説明

6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の製造方法

【課題】6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を有する芳香族ポリエステル廃棄物から、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を回収する方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分100〜1mol%及び他のジカルボン酸成分0〜99mol%とアルキレングリコール成分とからなるポリエステルから下記(a)及び(b)の各工程を逐次的に通過させて、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩を回収する。


(a):ポリエステルをアルカリ(土類)金属の水酸化物、アルカリ(土類)金属の炭酸塩などの群より選ばれた少なくとも1種の金属化合物と水またはグリコールの共存下で反応させる反応工程(b):工程(a)での反応生成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を回収する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分100〜1モル%及び他のジカルボン酸成分0〜99モル%とアルキレングリコール成分とからなるポリエステルから6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートといったポリエステルは優れた耐熱性や物理的特性を有することから幅広く使用されてきているが、市場はさらなる高性能化が求められている。ここで、前述のポリエステルよりも更に高性能のポリエステルとして、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸のエステル化合物であるジエチル6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートから得られる芳香族ポリエステル樹脂が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照。)。これらのポリエステル樹脂は非常に優れた機能性を有するが、その原料はテレフタル酸やナフタレンジカルボン酸(ジメチルエステル体も含む)に比べて、非常に高価である。加えて、このポリエステル樹脂は、その重合工程、あるいは糸状、フィルム状に成形する加工工程において不良品、屑等が発生しやすいことなどから、これらの不良品や屑、さらには使用後の製品(これらを総称して、単にポリエステル廃棄物と略称することもある。)を回収し、再利用することが経済的に好ましい。6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分100〜1mol%及び他のジカルボン酸成分0〜99mol%とアルキレングリコール成分とからなる共重合ポリエステルから6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の誘導体を回収する方法については、エチレングリコールを用いて解重合し、次いで得られた解重合物をメタノールを用いてエステル交換反応をして得られる反応生成物を順に再結晶および/または蒸留精製する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。一方、ポリエステルを回収し再利用する方法としては、ポリエステルを水またはグリコール溶媒共存下で、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物と反応した後に酸と反応してジカルボン酸を回収する方法が知られている(例えば、特許文献6〜7参照。)や、ポリエステルをグリコール溶媒共存下で、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物と反応した後に重縮合をすることで再度ポリエステルを生成する方法が知られている(例えば、特許文献8参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭61−145724号公報
【特許文献4】特開平06−145323号公報
【特許文献5】特開2009−143829号公報
【特許文献6】特表平08−509023号公報
【特許文献7】特開平11−021374号公報
【特許文献8】特開2007−153942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景技術を鑑みなされたもので、その目的は6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分100〜1mol%及び他のジカルボン酸成分0〜99mol%とアルキレングリコール成分とからなるポリエステルからポリエステルを構成するモノマーである6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を固液分離により高収率、高純度にて回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らの研究によれば、下記式(1)で表される6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分100〜1mol%及び他のジカルボン酸成分0〜99mol%とアルキレングリコール成分とからなるポリエステルからポリエステルを構成するモノマーである6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を製造するに際し、下記工程(a)、(b):
工程(a):前記ポリエステルをアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の有機酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩およびアルカリ土類金属の有機酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属化合物とを水またはグリコールの共存下で反応させる反応工程
工程(b):工程(a)での反応生成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を回収する工程、好ましくは前記工程(b)において反応生成物を固体成分と液体成分とに固液分離し、固体成分として6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を回収する工程
に順次供することを特徴とする6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の製造方法により、上記目的が達成できることが見出された。
【0006】
【化1】

【発明の効果】
【0007】
