説明

68Ga系放射性医薬品の比放射能を向上させるための68Ge/68Gaジェネレータ溶出液のFe(III)からの精製

【課題】
本発明は、68Ge/68Gaジェネレータで生成した68GaをFe(III)から精製する方法を提供する。
【解決手段】
本発明はさらに、既存のGallea Synthiaプロトタイプにおいて各種陽イオンから68Gaを精製し、68Gaを予備濃縮する自動システムに関する。一般に、本発明はさらに、比放射能の高い68Ga放射性標識PETトレーサーを製造する自動システムの使用、及び68Ge/68Gaジェネレータで生成した68GaをFe(III)から精製するキットについても開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、68Ge/68Gaジェネレータで生成した68GaをFe(III)から精製する方法に関する。本発明はさらに、既存のGallea Synthiaプロトタイプにおいて各種陽イオンから68Gaを精製し、68Gaを予備濃縮する自動システムに関する。本発明はさらに、比放射能の高い68Ga放射性標識PETトレーサーの製造に自動システムを使用する方法並びに68Ge/68Gaジェネレータで生成した68GaをFe(III)から精製するキットに関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放射性68Ga(T1/2=68分)は、臨床的な陽電子放射断層撮影(PET)に有望である。これはジェネレータで生成される放射性核種であり、現場にサイクロトロンを必要とせず、入手が容易で比較的安価である。68GaはPET放射性医薬品の製造に適した放射性金属である。しかし、ジェネレータ溶出後の68Gaの化学形態、溶出体積が大きいこと、カラム材料に起因する他の陽イオンの夾雑及び68Geの破過のような支障があるため、その使用が限られたものとなってしまうおそれがある。こうした短所の幾つかを克服する方法が開発されており1,268Ga系放射性医薬品の用途拡大を促すとも思われる。大環状二官能性キレート剤は放射性金属陽イオンと安定な錯体を形成し、高分子と共有結合させることができる。同じキレート剤は様々な陽イオンと錯形成できるので、対応した放射性金属を用いた診断及び治療に同じ生物活性分子を用いることができる。68Gaは、診断、化学及び放射線療法のための線量測定、線量計画、並びに化学療法及び放射線療法に対する反応の経過観察に有望である。こうした用途では、トレーサーの比放射能(SRA)に依存する正確な定量化が必要となることがある。これは、多くのペプチド受容体のような高親和性結合部位の特性決定に特に重要である。高いSRAが必要とされるもう一つの因子は、副作用を惹起しかねない強力な受容体アゴニストの標識である。高分子量リガンドのコストも考慮すべき因子となり得る。高いSRAで各種高分子を68Ga標識するための迅速で信頼性の高い方法が開発されている1-3。しかし、受容体濃度に相当するSRA値の達成が、Fe(III)の存在によってほぼ確実に阻害されることが判明した。Fe(III)は、ペプチドに結合したキレート剤との錯形成反応において、68Ga(III)に対する強い競合剤である。Fe(III)と68Ga(III)の化学的性質は非常に類似している。鉄は豊富に存在する陽イオンであり、ガラス製品、SPEカートリッジ及び化学薬品にも存在している。Fe(III)を除去できれば、SRAが向上し、68Ga標識プロセスにおけるその役割の不確実性が一掃される。ウプサラ大学/Uppsala Imanet ABで開発された精製法1,3では、Fe(III)は除去できない。この方法は、例えば、Fe(II)へのFe(III)の還元を導入することによって改善できるとも思われる。[FeCl4-の吸着プロファイルは、0.1〜6.0MのHClからの[68GaCl4-の吸着プロファイルと酷似している。そのため、こらら2種類の陽イオンを陰イオン交換樹脂で陰イオン錯体として分離するのは難しい。対照的に、Fe(II)は、4.0MのHClからは吸着されず、陰イオン交換樹脂で保持されずに通過すると思われる。68Ge/68Gaジェネレータ溶出液をFe(III)から精製できれば、高分子リガンドと有機低分子を含む68Ga系トレーサーのSRAをさらに一段と向上させることができる。特に、ペプチド、オリゴヌクレオチド、PNA、LNA、抗体、糖タンパク質、タンパク質その他の生体高分子に基づくリガンドを用いる場合に、多大な影響をもつ。こうして、比放射能の高い強力な高分子68Ga系放射性医薬品を製造することができ、薬理学的副作用のリスクを伴わずにヒトに使用することができる。さらに、比放射能の高い68Ga系放射性医薬品によって、PET検査の正確な定量化が可能となる。