説明

6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体及びその製造方法

【課題】取扱性、作業性などに優れた6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の新規な結晶多形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体であって、粉末X線回折パターンにおいて、(1)16.78°、19.18°、19.58°に回折ピークを有する結晶多形体α、及び(2)17.84°、19.92°、22.92°に回折ピークを有する結晶多形体βは、嵩密度が高く、滑り性に優れるため、取扱性や作業性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取扱性、作業性、保存安定性などに優れた6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の新規な結晶多形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類などのフルオレン骨格を有する化合物は、高屈折率、高耐熱性などの優れた特性を有していることが知られている。例えば、特開2007−99741号公報(特許文献1)には、6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)が開示され、硫酸、β−メルカプトプロピオン酸、及びトルエンの存在下、フルオレノンとβ−ナフトールとを反応させ、この反応混合物にトルエン及び水を加え、さらに水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和した後、水層を除去し、有機層からジイソプロピルエーテルで再結晶させて6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)を得たことも記載されている。しかし、この結晶は、取扱性や作業性が低く、保存安定性も充分でない。
【0003】
なお、特許第4140975号公報(特許文献2)には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが開示され、ヘテロポリ酸の存在下、フルオレノンと2−フェノキシエタノールとを反応させた後、この反応混合物を粗精製した粗精製物にトルエンを加え、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを析出させて結晶多形体を得たことも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−99741号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特許第4140975号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、取扱性や作業性が向上した6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の新規な結晶多形体及びその製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、保存安定性に優れた6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の新規な結晶多形体及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、高温で保存しても、純度の低下及び着色を抑制できる6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の新規な結晶多形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)には結晶多形体が存在し、特定の晶析溶媒から6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)を晶析すると結晶多形体が得られること、この結晶多形体を熱処理することにより、さらに他の結晶多形体が得られること、これらの結晶多形体が、特許文献1記載の方法により得られた結晶多形体(以下、単に結晶多形体γ又はγ晶という場合がある)に比べて、取扱性、作業性、保存安定性に優れることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の結晶多形体αは、6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体であって、粉末X線回折パターンにおいて、16.78°、19.18°、19.58°に回折ピークを有する。結晶多形体αの融点は、211〜213℃程度である。
