説明

A−87774化合物又はその塩、それらの製法及びそれらを有効成分として含有する農薬

【課題】微生物代謝産物の環境中で分解されやすいという特長を備え、環境負荷を考えた活性物質の製法及びそれらを有効成分として含有する農薬を提供する。
【解決手段】除草活性又は植物生長調節活性を有する新規なA−87774化合物又はその塩、それらを生産する微生物、それらの製法、それらを有効成分として含有する農薬(特に、除草剤又は植物生長調節剤)、それらを用いる方法、及び微生物の培養。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A−87774化合物又はその塩、それらを生産する微生物、それらの製法、それらを有効成分として含有する農薬(特に、除草剤又は植物生長調節剤)、それらを用いる方法、及び微生物の培養物に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物は様々な生理活性物質を生産し、その一部は農業分野において生産性向上のために有効に利用されている。例えば、ミルベマイシン類、アベルメクチン類やスピノシン類が殺虫剤として、ブラストサイジンやカスガマイシンが殺菌剤として実用化されている。
【0003】
一方、除草剤の分野ではビアラホスが商品化されている。
【0004】
微生物代謝産物は、農薬として使用された場合、環境中で分解されやすいという利点を有しており、これは環境負荷を考えた場合、これからの農薬が備えるべき望ましい性質と言える。しかし、除草活性を有する化合物としては、先の化合物以外は実用化に至っておらず、新規な活性物質の製造が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の目的は、除草活性又は植物生長調節活性を有する新規なA−87774化合物又はその塩、それらを生産する微生物、それらの製法、それらを有効成分として含有する農薬(特に、除草剤又は植物生長調節剤)、それらを用いる方法、及び微生物の培養物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題点に鑑み、微生物代謝産物の探索を鋭意進めた結果、ストレプトマイセス(Streptomyces)に属する微生物の培養液中に極めて強い除草活性を有する複数の化合物が存在することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、A−87774−1、A−87774−2又はA−87774−3で表されるA−87774化合物又はその塩、当該化合物を生産する微生物、当該化合物の製法、当該化合物を有効成分として含有する農薬(特に除草剤及び植物生長調節剤)、当該化合物を用いる除草方法及び植物生長を調節する方法、当該微生物を培養することにより得ることができる培養物、当該培養物を含有する農薬を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の新規なA−87774化合物は、優れた除草作用又は植物生長調節作用を有しており、農薬(特に、除草剤又は植物生長調節剤)として、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、化合物A−87774−1の1H−核磁気共鳴スペクトルを示す。
【図2】図2は、同化合物の13C−核磁気共鳴スペクトルを示す。
【図3】図3は、同化合物の赤外吸収スペクトルを示す。
【図4】図4は、化合物A−87774−2の1H−核磁気共鳴スペクトルを示す。
【図5】図5は、同化合物の13C−核磁気共鳴スペクトルを示す。
【図6】図6は、同化合物の赤外吸収スペクトルを示す。
【図7】図7は、化合物A−87774−3の1H−核磁気共鳴スペクトルを示す。
【図8】図8は、同化合物の13C−核磁気共鳴スペクトルを示す。
【図9】図9は、同化合物の赤外吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の新規な化合物A−87774−1は、以下の性状:
1)分子量:668、
2)分子式:C1829417PS2
3)重水中で測定したときの1H−核磁気共鳴スペクトル(δppm):5.86(1H,d,J=5.9Hz)、5.59(1H,d,J=11.0Hz)、4.56(1H,q,J=6.9Hz)、4.42(1H,dd,J=11.2,2.9Hz)、4.38(1H,dd,J=11.2,3.7Hz)、4.30〜4.27(2H,m)、4.24〜4.23(2H,m)、4.07(1H,d,J=10.1Hz)、3.97(1H,dd,J=12.7,2.1Hz)、3.61(1H,dd,J=11.3,10.3Hz)、3.55(1H,m)、3.52(1H,m)、3.33(1H,dd,J=11.4,1.8Hz)、2.72(1H,dd,J=7.0,6.6Hz)、1.42(3H,d,J=6.9Hz)、
4)重水中で測定したときの13C−核磁気共鳴スペクトル(δppm):178.6(s)、174.0(s)、154.8(s)、91.4(s)、89.2(d)、87.6(d)、80.8(d)、74.8(d)、73.5(d)、70.2(d)、70.2(d)、70.0(t)、63.7(d)、60.6(d)、53.8(t)、36.5(t)、30.3(t)、18.3(q)、
5)KBrディスクで測定したときの赤外線吸収スペクトル(νmaxcm−1):3423,1703,1639,1487,1450,1406,1383,1339,1258,1217,1184,1088,1067,937,899,827,536、及び
6)比旋光度:[α]D24+40.0°(c,0.22、HO中)
を有する。
【0011】
本発明の新規な化合物A−87774−2は、以下の性状:
1)分子量:666、
2)分子式:C1827417PS2
