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6価クロムの定量分析方法
説明

6価クロムの定量分析方法

【課題】樹脂試料中に3価クロムと6価クロムが存在する場合に、簡単な操作で6価クロムのみを精度よく定量することができる6価クロムの定量分析方法を提供する。
【解決手段】樹脂試料をアルカリ抽出して、その抽出液をpH6以下とすると共に希釈倍率5倍以上に調整して試料溶液を作製する工程と、2つの芳香族を含んで大環状化合物構造を有し且つ6価クロムを捕捉する空孔を備えた固相抽出剤に、試料溶液を通液して固相抽出剤に6価クロムを捕捉させる工程と、固相抽出剤に分離用液を供給して6価クロムを溶出させて溶出液を回収する工程と、溶出液を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法で定量分析する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価クロムと6価クロムが共存する樹脂中の6価クロムの定量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、6価クロムは人体及び環境に有害であるという理由から、各種の分野で6価クロム材料を排除する必要に迫られている。このような背景から、6価クロムに代わる材料の研究が行われる一方、6価クロムの使用規制を有効なものとするため、6価クロムの定量分析方法の開発が行われている。
【0003】
樹脂や塗料中の6価クロムを分析する方法として、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA, Environmental Protection Agency )の分析方法3060Aが知られている。この方法は、温アルカリにより試料中の6価クロムを抽出するというものである。具体的には、この分析方法3060Aでは、固形廃棄物などのサンプルを、0.23モル炭酸ナトリウム(NaCO)/0.5モル水酸化ナトリウム(NaOH)のアルカリ液中に入れ、90〜95℃で60分間加熱して6価クロムを溶解させ、定量にはジフェニルカルバジド吸光光度法が用いられる。なお、6価クロムの吸光光度測定は、JIS K 0102で行うことができる。ここで、抽出液が着色する場合には、鉄共沈法が行われる。
【0004】
因みに、この鉄共沈法は上記定量の前に以下の(イ)〜(ホ)の手順で行う。
(イ)試料に硫酸アンモニウム鉄(III)溶液を加えて撹拌する。
(ロ)その後、アンモニア水を加えて微アルカリ性となるように調製する。
(ハ)アンモニア臭がほとんどなくなるまで静かに煮沸させ、煮沸近くの温度に保って沈殿を熟成させる。
(ニ)その後、ろ過し、温硝酸アンモニウム溶液で洗浄する。
(ホ)ろ液と洗液を合わせ、塩酸又は硝酸を加えて0.1〜1.0mol/lの酸性溶液とする。
【0005】
このように定量にジフェニルカルバジドを用いる6価クロムの定量分析方法は、特許文献1にも開示されている。特許文献1には、ジフェニルカルバジド吸光光度法の他に、ICP発光法(ICP発光分光分析法)、原子吸光法などを用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−298284
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の定量分析方法では、試料中に多量の3価クロムが存在する場合、3価クロムを完全に除去できないという指摘もある。また、上記の鉄共沈法においては、3価クロムの形態によっては硫酸アンモニウム鉄(III)と沈殿を形成しない可能性がある。その場合、完全に3価クロムを分離することができず、その後の定量結果に3価クロムが含まれるという問題点を有する。したがって、試料溶液(抽出液)が着色する場合の有効な試験方法は確立されていない。さらに、試料溶液が着色していた場合にUV分析を行うと誤差が生じる可能性がある。
【0008】
また、上記の鉄共沈法では、硫酸アンモニウム鉄(III)、硫酸、塩酸、硝酸、アンモニア水、硝酸アンモニウム溶液などの多種の薬品を使用すると共に、煮沸、ろ過、洗浄など操作が複雑であるため、操作には正確で熟練した技術を要するという問題がある。
【0009】
そこで、本発明の主たる目的は、樹脂試料中に3価クロムと6価クロムが存在する場合に、簡単な操作で6価クロムのみを精度よく定量することができる6価クロムの定量分析方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、6価クロムの回収率が高く、3価クロムの溶出が少ない分析精度の高い6価クロムの定量分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の特徴は、6価クロムの定量分析方法であって、樹脂試料をアルカリ抽出して、その抽出液をpH6以下に調整して試料溶液を作製する工程と、2つの芳香族を含んで大環状化合物構造を有し且つ6価クロムを捕捉する空孔を備えた固相抽出剤に、前記試料溶液を通液して前記固相抽出剤に6価クロムを捕捉させる工程と、前記固相抽出剤に分離用液を供給して6価クロムを溶出させて溶出液を回収する工程と、前記溶出液を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法で定量分析する工程と、を備えることを要旨とする。
