説明

A型インフルエンザのヘマグルチニンに対する抗体およびその利用

【課題】A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンの各サブタイプを網羅的に認識する抗体を提供する。
【解決手段】A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに対する抗体であって、A型インフルエンザウイルスのH1、H3、およびH5型のヘマグルチニンを何れも認識する抗体、抗体断片、当該抗体または抗体断片を利用するA型インフルエンザウイルスの検出試薬、検出キット、検出器具、および検出方法、当該抗体または抗体断片をコードする遺伝子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A型インフルエンザのヘマグルチニンに対する抗体に関するものであり、特に、A型インフルエンザのヘマグルチニンの複数のサブタイプを認識する抗体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスには、3つの型(A、BおよびC)が存在することがよく知られている。これらのうちA型のウイルスは、広範囲の鳥類および哺乳類に対して感染する。一方、B型およびC型のウイルスは、基本的には、ヒトに限定的である。近年、インフルエンザウイルスに対する研究は、A型にフォーカスされている。これは、そう遠くない将来において、A型のウイルスの大流行(パンデミック)が起きる可能性があるためである。
【0003】
A型のインフルエンザウイルスは、その表面上の抗原であるヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)分子の血清学的な反応性によって、いくつかのサブタイプに分類される(非特許文献1、2)。すなわち、16個のHAサブタイプ(HA1〜HA16)および9個のNAサブタイプ(NA1〜NA9)が存在し、それゆえ、144(16×9)種類のインフルエンザAウイルスが存在し得る。例えば、H1N1(本明細書において、NAサブタイプを省略して、単に、H1サブタイプと表記することがある。)、H2N2(同様に、H2サブタイプと表記することがある。)、H3N2(同様に、H3サブタイプと表記することがある。)、H5N1(同様に、H5サブタイプと表記することがある。)等が挙げられる。前三者(H1、H2、およびH3)は、1918年のヨーロッパ、1957年のアジア、1968年の香港において、それぞれ大流行を引き起こした。H5は、トリインフルエンザウイルスとして注目されている。
【0004】
インフルエンザウイルスがヒトの細胞に感染するときの最も重要な過程の一つは、ウイルスの表面上のヘマグルチニン分子が、ヒトの細胞の細胞膜に結合し、融合する過程である。この過程では、ヘマグルチニン(HA0)分子の全体が、ホスト細胞のプロテアーゼによって、二つのサブユニット(HA1およびHA2)に分割される。一方、ノイラミニダーゼ分子は、感染細胞からのウイルスの出芽に関与する。
【0005】
このように、ヘマグルチニン分子は、感染において主要な役割を有し、ワクチン防御の複雑性の原因となる多数のサブタイプを有している。また、ヘマグルチニン分子に対する抗体がいくつか報告されている(非特許文献3、4)。また、本発明者らは、ヘマグルチニンを認識するとともに分解する抗体酵素を報告している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−347922(平成18年12月28日公開)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nobusawa, E., Aoyama, T., Kato, H., Suzuki, Y., Tateno, Y., and Nakajima, K.: Comparison of complete amino acid sequences and receptor-binding properties among 13 serotypes of hemagglutinins of influenza A viruses. Virology, 182, 475-485 (1991)
【非特許文献2】Thoennes, S., Li, Z.N., Lee, B.J., Langley, W.A., Skehel, J.J., Russell, R.J., and Steinhauer, D.A.: Analysis of residues near the fusion peptide in the influenza hemagglutinin structure for roles in triggering membrane fusion. Virology, 370, 403-414 (2008)
【非特許文献3】Ueda, M., Maeda, A., Nakagawa, N., Kase, T., Kubota, R., Takakura, H., Ohshima, A., and Okuno, Y.: Application of subtype-specific monoclonal antibodies for rapid detection and identification of influenza A and B viruses. J. Clin. Microbiol., 36, 340-344 (1998)
【非特許文献4】Vareckova, E., Mucha, V., Kostolansky, F., Gubareva, L.V., and Klimov, A.: HA2-specific monoclonal antibodies as tools for differential recognition of influenza A virus antigenic subtypes. Virus Research, 132, 181-186 (2008)