3)重水中で測定したときの1H−核磁気共鳴スペクトル(δppm):7.73(1H,d,J=8.1Hz)、5.91(1H,d,J=2.4Hz)、5.90(1H,d,J=8.1Hz)、5.60(1H,d,J=10.8Hz)、4.57(1H,q,J=6.9Hz)、4.55(1H,d,J=11.4Hz)、4.46(1H,dd,J=11.2,2.2Hz)、4.34〜4.32(3H,m)、4.22(1H,d,J=12.6Hz)、4.07(1H,d,J=10.1Hz)、3.96(1H,dd,J=12.6,1.7Hz)、3.61(1H,dd,J=11.4,10.1Hz)、3.32(1H,d,J=11.4Hz)、1.42(3H,d,J=6.9Hz)、
4)重水中で測定したときの13C−核磁気共鳴スペクトル(δppm):178.6(s)、166.3(s)、151.8(s)、141.7(d)、102.8(d)、91.3(s)、89.3(d)、89.2(d)、81.5(d)、74.8(d)、73.5(d)、73.4(d)、69.5(d)、69.4(t)、63.7(d)、60.6(d)、53.8(t)、18.3(q)、
5)KBrディスクで測定したときの赤外線吸収スペクトル(νmaxcm−1):3399,1706,1455,1405,1346,1266,1185,1087,1067,934,900,826,534、及び
6)比旋光度:[α]D24+47.2°(c,1.0、HO中)
を有する。
【0012】
本発明の新規な化合物A−87774−3は、以下の性状:
1)分子量:828、
2)分子式:C2437422PS2
3)重水中で測定したときの1H−核磁気共鳴スペクトル(δppm):7.74(1H,d,J=8.1Hz)、5.94(1H,d,J=5.3Hz)、5.91(1H,d,J=8.1Hz)、5.60(1H,d,J=11.0Hz)、5.01(1H,br.s)、4.57(1H,q,J=6.9Hz)、4.57(1H,m)、4.50〜4.48(3H,m)、4.41(1H,m)、4.22(1H,d,J=12.5Hz)、4.07(1H,d,J=10.1Hz)、4.04(1H,dd,J=3.3,1.8Hz)、3.96(1H,dd,J=12.5,1.3Hz)、3.87(1H,d,J=12.3Hz)、3.85(1H,m)、3.71(1H,dd,J=12.3,4.4Hz)、3.63〜3.61(3H,m)、3.32(1H,d,J=11.4Hz)、1.42(3H,d,J=6.9Hz)、
4)重水中で測定したときの13C−核磁気共鳴スペクトル(δppm):178.6(s)、166.3(s)、151.8(s)、141.6(d)、102.9(d)、100.3(d)、91.3(s)、89.2(d)、89.1(d)、80.2(d)、74.8(d)、74.1(d)、73.8(d)、73.5(d)、72.2(d)、70.3(d)、69.9(d)、69.3(t)、66.8(d)、63.7(d)、61.0(t)、60.6(d)、53.7(t)、18.3(q)、
5)KBrディスクで測定したときの赤外線吸収スペクトル(νmaxcm−1):3396,1705,1402,1340,1265,1184,1090,1063,937,899,825,538、及び
6)比旋光度:[α]D24+78.7°(c,1.0、HO中)
を有する。
【0013】
A−87774化合物の塩は、A−87774化合物の除草作用又は植物生長調節作用を損なわない限り任意の塩であることができる。A−87774化合物の塩は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩のようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;又はイソプロピルアミン及びトリエチルアミンのような有機アミンとの塩であり得、好ましくは、ナトリウム塩である。
【0014】
本発明のA−87774化合物は、微生物を培養して、その培養物から単離することができる。
【0015】
本発明の化合物A−87774の製造法において用いられるストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌株としては、例えば、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)SANK 61805株を挙げることができる。SANK 61805株の菌学的特徴は、次のとおりである。なお、SANK 61805株の形態的性質、各種培養基上の諸性質、生理学的性質、化学分類学的性質及び16SrRNA遺伝子などの分類学的解析は、「放線菌の分類と同定」(日本放線菌学会編、日本学会事務センター刊、2001年)に記載された方法に従った。
【0016】
1.形態学的特徴
SANK 61805株は、ISP〔インターナショナル・ストレプトマイセス・プロジェクト(International Streptomyces Project)〕規定の寒天培地上28℃で14日間培養後、顕微鏡で観察した。基生菌糸は良好に伸長、分岐し、薄黄味茶、黄味茶乃至灰味黄茶色を示す。ノカルディア(Nocardia)属菌株様の菌糸断裂やジグザグ伸長は観察されない。気菌糸は単純分岐し、白、茶味灰乃至灰味黄茶を示す。気菌糸の先端に10乃至50個又はそれ以上の胞子連鎖を形成し、胞子連鎖の形態は直鎖状まれにらせん状を示す。走査型電子顕微鏡による観察での表面構造は平滑(smooth)状を示す。胞子は楕円形であり、その大きさは0.4乃至0.8×0.8乃至1.2μmである。また、気菌糸の車軸分岐、菌核や胞子のうなどの特殊器官は観察されない。
【0017】
2.各種培養基上の諸性質
各種培養基上で、28℃で14日培養後の性状を表1に示す。色調の表示はマンセル方式による日本色彩研究所版「標準色票」のカラーチップ・ナンバーを表す。
【0018】
【表1】

【0019】
1)「G」、「AM」、「R」及び「SP」は、それぞれ、「生育」、「気菌糸」、「裏面」及び「可溶性色素」を示す。
2)性状の欄の括弧内の表示はマンセル方式による色調表示である。
【0020】
3.生理学的性質
28℃で培養した後、2乃至21日間観察したSANK 61805株の生理学的性質を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
1)「培地1」は「トリプトン・イーストエキス・ブロス(ISP1)」を示す。
2)「培地2」は、「ペプトン・イーストエキス・鉄寒天(ISP6)」を示す。