【0012】
なお、固相抽出剤は、メッシュサイズが60〜100μmであり、結合容量は0.1〜0.3mmol/g、密度は0.4g/ml程度であることが好ましい。
【0013】
また、固相抽出剤はシリンジ内に充填され、シリンジ内に、試料溶液が通液され、シリンジから溶出液を回収するようにすることが好ましい。
【0014】
さらに、抽出液は、pH2未満に調整して試料溶液を作製することが好ましい。
【0015】
また、固相抽出剤に分離用液を供給して6価クロムを溶出させて溶出液を回収する工程において、この固相抽出剤に、分離用液を一定時間留まらせることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の6価クロムの定量分析方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、樹脂試料中に3価クロムと6価クロムが存在する場合に、簡単な操作で6価クロムのみを精度よく定量することができる6価クロムの定量分析方法を実現できる。3価クロムの量や形態にかかわらず、6価クロムのみを選択的に分離・回収することにより、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により6価クロムを正確に測定することができる。したがって、従来の鉄共沈法とICP−MSなどを用いた測定よりも正確に測定が行える。
【0017】
本発明によれば、操作器具が簡単な構成であり、シリンジに固相抽出剤を充填したことにより、洗浄液、試料溶液、分離用液などの各種溶液を通液するだけの簡単な操作でよく、操作に熟練が要求されずに正確な定量分析を行える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法に用いる固相抽出剤としての分子認識ゲルの大環状化合物構造を示す構造式である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施の形態に6価クロムの定量分析方法を示す説明図である。
【図4】試料溶液のpHと3価クロム及び6価クロムの通過率との関係を示す図である。
【図5】試料溶液の希釈倍率と6価クロム回収率との関係を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法を示すフローチャートである。
【図7】(a)〜(e)は、本発明の第2の実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法における溶出工程の手順を示す図である。
【図8】3価クロムと6価クロムの回収率のpH依存性を調べた結果を示す図である。
【図9】3価クロムの回収率と抽出液のpHとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の各実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法について説明する。
【0020】
本発明の6価クロムの定量分析方法では、樹脂試料をアルカリ抽出してその抽出液を、固相抽出剤を用いて抽出液中の6価クロム及び6価クロム化合物のみを選択的に回収・分離した後、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法であるICP-AES(inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy)により6価クロムのみを定量する。
【0021】
本発明者は、固相抽出剤を用いた新規の6価クロム定量分析方法を創案すると共に、抽出液のpHが固相抽出剤の3価クロムの保持力に影響を及ぼす知見を得た。
【0022】
すなわち、本発明者は、
(1)固相抽出剤として、大環状化合物構造を持つ分子認識ゲルを用いることにより、試料中の3価クロムの量や形態に拘わらず、6価クロムのみを選択的に分離・回収することにより、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて6価クロムを測定することができること、
(2)試料溶液を作製するための抽出液をpH6以下に調製すると、固相抽出剤である分子認識ゲルを通過する3価クロムの通過率が大きく、6価クロムの通過率を小さく保つことができること、
(3)試料溶液を作製するための抽出液をpH2未満に調整すると、固相抽出剤である分子認識ゲルで保持される3価クロムの量を小さく抑えることができ、具体的には、分子認識ゲルで保持される3価クロムの回収率が0〜1%に抑えることができること、
(4)固相抽出剤に分離用液を供給して6価クロムを溶出させて溶出液を回収する工程において、この固相抽出剤に、分離用液を一定時間留まらせることにより、6価クロムの回収率を大幅に向上できること、
