説明

6−置換イソフラボノイド化合物及びその使用

本発明は、6-置換イソフラボノイド化合物及び6-置換イソフラボノイド化合物を含む組成物に関する。また、本発明は、6-置換イソフラボノイド化合物の、様々な疾患及び症状の治療のための使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6-置換イソフラボノイド化合物及び6-置換イソフラボノイド化合物を含む組成物に関する。また、本発明は、6-置換イソフラボノイド化合物の、様々な疾患及び症状の治療のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、抗炎症薬としては非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が最も広く使用されている。NSAIDは炎症を減少させるために効果的だが、胃潰瘍、穿孔、出血、急性腎不全及び高血圧症等の胃腸の副作用のためにNSAIDの使用は制限されてきた。これらの欠点の一部は、COX-2による炎症過程を選択的に阻害するが、COX-1による恒常性機能に影響を与えない物質(COXIB)の開発によって克服されてきた。すなわち、COX-1に応答して産生され内臓を保護するプロスタグランジンPGE2は残存するが、炎症反応の一部として産生するCOX-2に応じて合成されるPGE2は抑制されるという理論であった。
【0003】
しかしながら、COX-2のみを阻害することにより、より多くのPGH2が他のCOX-1由来エイコサノイドの産生に利用可能となる(特に、血小板凝集を引き起こすトロンボキサン(TXA2))(Caughey et al.、2001)。選択的なCOX-2阻害により、有害な心血管事象の発生が増加することが知られている。また、全てのNSAIDは何らかの心血管性リスクに関連するという新たな証拠も得られている(Fosslien 2005)。
【0004】
これらの展開は、現在利用可能な抗炎症治療学の欠点を明らかにするものである。阻害されるCOXアイソタイプ及びその割合にかかわらず、COX経路を介して炎症を阻害すると、胃腸、腎臓及び心血管副作用の合併症を伴う。
【0005】
プロトンポンプ阻害薬又はミソプロストール等の合成PGE2類似体による同時治療(co-therapy)等の様々な腸保護法が採用されている。一酸化窒素供与性NSAID(NO-NSAID)及び胃の粘液層のリン脂質の一つであるホスファチジルコリン(合成型)に結合したNSAID(PC-NSAID)等のより安全な物質は現在も開発段階である。
【0006】
既存の物質及びそれらの安全性を向上させるための方法の根本的な問題は、それらがCOXを阻害するということである。選択的なCOX-2阻害に関連する心血管リスクは、抗血栓性及び血管拡張性を示すCOX-2誘発プロスタサイクリン(PGI2)と、血栓形成促進性及び血管収縮性を示すCOX-1誘発TXA2との間のホメオスタシスの乱れによるものであると思われる(Caughey et al.、2001)。また、TXA2は血小板活性化の制御及び白血球-内皮細胞相互作用によるアテローム発生の開始及び進行を促進し、PGI2は血小板活性化の制御及び白血球-内皮細胞相互作用によるアテローム発生の開始及び進行を防止する(Kobayashi et al. 2004)。全てのNSAIDに随伴する心血管及び胃腸副作用の増加によって示されているように、COXアイソタイプ選択性に関係なく、COX経路が阻害されると必ずこのホメオスタシスは様々な程度で乱れる。
【0007】
安全な抗炎症薬が強く求められていることは明らかである。NSAID及びCOXIBの安全性問題及び表示に関する規制の進展により、新たな抗炎症薬がさらに求められている。COXの阻害による心血管性リスクを生じることなく、抗炎症活性を有する抗炎症治療法が理想的である。
【0008】
予期せぬことに、本願発明者らは、ある種の6-置換イソフラボノイド化合物は有用な抗炎症活性を有することを見出した。また、ある種の6-置換イソフラボノイド化合物は他の治療効果も有することを見出した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Boyum, A. (1986). "Separation of leukocytes from blood and bone marrow." Scand J Clin Invest 21: 77-89.
【非特許文献2】Caughey, G. E., L. G. Cleland, et al. (2001). "Up-regulation of endothelial cyclooxygenase-2 and prostanoid synthesis by platelets. Role of thromboxane A2." Journal of Biological Chemistry 276(41): 37839-45.
【非特許文献3】Chin-Dusting, J. P., L. J. Fisher, et al. (2001). "The vascular activity of some isoflavone metabolites: implications for a cardioprotective role." British Journal of Pharmacology. 133(4): 595-605.
【非特許文献4】Fosslien, E. (2005). "Cardiovascular Complications of Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs." Ann Clin Lab Sci 35(4): 347-385.
【非特許文献5】Gilroy, D. W., A. Tomlinson, et al. (1998). "Differential effects of inhibition of isoforms of cyclooxygenase (COX-1, COX-2) in chronic inflammation.[comment]." Inflammation Research. 47(2): 79-85.
【非特許文献6】Kobayashi, T., Y. Tahara, et al. (2004). "Roles of thromboxane A2 and prostacyclin in the development of atherosclerosis in apoE-deficient mice." J. Clin. Invest. 114(6): 784-794.
【非特許文献7】Mita, H., Y. Yui, et al. (1988). "Isocratic determination of arachidonic acid 5-lipoxygenase products in human neutrophils by high-performance liquid chromatography." J Chromatogr 430(2): 299-308.
【非特許文献8】Rosenson, R. S. (2004). "Statins in atherosclerosis: lipid-lowering agents with antioxidant capabilities. " Atherosclerosis 173(1): 1-12.
【発明の概要】
【0010】
第一の態様において、本発明は、下記一般式(I)で表される化合物又はその塩を提供する。
【0011】
【化1】

式中、
R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、OR9、OC(O)R9、OSi(R10)3、C1〜10アルキル、C3〜7シクロアルキル、アミノ、アミノアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、チオール、COOH、アルキルチオ、ニトロ、シアノ、ハロ、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、及び ヘテロアリール からなる群から選択され、
R6は、R11(R12)N(CH2)n- であり、
R7は、水素、R9、C(O)R9、Si(R10)3及び C3〜7シクロアルキル からなる群から選択され、
R8は、水素、C1〜10アルキル、C3〜7シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、ニトロ、シアノ、及び ハロからなる群から選択され、
R9は、C1〜10アルキル、ハロアルキル、アリール、アリールアルキル、及び アルキルアリールからなる群から選択され、
R10は、それぞれ独立して、C1〜10アルキル及び アリールからなる群から選択され、
R11及びR12は、それぞれ独立して、水素、C1〜10アルキル、及び -Y-CO2R13からなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、C1〜10アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、COOH、COOR10、ハロ、ニトロ、シアノ、及びアリールからなる群から選択される1以上の置換基で随意で置換されていてもよい5、6又は7員環の複素環を形成しており、
R13は、水素、C3〜7シクロアルキル、C1〜10アルキル、C2〜6アルケニル、及び C2〜6アルキニルからなる群から選択され、
Yは、随意で1以上の酸素、窒素又は硫黄が挿入された炭素原子数1〜15の炭化水素鎖であり、
nは、1〜4の整数であり、
---」の描画は、単結合又は二重結合を表す。
【0012】
一般式(I)で表される化合物は、以下の化合物からなる群から選択されてもよい。
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
第2の態様において、本発明は、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩と、薬学的に許容しうる担体、希釈剤及び/又は賦形剤と、を含む医薬組成物を提供する。
【0016】
第3の態様において、本発明は、患者における炎症及び/又は炎症性疾患又は障害を治療及び/又は予防するための方法であって、治療有効量(therapeutically effective amount)の第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩を前記患者に投与することを含む方法を提供する。
【0017】
第4の態様において、本発明は、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩の、炎症及び/又は炎症性疾患又は障害を治療及び/又は予防するための薬剤の製造における使用を提供する。
【0018】
第5の態様において、本発明は、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩の、炎症及び/又は炎症性疾患又は障害の治療及び/又は予防における使用を提供する。
【0019】
第6の態様において、本発明は、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩の、酸化防止剤としての使用を提供する。
【0020】
第7の態様において、本発明は、患者の免疫系を調節するための方法であって、治療有効量の第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩を前記患者に投与することを含む方法を提供する。
【0021】
第8の態様において、本発明は、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩の、免疫系を調節するための薬剤の製造における使用を提供する。
【0022】
第9の態様において、本発明は、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩の、免疫系を調節するための使用を提供する。
【0023】
免疫系の調節は、免疫応答の阻害又は抑制を含むことができる。
【0024】
免疫系の調節は、T細胞及び/又はB細胞の活性化又は生成の抑制を含むことができる。
【0025】
第10の態様において、本発明は、細胞の増殖を阻害するための方法であって、前記細胞を、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩と接触させることを含む方法を提供する。
【0026】
第11の態様において、本発明は、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩の、細胞の増殖を阻害するための薬剤の製造における使用を提供する。
【0027】
第12の態様において、本発明は、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩の、細胞の増殖を阻害するための使用を提供する。
【0028】
第13の態様において、本発明は、患者における癌を治療及び/又は予防するための方法であって、治療有効量の第1の態様に係る式(I)で表される化合物又は薬学的に許容しうるその塩を前記患者に投与することを含む方法を提供する。
【0029】
第14の態様において、本発明は、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩の、癌を治療及び/又は予防するための薬剤の製造における使用を提供する。
【0030】
第15の態様において、本発明は、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩の、癌を治療及び/又は予防するための使用を提供する。
【0031】
癌は、卵巣癌、白血病、前立腺癌、結腸直腸癌、膵臓癌、神経膠腫、黒色腫、及び肺癌からなる群から選択されてもよい。
【0032】
第16の態様において、本発明は、患者における心血管疾患を治療及び/又は予防するための方法であって、治療有効量の第1の態様に係る式(I)で表される化合物又は薬学的に許容しうるその塩を前記患者に投与することを含む方法を提供する。
【0033】
第17の態様において、本発明は、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩の、心血管疾患を治療及び/又は予防するための薬剤の製造における使用を提供する。
【0034】
第18の態様において、本発明は、第1の態様に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩の、心血管疾患を治療及び/又は予防するための使用を提供する。
【0035】
定義
【0036】
本願明細書及び特許請求の範囲において、「含む(comprise/comprises/comprising)」という用語は、文脈上他の意味に解釈されない限り、記載した実在物又は工程又は実在物又は工程の群を含むが、その他の実在物又は工程又は実在物又は工程の群を排除するものではない。
【0037】
本願明細書において、「治療(treatment/treating)」という用語は、症状(condition)、疾患(disease)、障害(disorder)又はその徴候(symptoms)を改善あるいは症状、疾患、障害又はその徴候の進行を防止、抑制又は逆転させるあらゆる手段(use)を意味する。治療は所定の期間におけるものであってもよく、所与の個体の特定の事情に応じて継続的に行うこともできる。
【0038】
本願明細書において、「予防(prevent/prevention)」という用語は、症状、疾患、障害又はその徴候の発生を防止(prevent)するあらゆる手段(use)を意味する。
【0039】
本願明細書において、「治療有効量(therapeutically effective amount)」という用語は、無毒であって、所望の治療効果を得るために十分な式(I)で表される化合物の量を意味する。必要とされる正確な量は、患者の年齢及び全身状態、治療対象の疾患の重症度、投与方法に応じて患者毎に異なる。従って、正確な「治療有効量」を特定することはできないが、当業者は通常の試験及び実験によって「治療有効量」を決定することができるだろう。
【0040】
本願明細書において、「その塩(salts thereof)」という用語は、酸付加塩、陰イオン塩、双性イオン塩、特に薬学的に許容しうる塩を意味する。
【0041】
本願明細書において、「薬学的に許容しうる塩」は、動物に無毒な塩を意味する。薬学的に許容しうる塩の例としては、酢酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、安息香酸、クエン酸、桂皮酸、エタンスルホン(ethanesulfonic)酸、フマル酸、グルタミン酸、グルタル酸、グルコン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素(hydroiodic)酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ナフトエ酸、ヒドロキシナフトエ(hydroxynaphthoic)酸、ナフタレンスルホン(naphthalenesulfonic)酸、ナフタレンジスルホン(naphthalenedisulfonic)酸、ナフタレンアクリル(naphthaleneacrylic)酸、オレイン酸、シュウ酸、オキサロ酢酸、リン酸、ピルビン酸、p-トルエンスルホン(p-toluenesulfonic)酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸、トリフェニル酢(triphenylacetic)酸、トリカルバリル(tricarballylic)酸、サリチル酸、硫酸、スルファミン(sufamic)酸、スルファニル酸、コハク酸から形成された酸付加塩が挙げられる
【0042】
本願明細書において、「C1〜10アルキル」という用語は、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、セクブチル(sec-ブチル)、三級ブチル(t-ブチル)、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等の、炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐鎖の一価飽和炭化水素基を意味する。
【0043】
本願明細書において、「C1〜6アルキル」という用語は、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシルなどの、炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐鎖の一価飽和炭化水素基を意味する。
【0044】
本願明細書において、「C2〜6アルケニル」という用語は、例えば、ビニル、プロペニル(propenyl)、2-メチル-2-プロペニル、ブテニル(butenyl)、ペンテニル等の、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する炭素原子数2〜6の直鎖又は分岐鎖の一価炭化水素ラジカルを意味する。アルケニル基は、2〜4個の炭素原子を含んでいてもよい。
【0045】
本願明細書において、「C2〜6アルキニル」という用語は、例えば、エチニル(ethynyl)、プロピニル(propynyl)、ブチニル(butynyl)、ペンチニル(pentynyl)、ヘキシニル(hexynyl)等の、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する炭素原子数2〜6の直鎖又は分岐鎖の一価炭化水素ラジカルを意味する。アルキニル基は、2〜4個の炭素原子を含んでいてもよい。
【0046】
本願明細書において、「C3〜7シクロアルキル」という用語は、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル(cycloheptyl)等の、炭素原子数3〜7の環状アルキル基を意味する。
【0047】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はシクロアルキル基は、随意で、アシルオキシ、ヒドロキシ、ハロ、アルコキシ、ニトロ又はシアノの1以上で置換されていてもよい。
【0048】
本願明細書において、「アリール(aryl)」という用語は、炭素原子数6〜30の一価芳香族ラジカルを意味する。アリール基は、フェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラセニル(anthracenyl)、及びフェナントレニル(phenanthrenyl)からなる群から選択されてもよい。アリール基は、随意で、C1〜6アルキル、ハロ、アシルオキシ、ヒドロキシ、アルコキシ、シリルオキシ、ニトロ又はシアノの1以上で置換されていてもよい。
【0049】
本願明細書において、「ヘテロアリール(heteroaryl)」という用語は、炭素原子数1〜12の一価芳香族ラジカルを含み、1〜6個又は1〜5個又は1〜4個又は1〜3個又は1又は2個の原子は、窒素、酸素及び硫黄から選択されるヘテロ原子である。ヘテロアリール基は、フラニル(furanyl)、キナゾリニル(quinazolinyl)、キノリニル(quinolinyl)、イソキノリニル(isoquinolinyl)、インドリル(indolyl)、ベンズイミダゾリル(benzimidazolyl)、ピラゾリル(pyrazolyl)、テトラゾリル(tetrazolyl)、オキサゾリル(oxazolyl)、イソオキサゾリル(isoxazolyl)、イソチアゾリル(isothiazolyl)、チアゾリル(thiazolyl)、チエニル(thienyl)、イミダゾリル(imidazolyl)、ピラジニル(pyrazinyl)、ピリダジニル(pyridazinyl)、ピリミジニル(pyrimidinyl)、ピリジル(pyridyl)、トリアゾリル(triazolyl)、ベンゾチアゾリル(benzothiazolyl)、ベンゾイソチアゾリル(benzisothiazolyl)、ベンゾキサゾリル(benzoxazolyl)、ベンゾイソキサゾリル(benzisoxazolyl)、ベンズイミダゾリル(benzimidazolyl)、及びトリアジニル(triazinyl)からなる群から選択されてもよい。ヘテロアリール基は、随意で、アルキル、ハロ、アシルオキシ、ヒドロキシ、ハロ、アルコキシ、シリルオキシ、ニトロ又はシアノの1以上で置換されていてもよい。
【0050】
本願明細書において、「ハロ(halo)」という用語は、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードを意味する。
【0051】
本願明細書において、「アミノアルキル(aminoalkyl)」という用語は、1以上の水素原子が1以上のアミノ基で置換された上述した「アルキル」を意味する。1又は2個の水素原子が1又は2個のアミノ基で置換されていてもよい。アミノアルキル基は、アミノメチル、アミノエチル、アミノプロピルなどであってもよい。
【0052】
本願明細書において、「アリールアルキル(arylalkyl)」という用語は、上述したアリール基が二価アルキレン基を介して分子に結合した基を意味する。アリールアルキル基の例としては、ベンジル、フェネチル(phenethyl)等が挙げられる。「アルキレン(alkylene)」という用語は、直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素基から2個の水素原子が取り除かれることによって得られる二価の基を意味する。アルキレン基の例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、イソブチレン等が挙げられる。
【0053】
本願明細書において、「アルキルアリール(alkylaryl)」という用語は、上述したアルキル基が二価アリーレン(arylene)基を介して分子に結合した基を意味する。アルキルアリール基の例としては、トリル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル等が挙げられる。「アリーレン(arylene)」という用語は、上述したアリール基から2個の水素原子が取り除かれることによって得られる芳香環系を意味する。
【0054】
本願明細書において、「ハロアルキル(haloalkyl)」という用語は、モノハロゲン化(monohalogenated)アルキル基、ジハロゲン化(dihalogenated)アルキル基、過ハロゲン化(perhalogenated)アルキル基を意味する。好ましいペルハロアルキル基は、トリフルオロメチル及びペンタフルオロエチルである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】アジュバント誘発関節炎ラットモデルにおけるの関節スコアに対する化合物(1)(NV-17)の効果を示す。
【図2】脾細胞増殖及びサイトカイン産生に対する化合物(1)の効果を示す。
【図3】脾細胞増殖及びサイトカイン産生に対する化合物(1)の効果を示す。
【図4】ノルアドレナリン誘発大動脈輪収縮(aortic contractility)に対する化合物(1)(NV-17)の効果を示す。
【図5】ノルアドレナリン誘発大動脈輪収縮に対する化合物(3)(NV-124)の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
一態様において、本発明は、下記一般式(I)で表される化合物又はその塩を提供する。
【0057】
【化4】

