説明

9−(4−アミノフェニルエチニル)−10―(4−ニトロフェニルエチニル)アントラセンおよびその製造方法

【課題】
製造物に蛍光性および非線形光学特性を賦与することができる容易な手段を提供する。
【解決手段】
9,10−ジブロモアントラセンから誘導された9−ブロモ−10−ヨードアントラセンと4−ニトロフェニルアセチレンまたは4−アミノフェニルアセチレンを反応させることにより、臭素と沃素の反応性の差を利用して、位置選択的に4−ニトロフェニルエチニル基あるいは4−アミノフェニルエチニル基を導入し、次いで残る一方を導入することにより、高収率で9−(4−アミノフェニルエチニル)−10―(4−ニトロフェニルエチニル)アントラセンを製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアントラセン誘導体およびその製造法に関する。さらに詳しくは、9,10−位の片方に4−アミノフェニルエチニル基を有し、残る一方に4−ニトロフェニルエチニル基を有する新規なアントラセン誘導体とその効率的な製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
9,10−ビス(フェニルエチニル)アントラセンは蛍光性を示し、その蛍光量子収率が高いことが知られており、日本特許公開公報・特開2001−187883号にこれを組み込んだ化学発光装置が提案されている。日本特許公開公報・特開2000−169840号にはこの構造を含む色素を利用した発光装置が提案されている。さらにこれまで、その多くの誘導体が開発され、たとえば日本特許公開公報・特開2002−275384号にはこの構造を含む光応答性を有するレーザー用色素が提案されている。一方,非特許文献1に示されているように、有機蛍光性分子に電子供与性基と電子吸引性基を導入した大きな双極子モーメントを有する非対称型の誘導体は二光子吸収などの非線形光学特性が高いことが知られている。
【0003】
しかしながら、9,10−ビス(フェニルエチニル)アントラセンの2つのフェニルエチニル基の4―位および4’−位にそれぞれ電子供与性基と電子吸引性基を有する非対称型の誘導体はほとんど知られておらず、特に、強い電子供与性基としてアミノ基、強い電子吸引性基としてニトロ基を導入した誘導体はこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−187883号公報
【特許文献2】特開2000−169840号公報
【特許文献3】特開2002−275384号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ha-Thi, M.-H. et al. Chem. Eur. J. 2006, 12, 9056.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、9,10−ビス(フェニルエチニル)アントラセンの2つのフェニルエチニル基の4―位および4’−位にそれぞれアミノ基とニトロ基を導入した新規な非対称型アントラセン誘導体と、その効率的な製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を達成する一つの方法として、9,10−ジブロモアントラセンから誘導された9−ブロモ−10−ヨードアントラセンと4−ニトロフェニルアセチレンまたは4−アミノフェニルアセチレンを反応させることにより、臭素と沃素の反応性の差を利用して、位置選択的に4−ニトロフェニルエチニル基あるいは4−アミノフェニルエチニル基を導入し、次いで残る一方を導入することにより、高収率で9−(4−アミノフェニルエチニル)−10―(4−ニトロフェニルエチニル)アントラセンを製造できる事を見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0008】
分子内に強い電子供与性基と強い電子吸引性基を有する大きな双極子モーメントを有する新規な蛍光性材料の提供が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の発明は、下記構造式
【化1】