【0010】
本発明の結晶多形体βは、6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体であって、粉末X線回折パターンにおいて、17.84°、19.92°、22.92°に回折ピークを有する。結晶多形体βの融点は、225〜227℃程度である。
【0011】
本発明は、C5−7シクロアルカン類(例えば、シクロペンタン、シクロヘキサンなどのC5−7シクロアルカン;メチルシクロヘキサンなどのC1−2アルキル−C5−7シクロアルカン)及びベンゼン類(例えば、ベンゼン;トルエン、キシレンなどのC1−2アルキル−ベンゼンなど)から選択された少なくとも一種の晶析溶媒から、6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)を晶析させて、6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体αを製造する方法も包含する。さらに、本発明は、前記結晶多形体αを熱処理することにより結晶多形体βを製造する方法も包含する。この製造方法において、例えば、結晶多形体αを150〜220℃程度で熱処理してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体は、嵩密度が高く、滑り性にも優れているため、取扱性や作業性を向上できる。また、この結晶多形体は、保存安定性(例えば、高温での保存安定性)にも優れている。特に、高温で長期間に亘り保存しても、純度の低下及び着色を有効に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は実施例1の結晶多形体αの粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図2】図2は実施例3の結晶多形体βの粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図3】図3は参考例1の結晶多形体γの粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【図4】図4は実施例2の結晶多形体αの示差走査熱量測定の結果を示すグラフである。
【図5】図5は実施例3の結晶多形体βの示差走査熱量測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[結晶多形体]
6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール){又は9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシナフチル)]フルオレン、以下「BNF」と略称する場合がある}の結晶には、多形体、すなわち、2以上の複数の結晶構造(α形、β形、γ形など)が存在する。
【0015】
本発明のBNF結晶多形体α(又はα晶)は、粉末X線回折パターン(XRD)において、回折ピーク(主な回折角2θ)が、16.78°、19.18°、19.58°程度にある。この結晶多形体αは、回折角2θが19.58°程度において、最大のピーク強度(Iαmax)を示す場合が多い。
【0016】
結晶多形体αは、X線回折パターンにおいて、前記回折角に加えて、さらに、12.40°、14.30°、及び22.12°から選択された少なくとも1つの回折角2θでピークを示す場合が多い。より詳細には、結晶多形体αは、少なくとも、下記の表1に示す特定のピークを有していてもよく、図1の粉末X線回折パターンを有していてもよい。
【0017】
【表1】

【0018】
本発明の結晶多形体β(又はβ晶)は、粉末X線回折パターン(XRD)において、回折ピーク(主な回折角2θ)が、17.84°、19.92°、22.92°程度にある。この結晶多形体βは、回折角2θが17.84°及び22.92°のいずれかで、最大のピーク強度(Iβmax)を示す場合が多い。
【0019】
結晶多形体βは、X線回折パターンにおいて、前記回折角に加えて、さらに、11.94°、14.06°、18.48°、及び22.08°から選択された少なくとも1つの回折角2θでピークを示す場合が多い。より詳細には、結晶多形体βは、少なくとも、下記の表2に示す特定のピークを有していてもよく、図2の粉末X線回折パターンを有していてもよい。
【0020】
【表2】

【0021】
なお、結晶多形体γは、粉末X線回折パターンにおいて、回折ピークが、17.40°、21.08°、21.84°程度にある。通常、複数の結晶において、主な回折角(強度の高い順で、上位3つのピークを示す回折角)が同一であるとき、同一の結晶構造であるといえ、結晶多形体α、β、γでは、これらの回折角が異なるため、互いに異なる結晶構造を有する。