【非特許文献5】Chang, D.K., Cheng, S.F., Trivedi, V.D., and Yang, S.H.: The Amino-terminal Region of the Fusion Peptide of Influenza Virus Hemagglutinin HA2 Inserts into Sodium Dodecyl Sulfate Micelle with Residues 16-18 at the Aqueous Boundary at Acidic pH. J. Biol. Chem., 275, 19150-19158 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンの各サブタイプを網羅的に認識する抗体は知られていない。これは、以下の理由による。図9は、A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンの系統樹を示す図である(非特許文献1、2)。示すように、各サブタイプは、H1グループと、H3グループとに分類される。多くの場合、H1サブタイプのヘマグルチニンを認識する抗体は、H2サブタイプのヘマグルチニンとも反応する。これは、H1サブタイプおよびH2サブタイプのヘマグルチニンのアミノ酸配列が互いに類似しているためである。また、図9に示すように、H5サブタイプおよびH1サブタイプもまた近縁であり、両者を認識する抗体もあり得る。しかし、図9に示すように、H3サブタイプは、H1グループとは非常に異なる。それゆえ、H1グループ(例えば、H1、H2、およびH5サブタイプ)のヘマグルチニンと反応する抗体は、H3サブタイプの抗体をほとんど認識しない(非特許文献3、4)。したがって、これまで、一つの抗体を用いて、A型インフルエンザウイルスを網羅的に検出することは困難であった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンの各サブタイプを網羅的に認識する抗体を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、独自に設計した配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるエピトープ(InfAペプチド)を用いて取得した抗体(InfA−15抗体)が、驚くべきことに、少なくとも、H1サブタイプ(H1グループの)、H3サブタイプ(H3グループ)、およびH5サブタイプ(H1グループ)のヘマグルチニンおよびインフルエンザウイルスを認識することを見出し、発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明に係る抗体は、A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに対する抗体であって、A型インフルエンザウイルスのH1、H3、およびH5型のヘマグルチニンを何れも認識することを特徴としている。
【0012】
上記抗体は、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるエピトープを認識することが好ましい。
【0013】
上記抗体は、また、重鎖可変領域におけるCDR1、CDR2、CDR3がそれぞれ、配列番号1に示されるアミノ酸配列の第31〜35番目、第50〜65番目、第98〜106番目であり、軽鎖可変領域におけるCDR1、CDR2、CDR3がそれぞれ、配列番号3に示されるアミノ酸配列の第24〜39番目、第55〜61番目、第94〜102番目であることが好ましい。
【0014】
上記抗体は、また、重鎖可変領域が、以下の(a)または(b)のアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が、以下の(c)または(d)のアミノ酸配列からなることが好ましい:(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列の、第1〜30番目、第36〜49番目、第66〜97番目、および/または第107〜116番目において、1個または数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列;(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列;(d)配列番号3に示されるアミノ酸配列の、第1〜23番目、第40〜54番目、第62〜93番目、第103〜114番目において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列。
【0015】
本発明に係る抗体断片は、上記抗体の少なくとも一つの可変領域を含み、A型インフルエンザウイルスのH1、H3、およびH5型のヘマグルチニンを何れも認識することを特徴としている。
【0016】
本発明に係るA型インフルエンザウイルスの検出試薬は、上記抗体または上記抗体断片を含有していることを特徴としている。
【0017】
本発明に係るA型インフルエンザウイルスの検出キットは、上記抗体または上記抗体断片を備えていることを特徴としている。
【0018】
本発明に係るA型インフルエンザウイルスの検出器具は、上記抗体または上記抗体断片が固定されていることを特徴としている。
【0019】
本発明に係るA型インフルエンザウイルスの検出方法は、検査対象物を上記抗体または上記抗体断片とともにインキュベートする工程を包含することを特徴としている。
【0020】
本発明に係る遺伝子は、上記抗体または上記抗体断片をコードすることを特徴としている。
【0021】
上記遺伝子は、配列番号2または4に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有していることが好ましい。
【0022】
本発明に係る発現ベクターは、上記遺伝子を含んでいることを特徴としている。
【0023】
本発明に係る形質転換体は、上記遺伝子が導入されていることを特徴としている。
【0024】
本発明に係る抗体または抗体断片を生産する方法は、上記遺伝子を宿主に発現させることによって、上記抗体または上記抗体断片を生産することを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る抗体は、A型インフルエンザウイルスの、少なくとも、H1、H3、およびH5サブタイプのヘマグルチニンを認識し、A型インフルエンザウイルスの重要なサブタイプのほとんどを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、A型インフルエンザウイルスの4つのサブタイプにおけるヘマグルチニン分子のHA2サブユニットのアミノ酸配列のアライメントを示す図である。
【図2】図2は、ヘマグルチニン分子の立体構造を示す図であり、(a)は、ヘマグルチニン分子の三量体を示し、(b)は、単量体を示す。
【図3】図3は、抗原ペプチドによって免疫したマウスから得られた血清の力価を示すグラフであり、(a)は、InfAペプチドによって免疫した場合を示し、(b)は、InfBペプチドによって免疫した場合を示し、(c)は、InfCペプチドによって免疫した場合を示す。
【図4】図4は、各モノクローナル抗体の結合定数を、等温適定熱量測定(ITC)により測定した結果を示す図であり、(a)は、InfA−18モノクローナル抗体についての典型的な熱量的な滴定結果を示し、(b)は、生データから計算された積分点および適合線を示す。