3)「培地3」は、「チロシン寒天(ISP7)」を示す。
4)「培地4」は、「イーストエキス・麦芽エキス寒天(ISP2)」を示す。
また、プリドハム・ゴトリーブ寒天培地(ISP9)を使用して、28℃で、14日間培養した後に観察したSANK 61805株の炭素源の資化性を表3に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
「+」は、「利用する」を示し、「±」は、「弱く利用する」を示し、「−」は、「利用しない」を示す。
【0025】
4.菌体成分について
SANK 61805株の化学分類学的性状は、「放線菌の分類と同定」(Identification Manual of Actinomycetes)〔日本放線菌学会編、日本学会事務センター、49-82頁(2001)〕に従い検討した。その結果、細胞壁からLL−ジアミノピメリン酸が検出され、全細胞中の糖成分として特徴的なパターンは認められなかった。主要メナキノン分子種として、MK−9(H6)、MK−9(H8)が検出された。
【0026】
5.16S rRNA遺伝子解析
SANK 61805株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(1325bp)を解読し、データベース検索を行った結果、SANK 61805株はストレプトマイセス属のクラスターに含まれた。
【0027】
ISP〔インターナショナル・ストレプトマイセス・プロジェクト(International Streptomyces Project)〕基準、ワックスマン著、ジ・アクチノミセテス(S. A. Waksman、The Actinomycetes)第2巻、ブキャナンとギボンズ編、バージーズ・マニュアル(R. E. Buchanan and N. E. Gibbons、Bergey's Manual of Determinative Bacteriology)第8版(1974年)、バージーズ・マニュアル(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology)第 4 巻(1989年)、及びストレプトマイセス(Streptomyces)属放線菌に関する最近の文献によって同定を行い、本菌株が放線菌の中でもストレプトマイセス(Streptomyces)属に属すると判断した。そこで、本菌株をストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)SANK 61805株と命名した。
【0028】
以上の結果から、本菌株をストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)SANK 61805株(以下、本明細書において、「SANK 61805株」という。)と同定した。なお、本菌株は平成19年(2007年)6月19日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(住所:日本国茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)に国際寄託され、その受託番号はFERM BP−10840である。
【0029】
周知のとおり、放線菌は、自然界において又は人工的な操作(例えば、紫外線照射、放射線照射、化学薬品処理等)により、変異を起こし易く、本発明のSANK 61805株も同様に変異を起こし易い。本発明にいうSANK 61805株は、そのすべての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝学的方法、例えば組み換え、形質導入、形質転換等により得られたものも包含される。即ち、化合物A−87774−1、A−87774−2又はA−87774−3を生産する、SANK 61805株及びその変異株及びそれらと明確に区別されない菌株は、すべてSANK 61805株に包含されるものである。
【0030】
本発明のA−87774化合物を生産する菌株(生産菌)を培養するに際し、使用される培地は、炭素源、窒素源、無機イオン及び有機栄養源から選択されたものを適宜含有する培地であり得、合成又は天然培地の何れをも含む。
【0031】
該栄養源は、従来真菌類及び放線菌類の菌株の培養に利用されている公知のものであり得、微生物が資化できる炭素源、窒素源及び無機塩を含む。
【0032】
具体的には、炭素源は、例えば、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、マンニトール、グリセロール、デキストリン、オート麦、ライ麦、トウモロコシ澱粉、ジャガイモ、トウモロコシ粉、大豆粉、綿実油、水飴、糖蜜、大豆油、クエン酸又は酒石酸であり得、単一に、あるいは併用して使用され得る。該炭素源は、一般には、培地量の1〜10重量%の範囲で用いられるが、この範囲に限定されない。
【0033】
また、窒素源は、一般に、蛋白質又はその水解物を含有する物質であり得る。好ましい窒素源は、例えば、大豆粉、フスマ、落花生粉、綿実粉、スキムミルク、カゼイン加水分解物、ファーマミン、魚粉、コーンスチープリカー、ペプトン、肉エキス、生イースト、乾燥イースト、イーストエキス、マルトエキス、ジャガイモ、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム又は硝酸ナトリウムであり得、単一に、あるいは併用して使用され得る。該窒素源は、培地量の0.2〜6重量%の範囲で用いられることが好ましい。
【0034】
更に、栄養無機塩は、ナトリウム、アンモニウム、カルシウム、ホスフェート、サルフェート、クロライド又はカーボネートのイオンを得ることのできる通常の塩類であり得る。また、該栄養無機塩は、カリウム、カルシウム、コバルト、マンガン、鉄、亜鉛、ニッケル又はマグネシウムのような微量の金属でもあり得る。
【0035】
尚、液体培養に際しては、シリコーン油、植物油又は界面活性剤のような消泡剤を使用することができる。
【0036】
