説明

6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の製造方法

【課題】6−(2-ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸から6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品を製造する方法を提供すること。
【解決手段】6−(2-ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸を、硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸と、水中にて150〜250℃において反応させることを含む、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6−(2-ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸からの6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸(以下EBNAとも称する)は、高性能ポリエステルの製造原料として重要な化合物である(特許文献1および2を参照)。
【0003】
EBNAの製造方法としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩と1,2−ジハロゲン化エタンを反応させEBNAのアルカリ金属塩を製造し、次いで、水やエチレングリコールなどの溶媒中でEBNAのアルカリ金属塩を、ほぼ当量の酸と反応させる方法(特許文献3)が知られている。
【0004】
しかし、特許文献3に記載されるEBNAの製造方法においては、未反応の2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸のアルカリ金属塩とともに、副生物である6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩が多量に生成する。したがって、反応後の母液から6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を回収しようとしても、回収物は6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の混合物となる問題がある。
【0005】
このため、回収された6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の混合物から、クロマト分離などの高コストの方法で6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を回収する必要があり、また、残りは廃棄物として処理されるほかなく、EBNAの製造コストは非常に高いものとなっている。
【0006】
これらの問題から、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸から6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を製造し、EBNAの製造原料として再利用可能とする方法の開発が望まれている。
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭62−089641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、6−(2-ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸から6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品を製造する方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品を用いる6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、6−(2-ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸を、硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸と、水中にて150〜250℃において反応させることを含む、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の製造方法を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物を、硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸と、水中にて150〜250℃において反応させることを含む、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の製造方法を提供する。
【0010】
本明細書および特許請求の範囲において、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸、または、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物を、硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸と、水中にて150〜250℃において反応させることにより製造された、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を主成分とする製品を「6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品」と表す。
「6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を主成分とする」とは、製品中に、製品の乾燥重量に対して6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を50重量%以上含むことをいう。
【0011】
本発明において用いる、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の製造方法は特に制限されないが、例えば、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のエステル誘導体(例えば、メチルエステル、エチルエステル)を、エチレンオキシドなどと反応させ、ヒドロキシエチル化を行い、次いでエステル基を加水分解することにより製造することができる。また6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を、塩基性条件にて、酢酸2−クロロエチルと反応させエーテル化を行った後に、脱アセチル化することによっても製造することができる。
【0012】
本発明において、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸は、単一の化合物として使用してもよいし、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物に含まれる形態で用いてもよい。
【0013】
本明細書および特許請求の範囲において、ナフトエ酸組成物とは、その乾燥重量中、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を合計量で、30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上含むものである。
【0014】
ナフトエ酸組成物中の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の含有量は、高速液体クロマトグラフなどの常法によって確認することができる。
【0015】
本発明において使用するナフトエ酸組成物としては、以下の(1)〜(5)の工程により得られたものを用いるのが好ましい。
(1)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させて6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液を調製する工程、
(2)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩と、1,2−ジハロゲン化エタンを反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を調製する工程、
(3)工程(2)で得られた反応液を、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩と母液とに分離する工程、
(4)工程(3)で得られた母液を酸性化し、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物を析出させる工程、および、
(5)工程(4)にて析出したナフトエ酸組成物を回収する工程。
【0016】
以下に、上記の工程(1)〜(5)について説明する。
まず、工程(1)について説明する。
工程(1)において用いる塩基性アルカリ金属化合物の好適な例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシドなどが挙げられる。これらの中では入手が容易で取り扱いやすいことなどから、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いるのがより好ましく、水酸化カリウムを単独で用いるのが特に好ましい。
【0017】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を、水を溶媒に用いて反応させることにより調製することができる。