【図5】図5は、InfAシリーズモノクローナル抗体の推定アミノ酸配列のアライメントを示す図である。
【図6】図6は、分子モデリングにより推定されたInfAシリーズモノクローナル抗体の可変領域の立体的なコンホメーションを示す図である。
【図7】図7は、インフルエンザウイルスの各サブタイプに対する各InfAシリーズモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットの結果を示す図であり、(a)および(b)は、対照試験の結果を示し、(c)は、H1N1サブタイプについての結果を示し、(d)は、H3N1サブタイプについての結果を示し、(e)は、H5サブタイプについての結果を示す。
【図8】図8は、H1、H3、およびH5サブタイプのインフルエンザウイルスおよび組換えHA2に対する各InfAシリーズモノクローナル抗体の反応性を示すグラフであり、(a)は、H1サブタイプのHA2タンパク質に対する反応性を示し、(b)は、H3サブタイプのHA2タンパク質に対する反応性を示し、(c)は、H5サブタイプのHA2タンパク質に対する反応性を示し、(d)は、H1N1サブタイプのインフルエンザウイルスに対する反応性を示し、(e)は、H3N2サブタイプのインフルエンザウイルスに対する反応性を示す。
【図9】図9は、A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンの系統樹を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔1:本発明の抗体およびその断片〕
本発明者は、A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのHA2サブユニットの各サブタイプのアミノ酸配列に基づき独自に設計したエピトープ(InfAペプチド)を用いてマウスを免疫し、得られた複数のモノクローナル抗体について検討した結果、そのうちの一つ(InfA−15抗体)が、少なくとも、H1サブタイプ(H1グループの)、H3サブタイプ(H3グループ)、およびH5サブタイプ(H1グループ)のヘマグルチニンおよびインフルエンザウイルスを認識することを見出した。また、このInfA−15抗体における、相補性決定領域(CDR)、H鎖およびL鎖の可変領域のアミノ酸配列およびそれらをコードする遺伝子の塩基配列を同定した。
【0028】
配列番号1には、VH鎖のアミノ酸配列が示される。配列番号1に示すVH鎖のアミノ酸配列において、31番目〜35番目のアミノ酸配列がCDR1、50番目〜65番目のアミノ酸配列がCDR2、98番目〜106番目のアミノ酸配列がCDR3に対応している。
【0029】
一方、配列番号3は、VL鎖のアミノ酸配列を示している。配列番号3に示すVL鎖のアミノ酸配列において、24〜39番目のアミノ酸配列がCDR1、55番目〜61番目のアミノ酸配列がCDR2、94番目〜102番目のアミノ酸配列がCDR3に対応している。
【0030】
本発明の抗体およびその断片は、上記VH鎖およびVL鎖、並びにそれらのCDRとして、配列番号1および3に示される配列に限定されるものではなく、それらの一部が改変された変異ポリペプチドであってもよい。
【0031】
すなわち、VH鎖可変領域としては、(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、のみならず、(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列のCDR1〜3以外の部分、すなわち、FR1(1〜30番目)、FR2(36〜49番目)、FR3(66〜97番目)、および/またはFR4(107〜116番目)において、1またはそれ以上(好ましくは数個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、A型インフルエンザウイルスのH1、H3、およびH5型のヘマグルチニンに対するH鎖可変領域となるポリペプチド、も含まれる。
【0032】
同様に、VL鎖可変領域は、(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、のみならず、(d)配列番号3に示されるアミノ酸配列のCDR1〜3以外の部分、すなわち、FR1(1〜23番目)、FR2(40〜54番目)、FR3(62〜93番目)、および/またはFR4(103〜114番目)において、1またはそれ以上(好ましくは数個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、A型インフルエンザウイルスのH1、H3、およびH5型のヘマグルチニンに対するL鎖可変領域となるポリペプチド、も含まれる。
【0033】
ここで、上記「1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されることを意味する。したがって、例えば、上記(b)のポリペプチドは、上記(a)のポリペプチドの変異ペプチドであり、ここにいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0034】
なお、上記「変異」は、検出器具や検出キットなどとして利用する場合には、特に制限されないが、本発明の抗体またはその断片を、治療薬として利用する場合(ヒトに投与する場合)には、ヒト由来の構造またはヒトが免疫反応を起こさない範囲で行う。
【0035】
また、本発明に係る抗体およびその断片は、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。このようなポリペプチドが付加される場合としては、例えば、HisやMyc、Flag等によって本発明のタンパク質がエピトープ標識されるような場合が挙げられる。
【0036】
なお、CDRは抗原を認識する領域であるため、A型インフルエンザウイルスのH1、H3、およびH5型のヘマグルチニンは相補性決定領域に認識される。したがって、少なくとも上記CDRを有する抗体は、A型インフルエンザウイルスのH1、H3、およびH5型のヘマグルチニンを特異的に認識できる。すなわち、上記VH鎖およびVL鎖は、少なくとも前記VH鎖およびVL鎖のCDRを含んでいればよく、それ以外は、イムノグロブリンのVH鎖およびVL鎖のアミノ酸配列であればよい。これにより、A型インフルエンザウイルスのH1、H3、およびH5型のヘマグルチニンに対する特異性は保持される。
【0037】
なお、「抗体」または「抗体断片」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体およびヒト化抗体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0038】
