説明

6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法

【課題】アルカリ金属含有量の少ない、高純度の6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法を提供すること。
【解決手段】6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩の重量に対して2〜50倍重量の水と混合して混合液を提供すること、および、該混合液のpHを1.5〜4.5の範囲に保持することを含む、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属含有量の少ない、高純度の6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸(以下EBNAとも称する)や、そのエステル誘導体は、高性能ポリエステルの製造原料として重要な化合物である(特許文献1および2を参照)。
【0003】
EBNAの製造方法としては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩と1,2−ジハロゲン化エタンを反応させ、EBNAのアルカリ金属塩を製造し、次いで、水やエチレングリコールなどの溶媒中でEBNAのアルカリ金属塩を所定量の酸と混合した後に、pHを調整することなく反応させる方法(特許文献3)が知られている。
【0004】
また別の方法としては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸エステルのアルカリ金属塩と1,2−ジハロゲン化エタンを反応させ、EBNAエステルを製造した後に、これを水とジオキサンの混合溶媒中で水酸化ナトリウムにより加水分解した後に、硫酸水と混合して反応させる方法(特許文献4)が知られている。
【0005】
しかし、これらいずれの方法においても、水やエチレングリコールなどの溶媒中ではEBNAのアルカリ金属塩の溶解度が非常に低いために、酸と完全に反応しにくく、生成物中にアルカリ金属が含まれやすいという問題がある。
【0006】
アルカリ金属はポリエステル製造において触媒として作用するものであり、重合反応を制御するために、ポリエステル原料中のアルカリ金属含有量は極めて少ないことが要求されている。このため、アルカリ金属含有量の少ない、高純度のEBNAの製造方法の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭62−89641号公報
【特許文献4】特開昭60−215648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アルカリ金属含有量の少ない、高純度の6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩の重量に対して2〜50倍重量の水と混合して混合液を提供すること、および、該混合液のpHを1.5〜4.5の範囲に保持することを含む、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法を提供する。
【0009】
本発明において用いる、EBNAのアルカリ金属塩は、EBNAのモノアルカリ金属塩、ジアルカリ金属塩、またはこれらの混合物の何れであってもよい。
【0010】
本発明において用いる、EBNAのアルカリ金属塩の例としては、ナトリウム塩またはカリウム塩が挙げられる。好ましくは、EBNAのアルカリ金属塩は、カリウムおよびナトリウムの含有量の合計量に対してカリウムを80重量%以上含有するものである。EBNAのアルカリ金属塩はカリウム塩であるのが特に好ましい。
【0011】
本発明において用いる、EBNAのアルカリ金属塩の製造方法は特に限定されないが、例えば、特開昭62−89641号公報に記載の方法により製造すればよい。
【0012】
具体的には、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩と、1,2−ジクロロエタンなどの1,2−ジハロゲン化エタンを、水、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミドなどの溶媒中で反応させて、EBNAのアルカリ金属塩を調製すればよい。このとき、EBNAのアルカリ金属塩は、通常、モノアルカリ金属塩とジアルカリ金属塩の混合物として得られる。
【0013】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のジアルカリ金属塩と1,2−ジハロゲン化エタンを反応させる温度は、反応が良好に進行する限り特に制限されないが、50〜250℃で行うのが好ましい。
【0014】
上記の方法により製造されたEBNAのアルカリ金属塩は、反応液から、遠心分離、フィルタープレスなどの常法により分離された後に、所望により乾燥され、本発明の方法の原料として使用される。
【0015】