【0018】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸は工業的に入手可能なものを用いればよいが、一般的には以下に記載する方法などにより製造することが出来る。
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸は、特開昭57−095939号公報や、特開昭58−099436号公報に記載される方法などを参照し、β−ナフトールカリウムと二酸化炭素とを高温、高圧で反応させるコルベ・シュミット法により6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のカリウム塩を生成させた後に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のカリウム塩の水溶液を調製し、得られた水溶液を酸析し、析出する6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を分離回収することにより製造することが出来る。
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸は、所望により、水、メタノール、エタノール、メタノール水溶液、エタノール水溶液などの溶媒を用いて再結晶を行う方法などによって精製した後に使用してもよい。
【0019】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させる温度は特に制限されないが、10〜100℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
【0020】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物の反応は、空気中で行ってもよいが、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うのがより好ましい。
【0021】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジアルカリ金属塩を調製する際の、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に対する塩基性アルカリ金属化合物の使用量は、アルカリ金属として6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1モルに対して1.8〜2.2モルであるのが好ましく、1.9〜2.1モルであるのがより好ましい。
【0022】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させる圧力は特に制限されず、大気圧下、減圧下、加圧下の何れの条件でもよい。
【0023】
次いで、工程(2)について説明する。
工程(2)において用いられる1,2−ジハロゲン化エタンとして好適なものとしては、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタン、またはこれらの混合物が挙げられ、これらの中では1,2−ジクロロエタンを単独で用いるのがより好ましい。
1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタンなどの1,2−ジハロゲン化エタンは、工業的に入手可能なものを用いればよい。
【0024】
1,2−ジハロゲン化エタンの使用量は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジアルカリ金属塩1モルに対して、0.3〜0.6モル用いるのが好ましく、0.4〜0.58モル用いるのがより好ましく、0.45〜0.55モル用いるのが特に好ましい。
【0025】
工程(2)において、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジアルカリ金属塩と1,2−ジハロゲン化エタンを反応させる温度としては50〜250℃が好ましく、60〜220℃がより好ましく、80〜200℃が特に好ましい。
【0026】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジアルカリ金属塩と1,2−ジハロゲン化エタンの反応温度が反応液の沸点を超える場合は、耐圧反応装置を用いて反応を行えばよい。
【0027】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジアルカリ金属塩と1,2−ジハロゲン化エタンを反応させる時間は、反応が良好に進行する限り特に制限されないが、典型的には0.5〜50時間、より好ましくは1〜10時間で行われる。
【0028】
次に、工程(3)について説明する。
工程(2)によって、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩(モノアルカリ金属塩とジアルカリ金属塩の混合物)が析出した懸濁液が得られる。該懸濁液を、遠心分離、フィルタープレスなどの常法を用いて、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩と母液とに分離すればよい。
【0029】
次に工程(4)について説明する。
工程(4)において、工程(3)で得られた母液の酸性化に用いる酸は、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸や、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、安息香酸などの有機酸を用いればよい。母液を酸性化する際のpHは1〜5が好ましく、1〜4がより好ましい。
【0030】
母液の酸性化を行う際の雰囲気や温度は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物を回収可能であれば特に制限されず、雰囲気としては窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で行うのがよく、温度としては0〜100℃で行うのが好ましく、10〜90℃で行うのがより好ましく、20〜80℃で行うのが特に好ましい。
【0031】
次に工程(5)について説明する。
工程(5)において、工程(4)で析出させたナフトエ酸組成物を回収する方法は特に制限されないが、遠心分離やフィルタープレスなどの常法により行えばよい。
【0032】
このようにして、工程(1)〜(5)を経て得られた、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物は、所望により乾燥した後に、酸との反応工程に用いればよい。
【0033】
本発明において、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸、または、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物との反応に使用する酸としては、硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸を用いる。
【0034】
これらの酸のなかでは、安価であり、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸との反応の際に副反応が起こりにくいことなどから、硫酸を単独で使用するのがより好ましい。
【0035】
酸の使用量としては、反応が良好に進行するかぎり特に制限されないが、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸のモル数に対して、0.5〜10倍モルが好ましく、1.0〜3.0倍モルがより好ましい。
【0036】
ナフトエ酸組成物を用いる場合には、ナフトエ酸組成物中の6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸含有量を勘案して、酸の使用量を定めればよい。
【0037】
本発明において、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸、または、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物と、硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸との反応に用いる溶媒は水である。溶媒に用いる水は、本発明の目的を損なわない範囲で、トルエン、キシレンなどの6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸と硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸との反応に不活性な有機溶媒を含んでいてもよい。
【0038】
溶媒である水が有機溶媒を含む場合の有機溶媒の含有量は、水と有機溶媒の合計重量に対して30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましく、10重量%以下が特に好ましい。
【0039】
溶媒である水の使用量は、反応が良好に進行する限り特に制限されないが、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸、または、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物の乾燥重量に対して、0.5〜100重量倍用いるのが好ましく、1〜50重量倍用いるのがより好ましく、2〜30重量倍用いるのが特に好ましい。
【0040】
