説明

6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の回収方法

【課題】6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法において、副生物を除去し、選択的に未反応の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を回収する方法を提供すること。
【解決手段】以下の(1)〜(4)の工程を含む6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法において、工程(3)で得られる第一母液に、第一母液中に含まれる6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩1モルに対してアルカリ土類金属として0.25〜2.5モルのアルカリ土類金属塩を加えて沈殿を生成さること、第一母液より沈殿を除去して得られる第二母液を酸性化して6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を析出させること、および、析出した6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を分離することを含む、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の回収方法を提供する:
(1)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させて6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液を調製する工程、
(2)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液と、1,2−ジハロゲン化エタンを反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を調製する工程、
(3)工程(2)における反応液を、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩と第一母液とに分離する工程、および、
(4)工程(3)で得られた6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を酸と反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸とする工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造工程における、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸(以下EBNAとも称する)は、高性能ポリエステルの製造原料として重要な化合物である(特許文献1および2を参照)。
【0003】
EBNAの製造方法としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩と1,2−ジハロゲン化エタンを反応させ、EBNAのアルカリ金属塩を製造し、次いで、水やエチレングリコールなどの溶媒中でEBNAのアルカリ金属塩を、ほぼ当量の酸と反応させる方法(特許文献3)が知られている。
【0004】
しかし、特許文献3に記載されるEBNAの製造方法においては、未反応の2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸のアルカリ金属塩とともに、副生物である6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩が多量に生成するため、反応後の母液を酸析し、未反応の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を回収して再利用しようとしても、回収物は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の混合物となる問題がある。
【0005】
このため、回収された6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の混合物から、クロマト分離などの高コストの方法で6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を回収する必要があり、また残りは廃棄物として処理されるほかなく、EBNAの製造コストは非常に高いものとなっている。
【0006】
かかる問題から、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩と1,2−ジハロゲン化エタンを反応させるEBNAの製造方法において、効率よく安価に6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を回収する方法の開発が望まれている。
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭62−089641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩と1,2−ジハロゲン化エタンを反応させるEBNAの製造方法において、副生物を除去し、選択的に未反応の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)〜(4)の工程を含む6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法において、工程(3)で得られる第一母液に、第一母液中に含まれる6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩1モルに対してアルカリ土類金属として0.25〜2.5モルのアルカリ土類金属塩を加えて沈殿を生成さること、第一母液より沈殿を除去して得られる第二母液を酸性化して6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を析出させること、および、析出した6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を分離することを含む、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の回収方法を提供する:
(1)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させて6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液を調製する工程、
(2)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液と、1,2−ジハロゲン化エタンを反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を調製する工程、
(3)工程(2)における反応液を、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩と第一母液とに分離する工程、および、
(4)工程(3)で得られた6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を酸と反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸とする工程。
【0009】
以下、本発明の方法における、上記(1)〜(4)に記載される、EBNAの製造工程について説明する。
【0010】
まず、工程(1)について説明する。
工程(1)において用いる塩基性アルカリ金属化合物の好適な例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシドなどが挙げられる。これらの中では入手が容易で取り扱いやすいことなどから、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いるのがより好ましく、水酸化カリウムを単独で用いるのが特に好ましい。
【0011】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸は工業的に入手可能なものを用いればよいが、一般的には以下に記載する方法などにより製造することが出来る。
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸は、特開昭57−095939号公報や、特開昭58−099436号公報に記載される方法などを参照し、β−ナフトールカリウムと二酸化炭素とを高温、高圧で反応させるコルベ・シュミット法により6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のカリウム塩を生成させた後に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のカリウム塩の水溶液を調製し、得られた水溶液を酸析し、析出する6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を分離回収することにより製造することが出来る。
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸は、所望により、水、メタノール、エタノール、メタノール水溶液、エタノール水溶液などの溶媒を用いて再結晶を行う方法などによって精製した後に使用してもよい。