【0022】
上記粉末X線回折パターンは、慣用のX線粉末回折装置を用いて測定できる。なお、ピークを示す回折角2θは、測定条件などに応じて、±0.1°程度変化する場合がある。しかし、測定条件などに応じて回折角2θが変動しても、主要なピークの数が増減することはなく、同一の結晶構造であれば、ほぼ同一の粉末X線回折パターンを示す。
【0023】
本発明の結晶多形体は、低分子化合物(溶媒など)を含んでいてもよく、BNFと溶媒との溶媒和物の結晶であってもよい。低分子化合物としては、C5−7シクロアルカン類(例えば、シクロペンタン、シクロヘキサンなどのC5−7シクロアルカン;メチルシクロヘキサンなどのC1−2アルキル−C5−7シクロアルカンなど)、ベンゼン類(例えば、ベンゼン;トルエン、キシレンなどのC1−2アルキル−ベンゼンなど)などが挙げられる。これらの低分子化合物は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。これらの低分子化合物のうち、通常、晶析溶媒と同一の化合物が、結晶に含まれている場合が多い。
【0024】
低分子化合物の含有量(又は溶媒和率)は、BNF1モルに対して、0〜5モル、好ましくは0〜3モル、さらに好ましくは0〜1モル(例えば、0〜0.5モル)程度であってもよい。結晶多形体αでは、通常、低分子化合物の含有割合は、BNF1モルに対して、0.01〜0.2モル(例えば、0.05〜0.1モル)程度である。結晶多形体βでは、通常、低分子化合物の含有割合は、BNF1モルに対して、0.01モル以下(例えば、0〜0.001モル程度)である。なお、低分子化合物の含有割合は、TG−DTA(示差熱熱重量同時測定)分析において重量減少から算出できる。
【0025】
本発明の結晶多形体の純度は、例えば、90%以上(例えば、90〜99.99%)、好ましくは95%以上(例えば、95〜99.95%)、さらに好ましくは97%以上(例えば、99〜99.9%)程度であってもよい。なお、純度はHPLC分析により算出できる。
【0026】
本発明の結晶多形体は、単一の結晶であってもよく、混晶であってもよい。
【0027】
本発明の結晶多形体αは、示差走査熱分析(DSC)において、温度210〜220℃(例えば、210〜215℃、通常、211〜213℃)程度の範囲に極大吸熱ピーク(又は融点)を有している。本発明の結晶多形体βは、示差走査熱分析(DSC)において、温度220〜229℃(例えば、222〜228℃、通常、225〜227℃)程度の範囲に極大吸熱ピーク(又は融点)を有している。なお、本発明の結晶多形体は、単一又は2以上の複数の吸熱ピークを有していてもよい。
【0028】
本発明の結晶多形体は、嵩密度や滑り性が高く、作業性に優れる。結晶多形体αの嵩密度は、0.4〜0.5g/mL(例えば、0.45〜0.49g/mL)程度であり、通常、0.48±0.1g/mLである。結晶多形体βの嵩密度は、0.5〜0.6g/mL(例えば、0.52〜0.55g/mL)程度であり、通常、0.53±0.1g/mLである。なお、嵩密度は、慣用の方法、例えば、試料をメスシリンダーに充填し、充填量が100mLであるときの重量を測定することにより算出できる。
【0029】
さらに、本発明の結晶多形体は、保存安定性、特に高温での保存安定性に優れる。すなわち、本発明の結晶多形体は、高温下で保存しても純度変化は極めて低く、例えば、80℃で4ヶ月保存したときの純度は、90%以上(例えば、90〜99.99%)、好ましくは95%以上(例えば、95〜99.95%)、さらに好ましくは97%以上(例えば、99〜99.9%)程度であってもよい。また、本発明の結晶多形体は、高温下で保存しても着色を有効に抑制でき、例えば、44℃で4ヶ月保存したときの色相は、1〜50、好ましくは5〜40、さらに好ましくは10〜30程度であってもよい。色相の変化率[保存前の色相に対する保存後の色相(α比)]は、1〜20、好ましくは1.2〜15、さらに好ましくは1.5〜10(例えば、2〜5)程度であってもよい。
【0030】
[結晶多形体の製造方法]
本発明の結晶多形体の製造方法は、前記結晶構造を形成できる限り、特に限定されない。結晶多形体αは、通常、特定の晶析溶媒からBNFを晶析させることにより調製できる。
【0031】
BNFは、慣用の方法、例えば、酸触媒、助触媒、及び溶媒の存在下、9−フルオレノンと2−ナフトールとを反応させることにより調製できる。この反応の詳細は、特開2007−99741号公報などを参照できる。なお、本発明では、酸触媒としては、塩酸、硫酸、ヘテロポリ酸などの種々の酸が使用できるが、反応効率を高めて高収率で結晶多形体を得る点から、特に硫酸が好ましい。
【0032】