本発明において、EBNAのアルカリ金属塩と混合される水の量は、EBNAのアルカリ金属塩の乾燥重量に対して、2〜50倍重量が好ましく、3〜30倍重量がより好ましく、4〜20倍重量が特に好ましい。
【0016】
水の量が2倍重量よりも少ない場合は、撹拌が困難となり、得られるEBNAのアルカリ金属含有量が高くなる傾向がある。水の量が50倍重量を超える場合でも、本発明の方法を実施することは可能であるが、装置の容積の利用効率などを考慮するとコスト面で問題がある。
【0017】
上記方法により調製された、EBNAのアルカリ金属塩と水の混合液は、次いでpHを1.5〜4.5に保持する工程(以下pH保持工程と称する)に供される。好ましくは、pH保持工程において、pHは3.0〜4.0の範囲に保持する。
【0018】
ここで、pH保持工程とは、塩基性を示すEBNAのアルカリ金属塩と水の混合液に対し、pHが1.5より低い値となることのないよう、徐々に酸を添加してEBNAのアルカリ金属塩と水の混合液のpHを1.5〜4.5の範囲に調整した後、適宜酸を添加することにより、EBNAのアルカリ金属塩と水の混合液のpHを1.5〜4.5の範囲に保持する工程をいう。
【0019】
pH保持工程においてpH値が1.5よりも低くなると、得られるEBNAのアルカリ金属の含有量が高くなる傾向があり、また、pH保持工程に使用する装置が腐食しやすいという問題がある。
【0020】
pH保持工程おいてpH値が4.5よりも高くなると、得られるEBNAのアルカリ金属の含有量が高くなる傾向があり好ましくない。
【0021】
EBNAのアルカリ金属塩の懸濁液のpHを1.5〜4.5に調整するために使用する酸の例としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの無機酸や、酢酸、プロピオン酸、蟻酸、安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などの有機酸が挙げられる。これらの酸の中では、硫酸を単独で用いるのが特に好ましい。
【0022】
pH保持工程において、pH値が所定の値より低くならないように、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの塩基性化合物を、所定のpH範囲に保持するために添加してもよい。
【0023】
pH保持工程の温度としては、0〜300℃が好ましく、10〜200℃がより好ましく、20〜120℃が特に好ましく、30〜100℃が最も好ましい。pH保持工程の温度が、溶媒の沸点を超える場合は、耐圧装置を用いてpH保持工程を行えばよい。
【0024】
pH保持工程の温度が0℃よりも低い場合には、冷却媒体の冷却に多大なエネルギーを要する問題があり、300℃を超える場合には、EBNAが熱分解しやすくなるなどの問題がある。
【0025】
pH保持工程は空気中で行ってもよいが、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うのがより好ましい。
【0026】
pH保持工程は、大気圧下、減圧下、加圧下の何れの条件においても実施することが出来るが、耐圧反応装置や、真空ポンプなどの減圧装置などを要しない点で、大気圧下で行うのが特に好ましい。
【0027】
pH保持工程での保持時間は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、3〜20時間が好ましく、3〜15時間がより好ましく、3〜10時間が特に好ましい。
【0028】
このようにしてpH保持工程に供することにより、EBNAの懸濁液が得られる。
本発明において、EBNAのアルカリ金属塩が、十分にEBNAへ変換されたことは、反応液の試料を一部採取し、析出物をろ過、乾燥した後に、アルカリ金属の含有量を測定することにより確認することが出来る。
【0029】
得られた懸濁液から、遠心分離、フィルタープレスなどの常法により、EBNAを回収し、所望により、水またはメタノールなどの有機溶媒により洗浄した後に乾燥することにより、カリウムおよびナトリウム含有量の少ない、高純度のEBNAが得られる。
【0030】
本発明の方法により得られるEBNAはカリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の含有量が少ないため、高性能ポリエステルの製造原料として好適に使用される。
【0031】
好ましくは、本発明の方法により得られるEBNAはカリウムおよびナトリウムの含有量の合計が300質量ppm以下である。
【0032】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0033】
〔参考例〕
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ジカリウム塩150モルを含む水溶液140kgとジクロロエタン7.4kg(75モル)を、容量190Lの攪拌機を備えた耐圧容器に仕込んだ。耐圧容器を密閉した後、攪拌下に反応液を140〜150℃に昇温し、同温度にて1時間反応した。
【0034】
反応終了後、反応液を30℃まで冷却した後、析出したEBNAのカリウム塩を遠心分離機により回収した。