【0012】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を、水を溶媒に用いて反応させることにより調製することができる。
溶媒は、水の他に、メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類を含んでいてもよい。水以外の溶媒を含む場合は、その他の溶媒の含有量は、溶媒全重量中、50重量%以下であるのが好ましく、30重量%以下であるのがより好ましく、10重量%以下であるのが特に好ましい。
【0013】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させる温度は特に制限されないが、10〜100℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
【0014】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物の反応は、空気中で行ってもよいが、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うのがより好ましい。
【0015】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジアルカリ金属塩を調製する際の、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に対する塩基性アルカリ金属化合物の使用量は、アルカリ金属として6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1モルに対して1.8〜2.2モルであるのが好ましく、1.9から2.1モルであるのがより好ましい。
【0016】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させる圧力は特に制限されず、大気圧下、減圧下、加圧下の何れの条件でもよい。
【0017】
次いで、工程(2)について説明する。
工程(2)において用いられる1,2−ジハロゲン化エタンとして好適なものとしては、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタン、またはこれらの混合物が挙げられ、これらの中では1,2−ジクロロエタンを単独で用いるのがより好ましい。
【0018】
1,2−ジハロゲン化エタンの使用量は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジアルカリ金属塩1モルに対して、0.3〜0.6モル用いるのが好ましく、0.4〜0.58モル用いるのがより好ましく、0.45〜0.55モル用いるのが特に好ましい。
【0019】
工程(2)において、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジアルカリ金属塩と1,2−ジハロゲン化エタンを反応させる温度としては50〜250℃が好ましく、60〜220℃がより好ましく、80〜200℃が特に好ましい。
【0020】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジアルカリ金属塩と1,2−ジハロゲン化エタンの反応温度が反応液の沸点を超える場合は、耐圧反応装置を用いて反応を行えばよい。
【0021】
工程(2)において、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と1,2−ジハロゲン化エタンを反応させる時間は、反応が良好に進行する限り特に制限されないが、典型的には0.5〜50時間、より好ましくは1〜10時間で行われる。
【0022】
次に、工程(3)について説明する。
工程(2)によって、EBNAのアルカリ金属塩(モノアルカリ金属塩とジアルカリ金属塩の混合物)が析出・懸濁した反応液が得られる。該反応液を、遠心分離、フィルタープレスなどの常法を用いて、固体であるEBNAのアルカリ金属塩と、第一母液とに分離すればよい。
【0023】
第一母液の主成分は、未反応の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩であり、その他には、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩などの有機系の副生物や、1,2−ジハロゲン化エタンとアルカリ金属の副反応により生成する、アルカリ金属ハロゲン化物などの無機系の副生物が含まれうる。
【0024】
次に工程(4)について説明する。
工程(4)において、EBNAのアルカリ金属塩との反応に用いる酸は、無機酸であっても有機酸であってもよく、無機酸の具体例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられ、有機酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などが挙げられる。これらの中では硫酸を用いるのが特に好ましい。
【0025】
EBNAのアルカリ金属塩との反応に用いる酸の量は、EBNAのアルカリ金属塩に含まれるアルカリ金属のモル数に対して当量以上を用いればよい。
【0026】
EBNAのアルカリ金属塩と酸との反応に用いる溶媒は、反応が良好に進行する限り特に制限されない。好ましい溶媒の具体例としては、水や、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類が挙げられる。溶媒の使用量としては、EBNAのアルカリ金属塩の乾燥重量に対して、1〜50倍重量用いるのが好ましく、2〜30倍重量用いるのがより好ましく、3〜20倍重量用いるのが特に好ましい。
【0027】
EBNAのアルカリ金属塩と酸との反応は、通常0〜250℃で行えばよく、50〜220℃で行うのがより好ましく、80〜200℃で行うのが特に好ましい。
【0028】
EBNAのアルカリ金属塩と酸を反応させる反応時間は、反応が良好に進行する限り特に制限されないが、通常1〜20時間で行われ、2〜10時間で行うのがより好ましい。
EBNAのアルカリ金属塩と酸とを反応させる圧力は特に制限されず、大気圧下、減圧下、加圧下の何れの条件でもよい。
EBNAのアルカリ金属塩と酸との反応は、空気中で行ってもよいが、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うのがより好ましい。
【0029】
このようにして工程(1)〜(4)を経て得られるEBNAは、反応液より、遠心分離、フィルタープレスなどの常法により分離された後に、所望により、水で洗浄し無機塩を除去された後に乾燥される。
【0030】
本発明は、以上説明した工程(1)から工程(4)を含むEBNAの製造方法において、工程(3)得られる第一母液に、第一母液中に含まれる6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩1モルに対してアルカリ土類金属として0.25〜2.5モルのアルカリ土類金属塩を加えて沈殿を生成させ、第一母液より沈殿を除去して得られる第二母液を酸性化して6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を析出させ、析出した6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を分離することによる、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の回収方法に関するものである。
【0031】
本発明において第一母液に添加するアルカリ土類金属塩の具体例としては、アルカリ土類金属の水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、蟻酸塩などが挙げられる。この中でも、アルカリ土類金属の硫酸塩、酢酸塩、水酸化物、硝酸塩、および塩化物からなる群から選択される一種以上のものが好ましい。
【0032】
本発明において用いるアルカリ土類金属塩を構成するアルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられ、これらの中では、アルカリ土類金属塩が安価で入手が容易であることなどからカルシウムがより好ましい。
【0033】
本発明において用いるアルカリ土類金属塩がカルシウム塩である場合には、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の除去効果が高いことなどから、水酸化カルシウムを用いるのが好ましい。
【0034】
本発明におけるアルカリ土類金属塩の使用量は、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸などの副生物の除去効果が高く、未反応の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の回収率が高いことから、第一母液中の6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩の含有量1モル対して、アルカリ土類金属として0.25〜2.5モル用いるのが好ましく、0.3〜2.5モル用いるのがより好ましく、0.5〜2.5モル用いるのが特に好ましい。
【0035】
第一母液中の6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩の含有量は、高速液体クロマトグラフにより分析することにより測定することができる。
【0036】
