説明

6価クロム濃度の測定装置および測定方法

【課題】検査コストを低減でき、かつ、測定精度の低下を防止できる6価クロム濃度の測定装置および測定方法を提供する。
【解決手段】6価クロム濃度の測定装置50は、ネジ2の種類を特定するための特定情報を取得する情報取得部21と、取得された特定情報に基づいてネジ2の必要数量を決定する情報決定部22と、ネジ2および蒸留水9を収容する試験槽1と、試験槽1内の蒸留水9に対して測定光を照射する光源7と、試験槽1内の蒸留水9を透過する透過光から吸光度を測定する光度計8と、光度計8により測定された吸光度から、蒸留水9中の6価クロム濃度を算出する濃度演算部24とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6価クロム濃度の測定装置および測定方法、特に、酸化クロメート処理されたネジなどの測定対象物から6価クロムを抽出して6価クロム濃度を測定する測定装置および測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヨーロッパでは、RoHS指令(on the Restriction of the use of certain Hazardous Substances:電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限指令)の適用により、酸化クロメートなどの皮膜処理されたネジなどから溶出する6価クロム(Cr6+)の最大許容濃度が1000ppm未満に制限されつつある。従って、ヨーロッパに電気・電子機器を輸出する場合、6価クロムの濃度が許容値以下であることを確認する必要がある。
そこで、例えば、前処理により6価クロムを抽出し、ジフェニルカルバジド吸光光度法を用いて6価クロム濃度を測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1および図9のフロー図を参照。)。具体的には、前処理として、高温の蒸留水がネジなどの測定対象物が収容された試験槽に供給され、測定対象物からできるだけ多くの6価クロムが抽出される。そして、ジフェニルカルバジド吸光光度法を用いて、抽出液中の6価クロム濃度が定量分析される。ジフェニルカルバジド吸光光度法では、6価クロムが抽出された抽出液にジフェニルカルバジド(1,5−ジフェニルカルボノヒドラジド)が試薬として加えられる。この結果、6価クロムとジフェニルカルバジドとが反応し、赤紫色の錯体が生成され、抽出液が発色する。この抽出液の波長540nm付近の吸光度を光度計により測定することにより、6価クロムの濃度が定量分析される。
【特許文献1】特開2004−325321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の測定方法では、測定作業の大半は作業者により行われている。具体的には、ジフェニルカルバジド吸光光度法では測定対象物の総表面積は10cm2以上確保する必要があるが、その一方で測定対象物の数量が多すぎると、試験槽の容量とのバランスがとれない。このため、ネジの種類に応じて測定に適した数量を求める必要があり、作業者が適宜これを行っている。また、ジフェニルカルバジド吸光光度法では測定対象物の総表面積に対する抽出液量も決まっているため、作業者が適切な抽出液量を求め、抽出液量に基づいて試験槽に抽出液が供給される。
また、従来の測定方法では、前処理作業と吸光度の測定作業とは、一連の作業となっていない。このため、例えば作業者が抽出液からネジを取り出したり、抽出液を光度計にセットしたりする必要がある。
さらに、上記のような吸光光度法では、抽出液を光度計に2回セットする必要がある。具体的には、光度計の零点調整をするために、前処理にて6価クロムを抽出した段階で、前処理後の抽出液の一部が光度計にセットされ、吸光度が測定される。そして、零点調整後、残りの抽出液に試薬が投入される。試薬と6価クロムとの反応が完了したと思われた段階で、変色した抽出液が光度計にセットされ、6価クロム濃度が定量分析される。この2回のセット作業は、測定対象物の種類ごとに行う必要がある。
【0004】
このように、従来の測定方法では、測定作業の大半は作業者により行われている。このため、例えば民生用家電製品などのようにネジの種類が多い場合は、測定するために多大な時間や労力を費やすこととなり、検査にかかるコストが増大するとともに、作業者のミスにより測定精度が低下するおそれがある。
また、従来の測定方法では、一定時間経過すれば試薬と6価クロムとの反応は完結していると判断され、抽出液の吸光度が測定されている。このため、放置時間が短く反応が完結していない場合は、6価クロム濃度の測定精度が低下する。一方、放置時間が長い場合は、測定精度の低下は防止できるが、検査に要する時間が長くなり、前述の場合と同様に検査にかかるコストが増大するとともに、測定精度が低下するおそれがある。
また、従来の測定方法では、6価クロムの溶出を促進するために、高温の抽出液が試験槽に供給される。このとき、測定対象物の総重量が大きいと、抽出液から多くの熱エネルギーを奪うため、抽出液の温度が低下してしまう。この結果、6価クロムの溶出が促進されず、6価クロムの濃度を正確に測定することができない。また、総表面積10cm2以上確保するために測定対象物の数量を決定すると、単体の寸法が大きい測定対象物は寸法が小さい測定対象物よりも、測定対象物の総重量が増加してしまう。すなわち、測定対象物の寸法が大きいほど、6価クロムの濃度の測定値の誤差が大きくなるおそれがある。
【0005】
このように、従来の6価クロム濃度の測定装置および測定方法では、検査コストの低減および測定精度の低下の防止が望まれている。
本発明の課題は、検査コストを低減でき、かつ、測定精度の低下を防止できる6価クロム濃度の測定装置を提供することにある。
本発明の別の課題は、検査コストを低減でき、かつ、測定精度の低下を防止できる6価クロム濃度の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る6価クロム濃度の測定装置は、抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置であって、測定対象物の種類を特定するための特定情報を取得する情報取得部と、取得された特定情報に基づいて測定対象物の必要数量を決定する情報決定部と、測定対象物および抽出液を収容する試験槽と、試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する光源と、試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定部と、光度測定部により測定された吸光度から、抽出液中の6価クロム濃度を算出する濃度演算部と、を備えている。
この測定装置では、光源により試験槽内の抽出液に測定光が照射され、光度測定部により吸光度が測定される。そして、測定された吸光度から抽出液中の6価クロム濃度が濃度演算部により算出される。
このとき、例えば測定対象物の表面積を10cm2以上確保する必要があるが、その一方で測定対象物の数量が多すぎると、試験槽の容量とのバランスがとれない。