式中、
R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、OR9、OC(O)R9、OSi(R10)3、C1〜10アルキル、C3〜7シクロアルキル、アミノ、アミノアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、チオール、COOH、アルキルチオ、ニトロ、シアノ、ハロ、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、及びヘテロアリールからなる群から選択され、
R6は、R11(R12)N(CH2)n-であり、
R7は、水素、R9、C(O)R9、Si(R10)3、及びC3〜7シクロアルキルからなる群から選択され、
R8は、水素、C1〜10アルキル、C3〜7シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、ニトロ、シアノ、及びハロからなる群から選択され、
R9は、C1〜10アルキル、ハロアルキル、アリール、アリールアルキル、及びアルキルアリールからなる群から選択され、
R10は、それぞれ独立して、C1〜10アルキル及びアリールからなる群から選択され、
R11及びR12は、それぞれ独立して、水素、C1〜10アルキル、及び-Y-CO2R13からなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、C1〜10アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、COOH、COOR10、ハロ、ニトロ、シアノ、及びアリールからなる群から選択される1以上の置換基で随意で置換されていてもよい5、6又は7員環の複素環を形成しており、
R13は、水素、C3〜7シクロアルキル、C1〜10アルキル、C2〜6アルケニル、及びC2〜6アルキニルからなる群から選択され、
Yは、随意で1以上の酸素、窒素又は硫黄が挿入された炭素原子数1〜15の炭化水素鎖であり、
nは、1〜4の整数であり、
---」の描画は、単結合又は二重結合を表す。
【0058】
R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、C1〜10アルキル、ハロ、ヒドロキシ、OR9、OC(O)R9、及びOSi(R10)3からなる群から選択されてもよい。一実施形態では、R2、R3及びR4の少なくとも1つはヒドロキシである。別の実施形態では、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素及びヒドロキシからなる群から選択され、R2、R3及びR4の少なくとも2つは水素であり、残りの置換基はヒドロキシである。ヒドロキシ置換基(存在する場合)は、パラ位に位置していてもよい。
R7は、水素、C(O)R9、及びC1〜10アルキルからなる群から選択されてもよい。
R8は、水素、C1〜10アルキル、アリール、アリールアルキル、及びハロからなる群から選択されてもよい。
R9は、C1〜10アルキル、ハロアルキル、及びアリールからなる群から選択されてもよい。
R10は、C1〜10アルキルであってもよい。
R11及びR12は、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、及びC1〜10アルキルからなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、C1〜10アルキル、COOH、COOR10、及びハロからなる群から選択される1以上の置換基で随意で置換されていてもよい5又は6員環の複素環を形成していてもよい。
Yは、炭素原子数1〜10、1〜9、1〜8、1〜7又は1〜6の炭化水素鎖であってもよい。
R13は、C1〜10アルキルであってもよい。
nは、1、2又は3であってもよい。
【0059】
R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、及びOR9からなる群から選択されてもよい。
R7は、水素及びC1〜6アルキルからなる群から選択されてもよい。
R8は、水素、C1〜10アルキル、及びハロからなる群から選択されてもよい。
R9は、C1〜6アルキル及びハロアルキルからなる群から選択されてもよい。
R10は、C1〜6アルキルであってもよい。
R11及びR12は、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、及びC1〜6アルキルからなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、C1〜10アルキル、COOH、及びハロからなる群から選択される1以上の置換基で随意で置換されていてもよい5又は6員環の複素環を形成していてもよい。
Yは、炭素原子数1〜5の炭化水素鎖であってもよい。
R13は、C1〜6アルキルであってもよい。
nは、1又は2であってもよい。
【0060】
R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、及びOMeからなる群から選択されてもよい。
R7は、水素及びメチルからなる群から選択されてもよい。
R8は、水素及びC1〜6アルキルからなる群から選択されてもよい。
R9は、C1〜6アルキルであってもよい。
R11及びR12は、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、及びメチルからなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、メチル、COOH、及びハロからなる群から選択される置換基で随意で置換されていてもよい5員環の複素環を形成していてもよい。
Yは、炭素原子数1又は2の炭化水素鎖であってもよい。
R13は、メチル、エチル、及びプロピルからなる群から選択されてもよい。
nは1であってもよい。
【0061】
一実施形態では、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、OR9、OC(O)R9、及びOSi(R10)3からなる群から選択され、R7は、水素、C(O)R9、及びC1〜10アルキルからなる群から選択され、R8は、水素、C1〜10アルキル、アリール、アリールアルキル、及びハロからなる群から選択され、R9は、C1〜10アルキル、ハロアルキル、及びアリールからなる群から選択され、R10は、C1〜10アルキルであり、R11及びR12は、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、及びC1〜10アルキルからなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、C1〜10アルキル、COOMe、COOH、及びハロからなる群から選択される1以上の置換基で随意で置換されていてもよい5又は6員環の複素環を形成しており、Yは、炭素原子数1〜10の炭化水素鎖であり、R13はC1〜10アルキルであり、nは1、2又は3である。
【0062】
別の実施形態では、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素及びヒドロキシからなる群から選択され、R2、R3及びR4の少なくとも1つはヒドロキシであり、R7は、水素及びC1〜10アルキルからなる群から選択され、R8は、水素、C1〜10アルキル、及びハロからなる群から選択され、R11及びR12は、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、及びC1〜10アルキルからなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、C1〜10アルキル、COOMe、及びCOOHからなる群から選択される1以上の置換基で随意で置換されていてもよい5員環の複素環を形成しており、Yは、炭素原子数1〜6の炭化水素鎖であり、R13はC1〜6アルキルであり、nは1又は2である。
【0063】
別の実施形態では、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素及びヒドロキシからなる群から選択され、R2、R3及びR4の少なくとも1つはヒドロキシであり、R7は、水素及びC1〜6アルキルからなる群から選択され、R8は、水素及びC1〜6アルキルからなる群から選択され、R11及びR12は、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、及びC1〜6アルキルからなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、C1〜6アルキル、COOH、及びCOOMeからなる群から選択される1以上の置換基で随意で置換されていてもよい5員環の複素環を形成しており、Yは、炭素原子数1〜4の炭化水素鎖であり、R13はC1〜6アルキルであり、nは1又は2であり、3位に二重結合が存在する。
【0064】
別の実施形態では、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素及びヒドロキシからなる群から選択され、R2、R3及びR4の少なくとも1つはヒドロキシであり、R7は水素であり、R8は、水素及びC1〜6アルキルからなる群から選択され、R11及びR12は、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、及びC1〜6アルキルからなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、C1〜6アルキル、COOH、及びCOOMeからなる群から選択される1又は2個の置換基で随意で置換されていてもよい5員環の複素環を形成しており、Yは、炭素原子数1〜4の炭化水素鎖であり、R13はC1〜6アルキルであり、nは1又は2であり、3位に二重結合が存在する。
【0065】
別の実施形態では、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素及びヒドロキシからなる群から選択され、R2、R3及びR4の少なくとも1つはヒドロキシであり、R7は水素であり、R8は水素であり、R11及びR12は、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、及びs-ブチルからなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、メチル、エチル、及びCOOHからなる群から選択される1又は2個の置換基で随意で置換されていてもよい5員環の複素環を形成しており、Yは、炭素原子数1〜3の炭化水素鎖であり、R13はメチル、エチル、イソプロピル又はプロピルであり、nは1又は2であり、3位に二重結合が存在する。
【0066】
別の実施形態では、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素及びヒドロキシからなる群から選択され、R2、R3及びR4の少なくとも2つは水素であり、残りの置換基はヒドロキシであり、R7は水素であり、R8は水素であり、R11及びR12は、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、メチル、エチル、n-プロピル、及びイソプロピルからなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、COOHで随意で置換されていてもよい5員環の複素環を形成しており、Yは-CH2-又は-CH2CH2-であり、R13はメチル、エチル、イソプロピル又はプロピルであり、nは1又は2であり、3位に二重結合が存在する。
【0067】
別の実施形態では、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素及びヒドロキシからなる群から選択され、R2、R3及びR4の少なくとも2つは水素であり、残りの置換基はパラ位に位置するヒドロキシであり、R7は水素であり、R8は水素であり、R11及びR12は、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、メチル、エチル、n-プロピル、及びイソプロピルからなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、COOHで随意で置換されていてもよい5員環の複素環を形成しており、Yは-CH2-又は-CH2CH2-であり、R13はメチル、エチル、イソプロピル又はプロピルであり、nは1又は2であり、3位に二重結合が存在する。
【0068】
別の実施形態では、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素及びヒドロキシからなる群から選択され、R2、R3及びR4の少なくとも2つは水素であり、残りの置換基はパラ位に位置するヒドロキシであり、R7は水素であり、R8は水素であり、R11及びR12は、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、メチル、エチル、n-プロピル、及びイソプロピルからなる群から選択され、R13はメチル、エチル、イソプロピル又はn-プロピルであり、Yは-CH2-であり、nは1であり、3位に二重結合が存在する。
【0069】
本発明の一実施形態では、式(I)で表される化合物は、ベンゾピラン環の3位に位置するペンダントフェニル環が、実際の(actual)ベンゾピラン部分のフェニル環よりも活性化されていない化合物であってもよい。
【0070】
式(I)で表される化合物は、1以上のキラル中心を有していてもよい。本発明は、全ての鏡像異性体及びジアステレオ異性体、並びに、それらの任意の比率の混合物を含む。本発明は、単離された鏡像異性体又は一対の鏡像異性体も含む。鏡像異性体及びジアステレオ異性体は、周知の方法によって分離することができる。
【0071】
式(I)で表される化合物の合成
【0072】
例えば、式(I)で表される化合物は、公知の出発物質を使用してスキーム1に従って製造することができる。
【0073】
【化5】