A−87774化合物を生産する菌株(生産菌、特にSANK 61805株)を培養して、化合物A−87774−1、A−87774−2又はA−87774−3を生産するための培地のpHは、好ましくは5.0〜8.0である。
【0037】
A−87774化合物を生産するための培養温度は、生産菌(特にSANK 61805株)が目的物質を生産する範囲内で適宜変更し得るが、好ましくは、22〜36℃である。
【0038】
A−87774化合物は、生産菌(特にSANK 61805株)を好気的に培養し、培養物から採取することにより得られる。そのような培養法は、通常用いられる好気的培養法、例えば固体培養法、振とう培養法又は通気攪拌培養法であり得る。
【0039】
A−87774化合物は、生産菌(特にSANK 61805株)の培養液を液体と菌体に分離して、又は分離せずに、その物理化学的性質を利用して、濾液又は培養液から抽出することができ、好ましくは、液体と菌体に分離した後、抽出する。分離は、例えば、遠心分離法又は珪藻土を濾過助剤とする濾過法により行うことができる。
【0040】
A−87774化合物を菌体から抽出する場合は、菌体に水溶液又は水溶性有機溶媒を添加し、攪拌した後、混合物を、例えば遠心分離法又は珪藻土を濾過助剤とする濾過法に付すことにより、液相を分離する。得られた液相から水溶性有機溶媒を留去し(好ましくは、減圧で留去し)、その後、下記培養液の濾液と同様の操作を行い、化合物A−87774−1、A−87774−2又はA−87774−3を得ることができる。抽出に用いられる水溶性有機溶媒は、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル又はテトラヒドロフラン或はこれらの混合溶媒であり得、水溶性有機溶媒の添加割合は、0乃至95容積%である。
【0041】
A−87774化合物は水溶性物質であり、その物理化学的性状を利用することにより、これらを濾液から抽出・精製することができる。吸着剤としては、例えば活性炭、あるいは合成吸着剤が使用される。このような合成吸着剤は、例えば、ダイヤイオンHP−20のようなHPシリーズ(三菱化学製)又はアンバーライトXAD−2のようなXADシリーズ(オルガノ社製)であり得る。A−87774化合物を含む液から上記の如き吸着剤の層を通過させて、含まれる不純物を吸着させて取り除くか、A−87774化合物を一旦吸着させた後、有機溶媒で溶出することもできる。溶出有機溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル又はテトラヒドロフランのような水溶性有機溶媒であり得、また、水とこれらの水溶性有機溶媒との混合溶媒、さらに酢酸、蟻酸又はアンモニア水を加えてpHを調節した溶媒も使用され得る。また、吸着剤を用いずに、水不混和性の有機溶媒、例えば、酢酸エチル、トルエン、クロロホルム、塩化メチレン又はブタノールなどを、単独で又は組み合わせて使用し、A−87774化合物を含む水溶液中に含まれる不純物を抽出し、除去することも可能である。
【0042】
このようにして得られるA−87774化合物の抽出分画を、通常の有機化合物の精製に用いられる方法に供すことにより、さらに精製することができる。そのような精製方法は、例えば、吸着、分配、陽イオン交換、陰イオン交換、ゲル濾過のようなカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィーであり得る。これらのクロマトグラフィーに用いる担体は、例えば、シリカゲル、アルミナ、フロリジル、セルロース、活性炭、ダウエックス50W、アンバーライトCG−400、セファデックスLH−20、セファデックスG−25又はシリカゲルC18であり得、これらを単独に又は任意の順序で組み合わせて用いることにより、A−87774化合物を効率よく、単離・精製することができる。
【0043】
上記のようにして生産菌(特にSANK 61805株)を培養することにより得ることができる培養物から得られる本発明のA−87774化合物は、優れた除草活性を有するので、農薬、特に除草剤として、雑草又は土壌に処理することにより、農園芸分野での有害雑草、特に畑作雑草又は水田雑草を除草するために使用される。
【0044】
そのような有害な畑作雑草は、例えば、イヌホウズキ及びチョウセンアサガオのようなナス科雑草、イチビ及びアメリカキンゴジカのようなアオイ科雑草、マルバアサガオ及びセイヨウヒルガオのようなヒルガオ科雑草、イヌビユ及びアオゲイトウのようなヒユ科雑草、オナモミ、ブタクサ、ノボロギク及びヒメジョンのようなキク科雑草、カラシナ及びナズナのようなアブラナ科雑草、シロザ及びコアカザのようなアカザ科雑草、フィールドパンジーのようなスミレ科雑草、ハコベのようなナデシコ科雑草、シロツメクサ、クサネム及びエビスグサのようなマメ科雑草、スベリヒユのようなスベリヒユ科雑草、オオイヌノフグリのようなゴマノハグサ科雑草、ホトケノザのようなシソ科雑草、コニシキソウのようなトウダイグサ科雑草、イヌビエ、セイバンモロコシ、メヒシバ、オヒシバ、スズメノカタビラ、ススメノテッポウ、カラスムギ、ボウムギ、ライグラス、エノコログサ及びギョウギシバのようなイネ科雑草、コゴメガヤツリ及びキハマスゲのようなカヤツリグサ科雑草、ツユクサ及びマルバツユクサのようなツユクサ科雑草、スギナのようなトクサ科雑草であり得る。また、有害な水田雑草はタイヌビエのようなイネ科雑草、ホタルイ、ミズガヤツリ、マツバイ、クログワイ及びシズイのようなカヤツリグサ科雑草、オモダカ及びウリカワのようなオモダカ科雑草アゼナ、コナギ、キカシグサ及びミゾハコベのような広葉雑草であり得る。
【0045】
このような雑草に対するA−87774化合物の除草活性は、対象雑草の発芽後に茎葉部に薬液を処理し、又は対象雑草の発芽前に対象雑草の種子又は塊茎が存在する土壌に薬液を処理し、その後の雑草の生育を対照の無処理群と比較することにより、評価することができる。
【0046】
A−87774化合物は、畑地及び水田のみならず、果樹園、桑園、非農耕地及び山林においても使用することができる。
【0047】