ここでは、情報取得部により測定対象物の種類を特定するための特定情報が取得され、情報決定部によりこの特定情報に基づいて測定対象物の必要数量が決定される。このため、試験槽の容量とのバランスを保ちつつ、必要となる表面積が確実に確保できる測定対象物の数量を、測定対象物の種類に応じて容易にかつ迅速に決定することができる。この結果、測定対象物の種類が多い場合であっても、測定対象物の種類に応じた必要数量を容易かつ迅速に求めることができ、測定時間の短縮および労力の軽減を図ることができる。すなわち、この測定装置では、検査コストの低減および測定精度の低下の防止を図ることができる。
【0007】
ここで、測定対象物としては、例えば、酸化クロメート処理が施されたネジ、ボルトおよびナットなどが挙げられ、測定対象物の種類としては、例えば、JISなどの規格により定められた呼び径(M4、M6など)、長さ、頭部の形状のタイプおよび材質などが挙げられる。また、抽出液としては、例えば蒸留水などが挙げられる。
第2の発明に係る6価クロム濃度の測定装置は、第1の発明に係る測定装置において、複数の特定情報に対応するとともに少なくとも測定対象物の表面積を含む複数の対象物情報を参照情報として格納する参照情報格納部をさらに備えている。情報決定部は、情報取得部により取得された特定情報に対応する対象物情報を参照情報から選択する対象物情報選択部と、選択された対象物情報に含まれる表面積から測定対象物の必要数量を算出する数量演算部と、を有している。
ここでは、参照情報格納部に予め格納された参照情報から対象物情報を選択することで、測定対象物の種類に応じた必要数量を容易にかつ迅速に求めることができる。
第3の発明に係る6価クロム濃度の測定装置は、第2の発明に係る測定装置において、情報決定部が、選択された対象物情報に含まれる表面積および数量演算部により算出された必要数量に基づいて、試験槽に供給する抽出液量を決定する液量演算部をさらに備えている。
【0008】
ここでは、表面積および必要数量に基づいて、測定対象物の種類および数量に適した抽出液の量を容易にかつ迅速に求めることができる。
第4の発明に係る6価クロム濃度の測定装置は、第3の発明に係る測定装置において、情報決定部により決定された測定対象物の必要数量および抽出液量の少なくともいずれか1つを表示する表示部をさらに備えている。
この場合、測定対象物の必要数量、あるいは抽出液量を作業者が確認できる。これにより、必要数量や抽出液量を作業者が容易に把握することができ、作業時間を短縮できる。
第5の発明に係る6価クロム濃度の測定装置は、第1から第4の発明のいずれかに係る測定装置において、取得された特定情報に基づいて濃度演算部により算出された6価クロム濃度の算出値を補正する補正部をさらに備えている。
この測定装置では、測定対象物の種類に応じて6価クロム濃度の算出量が補正部により補正される。このため、測定対象物により抽出液の温度が低下しても6価クロム濃度を正確に測定することができ、測定精度の向上を図ることができる。
第6の発明に係る6価クロム濃度の測定装置は、抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置であって、測定対象物の種類を特定するための特定情報を取得する情報取得部と、測定対象物および抽出液を収容する試験槽と、試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する光源と、試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定部と、光度測定部により測定された吸光度から、抽出液中の6価クロム濃度を算出する濃度演算部と、取得された特定情報に基づいて、濃度演算部により算出された6価クロム濃度の算出値を補正する補正部と、を備えている。
【0009】
この測定装置では、測定対象物の種類に応じて6価クロム濃度の算出量が補正部により補正される。このため、測定対象物により抽出液の温度が低下しても6価クロム濃度を正確に測定することができ、測定精度の向上を図ることができる。
第7の発明に係る6価クロム濃度の測定装置は、第5または第6の発明に係る測定装置において、参照情報格納部には、複数の特定情報に対応する6価クロム濃度の算出値の補正情報が参照情報として格納されている。補正部は、情報取得部により取得された特定情報に対応する補正情報を参照情報から選択する補正情報選択部と、選択された補正情報に基づいて6価クロム濃度の算出値を補正する補正演算部と、を有している。
この測定装置では、参照情報から補正情報を選択することができ、6価クロム濃度の算出値に対して測定対象物の種類に適した補正を行うことができる。
第8の発明に係る6価クロム濃度の測定装置は、第1から第7の発明のいずれかに係る測定装置において、試験槽に収容された測定対象物を磁気的吸引力を利用して取り出す排出部をさらに備えている。
ここでは、自動的に試験槽から測定対象物を取り出すことができ、作業時間を短縮できるとともに作業者の労力を軽減できる。
【0010】
第9の発明に係る6価クロム濃度の測定装置は、抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置であって、測定対象物および抽出液を収容する試験槽と、試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する光源と、試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定部と、光度測定部により測定された吸光度から、測定対象物から溶出した6価クロム濃度を算出する演算部と、試験槽に収容された測定対象物を、磁気的吸引力を利用して取り出す排出部と、を備えている。
ここでは、自動的に試験槽から測定対象物を取り出すことができ、作業時間を短縮できるとともに作業者の労力を軽減できる。
第10の発明に係る6価クロム濃度の測定装置は、第8または第9の発明に係る測定装置において、排出部が、試験槽に対して相対移動可能に配置された磁力発生部を有している。
この場合、簡素な構造により測定対象物の自動取り出しを実現できる。
第11の発明に係る6価クロム濃度の測定装置は、第1から第10の発明のいずれかに係る測定装置において、光度測定部により測定された吸光度の経時的変化に基づいて、抽出液中の6価クロム濃度が飽和しているか否かを判定する飽和判定部をさらに備えている。濃度演算部は、飽和判定部から飽和状態であるという判定結果を得た後に、吸光度に基づいて測定対象物から溶出した6価クロム濃度を算出する。
【0011】
ここでは、6価クロム濃度が飽和しているか否か、すなわち6価クロムと試薬との反応が飽和しているか否かを判定することができる。これに容易にかつ迅速に最適な測定時期を把握することができ、測定時間を短縮できる。
第12の発明に係る6価クロム濃度の測定装置は、抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置であって、測定対象物および抽出液を収容する試験槽と、試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する光源と、試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定部と、光度測定部により測定された吸光度の経時的変化に基づいて、測定対象物から溶出する6価クロムの濃度が飽和しているか否かを判定する飽和判定部と、飽和判定部から飽和状態であるという判定結果を得た後に、吸光度に基づいて測定対象物から溶出した6価クロム濃度を算出する濃度演算部と、を備えている。