ひいては、化学及び放射線療法のための線量測定、計画及び経過観察のための受容体濃度の正確なインビボ定量化が可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K.P. ZHERNOSEKOV, D.V. FILOSOFOV, R.P. BAUM, P.A. SCHOFF, H. BIHL, A.A. RAZBASH, M. JAHN, M.JENNEWEIN, F.ROSCH: "Processing of Generator-Produced 68Ga for Medical Application" JOURNAL OF NUCLEAR MEDICINE, vol.48, no.10, 2007, 1741-1748
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、当技術分野では、68Ge/68Gaジェネレータで生成した68GaをFe(III)から精製するための有効で効率的な方法に対するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、68Ge/68Gaジェネレータで生成した68GaをFe(III)から精製する方法を提供する。本発明はさらに、既存のGallea Synthiaプロトタイプにおいて各種陽イオンから68Gaを精製し、68Gaを予備濃縮する自動システムに関する。Gallea Synthiaプロトタイプは、国際公開第02/102711号に開示されている。本発明はさらに、比放射能の高い68Ga放射性標識PETトレーサーを製造する自動システムの使用、及び68Ge/68Gaジェネレータで生成した68GaをFe(III)から精製するキットについても開示する。
【0006】
本発明の一実施形態は、68Ge/68Gaジェネレータで生成した68GaをFe(III)から精製する方法であって、二官能性キレート剤と、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ポリペプチド、糖ポリペプチド、リポポリペプチド、ペプチド、糖ペプチド、リポペプチド、炭水化物、核酸、オリゴヌクレオチド、抗体、又はこれらの化合物の一部、断片、誘導体若しくは複合体、及び有機低分子からなる群から選択されるベクターとを含む比放射能の高い68Ga系放射性医薬品が得られる方法に関する。
【0007】
68Ge/68Gaジェネレータは当技術分野で公知であり、例えば、C. Loc'h et al, J. Nucl. Med. 21, 1980, 171-173又はJ. Schuhmacher et al., Int. J. appl. Radiat. Isotopes 32, 1981, 31-36を参照されたい。68Geは、例えばGa2(SO43を20MeVのプロトンで照射するサイクロトロン生産法で得ることができる。これは、例えば68Geの0.5MのHCl溶液として市販されてもいる。一般に、68Geは、有機樹脂、又は二酸化スズ、二酸化アルミニウム若しくは二酸化チタンのような無機金属酸化物からなるカラムに充填される。68GaはHCl水溶液でカラムから溶出され、68GaCl3が得られる。このように、68Gaは68Ga3+の形態にあり、68Ga放射性標識錯体の合成、例えば68Ga放射性標識PETトレーサーの製造に使用できる。
【0008】
68Ge/68Gaジェネレータに適したカラムは、二酸化アルミニウム、二酸化チタン若しくは二酸化スズのような無機酸化物、又はフェノール性ヒドロキシ基(米国特許第4264468号)若しくはピロガロール(J. Schuhmacher et al., Int. J. appl. Radiat. Isotopes 32, 1981, 31-36)を含む樹脂のような有機樹脂からなる。好ましい実施形態では、二酸化チタンを含むカラムを備える68Ge/68Gaジェネレータを本発明の方法で使用する。
【0009】
68Ge/68Gaジェネレータカラムからの68Gaの溶出に用いられるHCl水溶液の濃度は、カラム材料に応じて異なる。好適には、0.05〜5MのHClが68Gaの溶出に用いられる。好ましい実施形態では、溶出液は、二酸化チタンを含むカラムを備える68Ge/68Gaジェネレータから得られ、68Gaは0.05〜0.1MのHCl、好ましくは約0.1MのHClを用いて溶出される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
