説明

9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の連続製造方法

【課題】製造プロセスを連続化させて、高品質の製品を得る。
【解決手段】9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を生成させる反応工程、 前記反応工程から得られた反応生成物を、脱水する脱水工程、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を濃縮する濃縮工程、前記濃縮工程から得られた濃縮液を冷却等により結晶を晶析させる晶析工程、スラリーと母液及び洗浄液を分離する晶析生成物分離工程、前記晶析生成物分離工程で得られた結晶を含むスラリーから溶媒を除去する溶媒除去工程、前記溶媒除去工程で得られた溶媒を含む液、前記晶析生成物分離工程で得られた母液及び洗浄液のうち少なくとも一部を精製する溶媒精製工程、前記晶析生成物分離工程で得られた母液を精製して前記反応工程へ供給するフェノール類精製工程、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズ、フィルム、光ファイバー、光ディスク、耐熱性樹脂やエンジニアリングプラスチックなどの素材原料として有用なフルオレン誘導体、特に、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の連続製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビスフェノール類を原料とするポリマー(例えば、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル系樹脂など)において、従来品よりも一層の耐熱性、透明性および高屈折率を備えた材料が強く要望されている。フルオレン誘導体の一種である9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類は、高屈折率、低複屈折、透明性、耐熱性等の光学特性に優れたポリマー原料として有望であり、自動車用ヘッドランプレンズ、CD、CD−ROMピックアップレンズ、フレネルレンズ、レーザープリンター用fθレンズ、カメラレンズ、リアプロジェクションテレビ用投影レンズなどの光学レンズ、位相差フィルム、拡散フィルムなどのフィルム、プラスチック光ファイバー、光ディスク基板などの素材原料として期待されている。
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(ジアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(シクロアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(アリールヒドロキシフェニル)フルオレン等が挙げられる。
これらを製造する方法として、触媒の存在下でフルオレノンとフェノール類とを縮合反応させる方法が知られている。
縮合反応にはフルオレンを空気酸化して得られるフルオレノンを出発原料とし、塩化水素ガスおよびメルカプトプロピオン酸を触媒として用いてフェノールと縮合反応させる方法が知られている(特許文献1及び特許文献2)。
特許文献3には、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンの製法に用いる触媒として70%より高い硫酸含量の硫酸を使用し、共縮合剤としてβ−メルカプトプロピオン酸を用いる方法が挙げられている。
これらの反応工程を用いた場合、反応生成物には目的成分のほかに、水可溶性触媒である鉱酸が含まれ、後工程でその除去を必要とする。
特許文献4には、塩酸や硫酸などの水可溶性触媒を用いずに、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を触媒として用いる方法が提案されているが、ビスフェノール類の製造法においても塩酸、硫酸などの鉱酸を用いずにイオン交換樹脂を用いる発明がなされている(特許文献5及び特許文献6)。
このような反応工程を用いても、反応生成物には9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の他に、未反応のフェノール類とフルオレノン及び助触媒、反応で生成した水および副生物が含まれており、何らかの分離手段が必要である。その分離手段として、抽出・液液分離、蒸留、晶析などの方法が提案されている。
特許文献7には、フルオレノンとフェノール類を、チオール類と塩酸の共存下で縮合反応させるフルオレン誘導体の製造方法において、得られた反応混合物に抽剤を添加して目的化合物を有機層に分配させ、有機層に晶析溶媒を添加して包接化合物として晶析分離する方法が提案されている。
特許文献8には、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンの合成後の分離方法として付加物(包接化合物)を形成する溶剤を用いて結晶を析出させる方法が記載されている。
特許文献9には、同目的の分離方法として低脂肪酸アルコールと水を用いる方法が提案され、特許文献10には、低脂肪酸アルコールと芳香族炭化水素の混合溶媒を用いる方法が提案されている。
特許文献11には9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールフルオレンに同じ、以下BCFと表記する)の製造方法として炭素数6〜12の脂肪族炭化水素若しくは芳香族炭化水素又はこれらの混合溶媒を用いて晶析を行う方法が提案されている。また、特許文献12にはビスクレゾール類の精製に際し、炭素数1〜3の低級脂肪族アルコール及び炭素数3〜7の低級脂肪族ケトンを含む混合溶媒を用いて晶析を行う方法が提案されている。