ここでは、6価クロム濃度が飽和しているか否か、すなわち6価クロムと試薬との反応が飽和しているか否かを判定することができる。これに容易にかつ迅速に最適な測定時期を把握することができ、測定時間を短縮できる。
第13の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、試験槽内の抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置を用いた測定方法であって、測定対象物の種類を特定するための特定情報が取得される情報取得工程と、取得された特定情報に基づいて、測定対象物の必要数量が決定される情報決定工程と、試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する照射工程と、試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定工程と、光度測定工程により測定された吸光度から、抽出液中の6価クロム濃度を算出する濃度演算工程と、を含んでいる。
【0012】
この測定方法では、照射工程において試験槽内の抽出液に測定光が照射され、光度測定工程において吸光度が測定される。そして、濃度演算工程において吸光度から抽出液中の6価クロム濃度が算出される。
このとき、例えば測定対象物の表面積を10cm2以上確保する必要があるが、一方で測定対象物の数量が多すぎると、試験槽の容量とのバランスがとれない。
ここでは、情報取得工程において測定対象物の種類を特定するための特定情報が取得され、情報決定部によりこの特定情報に基づいて測定対象物の必要数量が決定される。このため、試験槽の容量とのバランスを保ちつつ、必要となる表面積が確実に確保できる測定対象物の数量を、測定対象物の種類に応じて容易にかつ迅速に決定することができる。これにより、この測定方法では、測定対象物の種類が多い場合であっても、測定対象物の種類に応じた必要数量を容易かつ迅速に求めることができ、測定時間の短縮および労力の軽減を図ることができる。すなわち、この測定方法では、検査コストの低減および測定精度の低下の防止を図ることができる。
ここで、測定対象物としては、例えば、酸化クロメート処理が施されたネジ、ボルトおよびナットなどが挙げられ、測定対象物の種類としては、例えば、JISなどの規格により定められた呼び径(M4、M6など)、長さ、頭部の形状のタイプおよび材質などが挙げられる。また、抽出液としては、例えば、蒸留水などが挙げられる。
【0013】
第14の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、第13の発明に係る測定方法において、測定装置が、複数の特定情報に対応するとともに少なくとも測定対象物の表面積を含む複数の対象物情報を参照情報として格納する参照情報格納部をさらに備えている。情報決定工程は、情報取得工程により取得された特定情報に対応する対象物情報を参照情報から選択する対象物情報選択工程と、選択された対象物情報に含まれる表面積から測定対象物の必要数量を算出する数量演算工程と、を有している。
ここでは、対象物情報選択工程において参照情報格納部に予め格納された参照情報から対象物情報を選択することで、測定対象物の種類に応じた必要数量を容易にかつ迅速に求めることができる。
第15の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、第14の発明に係る測定方法において、情報決定工程が、選択された対象物情報に含まれる表面積および数量演算工程により算出された必要数量に基づいて、試験槽に供給する抽出液量を決定する液量演算工程をさらに含んでいる。
ここでは、表面積および必要数量に基づいて、測定対象物の種類および数量に適した抽出液の量を容易にかつ迅速に求めることができる。
【0014】
第16の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、第15の発明に係る測定方法において、情報決定工程により決定された測定対象物の必要数量および抽出液量の少なくともいずれか1つを表示する表示工程をさらに含んでいる。
この場合、測定対象物の必要数量、あるいは抽出液量を作業者が確認できる。これにより、必要数量や抽出液量を作業者が容易に把握することができ、作業時間を短縮できる。
第17の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、第13から第16の発明のいずれかに係る測定方法において、取得された特定情報に基づいて、濃度演算工程により算出された6価クロム濃度の算出値を補正する補正工程をさらに含んでいる。
この測定方法では、補正工程において測定対象物の種類に応じて6価クロム濃度の算出量が補正される。このため、測定対象物により抽出液の温度が低下しても6価クロムの溶出値を正確に測定することができる。
第18の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、試験槽内の抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置を用いた測定方法であって、測定対象物の種類を特定するための特定情報を取得する情報取得工程と、試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する照射工程と、試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定工程と、光度測定工程により測定された吸光度から、抽出液中の6価クロム濃度を算出する濃度演算工程と、取得された特定情報に基づいて、濃度演算工程により算出された6価クロム濃度の算出値を補正する補正工程と、を含んでいる。
【0015】
この測定方法では、補正工程において測定対象物の種類に応じて6価クロム濃度の算出量が補正される。このため、測定対象物により抽出液の温度が低下しても6価クロムの溶出値を正確に測定することができる。
第19の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、第17または第18の発明に係る測定方法において、参照情報格納部には、複数の特定情報に対応する6価クロム濃度の算出値の補正情報が参照情報として格納されている。補正工程は、情報取得工程により取得された特定情報に対応する補正情報を参照情報から選択する補正情報選択工程と、選択された補正情報に基づいて6価クロム濃度の算出値を補正する補正演算工程と、を含んでいる。
この測定方法では、参照情報から補正情報を選択することができ、濃度の算出値に対して測定対象物の種類に適した補正を行うことができる。
第20の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、第13から第19の発明のいずれかに係る測定方法において、試験槽に収容された測定対象物を、磁気的吸引力を利用して取り出す排出工程をさらに含んでいる。
ここでは、自動的に試験槽から測定対象物を取り出すことができ、作業時間を短縮できるとともに作業者の労力を軽減できる。
【0016】