晶析溶媒は、C5−7シクロアルカン類(例えば、シクロペンタン、シクロヘキサンなどのC5−7シクロアルカン;メチルシクロヘキサンなどのC1−2アルキル−C5−7シクロアルカンなど)及びベンゼン類(例えば、ベンゼン;トルエン、キシレンなどのC1−2アルキル−ベンゼンなど)から選択された少なくとも一種(特に、トルエンなどのC1−2アルキル−ベンゼン)である。なお、晶析溶媒の種類に応じて、BNFの結晶構造が大きく変化するため、特定の晶析溶媒からBNFを晶析させることにより、結晶多形体αを調製できる。
【0033】
晶析溶媒の割合(又は使用量)は、特に限定されず、BNF(固形分換算)1重量部に対して、0.5〜50重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部程度であってもよい。
【0034】
晶析方法は、濃縮などの種々の方法が採用できるが、過飽和状態から結晶を析出させる方法、通常、冷却法である。すなわち、結晶多形体αは、BNFを晶析溶媒に溶解した後、この溶液(又は液状混合物)を冷却して、BNFを晶析させることにより、調製できる。溶解温度は、晶析溶媒の沸点未満の温度、例えば、50℃以上(例えば、50〜100℃、好ましくは55〜80℃)程度であってもよい。最低の到達冷却温度は、例えば、−10℃〜30℃、好ましくは1〜20℃(例えば、5〜15℃)程度であってもよい。冷却速度は、特に制限されず、例えば、0.01〜1℃/分、好ましくは0.1〜0.5℃/分、さらに好ましくは0.1〜0.2℃/分程度であってもよい。なお、本発明では、冷却法において、種晶を添加しなくても、収率よく結晶多形体を生成できる。
【0035】
晶析操作は、一回のみ行ってもよく、複数回繰り返して行ってもよい。特に、9−フルオレノンと2−ナフトールとの縮合反応において、酸触媒(特に硫酸)と助触媒(チオール類)とを組み合わせると、一回の晶析操作(又は再結晶)であっても、低い残留硫黄濃度で[例えば、BNFに対する硫黄濃度が、硫黄Sの重量換算で30ppm以下(例えば、0〜25ppm)、好ましくは20ppm以下(例えば、1〜15ppm)、さらに好ましくは10ppm以下(例えば、2〜9ppm)で]、簡便にかつ効率よくBNFを析出できる。
【0036】
なお、前記晶析方法において、晶析系には、BNF及び晶析溶媒以外に、他の成分[例えば、未反応のフルオレノン、未反応のナフトール、触媒(酸触媒、チオール類)、副反応生成物、他の溶媒(反応溶媒など)など]を含んでいてもよいが、他の成分を実質的に含んでいないのが好ましい。特に、本発明では、晶析系にジイソプロピルエーテルなどのジC1−4アルキルエーテルを実質的に含まないのが好ましい。
【0037】
前記晶析方法により得られた晶析成分(又は結晶多形体α)は、通常、濾過、遠心分離などの分離手段により、精製(又は非晶析成分と分離)する。分離した晶析成分(又は結晶多形体α)は乾燥してもよい。乾燥温度は、例えば、30〜100℃程度の範囲から選択でき、例えば、70〜100℃、好ましくは75〜95℃、さらに好ましくは80〜90℃程度であってもよい。
【0038】
結晶多形体βは、通常、結晶多形体α又はγを熱処理することにより、調製できる。換言すると、熱処理により、結晶多形体α又はγは結晶多形体βに相転移する。その際、結晶多形体α又はγは溶媒脱離とともに結晶多形体βに相転移してもよい。熱処理温度は、例えば、150〜220℃、好ましくは160〜215℃、さらに好ましくは170〜210℃程度であってもよく、通常、200〜220℃程度である。熱処理時間は、例えば、0.1〜5時間、好ましくは0.1〜3時間、さらに好ましくは0.1〜2時間程度であってもよい。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び参考例における各評価方法は以下の通りである。
【0040】
[評価方法]
(色相)
実施例1及び参考例1の結晶、並びに44℃の恒温層で4ヶ月保管した実施例1及び参考例1の結晶について、色相(APHA)を測定した。色相は、結晶0.2gをアセトン20mLに溶解したサンプルについて、JIS−K0071に準拠し、色差濁度計(COH−300A、日本電色社製)を用いて測定した。
【0041】
(純度)
実施例1及び参考例1の結晶、並びに80℃の恒温層で4ヶ月保管した実施例1及び参考例1の結晶について、純度を測定した。純度は、装置としてL−2000(日立ハイテク製HPLC)、カラムとしてODS−80TM(25cm)(東ソー(株)製)を用いて、下記の条件で測定した。
【0042】
検出方法:UV、検出波長254nm
カラム温度:室温
溶離液(容量比):アセトニトリル/水=70/30
流量:1.0ml/分
定量法:面積百分率法
グラジエント:なし(合計:60分)。
【0043】
(融点)