また、「或る抗体が或る抗原を認識する」という表現は、「或る抗体が或る抗原に特異的に結合する」、または「或る抗体は、或る抗原に対する抗体である」といった表現と交換可能に用いられる。
【0039】
さらに、本発明の抗体およびその断片には、安定性や抗体価を向上させるために、修飾剤が結合されていてもよい。すなわち、本発明の抗体およびその断片は、修飾抗体であってもよい。この修飾剤としては、例えば、糖鎖や高分子などが挙げられる。糖鎖修飾を行った場合には、その糖鎖が何らかの生理活性を有する可能性があるが、ポリエチレングリコール(PEG)などの単純な高分子修飾を行った場合にはそれ自体生理活性を示さない。さらに、PEG化によって肝臓での吸収を抑制したり、血中での安定性を向上したりする可能性がある。つまり、修飾剤としては、PEGなどの単純高分子が好ましい。
【0040】
なお、本発明の抗体およびその断片の修飾剤による修飾は、前述の変異ペプチドの作製と同様に、治療薬として利用する場合には、ヒトが免疫反応を起こさない範囲で行い、検出器具や診断キットなどとして利用する場合には、特に制限されない。
【0041】
また、後述する実施例に示すように、本発明に係る抗体について、本発明者らは以下の知見を得ている:(あ)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるエピトープを認識する;(い)A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのほとんどのサブタイプ(H1、H3、およびH5)のHA2サブユニットおよびウイルス本体を認識する。
【0042】
後述するように、本発明に係る抗体は、InfAペプチド(GMVDGWYG:配列番号5)をエピトープとして用いてマウスを免疫することにより取得されたものであり、InfAペプチドを認識することが実証されている。また、非特許文献5には、InfAペプチドの1番目および5番目のアミノ酸に相当する二つのグリシンが、細胞融合の際に重要な働きをすることが示されている。本発明に係る抗体を得るために用いたInfAペプチド(配列番号5)は、上記二つのグリシンを含み、後述するように高い抗原性を示した。
【0043】
また、後述する様に、本発明に係る抗体(InfA−15)は、InfA−15ペプチドを用いて取得した6つのモノクローナル抗体のうち、最も低い結合定数を示した(10-6Mオーダー、他の5つは10-8Mオーダー)。InfAペプチドは短いペプチド(8アミノ酸)であるが、本発明に係る抗体が認識する領域は、他とは異なり、立体構造も異なることが示唆される。また、ITC試験の結果(エンタルピーおよびエントロピー)によれば、本発明に係る抗体は、抗原に対して弱く結合し、結合によるコンホメーションの変化は少ないと考えられる。
【0044】
本発明に係る抗体または抗体断片は、例えば、後述する実施例のように、配列番号5に示されるエピトープで免疫したマウス等の免疫動物の脾臓細胞と、マウスのミエローマ細胞等の融合パートナーとを融合させてなるハイブリドーマにより、モノクローナル抗体を産生した後に、得られたモノクローナル抗体を、本明細書において開示した本発明に係る抗体に関する知見(交叉反応性、アミノ酸配列等)に基づいて選別することにより製造してもよい。
【0045】
上記モノクローナル抗体の産生は、当該分野において公知の技術(例えば、ハイブリドーマ法(Kohler,G.およびMilstein,C.,Nature 256,495−497(1975))、トリオーマ法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ法(Kozbor,Immunology Today 4,72(1983))およびEBV−ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss,Inc.,77−96(1985))などを参照のこと)を用いればよい。
【0046】
FabおよびF(ab’)ならびに本発明に係る抗体の他の抗体断片が、本明細書中で開示される方法に従って使用され得ることは、当業者には明白である。このようなフラグメントは、代表的には、パパイン(Fabフラグメントを生じる)またはペプシン(F(ab’)フラグメントを生じる)のような酵素を使用するタンパク質分解による切断によって産生され得る。
【0047】
また、本発明に係る抗体または抗体断片は、後述するように、本発明の組換え発現ベクターを用いて作製した、本発明の形質転換体によっても生産することが可能である。
【0048】
また、本発明に係る抗体は、ポリクローナル抗体であってもよい。
【0049】
〔2:本発明にかかる遺伝子〕
本発明にかかる遺伝子は、上記〔1:本発明の抗体およびその断片〕で説明した抗体またはその断片をコードする遺伝子であり、配列番号2または4に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム(ORF)領域として有する遺伝子、およびその塩基配列の一部を改変した改変遺伝子が含まれる。
【0050】
上記の遺伝子は、本発明の抗体またはその断片をコードしているので、適当な宿主(例えば細菌、酵母)に導入して、本発明の抗体またはその断片を発現させることができる。
【0051】
さらに、上記「遺伝子」は、上記〔1:本発明の抗体およびその断片〕に記載の抗体またはその断片をコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。例えば、配列番号2または4に記載の配列をベクター配列につないで本発明の遺伝子を構成し、これを適当な宿主で増幅させることにより、本発明の遺伝子を所望に増幅させることができる。また、本発明の遺伝子の一部配列をプローブに用いてもよい。
【0052】
〔3:本発明の組換え発現ベクター等〕
本発明の組換え発現ベクターは、前記〔2:本発明にかかる遺伝子〕に記載の遺伝子、すなわち、上記〔1:本発明の抗体およびその断片〕に記載の抗体またはその断片をコードする遺伝子を含むものであり、例えば、配列番号2または4に示される何れかの塩基配列を有するcDNAが挿入された組換え発現ベクターが挙げられる。組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。
【0053】