更に、本発明のA−87774化合物は、植物を枯死させることなく、その生長を調節又は抑制する作用も有するので、植物生長調節剤として使用される。A−87774化合物を、適当な時期、濃度で植物体に処理することにより植物生長を調節することができるので、例えば水稲の短捍化による倒伏防止、芝生の生育抑制による刈込回数の低減等の種々の有用性が期待される。
【0048】
A−87774化合物は、農薬製剤として慣用される製剤にして施用することができる。そのような製剤は、例えば、乳剤、水和剤、顆粒水和剤、水溶剤、液剤、粉剤、粒剤、懸濁剤、フロアブル剤、ドライフロアブル剤、又はポリマー物質によるカプセル剤であり得る。
【0049】
これら製剤は、適当な添加剤及び担体を含有しても良く、固形剤に含有させるそのような添加剤及び担体は、例えば、大豆粉、小麦粉、澱粉及び結晶セルロースのような植物性粉末;珪藻土、燐灰土、石膏、タルク、ベントナイト、ゼオライト及びクレイのような鉱物性粉末;安息酸ソーダ、尿素、炭酸カルシウム及び芒硝のような有機若しくは無機化合物であり得る。また、液状剤に含有させる添加剤及び担体は、例えば、大豆油、ナタネ油及び綿実油のような植物油;鉱物油;ケロシン、キシレン及びトルエンのような芳香族炭化水素類;ホルムアミド及びジメチルホルムアミドのようなアミド類;エチレングリコールアセテート及びコハク酸ジエチルのようなエステル類;メチルイソブチルケトン及びアセトンのようなケトン類;エチレングリコールエチルエーテルのようなエーテル類;エチレングリコール及びイソプロパノールのようなアルコール類;ジメチルスルホキシド;トリクロルエチレン;又は水であり得る。液状剤を均一且つ安定にするために、界面活性剤を添加しても良い。
【0050】
適当な非イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸のスクロースエステル、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール及びオレイルアルコールのような高級脂肪族アルコールの酸化エチレン重合付加物;イソオクチルフェノール及びノニルフェノールのようなアルキルフェノールの酸化エチレン重合付加物;ブチルナフトール及びオクチルナフトールのようなアルキルナフトールの酸化エチレン重合付加物;パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸のような高級脂肪酸の酸化エチレン重合付加物;ステアリル燐酸及びジラウリル燐酸のようなモノ若しくはジアルキル燐酸の酸化エチレン重合付加物;ドデシルアミン及びステアリン酸アミドのような高級脂肪族アミンの酸化エチレン重合付加物;ソルビタンのような多価アルコールの高級脂肪酸エステル;及びその酸化エチレン重合付加物並びに酸化エチレンと酸化プロピレンの共重合体であり得る。
【0051】
適当な陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム及びオレイルアルコール硫酸エステルアミン塩のようなアルキル硫酸エステル塩;スルホコハク酸ジオクチルエステルナトリウム、オレイン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウムのような脂肪酸塩類;イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム、メチレンビスナフタレンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルアリールスルホン酸塩であり得る。また、適当な陽イオン性界面活性剤としては、例えば、高級脂肪族アミン、第4級アンモニウム塩類、アルキルピリジニウム塩類であり得る。
【0052】
農薬製剤におけるA−87774化合物の含有量は、剤型等に依存するが、例えば、上限は100重量%、下限は0.01重量%であり、好ましくは、0.1乃至50重量%である。A−87774化合物の農薬としての施用量は、対象雑草、生長調節の対象植物体、剤型、製剤中の含有量にもよるが、10アールあたり1000g乃至0.1gであり、好ましくは、100g乃至1gの範囲であり得る。
【0053】
次に実施例及び試験例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
実施例1
化合物A−87774−1及びA−87774−2の単離
(1)SANK 61805株の培養
下記培地組成で示される培地80mLを500mL容三角フラスコに入れ、121℃で、30分間加熱滅菌した。それぞれの培地にStreptomyces sp. SANK 61805株をスラントより1白金耳接種し、28℃で、210rpmで3日間回転振盪培養し、種培養液を得た。同じ組成の培地80mLを500mL容三角フラスコ100本に入れ、121℃で、30分間加熱滅菌し、これを室温まで冷却した。これに上記種培養液0.5mLを接種し、28℃で、210rpmで8日間回転振盪培養した。
【0055】
培地組成
可溶性澱粉 40g
グルコース 10g
大豆粉 10g
イーストエキス 4.5g
コーンスチープリカー 2.5g
リン酸二水素カリウム 0.5g
リン酸マグネシウム八水和物 0.05g
硫酸亜鉛七水和物 0.01g
硫酸ニッケル六水和物 0.001g
塩化コバルト六水和物 0.001g
CB−442(消泡剤) 0.05g
水道水 1000mL
滅菌前pH 7.5
【0056】
(2)化合物A−87774−1及びA−87774−2の単離
下記の方法にて活性成分の単離を行った。単離にあたっては、4cm角のポットに入れた水田土で7日間栽培したカラシナに、それぞれの分画画分の0.5mL溶液を散布し、その除草効果にて活性成分を追跡した。