第21の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、試験槽内の抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置を用いた測定方法であって、試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する照射工程と、試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定工程と、光度測定工程により測定された吸光度から、測定対象物から溶出した6価クロム濃度を算出する演算工程と、試験槽に収容された測定対象物を、磁気的吸引力を利用して取り出す排出工程と、を備えている。
ここでは、自動的に試験槽から測定対象物を取り出すことができ、作業時間を短縮できるとともに作業者の労力を軽減できる。
第22の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、第20または21の発明に係る測定方法において、排出部が、試験槽に対して相対移動可能に配置された磁力発生部を有している。
第23の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、第13から第22の発明のいずれかに係る測定方法において、測定装置が光度測定工程により測定された吸光度の経時的変化に基づいて、抽出液中の6価クロム濃度が飽和しているか否かを判定する飽和判定部をさらに備えている。濃度演算工程は、飽和判定部から飽和状態であるという判定結果を得た後に、吸光度に基づいて測定対象物から溶出した6価クロム濃度を算出する。
【0017】
ここでは、6価クロム濃度が飽和しているか否か、すなわち6価クロムと試薬との反応が飽和しているか否かを判定することができる。これに容易にかつ迅速に最適な測定時期を把握することができ、測定時間を短縮できる。
第24の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、試験槽内の抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置を用いた測定方法であって、試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する照射工程と、試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定工程と、光度測定工程により測定された吸光度の経時的変化に基づいて、測定対象物から溶出する6価クロムの濃度が飽和しているか否かを判定する飽和判定工程と、飽和判定部から飽和状態であるという判定結果を得た後に、吸光度に基づいて測定対象物から溶出した6価クロム濃度を算出する濃度演算工程と、を備えている。
ここでは、6価クロム濃度が飽和しているか否か、すなわち6価クロムと試薬との反応が飽和しているか否かを判定することができる。これに容易にかつ迅速に最適な測定時期を把握することができ、測定時間を短縮できる。
第25の発明に係る6価クロム濃度の測定方法は、第13から第24の発明のいずれかに係る測定方法において、照射工程の前に、6価クロム濃度に応じて変色する試薬が封入された水溶性カプセルが試験槽内に投入されるカプセル投入工程をさらに含んでいる。
【0018】
この場合、試薬が封入されたカプセルが投入されるため、光度計の零点調整と吸光度の測定とを一連の作業として行うことができる。これにより、測定時間を短縮できる。また、これにより、試薬の取り扱いが容易となるとともに、試薬の量がカプセルの数量で調節できるため、試薬の量の調節が容易となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の6価クロム濃度の測定装置および測定方法によれば、上記の構成を有しているため、測定時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
(1)測定装置の構成
図1および図2を用いて、本発明の第1実施形態に係る6価クロム濃度の測定装置について説明する。図1に本発明の第1実施形態に係る6価クロム濃度の測定装置50の概略構成図、図2に排出装置の概略構成図を示す。
図1および図2に示すように、測定装置50は主に、測定対象物としてのネジ2および抽出液としての蒸留水9を収容する試験槽1と、試験槽1を加熱して蒸留水の温度の低下を防止する加熱撹拌装置4と、蒸留水を加熱するとともに試験槽1へ供給する蒸留水加熱供給装置5と、試験槽1内の蒸留水に振動を与える超音波振動装置6と、試験槽1内の蒸留水9に測定光を照射する光源7と、蒸留水9からの透過光から吸光度を測定する光度測定部としての光度計8と、磁気的吸引力を用いてネジ2を取り出す排出装置11と、各部の動作を制御する制御装置20と、制御装置20にデータを入力する入力装置30と、入力装置30から入力されたデータや制御装置20から出力されたデータを表示する表示部としての表示装置40とから構成されている。加熱撹拌装置4、蒸留水加熱供給装置5、超音波振動装置6、光源7、光度計8、入力装置30および表示装置40は制御装置20に接続されている。
【0021】
図1に示すように、試験槽1は、試験管のような縦長の容器であり、光源7からの測定光が透過するように、例えばガラスなどの透明な材料から構成されている。ネジ2は、例えば鉄系の材料からなり、表面に酸化クロメート処理が施されている。蒸留水9は、蒸留水加熱供給装置5に貯留されている。蒸留水加熱供給装置5には、蒸留水加熱用のヒータ(図示せず)および蒸留水の供給をコントロールする電磁弁あるいは手動弁が設けられている。光源7および光度計8は、試験槽1を挟んで対向する位置に配置されている。
加熱撹拌装置4は、試験槽1の下部を収容および支持しており、試験槽1を加熱するヒータを有している。加熱撹拌装置4のヒータにより、蒸留水9の保温あるいは煮沸が可能となっている。また、ヒータの他に、加熱撹拌装置4には試験槽1内に投入された金属製の撹拌子3を非接触で回転させる撹拌子駆動装置が内蔵されている。撹拌子3は、6価クロム濃度の測定に影響を及ぼさない材質で構成されている。撹拌子3を回転させることで、試薬が蒸留水9に短時間で溶けやすくなるとともに、蒸留水9に溶出した6価クロムと試薬との反応が促進される。なお、撹拌子3は、後述する排出装置11によりネジ2とともに取り出され、洗浄装置(図示せず)により洗浄されるが、ネジ2とともに取り出さずに、6価クロム濃度の測定中も撹拌を継続していてもよい。この場合、試薬と6価クロムとの反応が促進さ、測定時間を短縮できる。
【0022】
超音波振動装置6は、棒状の振動子6aを有しており、例えば振動子6aは20〔kHz〕の周波数で振動可能となっている。従来の測定装置では、蒸留水にネジを浸漬して6価クロムを抽出する際に、ネジの表面から染み出した6価クロムによって、ネジの表面近傍の蒸留水が6価クロムで飽和状態になると考えられる。このため、ネジの表面から効率良く6価クロムを抽出することができない。
しかし、この測定装置50では、超音波振動装置6の振動子6aを試験槽1内の蒸留水9に接触させると、蒸留水9およびネジ2に振動が伝わる。この結果、絶えず飽和していない蒸留水9とネジ2が接触するため、ネジ2からの6価クロムの溶出が促進される。また、蒸留水9に溶出した6価クロムを均一に拡散させることが可能となる。なお、超音波振動装置6は、他の測定対象物の測定に影響を与えないように、洗浄装置(図示せず)により使用後必ず洗浄される。