以上の公知技術から反応工程のみを連続化しても、発生する水の分離、助触媒の分離、未反応フェノール類の分離、包接化合物を構成する晶析溶媒の分離が必要となり、工業化を意図した場合には複数の分離工程をも含めた連続化を要する。分離工程で回収された有用成分を循環再利用させるには、不純物を抑制しつつ製品回収率を向上させることが必要であるが、各分離工程で発生する不純物の組成と再利用先であるそれぞれの工程の特性について言及した文献はなく、未だ有効な連続生産方法は提案されていなかった。
【特許文献1】特開昭62−230741号公報(特許1611498号)
【特許文献2】特開平10−265423号公報(特許3500488号)
【特許文献3】特開昭61−103846号公報
【特許文献4】特開平5−000980号公報
【特許文献5】特開昭45−10337号公報(特許585576号)
【特許文献6】特開昭57−35533号公報(特許1468745号)
【特許文献7】特開2002−047227号公報(特許3490960号)
【特許文献8】特開昭62−230741号公報(特許1611498号)
【特許文献9】特開平4−41450号公報
【特許文献10】特開平4−41451号公報
【特許文献11】特開平10−265423号公報(特許3500488号)
【特許文献12】特開平10−245352号公報(特許3521242号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明が解決しようとする主たる課題は、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を連続的に製造する方法を提供することである。他の課題は、得られる結晶粒径が大きく、結晶品質に優れるなどの利点をもたらす9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の連続製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは研究の結果、有機的に結合された一連の工程により、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を連続的に製造する方法を見出し、特に、各工程に適した物質循環がされるように工程を組み合わせることにより原料原単位及びエネルギー原単位を抑え得ることを見出した。
【0005】
前記課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
以下の工程を含むことを特徴とする9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の連続製造方法。
9−フルオレノンとフェノ−ル及びアルキルフェノ−ルから選ばれたフェノ−ル類とを触媒の存在下で縮合反応させ、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を生成させる反応工程、
前記反応工程から得られた反応生成物から水分を除去して、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を含むフェノール類溶液を得る脱水工程、
前記脱水工程で得られた9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を含む溶液からフェノール類を分離し、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を濃縮する濃縮工程、
前記濃縮工程で得られた濃縮液から9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を晶析させる晶析工程、
前記晶析工程で得られた晶析生成物から結晶を分離するとともに、分離結晶を洗浄する晶析生成物分離工程、
前記晶析生成物分離工程で得られた結晶を含むスラリーから溶媒を除去して製品化する溶媒除去工程、
前記溶媒除去工程で得られた溶媒を含む液、前記晶析生成物分離工程で得られた母液及び洗浄液のうち少なくとも一部を精製して溶媒を再利用するための溶媒精製工程、
前記晶析生成物分離工程で得られた母液及び前記溶媒精製工程で精製溶媒を回収した残りの液のうち少なくとも一部を精製して前記反応工程へ供給するフェノール類精製工程。
【0006】
〔請求項2記載の発明〕
前記溶媒精製工程で得られた液を前記脱水工程で得られた9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を含む溶液と共に前記濃縮工程に供給する請求項1記載の9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の連続製造方法。
【0007】
〔請求項3記載の発明〕
前記濃縮工程で得られたフェノール類を含む液を、前記反応工程に供給する請求項1記載の9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の連続製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の連続製造方法は9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の製造効率を上げ、原料原単位を従来のバッチ製造方法と比較して低廉に抑えることができ、さらに、従来のバッチ製造方法と同等以上の製品純度、回収率を実現することができる。
ちなみに、従来のバッチプロセスで得られた結晶粒径は約50μm程度であったが、連続プロセスにより得られた結晶粒径は約60〜80μm程度であり、1.2〜1.6倍程度の粒径をもつ無色透明の結晶が得られ、結晶粒径が大きいものとなる。