鉄は豊富に存在する陽イオンであり、Fe(III)と68Ga(III)の化学的性質は似ている。本発明者らの研究の結果、Fe(III)は、ペプチドに結合したDOTAとの錯形成反応において68Ga(III)に対する強力な競合剤であることが判明した。さらに、68Gaジェネレータの溶出液について、Spectroflame P装置(Spectro社(ドイツ)製)を用いた誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)法で、痕跡金属含量を分析したところ、Fe(III)の量は、ジェネレータの使用期間及び利用できる68Gaの量に依存するが、68Ga量よりも200〜2000倍多いことが判明した。従って、Fe(III)に関してジェネレータ溶出液を精製することが、比放射能の高い68Ga放射性医薬品を得るための前提条件となる。
【0011】
[FeCl4-の吸着プロファイルは、0.1〜6.0MのHClからの[68GaCl4-の吸着プロファイルと酷似している。そのため、特許文献1,2に記載された本発明者らの以前の研究で用いたタイプの陰イオン交換樹脂では、これら2種類の陽イオンを分離するのは不可能である。対照的に、Fe(II)は、4.0MのHClからは吸着されず、陰イオン交換樹脂で保持されずに通過する。従って、Fe(II)へのFe(III)の還元は、Fe(III)からジェネレータ溶出液を精製して、比放射能をさらに向上させるための手段となり得る。還元は、標識段階のその場で、或いは標識前の予備濃縮/精製段階のいずれかで実施できる。ただし、前者は、ペプチドの安定性又は68Gaの取込みに還元剤が影響しないようにするため、複雑になりかねない。従って、標識合成の前に、68Gaに影響を与えずに、Fe(III)を選択的に還元してFe(II)を除去するのが好ましい。以下に、この課題を達成するための方法を幾つか記載する。ここで検討する解決策は、既存のGallea Synthiaプロトタイプでの自動化に採用できるものである。
【0012】
本発明の一実施形態は、68Ge/68Gaジェネレータで生成した68GaをFe(III)から精製する方法であって、二官能性キレート剤と、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ポリペプチド、糖ポリペプチド、リポポリペプチド、ペプチド、糖ペプチド、リポペプチド、炭水化物、核酸、オリゴヌクレオチド、抗体、又はこれらの化合物の一部、断片、誘導体若しくは複合体、及び有機低分子からなる群から選択されるベクターとを含む比放射能の高い68Ga系放射性医薬品が得られる方法に関する。
【0013】
68Ge/68Gaジェネレータは、当技術分野で公知であり、例えば、C. Loc'h et al, J. Nucl. Med. 21, 1980, 171-173又はJ. Schuhmacher et al., Int. J. appl. Radiat. Isotopes 32, 1981, 31-36を参照されたい。68Geは、例えばGa2(SO43を20MeVのプロトンで照射するサイクロトロン生産法で得ることができる。これは、例えば68Geの0.5MのHCl溶液として市販されてもいる。一般に、68Geは、有機樹脂、又は二酸化スズ、二酸化アルミニウム若しくは二酸化チタンのような無機金属酸化物からなるカラムに充填される。68Gaは、HCl水溶液でカラムから溶出され、68GaCl3が得られる。このように、68Gaは68Ga3+の形態にあり、68Ga放射性標識錯体の合成、例えば68Ga放射性標識PETトレーサーの製造に使用できる。
【0014】
68Ge/68Gaジェネレータに適したカラムは、二酸化アルミニウム、二酸化チタン若しくは二酸化スズのような無機酸化物、又はフェノール性ヒドロキシ基(米国特許第4264468号)若しくはピロガロール(J. Schuhmacher et al., Int. J. appl. Radiat. Isotopes 32, 1981, 31-36)を含む樹脂のような有機樹脂からなる。好ましい実施形態では、二酸化チタンを含むカラムを備える68Ge/68Gaジェネレータを本発明の方法で使用する。
【0015】
68Ge/68Gaジェネレータカラムからの68Gaの溶出に用いられるHCl水溶液の濃度は、カラム材料に応じて異なる。好適には、0.05〜5MのHClが68Gaの溶出に用いられる。好ましい実施形態では、溶出液は、二酸化チタンを含むカラムを備える68Ge/68Gaジェネレータから得られ、68Gaは0.05〜0.1MのHCl、好ましくは約0.1MのHClを用いて溶出される。
【0016】
本発明のさらに別の実施形態は、68Ge/68Gaジェネレータから製造され、薬理学的副作用のリスクを伴わずにヒトに使用することができる、比放射能の高い強力な高分子68Ga系放射性医薬品に関する。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態は、68Ge/68Gaジェネレータから製造され、PET検査の正確な定量化が可能となる、比放射能の高い68Ga系放射性医薬品を得る方法に関する。