このように、組換え発現ベクターは、本発明の遺伝子を含むものである。ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、ホスト細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、ホスト細胞の種類に応じて、確実に遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明に係る遺伝子を各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。
【0054】
本発明の遺伝子がホスト細胞に導入されたか否か、さらにはホスト細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。例えば、ホスト細胞中で欠失している遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと本発明の遺伝子とを含むプラスミド等を発現ベクターとしてホスト細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現から本発明の遺伝子の導入を確認することができる。あるいは、本発明に係る抗体またはその断片を融合タンパク質として発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質GFPをマーカーとして用い、本発明に係る抗体またはその断片をGFP融合タンパク質として発現させてもよい。
【0055】
上記ホスト細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、上記〔2:本発明にかかる遺伝子〕に記載の遺伝子が全長DNAの場合のホスト細胞としては、ヒト又はマウス由来の細胞をはじめとして、線虫、アフリカツメガエルの卵母細胞、各種哺乳動物(ラット、ウサギ、ブタ、サル等)の培養細胞、あるいは、キイロショウジョウバエ、カイコガ等の昆虫の培養細胞等などの動物細胞が挙げられ、DNAフラグメントの場合のホスト細胞としては、例えば、大腸菌等の細菌、酵母(出芽酵母や分裂酵母)などを挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0056】
上記発現ベクターをホスト細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0057】
本発明の形質転換体は、前記〔2:本発明にかかる遺伝子〕に記載の遺伝子、すなわち、上記〔1:本発明の抗体およびその断片〕に記載の抗体またはその断片をコードする遺伝子が導入された形質転換体である。ここで、「遺伝子が導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されることを意味する。
【0058】
〔4:本発明の抗体およびその断片の利用方法〕
(4−1)A型インフルエンザウイルスの検出試薬、検出キット、検出器具および検出方法
上記〔1:本発明の抗体およびその断片〕の抗体、その抗体断片、または修飾抗体は、A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンの各サブタイプに対して網羅的に結合するため、A型インフルエンザウイルスの検出・測定などに利用することができる。
【0059】
本発明に係るA型インフルエンザウイルスの検出器具によれば、例えば、飲用水、下水、水槽水、浴槽水、血液、尿、被検試料の懸濁液などに含まれるA型インフルエンザウイルスを高精度に検出できる。それゆえ、A型インフルエンザウイルスの検査、研究、調査等に利用することができる他、疾患の判定や治療効果の評価を行うための診断用、治療用としても利用できる。
【0060】
なお、本発明のA型インフルエンザウイルスの検出器具は、本発明の抗体における少なくともCDRのアミノ酸配列を用いればよい。A型インフルエンザウイルスの検出器具は、種々の条件下でのA型インフルエンザウイルスの検出・測定などに利用できる。本発明のA型インフルエンザウイルスの検出器具としては、例えば、A型インフルエンザウイルスと特異的に結合する本発明の抗体またはその断片を基盤(担体)上に固定化した抗体チップや抗体カラム等が挙げられる。
【0061】
また、本発明の抗体またはその断片は、イムノアフィニティークロマトグラフィーによるA型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンの精製にも極めて有用である。この精製方法は、本発明の抗体またはその断片をヘマグルチニンとそれ以外の物質の混合物に接触させて抗体またはその断片にヘマグルチニンを吸着させる工程と、吸着したヘマグルチニンを抗体またはその断片から脱着させ、採取する工程を含むものである。この精製方法によれば、ヘマグルチニンを短時間かつ高精度に精製できる。
【0062】
本発明の抗体またはその断片、およびそれらの修飾抗体は、A型インフルエンザウイルスを検出するための試薬(A型インフルエンザウイルスの検出試薬)としても広範な用途を有する。すなわち、これらの抗体またはその断片によるラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイなどの標識イムノアッセイを適用するときには、被検試料中のA型インフルエンザウイルス、A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニン、またはそのHA2サブユニットを迅速且つ正確に定性又は定量分析することができる。この標識イムノアッセイでは、上記抗体またはその断片は、例えば、放射性物質、酵素及び/又は蛍光物質により標識して用いられる。また、これらの抗体およびその断片は、A型インフルエンザウイルスに特異的に反応し、免疫反応を呈するので、その免疫反応を標識物質を指標に測定すれば、被検試料中のごく微量のA型インフルエンザウイルス(または、ヘマグルチニンもしくはそのHA2サブユニット)を精度良く検出することができる。標識イムノアッセイは、バイオアッセイと比較して、一度に数多くの被検試料を分析できるうえに、分析に要する時間と労力が少なくてすみ、しかも、分析が高精度であるという特徴がある。
【0063】
また、本発明の抗体またはその断片は、A型インフルエンザウイルスを検出するためのキット(A型インフルエンザウイルスの検出キット)に備えられた形態で提供されてもよい。用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図される。
【0064】
このように、本発明のA型インフルエンザウイルスの検出試薬、検出キット、検出器具および検出方法は、各サブタイプのA型インフルエンザウイルスを網羅的に検出することができるために極めて有用である。すなわち、従来の季節性のインフルエンザだけでなく、鳥型や新型のインフルエンザにも対応することができる可能性がある。
【0065】
(4−2)その他