アルカリ土類金属塩の第一母液への添加方法は特に制限されず、粉体で添加してもよく、水溶液として添加してもよい。
【0037】
アルカリ土類金属塩を第一母液へ添加した後に、EBNA製造時の副生物とアルカリ土類金属塩の反応により沈殿を生成させる温度は、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸などの副生物の除去効果が高く、未反応の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の回収率が高いことから、30〜180℃が好ましく、40〜170℃がより好ましく、50〜150℃が特に好ましい。
【0038】
第一母液中に沈殿を生成させる際の温度が沸点を超える場合は、圧力容器を用いればよい。
【0039】
アルカリ土類金属塩を第一母液に添加した後に、沈殿を生成させる時間は、良好に沈殿が生成する限り特に制限されないが、典型的には10分〜10時間が好ましく、30分〜5時間がより好ましい。
【0040】
以上のようにして、生成した6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のアルカリ土類金属塩を主成分とする沈殿は、遠心分離機やフィルタープレスなどの常法によって第一母液より分離され、第二母液が得られる。
【0041】
第二母液の主成分は、未反応の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩およびアルカリ金属のハロゲン化物である。
【0042】
このようにして得られる第二母液を酸性化することによって、未反応の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を回収することができる。
【0043】
第二母液の酸性化は、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸や、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、安息香酸などの有機酸を用いればよい。第二母液を酸性化する際のpHは1〜5が好ましく、1〜4がより好ましい。
【0044】
第二母液の酸性化を行う際の雰囲気や温度は、未反応の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が回収可能であれば特に制限されず、雰囲気としては窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で行うのがよく、温度としては0〜100℃で行うのが好ましく、10〜90℃で行うのがより好ましく、20〜80℃で行うのが特に好ましい。
【0045】
このようにして第二母液を酸性化することよって析出した6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸は、遠心分離やフィルタープレスなどの常法によって、第二母液より分離され回収される。
【0046】
上記の方法により、第二母液より回収された、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸は、所望により、水やメタノール、エタノールなどの有機溶媒による洗浄や、再結晶などの方法により精製した後に、有機高分子材料、液晶材料、有機色素などの合成原料として使用することができる。特に、第二母液より回収された、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を、以下に記載する、(1)〜(4)の工程を含むEBNAの合成原料としてリサイクル使用することによって、EBNAを安価に製造することが可能となる。
(1)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させて6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液を調製する工程、
(2)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液と、1,2−ジハロゲン化エタンを反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を調製する工程、
(3)工程(2)における反応液を、ろ過により、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩と第一母液とに分離する工程、および、
(4)工程(3)で得られた6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を酸と反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸とする工程。
【0047】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0048】
参考例:第一母液の調製
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジカリウム塩150モルを含む水溶液140kgとジクロロエタン7.4kg(75モル)を、容量190Lの攪拌機を備えた耐圧容器に仕込んだ。耐圧容器を密閉した後、攪拌下に反応液を140〜150℃に昇温し、同温度にて1時間反応した。
【0049】
反応終了後、反応液を30℃まで冷却した後、析出したEBNAのカリウム塩を遠心分離により回収するとともに第一母液を得た。
【0050】
得られたEBNAのカリウム塩のウェットケーキの重量は20.5kgであり、第一母液の重量は120Kgであった。
【0051】
第一母液中の高速液体クロマトグラフにより測定した、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のカリウム塩と6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のカリウム塩の含有量は、それぞれ、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に換算した量で9.5Kg、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸に換算した量で2.1Kgであった。
【0052】
EBNAのカリウム塩のウェットケーキ20.5Kgと水130Lを容量200Lの攪拌機を備えた容器に仕込み、62%硫酸を用いpH3〜4に保持しながら100℃で6時間攪拌し、次いで30℃に冷却した後に析出物を遠心分離し、遠心分離機上で水50Kgで析出物を洗浄してEBNAのウェットケーキ22.2Kgを得た。
【0053】
得られたウェットケーキを容量80Lのタンブラー式の乾燥機に仕込み、90℃にて乾燥を行い、EBNA14.5kgを得た(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジカリウム塩に対する収率47.9モル%。)
【0054】
実施例1
参考例で得られた第一母液840g(6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸を59mmol含み、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸296mmolを含む)を温度計、ジムロート冷却器および攪拌装置を備える容量1Lの四つ口コルベンに仕込み、室温にて水酸化カルシウム5.4g(73mmol)を加えた。
【0055】
次いで、60℃にて1時間、攪拌下に保持し、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のカルシウム塩を主成分とする沈殿を生成させた。
【0056】
沈殿が析出した第一母液を室温まで冷却した後に、吸引ろ過により、沈殿を分離し、第二母液765gを得た。
【0057】
得られた第二母液中の高速液体クロマトグラフにより測定した、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のカリウム塩と6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のカリウム塩の含有量は、それぞれ、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に換算した量で52.3g(278mmol)、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸に換算した量で2.75g(11.9mmol)であった。
【0058】
第二母液における、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の以下に定義するロス率は6.2モル%であり、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の以下に定義する除去率は79.8モル%であった。
【0059】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のロス率:
第一母液に含まれる6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のカリウム塩のモル数をX1、第二母液に含まれる6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のモル数をX2とした場合に、(X1−X2)÷X1×100で算出される。
6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の除去率:
第一母液に含まれる6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のカリウム塩のモル数をY1、第二母液に含まれる6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のモル数をY2とした場合に、(Y1−Y2)÷Y1×100で算出される。
【0060】
第二母液を70%硫酸により、70℃でpH2.5に調整することにより、6−ヒドキシ−2−ナフトエ酸を析出させ、析出物をろ過、乾燥して、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸回収品55.5gを得た。
【0061】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸回収品の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸純度は85.7wt%であり、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の含有量は4.1wt%であった。
【0062】
実施例2〜11
アルカリ土類金属塩を表1に記載の種類および量で用いることの他は、実施例1と同様にして、参考例で得られた第一母液から沈殿を生成させ、第二母液を得た。
【0063】
第二母液を高速液体クロマトグラフにより分析した算出した、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のロス率と、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の除去率を表1に示す。
【0064】
【表1】

*1:第一母液中の6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩のモル数に対する、アルカリ土類金属塩の使用倍率。
*2(A):6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のロス率
第一母液に含まれる6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のカリウム塩のモル数をX1、第二母液に含まれる6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のモル数をX2とした場合に、(X1−X2)÷X1×100で算出される。
*3(B):6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の除去率
第一母液に含まれる6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のカリウム塩のモル数をY1、第二母液に含まれる6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のモル数をY2とした場合に、(Y1−Y2)÷Y1×100で算出される。
【0065】
比較例1
参考例で得られた第一母液を、カルシウム塩で処理することなく、70%硫酸により、70℃でpH2.5に調整することにより、6−ヒドキシ−2−ナフトエ酸を析出させ、析出物をろ過、乾燥して、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸回収品78.9gを得た。
【0066】
得られた6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸回収品の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸純度は67.9wt%であり、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の含有量は15.3wt%であり、実施例1で得られた6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と比較して、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の純度は低く、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の含有量が多いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(4)の工程を含む6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法において、工程(3)で得られる第一母液に、第一母液中に含まれる6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩1モルに対してアルカリ土類金属として0.25〜2.5モルのアルカリ土類金属塩を加えて沈殿を生成さること、第一母液より沈殿を除去して得られる第二母液を酸性化して6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を析出させること、および、析出した6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を分離することを含む、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の回収方法:
(1)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させて6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液を調製する工程、
(2)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液と、1,2−ジハロゲン化エタンを反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を調製する工程、
(3)工程(2)における反応液を、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩と第一母液とに分離する工程、および、
(4)工程(3)で得られた6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を酸と反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸とする工程。
【請求項2】
第一母液にアルカリ土類金属塩を添加した後、30〜180℃にて沈殿を生成させる、請求項1に記載の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の回収方法。
【請求項3】
アルカリ土類金属塩が、アルカリ土類金属の硫酸塩、酢酸塩、水酸化物、硝酸塩、および塩化物からなる群から選択される一種以上のものである、請求項1にまたは2に記載の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の回収方法。
【請求項4】
アルカリ土類金属塩のアルカリ土類金属がカルシウムである、請求項1〜3の何れかに記載の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の回収方法。
【請求項5】
アルカリ土類金属塩が水酸化カルシウムである、請求項1〜4の何れかに記載の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の回収方法。
【請求項6】
以下の(1)〜(4)の工程を含む6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法であって、工程(1)で使用する6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の一部または全部が、請求項1〜5の何れかに記載の方法により回収されたものである、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法:
(1)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させて6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液を調製する工程、
(2)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液と、1,2−ジハロゲン化エタンを反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を調製する工程、
(3)工程(2)における反応液を、ろ過により、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩と第一母液とに分離する工程、および、
(4)工程(3)で得られた6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を酸と反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸とする工程。

【公開番号】特開2009−155231(P2009−155231A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332485(P2007−332485)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】