【0018】
本発明の別の実施形態は、68Ge/68Gaジェネレータから比放射能の高い68Ga系放射性医薬品を製造するための方法であって、化学及び放射線療法のための線量測定、計画及び経過観察のための受容体濃度の正確なインビボ定量化を行うことのできる方法に関する。
【0019】
本発明のさらに別の実施形態は、既存のGallea SynthiaプロトタイプにおいてFe(III)、Al(III)、In(III)、Ti(III)、Ti(IV)、Ni(II)、Cu(I)、Cu(II)、Ge(IV)、Pb(II)陽イオンから68Gaを精製し、68Gaを予備濃縮するために、自動システムに関する。Gallea Synthiaプロトタイプシステムの説明については、国際公開第02/102711号を参照されたい。
【0020】
本発明の別の実施形態は、比放射能の高い68Ga放射性標識PETトレーサーの製造に、68Ge/68Gaジェネレータによる自動システム又は既存のGallea Synthiaプロトタイプの自動システムの使用に関する。
【0021】
さらに別の実施形態は、68Ge/68Gaジェネレータによる自動システム又は既存のGallea Synthiaプロトタイプの自動システムによって、68Ge/68Gaジェネレータで生成した68GaをFe(III)から精製するキットに関する。
【0022】
溶液中でのFe(III)の還元とその後の68Gaの予備濃縮及び精製は、以下の通りである。
【0023】
ジェネレータ溶出液の酸性化(4M HCl)は、Sn(II)、Cu、Zn、Al、Ti(III)又は有機ヒドラジンのような還元剤の存在下で実施される7-9。Fe(III)はFe(II)へと還元され、四塩化物アニオンとしては挙動せず、陰イオン交換カラム(Chromafix、Chromafix 30−PS−HCO3、Macharey−Nagel社(ドイツ))に保持されない。具体的には、第2鉄イオンが第1鉄イオンへと還元され、第1スズイオン(Sn2+)が第2スズイオン(Sn4+)へと転化する。反応全体では、第1スズイオンが還元剤であって、この物質が酸化され、第2鉄イオンが酸化剤であって、この物質が還元される。
【0024】
Sn2+ + Fe3+ → Sn4+ + Fe2+
次いで、溶出液をChromafix陰イオン交換体に流して、[68GaCl4-を保持し、Fe(II)を通過させる。
【0025】
使用できる他の無機還元剤は、亜鉛、銅又はアルミニウムである。例えば銅の場合、反応全体は以下の通りである。
【0026】
Cu(s) + 2Fe3+(aq) → Cu2+(aq) + 2Fe2+(aq)
次いで、溶出液をChromafix陰イオン交換体に流して、[68GaCl4-を保持し、Fe(II)とCu(II)を通過させる。
【0027】
有機ヒドラジンは、副生物が通例は窒素ガスと水であるので、好都合な還元剤である。
【0028】
24 + Fe3+ → N2 + H2O + Fe2+
次いで、溶出液を陰イオン交換体に流して、[68GaCl4-を保持し、Fe(II)を通過させる。
【0029】
レドックス(酸化還元)基を有する樹脂でのFe(III)の還元とその後の68Gaの予備濃縮及び精製は、以下の通りである。
【0030】
Fe(III)の還元は、ヒドロキノン、ピロカテキン、ピロガロール、水素化ホウ素、シアノ水素化ホウ素、トリフェニルホスフィンオキシド又は三酸化硫黄ピリジンのようなレドックス基(図1)10-20を有する樹脂を用いて実施できる。かかるレドックスポリマーは、クロロメチル化ポリマーと低分子有機レドックス系から調製することができる。
【0031】
【化1】

フェノール系の物質は、水溶液中での重要な還元剤である。例えば、Fe(III)によるヒドロキノンの酸化を図2に示す。
【0032】
【化2】

イオン交換体に担持された水素化ホウ素も貴重な還元剤である(図3)。
【0033】
【化3】

官能化樹脂を用いると、後処理及び生成物の精製が容易であるので、非常に便利である。さらに、担持された試薬の回収及び再生の場も提供する。レドックス樹脂を充填したカラムを次いで陰イオン交換カラムと接続すれば、68Gaを予備濃縮し、さらに精製することができる。還元型Fe(II)は、4.0M HCl酸からは吸着されず、Chromafix陰イオン交換樹脂に流すと保持されずに通過する。
【0034】
陽イオン及び陰イオン交換樹脂でのFe(III)からの68Ga(III)の分離は以下の通りである。
【0035】