本発明において、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸、または、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物と、硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸との反応は、150〜250℃、より好ましくは150〜200℃で行う。
【0041】
反応温度が150℃より低ければ、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸から6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸への変換が効率よく行われにくく、250℃より高ければ、生成した6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が脱炭酸などの副反応により分解しやすい傾向がある。
【0042】
本発明においては、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸、または、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物と、硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸との反応温度が、溶媒に用いる水の沸点より高いため、反応装置には、耐圧反応装置(オートクレーブ)を用いる。
【0043】
6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸、または、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物と、硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸との反応を行う反応装置内の雰囲気は特に制限されないが、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0044】
6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸、または、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物と、硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸との反応時間は特に制限されないが、通常、1〜20時間、より好ましくは6〜10時間で行われる。
【0045】
反応の完了は、反応液の試料を一部採取し、高速液体クロマトグラフなどの常法により分析し、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の含有量を測定することによって確認することが出来る。
【0046】
以上説明した反応を終了した後に、反応液を0〜80℃程度に冷却し、反応液中に析出している6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の再生品を、遠心分離やフィルタープレスなどの常法により回収すればよい。
【0047】
このようにして得られる、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の再生品は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の含有量と6−(2−ヒドロキシエチル)−2−ナフトエ酸の含有量の合計に対する、6−(2−ヒドロキシエチル)−2−ナフトエ酸の含有量の比率が10重量%以下であるのが好ましく、5重量%以下であるのがより好ましい。
【0048】
以上のように、本発明の方法によって、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸、または、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物から、安価に6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品を製造することが可能となり、さらに本発明の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品を、EBNA製造原料である6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の一部または全部に用いることによってEBNAを安価に製造することが可能になるものである。
【0049】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品を原料の一部または全部に用いるEBNAの製造方法としては、以下の(A)〜(C)の工程を含むEBNAの製造方法が好適である。
(A)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させて6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液を調製する工程、
(B)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩を1,2−ジハロゲン化エタンと反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を調製する工程、および、
(C)6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を酸と反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸とする工程。
【0050】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0051】
〔参考例1:6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸の調製〕
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸メチル34.4g、炭酸カリウム26.0g、ポリエチレングリコール0.3g、およびN,N−ジメチルホルムアミド183gを攪拌装置、温度計、およびジムロート冷却器を備える容量300mlの四つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下に80℃まで昇温した後、酢酸2−クロロエチル25.2gを20分かけて滴下した。
【0052】
次いで、80〜90℃で24時間攪拌した後に、水128gおよびメタノール64gを加え、更に65〜75℃にて8時間攪拌し反応を行った。
【0053】
反応終了後に、反応液より析出物をろ過により回収し、乾燥することで6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸メチルを32.3g得た。
【0054】
得られた6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸メチル31.6g、48%水酸化ナトリウム水溶液10.3g、および50%メタノール水溶液350gを温度計、およびジムロート冷却器を備える容量500mlの四つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下にて、2時間還流させた。この反応液に70%硫酸水溶液18.5gを1時間かけて滴下し、析出物をろ過により回収し、乾燥することで6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸29.8gを得た。
【0055】
〔参考例2:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および6-(2-ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物の調製〕
○EBNAカリウム塩の製造
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジカリウム塩150モルを含む水溶液140kgとジクロロエタン7.4kg(75モル)を、容量190Lの攪拌機を備えた耐圧容器に仕込んだ。耐圧容器を密閉した後、攪拌下に反応液を140〜150℃に昇温し、同温度にて1時間反応した。
反応終了後、反応液を30℃まで冷却した後、遠心分離機により、析出したEBNAのカリウム塩を母液と分離し、分離されたEBNAのカリウム塩を遠心分離機上で水40Kgにより洗浄した。得られた母液(洗浄水を含む)の重量は160Kgであった。
【0056】
○ナフトエ酸組成物の回収
EBNAのカリウム塩の製造工程により得られた母液160Kgを、容量300Lの攪拌機を備えた容器に仕込み、95℃に昇温した後に、70%硫酸水溶液を用いて1時間かけてpH3に調整した。次いで、析出物を遠心分離機により回収した後に乾燥し、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物20Kgを得た。
【0057】
得られたナフトエ酸組成物は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を57重量%、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸を15.1重量%含むものであった。
【0058】
〔実施例1〕
参考例1の方法に従い調製した6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸31.8g(0.14mol)、70wt%硫酸水溶液19.2g(0.28mol)、および水450gを容量1Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した後180℃にて6時間反応を行った。
【0059】