このように、連続プロセスによる結晶は、結晶粒径が大きく、濁りがないことから、結晶中への母液の巻き込みが少ないものであると考えられ、結晶の純度が高いものとなる。また、結晶に付着する母液量が少ないので、連続的に効率のよい結晶洗浄を行うことができることから、目標の製品品質を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明を図面を参照しながら説明する。まず、代表例を示し、その後に本発明の適用範囲について説明する。
<第1の実施の形態>
図1は本発明により9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を製造するための第1の実施の形態に係る工程図である。
図1において、1は反応工程、2は脱水工程、3は濃縮工程、5は晶析工程、6は晶析生成物分離工程、7は溶媒除去工程、8は溶媒精製工程、9はフェノール類精製工程を各々示す。
【0010】
反応工程1においては触媒の存在下で9−フルオレノンとフェノール類を反応させ、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を含む反応生成物を得る。触媒としては、塩酸や硫酸等の鉱酸や、スルホン酸型陽イオン交換樹脂が用いられるが、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の使用が望ましい。また、必要に応じて助触媒として慣用のチオール類、例えば、メルカプトカルボン酸(チオ酢酸、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸など)、アルキルメルカプタン(メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなど)、アラルキルメルカプタン(ベンジルメルカプタンなど)又はこれらの塩などを用いる。フェノール類の使用量はフルオレノン1モルに対して2〜50モル、好ましくは6〜30モルである。反応温度は30〜150℃、好ましくは60〜120℃である。
この反応は、例えばフェノール類としてオルトクレゾールを選択した場合には、次のように表される。

すなわち、1モルのフルオレノンに2モルのオルトクレゾールが反応し、1モルのBCFと1モルの水が発生する。
反応工程1で得られた反応生成物は、目的物である9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類のほか、未反応のフェノール類及び助触媒を含む。更に、少量の9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の異性体、二量体、三量体、ビスフェノール類、トリスフェノール類、クロマン化合物等の副生物を含む。
フェノール類としてオルトクレゾールを選択した場合の副生物の例として、BCFの2量体(以下WBCFと表記する)が挙げられる。WBCFは次のような構造で表される。

【0011】
反応工程1で得られた反応生成物は、ライン13を通って脱水工程2に供給される。この脱水工程2には反応で生成した水を除去する他、必要に応じて触媒等を除去する機能も含むものとする。すなわち脱水工程2は、アルカリによる酸触媒の中和、有機溶媒による水の分離・抽出、蒸発、蒸留などを適宜組み合わせた複合工程であってもよい。なお、反応工程1で特にスルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いれば中和を必要としないので好ましい。
脱水工程2では水を多く含むフェノール類水溶液がライン14を通って系外へ排出され、脱水後の反応生成物はライン15を通って濃縮工程3に供給される。濃縮工程3では過剰の未反応のフェノール類を除去する。濃縮工程3には一般には蒸発缶を用いることができ、分離されたフェノール類は凝縮後、ライン16を通って反応工程1に返送することが望ましい。濃縮工程3での蒸気をライン16を通して反応工程1へ返送することは、後述のフェノール類精製工程9での熱量原単位を低減させるのに寄与する。脱水工程2及び濃縮工程3では最終製品の着色や劣化を防止するため操作温度を180℃以下、望ましくは120℃以下にする必要があり、そのため、これらの工程は真空下で操作される。従って、濃縮工程3ではこの操作温度において結晶が析出せず、輸送に支障がない程度の粘性を保つ濃度に液を濃縮する。
【0012】
晶析工程5では適宜の手法あるいは装置を使用して晶析させることができる。たとえば、冷媒をジャケットに通し、液を間接的に冷却する間接冷却晶析缶を用いる。
晶析工程5で得られた結晶を含むスラリーは、ライン20を通して晶析生成物分離工程6に供給される。晶析生成物分離工程6では固液分離ができる分離機であればどのような分離機を用いてもよい。このような分離機としては、遠心分離機や濾過機が一般的に用いられるが、必要とする動力、メンテナンスの容易性、母液と洗浄液を別々に取り扱うことが容易である点などから濾過機を用いるのが望ましい。濾過機として、特に水平ベルトフィルターを使用するのが洗浄及びろ過特性に優れる。水平ベルトフィルターを用いた場合について説明すると、濾過機を用いた晶析生成物分離工程6では固液分離された結晶の洗浄液として、後述する溶媒精製工程8で得られ、ライン28を通じて供給される精製溶媒を用いることが望ましく、また、系全体として溶媒が損失するため、新たな溶媒を供給してもよい。溶媒の補充供給は精製溶媒と新たな溶媒を混合してから晶析生成物分離工程6に供給してもよいが、混合せずに新たな溶媒をケーキ洗浄に用いてもよい。水平ベルトフィルターにスラリーを供給して得られる母液と、母液分離後に残留した濾過結晶をさらに溶媒で洗浄することにより得られる洗浄液とは、それぞれライン21、ライン22を通って溶媒精製工程8へ供給される。洗浄液分離後に残留した洗浄結晶はライン23を通って溶媒除去工程7へ供給することができる。