【0074】
スキーム1に示すように、ホルムアルデヒドの存在下において、一般式(X)又は(X1)で表される化合物を適当な官能化アミノ化合物(functionalised amino compound)で処理することにより、6位にアミノ含有置換基を有する式(I)で表される化合物を得ることができる。なお、式(I)で表される化合物を製造するために別の合成経路も採用できるということは当業者が理解する事項である。
【0075】
式(X)及び(X1)で表される化合物は、標準的な方法、例えばスキーム2に示す方法によって製造することができる。
【0076】
ベンゾピラン環及びペンダントフェニル環は、例えば、国際公開第WO98/08503号及び国際公開第WO01/17986号並びにそれらに引用されている文献に従って、R7及びR8で置換されたフェノール(A)及びR2〜R4で置換されたフェニル酢酸(B)の出発物質を選択することによって様々な置換パターンで置換することができる。上記文献の開示内容は、この参照によって本願明細書に援用する。
【0077】
【化6】

【0078】
式(C)で表される化合物の閉環(cyclisation)反応はメタンスルホニルクロリド(methanesulfonyl chloride)を使用して容易に行うことができ、式(D)で表される化合物が得られる。還元反応は、水素の存在下において、アルコール溶媒内でPd-C又はPd-アルミナを使用して行うことができ、式(E)で表されるイソフラバノールが得られる。脱水は、例えば酸又はP2O5 を使用して行うことができ、式(X1)で表される化合物が得られる。
【0079】
通常、水酸基がある場合には、これを保護すると水素付加及び脱水はより良好に生じる。例えば、水酸基の保護は、T. W. Greene, Protective Groups in Organic Synthesis, John Wiley & Sons, New York, 1981に記載された方法によって行うことができる。水酸基の保護基としては、カルボン酸エステル(例えば、酢酸エステル)、安息香酸エステル等のアリールエステル、アセトニド及びベンジリデン等のアセタール/ケタール、o-ベンジル(ortho-benzyl)及びメトキシベンジルエーテル等のエーテル、テトラヒドロピラニルエーテル、及び t-ブチルジメチルシリルエーテル(tert-butyldimethyl silyl ether)等のシリルエーテルが挙げられる。保護基は、例えば、酸又は塩基による加水分解又は還元、例えば水素付加によって除去することができる。シリルエーテルは、フッ化水素又はフッ化テトラブチルアンモニウムを使用して開裂させることができる。
【0080】
随意の二重結合が存在していない式(I)で表される化合物を製造する場合には、式(X1)で表される化合物をさらに水素化して式(X)で表される化合物を得ることができる。
【0081】
なお、式(X)及び(X1)で表される化合物を製造するために別の公知の合成方法を採用できるということを当業者は理解する。
【0082】
本発明の化合物は以下の化合物を含む。
【0083】
【化7】