なお、本発明の抗体またはその断片は、各サブタイプのA型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに対して結合する。ヘマグルチニンは、インフルエンザウイルスがヒトの細胞に感染する際に重要な働きをすることが知られており、本発明の抗体またはその断片を用いれば、A型インフルエンザウイルスの治療または予防を行える可能性がある。よって、A型インフルエンザウイルスの治療または予防のための薬学的組成物として、本発明の抗体またはその断片を含むものを使用してもよい。
【0066】
上記薬学的組成物は、直接注入により投与され得る。本発明に係る薬学的組成物はまた、非経口投与、粘膜投与、筋肉内投与、静脈内投与、皮下投与、眼内投与または経皮的投与のために処方され得る。代表的には、組成物中に含まれるタンパク質は、0.01〜30mg/kg体重の用量、好ましくは、0.1〜10mg/kg体重、より好ましくは、0.1〜1mg/kg体重の用量で投与され得る。
【0067】
上記薬学的組成物は、本発明に係る抗体以外に、薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤または賦形剤(それらの組み合わせを含む)を含み得る。また、本発明に係る抗体は、修飾抗体であってもよい。このとき、本発明に係る抗体は、他の薬剤をインフルエンザウイルスと特異的に反応させるための送達剤として働くものであり得る。
【0068】
上記薬学的組成物は、ヒトまたは動物についての使用のためのものであり、そして代表的には、薬学的に受容可能な希釈剤、キャリア、または賦形剤の任意の1つ以上を含む。治療的使用のための薬学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤は、薬学分野で周知であり、そして例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro編、1985)に記載される。薬学的に需要可能なキャリア、賦形剤または希釈剤の選択は、意図された投与経路および標準的薬学的慣行に従って、当業者によって容易に選択され得る。また、本発明に係る薬学的組成物は、任意の適切な結合剤、滑沢剤、懸濁剤、被覆剤または可溶化剤をさらに含み得る。
【0069】
異なる送達系に依存して、組成/処方の必要条件は、異なり得る。例示として、本発明に係る薬学的組成物は、ミニポンプを使用してまたは粘膜経路により、例えば、吸入のための鼻スプレーまたはエアロゾルとして、あるいは非経口的に送達するために処方され得る(ここで本発明に係る薬学的組成物は、例えば、静脈内経路、筋肉内経路もしくは皮下経路による送達のために注射可能形態として処方される)。あるいは、この処方物は、両方の経路により送達されるように設計され得る。
【0070】
本明細書中の記載に基づけば、当業者は、本発明に係る薬学的組成物の別の形態(例えば、キット)、および、本発明に係る薬学的組成物を用いて疾患を処理(予防および/または治療)する方法もまた本発明の範囲内であることを、容易に理解する。
【実施例】
【0071】
〔1:抗原ペプチドの配列の抽出および抗原ペプチドの合成〕
ヘマグルチニン分子(HA0:61kDa)は、二つのサブユニットHA1およびHA2から構成される。前者の分子量は約38kDaであり、後者の分子量は約25kDaである。本発明者らは、まず、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベースを参照し、HA2サブユニットに注目してヘマグルチニン分子のアミノ酸配列を調査した。
【0072】
図1は、A型インフルエンザウイルスの4つの重要なサブタイプ(H1、H2、H3、およびH5:それぞれ、スペイン、アジア、ホンコンにおける大流行、およびトリインフルエンザに対応する。)におけるヘマグルチニン分子のHA2サブユニットのアミノ酸配列のアライメントを示す図である。なお、図中、「−」で示されているのは、同列の最も上段(H1)に記載されたアミノ酸と同一のアミノ酸を指す。
【0073】
本発明者らは独自に、上記アライメントから3つの短い配列(GMVDGWYG(配列番号5、InfA)、YNAELLV(配列番号6、InfB)、およびNGTYD(配列番号7、InfC))を抽出した(図1枠囲み内)。これら3つの配列は、上記サブタイプ間において完全に保存されていた。
【0074】
図2は、ヘマグルチニン分子の立体構造を示す図であり、(a)は、ヘマグルチニン分子の三量体を示し、(b)は、単量体を示す。図2(b)において、「HA2」はHA2サブユニットの位置を、「A」はInfAの位置を、「B」はInfBの位置を、「C」はInfCの位置をそれぞれ示す。図2(b)に示すように、InfAペプチド配列は、膜貫通領域の近傍に位置し、外部に向かっている。InfBペプチド配列は、HA2サブユニットの上部においてヘリックス構造を有している。InfCペプチド配列は、HA2サブユニットの膜貫通領域の近傍に位置する。
【0075】
続いて、本発明者らは、InfAペプチド、InfBペプチド、およびInfCペプチドを、Balb/cマウスを免疫するための抗原ペプチドとして合成した。具体的には、Fmoc固相法を用いて、GMVDGWYG(配列番号5、InfAペプチド)、YNAELLV(配列番号6、InfBペプチド)、およびNGTYD(配列番号7、InfCペプチド)のそれぞれのアミノ酸配列を有するペプチドを合成した。各ペプチドには、ウシ血清アルブミン(BSA)と結合させるため、N末端にCys残基を付加した。また、Cys残基を付加していないペプチドを、ELISA(酵素結合免疫吸着法、Enzyme−linked immunosorbent assay)に供するため合成した。各合成ペプチドは質量分析により同定した。また、HPLC分析による結果は、95%を超える純度を示した。Balb/cマウスの免疫のため、各ペプチドに対し、N末端に付加したCys残基を介して、BSAを結合した。
【0076】
〔2:血清の力価の測定〕
BSAと結合された上記合成ペプチド(InfA、InfB、またはInfCペプチド)を用いて、Balb/cマウスを免疫した。2週間後、免疫したマウスから血液を採集し、ELISAにより、血清の力価を決定した。これを4回繰り返した。
【0077】
