説明

8−オキシキノリン銅の製造方法

【課題】粒径がサブミクロンオーダー以下の微粒の8−オキシキノリン銅を得ることができる8−オキシキノリン銅の製造方法を提供する。
【解決手段】極性溶媒(ただし、水を除く。)中、水酸化ナトリウム非存在下で、8−ヒドロキシキノリンおよび銅化合物を混合後、マイクロ波を照射して8−オキシキノリン銅を得る。好ましくは、極性溶媒が非プロトン溶媒または脂肪族アルコールであり、銅化合物が無水硫酸銅である。反応により生成した8−オキシキノリン銅の結晶を、ロ別し、ロ液が中性となるまで洗浄を行った後、乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、8−オキシキノリン銅の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
8−オキシキノリン銅は、リンゴの黒星病をはじめとして病原菌への殺菌効果が高いため、農薬として広く用いられている。
【0003】
8−オキシキノリン銅の製造方法は、8−ヒドロキシキノリンと水酸化ナトリウムを水の中で加温して溶解させた後、硫酸銅水溶液を加え8−オキシキノリン銅の結晶を析出させる方法が一般的に広く採用されている。この方法は、原料である8−ヒドロキシキノリンが種々の金属と容易に錯体を形成する性質を利用したものである。
生成した8−オキシキノリン銅の結晶は、水洗して結晶中に残る硫酸ナトリウムが取り除かれた後、乾燥し、さらに粉砕処理され、粒径が0.8ミクロン〜数ミクロンの粉体として得られる。
【0004】
上記のように製造される8−オキシキノリン銅は、微粉末であるため飛散するので、古くは水和剤として近年はフロアブル剤として使用されている。
【0005】
ところが、保管が長期にわたると、8−オキシキノリン銅が水等と分離し、沈降することが起こりえる。この原因は、比重の大きな8−オキシキノリン銅の微粉砕化が完全でないためである。
また、上記のように調合した農薬を例えば林檎栽培に用いる場合、散布した農薬が林檎果実のヘタ部分に入ると、水等の媒体が蒸発した後、8−オキシキノリン銅がヘタの中に残り、所謂残留農薬化することが起こりえる。また、このとき、さらに、残留農薬化した8−オキシキノリン銅が有する紫外線吸収能力のために、林檎果実の表面に緑色の斑点を残すとともに果実が赤く色づくことが阻害され、林檎果実の商品価値が著しく低下する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように8−オキシキノリン銅が水等と分離してしまう問題や、残留農薬化等する問題は、いずれも、8−オキシキノリン銅の結晶粒径が大きすぎることに起因するものと考えられる。すなわち、前者の場合は、8−オキシキノリン銅の結晶粒径が大きすぎるために容易に水等と分離して沈降するものであり、後者の場合は、8−オキシキノリン銅の結晶粒径が大きすぎるために果実のヘタ部分に入った8−オキシキノリン銅が雨水等によって洗い流されることが阻害されることによる。
このような課題を解決する手段は、従来の特許公報等には見ることができない。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、粒径がサブミクロンオーダー以下の微粒の8−オキシキノリン銅を得ることができる8−オキシキノリン銅の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る8−オキシキノリン銅の製造方法は、極性溶媒(ただし、水を除く。)中、水酸化ナトリウム非存在下で、8−ヒドロキシキノリンおよび銅化合物を混合後、マイクロ波を照射することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る8−オキシキノリン銅の製造方法は、好ましくは、前記極性溶媒が非プロトン溶媒または脂肪族アルコールであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る8−オキシキノリン銅の製造方法は、好ましくは、前記銅化合物が無水硫酸銅であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る8−オキシキノリン銅の製造方法は、極性溶媒(ただし、水を除く。)中、水酸化ナトリウム非存在下で、8−ヒドロキシキノリンおよび銅化合物を混合後、マイクロ波を照射するため、結晶成長速度が遅くなるので、粒径がサブミクロンオーダー以下の微粒の8−オキシキノリン銅を得ることができる。また、マイクロ波を照射するため、短時間の処理で微粒の8−オキシキノリン銅を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る8−オキシキノリン銅の製造方法の好適な実施の形態(以下、本実施の形態例という。)について、以下に説明する。
【0013】
8−オキシキノリン銅の製造方法において、析出する8−オキシキノリン銅の結晶を、従来技術のように事後的に粉砕によって微細化することには限界がある。
したがって、結晶生成、成長過程で、結晶の肥大化を抑えることが考えられる。しかしながら、この場合、一般に行われる、外部加熱や機械撹拌等の手段は、8−オキシキノリン銅の反応生成速度が速いために、効果が小さいものと考えられる。
【0014】
そこで、本発明者等は、8−オキシキノリン銅の反応生成速度を抑制する方法について、反応初期の時点で、8−ヒドロキシキノリンと銅化合物が遭遇しても、簡単に錯体を作らない系に着目して検討した結果、従来使用されている水酸化ナトリウムを用いずに反応を進めることにより、8−オキシキノリン銅の反応生成速度が抑制され、これによって結晶成長が適度に進行することで、微細な8−オキシキノリン銅の結晶が得られることを見出した。