鉄とガリウムの分配係数の差を利用した陽イオン及び陰イオン交換分離についても検討した21-27。精製を簡単にするため、有機イオン交換体(Dowex、Amberlite型)と無機イオン交換体(タングステン酸チタン)の両方を1つのカラムに充填する。様々な溶離剤を用いて選択的な溶出及び精製を行う。さらに、陽イオン交換樹脂に添加する前に、Fe(III)をFe(II)に還元しておく。そのため、NaIを還元剤として用いる28。各溶離剤で選択的溶出を行うと、68Ga(III)をFe(III)から分離することができる。
【0036】
FeCl3 + NaI → FeCl2 + NaCl + I2
別法として、慣用のイオン交換体に、Fe(III)で酸化できるイオンを担持してもよい。それぞれSn(II)及びSO3のようなイオンを含む陽イオン及び陰イオン交換体が使用できる。この場合、この余計なイオン(還元型と酸化型の両方)が溶液中に放出されるのを避けることはできない。しかし、次の4M HClからの陰イオン交換樹脂の精製段階で、溶出液からこの余分な陽イオンは除去される。
【0037】
電気活性導電性ポリマーを用いたFe(III)からの68Gaの精製は以下の通りである。
【0038】
非常に魅力的なものは、ポリピロール、ポリアニリン及びその誘導体のような電気活性導電性ポリマーで得られるFe(III)の電気化学的に制御された結合である(図4)29,30。例えば、レドックス活性をもつポリピロール樹脂に特定の電位を加えることによってFe(III)が選択的に固定され、68Ga(III)は保持されずにカラム内を流れる。これが可能であるのは、Fe(III)が68Ga(III)よりも還元され易いからである(標準還元電位はそれぞれ0.77及び−0.56である。)。電気化学セル内でポテンショスタット/ガルバノスタットを用いて、参照電極に対して作用電極の電位を一定レベルに制御する。ポリピロール樹脂の導電性を維持するため溶液のpH調節が非常に重要であり、NaOHによって調節することができる。
【0039】
【化4】

沈殿によるFe(III)からの68Gaの精製及びその後の68Gaの予備濃縮は、以下の通りである。
【0040】
Fe(III)からの68Ga(III)の分離は、塩基性溶液(pH>9.0)からの水酸化第二鉄の沈殿によっても達成でき、68Ga(III)は68Ga(OH)4-を形成して溶液中に留まる31-33。沈殿は、NaOH、KOH(1.5N)又はNH4OHの添加によって達成できる。次いで、数滴のAl2(SO43を加えてFe23を沈殿させる。
【0041】
FeCl3 + NaOH → Fe(OH)3 + NaCl
Fe(OH)3 + Al2(SO43 → Fe23 + Al(OH)3
次いで溶液を濾過すればよく、濾液は、次いで陰イオン交換カラムでの68Gaの予備濃縮に使用できる。
【0042】
上記で提案した方法(A〜E)で、Fe(III)から68Gaが精製される。さらに、続いてChromafix陰イオン交換カラムを使用すると、Al(III)、In(III)、Ti(III)、Ti(IV)、Ni(II)、Cu(I)、Cu(II)、Ge(IV)、Pb(II)から68Gaを精製できる。金属イオンの含量は、Spectroflame P装置(Spectro社(ドイツ)製)を用いた誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)法で評価される。
【実施例】
【0043】
本発明を以下の実施例でさらに例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例−実験
A.溶液中でのFe(III)の還元とその後の68Gaの予備濃縮及び精製
実施例1.第一スズイオンによるFe(III)の還元とその後の陰イオン交換分離によるFe(III)からの68Ga(III)の精製
68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出し、5mLの30%HClで酸性化する。次いで、SnCl2(固体)を添加してFe(III)をFe(II)に還元する。次いで、溶液を流速4mL/分(線流速25cm/分)で陰イオン交換カラム(Chromafix 30−PS−HCO3、Macharey−Nagel社(ドイツ))に室温で流す。HCl溶液中で、ガリウムはCl-と強い陰イオン錯体を形成し、対応する[68GaCl63-及び[68GaCl4-錯体はHCl濃度>3Mから上記陰イオン交換樹脂に強く吸着されるが、Fe(II)は保持されずに樹脂を通過する。次いで、68Gaを流速0.5mL/分の少量(50〜200μl)の脱イオン水で溶出する。
【0045】
実施例2.固体銅によるFe(III)の還元とその後の陰イオン交換分離によるFe(III)からの68Ga(III)の精製