ELISAは、次のように行った。PBSに溶解した抗原InfAペプチド、InfBペプチド、またはInfCペプチド(4μg/ml、1ウェル当たり100μl)を、4℃において、一晩、マイクロタイタープレート(Thermo Fisher Scentific、Roskilde、Denmark)上にコートした。続いて、上記プレートを、30分間、室温において、2%のゼラチンおよび0.05%のNaN3を含むPBSによってブロッキングし、0.05%のTween−20を含むPBS(PBS−T)によって洗浄した。洗浄バッファーにより作成した血清の希釈系列を、上記プレートの各ウェルに加え、1時間、室温においてインキュベートした。洗浄後、各ウェルを50μlの1000倍に希釈したアルカリホスファターゼ標識抗マウスIg(G+A+M)抗体(Cappel、CA、USA)とともに、1時間、室温においてインキュベートした。PBS−Tによるさらなる4回の洗浄の後、p−ニトロフェニルホスフェート(Sigma、ST Lous、MO、USA)を含む溶液を、発色のための基質として加えた。60分間のインキュベーションの後、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices、Sunnyvale、USA)を用いて405nmにおける吸光度を測定した。
【0078】
第1回目の免疫時から、第4回目の免疫時までの結果を図3に示す。図3において、(a)は、InfAペプチドによって免疫した場合を示し、(b)は、InfBペプチドによって免疫した場合を示し、(c)は、InfCペプチドによって免疫した場合を示す。また、図3の横軸は、力価の測定に供した血清の希釈率を示し、縦軸は、405nmにおける吸光度を示す。
【0079】
図3に示すように、InfAペプチドは、免疫に用いた3つの抗原のうちで最も高い力価を示した。2番目は、InfBペプチドであった。InfCペプチドについては、免疫を4回繰り返したにもかかわらず、力価の上昇はほとんど観察されなかった。
【0080】
〔3:モノクローナル抗体の作製〕
BSAと結合されたInfAペプチド(GMVDGWYG(配列番号5))を用いて、以下のようにモノクローナル抗体(mAb)を調製した。
【0081】
まず、1匹当たり100μgの上述のBSA結合ペプチド(濃度1.0mg/mlのPBS溶液)を、同容量のフロイント完全アジュバント(FCA;Difco Laboratories、Detroit、MI、USA)とともにエマルジョン化し、雌Balb/cマウスに対して皮下免疫した。さらに、第2回目の免疫(第1回目の免疫の2週間後、FCAとともに)、第3回目の免疫(第1回目の免疫の4週間後、フロイント不完全アジュバント(FIA;Difco Laboratories)とともに)、第4回目の免疫(第1回目の免疫の6週間後、FIAとともに)をそれぞれ、マウス1匹当たり100μgの上記BSA結合ペプチドを皮下注射することにより実施した。細胞融合の3日前(第1回目の免疫の63日後)に、最終投与量がマウス1匹当たり100μgとなるように200μlのPBSに溶解された上記BSA結合ペプチドを腹腔内注射した。
【0082】
そして、血清の力価が高かった(580および940)マウスから脾臓細胞を取り出し、50%PEG1500(Boehringer Mannheim GmbH、Germany)を用いて、当該脾臓細胞と、ミエローマSP/NSI/1−Ag4−1(NS−1)とを、5:1の比率で融合させた。得られた融合細胞を、96ウェル培養プレート(Becton、Dickinson and CO.、Franklin Lakes、NJ、USA)の各ウェルに移し、HAT培地中で培養した。改変ELISA(サンドイッチ法)を用いて、上記融合細胞から、抗体を分泌する細胞をスクリーニングした。上記改変ELISAでは、抗原として(i)BSAと結合されたGMVDGWYG(配列番号5)ペプチド(InfAペプチド)、(ii)ペプチドのみ、または(iii)BSAのみを用いた。スクリーニングにより得られたハイブリッド細胞を、限界希釈法を用いてクローニングした。結果的に、上記ペプチドに対して特異的な抗体を分泌するハイブリドーマとして、6つのクローン(InfA−3、−6、−9、−10、−15、−18mAb:InfAシリーズモノクローナル抗体)を確立した。
【0083】
さらに、Bio−Rad ProteinA MAPS−II kit(日本バイオラッドラボラトリーズ、東京)を用いて、製造者の指示に従い、モノクローナル抗体を精製した。まず、ハイブリドーマ細胞株をプリスタン注入した雌のBalb/cマウスの腹腔内に注射することにより、モノクローナル抗体を含む腹水を得た。5mlの腹水を、同容量の硫酸アンモニウムの飽和溶液と混合した。混合物を遠心分離し、沈殿を回収して5mlのPBSを加えた。遠心分離および沈殿の回収を3回繰り返した後、PBSに対して2回透析を行った。モノクローナル抗体を含むPBS溶液を分注し、同容量のMAPS−IIの結合バッファーと混合した。得られた混合物を、Affi−Gel(登録商標)Protein A Gel(Bio−Rad)を充填したカラムベッドにアプライし、結合したモノクローナル抗体を溶出させた。溶出したモノクローナル抗体を、4℃において、2回、PBSに対して透析した。得られた抗体を、3回、Centriprep−10(Amicon、MA、USA)を用いて限外ろ過した。
【0084】
〔4:モノクローナル抗体の解析〕
得られたモノクローナル抗体について、マウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(IsoStrip(商標)、Rche1493027、Indianapolis、IN、USA)を用いてアイソタイピングを行った。モノクローナル抗体のアイソタイプは、InfA−15以外はIgG1であり、InfA−15はIgG2bであった。また、全ての抗体において、軽鎖はκ型であった。
【0085】
(交叉反応性)
TP41−1(TPRGPDRPEGIEEEGGERDRD(配列番号8)、HIV−1のgp41の保存領域)、IAH(TGLRNGITNKVNSUIEKAA(配列番号9)、A型インフルエンザウイルスのHA1およびHA2における保存配列を組み合わせた配列のペプチド)、HAc(WGIHHPGRGLFGAIAGFIE(配列番号10)、A型インフルエンザウイルスのHA1およびHA2の部分を組み合わせた配列のペプチド)、ならびに、BSA、HSA、およびヒトヘモグロビン等の無関係なタンパク質を用いて、モノクローナル抗体の交叉反応性を調査した。
【0086】
InfAペプチド、無関係なペプチド、および他のタンパク質が溶解したPBS溶液(4μg/ml)50μlを、4℃において、一晩、イムノプレート(Thermo Fisher Scientific、Denmark)上に固定した。2%のゼラチンを用いて、室温において、30分間ブロッキングした。PBS−Tによりプレートを洗浄した後、モノクローナル抗体を免疫反応させた。続いて、アルカリホスファターゼ標識抗マウスIg(G+A+M)抗体(Cappel)を反応させた。p−ニトロフェニルホスフェート(Sigma)を用いた基質反応の後、イムノプレートリーダー(ImmnoMini、NJ−2300、Nalgen Nunc International K.K.、東京)を用いて405nmの吸光バンドを測定した。