図2に示すように、排出装置11は主に、試験槽1の側方に配置された1対の第1電磁石12と、試験槽1の上方に配置された第2電磁石13と、第1電磁石12および第2電磁石13を移動可能に支持する電磁石移動装置(図示せず)とから構成されている。第1電磁石12は試験槽1に対して上下方向に相対移動可能に配置されており、第2電磁石13は試験槽1に対して左右方向に相対移動可能に配置されている。電磁石移動装置は、第1電磁石12を上下方向に、第2電磁石13を左右方向に移動可能に支持している。第1電磁石12および第2電磁石13が通電されると、第1電磁石12および第2電磁石13から電磁力が発生し、後述のようにネジ2を吸引できる。
【0023】
制御装置20、入力装置30および表示装置40は、例えばCPU、RAM、ROM、キーボードおよびモニタを備えたPC(Personal Computer)から構成されている。ここでは、入力装置30がキーボード、表示装置40がモニタに対応している。制御装置20のROMには、各部の動作を制御するためのプログラムが格納されており、このプログラムがCPUに読み込まれることで、所望の機能が実現される。
ここで、図3を用いて制御装置20の構成について説明する。図3に制御装置20の概略構成図を示す。
図3に示すように、制御装置20は主に、入力装置30から入力された特定情報を取得する情報取得部21と、情報取得部21により取得された特定情報に基づいて対象物に関する他の情報を決定する情報決定部22と、光度計8により測定された吸光度から6価クロム濃度を算出する濃度演算部24と、特定情報に基づいて濃度演算部からの算出値を補正する補正部25と、光度計8により測定された吸光度の経時的変化に基づいて蒸留水9中の6価クロム濃度が飽和しているか否かを判定する飽和判定部26と、複数の特定情報に対応する複数の対象物情報を参照情報として格納する参照情報格納部27と、各装置の駆動を制御する駆動制御部23とから構成されている。
【0024】
情報決定部22は、情報取得部21により取得された特定情報に対応する対象物情報を参照情報から選択する対象物情報選択部22aと、選択された対象物情報に含まれる表面積から測定対象物の必要数量を算出する数量演算部22bと、選択された対象物情報に含まれる表面積および数量演算部22bにより算出された必要数量に基づいて、試験槽に供給する蒸留水9の量を決定する液量演算部22cとから構成されている。
補正部25は、情報取得部21により取得された特定情報に対応する補正情報を参照情報から選択する補正情報選択部25aと、選択された補正情報に基づいて6価クロム濃度の算出値を補正する補正演算部25bとから構成されている。
ここで、図4を用いて参照情報格納部27に格納される参照情報の構成について説明する。図4に参照情報の概略構成図の一例を示す。
図4に示すように、参照情報は、複数の特定情報と、それに対応する対象物情報および補正情報とから構成されている。特定情報は、測定対象物の種類を特定するための情報であり、例えば、ネジの場合であれば、製造メーカ、JISなどの規格により定められた呼び径(M4、M6など)、長さ(L=20〔mm〕など)、頭部の形状(皿、なべなど)、等級(精密ねじなど)から構成されている。対象物情報は、特定情報に対応する測定対象物の表面積および重量から構成されている。表面積および重量は、測定対象物単体の表面積および重量(ねじ部および頭部の合計重量)を意味している。補正情報は、6価クロム濃度の算出値に乗じて補正値を求めるための補正係数から構成されている。この補正係数は、例えば実験データから求められた数値であり、特定情報ごとに予め算出されたものである。
【0025】
(2)測定方法
図5および図6を用いて、測定装置50を用いた6価クロム濃度の測定方法について説明する。図5に本発明の第1実施形態に係る測定方法のフロー図の一例、図6に排出装置の動作説明図を示す。
図5に示すように、まず作業者がネジの種類を特定するために、ネジの呼び径、長さ、頭部の形状および材質を入力装置30により入力する(S1)。ここでは、例えば、呼び径:「M4」、長さ:「16〔mm〕」、頭部の形状:「皿」、等級:「精密ねじ」が入力されたものとする。入力装置30に入力された特定情報は、情報取得部21へ送られ、情報取得部21により特定情報が取得・格納される(情報取得工程:S2)。次に、対象物情報選択部22aにより、取得された特定情報に対応する対象物情報が参照情報から選択される(対象物情報選択工程:S3)。この場合、図4の参照情報より、入力された特定情報は特定情報〈4〉に該当するため、工程S3では対象物情報〈4〉が選択される。そして、選択された対象物情報〈4〉に含まれる表面積からネジの必要数量が算出される(数量演算工程:S4)。より具体的には、表面積の合計が10cm2以上確保できる最小の必要数量が算出される。一方で、選択された対象物情報〈4〉に含まれる表面積および工程S4で算出された必要数量に基づいて、試験槽1に供給する蒸留水9の量が算出される(液量演算工程:S5)。工程S4およびS5において算出された必要数量および蒸留水9の量が表示装置40に表示される(表示工程:S6)。これにより、作業者はネジに関する特定情報を入力するだけで、必要本数や蒸留水9の量を容易にかつ迅速に把握することができる。
【0026】
次に、作業者により必要本数分のネジ2が試験槽1にセットされ、蒸留水加熱供給装置5から加熱された蒸留水9が試験槽1に供給される(S7、S8)。そして、超音波振動装置6により試験槽1内の蒸留水9に振動が与えられる(S9)。これにより、ネジ2にも振動が伝わり、ネジ2からの6価クロムの溶出が促進される。そして、加熱撹拌装置4により撹拌子3が回転し、蒸留水9が撹拌される(S10)。これにより、6価クロムの溶出が促進されるとともに試験槽1内の6価クロム濃度がほぼ均一となる。
そして、排出装置11により試験槽1からネジ2が取り出される(排出工程:S11)。具体的には、図6に示すように、排出装置11の第1電磁石12が通電され、発生する電磁力によりネジ2が第1電磁石12に吸引される(図6(a))。試験槽1に沿って第1電磁石12が上方向へ移動すると、ネジ2も試験槽1の壁面に沿って上方向へ移動する(図6(b))。試験槽1の上方には第2電磁石13が待機しており、ネジ2が試験槽1の入り口付近まで移動すると、第2電磁石13が通電され、第1電磁石12の通電が停止される。この結果、ネジ2は第2電磁石13に直接吸引される(図6(c))。そして、第2電磁石13が対象物回収装置15まで移動し、第2電磁石13の通電が停止されると、ネジ2は対象物回収装置15内に落下し回収される(図2)。このように、磁気的吸引力を利用してネジ2を吸引することで、ネジ2を回収する手間が省けるとともに、自動的に試験槽1からネジ2を取り出すことができる。
【0027】