(5)高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法において、溶出液の硝酸量を半減させて試料の粘度を下げることにより、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置内の試料の噴霧化工程において、より細かな霧を発生させることが可能となり、より低濃度の試料でも高感度な分析が可能となること、
(6)試料溶液は、抽出液を希釈倍率5倍以上に調整して作製することにより、6価クロムの回収率を高めること、
を見いだした。
【0023】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態では、固相抽出剤として図1に示すような大環状化合物構造を持ち、6価クロム及び6価クロム化合物のみを選択的に回収・分離することができる分子認識ゲル(商標名MetaSEP AnaLig Cr-02;ジーエルサイエンス製)を用いる。図1に示すように、この大環状化合物構造は2つの芳香族を含み、6価クロムを捕捉する空孔を備える。この固相抽出剤(分子認識ゲル)2のメッシュサイズは、60〜100μmであり、結合容量は0.1〜0.3mmol/g、密度は0.4g/mlである。また、本実施の形態では、試料溶液を固相抽出剤1に通液する最適流量は0.5ml/minである。また、この試料溶液を作製するために試料を抽出するための抽出液のpHは2〜6である。
【0024】
本実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法では、図3に示すように、固相抽出剤2として、上記分子認識ゲル(AnaLig Cr-02)500mgをシリンジ1に充填したものを用いる。図2に示すように、固相抽出剤2には、5Mの硝酸(HNO)4mlと精製水12mlを流速5ml/minで流して前処理を施しておく。
【0025】
一方、図2に示すように、試料をアルカリ抽出するための抽出液として、pH2〜6に調整したものを用いて試料抽出を行って試料溶液を作製する。なお、この試料溶液の作製方法は、EPA3060Aの分析方法で用いる、温アルカリにより試料中の6価クロムを抽出するという試料溶液の作製方法に従う。そして、図3に示すように、容器3に入れられた試料溶液をシリンジ1側へ0.5ml/minの流速で通液する。この結果、固相抽出剤2は、通過する試料溶液から6価クロムを選択的に捕捉する。なお、固相抽出剤2に6価クロムを捕捉させる際に、試料溶液のアルカリ塩濃度やpHが、固相抽出剤2の6価クロム保持力及び3価クロム保持力に影響を及ぼす。例えばpHが高いと固相抽出剤2での3価クロムの保持力が強くなる。また、試料溶液においてアルカリ塩濃度が高い場合には6価クロムが固相抽出剤2中に残りやすく溶出させにくくなる。6価クロムのみを効率よく回収するには、試料溶液を適切に調整する必要がある。
【0026】
その後、図2に示すように、試料溶液を通液した固相抽出剤2を0.1Mの硝酸4ml、精製水4mlで順次洗浄する。ここで、図3に示すように、0.1Mの硝酸と精製水はシリンジ1の上から入れられ、シリンジ1から容器4へ洗浄廃液を排出させる。
【0027】
次いで、図2に示すように、洗浄後の固相抽出剤2に、分離用液としてのモル濃度5Mの硝酸(HNO)8mlを流速0.5ml/minで流し入れ、図3に示すように、固相抽出剤2から6価クロムを溶出させた溶出液をシリンジ1から容器5へ回収する。なお、分離用液として5Mの硝酸8mlを流速0.5ml/minで流し入れたが、同濃度の硝酸8ml以下でよいし、8mlより多くてもよく、また、モル濃度は4M硝酸であってもよく、分離用液の条件は適宜変更可能である。
【0028】
また、本実施の形態では、6価クロムを固相抽出剤2から溶出させるために分離用液として硝酸を用いたが、この他にアルカリや、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)などを用いることも可能である。
【0029】
そして、容器5に回収された溶出液をICP-AESにより6価クロムのみを定量する。
【0030】
ICP−AESの原理は、分析試料にプラズマのエネルギーを外部から与えると含有されている成分元素(原子)が励起されことを利用したものである。ICP−AESは、その励起された原子が低いエネルギー準位に戻るときに発光線が(スペクトル線)放出され光子の波長に相当する発光線を測定する方法である。発光線の位置から成分元素の種類を判定し、その強度から各元素の含有量を求める。プラズマの生成には、まずアルゴンガスを流し、図示しないトーチ管の先端部においた図示しないワークコイルに高周波電流を流す。高周波電流によりトーチ管内に生成される電磁場によりアルゴンガスを電離しプラズマが生成される。このプラズマは高い電子密度と高温(10000K)をもつため、このエネルギーにより試料を励起発光させる。溶液試料は、霧化された状態でトーチ管の中央の細管よりプラズマ内に導入されるようになっている。