示差走査熱量計(DSC6220、SII社製)を用いて、測定温度30〜320℃、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0044】
(X線回折)
X線粉末回折装置(マックスサイエンス社製)を用いて、出力:3kW、線源:Cu、波長:1.54056Å、管電圧:40.0kV、管電流:20.0mA、サンプリング間隔:0.020°、スキャン速度:4.000°/分の条件で測定した。
【0045】
(加熱残分)
ハロゲン水分計(HG−53:メトラー・トレド社製)を用いて、140℃、レベル3で測定した。
【0046】
(嵩密度)
サンプルをメスシリンダーに充填し、充填量が100mLであるときの重量を測定した。
【0047】
(滑り性試験)
下部が閉じた金属ロート(傾斜したロート部の最大内径:150mmφ、足部の内径×長さ:27mmφ×20mm)に100gのサンプルを充填し、下部を開いてからサンプルが落ちるまでの時間を測定した。ただし、20秒経過してもサンプルが落ちない場合、所定の力でロート部を指で軽く叩きサンプルが落ちるまでのロートを叩く回数をカウントした。回数が少ないほど滑り性に優れると判断できる。
【0048】
実施例1
撹拌器、冷却器、および温度計を備えた1Lのガラス容器に99%のフルオレノン28.8gとβ−ナフトール69.2g、β−メルカプトプロピオン酸0.43ml、1,4−ジオキサン40.0gを仕込み、さらに98%硫酸22.4mlを仕込み、60℃で6時間攪拌することにより反応を行った。HPLCで確認した結果、フルオレノンの残存量は0.1%以下であった。
【0049】
得られた反応液に、1,4−ジオキサン13.3g、o−キシレン200gおよび水53.3gを加えたのち、5重量%重曹水53.3gを加えてpHが7になるまで中和した後、水層を除去した。有機層を80℃に加温した後に、水80gで3回洗浄した。
【0050】
洗浄した有機層を減圧濃縮し、o−キシレンを除去し、その後有機層にトルエンを加えて60℃で1時間攪拌した後、1時間かけて10℃まで冷却して再結晶させた。析出した結晶をろ取し、85℃で24時間乾燥することにより、目的生成物である6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体α(α晶)を43.0g、収率59.7%で得た。加熱残分は99.8%であった。結晶多形体αの粉末X線回折パターンを図1に示す。
【0051】
X線回折ピーク(括弧内は強度[cps]を示す):12.40°(993)、14.30°(1193)、16.78°(1973)、19.18°(1500)、19.58°(2230)、22.12°(1293)。
【0052】
実施例2
撹拌器、冷却器、および温度計を備えた1Lのガラス容器に99%のフルオレノン28.8gとβ−ナフトール69.2g、β−メルカプトプロピオン酸0.43ml、1,4−ジオキサン40.0gを仕込み、さらに98%硫酸22.4mlを仕込み、60℃で6時間攪拌することにより反応を行った。HPLCで確認した結果、フルオレノンの残存量は0.1%以下であった。
【0053】
得られた反応液に、1,4−ジオキサン13.3g、o−キシレン200gおよび水53.3gを加えたのち、5重量%重曹水53.3gを加えてpHが7になるまで中和した後、水層を除去した。有機層を80℃に加温した後に、水80gで3回洗浄した。
【0054】
洗浄した有機層にキシレンを加えて60℃で1時間攪拌した後、1時間かけて10℃まで冷却して再結晶させた。析出した結晶をろ取し、85℃で24時間乾燥することにより、目的生成物である6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体αを48.5g、収率67.3%で得た。加熱残分は98.7%であった。結晶多形体αの粉末X線回折パターンは、図1と同様のパターンであった。結晶多形体αの示差走査熱量測定の結果を図4に示す。
【0055】
実施例3
実施例1で得られた結晶多形体αを207℃、1.5時間乾燥機で乾燥し、目的生成物である6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体β(β晶)を得た。結晶多形体βの粉末X線回折パターンを図2に示し、結晶多形体βの示差走査熱量測定の結果を図5に示す。
【0056】
X線回折ピーク(括弧内は強度[cps]を示す):11.92°(633)、11.94°(633)、14.06°(733)、17.84°(946)、18.48°(863)、19.92°(923)、22.92°(1066)。
【0057】
参考例1
撹拌器、冷却器、および温度計を備えた1Lのガラス容器に99%のフルオレノン36gとβ-ナフトール138.40g、β−メルカプトプロピオン酸7ml、トルエン180gを仕込み、さらに98%硫酸17.3mlを仕込み、60℃で6時間攪拌することにより反応を行った。HPLCで確認した結果、フルオレノンの残存量は0.1%以下であった。