【0084】
式(I)で表される化合物の抗炎症活性及びその他の使用
【0085】
本願発明者らは、イソフラバン又はイソフラベン核(isoflavan or isoflavene nucleus)の6位に結合した側鎖にアミン官能性(amine functionality)又は含窒素環(nitrogen-containing ring)を有する式(I)で表される化合物は抗炎症活性を有することを見出した。
【0086】
従って、式(I)で表される化合物は、炎症及び炎症性疾患又は障害の予防及び/又は治療において有用である。炎症性疾患又は障害の例としては、高いエストロゲンレベルに関連する症状(conditions)、乾癬及びその他の皮膚の炎症性疾患、炎症性病変、線維筋痛、サルコイドーシス、全身性硬化症、アルツハイマー病、増殖性網膜症、肝炎、関節炎(例えば、変形性関節症)、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎等の大腸炎及びクローン病)、憩室炎、潰瘍性直腸炎、自己免疫障害(例えば、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosis)、関節リウマチ、糸球体腎炎、及びシェーグレン症候群)、喘息、肺炎症を伴う疾患及び障害、及び アテローム性動脈硬化症等が挙げられる。式(I)で表される化合物は、炎症に関連する痛み、浮腫及び/又は紅斑の予防及び/又は治療にも有用である。
【0087】
式(I)で表される化合物は、現在使用されている抗炎症薬と同様に、生理的濃度で有害な心血管系事象を伴わないため、炎症及び炎症性疾患又は障害の予防及び/又は治療において有益である。実際、式(I)で表される化合物は心保護効果を示すため、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症、脳血管疾患、高血圧症、狭心症、虚血、冠動脈疾患(coronary artery disease)、うっ血性心不全、血管疾患等の心血管疾患の予防及び/又は治療において好適であると思われる。
【0088】
式(I)で表される化合物を炎症及び炎症性疾患又は障害の予防及び/又は治療に使用する場合には、式(I)で表される化合物並びに式(I)で表される化合物を含む医薬組成物は、1種以上の他の治療薬、例えば、他の抗炎症薬、抗コリン作動薬(anticholinergic agents)(特に、M1、M2、M1/M2又はM3受容体拮抗薬)、β2-アドレナリン受容体作用薬、抗感染薬(例えば、抗生物質、抗ウイルス薬)又は 抗ヒスタミン剤と共に使用する(を含む)ことができる。例えば、一般式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩、溶媒和化合物又は生理的機能性誘導体(physiologically functional derivatives)と、副腎皮質ホルモン及び/又は抗コリン作用性及び/又はPDE-4阻害剤(anticholinergic and/or a PDE-4 inhibitor)との組み合わせが挙げられる。
【0089】
好適な抗炎症薬の例としては、副腎皮質ホルモン及び非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が挙げられる。式(I)で表される化合物と組み合わせて使用することができる好適な副腎皮質ホルモンとしては、経口及び吸入吸入ステロイド剤(oral and inhaled corticosteroids)並びに抗炎症活性を有するそれらのプロドラッグが挙げられる。それらの例としては、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、デキサメサゾン、プロピオン酸フルチカゾン、6α,9α-ジフルオロ-17α-[(2-フラニルカルボニル)オキシ]-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-フロロメチルエステル(6α,9α,-difluoro-17α-[(2-furanylcarbonyl)oxy]-11β-hydroxy-16α-methyl-3-oxo-androsta-1,4-diene-17β-carbothioic acid S-fluoromethyl ester)、6α,9α-ジフルオロ-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-3-オキソ-17α-プロピオニロキシ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17α-カルボチオ酸S-(2-オキソ-テトラヒドロ-フラン-3S-イル)エステル、ベクロメタゾンエステル(例えば、17-プロピオン酸エステル又は17,21-ジプロピオン酸エステル)、ブデソニド、フルニソリド、モメタゾンエステル(例えば、フロ酸エステル)、トリアムシノロンアセトニド、ロフレポニド(rofleponide)、シクレソニド、及び ブチキソコートプロピオネート(butixocort propionate)が挙げられる。好ましい副腎皮質ホルモンとしては、プロピオン酸フルチカゾン、及び 6a,9a-ジフルオロ-17a-[(2-フラニルカルボニル)オキシ]-11b-ヒドロキシ-16a-メチル-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17b-カルボチオ酸S-フロロメチルが挙げられ、6a,9a-ジフルオロ-17a-[(2-フラニルカルボニル)オキシ]-11b-ヒドロキシ-16a-メチル-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17b-カルボチオ酸S-フロロメチルがより好ましい。
【0090】
好適なNSAIDとしては、クロモグリク酸ナトリウム、ネドクロミルナトリウム、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤(例えば、テオフィリン、PDE4阻害剤又は混合PDE3/PDE4阻害剤)、ロイコトリエン拮抗薬、ロイコトリエン合成阻害剤(inhibitors of leukotriene synthesis)、iNOS阻害剤、トリプターゼ及びエラスターゼ阻害剤(tryptase and elastase inhibitors)、b-2インテグリン拮抗薬、及び アデノシン受容体作用薬又は拮抗薬(例えば、アデノシン2α作動薬)、サイトカイン拮抗薬(例えば、ケモカイン拮抗剤)、又は サイトカイン合成阻害剤(inhibitors of cytokine synthesis)が挙げられる。
【0091】
化合物の共投与は、同時に又は順次に行うことができる。同時投与は、同一の単位用量として化合物を投与するか、異なる単位用量で同時又はほぼ同時に投与することによって行うことができる。順次投与は任意の順序で行うことができ、特に累積又は相乗効果が望ましい場合には、第2の化合物を投与する際に第1の化合物の生理学的効果が持続していなければならない場合がある。
【0092】
本願発明者らは、式(I)で表される化合物が強力な酸化防止性(oxidation-inhibiting properties)を有することを見出した。従って、式(I)で表される化合物は酸化防止剤として様々な用途において有用であり、簡便に食品又は飲料に含有させ、摂取することができる。
【0093】
また、本願発明者らは、式(I)で表される化合物は、免疫系の調節(modulation)に有用であることを見出した。例えば、式(I)で表される化合物は免疫抑制性を有し(be immunosuppressive)、不適切な免疫応答に関連する症状(例えば、炎症性腸疾患及び関節リウマチ)の治療に使用することができる。
【0094】
また、本願発明者らは、式(I)で表される化合物は、細胞の増殖を阻害するために有用であり、異常な細胞増殖に関連する疾患及び障害(例えば、癌)の予防及び/又は治療に有益であることを見出した。予防及び/又は治療することができる癌の例としては、胃腸腫瘍(gastrointestinal tumours)、肝臓癌、胆道癌、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、肺癌、皮膚癌(例えば、黒色腫)、乳癌、非黒色腫皮膚癌(例えば、基底細胞癌及び扁平上皮癌)、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌、頭頚部の癌(cancer of the head and neck)、膀胱癌、肉腫及び骨肉腫、カポージ肉腫(Kaposi sarcoma)、AIDS関連のカポージ肉腫、腎癌、白血病、結腸直腸癌、及び 神経膠腫が挙げられる。癌は、原発性又は続発性の癌であってもよい。
【0095】
癌の治療又は予防では、併用(複合)治療計画(combination treatment regimens)によって治療上の利点が得られる場合がある。本発明に係る癌の治療方法は、放射線治療、化学療法、外科手術又はその他の医療介入等の他の療法と組み合わせて使用することができる。好適な化学療法剤及び他の抗ガン剤の例としては、タキソール、フルオロウラシル、シスプラチン、オキサリプラチン、α-インターフェロン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、アンジオインヒビン(angioinhibins)、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、フェノキソジオール(phenoxodiol)、NV-128、ミトラマイシン、TNP-470、ペントサンポリサルフェート、タモキシフェン、LM-609、CM-101、及び SU-101が挙げられる。
【0096】
式(I)で表される化合物及び化学療法剤又は他の抗ガン剤の共投与は、同時に又は順次に行うことができる。同時投与は、同一の単位用量として式(I)で表される化合物及び化学療法剤又は他の抗ガン剤を投与するか、式(I)で表される化合物及び化学療法剤又は他の抗ガン剤を異なる単位用量で同時又はほぼ同時に投与することによって行うことができる。順次投与は任意の順序で行うことができ、特に累積又は相乗効果が望ましい場合には、第2の化合物を投与する際に第1の化合物の生理学的効果が持続していなければならない場合がある。
【0097】
医薬組成物及び投与経路
【0098】
式(I)で表される化合物は、治療薬として、患者における様々な疾患又は症状(conditions)の治療又は予防に有用である。式(I)で表される化合物は、医薬組成物として患者に投与することができる。
【0099】
医薬組成物としては、経口投与、非経口投与(皮下、皮内、筋肉内、静脈内、関節内等)、吸入(例えば、所定用量の加圧エアロゾル、噴霧器(nebulisers)又は吸入器(insufflators)を使用)、直腸及び 局所投与(皮膚、頬側(buccal)、舌下、眼内等)に適した医薬組成物が挙げられる。最適な経路は、例えば、被投与者の症状及び障害に応じて異なる。
【0100】
組成物は簡便には単位剤形とすることができ、公知の調剤方法によって製造することができる。通常1以上の式(I)で表される化合物を、1以上の副成分を構成する担体と混合する。通常、組成物は、1以上の式(I)で表される化合物を液体担体又は細かく分割した固体担体の少なくとも一方と均一かつ密に混合し、必要に応じて得られた混合物を所望の組成物に成形することによって製造する。
【0101】
式(I)で表される化合物の有効用量は、通常、体重1kgあたり約0.0001mg〜約1000mg/24時間、体重1kgあたり約0.001mg〜約750mg/24時間、体重1kgあたり約0.01mg〜約500mg/24時間、体重1kgあたり約0.1mg〜約500mg/24時間、体重1kgあたり約0.1mg〜約250mg/24時間又は 体重1kgあたり約1.0mg〜約250mg/24時間である。より典型的には、式(I)で表される化合物の有効用量は、通常、体重1kgあたり約1.0mg〜約200mg/24時間、体重1kgあたり約1.0mg〜約100mg/24時間、体重1kgあたり約1.0mg〜約50mg/24時間、体重1kgあたり約1.0mg〜約25mg/24時間、体重1kgあたり約5.0mg〜約50mg/24時間、体重1kgあたり約5.0mg〜約20mg/24時間又は 体重1kgあたり約5.0mg〜約15mg/24時間である。
【0102】
あるいは、有効用量は、約500mg/m2以下であってもよい。通常、有効用量は、約25〜約500mg/m2、約25〜約350mg/m2、約25〜約300mg/m2、約25〜約250mg/m2、約50〜約250mg/m2又は 約75〜約150mg/m2である。
【0103】
頬側(舌下)投与に適した組成物としては、香味基材(flavoured base)(通常はスクロース及びアカシア又はトラガント)中に式(I)で表される化合物を含むトローチ剤(lozenges);ゼラチン及びグリセリン又はスクロース及びアカシア等の不活性基材(inert base)中に式(I)で表される化合物を含むトローチ(pastille)が挙げられる。
【0104】
経口投与に適した組成物は、所定量の式(I)で表される化合物を、粉末又は顆粒、水性液体又は非水性液体内の溶液又は懸濁液、水中油型乳濁液又は油中水型乳濁液として含む、ゼラチン又はHPMCカプセル、カシェ剤(cachets)又は錠剤等の個別単位(discrete units)として使用することができる。式(I)で表される化合物はペーストとして使用することもできる。
【0105】
式(I)で表される化合物をカプセルとして使用する場合には、化合物は、澱粉、ラクトース、結晶セルロース(microcrystalline cellulose)、二酸化ケイ素及び/又は環状オリゴ糖(シクロデキストリン等)等の1以上の薬学的に許容しうる担体と共に使用することができる。その他の成分としては、ステアリン酸マグネシウム及び/又はステアリン酸カルシウム等の潤滑剤が挙げられる。好適なシクロデキストリンとしては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピルシクロデキストリン、3-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及び トリ-メチル-β-シクロデキストリンが挙げられる。シクロデキストリンは、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンであってもよい。好適なシクロデキストリン誘導体としては、Captisol(登録商標)、米国特許第5,134,127号に記載されたシクロデキストリンのスルホブチルエーテル誘導体及びそれらの類似体が挙げられる。
【0106】
錠剤は、随意で1以上の他の成分と共に圧縮又は成形することによって得ることができる。圧縮錠剤は、必要に応じてバインダー、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウム)、不活性希釈剤又は表面活性/分散剤と混合した粉末又は顆粒等の自由流動状態(free-flowing form)の式(I)で表される化合物を適当な装置内で圧縮することによって得ることができる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤(inert liquid diluent)によって湿潤させた粉末状の式(I)で表される化合物を適当な装置内で成形することによって得ることができる。錠剤は、必要に応じて、例えば腸溶コーティングによって被覆されていてもよく、式(I)で表される化合物の持続又は制御放出(slow or controlled release)を可能とするように処方されていてもよい。
【0107】
非経口投与用組成物としては、水性又は非水性無菌注射剤が挙げられ、抗酸化剤、緩衝液、静菌薬(bacteriostats)、被投与者の血液内で等張を生じさせる溶質、懸濁剤及び増粘剤を含むことができる。非経口組成物は、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等の環状オリゴ糖を含むことができる。組成物は、例えば密閉アンプル及びバイアル等の単位用量又は多用量容器に入れた状態で提供することができ、使用直前に無菌液体担体(例えば、生理的食塩水又は注射用水)の添加のみを必要とする凍結乾燥状態で保存することができる。上述した無菌粉末、顆粒又は錠剤から即時(Extemporaneous)注射液及び懸濁液を調製することができる。
【0108】
吸入器(inhaler or insufflator)によって肺に局所送達する乾燥粉末組成物は、例えば、ゼラチンのカプセル及びカートリッジ、気泡(blisters)又は吸入器に使用するための積層アルミニウム箔(laminated aluminium foil)を使用して提供することができる。通常、組成物は、1以上の式(I)で表される化合物と、ラクトース又は澱粉等の適当な粉末ベース(担体物質)からなる吸入用粉末混合物を含む。ラクトースを使用することが好ましい。通常、各カプセル又はカートリッジは、20μg〜10mgの式(I)で表される化合物を、必要に応じて他の治療活性成分(therapeutically active ingredient)と共に含むことができる。あるいは、式(I)で表される化合物は賦形剤を使用せずに提供してもよい。組成物の包装は、単位用量又は多用量送達用であってもよい。
【0109】
経皮投与に適した組成物は、長期間にわたって被投与者の表皮との密接に接触するパッチとして提供することができる。そのようなパッチは、例えば、0.1〜0.2Mの濃度の随意で緩衝された水溶液として式(I)で表される化合物を含むことができる。
【0110】
経皮投与に適した組成物は、イオン泳動によって送達してもよく、通常は活性化合物の随意で緩衝された水溶液とすることができる。好適な組成物は、クエン酸塩又はBis/Trisバッファー(pH6)又はエタノール/水を含み、0.1〜0.2Mの式(I)で表される化合物を含む。
【0111】
吸入によって肺に局所送達する噴霧組成物は、例えば、水溶液又は懸濁液、あるいは、適当な液化噴霧剤を使用して定量吸入器等の気密パックから供給されるエアロゾル、懸濁液又は溶液として提供することができる。好適な噴霧剤としては、フッ化炭素、含水素クロロフルオロカーボン又はそれらの混合物、特に、ヒドロフルオロアルカン(hydrofluoroalkanes)(例えば、ジクロロジフルオロメタン(dichlorodifluoromethane)、トリクロロフルオロメタン(trichlorofluoromethane)、ジクロロテトラフルオロエタン(dichlorotetrafluoroethane)、特に、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(1,1,1,2-tetrafluoroethane)、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロ-n-プロパン(1,1,2,2,3,3,3-heptafluoro-n-propane ))又はそれらの混合物が挙げられる。また、二酸化炭素又はその他の適当な気体を噴霧剤として使用することもできる。エアロゾル組成物は賦形剤を含まないか、界面活性剤(例えば、オレイン酸レシチン)又は共溶媒(例えば、エタノール)等の公知の賦形剤を含むことができる。加圧組成物(Pressurised compositions)は、通常、弁(例えば、絞り弁(metering valve))によって閉じられ、マウスピースを備えたアクチュエータに取り付けられたキャニスター(例えば、アルミニウムキャニスター(aluminium canister))内に保持することができる。
【0112】
吸入投与のための薬剤は、制御された粒径を有することが望ましい。気管支系への吸入に最適な粒径は通常は1〜10μm、好ましくは2〜5μmである。通常、20μmを超える粒径を有する粒子は、吸入時に小気道に達しない場合がある。ラクトースを賦形剤として使用する場合には、ラクトース粒子の85%以下が60〜90μmのMMDを有し、ラクトース粒子の15%以上が15μm未満のMMDを有する粉砕(milled)ラクトースを使用する。
【0113】
直腸投与組成物は、ココアバター又はポリエチレングリコール等の担体を有する坐剤又は担体が生理的食塩水等の等張液体である浣腸剤として提供する。組成物の他の成分としては、シクロデキストリン(例えば、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン)等の環状オリゴ糖、1以上の界面活性剤、緩衝塩、pHを調節するための酸又はアルカリ、等張性調節物質(isotonicity adjusting agents)及び/又は抗酸化剤が挙げられる。
【0114】
皮膚への局所投与に適した組成物は、軟膏、クリーム剤、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾル又はオイルであることが好ましい。使用することができる担体としては、ワセリン(Vasoline)、ラノリン(lanoline)、ポリエチレングリコール、アルコール、それら2以上の組合せが挙げられる。通常、式(I)で表される化合物は、0.1〜5%(w/w)又は0.5%〜2%(w/w)の濃度で含まれる。このような組成物の例としは、化粧用皮膚クリーム剤が挙げられる。
【0115】
式(I)で表される化合物は、例えば食品に添加、混合、コーティング又は組み合わせる等によって食品として提供することができる。「食品(food stuff)」という用語は可能な限り最も広い意味で使用し、飲料(乳製品を含む)等の液体組成物及び他の食品(ヘルスバー、デザート等)を含む。式(I)で表される化合物を含む食品組成物は、通常の方法によって容易に製造することができる。
【0116】
本願明細書に記載する治療適応症(therapeutic indications)を治療するための医薬組成物は、通常、式(I)で表される化合物と、公知の1以上の薬学的又は獣医学的に許容しうる担体及び/又は賦形剤とを混合することによって製造する。
【0117】
担体は、組成物中の他の成分との適合性があるという意味で許容しうることが必要であり、患者に対して有害であってはならない。担体又は賦形剤は、固体又は液体のすくなくともいずれかであってもよく、好ましくは単位用量剤形(例えば錠剤)として式(I)で表される化合物と混合し、単位用量剤形は、式(I)で表される化合物を100重量%以下、好ましくは0.5〜75重量%含むことができる。
【0118】
組成物は、リポソームとして標的細胞に投与又は送達することができる。通常、リポソームはリン脂質又は他の脂質物質に由来し、水系媒体に分散されたモノ又はマルチラメラ抱水性液晶(mono- or multi-lamellar hydrated liquid crystals)によって形成されている。標的細胞に組成物を投与又は送達する際に使用されるリポソームの具体例としては、合成コレステロール(Sigma)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine, DSPC; Avanti Polar Lipids)、3-N-[(メトキシポリ(エチレングリコール)2000)カルバモイル]-1,2-ジミレスチルオキシ-プロピルアミン(3-N-[(-methoxy poly(ethylene glycol)2000)carbamoyl]-1,2-dimyrestyloxy-propylamine, PEG-cDMA)、又は 1,2-di-o-オクタデセニル-3-(N,N-ジメチル)アミノプロパン(1,2-di-o-octadecenyl-3-(N,N-dimethyl)aminopropane, DODMA)が挙げられる。
【0119】
また、組成物は、微粒子として投与することができる。ポリ乳酸(polylactide, PLA)、ポリ乳酸-co-グリコリド(polylactide-co-glycolide, PLGA)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)で形成された生分解性微粒子が、血漿半衰期を増加させ、効能持続期間を延ばすための医薬担体として広く使用されている(R. Kumar, M., 2000, J. Pharm. Pharmaceut. Sci. 3(2) 234-258)。
【0120】
組成物は、ショ糖酢酸イソ酪酸(sucrose acetate isobutyrate, SAIB)及び有機溶媒又は有機溶媒混合物からなる放出制御マトリックス(controlled release matrix)を含むことができる。放出調整剤(release modifier)としてポリマーを賦形剤に添加して、粘度を上昇させると共に放出速度を低下させることができる。SAIB送達賦形剤に式(I)で表される化合物を添加してSAIB溶液又は懸濁液組成物とすることができる。製剤を皮下注入した場合には、マトリックスから溶媒が拡散し、SAIB薬剤又はSAIB薬剤-ポリマー混合物は体内デポー製剤(in situ forming depot)となる。
【実施例】
【0121】
以下、実施例を参照して本発明について説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0122】
実施例1:化合物の製造
【0123】
化合物(1)を以下のように合成した。デヒドロエクオール(6.5g、27.1mmol)を丸底フラスコ(250mL)に秤量し、無水エタノール(125mL)に溶解した。溶液を0℃に冷却した後、N,N,N',N'-テトラメチルジアミノメタン(N,N,N',N'-tetramethyldiaminomethane, 4.7mL、34.9mmol)を添加し、ホルムアルデヒド(18mL、37%水溶液)をさらに添加した。混合物を室温で一晩撹拌した後、白色の沈殿物を吸引濾過によって回収し、高真空下で乾燥して化合物(1)を得た(収量:5.53g、69%)。
【0124】
1H NMR (400MHz, d6-DMSO) δ 2.22 (s, 6H, 2 x CH3), 3.48 (s, 2H, -CH2-), 5.01 (d, 2H, J = 1.04 Hz, H2), 6.21 (s, 1H, H4), 6.73 (s, 1H, H8), 6.77 (d, 2H, J = 8.7 Hz, H3', H5'), 6.83 (s, 1H, H5), 7.32 (d, 2H, J = 8.7 Hz, H2', H6').
【0125】
化合物(2)を以下のように合成した。デヒドロエクオール(0.24g、1.0mmol)をエタノール(約10mL)に溶解し、氷浴中で撹拌した。ホルムアルデヒドの漏出を防ぐために、フラスコをセプタム(septum)で封止した。グリシンメチルエステル塩酸塩(0.25g、2.0mmol)、トリエチルアミン(0.28mL、2.0mmol)及び37%ホルマリン(formaldehyde)溶液(0.35mL、4.0mmol)を反応混合物に添加し、混合物を室温で24時間撹拌した。エタノールを真空下で除去し、残渣をシリカクロマトグラフィー分離して化合物(2)を得た(0.17g、51%)。
【0126】
1H NMR (400MHz, d6-DMSO) δ 3.64 (s, 3H, OCH3), 3.92 (s, 2H, NCH2), 4.82 (s, 2H, NCH2), 5.02 (s, 2H, H2), 6.22 (s, 1H, H8), 6.74 (s, 1H, H4 or H5), 6.77 (s, 1H, H4 or H5), 6.78 (d, 2H, J = 8.7 Hz, H3'及び H5'), 7.34 (d, 2H, J = 8.7 Hz, H2' 及びH6'), 9.64 (br s, 2H, OH).
【0127】
化合物(3)を以下のように合成した。L-プロリン(0.46g、4.00mmol)及び37%ホルムアルデヒド(0.31mL、4.16mmol)の水溶液(約20mL)を、デヒドロエクオール(0.50g、2.08mmol)の撹拌エタノール溶液(約40mL)に添加した。混合物を70〜80℃で7時間還流した(refluxed)。混合物を室温に冷却した後、真空下で濃縮してピンク色の固体を得た。吸引下で固体を回収し、濾液を減圧乾固して第2の生成物を得た(化合物(3)の全収率:0.33g、92%)(m.p.:240℃(dec.))。
【0128】
1H NMR (300MHz, DMSO-d6): δ 7.31 (d, 2H, J = 10.2, Hz, H2', H6'), 6.98 (s, 1H, H5), 6.76 (d, 2H, J = 8.6 Hz, H3', H5'), 6.72 (s, 1H, H4), 6.28 (s, 1H, H8), 5.02 (s, 2H, H2), 4.08 (d, 1H, J = 12.8 Hz, Ar-CHa-N) 3.74 (d, 1H, J =13.2 Hz, Ar-CHb-N) 2.70 (dd, 1H, J = 9.4 Hz, J = 17.3 Hz, -CH-COOH) 2.18-2.08 (m, 1H, -N-CH2-CH2) 1.95-1.66 (m, 4H, -CH2-CH2-CH2-CH-COOH).
【0129】
13C NMR (75.6MHz, DMSO-d6): δ 171.99, -C=O; 157.59, ArC; 157.46, ArC; 154.22, ArC-OH; 129.11, ArCH; 128.30, ArC; 127.42, ArC; 126.10, ArCH; 116.67, ArCH; 115.88, ArCH; 115.05, ArC; 113.89, ArC; 102.79, ArCH; 72.65, Ar-CH2-O; -CH-COOH; 53.93, -N-CH2; 53.16, Ar-CH2-N; 28.98, -CH-CH2-CH2; 23.52, -CH2-CH2-CH2.
【0130】
IR (KBr): υmax 3422, 3104, 1616, 1508, 1458, 1396, 1312, 1272, 1158, 1132 cm-1.
【0131】
UV/Vis (CH3OH): λmax 336nm (ε24101 cm-1M-1), 253nm (ε17194 cm-1M-1), 214nm (ε26232 cm-1M-1), 202nm (ε27150 cm-1M-1).
【0132】
HRMS calculated d for C21H21NO5Na+: 390.13119, found 390.13192.
【0133】
微量分析:Found C: 67.79; H: 5.94; N: 3.74; calculated C: 67.68; H: 6.20; N: 3.59% for C21H21NO5).
【0134】
実施例2-抗炎症活性
【0135】
2.1 トランスフェクトされたヒトマクロファージ細胞株THP-1におけるNFκB産生に対する効果
【0136】
NFκBは、ストレス、炎症性サイトカイン(例えば、IL-1又はTNFα)、フリーラジカル、紫外線照射、細菌性又はウイルス性抗原等の刺激に対する細胞反応の中心となる普遍的転写因子である。NFκBを阻害することによって抗炎症作用(anti-inflammatory strategy)が得られる。
【0137】
方法
【0138】
アッセイでは、遺伝子操作したTHP-1細胞株及びGeneBLAzer(登録商標)β-ラクタマーゼ法(Invitrogen)を使用した。ヒトTHP-1単球/マクロファージは、安定にトランスフェクトされたNFκB応答エレメントの制御下にあるβ-ラクタマーゼレポーター遺伝子を含む。それらはTNFαによる刺激に応答し、NFκBシグナル経路が活性化される。細胞とTNFα及び試験物質との共培養により、試験物質がTNFα刺激β-ラクタマーゼ産生(TNFα-stimulated beta-lactamase production)を阻害する能力を定量することができる。炎症指標(inflammatory index)をβ-ラクタマーゼ基質に対するβ-ラクタマーゼ産物の比として算出した。
【0139】
簡単に説明すると、RPMI 1640培地(70μL)の存在下で、遺伝子操作したTHP-1細胞を96ウェルプレートのウェル(50×103細胞/ウェル)に播種した。TNFαを各ウェルに添加し(10μL)、7.5ng/mLの最終濃度とした。次に、透析ウシ血清を添加した(10μL)。試験化合物をDMSO(10μL)に溶解した(5ウェル)。各プレートは、無細胞対照(4ウェル)、無血清対照(4ウェル)及び2つの血清対照を含んでいた。プレートを37℃で5時間培養し、NFκB刺激β-ラクタマーゼ産生を生じさせた。次に、LiveBLAzer(商標)FRET B/G Substrate(CCF4-AM)基質をアッセイに添加した。CCF4-AMは、Invitrogenが開発したβ-ラクタマーゼに対するフェルスター共鳴エネルギー転移(Forster resonance energy transfer, FRET)に基づく基質である。CCFA-AMが細胞に入ると、内因性エステラーゼによって負に帯電したCCF4に変換される。409nmにおける基質の励起によって、クマリン部分とフルオレセイン部分との間で効率的なFRETが生じ、530nmで検出可能な緑色蛍光が得られる。β-ラクタマーゼの存在によってCCF4が切断され、FRETが喪失し、460nmで検出可能な強い青色蛍光シグナルが生じる。このようにして、β-ラクタマーゼ(NFκB-プロモータ活性のマーカー)の活性を、基質に対する産物の比として測定する(青色/緑色蛍光比:460nm/530nm)。炎症指標の測定では、プレート内CVは2.1%であり、プレート間CVは8.9%だった。
【0140】
結果
【0141】
以下の表1に示すとおり、化合物(1)は10μM及び100μMにおいてNFκBのプロモータ活性を有意に低下させた。細胞毒性はなかった。化合物(2)は最高濃度のみにおいて活性であり、同様に細胞毒性はなかった。
【0142】
【表1】