反応終了後、反応液を室温まで冷却した後、析出物をろ過により回収し、乾燥することにより6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品24.2gを得た。
【0060】
得られた6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の組成を表1に記す。
【0061】
〔実施例2〕
70wt%硫酸水溶液の使用量を9.6g(0.14mol)に変えることの他は、実施例1と同様にして、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品24.5gを得た。
【0062】
得られた6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の組成を表1に示す。
【0063】
〔実施例3〕
6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸10.0g(43mmol)、35wt%塩酸水溶液4.9g(47mmol)、および水485gを容量1Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した後180℃にて6時間反応を行った。
【0064】
反応終了後、反応液を室温まで冷却した後、析出物をろ過により回収し、乾燥することにより6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品7.5gを得た。
【0065】
得られた6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の組成を表1に記す。
【0066】
〔実施例4〕
6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸10.0(43mmol)g、p−トルエンスルホン酸一水和物(PTS)9.0g(47mmol)、および水481gを容量1Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した後に、180℃にて6時間反応を行った。
【0067】
反応終了後、反応液を室温まで冷却した後、析出物をろ過により回収し、乾燥することにより6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の再生品7.7gを得た。
【0068】
得られた6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の組成を表1に記す。
【0069】
表1:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の組成
【表1】

*1:6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸1モルに対する酸の使用量(mol)
【0070】
〔実施例5〕
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸28.5g(151mmol)、および6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸7.6g(33mmol)を含む、参考例2で得られたナフトエ酸組成物50gと、70wt%硫酸水溶液35.7g(255mmol)、および水500を容量1Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した後に、180℃にて6時間反応を行った。
【0071】
反応終了後、反応液を室温まで冷却した後、析出物をろ過により回収し、乾燥することにより6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の再生品47.8gを得た。
【0072】
得られた6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の組成を表2に記す。
【0073】
〔実施例6〜8、比較例1〕
硫酸の使用量を表2に記載する量に変えることの他は、実施例5と同様にして、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品を得た。
【0074】
得られた6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の組成を表2に記す。
【0075】
表2:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の組成
【表2】

*1:6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸1モルに対する酸の使用量(mol)
*2:検出されず。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6−(2-ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸を、硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸と、水中にて150〜250℃において反応させることを含む、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の製造方法。
【請求項2】
6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物を、硫酸、塩酸およびp−トルエンスルホン酸からなる群より選択される1種以上の酸と、水中にて150〜250℃において反応させることを含む、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の製造方法。
【請求項3】
ナフトエ酸組成物が、以下の(1)〜(5)の工程により得られたものである請求項2に記載の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品の製造方法:
(1)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させて6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液を調製する工程、
(2)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩と、1,2−ジハロゲン化エタンを反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を調製する工程、
(3)工程(2)で得られた反応液を、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩と母液とに分離する工程、
(4)工程(3)で得られた母液を酸性化し、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフトエ酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を含むナフトエ酸組成物を析出させる工程、および、
(5)工程(4)にて析出したナフトエ酸組成物を回収する工程。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の方法により得られた、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品。
【請求項5】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の含有量と6−(2−ヒドロキシエチル)−2−ナフトエ酸の含有量の合計に対する、6−(2−ヒドロキシエチル)−2−ナフトエ酸の含有量の比率が10重量%以下である、請求項4に記載の6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品。
【請求項6】
以下の(A)〜(C)の工程を含む、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法であって、工程(A)で使用する6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の一部または全部が、請求項1〜3の何れかに記載の方法により得られた6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸再生品である、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法:
(A)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と塩基性アルカリ金属化合物を反応させて6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩の水溶液を調製する工程、
(B)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩を1,2−ジハロゲン化エタンと反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を調製する工程、および、
(C)6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を酸と反応させ、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸とする工程。

【公開番号】特開2009−155230(P2009−155230A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332484(P2007−332484)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】