68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出し、5mLの30%HClで酸性化する。次いで、銅(固体)を添加してFe(III)をFe(II)に還元する。次いで、溶液を流速4mL/分(線流速25cm/分)で陰イオン交換カラム(Chromafix 30−PS−HCO3、Macharey−Nagel社(ドイツ))に室温で流す。HCl溶液中で、ガリウムはCl-と強い陰イオン錯体を形成し、対応する[68GaCl63-及び[68GaCl4-錯体はHCl濃度>3MからChromafix陰イオン交換樹脂に強く吸着されるが、Fe(II)は保持されずに樹脂を通過する。次いで、68Gaを流速0.5mL/分の少量(50〜200μl)の脱イオン水で溶出する。
【0046】
実施例3.ヒドラジンによるFe(III)の還元とその後の陰イオン交換分離によるFe(III)からの68Ga(III)の精製
68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出し、5mLの30%HClで酸性化する。次いで、ヒドラジンを添加してFe(III)をFe(II)に還元する。次いで、溶液を流速4mL/分(線流速25cm/分)で陰イオン交換カラム(Chromafix 30−PS−HCO3、Macharey−Nagel社(ドイツ))に室温で流す。HCl溶液中で、ガリウムはCl-と強い陰イオン錯体を形成し、対応する[68GaCl63-及び[68GaCl4-錯体はHCl濃度>3Mから上記陰イオン交換樹脂に強く吸着されるが、Fe(II)は保持されずに樹脂を通過する。次いで、68Gaを流速0.5mL/分の少量(50〜200μl)の脱イオン水で溶出する。
【0047】
B.レドックス基を有する樹脂でのFe(III)の還元とその後の68Gaの予備濃縮及び精製
実施例4.水素化ホウ素官能化樹脂を充填したカラムでのFe(III)の還元とその後の陰イオン交換分離を用いたFe(III)からの68Ga(III)の精製
水素化ホウ素官能化樹脂(Amberlyst IRA−400)を脱イオン水に懸濁し、小型プラスチックカラムに充填する。カラムは、濡れた樹脂を充填する前に、グラスウール又はポリエチレンフィルターを詰めておく。68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出し、溶出液をカラムに添加する。10分間インキュベーションした後、強HClで被分析物を溶出し、その後で接続した陰イオン交換カラム(Chromafix 30−PS−HCO3、Macharey−Nagel社(ドイツ))に室温で流速4mL/分(線流速25cm/分)で流す。HCl溶液中で、ガリウムはCl-と強い陰イオン錯体を形成し、対応する[68GaCl63-及び[68GaCl4-錯体はHCl濃度>3Mから上記陰イオン交換樹脂に強く吸着されるが、Fe(II)に還元されたFe(III)は、保持されずに樹脂を通過する。その後、68Gaを流速0.5mL/分の少量(50〜200μl)の脱イオン水で溶出する。
【0048】
実施例5.レドックス活性ヒドロキノン官能化ポリアクリル酸ポリマーを用いたFe(III)からの68Ga(III)の精製
68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出し、ヒドロキノンを有するポリアクリル酸ポリマーを充填したカラムに添加する。10分間インキュベーションした後、強HClで被分析物を溶出し、その後で接続した陰イオン交換カラム(Chromafix 30−PS−HCO3、Macharey−Nagel社(ドイツ))に室温で流速4mL/分(線流速25cm/分)で流す。HCl溶液中で、ガリウムはCl-と強い陰イオン錯体を形成し、対応する[68GaCl63-及び[68GaCl4-錯体はHCl濃度>3Mから上記陰イオン交換樹脂に強く吸着されるが、Fe(II)に還元されたFe(III)は、保持されずに樹脂を通過する。その後、68Gaを流速0.5mL/分の少量(50〜200μl)の脱イオン水で溶出する。
【0049】
実施例6.レドックス活性ヒドロキノン官能化ジビニルベンゼンポリマーを用いたFe(III)からの68Ga(III)の精製
68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出し、ヒドロキノンを有するジビニルベンゼンポリマーを充填したカラムに添加する。10分間インキュベーションした後、強HClで被分析物を溶出し、その後で接続した陰イオン交換カラム(Chromafix 30−PS−HCO3、Macharey−Nagel社(ドイツ))に室温で流速4mL/分(線流速25cm/分)で流す。HCl溶液中で、ガリウムはCl-と強い陰イオン錯体を形成し、対応する[68GaCl63-及び[68GaCl4-錯体はHCl濃度>3Mから上記陰イオン交換樹脂に強く吸着されるが、Fe(II)に還元されたFe(III)は、保持されずに樹脂を通過する。その後、68Gaを流速0.5mL/分の少量(50〜200μl)の脱イオン水で溶出する。