【0143】
これらの結果は、化合物(1)及び(3)が炎症を調節するために不可欠な(integral)活性を有することを示唆している。
【0144】
2.2 動脈細胞における接着分子発現に対する効果
【0145】
炎症は、循環血液からの炎症細胞の動員(recruitment)並びにそれらの経内皮遊走を伴う。このプロセスは大部分、幾つかの炎症性刺激に応じて血管内皮(vascular endothelium)及び循環白血球(circulating leukocytes)で発現する細胞接着分子によって媒介される。血管細胞接着分子(VCAM-1)は、血管表面における炎症細胞の強い接着を誘発する。従って、VCAM-1の阻害は、炎症全般(特に関節炎)を抑制するための潜在的な治療標的である。
【0146】
方法
【0147】
ELISA法によって細胞接着分子の表面発現を測定することにより、TNFα刺激内皮細胞活性化(TNFα-stimulated endothelial cell activation)の阻害を評価した。成長培地(Cell Applications社)中のヒト動脈内皮細胞(Human arterial endothelial cells, HAEC)を10,000細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種した。加湿インキュベータ内でプレートを37℃で一晩培養して細胞をコンフルエントにした。実験日の朝に、培地100μLを含む各ウェルにTNFα(10μL、2ng/ml)を添加した。試験化合物をDMSO含有培地(2.5%DMSO)内で希釈し、100μM及び300μMの濃度とした。最終濃度が10μM及び30μMになるように試験化合物をウェルに添加した。DMSO含有培地のみを濃度が0の対照ウェルに添加した。全てのサンプルを四重で測定した(1つの処理当たり4つのウェル)。
【0148】
式(I)の化合物と共に培養した後、培地を取り出し、非特異的IgG又は特異的マウス抗体のいずれかで細胞をプローブした(VCAM(BD Biosciences社、10%熱失活ヒト血清を含む緩衝生理食塩水100μL中、0.1μg)。
【0149】
ヒツジ抗マウス抗体/西洋ワサビペルオキシダーゼ抱合体を添加することによって接着分子発現を検出した。プレートを30分間静置した後、単層(monolayers)を洗浄し、ヒツジ抗マウス抗体/西洋ワサビペルオキシダーゼ抱合体(10%熱失活ヒト血清及び0.05% Tween 20を含む100μLのHBSS中で1:500)を添加し、30分間静置した。さらに洗浄した後、ABTS基質(Kirkegaard and Perry Laboratories社)150μLを各ウェルに添加し、15分間発色させた。ELISAリーダー(Titertek Multiscan, Flow Laboratories社)を使用して405nmで光学濃度を測定した。
【0150】
結果
【0151】
以下の表2及び表3に示すように、化合物(1)及び(3)は、各濃度においてTNFα誘発VCAM発現(TNFα-induced VCAM expression)を有意に阻害した。
【0152】
【表2】

【0153】
【表3】

【0154】
これらの結果は、化合物(1)及び(3)は、炎症反応に関与する白血球の動員及び遊走を減少させる可能性を示唆している。
【0155】
2.3 リポキシゲナーゼに対する効果
【0156】
ロイコトリエン(LT)はエイコサノイド(アラキドン酸(AA)に由来する分子ファミリー)である。COX経路の産物であるPG類(PGs)やTX類(TXs)とは異なり、LT類(LTs)は5-リポキシゲナーゼ(5-LO)経路の産物である。LTはアレルギー性及び炎症性疾患に関与し、血管透過性、血管拡張応答(vasodilation)及び平滑筋収縮を増加させることによって炎症を増幅する。また、LTは強力な走化性物質である。さらに、5-LOを阻害することにより、TNFαの発現が間接的に減少する。LTを阻害することによって抗炎症作用が得られる。
【0157】
方法
【0158】
LTB4合成経路は、Ca依存PLA2によるリン脂質からのAAの初期放出を含む。次に、遊離AAは5-LO(FLAPによる酵素活性化を必要とする)によって酸素化され、エポキシド中間体(LTA4)を生成する。次に、LTA4はLTA4加水分解酵素(LTA4 hydrolase)によってLTB4に転換される。LTB4はシトクロムP(CYP)450ω-加水分解酵素(cytochrome P-(CYP) 450 ω-hydrolase)によって代謝(並びに不活性化)され、20-ヒドロキシ及び20-カルボキシ代謝産物を生成する。これらの代謝産物もHPLC分析で測定する。
【0159】
赤血球のFicoll、デキストラン沈降、溶菌による遠心分離によってクエン酸ヒト静脈血から好中球を>90%の純度で単離した(Boyum、1986)。細胞をHEPES緩衝ハンクス液(HBHS)で洗浄し、HBHS含有0.1%BSA(HBHS+BSA)内に450万細胞/mLで懸濁させた。
【0160】
実験を事前に行ってカルシウムイオノフォアによる好中球の刺激を最適化した。900μLの細胞懸濁液(400万細胞)を、10μLのDMSO中の3',7-ジヒドロキシイソフラブ-3-エン(3',7-dihydroxyisoflav-3-ene)(又は賦形剤)と共に37℃で5分間培養し、100μLの25ng/μLのカルシウムイオノフォア(遊離酸、Sigma社)及び0.5%DMSOを含む、0.1%ウシ血清アルブミン(HBHS+BSA)含有HBHSを添加した。細胞を10分間培養した後、遠心分離(1200×g)によって4℃で5分間ペレット化し、細胞を含まない上清(cell free supernatant)を使用してLTB4及びその代謝産物の濃度を定量した。
【0161】
各900μLの上清のアリコートに、25μLの2.5ng/μLプロスタグランジンB2 (PGB2)のエタノール溶液を内部標準として添加した。溶液を2Mギ酸でpH3以下に酸性化し、混合物を2mL酢酸エチルで抽出し、激しくボルテックスした。有機層を回収し、ガラス瓶内において窒素下で乾燥し、50μLの再構成溶液(水:メタノール:アセトニトリル=2:1:1)内で再構成した。
【0162】
125-4 LiChrospher(登録商標)100 RP-18(5μm)カラム(Agilent Technologies社)及び公知の傾斜システム(gradient system)(Mita et al.、1988)を備えたHPLCシステムを使用して分析を行い、LTB4、その酸化生成物である20-ヒドロキシLTB4(20-OH-LTB4)、20-カルボキシLTB4(20-COOH-LTB4)並びにPGB2を分離した。1mL/分の流量で、3つの異なる移動相溶液の組み合わせを使用した。UV吸光度を270nmでモニターし、ピーク面積を内標準のピーク面積及び予め作成した標準曲線を比較することによってLTB4とその代謝産物を定量した。
【0163】
結果
【0164】
以下の表4に示すように、化合物(1)はLTB4及びその代謝産物の合成を阻害する活性を有していた。LTB4産生のIC50は4.3μMだった。表4に示すように、化合物(3)はLTB4の合成を阻害する活性を有しており、LTB4産生のIC50は5.4μMだった。化合物(3)は20-OH-LTB4の産生を阻害したが、20-COOH-LTB4の産生は増加した。
【0165】
化合物(1)及び(3)によって産生したLTB4、20-OH-LTB4、20-COOH-LTB4の最大放出を賦形剤対照と比較した。
【0166】
【表4】

【0167】
反応混合物及び試験化合物と共に5分間培養した細胞のアリコートの細胞生存率は約75〜85%だった。試験化合物と共に培養した好中球の細胞生存率は対照と同様だった。
【0168】
これらの結果は、化合物(1)及び(3)がリポキシゲナーゼ阻害活性を有することを示唆している。
【0169】
2.4 一酸化窒素の生成に対する効果
【0170】
一酸化窒素(NO)は、一酸化窒素合成酵素(NOS)によってL-アルギニン及び酸素分子から合成される分子メッセンジャーであり、多くの生理学的及び病理学的過程に関与する。構造的に異なるNOSの3つのアイソフォーム(神経型(nNOS)、内皮型(eNOS)、誘導性型(iNOS))が同定されている。iNOSによるNOの過剰な生成は炎症に関与する。例えば、関節炎を患った関節では、NOは、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)、p38キナーゼ及びプロテインキナーゼC(PKC)の調節による関節軟骨細胞のアポプトーシスと脱分化を引き起こす。一方、eNOSによって生成するNOは、血管緊張を維持する生理学的役割を有する。また、eNOSによって生成するNOは、内皮細胞接着分子発現、白血球接着及び血管外遊走を調節する。野生型対照に対する接着分子ICAM-1及びP-セレクチンの恒常的発現、白血球ローリング、接着、血管外遊走の有意な増加が、eNOSノックアウトマウスから得た組織の脈管構造において観察されている。従って、iNOSの選択的阻害とeNOSのアップレギュレーションは、抗炎症に有益であり、心保護効果をもたらす。
【0171】
方法
【0172】
マウスマクロファージ細胞株RAW264.7を、ウシ胎児血清(FCS)、2mMのグルタミン及び50U/mlのペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM中で培養した。細胞は式(I)で表される化合物(0.025%DMSO溶液)又は賦形剤のみによって処理し、1時間前にiNOS及びNOの生成を誘発する50ng/mlのLPSに添加した。16時間培養した後、培地を回収した。亜硝酸塩濃度はNO生成の定量的指標であり、グリース反応(Griess Reaction)によって測定した。すなわち、100μLのグリース試薬を50μLの各上清に添加した(in duplicate)。550nmの吸光度を測定し(SpectraMax 250 マイクロプレート分光光度計、Molecular Devices社(カリフォルニア州))、亜硝酸ナトリウムの検量線を使用して亜硝酸塩濃度を求めた。
【0173】
結果
【0174】
以下の表5に示すように、化合物(1)、(2)、(3)は、使用量に応じてNOの合成に対していくらかの阻害効果を有していた。化合物(1)の場合には、RAW264.7における毒性(IC50=53.9±1.2μM)によって影響を受けた可能性がある。
【0175】
【表5】