(試験1:試料溶液のpHと3価,6価クロムの固相抽出剤の通過率)
図4は、試料溶液のpHと、固相抽出剤2における6価クロムと3価クロムの通過率の関係について調べた試験結果を示している。この試験では、上記実施の形態と同様のシリンジ1を用いて、固相抽出剤2として分子認識ゲル(AnaLig Cr-02)500mgを充填したものを用いている。
【0031】
この試験では、6価クロムと3価クロムを含むペースト状のインクを温アルカリ抽出した抽出液をpH2〜7に調整して試料溶液とし、この試料溶液を固相抽出剤2に通液したときに、固相抽出剤2に保持されず通過する3価クロム及び6価クロムの割合(通過率)とpHとの関係で調べたものである。
【0032】
図4から、試料溶液のpHが6を越えると、3価クロムが固相抽出剤2を通過する通過率が急に低下することが判る。すなわち、3価クロムが固相抽出剤2に残留して保持されてしまう。また、6価クロムの通過率は、試料溶液のpHの値を変えても通過率にはあまり変化がないことが判る。したがって、試料溶液のpHは6以下であることが好ましい。
【0033】
(試験2:試料溶液の希釈倍率と6価クロム回収率との関係)
ペースト状のインクを温アルカリ抽出し、抽出液のpHを7.5に調整したものを試料溶液とした。この他に、抽出液のpHを6.0に調整した試料溶液も用意した。図5は、これら試料溶液を超純水で希釈倍率1〜20に調整したものを用いて、固相抽出剤2に通液した後、6価クロムの回収率を測定した試験2の結果を示す。
【0034】
図5から、試料溶液のpHが6.0の場合、6価クロムの回収率は試料溶液が抽出液を希釈倍率5倍以上に希釈することが好ましいことが判る。図5に示すように、希釈倍率が5倍を下回ると6価クロムの回収率が急激に低下することが判る。また、試料溶液をアルカリから中性に下げると6価クロムの回収率が向上する傾向が見られた。なお、図5に示すように、希釈倍率5倍を下回ると6価クロムの回収率が急激に低下する傾向は、試料溶液のpHが7.5の場合でも同様であった。
【0035】
以上の試験1および試験2の結果から、固相抽出剤2に試料溶液を通液したときに、固相抽出剤2に保持されず通過する3価クロムを多くし、6価クロムの通過を少なくするには、試料溶液を作製するための抽出液のpHが6以下であることが重要であり、試料溶液の希釈倍率は5倍以上となるように設定することが重要となる。なお、定量方法としては、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法であるICP-AESを用いることにより、試料溶液が着色していてもその影響を受けずに精度の高い定量が可能となる。
【0036】
以上、第1の実施の形態および試験1、2について説明したが、上記第1の実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法によれば、シリンジ1に固相抽出剤2を備えるという簡単な構成であると共に、例えば煮沸、ろ過、洗浄などの操作が不要であり、シリンジ1に対して、洗浄液、試料溶液、溶出液などの各種溶液を通液するだけの簡単な操作であるため、操作に熟練を要求させずに正確な定量分析を行える。
【0037】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法においても、上記第1の実施の形態と同様に、固相抽出剤として分子認識ゲル(AnaLig Cr-02)を用いる。また、この大環状化合物のメッシュサイズ等も、上記第1の実施の形態で用いたものと同様である。また、本実施の形態では、試料溶液を固相抽出剤1に通液する最適流量は0.5ml/minである。また、この試料溶液を作製するために試料を抽出するための抽出液のpHは2未満である。
【0038】
本実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法では、図6に示すように、固相抽出剤2として、上記分子認識ゲル(AnaLig Cr-02)500mgをシリンジ1に充填したものを用いる。図6に示すように、固相抽出剤2には、5molの硝酸(HNO)4mlと精製水12mlを流速5ml/minで流して前処理を施しておく。
【0039】
一方、上記抽出液で試料をアルカリ抽出した試料溶液を作製しておく。なお、試料溶液は、希釈倍率5倍以上に調整して作製する。そして、シリンジ1に試料溶液を通液して、試料溶液中の6価クロムを固相抽出剤2に捕捉させる。この通液では、3価クロムはシリンジ1を通過する。
【0040】
その後、上記第1の実施の形態と同様に、0.1Mの硝酸4mlと精製水4mlを順次、流速0.5ml/minで通液させてシリンジ1を通過した洗浄廃液を回収する。
【0041】