次に、試験槽1内に水溶性カプセル17が作業者により投入される(カプセル投入工程:S12)。なお、水溶性カプセル17の投入は、上記のように作業者により行われてもよいし、カプセル投入装置(図示せず)により蒸留水9の量に応じた数量が投入されてもよい。水溶性カプセル17が溶ける前に、光度計8の零点調整が行われる(S13)。具体的には、光源7から測定光が照射され、光度計8により吸光度が測定される。このとき、水溶性カプセル17のカプセル部分は溶けきっていないため、蒸留水9に試薬が溶けていない状態である。このため、この状態で測定された吸光度が光度計8の零点に設定され、零点調整が行われる。なお、光度計8の零点調整に要する時間はほぼ一定であり予め予測し得るものである。このため、光度計8の零点調整の終了後に水溶性カプセル17内の試薬が溶け始めるように、水溶性カプセル17のカプセル部分の厚みは設定されている。
光度計8の零点調整が終了すると、光度計8により測定される吸光度の経時的変化の監視が開始される(飽和判定工程:S14)。具体的には、光度計8により連続的あるいは断続的に吸光度が測定される。このとき、水溶性カプセル17内の試薬が蒸留水9に溶け始める(S15)。蒸留水9に試薬が溶け始めると、蒸留水9に溶出した6価クロムと試薬とが反応し、徐々に蒸留水9が変色する。それに伴って、測定される吸光度は徐々に高くなる。試薬と6価クロムとの反応が飽和状態に達すると、吸光度は一定となる。この吸光度の変化は飽和判定部26により監視されており、吸光度が所定の時間だけ一定になると、飽和判定部26から飽和状態であるという判定結果が出力される(飽和判定工程:S16)。そして、光度計8により吸光度が測定され、濃度演算部24により6価クロム濃度が算出される(濃度算出工程:S17)。
【0028】
この6価クロム濃度の算出値に対して、補正部25により補正がなされる(補正工程:S18)。ここで、6価クロム濃度の算出値に対して補正を施す必要性およびその詳細について説明する。
蒸留水9は、6価クロムの溶出を促進するために、供給される前は蒸留水加熱供給装置5により加熱されており、また試験槽1に供給された後は加熱撹拌装置4により加熱されている。このため、蒸留水9の温度変化は小さい。
しかしながら、ネジ2の重量が大きい場合、常温であるネジ2により加熱された蒸留水9から多くの熱エネルギーが奪われる。このため、蒸留水9の温度が低下し、6価クロムの溶出が促進されずに、6価クロムの濃度を正確に測定することができない。蒸留水9の温度低下が著しい場合、加熱撹拌装置4により試験槽1が加熱されても、蒸留水9の温度低下は避けられない。
そこで、本発明に係る測定方法では、補正部25の補正情報選択部25aにより複数の測定対象物から特定情報に対応する補正情報が選択される(補正情報選択工程)。本実施形態では、例えば特定情報〈4〉に対応する補正情報〈4〉が選択される。ここで、この補正情報に含まれる補正係数は、例えば、実験などにより求められた関係であって、測定対象物の総重量と6価クロム濃度の算出値との関係に基づいて決定された数値である。選択された補正情報〈4〉の補正係数が補正演算部25bにより6価クロム濃度の算出値に乗じられ、6価クロム濃度の補正値が求められる(補正演算工程)。最終的に、この補正値が6価クロム濃度の測定値となり、表示装置40に表示され(S19)、ネジ2に対する6価クロム濃度の測定が終了する。
【0029】
(3)作用効果
この測定装置50および測定方法により得られる作用効果を以下にまとめる。
1)情報決定部(情報決定工程)により得られる作用効果
この測定装置50では、入力装置30を介して作業者によりネジ2の特定情報が入力されると、情報取得部21によりネジ2の種類を特定するための特定情報が取得され、情報決定部22によりこの特定情報に基づいて測定対象物の必要数量が決定される。このため、試験槽1の容量とのバランスを保ちつつ、必要となる表面積が確実に確保できるネジ2の数量を、ネジ2の種類に応じて容易にかつ迅速に決定することができる。これにより、この測定装置50では、測定対象物の種類が多い場合であっても、測定対象物の種類に応じた必要数量を容易かつ迅速に求めることができ、測定時間の短縮を図ることができる。
2)補正部(補正工程)により得られる作用効果
この測定装置50では、測定対象物の種類に応じて6価クロム濃度の算出量が補正部25により補正される。具体的には、情報取得部21により取得された特定情報に基づいて、補正情報選択部25aによりこの特定情報に対応する補正情報が参照情報から選択される。このため、ネジ2により蒸留水9の温度が低下しても、6価クロムの溶出値を正確に測定することができる。
【0030】
3)排出装置(排出工程)により得られる作用効果
この測定装置50では、試験槽1に収容されたネジ2を第1電磁石12および第2電磁石13の磁気的吸引力を利用して取り出すことができる。これにより、測定対象部の取り出す作業の労力および時間を削減することができるとともに、測定対象物の取り出し作業の自動化を容易に実現することができる。
4)飽和判定部(飽和判定工程)により得られる作用効果
この測定装置50では、光度計8により測定される吸光度の経時的変化を飽和判定部26により監視することで、6価クロムと試薬との反応が飽和しているか否かを判定することができる。これに容易にかつ迅速に最適な測定時期を把握することができ、測定時間の短縮および測定精度の向上を図ることができる。
5)水溶性カプセル(水溶性カプセル投入工程)により得られる作用効果
この測定装置50では、カプセルに試薬が予め封入された水溶性カプセル17を用いているため、試薬の取り扱いが容易となる。また、試薬の量は水溶性カプセル17の数量で調節できるため、試薬の量の調節が容易となる。
6)超音波振動装置(超音波振動工程)により得られる作用効果
この測定装置50では、超音波振動装置6により蒸留水9に振動が与えられる。このため、測定対象物からの6価クロムの溶出が促進されるとともに、蒸留水9に溶出した6価クロムを均一に拡散させることが可能となる。これにより、より正確な6価クロム濃度の測定値が得られる。
【0031】
7)撹拌子(撹拌工程)により得られる作用効果
この測定装置50では、加熱撹拌装置4により撹拌子3が回転駆動されるため、蒸留水9に溶出した6価クロムが蒸留水9全体に広がり、6価クロムの濃度がほぼ均一となる。これにより、より正確な6価クロム濃度の測定値が得られる。
以上に述べたように、本発明に係る測定装置50および測定方法では、測定時間を短縮できるとともに測定作業の労力を軽減できるため、検査コストの低減および測定精度の向上を図ることができる。
〔他の実施形態〕
本発明の具体的な構成は、前述の実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更および修正が可能である。
例えば、前述の実施形態では、ネジを測定対象物としているが、これに限定されず、酸化クロメート処理された金属製の部品であれば、他の部品(例えばボルト、ナットなど)であってもよい。
また、前述の実施形態では、参照情報が図4に示すようなデータ構造を有しているが、これに限定されない。前述の実施形態と同様の作用効果が得られるものであれば、参照情報のデータ構造が他の構成であってもよい。例えば、前述の実施形態では、補正係数は特定情報ごとに予め算出されているが、例えば、図7に示すように、単位重量当たりの表面積を基準値として、その基準値に対応する数種類の補正係数を予め参照情報格納部127に格納しておき、測定対象物の表面積および重量から算出された単位重量当たりの表面積に対応する補正係数を参照情報から選択する方式を採用してもよい。
【0032】