で表される9−(4−アミノフェニルエチニル)−10―(4−ニトロフェニルエチニル)アントラセン(以下、本化合物)である。
【0010】
次に、本発明の第2の発明である本化合物の製造方法について述べる。
【0011】
本化合物は9,10−ジブロモアントラセンから誘導された9−ブロモ−10−ヨードアントラセンと4−ニトロフェニルアセチレンあるいは4−アミノフェニルアセチレンを触媒の存在下に反応させ、次いで残る一方を触媒の存在下に反応させることによって得ることができる。
【0012】
本発明の方法に用いることができる触媒としては、薗頭カップリングとして知られる反応やその改良法に一般に用いられる触媒系を用いることができ、一般に、パラジウム錯体などの主触媒と、ホスフィン化合物などからなるリガンドと、ハロゲン化銅などの助触媒とが適宜組み合わされて使用される。但し、本発明はそれらの組み合わせに限定されるものでない。
【0013】
前記のパラジウム錯体としては、例えばビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジブロミド、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどが挙げられる。あるいは反応系中でパラジウムジクロリドや酢酸パラジウムと後記のホスフィン化合物を反応させ、パラジウム錯体を合成してもよい。前記のハロゲン化銅としては、例えば沃化銅、臭化銅が挙げられる。
【0014】
また、前記のリガンドであるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(2−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(3−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリターシャリーブチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリ−n−ヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ−n−オクチルホスフィンなどが挙げられる。
【0015】
前記した薗頭反応触媒の添加量は特に規定されないが、具体的に例えば、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリドの添加量が4−アミノフェニルアセチレンおよび4−ニトロフェニルアセチレンに対し0.01〜0.5mol%である。トリフェニルホスフィンの添加量はビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリドに対し1〜20倍当量である。また、ハロゲン化銅の添加量はビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリドに対し0.2〜10倍当量である。
【0016】
尚、薗頭反応触媒としてはカーボンに担持されたパラジウムも使用できるが、その場合は反応系にマイクロ波を照射しながら反応させることが推奨される。
【0017】
4−ニトロフェニルアセチレンおよび4−アミノフェニルアセチレンおよびの使用量は、一般に、9,10−ジハロゲン化アントラセンに対し1〜10倍当量である。
【0018】
本発明の方法に使用される溶媒は、例えばジイソプロピルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン等のアミン系溶媒である。これらのアミン系溶媒に原料が溶解し難い場合は、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒を加えるとよい。薗頭反応におけるアミン系溶媒の使用量は特に規定されないが、原料全量に対し10〜300倍重量部である。
【0019】
本発明の方法における反応温度は使用する溶媒の種類によるが、20℃〜90℃である。反応圧力は常圧でよく、反応時間は特に制限されない。
【0020】
[実施例]
次に、実施例により本発明の9−(4−アミノフェニルエチニル)−10―(4−ニトロフェニルエチニル)アントラセンの製造方法をさらに具体的に説明するが、この実施例も本発明の具体例に過ぎず、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
9−ブロモ−10−ヨードアントラセンの合成
滴下ロートと窒素バルーン,三方コックを備えた500mL4つ口ナス型フラスコに9,10−ジブロモアントラセン10.0g,29.8mmolを仕込み、真空ポンプで1時間減圧した後、窒素置換を3回行った。THF (dry) 200mLをガラスシリンジで加え、液体窒素とドライアイスで−78℃まで冷やした冷媒メタノールで30分間、冷却撹拌した。1.6Mブチルリチウムヘキサン溶液20mL,33mmolを30分かけて滴下した。そのまま3時間、−78℃を保った。次いで、ヨウ素9.78 g,35.8mmolを溶解させたTHFdry溶液50mLを30分間かけて滴下した。そのまま−78℃を保ちながら、1時間撹拌した後、一夜かけてゆっくり室温に戻した。20%チオ硫酸ナトリウム水溶液およそ30mLを加えた。次いで反応液がおよそ1/10になるまで溶媒を減圧留去した後、沈殿を濾過し、5%チオ硫酸ナトリウム水溶液、水、冷メタノールの順番でケーキを洗浄した。得られた黄色固体をトルエン200mLで再結晶した結果、黄色針状晶9.46gを得た。9−ブロモ−10−ヨードアントラセン,収率 82%,mp.219〜220℃ lit.219~220℃。