次に、図6および図7(a)に示すように、5M硝酸でなる分離用液4mlをシリンジ1側へ0.5ml/minの流速で通液し、図7(b)に示すように、容器5に固相抽出剤2を通過した液を落下させる。ここで、固相抽出剤2に含まれる精製水が容器5へ排出されて溶出液が固相抽出剤2を浸潤した時点で図7(c)に示すように、シリンジ1の先端に栓6を装着する。この栓6を装着した時点から、5分間のソークを行って溶出液を固相抽出剤2に留まらせた。その後、シリンジ1から栓6を外して図7(d)、(e)に示すように、シリンジ1に、5Mの硝酸でなる分離用液を0.5ml/minで通液させて6価クロムを含む溶出液を容器5へ回収する。
【0042】
なお、この溶出液を回収する工程では、シリンジ1の先端(液の排出口)を減圧、またはシリンジ1の上部を加圧するなどして溶出液を強制的に回収してもよい。このように溶出液を強制的に回収することにより、時間短縮を図ることができる。
【0043】
本実施の形態では、図7(a)〜(e)に示した工程を、例えば8回繰り返す。
【0044】
そして、容器8に回収された溶出液を、上記第1の実施の形態と同様に、ICP-AESにより6価クロムのみを定量する。
【0045】
なお、本実施の形態では、上記第1の実施の形態が8mlの5M硝酸を用いて溶出を行ったのに対して、本実施の形態では、溶出工程で5Mの硝酸(HNO)4mlを用いている。このように硝酸量を減らしたことにより、試料(6価クロムを含む溶液)の粘度が下がり、ICP-AES分析装置内の試料の噴霧化工程においてより細かな霧を発生させることができるようになる。微細な霧ほどプラズマ化効率が良いため、結果として試料のプラズマ化効率が向上し、より多量の試料が分析されることにより高感度化を達成することができる。
【0046】
本実施の形態の6価クロムの定量分析方法においても、固相抽出剤が充填されたシリンジに、各種溶液(洗浄液、試料液、分離用液)を通液するだけでよく、また、使用薬品が硝酸、精製水のみであるため、熟練した操作が要求されず簡単な操作で行えるという効果がある。
【0047】
また、本実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法では、試料溶液を作製するための抽出液をpH2未満に調整したことにより、固相抽出剤2である分子認識ゲルで保持される3価クロムの量を小さく抑えることができる。具体的には、抽出液をpH2未満に調整したことにより、分子認識ゲルで保持される3価クロムの回収率が0〜1%に抑えることができる。
【0048】
(試験3:分子認識ゲルを用いた3価クロム回収率のpH依存性について)
以下に、分子認識ゲル(AnaLig Cr-02)における3価クロムの回収率の試料溶液のpH依存性について行った試験3について説明する。なお、この試料溶液は、上記EPAの分析方法3060Aと同条件で温アルカリ抽出する抽出液を、各値のpHに調整した。これら抽出液に、それぞれ3価クロム標準液および6価クロムの標準液を添加してアルカリで20倍希釈した溶液を用いて、上記分子認識ゲルを用いて3価クロムの回収率を確認した。なお、3価クロムの回収率の求め方は、以下の通りであり、6価クロムの回収率の求め方も同様である。
回収率%=(抽出液中3価クロム濃度)/(試料添加した3価クロム濃度)×100
【0049】
因みに、その結果は、図8および図9に示す通りであり、例えば、pH2の試料溶液を用いた場合に、3価クロムの回収率は、3.4%であった。また、pH1の試料溶液を用いた場合に、3価クロムの回収率は0.8%であった。なお、図8は3価クロムおよび6価クロムの回収率とpH依存性を示す図であり、図9は3価クロムのみの回収率のpH依存性を示すグラフである。
【0050】
図8および図9に示すように、pH2未満の試料溶液では、3価クロムの回収率が4〜0%であり、pH1以下では1%以下となることが考えられる。したがって、試料溶液のpHは、上記第1の実施の形態のように、pH6以下であることが有効であるが、pH2未満が好ましく、pH1以下でさらに好ましい。すなわち、試料溶液をpH2未満に下げることにより、分子認識ゲルの3価クロムの保持力を弱くすることができ、分子認識ゲルに6価クロムに混じって3価クロムが残留することを抑制できることが判った。
【0051】
この試験3から判るように、第2の実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法のように、試料溶液のpHを2未満とすることにより、6価クロムの定量分析を高い精度で行うことが可能となる。
(試験4:ソークによる回収率向上)
試料溶液として、上記EPAの分析方法3060Aと同条件の温アルカリ抽出の抽出液をpH1に調整した。この試料溶液に6価クロム標準液を添加し20倍希釈した溶液について、上記分子認識ゲルを用いて6価クロム2を捕集・溶出させた。6価クロムを溶出させる際、5分間のソークを行う場合と行わない場合についての6価クロムの回収率の違いを確認した。なお、ソーク開始時は、固相抽出剤に試料溶液を通液した後、分離用液を通液して固相抽出剤中に含まれる精製水がシリンジ側へ排出されて分離用液が固相抽出剤に含浸された時点とした。
【0052】
その結果、6価クロムの回収率は、ソークを行わない場合で78.9%であった。また、ソークを行った場合は、6価クロムの回収率は90.1%と大幅に向上した。なお、ソークの時間は、試験の結果、初回の5分間が有効であり、2回目、3回目以降は5分間よりも短い時間としても回収率に変化はないと考えられる。