また、前述の実施形態では、ネジ2を取り出した後に水溶性カプセル17を試験槽1に投入しているが、これに限定されない。例えば、ネジ2を試験槽1にセットする際に水溶性カプセル17が同時に投入されてもよい。この場合、水溶性カプセル17を途中で投入する工程が省略されるため、測定時間をより短縮することができる。なお、この場合は、試薬が溶け始めるタイミングを考慮して、前述の実施形態よりも水溶性カプセル17のカプセル部分を厚くしておく必要がある。
また、前述の実施形態では、光度計8により測定された吸光度が飽和判定部26により監視されているが、濃度演算部24による算出値を監視することで飽和状態の判定が行われてもよい。
さらに、試験に使用した液体には、6価クロムが含まれるため、化学的処理により無害化する必要がある。従って、試験が終了した後、試験槽1に残っている液体を自動的に使用済み蒸留水回収容器(図示せず)に回収する機構を有していてもよい。また、一度試験に使用した試験槽1を新しい試験槽に取り替える機構、さらには図8に示すように、新しい試験槽1をストックする未使用の試験槽収納容器18および試験に使用した試験槽を回収しストックする試験槽回収容器19を設けることで、連続的に試験を実施することを可能としてもよい。
なお、前述の各数値は一例であり、これに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る6価クロム濃度の測定装置および測定方法は、前述のように測定時間を短縮することができるため、ヨーロッパに輸出される製品に使用されるネジなどの部品の検査を実施するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態に係る測定装置の概略構成図の一例。
【図2】排出装置の概略構成図の一例。
【図3】制御装置の概略構成図の一例。
【図4】参照情報の概略構成図の一例。
【図5】本発明の第1実施形態に係る測定方法のフロー図の一例。
【図6】排出装置の動作説明図。
【図7】他の実施形態に係る参照情報の概略構成図の一例。
【図8】他の実施形態に係る測定装置。
【図9】従来の測定方法のフロー図。
【符号の説明】
【0035】
1 試験槽
2 ネジ(測定対象物)
3 撹拌子
4 加熱撹拌装置
5 蒸留水加熱供給装置
6 超音波振動装置
7 光源
8 光度計(光度測定部)
9 蒸留水(抽出液)
11 排出装置
12 第1電磁石(磁力発生部)
13 第2電磁石(磁力発生部)
20 制御装置
21 情報取得部
22 情報決定部
22a 対象物情報選択部
22b 量演算部
22c 液量演算部
23 駆動制御部
24 濃度演算部
25 補正部
25a 補正情報選択部
25b 補正演算部
26 飽和判定部
27 参照情報格納部
30 入力装置
40 表示装置(表示部)
50 測定装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置であって、
前記測定対象物の種類を特定するための特定情報を取得する情報取得部と、
前記取得された特定情報に基づいて、前記測定対象物の必要数量を決定する情報決定部と、
前記測定対象物および抽出液を収容する試験槽と、
前記試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する光源と、
前記試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定部と、
前記光度測定部により測定された吸光度から、前記抽出液中の6価クロム濃度を算出する濃度演算部と、
を備えた6価クロム濃度の測定装置。
【請求項2】
複数の前記特定情報に対応するとともに少なくとも前記測定対象物の表面積を含む複数の対象物情報を参照情報として格納する参照情報格納部をさらに備え、
前記情報決定部は、前記情報取得部により取得された特定情報に対応する前記対象物情報を参照情報から選択する対象物情報選択部と、前記選択された対象物情報に含まれる表面積から前記測定対象物の必要数量を算出する数量演算部と、を有している、
請求項1に記載の6価クロム濃度の測定装置。
【請求項3】
前記情報決定部は、前記選択された対象物情報に含まれる表面積および前記数量演算部により算出された必要数量に基づいて、前記試験槽に供給する抽出液量を決定する液量演算部をさらに備えた、
請求項2に記載の6価クロム濃度の測定装置。
【請求項4】
前記情報決定部により決定された前記測定対象物の必要数量および抽出液量の少なくともいずれか1つを表示する表示部をさらに備えた、
請求項3に記載の6価クロム濃度の測定装置。
【請求項5】
前記取得された特定情報に基づいて、前記濃度演算部により算出された6価クロム濃度の算出値を補正する補正部をさらに備えた、
請求項1から4に記載の6価クロム濃度の測定装置。
【請求項6】
抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置であって、
前記測定対象物の種類を特定するための特定情報を取得する情報取得部と、
前記測定対象物および抽出液を収容する試験槽と、
前記試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する光源と、
前記試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定部と、
前記光度測定部により測定された吸光度から、前記抽出液中の6価クロム濃度を算出する濃度演算部と、
前記取得された特定情報に基づいて、前記濃度演算部により算出された6価クロム濃度の算出値を補正する補正部と、
を備えた6価クロム濃度の測定装置。
【請求項7】
前記参照情報格納部には、前記複数の特定情報に対応する前記6価クロム濃度の算出値の補正情報が参照情報として格納されており、
前記補正部は、前記情報取得部により取得された特定情報に対応する前記補正情報を参照情報から選択する補正情報選択部と、前記選択された補正情報に基づいて前記6価クロム濃度の算出値を補正する補正演算部と、を有している、
請求項5または6に記載の6価クロム濃度の測定装置。
【請求項8】
前記試験槽に収容された前記測定対象物を、磁気的吸引力を利用して取り出す排出部をさらに備えた、
請求項1から7のいずれかに記載の6価クロム濃度の測定装置。
【請求項9】
抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置であって、
前記測定対象物および抽出液を収容する試験槽と、
前記試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する光源と、
前記試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定部と、
前記光度測定部により測定された吸光度から、前記測定対象物から溶出した6価クロム濃度を算出する演算部と、
前記試験槽に収容された前記測定対象物を、磁気的吸引力を利用して取り出す排出部と、
を備えた6価クロム濃度の測定装置。
【請求項10】
前記排出部は、前記試験槽に対して相対移動可能に配置された磁力発生部を有している、
請求項8または9に記載の6価クロム濃度の測定装置。
【請求項11】
前記光度測定部により測定された吸光度の経時的変化に基づいて、前記抽出液中の6価クロム濃度が飽和しているか否かを判定する飽和判定部をさらに備え、