【0013】
溶媒除去工程7では洗浄結晶中に含まれる溶媒を除去し、ライン25を通して、高純度の9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を製品として得る。溶媒除去には一般的に加熱乾燥機を用いることができ、その加熱による製品変性をできる限り抑制しなければならないことから、溶媒はできるだけ沸点の低いものを選定すべきであり、たとえばトルエンを使用できる。また、窒素などのキャリアーガスを使用することも有効である。操作温度は180℃以下、望ましくは120℃以下で行われる。加熱乾燥機を使用する場合における溶媒除去工程7で除去された溶媒は、一部がライン36を通って系外へパージされ、残りはライン24を通って溶媒精製工程8へ供給される。
【0014】
ライン21を通る母液及びライン22を通る洗浄液には溶媒が含まれているので、溶媒精製工程8で回収する。溶媒精製工程8においても製品の着色や品質劣化防止のため180℃以下、望ましくは120℃以下で操作する必要があり、減圧蒸留を用いるのが望ましい。低沸点成分の循環蓄積を防止するため一部をライン27を通して系外へ除去(必要に応じて燃焼処理)し、残りを晶析生成物分離工程の洗浄液として使用する。
溶媒を回収した後の残りの溶液には、主にフェノール類が含まれるが、未回収溶媒、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類、未反応のフルオレノン、反応副生物などが含まれる。この溶液はライン29を通って溶媒精製工程8から排出され濃縮工程3へ供給する。
【0015】
晶析生成物分離工程6の母液の一部は、ライン31によりフェノール類精製工程9へ供給される。
フェノール類精製工程9は、製品の着色や品質劣化防止のため200℃以下、望ましくは140℃以下で操作する必要があるが、フェノール類(たとえばクレゾール)が高沸点であるため、減圧蒸留を用いるのが望ましい。ライン31を通る母液はフェノール類精製工程9により、軽質成分をライン32で、重質成分(WBCFなど)をライン33で除去され、精製されたフェノール類としてライン34を通って反応工程1に供給される。
【0016】
<第2の実施の形態>
図2は9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を製造するための第2の実施の形態に係る工程図である。各工程を示す番号は図1と同じである。
第2の実施の形態は第1の実施の形態と共通する工程及びラインを含んでいるが、以下の点で相違している。
濃縮工程3での蒸気はライン16を通して、フェノール類精製工程9に送られる。また、晶析生成物分離工程6で得られた母液と洗浄液はともに全量が溶媒精製工程8へ送られる。溶媒精製工程8で溶媒を回収した後の残りの溶液は全量がライン29を通ってフェノール類精製工程9へ送られ、軽質成分と重質成分が分離除去される。
【0017】
<本発明の開示範囲>
本発明において使用するフェノ−ル類としては、フェノ−ル又はアルキルフェノ−ルであり、例えば2−C1-4アルキルフェノール(オルトクレゾールなど)が好ましく使用できる。
反応器としては、イオン交換樹脂の充填塔を使用でき、液をダウンフローとして、発生する反応熱はジャケットを通す温水により除去することができる。
触媒として使用するイオン交換樹脂としては、たとえば強酸性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂を使用することができる。他に使用することができるイオン交換樹脂としては、本明細書に記載の特許文献に記載のものが参照される。
【実施例】
【0018】
以下に実施例及び比較例を示し本発明の効果を明らかにする。
〔実施例1〕
図1に示す工程に従って、原料に、9−フルオレノンとフェノール類としてオルトクレゾールを使用し、助触媒にβ−メルカプトプロピオン酸(以下βMPA)を使用して、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類としてBCFを連続的に製造する場合の原料原単位を、インベンシス社のシミュレータであるPRO/II(製品名)を用いて計算した。シミュレーション・パラメータとして、年間生産量は2000t/yとした。スルホン酸型イオン交換樹脂を用いた反応実験結果をもとにするとフルオレノンの転化率は99%となるが、運転変動などを考慮して、フルオレノンの転化率を95%、BCF選択率を97%と設定し、副生成物はすべてWBCFになるとした。原料オルトクレゾールの純度は99.7wt%(不純物としてフェノール等を指定)、原料トルエンの純度は99.9wt%(不純物としてベンゼン等を指定)とした。原料モル比率はオルトクレゾール/フルオレノンで20、フルオレノン/βMPAで40とした。BCFのオルトクレゾールに対する溶解度曲線は実測値をもとに対数関数として近似した。
その結果、各原料原単位は、オルトクレゾールは0.77kg/kgBCF、フルオレノンは0.57kg/kgBCF、トルエンは0.0022kg/kgBCFであった。ユーティリティ原単位は低圧スチームが0.4kg/kgBCF、中圧スチームが4.5kg/kgBCF、冷却水が0.5Ton/kgBCFであった。廃棄物量は廃水が0.054kg/kgBCF、軽質廃棄物は0.002kg/kgBCF、中質廃棄物は0.02kg/kgBCF、重質廃棄物は0.27kg/kgBCFであった。BCF回収率は90%となり、BCF純度は99.6wt%、製品中のT−S濃度は5.2ppmとなった。
【0019】
〔比較例1〕