上記(1)で得られた培養液8Lを遠心分離機(7500×g)によって、菌体と液体部とに分けた。菌体部をメタノールと攪拌した後、珪藻土上で濾過した。濾液を減圧下で濃縮した後、培養液液体部と合わせて5Lまで濃縮し、ダイヤイオンHP−20カラム(内径6cm、長さ31cm)に通し、通過した液とカラムを洗浄した水2.8Lを合わせた。これをDowex 50W×8カラム(H型:内径6cm、長さ33cm)に通し、通過した液とカラムを洗浄した水2Lを合わせた。次に、これを活性炭カラム(内径6cm、長さ20cm)に通し、活性成分を吸着させた。カラムを1Lの水、2Lのメタノール/水(3/1)で洗浄した後、2.5Lのメタノール/2.8%アンモニア水(4/1)で活性成分を溶出した。溶出液から、減圧下で溶媒を留去して得た固形物を水80mLに溶解し、Amberite CG−400 typeIカラム(Cl型:内径4cm、長さ22cm)に通した。カラムを1Lの0.02N−HCl、1Lの0.01M−NaClを含む0.02N−HClで順次洗浄した後、1.3Lの0.6M−NaClを含む0.02N−HClで活性成分を溶出した。NaClを除くため、これを再度活性炭カラム(内径3cm、長さ20cm)に通し、カラムを1Lの水で洗浄した後、1.5Lのメタノール/2.8%アンモニア水(4/1)で活性成分を溶出し、減圧下で溶媒を留去して、383mgの固形物を得た。
【0057】
この固形物をセファデックスG−25カラムクロマトグラフィーで精製した。すなわち、アセトニトリル、水及び酢酸の混合溶媒(容量混合比:73/27/0.1)で平衡化したセファデックスG−25カラム(内径2.5cm、長さ41cm)に、固形物を1mLの水に溶解してから載せ、同じ混合溶媒で溶出し、溶出液を12mLずつ分画した。除草活性を有する活性成分は、49から89番目に溶出したので、この分画の溶媒を減圧下で留去し、固形物130mgを得た。
【0058】
この固形物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した。HPLCカラムとしては資生堂CAPCELL−PAK C18 UG120Å(内径2cm、長さ25cm)を用い、溶離液としてはアセトニトリル、水及び酢酸の混合溶媒(容量混合比:4/96/0.1)を用い、カラムオーブン温度40℃、流速15mL/分で溶出させることにより、保持時間5.6〜9.6分に溶出する化合物A−87774−2の白色粉末11.3mgと、5.6分以前に溶出する化合物A−87774−1を含む画分81.3mgを得た。後者を再度、資生堂CAPCELL−PAK C18 UG120Å(内径1cm、長さ25cm)とアセトニトリル、水及び酢酸の混合溶媒(容量混合比:3/97/0.1)を用いたHPLC(カラムオーブン温度40℃、流速5mL/分)にて精製し、13.4〜16.6分に溶出する化合物A−87774−1の白色粉末2.4mgを得た。
【0059】
この化合物A−87774−1及びA−87774−2は、前述した、分子量、分子式、重水中で測定したときのH−核磁気共鳴スペクトル、重水中で測定したときの13C−核磁気共鳴スペクトル、KBrディスクで測定したときの赤外線吸収スペクトル及び比旋光度を有していた。化合物A−87774−1の1H−核磁気共鳴スペクトル、13C−核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを、それぞれ、図1、図2及び図3に示し、化合物A−87774−2の1H−核磁気共鳴スペクトル、13C−核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを、それぞれ、図4、図5及び図6に示す。なお、内部標準物質として、A−87774−1及びA−87774−2の1H−核磁気共鳴スペクトル及び13C−核磁気共鳴スペクトルには、メタノールを添加した。
測定装置は、下記の通りである。
核磁気共鳴スペクトル:JEOL ECA500
赤外吸収スペクトル:SHIMADZU FTIR−8400
比施光度:JASCO DIP−360
また、NMRの測定条件は、下記の通りである。
周波数 H:500.16MHz,13C:125.77MHz
測定温度,積算回数:
A−87774−1 H:23.9℃,8回,
13C:24.6℃,21600回,
A−87774−2 H:23.1℃,8回,
13C:24.6℃,46000回
【0060】
実施例2
化合物A−87774−3の単離
(1)SANK 61805株の培養
上記の実施例1(1)と同じ組成の培地80mLを500mL容三角フラスコ4本に入れ、121℃で、30分間加熱滅菌した。それぞれの培地にStreptomyces sp. SANK 61805株をスラントより1白金耳接種し、28℃で、210rpmで回転振盪培養した。7日目と14日目にグリセロールを2%相当になるように添加し、22日間培養を行った。
【0061】
(2)化合物A−87774−3の単離
上記(1)で得られた培養液320mLを遠心分離機(7500×g)によって、菌体と液体部とに分けた。菌体部をメタノールと攪拌した後、珪藻土上で濾過した。濾液を減圧下で濃縮した後、培養液液体部と合わせて濃縮した。これを活性炭カラム(内径1.6cm、長さ16cm)に通し、活性成分を吸着させた。カラムを120mLの水、メタノール/水(1/1)、メタノールで順次洗浄した後、120mLのメタノール/2.8%アンモニア水(4/1)で活性成分を溶出した。これを濃縮した後、3mLの水に溶解し、Dowex 50W×8カラム(H型:内径1.2cm、長さ9.5cm)に通し、通過した液とカラムを洗浄した水50mLを合わせた。次に、これをAmberite CG−400 typeIカラム(Cl型:内径1.8cm、長さ12cm)に通した。カラムに60mLの0.02N−HCl、80mLの0.01M−NaClを含む0.02N−HCl、200mLの0.6M−NaClを含む0.02N−HClを順次流し、20mLずつ分取したところ、活性成分が5から14番目の画分に溶出した。NaClを除くためこの画分を再度活性炭カラム(内径1.2cm、長さ10cm)に通し、カラムを50mLの水で洗浄した後、50mLのメタノール/2.8%アンモニア水(4/1)で活性成分を溶出し、減圧下で溶媒を留去して、237mgの固形物を得た。
【0062】
この固形物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した。HPLCカラムとして資生堂CAPCELL−PAK C18 UG120Å(内径2cm、長さ25cm)を用い、溶離液としてアセトニトリル、水及び酢酸の混合溶媒(容量混合比:3/97/0.4)を用い、カラムオーブン温度40℃、流速10mL/分で溶出させることにより、保持時間12.5〜16.8分に溶出する化合物A−87774−3の白色粉末7.3mgを得た。