本発明の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩の製造方法によれば、溶解度差を利用した固液分離により固体側で6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を、液体側でその他ジカルボン酸の金属塩を回収することが可能であることから、容易に固体側で6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を回収することが可能となる。さらに6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩は溶媒に対する溶解度が低いことから、高収率での回収も可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について1例を用いて説明するが、本発明は、この例に限定されるものではない。本発明に従う製造方法を実行するためには、まず、上記式(1)で表される6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分100〜1mol%及び他のジカルボン酸成分0〜99mol%とアルキレングリコール成分とからなるポリエステルをアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の有機酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩およびアルカリ土類金属の有機酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属化合物とを水またはグリコールの共存下で反応させる、すなわちアルカリ分解反応を行う。アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、トリブチレングリコールが好ましく、エチレングリコールがより好ましい。なお、有機酸塩の例としては酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩などが挙げられる。当該ポリエステルには他のジカルボン酸またはグリコールその他のジオール化合物が共重合されていても良い。他のジカルボン酸成分の例としては、イソフタル酸、テレフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸が、他のジヒドロキシ成分としては、ジヒドロキシシクロヘキサン、シクロヘキサンジメタノール、ジヒドロキシデカリン、p−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、2,2−(β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−(β−ヒドロキシエトキシエトキシフェニル)プロパン、(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホンなどが挙げられる。より好ましくは他のジカルボン酸成分としてイソフタル酸、テレフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種のジカルボン酸である事である。
【0009】
ポリエステルと反応させる金属化合物としては、経済性の観点からナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウムが挙げられ、特に好ましくは水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムである。これは他の金属化合物と比較して単価が安いことおよび短時間で反応が進行するためである。なお、これらの金属化合物の使用量としては、ポリエステルの繰り返し単位構造に対し、2〜10mol倍とすることが好ましく、特に好ましくは3〜6mol倍である。これは、2mol倍未満の場合であると、ポリエステルの繰り返し単位構造中の全てのカルボキシル基と反応できないことため、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の生成量が減少するため好ましくない。また10mol倍を超える金属化合物を使用しても反応時間が変わらず、経済性の観点から金属化合物の使用量減少させたいため、金属化合物の使用量は10mol倍以下が好ましい。他の金属化合物としてリチウム、ルビジウム、セシウム、ストロンチウム、バリウムを含む化合物、具体的には水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸リチウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸リチウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム等を併用しても良い。
【0010】
アルカリ分解反応時に使用する溶媒としては、経済性および反応性の観点から水またはグリコールが好ましく、特に好ましくは水またはエチレングリコールである。これは6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の水及びエチレングリコールに対する溶解度が0.1重量%〜1重量%の範囲であることから、固体成分として6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩が多く回収できるためである。なお、溶媒の重量はポリエステルの重量に対し、操作性及び経済性の観点から1〜100重量倍であることが好ましく、特に好ましくは2〜50重量倍である。これは、1重量倍未満の場合であると、反応の操作性が悪化し反応時間が長くなってしまうため好ましくない。また100重量倍を超える溶媒を使用すると固体として6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩が回収できなくなるため好ましくない。反応温度は100〜300℃、特に150〜200℃の範囲で行うことが好ましく、その際の反応容器内のゲージ圧力は0.0〜2.0MPa、特に0.0〜1.5MPaの範囲であることが好ましい。これは6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分100〜1mol%及び他のジカルボン酸成分0〜99mol%とアルキレングリコール成分とからなるポリエステルの融点が高いため、100℃以下の場合であるとポリエステルの融点以下であり、反応が進行しないためである。また、温度を300℃以上に上げると溶媒の蒸気圧より反応容器内のゲージ圧力が上昇するため、設備面、安全面の観点から好ましくない。
【0011】
次に、上述の操作により得られたポリエステルと金属化合物とを水またはグリコール溶媒の共存下で反応させた反応生成物から目的とする6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を得る。好ましい操作を以下に示す。上述の操作により得られたポリエステルと金属化合物とを水またはグリコール溶媒の共存下で反応させた反応生成物を室温近くの温度まで冷却すると溶解していた成分が固体成分として、析出する。その後固体成分と液体成分とに固液分離する。なお、反応生成物の液体成分の量は、ポリエステルに対して1〜30重量倍、特に2〜20重量倍が好ましい。これは1重量倍以下の場合であると固液分離の操作性が悪化すること、30重量倍以上であると6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩が溶媒に対して溶解することで収率が低下するためである。液体成分の量を1〜30重量倍の範囲にするために、必要であれば溶媒を蒸発させることがこのましい。また、反応生成物のpHは、11.0以上、特に13.0以上であることが好ましい。これは、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ナトリウム塩の場合を例にすると、その溶解度はpH7.0ではエチレングリコールの場合0.93重量%、水の場合0.16重量%であったのが、pH13.5ではエチレングリコールの場合0.03重量%、水の場合0.01重量%未満であることから、pHが上がることで固体として回収できる6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の量が増加し、収率が上がるためである。