【0050】
C.陽イオン及び陰イオン交換樹脂でのFe(III)からの68Ga(III)の分離
実施例7.陰イオン交換分離を用いたFe(III)からの68Ga(III)の精製
68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出する。5mLの30%HClをジェネレータ溶出液6mLに添加して、HCl終濃度を4.0Mとする。計11mLの溶液を、流速4mL/分(線流速25cm/分)で陰イオン交換カラム(Chromafix 30−PS−HCO3、Macharey−Nagel社(ドイツ))に室温で流す。次いで、Fe(III)を1mLのNH4Clで溶出する。その後、68Gaを流速0.5mL/分の少量(50〜200μl)の脱イオン水で溶出する。
【0051】
実施例8.マロン酸錯体の陰イオン交換分離を用いたFe(III)からの68Ga(III)の精製
68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出し、溶出液を、pH4.3に調製したマロン酸と混合した後、その溶液をDowex−21K上に収着させる。先ず、Fe(III)を1mLのNH4Clで溶出する。その後、68Gaを流速0.5mL/分の1M HClで溶出する。
【0052】
実施例9.チオシアネート錯体の陰イオン交換分離を用いたFe(III)からの68Ga(III)の精製
68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出し、次いで溶出液を、SCN-を対イオンとしたAmberlite IRA−400上に添加し、チオシアネート錯体を形成する。先ず、Fe(III)を0.1N HCl1mLで溶出する。その後、68Gaを、流速0.5mL/分の1M HCl5mLで溶出し、6mLの30%HClで酸性化し、流速4mL/分(線流速25cm/分)で陰イオン交換カラム(Chromafix 30−PS−HCO3、Macharey−Nagel社(ドイツ))に室温で流す。次いで、68Gaを流速0.5mL/分の少量(50〜200μl)の脱イオン水で溶出する。
【0053】
実施例10.Fe(II)へのFe(III)の還元及び陽イオン交換分離によるFe(III)からの68Ga(III)の精製
陽イオン交換樹脂(Dowex 50W)を1M HClに1時間懸濁して脱イオン水で数回洗浄し、1M NH3に10分間懸濁して水洗し、1M HClに再懸濁する。しかる後、樹脂を遠心分離し、使用するまで5M HCl中で保存する。小さなプラスチック管を小型カラムとして使用する。これに濡れた樹脂を充填する前に、グラスウール又はポリエチレンフィルターを詰めておく。使用直前に、5MのHCl、1MのHCl、H2O及び再び5MのHClを順次流して充填カラムをコンディショニングし、活性化する。68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出する。溶出液に、1%NaIを添加してFe(III)をFe(II)に還元する。この溶液を、陽イオン交換樹脂を充填したカラムに添加する。カラムを4MのHCl酸で洗浄した後、68Gaを流速0.5mL/分の少量(50〜200μl)の脱イオン水で溶出する。
【0054】
実施例11.Fe(II)へのFe(III)の還元及び陽イオン交換分離(Dowex−50)によるFe(III)からの68Ga(III)の精製
68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出する。SnCl2(固体)を添加してFe(III)をFe(II)に還元する。次いで、溶液を流速4mL/分(線流速25cm/分)で陽イオン交換カラム(Dowex−50)に室温で流す。Fe(II)は通過するが、68Ga(III)は保持される。その後、カラムを0.1MのHClで洗浄し、68Gaを流速0.5mL/分の少量(50〜200μl)の脱イオン水で溶出する。
【0055】
D.電気活性導電性ポリマーを用いた68GaのFe(III)からの精製
実施例12.レドックス活性ポリピロール樹脂を充填したカラムによるFe(III)からの68Ga(III)の精製