【0176】
2.5 内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現に対する効果
【0177】
方法
【0178】
HAECを上述したように増殖させた。30μM及び100μMにおける細胞生存率は100%未満だったため、eNOS実験は1つの濃度(10μM)で行った。培養後、TRI試薬(Sigma社、ミズーリ州セントルイス)を使用し、製造者の取扱説明書に従って全RNAを抽出した。RNAを定量し、SYBR Green IIアッセイ(Molecular Probes社、オレゴン州ユージン)使用して100ng/μLに規準化し、iScript(バイオラッド社、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を使用して逆転写した。eNOS(センス鎖:5'-CCA TCT ACA GCT TTC CGG CGC-3'、アンチセンス鎖:5'-CTC TGG GGT GGC CTT CAG CA-3')、18S(センス鎖:5'-CGG CTA CCA CAT CCA AGG AA-3'、アンチセンス鎖:5'-GCT GGA ATT ACC GCG GCT-3') mRNAレベルを、iCycler iQ RealTime thermocyler検出装置(Bio-Rad Laboratories社)内においてiQ SYBR Green Supermix(Bio-Rad)を使用してリアルタイムPCRによって測定した。サイクルパラメータは、95℃で30秒、62℃で30秒、72℃で30秒(40サイクル)であり、各サイクルでリアルタイムデータを回収した(反復回数:6)。
【0179】
結果
【0180】
10μMの濃度のみで化合物(1)及び(3)の試験を行った。10μMの濃度及び24時間の培養時間では、細胞生存率は影響を受けなかった。以下の表6に示すように、化合物(1)及び(3)はeNOSの発現を有意に増加させた(化合物(1)では平均45%、化合物(3)では平均325%)。
【0181】
【表6】

【0182】
2.6 ラットアジュバント誘発関節炎モデルにおける活性
【0183】
遺伝的に感受性の高い齧歯動物のアジュバント誘発関節炎は、関節リウマチにおいて見られるような慢性関節炎の広く受け入れられた動物モデルである。ラットアジュバント誘発関節炎モデルは、抗炎症及び免疫抑制物質に反応する。
【0184】
方法
【0185】
雄のDark Agouti(DA)系(DA.CD45.1)ラットに化合物(1)処理飼料又はプラセボ処理飼料を7日間与えた後、尾の根元に完全フロイントアジュバント(Complete Freund's adjuvant, CFA)(0.1mL)を注射した。処理飼料は実験中も与え続けた。以下の採点法を使用して、8日目に明白になった関節炎をブラインドで毎日主観的に採点した。
・0(関節炎の形跡なし)
・1(1又は2個所の赤い関節腫脹が観察されたが、他の腫脹は観察されず)
・2(手関節又は足根腫脹(carpus or tarsus swollen)又は2以上の小さな関節腫脹が観察された)
・3(いくつかの関節腫脹及び手関節又は足根腫脹が観察されたが、全体的な腫脹は観察されず)
・4(足全体の重度の腫脹が観察された)
【0186】
従って、各ラットの疾患スコアは0〜16の間となる。ラット(1群あたりn=8匹)は12日目に殺した。二元配置分散分析(two-way ANOVA)(Prism 4 for Windows(登録商標), GraphPad Software Inc.)を使用してデータを分析した。
【0187】
結果
【0188】
以下の表7に示すように、化合物(1)による処理では、プラセボ飼料と比較して関節炎スコアの統計的に有意な(p=0.008)減少が生じた(図1を参照)。
【0189】
【表7】

【0190】
2.7 ラット空気嚢アッセイにおける抗炎症活性
【0191】
抗炎症能を測定するための別のアッセイは、ラットの背側に空気を繰り返し皮下注入し、24時間後に炎症刺激物の空気嚢内注入を行う空気嚢モデルである(Gilroy et al.、1998)。
【0192】
方法
【0193】
雌のDark Agoutiラット(約7週齢)の背側に空気嚢を形成した。各空気嚢内の細胞性膜の形成を促すために、2日目と5日目に再び膨らませることによって空気嚢を維持した。再び膨らませる際には、針を正しく配置するために空気嚢から空気を抜いた後、2mLの無菌空気で再び膨らませた。上記プロトコルを使用して、空気嚢を膨らませたままにし、7日目に0.5mLの試験化合物又は賦形剤対照を注入した。15分後、血清処理ザイモザン(zymozan, STZ - 500μg)を空気嚢に注入した。空気嚢(4つの2ml灌注)の灌流(Lavage)を4時間行い、白血球数を測定した。その後、ラットを殺し、空気嚢を切除し、組織学的検査のためにホルマリン処理した。測定はブラインドで行った。100個のマス目(正方形)を有するグラチクル(graticule)と40×対物レンズを使用し、10個所の隣接しない部位において空気嚢のライニングの多型の数(polymorph(PMN))を測定した。1群は5〜6匹のラットからなる。データは、統計的有意性のために各実験内において独立t検定を使用して分析した。このアッセイでは、化合物(1)及び(3)を対象とした。
【0194】
結果
【0195】
化合物(1)で処理した空気嚢では、空気嚢の空洞における浸出細胞の数及び空気嚢の壁内の血管外遊出PMNの数は、対照よりも3倍以上少なかった(表8を参照)。差は統計的に非常に有意であり(P<0.01)、抗炎症効果を示すものである。
【0196】
化合物(3)の場合には、処理群及び対照群において浸出細胞の平均数は同様だった(表8を参照)。処理群の空気嚢の壁内のPMNの数はやや減少したが、統計的に有意ではなかった。
【0197】
【表8】

【0198】
2.8 マウスの耳の炎症における抗炎症活性
【0199】
インフラモーゲン(inflammagens)-アラキドン酸(AA)及び13-酢酸12-ミリスチン酸ホルボール(4-β-phorbol 12-myristate 13-acetate, PMA)の局所投与によって誘導されたマウスにおける耳介腫脹を阻害する化合物(1)及び(3)の能力を調べた。
【0200】
エイコサノイドの直前の前駆体であるAAによる炎症反応は、COX経路及びLOX経路を介したAA代謝産物の生成によるものである。AAは、PGE2及びLTC4合成の初期(10〜15分)増加を誘導し、それに続いて耳の厚さが増加する。
【0201】
PMAによって誘導される炎症は、様々なシグナル誘導過程において重要な役割を果たすリン脂質依存性タンパク質酵素であるプロテインキナーゼC(PKC)の活性化を伴う。すなわち、PMAはPKC活性化因子である。PKCは、ホスホリパーゼA2の活性化を媒介し、遊離AAを放出し、ロイコトリエン(LTs)及びプロスタグランジン(PGs)が合成される。炎症は、LTB4のレベルではなく、主としてPGE2のレベルによって媒介され、PMA処理マウスの耳でLTC4レベルが上昇する。
【0202】
方法
【0203】
体重が15〜21gの5〜6匹の雌のBALB/cマウス(ARC、西オーストラリア州)の群に、インフラモーゲンを耳に塗布する30分前又は直前に、25mg/kgの式(1)で表される化合物を腹腔内(i/p)注射した(ポリエチレングリコール(PEG)400:リン酸緩衝生理食塩水(PBS)=1:1又はエタノール:プロパンジオール:PBS=4:9:7を使用して送達)。イソフルランを使用してマウスに麻酔をかけ、スプリングマイクロメータを使用して両耳のベースラインの厚さを測定した。各マウスには、総量で20μLのエタノールに溶解したAA(50mg/ml又は200mg/ml)又はエタノール又はアセトンに溶解したPMA(0.2mg/ml)を塗布した(各耳介の内面及び外面に塗布)(AA 0.5mg又は2mg/耳又はPMA 2μg/耳)。再びマウスに麻酔をかけ、AA塗布後1時間及びPMA塗布後5時間が経過したときに再び測定を行った。
【0204】
インフラモーゲンの塗布前及び塗布後の各耳の耳介腫脹の差を算出し、各マウスの2つの耳の平均値を算出した。複数の化合物を1つの実験で調べる場合はダネット多重比較検定を使用し、1つの化合物を調べる場合は両側の独立t検定を用いた一般的なANOVAを使用し(Prism 4、Graphpad Software)、賦形剤のみを与えた群と比較した各試験群の平均腫脹の差を算出した。
【0205】
結果
【0206】
以下の表9及び表10に示すように、化合物(1)及び(3)は、インフラモーゲンの塗布によって誘発される耳介腫脹を有意に阻害しなかった。しかしながら、化合物(1)は、両インフラモーゲンによる炎症を阻害する傾向を示した。
【0207】
【表9】

【0208】
【表10】

【0209】
実施例3-抗酸化活性
【0210】
炎症過程は酸化的細胞傷害に関連付けられ、酸化防止剤の抗炎症効果に関する十分な証拠がある。基本的な分子メカニズムに関してはほとんど知られていない。仮説の1つは、酸化防止剤が炎症性サイトカイン及び接着分子の生成を阻害するというものである。複数のアッセイにより、化合物(1)及び(3)は、非常に強い抗酸化活性を有することが示されている。
【0211】
3.1 フリーラジカル除去(free radical scavenging)に対する効果
【0212】
方法
【0213】
安定なフリーラジカル化合物である2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル(DPPH)を使用して試験化合物の抗酸化(フリーラジカル除去)活性を評価した。エタノールに0.1mMの濃度で溶解したDPPHの溶液を調製し、使用前に10分間混合した。化合物(1)を濃度が100μMのDPPHと20分間反応させた後、517nmでの吸光度を測定した。517nmにおける吸光度の変化を試薬ブランク(エタノールに溶解したDPPH)と比較した。IC50値は、吸光度を0.6変化させた試験化合物の濃度として推定した(1.2吸光度単位は全DPPHラジカルの除去に相当)。
【0214】
結果
【0215】
表11に示すとおり、化合物(1)及び(3)は強力な抗酸化活性を示した。
【0216】
【表11】

【0217】
3.2 低密度リポタンパク質(LDL)の酸化に対する阻害効果
【0218】
酸化した低密度リポタンパク質(LDL)は炎症を促進し、内皮細胞機能不全を引き起こす可能性があり、動脈壁内に容易に蓄積する(Rosenson 2004)。酸化リポタンパク質は、炎症反応により、アテローム発生を促進する細胞機能の変化を誘発すると考えられている。従って、LDLの酸化を阻害することにより、抗アテローム生成作用、抗炎症作用及び心保護作用が得られる可能性がある。
【0219】
方法
【0220】
静脈穿刺によって血液を回収し、遠心分離によって血漿を分離した。次に、4段階塩化ナトリウム密度勾配を使用して血漿からLDLを単離し、4℃で20時間にわたって200,000gで超遠心分離した。回収したLDLはゲル濾過PD10カラムに通すことによって精製し、過剰な塩及びEDTAを除去し、4℃で暗所に保存して自己酸化を防止し、単離から2週間で使用した。標準的な酵素法を使用してLDLコレステロール含有量を測定し、標準としてBSAを使用したローリー法によってタンパク質濃度を求めた。
【0221】
各実験日に、LDLのアリコート2mLを第2のPD10カラムに通し、キレックス処理PBS(100mM)で希釈し、0.1mg/mLの標準タンパク質濃度(反応あたりの最終濃度)を得た。CuSO4の最終濃度が5μMになるように新たに調製したCu2+溶液を添加することによって酸化反応を開始させた。阻害作用を調べるために、室温で2分間にわたって化合物(1)又は(3)(最終濃度:0.1μM、1.0μM、10μM及び100μM)でLDLを前処理した後、銅溶液を添加し、37℃で保温した。3時間にわたって30分毎にアリコートを取り出して脂質-過酸化物の生成を測定することにより、リポタンパク質の酸化の程度を調べた。標準過酸化水素曲線(5〜200μM)を使用した第一鉄酸化-キシレノールオレンジ(ferrous oxidation-xylenol orange, FOX)アッセイによって各時点において過酸化物を調べた。別の日に行った少なくとも2回の実験において化合物(1)について調べた。
【0222】
異なる日に、化合物(1)とCu++との非特異的結合を調べた(in duplicate)。試験化合物の溶液は、試験化合物を5mMの濃度でDMSOに溶解することによって調製した。リン酸緩衝液(10mM、pH7.2、キレックス処理)で25μMまで試験化合物を希釈した後、200nm〜800nmでUV/Vis吸収スペクトルを測定した。200〜800nmで二次オーバーレイ吸収スペクトル(second overlaying absorption spectrum)を走査することにより、化合物と銅(II)との相互作用を調べた(25μM CuSO4溶液を新たに試験化合物溶液(25μM)に添加し、20秒間混合した)。
【0223】
結果
【0224】
表12〜15に示すように、化合物(1)及び(3)はLDLの酸化を大きく阻害した。LDL酸化遅延期間(lag period)は約60分であり、120〜180分までに酸化が最大となった。化合物(1)及び(3)のLDL酸化阻害能は、濃度を0.01μMから10μMに上昇させると高くなった。化合物(1)(0.58μM)と化合物(3)(0.5μM)についてIC50(酸化の50%が阻害された濃度)を算出した。
【0225】
1:1のモル比において、Cu2+と試験化合物の吸収バンドへの有意なシフトは見られなかった。化合物のみの場合と比較して、Cu2+と化合物(1)の吸収バンドの非常に小さく、一貫した上昇が見られた。これらの結果から、化合物(1)がCu2+と相互作用しなかったと結論付けることができる。また、LDL酸化の根底にある阻害メカニズムはCu2+イオンと試験化合物との直接的な相互作用によるものではない可能性が高いことを示している。
【0226】
【表12】

