.2g(76.2mmol)、ピペリジン25.9g(69.5mmol)、酢酸0.6g(10.0mmol)およびエタノール75gを容量200mlの、温度計およびジムロート冷却器を備えた反応容器に仕込み、窒素雰囲気下に反応液を攪拌しながら、70〜80℃に加熱し、6時間反応を行った。
【0028】
反応終了後、酢酸4.1gを加え、60℃にて30分攪拌保持した。次いで、反応液を10℃まで冷却し、析出物をろ過により回収し、得られた結晶をメタノール中に懸濁し洗浄した。洗浄後の結晶をろ過により回収しこれを乾燥し、式[1]の5,6−ベンゾクマリン化合物の粗結晶18.4gを得た。
【0029】
得られた粗結晶18.4gをN,N−ジメチルホルムアミド92gに加え、60℃にて攪拌した後、室温まで冷却し、式[1]の5,6−ベンゾクマリン化合物をろ過により回収した。次いで、得られた結晶をメタノールにより洗浄した後に乾燥し、式[1]の5,6−ベンゾクマリン化合物の淡黄色の結晶15.8g(収率72.6%)を得た。
【0030】
式[1]のベンゾクマリン化合物の赤外吸収スペクトルを図1に示す。
【0031】
本実施例により得られた式[1]の5,6−ベンゾクマリン化合物は、固体、溶液、薄膜(蒸着膜)の何れにおいても蛍光性を示すものであった。固体、溶液(1.9μM、N,N−ジメチルホルムアミド)、薄膜(蒸着膜、膜厚100nm)の分光蛍光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ、F−4500)を用いて測定した蛍光スペクトルの波形を図2に示す。
【0032】
なお、蒸着膜の作成は、アセトンにより超音波洗浄したスライドガラス上に、アルバック社製小型真空蒸着装置PVC−260を用い、真空度8.6x10−4Pa〜6.8x10−4Paにて、成膜速度、0.38nm/sにて行った。所望の膜厚への調整は、アルバック社製水晶振動式膜厚計CRTM−6000にて成膜速度をモニターしシャッターの開閉により行った。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1により得られた式[1]の化合物の赤外吸収スペクトルを示す。
【図2】実施例1により得られた式[1]の化合物の固体、溶液、薄膜での蛍光スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[I]で表される5,6−ベンゾクマリン化合物:
【化1】

式[I]
[式中、XおよびXは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素原子数1〜6のアルキル基から選択される基;ただし、Xが炭素原子数1〜6のアルキル基である場合は、Xは水素原子ではない]。
【請求項2】
式[II]で表される1−ホルミル−2−ナフトール誘導体と、式[III]で表されるマロン酸ジエステルを、ピペリジンの存在下で反応させることを含む、式[IV]で表されるベンゾクマリン化合物の製造方法:
【化2】

式[II]
【化3】

式[III]
【化4】

式[IV]
[式中、Xは水素原子、または炭素原子数1〜6のアルキル基から選択される基;Xは炭素原子数1〜6のアルキル基]。
【請求項3】
式[II]で表される1−ホルミル−2−ナフトール誘導体1モルに対して、0.3〜5モルのピペリジンを用いる、請求項2に記載のベンゾクマリン化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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