同原料を使用し、バッチ方式で製造した。すなわち撹拌器、冷却器、および温度計を備えた2Lのガラス製反応器に、純度99%のフルオレノン70g、オルトクレゾール250g、βMPA0.4g、および濃硫酸15gを仕込み、55℃で6時間攪拌することにより、反応を行った。HPLCで確認した結果、フルオレノンの残存量は0.1%以下であった。得られた反応混合液に、トルエン300gおよび水80gを加え、32%水酸化ナトリウム水溶液をpHが約7になるまで加えて中和した後、水層を除去した。有機層を80℃に加温した後に、水80gで3回洗浄した。減圧蒸留により有機層からトルエン300gを回収したのち、有機層にトルエン−アセトンの混合溶媒(混合比率1:4)400mlを加えて70℃で1時間攪拌したのちに、10℃まで冷却し、再結晶させることにより、目的生成物であるBCF140gを得た。この場合には、BCF回収率89%、BCF純度99.7wt%、製品中のT−S濃度6.2ppmとなった。また、結晶粒度は約50μmであった。また、原料原単位は、オルトクレゾールは0.924kg/kgBCF、フルオレノンは0.529kg/kgBCF、βMPAは0.003kg/kgBCF、98%硫酸は0.091kg/kgBCF、アセトンは1.063kg/kgBCF、トルエンは0.15kg/kgBCFであった。ユーティリティ原単位は蒸気が6.062kg/kgBCF、廃棄物量は廃水が2.533kg/kgBCFであった。
【0020】
〔実施例2〕
図2に示す工程に従って、実施例1同様シミュレータによって計算したところ、オルトクレゾールは1.30kg/kgBCF、フルオレノンは0.96kg/kgBCF、トルエンは0.0025kg/kgBCFであった。ユーティリティ原単位は低圧スチームが0.4kg/kgBCF、中圧スチームが8.1kg/kgBCF、冷却水が0.8Ton/kgBCFであった。廃棄物量は廃水が0.093kg/kgBCF、軽質廃棄物は0.002kg/kgBCF、中質廃棄物は0.02kg/kgBCF、重質廃棄物は1.15kg/kgBCFであった。BCF回収率は54%となり、BCF純度は99.1wt%、製品中のT−S濃度は5.0ppmとなった。
【0021】
〔実施例3〕
図1に示す工程に従って、原料に、9−フルオレノンとオルトクレゾールを使用し、助触媒にβMPAを使用して、BCFを製造し、結晶粒度を測定した。分析には島津レーザ回折式流度分布測定装置(SALD−2000J)を用いた。分散材には水と界面活性剤を使用した。メディアン径は74μm、平均粒径は66μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明によりビスフェノールフルオレン類を製造するための第1の実施の形態の工程図である。
【図2】第2の実施の形態の工程図である。
【符号の説明】
【0023】
1…反応工程、2…脱水工程、3…濃縮工程、5…晶析工程、6…晶析生成物分離工程、7…溶媒除去工程、8…溶媒精製工程、9…フェノール類精製工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むことを特徴とする9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の連続製造方法。
9−フルオレノンと、フェノ−ル及びアルキルフェノ−ルから選ばれたフェノ−ル類とを触媒の存在下で縮合反応させ、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を生成させる反応工程、
前記反応工程から得られた反応生成物から水分を除去して、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を含むフェノール類溶液を得る脱水工程、
前記脱水工程で得られた9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を含む溶液からフェノール類を分離し、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を濃縮する濃縮工程、
前記濃縮工程で得られた濃縮液から9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を晶析させる晶析工程、
前記晶析工程で得られた晶析生成物から結晶を分離するとともに、分離結晶を洗浄する晶析生成物分離工程、
前記晶析生成物分離工程で得られた結晶を含むスラリーから溶媒を除去して製品化する溶媒除去工程、
前記溶媒除去工程で得られた溶媒を含む液、前記晶析生成物分離工程で得られた母液及び洗浄液のうち少なくとも一部を精製して溶媒を再利用するための溶媒精製工程、
前記晶析生成物分離工程で得られた母液及び前記溶媒精製工程で精製溶媒を回収した残りの液のうち少なくとも一部を精製して前記反応工程へ供給するフェノール類精製工程。
【請求項2】
前記溶媒精製工程で得られた液を前記脱水工程で得られた9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を含む溶液と共に前記濃縮工程に供給する請求項1記載の9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の連続製造方法。
【請求項3】
前記濃縮工程で得られたフェノール類を含む液を、前記反応工程に供給する請求項1記載の9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の連続製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−115140(P2008−115140A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302417(P2006−302417)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000165273)月島機械株式会社 (253)
【Fターム(参考)】