【0063】
この化合物A−87774−3は、前述した、分子量、分子式、重水中で測定したときのH−核磁気共鳴スペクトル、重水中で測定したときの13C−核磁気共鳴スペクトル、KBrディスクで測定したときの赤外線吸収スペクトル及び比旋光度を有していた。化合物A−87774−3の1H−核磁気共鳴スペクトル、13C−核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを、それぞれ、図7、図8び図9に示す。なお、内部標準物質として、A−87774−3の1H−核磁気共鳴スペクトルにはアセトンを添加し、A−87774−3の13C−核磁気共鳴スペクトルには、酢酸を添加した。
測定装置は、下記の通りである。
核磁気共鳴スペクトル:JEOL ECA500
赤外吸収スペクトル:SHIMADZU FTIR−8400
比施光度:JASCO DIP−360
また、NMRの測定条件は、下記の通りである。
周波数 H:500.16MHz,13C:125.77MHz
測定温度,積算回数:
A−87774−3 H:23.1℃,64回,
13C:23.9℃,48000回
【0064】
試験例1
茎葉散布試験
化合物A−87774−1、A−87774−2及びA−87774−3を0.1%(W/V)のニューコール1200を含む水溶液に溶かして、100及び50mg/Lの溶液を調製した。4cm角のポットに粒状の水田土を入れ、カラシナ、イチビ、アオゲイトウ及びイヌビエの種子を播種し、温室内で7日間栽培した植物体に、この試験液0.5mLを散布し、14日後に除草効力を調査した。除草効力は5(枯死)〜0(活性なし)の6段階で評価した。これらの結果は表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
これらの結果から、A−87774化合物はいずれも優れた除草効果を示すことが分かった。
【0067】
試験例2
茎葉散布試験
水田土壌を入れたプラスチックポット〔10cm×15cm×3cm(高さ)〕に表2に示した供試植物を播種し、播種後14日目にA−87774−2を植物に散布した。薬液は0.01%(v/v)のグラミンSを含む水溶液に溶かした100mg/Lの液を調製し、2000L/ha換算の液量で散布を行った。(投与量200g/ha)。除草効力は14日後に調査し、5(枯死)〜0(活性なし)の6段階で評価した。これらの結果は表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
これらの結果から、化合物A−87774−2は幅広い雑草に優れた除草効果を示すことが分かった。
【0070】
試験例3
茎葉散布試験
水田土壌を入れたプラスチックポット〔10cm×15cm×3cm(高さ)〕に9種の供試植物を播種し、播種後14日目に0.1%(w/v)のニューユール1200を含む水溶液に溶かしたA−87774−2の62.5mg/L、又はA−87774−3の250mg、62.5mg/Lの液を2000L/ha換算の液量で植物に散布した。投与量はそれぞれ125g/ha、500g/ha、125g/haとなった。除草効力は15日後に調査し、5(枯死)〜0(活性なし)の6段階で評価した。これらの結果は表6に示す。
【0071】
【表6】

【0072】
これらの結果から、化合物A−87774−3も幅広い雑草に優れた除草効果を示すことが分かった。
【0073】
試験例4
土壌処理試験
水田土壌を入れたプラスチックポット〔10cm×15cm×3cm(高さ)〕に7種の供試植物を播種し、1日後にA−87774−2又はA−87774−3の50mg/L又は12.5mg/Lの薬液を滴下処理し、14日後に生育抑制程度を調査した。薬液の投与量はそれぞれ500g/ha、125g/haになるようにした。除草効力は5(発芽しない)〜0(活性なし)の6段階で評価した。これらの結果は表7に示す。
【0074】
【表7】

【0075】
これらの結果から、化合物A−87774化合物は土壌処理においても優れた除草効果を示すことが分かった。
【0076】
試験例5
水田処理試験
水田土壌を入れた直径6cmの容器を湛水し、代かきした後に、6種の水田雑草の種子又は塊茎を植え付けた。2日後にA−87774−2又はA−87774−3の50mg/Lの薬液を滴下処理し、26日後に生育抑制程度を調査した。薬液の投与量は500g/haになるようにした。除草効力は5(発芽しない)〜0(活性なし)の6段階で評価した。これらの結果は表8に示す。
【0077】
【表8】

【0078】
これらの結果から、化合物A−87774化合物は水田雑草に対しても優れた除草効果を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の新規化合物A−87774−1、A−87774−2及びA−87774−3は、優れた除草作用及び植物生長調節活性を有し、農薬(特に、農園芸用除草剤及び植物生長調節剤)として、有用である。
【受託番号】
【0080】
FERM BP−10840

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記性状:
1)分子量:668、
2)分子式:C1829417PS2
3)重水中で測定したときの1H−核磁気共鳴スペクトル(δppm):5.86(1H,d,J=5.9Hz)、5.59(1H,d,J=11.0Hz)、4.56(1H,q,J=6.9Hz)、4.42(1H,dd,J=11.2,2.9Hz)、4.38(1H,dd,J=11.2,3.7Hz)、4.30〜4.27(2H,m)、4.24〜4.23(2H,m)、4.07(1H,d,J=10.1Hz)、3.97(1H,dd,J=12.7,2.1Hz)、3.61(1H,dd,J=11.3,10.3Hz)、3.55(1H,m)、3.52(1H,m)、3.33(1H,dd,J=11.4,1.8Hz)、2.72(1H,dd,J=7.0,6.6Hz)、1.42(3H,d,J=6.9Hz)、