【0012】
さらに固液分離を実施する時の反応生成物の液体温度は0〜50℃、特に0〜30℃が好ましい。これは6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ナトリウム塩の場合を例にすると、その溶解度は30℃ではエチレングリコールの場合0.93重量%、水の場合0.16重量%であったのが、50℃ではエチレングリコールの場合3.02重量%、水の場合0.74重量%であることからであることから、温度が上昇するにつれて溶解度が上昇するため固体として回収できる6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩が減少し、収率が低下するためである。
【0013】
固液分離の方法としては、固体成分と液体成分に分離できれば公知の条件のいずれを採用してもかまわない。固液分離の例としては、ろ過や遠心分離などが挙げられる。固液分離により得られた固体成分には液体成分や不純物が含まれていることがあるので、洗浄することが好ましい。洗浄に使用する溶媒としては、水、グリコールまたはアルカリ性の溶媒が好ましく、特に好ましくは水またはアルカリ性の溶媒である。これは水に対する6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の溶解度がグリコールよりも低いこと、pHが高くなるにつれて6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の溶解度が低いことが起因している。なお、洗浄に使用する水またはグリコール溶媒の重量としては得られた6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の重量に対し1〜1000重量倍、特に10〜100重量倍とすることが好ましい。これは1重量倍以下であると、得られた固体成分から不純物を十分に除去できないこと、1000重量倍以上になると固体成分として回収した6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩が洗浄に使用する溶媒に溶けてしまい収率が低下する可能性があることに起因している。これらの操作を実施することにより、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分100〜1mol%及び他のジカルボン酸成分0〜99mol%とアルキレングリコール成分とからなるポリエステルから6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩を固体として回収することが可能となる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0015】
[実施例1]
共重合ポリエステルとして、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が70mol%、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が30mol%であり、アルキレングリコールとしてエチレングリコールを用いて重合したポリマー(以下、ポリマーAと略記することもある)チップ20.0g(共重合ポリエステルの繰り返し単位構造0.0537mol分を有する)に、水酸化ナトリウム12.4gならびにエチレングリコール200gを加え、攪拌付きセパラブルフラスコにて190〜200℃、常圧の条件下、3時間反応させ反応生成物を得た(得られた反応生成物のうち液体成分は228.6gであった)。得られた反応生成物のpHを測定したところ13であった。反応終了後、放冷してプロダクトの温度を30℃とした後、ろ過により固液分離し、固体成分(a)と濾液とをそれぞれ得た。その後、固体成分(a)と純水50gと混合し、再度ろ過により固液分離し、同様の操作を3回実施することで固体成分(b)と濾液とをそれぞれ得た。このケーク(b)を90〜100℃のスチーム乾燥機にて1日乾燥させたところ、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ナトリウム塩を主成分とする物質を15.90g(回収率:95.0%)回収できた。
【0016】
[実施例2]
実施例1において、使用した金属化合物を水酸化カリウムとし、かつポリマーAのチップ量を50g(共重合ポリエステルの繰り返し単位構造0.134mol分を有する)、水酸化カリウム量を30gとしたことを除き、その他は実施例1と同様の反応操作を行った。得られた反応生成物(得られた反応生成物のうち液体成分は247.2gであった)を固液分離し、その他は実施例1と同様の回収操作を行ったところ、ケーク(b)として6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸カリウム塩を主成分とする物質を31.63g(回収率:70.5%)回収できた。
【0017】
[実施例3]
共重合ポリエステルとして、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が15mol%、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が85mol%であり、アルキレングリコールとしてエチレングリコールを用いて重合したポリマー(以下、ポリマーBと略記することもある)フィルム20.0g(共重合ポリエステルの繰り返し単位構造0.0741mol分を有する)に、水酸化ナトリウム11.9gならびにエチレングリコール200gを加え、攪拌付きセパラブルフラスコにて190〜200℃、常圧の条件下、3時間反応させ反応生成物を得た(得られた反応生成物のうち液体成分は232.5gであった)。得られた反応生成物のpHを測定したところ13.5であった。反応終了後、放冷してプロダクトの温度を30℃とした後、ろ過により固液分離し、固体成分(a)と濾液とをそれぞれ得た。その後、固体成分(a)と純水50gと混合し、再度ろ過により固液分離し、同様の操作を3回実施することで固体成分(b)と濾液とをそれぞれ得た。このケーク(b)を90〜100℃のスチーム乾燥機にて1日乾燥させたところ、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ナトリウム塩を主成分とする物質を4.74g(回収率:94.9%)回収できた。
【0018】
[実施例4]
実施例3において、使用した水酸化ナトリウム量を8.9gとしたことを除き、その他は実施例3と同様の反応操作を行った。得られた反応生成物(得られた反応生成物のうち液体成分は246.5gであった)を固液分離し、その他は実施例3と同様の回収操作を行ったところ、ケーク(b)として6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ナトリウム塩を主成分とする物質を4.92g(回収率:98.4%)回収できた。
【0019】
[実施例5]