【0022】
9−ブロモ−10−(4−ニトロフェニルエチニル)アントラセンの合成
コンデンサー,三方コック,窒素バルーン,温度計とメカニカルスターラーを備えた500mL4つ口丸底フラスコに、9−ブロモ−10−ヨードアントラセン1.15g,3.0mmol、PdCl(PPh0.172g,245×10−3mmol、CuI0.048g,250×10−3mmolを仕込み、真空ポンプで30分間減圧した後、窒素置換を3回行った。4−ニトロフェニルアセチレン0.44g,3.0mmolを溶解させたジイソプロピルアミン300mLをあらかじめ減圧下超音波を数分間照射して脱気した後、3回窒素置換してから、ガラスシリンジで反応容器に加えた。マントルヒーターで還流するまで加熱撹拌し、そのまま30分間還流を保った。反応液を冷却し、沈殿を濾過して、赤色固体を得た。この固体をクロロホルム160mLに加熱溶解、活性炭0.1gを加え、還流下15分間、撹拌した。残渣を濾過した後、赤色濾液から溶媒をおよそ30mL減圧留去して、加熱、再溶解させてから放冷すると沈殿が発生した。そのまま一夜冷凍庫にて保存した後、濾過、乾燥して赤色針状結晶0.92gを得た。9−ブロモ−10−(4−ニトロフェニルエチニル)アントラセン,収率79%,mp.255.0〜255.5℃,H NMR(DMSO−d6)δ8.76−8.74(m,2H,Anthracene),8.57−8.55(m,2H,Anthracene),8.38(d,2H,Ph), 8.21(d,2H,Ph), 7.57−7.83(m,4H,Anthracene)。
【0023】
9−(4−アミノフェニルエチニル)−10―(4−ニトロフェニルエチニル)アントラセンの合成
窒素バルーン、三方コック、温度計とメカニカルスターラーを備えた100mL4つ口丸底フラスコに、9−ブロモ−10(4−ニトロフェニルエチニル)アントラセン0.20g,0.50mmol、4−アミノフェニルアセチレン0.12g,1.0mmol、 PdCl(PPh0.172g,245×10−3mmolを仕込み、真空ポンプで30分間減圧した後、窒素置換を3回行った。 次いで、あらかじめ減圧下超音波を数分間照射して脱気したDMF20mLとジイソプロピルアミン1.4mLをガラスシリンジで加えた。そのまま室温にて20分間撹拌した。次いで、一旦セプタムラバーを開け、CuI0.012g,63×10−3mmolをすばやく加えた。85℃になるまでマントルヒーターで加熱、撹拌し、そのまま30分間、85℃を保った後、溶媒を減圧留去して、褐色固体を得た。この固体をトルエン200mLに加熱溶解させ、活性炭0.2gを加え、還流下15分間撹拌した後、熱濾過した。緑色がかった橙色濾液からおよそ150mLの溶媒を減圧留去して、加熱、再溶解させてから、放冷したところ、沈殿が発生したので、一夜冷凍庫で保存した後、濾過、乾燥して、暗赤褐色粉末を得た。さらにシリカゲルでカラム精製展開溶媒 クロロホルムした結果、暗赤褐色の粉末0.20gを得た。9−(4−アミノフェニルエチニル)−10−(4−ニトロフェニルエチニル)アントラセン,収率91%,H NMR(DMSO−d6)δ8.68−8.64(m,4H,Anthracene),8.35(d,2H,Ph),8.13(d,2H,Ph),7.82−7.75(m,4H,Anthracene),7.57(d,2H,Ph),6.70(d,2H,Ph),5.84(br s,2H,NH),m/z439.13(M + H),UV−VIS478nm(ε40300,トルエン),IR(diamond ATR)2180cm−1(alkyne)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式
【化1】

で表される9−(4−アミノフェニルエチニル)−10―(4−ニトロフェニルエチニル)アントラセン
【請求項2】
9−ブロモ−10−ヨードアントラセンと4−ニトロフェニルアセチレンおよび4−アミノフェニルアセチレンを反応させることを特徴とする9−(4−アミノフェニルエチニル)−10―(4−ニトロフェニルエチニル)アントラセンの製造方法。

【公開番号】特開2010−159232(P2010−159232A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3501(P2009−3501)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(391029462)和歌山精化工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】