前記濃度演算部は、前記飽和判定部から飽和状態であるという判定結果を得た後に、前記吸光度に基づいて前記測定対象物から溶出した6価クロム濃度を算出する、
請求項1から10のいずれかに記載の6価クロム濃度の測定装置。
【請求項12】
抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置であって、
前記測定対象物および抽出液を収容する試験槽と、
前記試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する光源と、
前記試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定部と、
前記光度測定部により測定された吸光度の経時的変化に基づいて、前記測定対象物から溶出する6価クロムの濃度が飽和しているか否かを判定する飽和判定部と、
前記飽和判定部から飽和状態であるという判定結果を得た後に、前記吸光度に基づいて前記測定対象物から溶出した6価クロム濃度を算出する濃度演算部と、
を備えた6価クロム濃度の測定装置。
【請求項13】
試験槽内の抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置を用いた測定方法であって、
前記測定対象物の種類を特定するための特定情報が取得される情報取得工程と、
前記取得された特定情報に基づいて、前記測定対象物の必要数量が決定される情報決定工程と、
前記試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する照射工程と、
前記試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定工程と、
前記光度測定工程により測定された吸光度から、前記抽出液中の6価クロム濃度を算出する濃度演算工程と、
を含む6価クロム濃度の測定方法。
【請求項14】
前記測定装置は、複数の前記特定情報に対応するとともに少なくとも前記測定対象物の表面積を含む複数の対象物情報を参照情報として格納する参照情報格納部をさらに備え、
前記情報決定工程は、前記情報取得工程により取得された特定情報に対応する前記対象物情報を参照情報から選択する対象物情報選択工程と、前記選択された対象物情報に含まれる表面積から前記測定対象物の必要数量を算出する数量演算工程と、を有している、
請求項13に記載の6価クロム濃度の測定方法。
【請求項15】
前記情報決定工程は、前記選択された対象物情報に含まれる表面積および前記数量演算工程により算出された必要数量に基づいて、前記試験槽に供給する抽出液量を決定する液量演算工程をさらに含む、
請求項14に記載の6価クロム濃度の測定方法。
【請求項16】
前記情報決定工程により決定された前記測定対象物の必要数量および抽出液量の少なくともいずれか1つを表示する表示工程をさらに含む、
請求項15に記載の6価クロム濃度の測定方法。
【請求項17】
前記取得された特定情報に基づいて、前記濃度演算工程により算出された6価クロム濃度の算出値を補正する補正工程をさらに含む、
請求項13から16に記載の6価クロム濃度の測定方法。
【請求項18】
試験槽内の抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置を用いた測定方法であって、
前記測定対象物の種類を特定するための特定情報を取得する情報取得工程と、
前記試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する照射工程と、
前記試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定工程と、
前記光度測定工程により測定された吸光度から、前記抽出液中の6価クロム濃度を算出する濃度演算工程と、
前記取得された特定情報に基づいて、前記濃度演算工程により算出された6価クロム濃度の算出値を補正する補正工程と、
を含む6価クロム濃度の測定方法。
【請求項19】
前記参照情報格納部には、前記複数の特定情報に対応する前記6価クロム濃度の算出値の補正情報が参照情報として格納されており、
前記補正工程は、前記情報取得工程により取得された特定情報に対応する前記補正情報を参照情報から選択する補正情報選択工程と、前記選択された補正情報に基づいて前記6価クロム濃度の算出値を補正する補正演算工程と、を含む、
請求項17または18に記載の6価クロム濃度の測定方法。
【請求項20】
前記試験槽に収容された前記測定対象物を、磁気的吸引力を利用して取り出す排出工程をさらに含む、
請求項13から19のいずれかに記載の6価クロム濃度の測定方法。
【請求項21】
試験槽内の抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置を用いた測定方法であって、
前記試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する照射工程と、
前記試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定工程と、
前記光度測定工程により測定された吸光度から、前記測定対象物から溶出した6価クロム濃度を算出する演算工程と、
前記試験槽に収容された前記測定対象物を、磁気的吸引力を利用して取り出す排出工程と、
を備えた6価クロム濃度の測定方法。
【請求項22】
前記排出部は、前記試験槽に対して相対移動可能に配置された磁力発生部を有している、
請求項20または21に記載の6価クロム濃度の測定方法。
【請求項23】
前記測定装置は、前記光度測定工程により測定された吸光度の経時的変化に基づいて、前記抽出液中の6価クロム濃度が飽和しているか否かを判定する飽和判定部をさらに備え、
前記濃度演算工程は、前記飽和判定部から飽和状態であるという判定結果を得た後に、前記吸光度に基づいて前記測定対象物から溶出した6価クロム濃度を算出する、
請求項13から22のいずれかに記載の6価クロム濃度の測定方法。
【請求項24】
試験槽内の抽出液に浸漬された少なくとも1つの測定対象物から溶出する6価クロムの濃度を測定する測定装置を用いた測定方法であって、
前記試験槽内の抽出液に対して測定光を照射する照射工程と、
前記試験槽内の抽出液を透過する透過光から吸光度を測定する光度測定工程と、
前記光度測定工程により測定された吸光度の経時的変化に基づいて、前記測定対象物から溶出する6価クロムの濃度が飽和しているか否かを判定する飽和判定工程と、
前記飽和判定部から飽和状態であるという判定結果を得た後に、前記吸光度に基づいて前記測定対象物から溶出した6価クロム濃度を算出する濃度演算工程と、
を備えた6価クロム濃度の測定方法。
【請求項25】
前記照射工程の前に、6価クロム濃度に応じて変色する試薬が封入された水溶性カプセルが前記試験槽内に投入されるカプセル投入工程をさらに含む、
請求項13から24に記載の6価クロム濃度の測定方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−8722(P2008−8722A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178602(P2006−178602)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】