【0058】
得られた反応液に、トルエン230gおよび水70gを加えたのち、1N−水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHが約7になるまで中和した後、水層を除去した。有機層を80℃に加温した後に、水80gで5回洗浄した。
【0059】
洗浄した有機層を減圧濃縮し、トルエンを除去し、その後有機層にイソプロピルエーテルを加えて60℃で1時間攪拌した後、1時間かけて10℃まで冷却して再結晶させた。析出した結晶をろ取し、85℃で24時間乾燥することにより、目的生成物である6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体γ(γ晶)を89g、収率90.0%で得た。加熱残分は81.6%であった。結晶多形体γの粉末X線回折パターンを図3に示す。
【0060】
X線回折ピーク(括弧内は強度[cps]を示す):17.40°(896)、17.92°(693)、18.46°(693)、18.50°(693)、21.08°(736)、21.84°(776)、22.68°(676)、23.62°(693)。
【0061】
実施例及び参考例で得られた結晶多形体α、β、γの各物性の結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3から明らかなように、α晶及びβ晶は、γ晶に比べて、嵩密度や滑り性に優れている。また、α晶は、加温時の純度及び色相変化が小さく、保存安定性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の結晶多形体は、取扱性、作業性、保存安定性に優れるため、工業製品として好適に使用できる。また、本発明の結晶多形体は、ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン骨格を有するため、種々の特性(光学特性、耐熱性、耐水性、耐湿性、耐薬品性、電気特性、機械特性、寸法安定性など)に優れている。そのため、本発明の結晶多形体は、樹脂原料や樹脂硬化剤などとして好適に用いることができる。特に、本発明の結晶多形体を、熱硬化性樹脂[エポキシ樹脂(又はその硬化剤)や、アクリル系樹脂(多官能性(メタ)アクリレートなど)など]に適用すると、高耐熱性、高架橋性、高屈折率、高透明性、低線膨張率などの優れた特性を効率よく付与することができる。前記エポキシ樹脂は、上記のような特性が要求される用途、例えば、半導体封止剤、電装基板などとして好適である。また、前記アクリル系樹脂は、光学材料用途、例えば、光学用オーバーコート剤、ハードコート剤、反射防止膜、眼鏡レンズ、光ファイバー、光導波路、ホログラムなどに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体であって、粉末X線回折パターンにおいて、16.78°、19.18°、19.58°に回折ピークを有する結晶多形体α。
【請求項2】
6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体であって、融点が211〜213℃である結晶多形体α。
【請求項3】
6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体であって、粉末X線回折パターンにおいて、17.84°、19.92°、22.92°に回折ピークを有する結晶多形体β。
【請求項4】
6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体であって、融点が225〜227℃である結晶多形体β。
【請求項5】
5−7シクロアルカン類及びベンゼン類から選択された少なくとも一種の晶析溶媒から6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)を晶析させて、6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)の結晶多形体αを製造する方法。
【請求項6】
請求項5記載の結晶多形体αを熱処理することにより結晶多形体βを製造する方法。
【請求項7】
結晶多形体αを150〜220℃で熱処理する請求項6記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−207008(P2012−207008A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75900(P2011−75900)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】