ポリマーBフィルム20.0g(共重合ポリエステルの繰り返し単位構造0.0741mol分を有する)に、水酸化ナトリウム11.9gならびに水200gを加え、攪拌付きオートクレーブにて190〜200℃、1.2〜1.6MPaの条件下、3時間反応させ反応生成物を得た(得られた反応生成物のうち液体成分は247.1gであった)。得られた反応生成物のpHを測定したところ13であった。反応終了後、放冷してプロダクトの温度を30℃とした後、ろ過により固液分離し、固体成分(a)と濾液とをそれぞれ得た。その後、固体成分(a)と純水50gと混合し、再度ろ過により固液分離し、同様の操作を3回実施することで固体成分(b)と濾液とをそれぞれ得た。このケーク(b)を90〜100℃のスチーム乾燥機にて1日乾燥させたところ、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ナトリウム塩を主成分とする物質を4.96g(回収率:99.1%)回収できた。
【0020】
[実施例6]
実施例5において、使用した水酸化ナトリウム量を6.0gとしたことを除き、その他は実施例5と同様の反応操作を行った。得られた反応生成物(得られた反応生成物のうち液体成分は245.4gであった)を固液分離し、その他は実施例5と同様の回収操作を行ったところ、ケーク(b)として6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ナトリウム塩を主成分とする物質を4.95g(回収率:99.0%)回収できた。
【0021】
[実施例7]
実施例5において、使用した金属化合物を水酸化カリウムとし、かつ水酸化カリウム量を8.3gとしたことを除き、その他は実施例5と同様の反応操作を行った。得られた反応生成物(得られた反応生成物のうち液体成分は243.8gであった)を固液分離し、その他は実施例5と同様の回収操作を行ったところ、ケーク(b)として6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸カリウム塩を主成分とする物質を4.03g(回収率:75.3%)回収できた。
【0022】
[参考例]
以下、実験条件の決定の基礎となった6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ナトリウム塩の溶解度について表1に示した。なおこの溶解度は所定の溶媒、pH、温度における溶質の最大溶解可能な質量を重量%で表記したものである。
【0023】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のポリエステル廃棄物から有効成分を回収する方法によれば、非常に高価で、工業上価値のある6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩を高い収率で回収するだけでなく、含まれている他のカルボン酸類と効率的に分離できるので、低エネルギー負荷にて実施するが可能となる。これらの効果により、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分100〜1モル%及び他のジカルボン酸成分0〜99%とアルキレングリコール成分とからなるポリエステルから6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩を固体成分として安定して回収することができる。その6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸をジカルボン酸成分とするポリエステルの原料として有効に使用することができる。この点において工業面で非常に有意義である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分100〜1mol%及び他のジカルボン酸成分0〜99mol%とアルキレングリコール成分とからなるポリエステルから下記(a)及び(b)の各工程を逐次的に通過させることによる、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の製造方法。
【化1】

工程(a):前記ポリエステルをアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の有機酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩およびアルカリ土類金属の有機酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属化合物と水またはグリコールの共存下で反応させる反応工程。
工程(b):工程(a)での反応生成物から6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を回収する工程。
【請求項2】
前記工程(b)において反応生成物を固体成分と液体成分とに固液分離し、固体成分として6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の金属塩を回収する請求項1に記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)において用いられる金属化合物の量が、ポリエステルの繰り返し単位構造に対し、2〜10mol倍であり、かつ使用する水またはグリコールの重量がポリエステルの重量に対し、1〜100重量倍であることを特徴とする請求項1または2記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の製造方法。
【請求項4】
前記工程(a)において用いられる金属化合物が、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の製造方法。
【請求項5】
前期工程(b)において固液分離を実施する反応生成物の液体成分の量が前記ポリエステルに対して1〜30重量倍であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の製造方法。
【請求項6】
前期工程(b)において固液分離を実施する時の反応生成物の液体温度が0〜50℃であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の製造方法。
【請求項7】
他のジカルボン酸成分が、イソフタル酸、テレフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種のジカルボン酸であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の製造方法。
【請求項8】
さらに前記工程(b)で得られた固体成分に対して水またはグリコールによる洗浄操作を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の製造方法。
【請求項9】
前記工程(b)で得られた固体成分の洗浄に用いられる水またはグリコールの重量が得られた6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の重量に対し、1〜1000重量倍であることを特徴とする請求項8に記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸金属塩の製造方法。

【公開番号】特開2012−140344(P2012−140344A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292554(P2010−292554)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】