また、このとき、さらに、加熱処理に代えてマイクロ波を照射することにより、一般的な外部加熱方法では困難な急速でかつ均一な加熱を実現する等によりサブミクロンオーダー以下のより微細な8−オキシキノリン銅の結晶が得られることを見出した。なお、このとき、従来の方法のように水酸化ナトリウムを用いると、8−オキシキノリン銅の結晶の成長が短時間で進行することにより、マイクロ波によって急速加熱するにも関わらず十分に微細な8−オキシキノリン銅の結晶が得られない。
【0015】
したがって、本実施の形態例に係る8−オキシキノリン銅の製造方法は、極性溶媒中、水酸化ナトリウム非存在下で、8−ヒドロキシキノリンおよび銅化合物を混合後、マイクロ波を照射するものである。このとき、照射時間1分〜10分程度の照射時間で反応を完結することができる。
【0016】
本実施の形態例で使用する極性溶媒は、特に限定するものではないが、非プロトン溶媒(非プロトン性極性溶媒)または脂肪族アルコールであると、8−ヒドロキシキノリンの溶解性が高いのでより好ましい。
非プロトン溶媒として、ディメチルスルホオキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を挙げることができ、脂肪族アルコールとして、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等を挙げることができる。
なお、本実施の形態例において、極性溶媒として水を除く理由は、8-ヒドロキシキノリンは、そのままでは水に溶解せず、また、他の極性溶剤を用いて8-ヒドロキシキノリンを溶解するときに水が存在すると、錯体形成速度が速く、粒子の凝集が進行して大きな粒子となってしまうためである。
【0017】
また、本実施の形態例で使用する銅化合物は、特に限定するものではなく、硫酸銅、塩化銅、水酸化銅等の中から選択して適宜用いることができるが、このうち、硫酸銅、とりわけ硫酸銅が水和していない無水硫酸銅を用いると、これらの分子中には水が含まれないのでより好ましい。
【0018】
また、本実施の形態例において、反応温度は、これらの反応に使用する溶媒の沸点以下であることが好ましい。
【0019】
本実施の形態例において、反応によって得られる8−オキシキノリン銅の結晶粒径が既にサブミクロンオーダー以下であるため、従来のような粉砕処理は必要としない。また、仮に粉砕処理を施しても、特殊な破砕技術を用いない限り、結晶の更なる微粒化は図れないものと思われる。
【実施例】
【0020】
実施例および参考例を挙げて、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
空冷冷却管をつけた直径3cmの円筒形の反応容器に8−ヒドロキシキノリン0.29g(2mmol)を入れ、さらにDMF10mlを加えて、8−ヒドロキシキノリンを溶解させ後、硫酸銅無水物0.16g(1mmol)を加えた。つぎに、反応容器に攪拌子を入れて溶液を混合したが、わずかに薄い緑色を呈するだけだった。この反応容器をCCDビデオカメラのついたマイクロ波反応容器に装着し、攪拌しながらマイクロ波(周波数2.45GHz 定格出力300W)を照射した。反応液は、マイクロ波照射開始後1分で非常に濃い緑色を呈し、8−オキシキノリン銅の結晶の析出が進行した。その後、さらに4分マイクロ波の照射を続けた。最高反応温度は150℃だった。マイクロ波照射後の反応液を直ちに冷却し、水50mlの中に投入した。反応液の色は、緑色から薄い緑色に変化した。析出した結晶をろ過し、結晶を取り出し0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液50mlの入ったビーカーに投入し、攪拌中和した。結晶の色は薄い緑から緑かがった黄色に変化した。この後、結晶をロ別し、ロ液が中性となるまで洗浄を行い乾燥した後、8−ヒドロキシキノリン結晶の粒度分布を測定した。8−ヒドロキシキノリン結晶の平均粒子径は50nmだった。さらに、乾燥後の8−オキシキノリン銅の0.1gを試験管に入れ水20mlを加えた後、結晶沈降速度を測定しようとしたが、60秒以上経過しても8−オキシキノリン銅の結晶粒子はほとんど沈まなかった。
【0022】
(実施例2)
溶媒であるDMFをエタノールに代えたほかは、実施例1と同様の条件で実験した。このとき、反応完了に要したマイクロ波の照射時間は4分であり、8−ヒドロキシキノリン結晶の平均粒子径は50nmであった。結晶沈降速度を測定しようとしたが、60秒以上経過しても8−オキシキノリン銅の結晶粒子はほとんど沈まなかった。
【0023】
(参考例)
銅化合物として、硫酸銅無水物に代えて硫酸銅・5水和物1mmolを用い、マイクロ波照射に代えて加熱処理したほかは、実施例1と同様の条件で実験した。このとき、加熱による昇温後、温度を150℃で30分保持した後、冷却した。また、このとき、8−ヒドロキシキノリン結晶の平均粒子径は3.4μmであり、また、結晶沈降速度の測定において20秒程度で8−オキシキノリン銅の粒子はほとんどが液深15cmの試験管の底に沈んだ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性溶媒(ただし、水を除く。)中、水酸化ナトリウム非存在下で、8−ヒドロキシキノリンおよび銅化合物を混合後、マイクロ波を照射することを特徴とする8−オキシキノリン銅の製造方法。
【請求項2】
前記極性溶媒が非プロトン溶媒または脂肪族アルコールであることを特徴とする請求項1記載の8−オキシキノリン銅の製造方法。
【請求項3】
前記銅化合物が無水硫酸銅であることを特徴とする請求項1記載の8−オキシキノリン銅の製造方法。

【公開番号】特開2008−127363(P2008−127363A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316406(P2006−316406)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)
【Fターム(参考)】