【0227】
【表13】

【0228】
【表14】

【0229】
【表15】

【0230】
3.3 過酸化ラジカル誘導(peroxyl radical-induced)赤血球(RBC)溶解に対する効果
【0231】
方法
【0232】
新たに回収したヘパリン化(heparinised)静脈血(10mL、氷上)を滅菌エッペンドルフ管(1.8mL)に等分し、4℃で10分間にわたって2600rpmで遠心分離した。血漿及び軟膜層を除去した後(約900μL)、900mLの滅菌氷冷PBSを添加することにより、濃厚赤血球(RBC)を洗浄した。上記洗浄手順を2回繰り返した。900μLの滅菌氷冷PBSを添加することにより、濃厚RBCを再懸濁させた(「RBCストック」)。RBCストックを最大で3日間にわたって4℃で保存した。200μLのRBCストックを10mLの滅菌氷冷PBSで希釈し、各ウェルに50μL添加することによって、RBC作業懸濁液を毎日新たに調製した。
【0233】
各実験に対して以下のようにAAPHストックを新たに調製した。AAPH(1.22g)を7.5mLのPBSに溶解し、600mMの4×ストックを得た後、50μLのアリコート(最終濃度:150mM)を各ウェルに添加し、溶解アッセイを開始した。試験化合物の溶液(40mM、100%DMSOに溶解)を滅菌PBSで希釈し、1ウェルあたりの最終濃度を100μM、30μM及び10μMとした。各実験には適当な対照を含めた。各ウェルにおける最終DMSO濃度が0.25%になるように希釈液の濃度を調節した。総容量が200μl/ウェルの96平底ウェルマイクロタイタープレートを使用してペルオキシ誘導RBC溶解アッセイを行なった。穏やかにボルテックスしながら、Tecanマイクロプレートリーダーを使用して690nm(37℃)でRBC懸濁液の濁度を監視した。アッセイを行い(in quadruplicate)、5時間にわたって5分毎に読み取った。時間に対して吸光度(4つの読取値の平均)をプロットすることによってRBC溶解曲線を作成した。最も高い吸光度(溶解なし)及び最も低い吸光度(最大溶解)を読み取ることにより、半溶解までの時間を算出した。これらの2つの読取値の合計を2で割り、半溶解吸光度を得た。単純回帰分析を使用し、半溶解吸収が発生する時間を算出した。
【0234】
結果
【0235】
表16に示すように、化合物(1)は、赤血球の半溶解までのAAPH誘導時間を遅延させることによって抗酸化活性を示した。
【0236】
【表16】

【0237】
実施例4-免疫調節活性
【0238】
関節リウマチは、通常は多発関節炎を生じる慢性の炎症性、多系統、自己免疫異常である。病因は、滑膜に対するT細胞媒介攻撃を含む。炎症性腸疾患(IBD)は、環境要因、菌要因及び腸内免疫系の複合相互作用によって生じる、遺伝的に感受性の高い個体における不適当な免疫応答であるとみなされる。これらの疾患は、抗炎症及び免疫抑制療法の組み合わせによって治療する場合が多い。そこで、本発明の化合物の試験を行い、本発明の化合物が抗炎症活性に加えて免疫抑制活性を有するか否かを調べた。
【0239】
方法
【0240】
約6週齢の雄のSkh-1:HR1(無毛)マウスを頚椎脱臼によって殺した。脾臓から単細胞懸濁液(Single cell suspensions)を作製し、赤血球を緩衝液に溶解した(0.14M NH4Cl、17mM Tris、pH7.2)。残存する脾細胞を10%(v:v)FBS、200mM L-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン及び50mM 2-メルカプトエタノールを補充したRPMI-1640(Gibco)内で培養した。脾細胞を、コンカナバリンA(ConA、Sigma-Aldrich、0.4μg/ウェル)又はLPS(Sigma-Aldrich、1μg/ウェル)を含有するウェル、分裂促進因子を含有しないウェル、又はDMSO中に10μMの試験化合物を含有するウェル(四つ組、quadruplicate)に添加した。5%CO2大気中、37℃で3日間培養した後、試料を分析した。メチルチアゾールテトラゾリウム(Methylthiazoletetrazolium, MTT)は、生存細胞によってDMSOに溶解する着色ホルマザン産物へと生還元される。従って、ホルマザン産物の量は培養液中の生細胞の数に直接的に比例し、分光光度計を使用して570nmで測定することができる。MTTを各ウェルに添加し、さらに4時間培養した後、イソプロパノール内で0.04N HClによって発色させた。培養上清を-80℃で回収した後に保存し、IFN-γ(Th-1サイトカイン)及びT細胞単独(IL-6(Th-2サイトカイン))についてELISA(BD Biosciences)によってT細胞及びB細胞を分析した。
【0241】
結果
【0242】
化合物(1)及び(3)の作用をそれぞれ2匹のマウスを使用して調べた。化合物(1)は、T細胞及びB細胞(程度は比較的低い)に対して顕著かつ有意な免疫抑制作用を示した。この効果は、上清内のINF-γ及びIL-6の合成の並立減少(concomitant reduction)からも明らかである(図2及び図3を参照)。
【0243】
一方、化合物(3)は細胞数に対する効果はほとんど示さなかったが、特にT細胞によるサイトカイン産生を減少させた。
【0244】
従って、化合物(1)及び(3)は免疫抑制作用を有する。
【0245】
実施例5-心保護活性
【0246】
上述したように、COX阻害による抗炎症活性は、有害な心血管事象の発生増加を伴う。これは、プロスタサイクリン(PGI2)の阻害又は選択的COX-2阻害のPGH2(プロトロンビントロンボキサンA2の基質)を増加させる傾向によって媒介されうる。
【0247】
5.1 プロスタサイクリン産生に対する効果
【0248】
PGI2は、プロスタサイクリン合成酵素の作用によってPGH2から産生する内皮細胞の主要なCOX産物である。
【0249】
PGI2の血管拡張作用及び血小板凝集阻害作用は抗血栓性であるとみなすことができる。また、PGI2は、血管平滑筋細胞(VSMC)に対する多面的作用によって心血管疾患から保護する。マウスのプロスタサイクリン受容体の遺伝子欠失により、おそらくはPGI2によるVSMC増殖及び遊走の阻害により、アテローム性動脈硬化症、内膜過形成、再狭窄の発現が減少した。PGI2の産生は、COXの阻害を介してNSAIDによって間接的に阻害され、この作用により、全てのNSAIDに関連する有害な心血管事象が増加する。従って、抗炎症薬の望ましい心保護作用は、内皮のPGI2合成を阻害しないことである。
【0250】
方法
【0251】
培養したヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells, HUVEC、Vascular Biology Laboratory社、Hanson Institute、南オーストラリア州アデレード)を0.25%トリプシンEDTA内に採取した。冷却し、RPMI-10%FCSで洗浄した後、細胞を新鮮培地に再懸濁させ(1-1.5×105細胞/mL)、ゼラチン被覆ウェルに添加した(2mL/ウェル)。37℃及び5%CO2で一晩培養した後、培地を取り替え、細胞をインキュベータに戻し、約2時間平衡化させた。試験化合物を細胞に添加し(濃度:0、1、10又は100μM)、30分後、インターロイキン-1β(IL-1β、10μLの2ng/mL溶液)によって刺激を与えた。37℃で一晩培養した後、5分間の遠心分離(2000rpm)によって上清を回収し、-20℃で保存した。放射免疫測定法(RIA)を使用して一晩の培養後のプロスタサイクリンの産生を測定した。PGI2は水性培地では変化しやすいため、安定した加水分解生成物である6-ケトPGF1αを代用マーカーとして測定した。結果は平均±SEM(n=3)で表した。平均値の差は、片側ANOVA及びTukeyの多重比較検定によって分析した。平均値の差は、p<0.05である場合に有意であるとみなした。
【0252】
細胞増殖に対する効果を光学顕微鏡観察によって観察し、100μMで効果が観察されたが、より低い用量では観察されなかった。通常のHUVECは主に類上皮細胞だったが、紡錘形の細胞も含んでいた。細胞は半透明で培養皿に接着しており、健全な生存細胞だった。浮遊細胞は死細胞であると推定した。ウェルの中心領域でのコンフルエントな増殖により、「玉石(cobblestone)」状の外観となった。非コンフルエント領域では、接着細胞は「延伸(stretched)」状の外観を示した。
【0253】
結果
【0254】
以下の表17に示すように、化合物(1)は1μMでは効果を示さなかったが、10μM及び100μMでは有意な阻害が生じた。一方、化合物(3)はいずれの濃度でも効果を示さなかった。
【0255】
【表17】

【0256】
顕微鏡的には、化合物(1)及び(3)で処理した細胞は健全に見えた。治療学的な意味(therapeutic implication)は、生理的濃度において、化合物(1)及び(3)は最小限の血栓促進活性を有すると思われる。
【0257】
5.2 トロンボキサン及びプロスタグランジン合成に対する効果
【0258】
活性化血小板内においてTXSによって産生したTXA2は、血小板凝集及び血管収縮を刺激することによって血栓形成促進性を示す。従って、選択的にTXSを阻害することによって抗血栓作用が得られる。これは、基質をシャントしてPGE2合成を増加させることによって明らかになるかもしれない。試験化合物の効果を、ヒト単球及びマウスマクロファージ細胞株RAW264.7を使用して調べた。COX阻害活性は、PGE2及びTXB2の有意な阻害によって示される。
【0259】
方法1-ヒト単球
【0260】
U937細胞を解凍し、RPMI及び10%FCS中に再懸濁させた(2×105細胞/mL)。細胞を37℃及び5%CO2で培養し、総細胞数が少なくとも6.4×107個になるまで培養液中で拡大させた。次に、細胞を新たな培地中に再懸濁させ(2×105細胞/mL)、5μM レチノイン酸(RA)と共に3日間(72時間)培養した。RA処理細胞を無血清RPMIで2回洗浄し、無血清培地中に再懸濁させた(5×106細胞/mL)。テフロン(登録商標)試験管に細胞を分注した(1mL/試験管)。化合物(1)及び(3)の作業ストック溶液を0.1mM、1mM及び10mMの濃度で調製した。10μLの各作業希釈液を1mLの細胞に添加し、各試験化合物の最終濃度を0μM(DMSOのみ)、1μM、10μM及び100μMとした。細胞は、試験化合物と共に37℃で15分間培養した(in triplicate)。15分間の予備培養後、細胞の入った1mLの試験管に、カルシウムイオノフォアA23187の100mM 溶液5μLを添加した(A23187濃度:0.5μM)。37℃で30分間培養した。培養後、10分間の遠心分離(2000rpm)によって上清を回収し、アッセイで必要になるまで-20℃で保存した。
【0261】
結果
【0262】
以下の表18及び表19に示すように、最高濃度(100μM)では、おそらくは細胞毒性のために、化合物(1)及び(3)はエイコサノイドの合成を阻害した。しかしながら、より低い濃度では、化合物(1)及び(3)は、PGE2の合成を増加させる傾向があり、TXB2に対してはほとんど効果を示さなかった。従って、化合物(1)及び(3)はCOX阻害活性を有していないと考えられる。
【0263】
【表18】

【0264】
【表19】

【0265】
方法2-マウスマクロファージ細胞株RAW264.7
【0266】
マウスマクロファージ細胞株RAW264.7を、ウシ胎児血清(FCS)、2mM グルタミン及び50U/mlのペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM中で培養した。細胞は試験化合物(0.025% DMSO溶液)又は賦形剤のみで処理し、1時間前に50ng/mlのLPSを添加した。16時間の培養後、ELISA(Cayman Chemical)によるPGE2又はTXB2の測定及びELISA(Becton Dickinson)を使用したTNFα測定のために培地を回収した。
【0267】
結果
【0268】
以下の表20及び表21に示すように、10μMの濃度では、化合物(1)はPGE2の合成を減少させた。しかしながら、この効果は、RAW264.7における毒性(IC50=53.9±1.2μM)によって影響を受けた可能性がある。さもなければ、ヒト単球細胞株と同様に、化合物(1)によるCOX阻害の証拠はない。化合物(1)及び(2)はRAW264.7細胞の生存率にほとんど効果を示さず、化合物(1)及び(2)は弱いCOX阻害活性のみを示すと結論付けることができる。
【0269】
【表20】