【0035】
得られたEBNAのカリウム塩のウェットケーキの重量は20.5kgであった。ウェットケーキを80℃で通風乾燥し、EBNAのカリウム塩13.1Kgが得られた。得られたEBNAのカリウム塩のカリウム含有量を下記の方法により測定したところ9.5wt%であり、モノカリウム塩/ジカリウム塩を1.7/8.3の比率で含むものであった。
【0036】
<アルカリ金属含有量測定方法>
白金るつぼにサンプルを精秤し、精密分析用硫酸(和光純薬工業株式会社製)を加えて、焼成し灰化する。灰化サンプルを精密分析用塩酸水溶液(キシダ化学工業株式会社製)にて溶解し、塩化セシウムを添加し、Milli−Q Plus(日本ミリポア株式会社製)により調製した超純水で希釈することにより、サンプルを調製し、原子吸光光度計によりカリウムおよびナトリウムの含有量を測定した。
【0037】
機種:AA−6800 ASC−6100(株式会社島津製作所製)
波長:766.5nm
ランプ:BGC−SR
燃料ガス:アセチレン
助燃ガス:Air
【0038】
実施例1
参考例で得られたEBNAのアルカリ金属塩60gおよび水420gを、容量1Lの攪拌装置、温度計、ジムロート冷却器を備えた四つ口ガラスコルベンに仕込み、90〜95℃に昇温した。
【0039】
同温度にて、攪拌下に70重量%の硫酸水溶液を用いて3時間かけてpH3.0に調整した。次いで、pH3を保つように70重量%の硫酸水溶液を加えながら、6時間還流(100℃)させた。
【0040】
反応液を25℃まで冷却した後に、吸引ろ過により析出物を回収し、イオン交換水240gで洗浄した後に、乾燥し、EBNA54.2gを得た。
【0041】
得られたEBNAのカリウム含有量は187質量ppmであり、ナトリウム含有量は9質量ppmであった。
【0042】
実施例2〜実施例3、および比較例1〜3
保持工程のpHを表1に記載の値に変えることの他は、実施例1と同様の操作を行いEBNAを得た。EBNAの取得量、カリウム含有量、およびナトリウム含有量を表1に記す。
【0043】
比較例4
参考例で得られたEBNAのアルカリ金属塩60gおよび水420gを、容量1Lの攪拌装置、温度計、ジムロート冷却器を備えた四つ口ガラスコルベンに仕込み、90〜95℃に昇温した。
【0044】
同温度にて、攪拌下に70重量%の硫酸水溶液を用いて、速やかにpH1.2に調整した。次いで、pHを調整することなく、3時間還流(100℃)させた。3時間還流した後のpHは2.6であった。
【0045】
3時間還流を行った後、pH2.6を保つように70重量%の硫酸水溶液を加えながら6時間還流(100℃)させた。
【0046】
反応液を25℃まで冷却した後に、吸引ろ過により析出物を回収し、イオン交換水240gで洗浄した後に、乾燥し、EBNAを得た。EBNAの取得量、カリウム含有量、およびナトリウム含有量を表1に記す。
【0047】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩を、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩の重量に対して2〜50倍重量の水と混合して混合液を提供すること、および、該混合液のpHを1.5〜4.5の範囲に保持することを含む、6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法。
【請求項2】
混合液を0〜300℃でpHを1.5〜4.5の範囲に保持する、請求項1に記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法。
【請求項3】
混合液を3〜20時間、pHを1.5〜4.5の範囲に保持する、請求項1または2に記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法。
【請求項4】
混合液のpHを3.0〜4.0の範囲に保持する、請求項1から3いずれかに記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法。
【請求項5】
6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸のアルカリ金属塩が、カリウムおよびナトリウムの含有量の合計量に対してカリウムを80重量%以上含有するものである、請求項1〜4の何れかに記載の6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸の製造方法。
【請求項6】
カリウムおよびナトリウムの含有量の合計が300質量ppm以下である、請求項1〜5のいずれかの方法により得られた6,6’−(エチレンジオキシ)ビス−2−ナフトエ酸。

【公開番号】特開2009−7317(P2009−7317A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172217(P2007−172217)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】