4)重水中で測定したときの13C−核磁気共鳴スペクトル(δppm):178.6(s)、174.0(s)、154.8(s)、91.4(s)、89.2(d)、87.6(d)、80.8(d)、74.8(d)、73.5(d)、70.2(d)、70.2(d)、70.0(t)、63.7(d)、60.6(d)、53.8(t)、36.5(t)、30.3(t)、18.3(q)、
5)KBrディスクで測定したときの赤外線吸収スペクトル(νmaxcm−1):3423,1703,1639,1487,1450,1406,1383,1339,1258,1217,1184,1088,1067,937,899,827,536、及び
6)比旋光度:[α]D24+40.0°(c,0.22、HO中)
を有する化合物A−87774−1又はその塩。
【請求項2】
下記性状:
1)分子量:666、
2)分子式:C1827417PS2
3)重水中で測定したときの1H−核磁気共鳴スペクトル(δppm):7.73(1H,d,J=8.1Hz)、5.91(1H,d,J=2.4Hz)、5.90(1H,d,J=8.1Hz)、5.60(1H,d,J=10.8Hz)、4.57(1H,q,J=6.9Hz)、4.55(1H,d,J=11.4Hz)、4.46(1H,dd,J=11.2,2.2Hz)、4.34〜4.32(3H,m)、4.22(1H,d,J=12.6Hz)、4.07(1H,d,J=10.1Hz)、3.96(1H,dd,J=12.6,1.7Hz)、3.61(1H,dd,J=11.4,10.1Hz)、3.32(1H,d,J=11.4Hz)、1.42(3H,d,J=6.9Hz)、
4)重水中で測定したときの13C−核磁気共鳴スペクトル(δppm):178.6(s)、166.3(s)、151.8(s)、141.7(d)、102.8(d)、91.3(s)、89.3(d)、89.2(d)、81.5(d)、74.8(d)、73.5(d)、73.4(d)、69.5(d)、69.4(t)、63.7(d)、60.6(d)、53.8(t)、18.3(q)、
5)KBrディスクで測定したときの赤外線吸収スペクトル(νmaxcm−1):3399,1706,1455,1405,1346,1266,1185,1087,1067,934,900,826,534、及び
6)比旋光度:[α]D24+47.2°(c,1.0、HO中)
を有する化合物A−87774−2又はその塩。
【請求項3】
下記性状:
1)分子量:828、
2)分子式:C2437422PS2
3)重水中で測定したときの1H−核磁気共鳴スペクトル(δppm):7.74(1H,d,J=8.1Hz)、5.94(1H,d,J=5.3Hz)、5.91(1H,d,J=8.1Hz)、5.60(1H,d,J=11.0Hz)、5.01(1H,br.s)、4.57(1H,q,J=6.9Hz)、4.57(1H,m)、4.50〜4.48(3H,m)、4.41(1H,m)、4.22(1H,d,J=12.5Hz)、4.07(1H,d,J=10.1Hz)、4.04(1H,dd,J=3.3,1.8Hz)、3.96(1H,dd,J=12.5,1.3Hz)、3.87(1H,d,J=12.3Hz)、3.85(1H,m)、3.71(1H,dd,J=12.3,4.4Hz)、3.63〜3.61(3H,m)、3.32(1H,d,J=11.4Hz)、1.42(3H,d,J=6.9Hz)、
4)重水中で測定したときの13C−核磁気共鳴スペクトル(δppm):178.6(s)、166.3(s)、151.8(s)、141.6(d)、102.9(d)、100.3(d)、91.3(s)、89.2(d)、89.1(d)、80.2(d)、74.8(d)、74.1(d)、73.8(d)、73.5(d)、72.2(d)、70.3(d)、69.9(d)、69.3(t)、66.8(d)、63.7(d)、61.0(t)、60.6(d)、53.7(t)、18.3(q)、
5)KBrディスクで測定したときの赤外線吸収スペクトル(νmaxcm−1):3396,1705,1402,1340,1265,1184,1090,1063,937,899,825,538、及び
6)比旋光度:[α]D24+78.7°(c,1.0、HO中)
を有する化合物A−87774−3又はその塩。
【請求項4】
ストレプトマイセス属に属し、請求項1、2又は3記載の化合物を生産することを特徴とする微生物。
【請求項5】
ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)SANK 61805(FERM BP−10840)。
【請求項6】
請求項4又は5記載の微生物を培養し、培養物から請求項1、2又は3記載の化合物を採取することを特徴とする請求項1、2又は3記載の化合物の製法。
【請求項7】
請求項1、2又は3記載の化合物を有効成分として含有する農薬。
【請求項8】
請求項1、2又は3記載の化合物を有効成分として含有する除草剤。
【請求項9】
請求項1、2又は3記載の化合物を有効成分として含有する植物生長調節剤。
【請求項10】
雑草の除草方法であって、請求項1、2又は3記載の化合物を雑草又は土壌に処理する方法。
【請求項11】
雑草が、畑作雑草及び/又は水田雑草である請求項10記載の方法。
【請求項12】
植物生長を調節する方法であって、請求項1、2又は3記載の化合物を植物体に処理する方法。
【請求項13】
請求項4又は5記載の微生物を培養することにより、得ることができる培養物。
【請求項14】
請求項13記載の培養物を含有する農薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−78407(P2011−78407A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181290(P2010−181290)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(303020956)三井化学アグロ株式会社 (70)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】