【0270】
【表21】

【0271】
以下の表22に示すように、TNFαの合成に対する効果はほとんどなかった。
【0272】
【表22】

【0273】
5.3 ラット大動脈輪アッセイにおける血管拡張活性
【0274】
ラット大動脈輪アッセイ(rat aortic ring assay)を使用してex situで式(1)で表される化合物の血管拡張能を調べた。試験槽へのノルアドレナリンの添加によって大動脈輪が収縮し、試験薬剤によって血管収縮が阻害される場合(試験薬剤がノルアドレナリンの効果に拮抗する場合)、薬剤は血管拡張活性を有し得る。
【0275】
方法
【0276】
雄のSprague-Dawleyラット(250±50g)を80%CO2及び20%O2で安楽死させた。胸部大動脈を切除し、Chin-Dusting et al.(2001)に記載された臓器槽に迅速に入れた。試験化合物(1μg/mlの濃度で送達)を使用又は使用せずに、ノルアドレナリン(0.1nM〜10mM)に対して完全な濃度-収縮曲線を得た。5匹(n=5)の動物由来の大動脈輪で実験を繰り返した。任意の1匹の動物由来の1つの大動脈輪を使用して1つの濃度で1つの化合物を調べた。S字形の用量応答曲線をデータにフィットさせ、logEC50を算出した(Prism 4、GraphPad Software)。両側の対応のあるt検定を使用して、試験化合物の有無による値の差を算出した。β-エストラジオール及び賦形剤のみの効果を正対照及び負対照として調べた。
【0277】
結果
【0278】
化合物(1)は、賦形剤のみの場合と比較してノルアドレナリンに対する大動脈輪の収縮応答(logEC50)を有意に阻害した(23%, p=0.045)(図4及び図5を参照)。
【0279】
実施例6-薬物動態
【0280】
方法
【0281】
25mg/kgの用量でPEG400/PBS(1:1)を使用して経口投与した後の化合物(1)及び(3)の薬物動態学的(PK)プロファイルを調べた。各実験では、3匹ずつの動物を各時点(15分、30分、60分、90分、4時間、24時間)に割り当てた。頸椎脱臼によってマウスを殺し、心穿刺によって血清を回収した。また、可能な場合には、糞便と尿も回収した。サンプルを-80℃で保存し、社内でLC-MSによって分析した。検出限界は20ng/mLである。
【0282】
結果
【0283】
以下の表23に示すように、[max]又は化合物(1)のAUC(遊離又は総レべル)は血行中で特に高くはなく、尿中に排出された量は比較的高く、よく吸収されたが、迅速に排出されたことを示唆している。結合率(rate of conjugation)は比較的低かった(33%)。また、二相性ピーク(投与後90分で第2のピーク)が見られ、腸肝循環の可能性を示唆している。
【0284】
表23(及び表24)において、「AUC」は、時間曲線に対する血清中濃度面積(area under the serum concentration versus time curve)(μM*時/L)を表す。AUCは吸収率とクリアランスを相対的に評価するものである。AUCが高い程、より多くの化合物が吸収され、より長い時間にわたって循環されていたことを示す。「AUCfree」は未結合又は遊離類似体の濃度曲線面積(area under the curve for unconjugated or free analogue)を表し、「AUCtotal」は遊離及び結合類似体の濃度曲線総面積(area under the curve for the free and conjugated analogue combined)を表す。
【0285】
「max」は血清中における最高血中濃度を表す。これらの測定値により、化合物の良好な吸収を理解することができる。しかしながら、化合物がどの程度迅速に結合及び/又は排出されるかは考慮に入れておらず、化合物は良好に吸収されても、非常に低い最高血中濃度を有する場合がある。
【0286】
AUCtotalに対するAUCfreeの比は、結合した化合物に対する、循環される投与した化合物(遊離)の量を示すものである。従って、上記比が相対的に高い場合には、化合物の多くが結合していないことを示唆し、上記比が相対的に低い場合には、結合(及び尿排泄)が迅速に生じることを示唆する。
【0287】
「t1/2」は半減期(血清中濃度が半分に低下する時間)である。通常、薬物の排出は指数関数的(対数関数的)過程であり、単位時間あたり一定の比率で排出される。これらのデータは、一位相指数関数的減衰式(equation for one phase exponential decay)を使用して非線型回帰によって生成した。第1のt1/2は未結合類似体のt1/2であり、第2のt1/2は全(遊離+結合)類似体のt1/2である。
【0288】
【表23】

【0289】
以下の表24におけるデータは、少なくとも上記賦形剤を使用してマウスに投与した場合には、化合物(3)は化合物(1)よりも良好に吸収されないことを示している。ただし、化合物(3)のAUCtotalは化合物(1)よりも高いが、循環中に観察された最高血中濃度ははるかに低い。結合率は高いように思われるが、半衰期は化合物(1)よりも長い可能性がある。
【0290】
【表24】

【0291】
実施例7-正常細胞における毒性
【0292】
方法
【0293】
ヒト新生児包皮線維芽細胞(neonatal fibroblast foreskin, NFF、クィーンズランド医学研究所のPeter Parsons博士から寄贈)又はウサギ腎臓細胞(RK-13、マクオーリー大学のMiller Whalley教授から寄贈)を96ウェルプレートに播種し、細胞が接着し、対数増殖期に入るまで10%FCS(CSL、オーストラリア)、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100mg/ml)、L-グルタミン(2mM)及び重炭酸ナトリウム(1.2g/L)を添加したRPMI中において37℃及び5%CO2で24時間培養した。試験化合物を150μMから順次2倍希釈して添加し(in triplicate)、さらに5日間培養した。次に、MTTを各ウェルに添加し、37℃で3時間培養した後、培地を取り出した。DMSOを添加した後、各ウェルの吸光度をプレートリーダを使用して読み取った。上記アッセイを少なくとも2回繰り返した。
【0294】
結果
【0295】
以下の表25に示すとおり、化合物(1)、(2)及び(3)は試験を行った最高濃度でもRKで毒性は示さなかった。化合物(1)は、NFFに対する軽度の毒性を示し、化合物(2)及び(3)は毒性を示さないと考えられた。
【0296】
【表25】

【0297】
実施例8-癌細胞株における活性
【0298】
方法
【0299】
ヒト結腸直腸細胞株HT-29(HTB-38(商標))、ヒト前立腺細胞株PC-3(CRL-1435(商標))及びDU-145(HTB-81(商標))、ヒト黒色腫細胞株SK-Mel-28(HTB-72(商標))をRPMI 1640培地(Gibco、カタログ番号:21870-076)内で培養した。
【0300】
ヒト前立腺細胞株LNCaP Clone FGC(CRL-1740(商標))、ヒト白血病細胞株CCRF-CEMTM(CCL-119(商標))、ヒト結腸直腸腺癌細胞株HCT-15(CCL-225(商標))及び ヒト肺癌細胞株NCI-H23(CRL-5800(商標))及び NCI-H460(HTB-127(商標)) を、10mM HEPES(Sigma、カタログ番号:H0887)、4.5g/Lのグルコース(Sigma、カタログ番号:G8769)、1mMピルビン酸ナトリウム(Sigma、カタログ番号:S8636)を添加したRPMI 1640培地内で培養した。
【0301】
Peter Hersey教授(ニューキャッスル大学)から寄贈を受けたヒトメラノーマ細胞株MM200を、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)培地(Gibco、カタログ番号:11960-069)内で培養した。
【0302】
クィーンズランド医学研究所のPeter Parsons博士から寄贈を受けたヒトメラノーマ細胞株MM96LをRPMI 1640培地内で培養した。
【0303】
Gil Mor博士(エール大学)からヒト卵巣癌細胞株A2780及びCP70の寄贈を受けた。A2780はRPMI1640培地内で培養した。CP70は、10mM HEPES、1×非必須アミノ酸(Sigma、カタログ番号:M7145)、5.0g/Lの重炭酸ナトリウム(Sigma、カタログ番号S5761)及び1mMピルビン酸ナトリウムを添加したDMEM/Hams F-12(1:1)(Gibco、カタログ番号:11320-082)内で培養した。
【0304】
乳癌細胞株MDA-MB-468(HTB-132(商標))をDMEM/Hams F-12(1:1)(Gibco)内で培養した。ヒト膵臓癌細胞株HPAC(CRL-2119(商標))を、15mM HEPES、0.002mg/mLのインスリン(Sigma、カタログ番号:I9278)、0.005mg/mLのトランスフェリン(Sigma、カタログ番号:T8158)、40ng/mLのヒドロコルチゾン(Sigma、カタログ番号:H0135)及び10ng/mLの上皮細胞増殖因子(Sigma、カタログ番号:E4269)を添加したDMEM/Hams F-12(1:1)内で培養した。
【0305】
ヒト神経膠腫細胞株Hs 683(HTB-138(商標))をDMEM内で培養した。
【0306】
HPAC及びCP70を除く全ての培養細胞には2mM L-グルタミン(Gibco、カタログ番号:25030)を補充した。
【0307】
全ての培養液には10%FBS(Gibco、カタログ番号:10099-158)、5000U/mLのペニシリン及び5mg/mlのストレプトマイシン(Gibco、カタログ番号:15070)を補充し、5%CO2の加湿雰囲気内で37℃で培養した。
【0308】
特記しない限り、全ての細胞株はATCC(米国メリーランド州)から購入した。
【0309】
各細胞株についてIC50値を算出した。細胞を増殖動力学分析で決定された適切な細胞密度で96ウェルプレートに播種し、試験化合物の非存在下又は存在下で5日間培養した。細胞増殖は、製造者の取扱説明書に従って20μLの3-4,5-ジメチルチアゾール-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(3-4,5 dimethylthiazol-2,5-diphenyl tetrazolium bromide, MTT)(2.5mg/mL、PBSに溶解、Sigma)を添加し、37℃で3〜4時間後に評価した。IC50値は、対照の増殖に対する%をy軸に、用量の対数をx軸に有する片対数プロットから算出した。
【0310】
結果
【0311】
以下の表26に示すとおり、化合物(1)は多くの癌細胞株において活性(IC50、<20μM)を示した。化合物(2)及び(3)の活性は比較的低かった。
【0312】
【表26】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物又はその塩:
【化1】

式中、
R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、OR9、OC(O)R9、OSi(R10)3、C1〜10アルキル、C3〜7シクロアルキル、アミノ、アミノアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、チオール、COOH、アルキルチオ、ニトロ、シアノ、ハロ、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、及びヘテロアリールからなる群から選択され、
R6は、R11(R12)N(CH2)n-であり、
R7は、水素、R9、C(O)R9、Si(R10)3、及びC3〜7シクロアルキルからなる群から選択され、
R8は、水素、C1〜10アルキル、C3〜7シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、ニトロ、シアノ、及びハロからなる群から選択され、
R9は、C1〜10アルキル、ハロアルキル、アリール、アリールアルキル、及びアルキルアリールからなる群から選択され、
R10は、それぞれ独立して、C1〜10アルキル及びアリールからなる群から選択され、
R11及びR12は、それぞれ独立して、水素、C1〜10アルキル、及び-Y-CO2R13からなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、C1〜10アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、COOH、COOR10、ハロ、ニトロ、シアノ、及びアリールからなる群から選択される1以上の置換基で随意で置換されていてもよい5、6又は7員環の複素環を形成しており、
R13は、水素、C3〜7シクロアルキル、C1〜10アルキル、C2〜6アルケニル、及びC2〜6アルキニルからなる群から選択され、
Yは、随意で1以上の酸素、窒素又は硫黄が挿入された炭素原子数1〜15の炭化水素鎖であり、
nは、1〜4の整数であり、
---」の描画は、単結合又は二重結合を表す。
【請求項2】
R2、R3及びR4が、それぞれ独立して、水素、C1〜10アルキル、ハロ、ヒドロキシ、OR9、OC(O)R9、及びOSi(R10)3からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R2、R3及びR4が、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、及びOR9からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
R7が、水素、C(O)R9、及びC1〜10アルキルからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
R8が、水素、C1〜10アルキル、及びハロからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
R9が、C1〜10アルキル、ハロアルキル、及びアリールからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
R10がC1〜10アルキルである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
R11及びR12が、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、及びC1〜10アルキルからなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、C1〜10アルキル、COOH、COOR10、ハロ、からなる群から選択される1以上の置換基で随意で置換されていてもよい5又は6員環の複素環を形成している、請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
R11及びR12が、それぞれ独立して、-Y-CO2R13、水素、及びC1〜6アルキルからなる群から選択されるか、R11及びR12が結合している窒素と共に、C1〜10アルキル、COOH、及びハロからなる群から選択される1以上の置換基で随意で置換されていてもよい5又は6員環の複素環を形成している、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
Yが、炭素原子数1〜6の炭化水素鎖である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項11】
R13がC1〜6アルキルである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項12】
nが1、2又は3である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項13】
R2、R3、R4の少なくとも1つがヒドロキシである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項14】
化合物(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)又は(8)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩と、薬学的に許容しうる担体、希釈剤及び/又は賦形剤と、を含む医薬組成物。
【請求項16】
患者における炎症及び/又は炎症性疾患又は障害を治療及び/又は予防するための方法であって、治療有効量の請求項1〜14のいずれか1項に記載の式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩の酸化防止剤としての使用。
【請求項18】
患者の免疫系を調節するための方法であって、治療有効量の請求項1〜14のいずれか1項に記載の式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項19】
細胞の増殖を阻害するための方法であって、前記細胞を、請求項1〜14のいずれか1項に記載の式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩と接触させることを含む方法。
【請求項20】
患者における癌を治療及び/又は予防するための方法であって、治療有効量の請求項1〜14のいずれか1項に記載の式(I)で表される化合物又は薬学的に許容しうるその塩を前記患者に投与することを含む方法。
【請求項21】
前記癌が、卵巣癌、白血病、前立腺癌、結腸直腸癌、膵臓癌、神経膠腫、黒色腫、及び肺癌からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
患者における心血管疾患を治療及び/又は予防するための方法であって、治療有効量の請求項1〜14のいずれか1項に記載の式(I)で表される化合物又は薬学的に許容しうるその塩を前記患者に投与することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−529450(P2011−529450A)
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520279(P2011−520279)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際出願番号】PCT/AU2009/000973
【国際公開番号】WO2010/012037
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(500445789)ノボゲン リサーチ ピーティーワイ リミテッド (10)
【Fターム(参考)】