【0053】
ソークにより固相抽出剤と分離用液(硝酸)の反応時間が長くなり、固相抽出剤かあの6価クロムの放出過程が十分に行われるようになったこと、および固相抽出剤全体への硝酸の浸透が進んだことで、放出される6価クロムが増加したことから、回収率が増加したと考えられる。なお、ソークを行う上記第2の実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法では、上記第1の実施の形態において溶出操作を行うのにかかっていた時間に比べソークに費やす時間が増加するが、溶出時に溶液の強制排出(溶液の吸引または加圧排出)を行うことで、溶液排出の時間が短くなるため、溶出にかかる時間は上記第1の実施の形態と同程度に抑えることができた。このようにソークを行ったことにより、6価クロムの回収率を大幅に向上できることが判った。
【0054】
加えて、上記第1および第2の実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法では、EPAの分析方法3060Aと同条件の温アルカリ抽出の試料溶液を、抽出液を希釈倍率5倍以上に調整して作製することにより、6価クロムの回収率を向上することができた。
【0055】
(その他の実施の形態)
以上、本発明の第1及び第2の実施の形態について説明したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0056】
例えば、上記第1の実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法では、固相抽出剤2に捕捉された6価クロムを溶出させる際に、第2の実施の形態で行ったような、ソークを行っていないが、抽出液のpHを6〜2の範囲に設定して6価クロムの回収率を向上することが可能であり、第1の実施の形態にソークを行うという方法も、本発明の適用範囲である。
【0057】
また、上記第1の実施の形態に係る6価クロムの定量分析方法においても、溶出工程で硝酸量を減らすように調整すればICP-AES分析装置内の試料の噴霧化工程においてより細かな霧を発生させてプラズマ化効率を高め、高感度な分析を可能にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、3価クロムと6価クロムが共存する樹脂中の6価クロムの定量分析を必要とする各種樹脂材料製品や電子機器製造などの産業ならびに化学分析機器の製造業などにおいて利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…シリンジ
2…固相抽出剤
3,4,5…容器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂試料をアルカリ抽出して、その抽出液をpH6以下に調整して試料溶液を作製する工程と、
2つの芳香族を含んで大環状化合物構造を有し且つ6価クロムを捕捉する空孔を備えた固相抽出剤に、前記試料溶液を通液して前記固相抽出剤に6価クロムを捕捉させる工程と、
前記固相抽出剤に分離用液を供給して6価クロムを溶出させて溶出液を回収する工程と、
前記溶出液を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法で定量分析する工程と、
を備えることを特徴とする6価クロムの定量分析方法。
【請求項2】
前記固相抽出剤は、メッシュサイズが60〜100μmであり、結合容量は0.1〜0.3mmol/g、密度は0.4g/mlであることを特徴とする請求項1に記載の6価クロムの定量分析方法。
【請求項3】
前記固相抽出剤はシリンジ内に充填され、前記シリンジ内に、前記試料溶液が通液され、前記シリンジから前記溶出液を回収することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の6価クロムの定量分析方法。
【請求項4】
前記抽出液をpH2未満に調整して前記試料溶液を作製することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の6価クロムの定量分析方法。
【請求項5】
前記固相抽出剤に分離用液を供給して6価クロムを溶出させて溶出液を回収する工程において、前記固相抽出剤に、分離用液を一定時間留まらせることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の6価クロムの定量分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−78588(P2010−78588A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106736(P2009−106736)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】