68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出し、溶出液を、二酸化チタン又はポリウレタンコアをポリピロール導電性ポリマーでコートしたもの浴に添加する。電位を調節することによってFe(III)はポリマーに固定化される。Fe(III)の固定化が完了したら、純粋な68Ga(III)を濾過し、6mLの30%HClで酸性化し、流速4mL/分(線流速25cm/分)で陰イオン交換カラム(Chromafix 30−PS−HCO3、Macharey−Nagel社(ドイツ))に室温で流す。次いで、68Gaを流速0.5mL/分の少量(50〜200μl)の脱イオン水で溶出する。
【0056】
E.沈殿による68GaのFe(III)からの精製及びその後の68Gaの精製及び予備濃縮
実施例13.沈殿を用いた68GaのFe(III)からの精製及びその後の陰イオン交換分離
68Ge/68Gaジェネレータを6mLの0.1M HCl溶液で溶出する。次いで、NaOH(固体)を添加して、塩基性溶液(pH>9.0)から水酸化Fe(III)を沈殿させ、同時に68Ga(OH)4-を溶液中に維持する。次いで、Al2(SO43を少数滴添加してFe23を沈殿させる。次いで、その溶液を濾過し、6mLの30%HClで酸性化し、流速4mL/分(線流速25cm/分)で陰イオン交換カラム(Chromafix 30−PS−HCO3、Macharey−Nagel社(ドイツ))に室温で流す。次いで、68Gaを流速0.5mL/分の少量(50〜200μl)の脱イオン水で溶出する。
【0057】
特定の実施形態、参考文献の引用
本発明の技術的範囲は、本明細書に記載した特定の実施形態によって限定されるものではない。実際、本明細書の記載及び添付の図面から、本明細書に記載したものに加えて、本発明の様々な変形が当業者には自明であろう。かかる変形は、特許請求の範囲によって規定される技術的範囲に属する。
【0058】
本明細書では様々な刊行物及び特許文献を引用してきたが、それらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
68Ge/68Gaジェネレータで生成した68GaをFe(III)から精製する方法。
【請求項2】
二官能性キレート剤と、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ポリペプチド、糖ポリペプチド、リポポリペプチド、ペプチド、糖ペプチド、リポペプチド、炭水化物、核酸、オリゴヌクレオチド、抗体、又はこれらの化合物の一部、断片、誘導体若しくは複合体、及び有機低分子からなる群から選択されるベクターとを含む比放射能の高い68Ga系放射性医薬品が得られる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
比放射能の高い強力な高分子68Ga系放射性医薬品で、薬理学的副作用のリスクを伴わずにヒトに使用することができる高分子68Ga系放射性医薬品が製造される、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
比放射能の高い68Ga系放射性医薬品で、PET検査の正確な定量化が可能となる68Ga系放射性医薬品が製造される、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
比放射能の高い68Ga系放射性医薬品で、化学及び放射線療法のための線量測定、計画及び経過観察のための受容体濃度の正確なインビボ定量化が可能となる68Ga系放射性医薬品が製造される、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
既存のGallea SynthiaプロトタイプにおいてFe(III)、Al(III)、In(III)、Ti(III)、Ti(IV)、Ni(II)、Cu(I)、Cu(II)、Ge(IV)、Pb(II)陽イオンから68Gaを精製し、68Gaを予備濃縮する、請求項1記載の自動システム。
【請求項7】
比放射能の高い68Ga放射性標識PETトレーサーを製造する、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の自動システムの使用。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法によって68Ge/68Gaジェネレータで生成した68GaをFe(III)から精製するためのキット。

【公表番号】特表2011−505376(P2011−505376A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536214(P2010−536214)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/085095
【国際公開番号】WO2009/102378
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】