【0087】
結果、すべてのモノクローナル抗体は、免疫に用いたInfAペプチドに対して特異的に反応し、他の供試分子に対しては反応しなかった(データ示さず)。
【0088】
また、後述するように、ウエスタンブロッティングでは、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン分子以外に濃いバンドは検出されなかった(図7)。これは、得られたモノクローナル抗体が高い特異性を有していることを示している。
【0089】
(抗原ペプチドへの親和性)
各モノクローナル抗体の結合定数を、等温適定熱量測定(ITC)により測定した。すなわち、InfAシリーズモノクローナル抗体の各々と抗原性のペプチドとの間の相互作用の熱力学的なパラメーターを、微小滴定熱量計(MicroCal,Inc、Northampton、MA、USA)により決定した。測定条件は以下のとおりである:熱量計のセルに、4.3μMのInfAモノクローナル抗体および135mMのNaClを含む15mMリン酸バッファー(pH7.4)を注入し、25℃において、同一バッファー(pH7.5)に溶解した125μMのInfA(GMVDGWYG、配列番号5)抗原ペプチド溶液により滴定した。リガンド(ペプチド)溶液は、28秒の間に、14μlずつ、14回注入した。サーモグラフのデータは、MicroCal,Incより提供されたコンピューターソフトウェア(Origin)により解析した。
【0090】
図4(a)に、InfA−18モノクローナル抗体についての典型的な熱量的な滴定結果を示し、図4(b)に、生データから計算された積分点、および最小二乗解析により得られた適合線を示す。また、全てのInfAモノクローナル抗体についての解析結果を表1にまとめた。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示すように、InfA−3、−6、および−9の結合定数は、互いにほぼ同等の〜1.8×108-1という値を示した。一方、InfA−10、−15、および−18の結合定数は、それよりも低い107〜106-1という値を示した。特に、InfA−15の結合定数は、とても低い値(8.6×106-1)を示した。対照的に、InfA−15のエンタルピー(ΔH)およびエントロピー(ΔS)は、一連のモノクローナル抗体のうちで最も高い値を示した。
【0093】
(コンホメーション)
InfAシリーズモノクローナル抗体の各々について、定法に基づいて抗体のcDNAを取得し、cDNAからアミノ酸配列を推定した。図5(a)は、重鎖におけるアミノ酸配列を示し、図5(b)は、軽鎖におけるアミノ酸配列を示す。なお、図中、「−」で示されているのは、同列の最も上段(InfA−3)に記載されたアミノ酸と同一のアミノ酸を指し、「・」は、その位置のアミノ酸が欠損していること(ギャップ)を示す。
【0094】
上記アミノ酸配列を用いて、分子モデリングを行い、モノクローナル抗体の可変領域の立体的なコンホメーションを推定した(図6)。図6(a)はInfA−3の、図6(b)はInfA−6の、図6(c)はInfA−9の、図6(d)はInfA−10の、図6(e)はInfA−15の、図6(f)はInfA−18の可変領域のコンホメーションをそれぞれ示す。また、「H」は重鎖の、「L」は軽鎖の、「1」はCDR1の、「2」はCDR2の、「3」はCDR3の位置をそれぞれ示す。図6に示すように、重鎖および軽鎖の構造は、それぞれ、二つにグループ分けし得ることが認められた。
【0095】
InfA−3、−6、−9、および−10(グループH−1)の重鎖のコンホメーションは、互いに類似していた。一方、InfA−15および−18(グループH−2)の重鎖のコンホメーションは、InfA−3、−6、−9、および−10のものとは異なっており、InfA−15および−18の間で似たようなコンホメーションを示した。このことは、各々のアミノ酸配列を比較することで、よく理解し得る。すなわち、図5(a)に示すように、InfA−3および−6の配列は、互いに非常に類似していた。また、InfA−9および−10は、10アミノ酸を超える変異を示し、変異したアミノ酸はほぼ同一であった。これら4つの重鎖(グループH−1)は、同一の生殖細胞系列(germline)遺伝子(VHJ606)に属していた。上記4つの重鎖と、InfA−15および−18の重鎖と見比べれば、後2者の重鎖の配列は、前4者の重鎖の配列とかなり異なっており、当該2者の重鎖は、同一のグループ(グループH−2)に分類され得る。
【0096】
軽鎖については、InfA−3、−6、−9、−10、および−15(グループL−1)におけるCDRのコンホメーションは互いに類似しており、InfA−18(グループL−2)のそれとは異なっていた。アミノ酸配列において、InfA−3、−6、−9、および−10は、CDR1、2、および3において、いくつかの変異を有していた。図5(b)に示すように、InfA−15のCDRにおける変異は少しであった。すなわち、CDR1、CDR2、およびCDR3において、それぞれ4つ、1つ、4つの変異を有していた。InfA−15モノクローナル抗体における変異の数は、InfA−3、−6、−9、および−10モノクローナル抗体のそれよりも大きいが、InfA−18の配列は、他の5つのモノクローナル抗体に対してさらに大きく異なっていた。InfA−18は、CDR1、CDR2、およびCDR3において、それぞれ8つ、5つ、5つの変異を有していた。フレームワーク(FR)領域を比較すると、InfA−18は、多くの変異を有していたが、他のInfAモノクローナル抗体は、そのような変異を有していなかった。したがって、InfA−15モノクローナル抗体の軽鎖は、InfA−3、−6、−9、および−10と同じグループに属していると認められた。
【0097】
以上のように、InfA−3、−6、−9、および−10では、可変領域の構造は、グループH−1およびグループL−1から構成されていた。InfA−18は、グループH−2およびグループL−2から構成されていた。InfA−15は、グループH−2およびグループL−1の組み合わせからなる特徴的な構成を有していた。
【0098】
構造についてより詳細に見れば、軽鎖のCDR2およびCDR1のコンホメーションは、InfA−3、−6、−9、および−10(グループL−1)の間で非常に類似していた。これらの抗体において、重鎖のCDR3のコンホメーションは、InfA−3と−6との間、および、InfA−9とInfA−10との間で類似していた。InfA−18の軽鎖のCDR1のコンホメーションは、特徴的であり、他の5つのモノクローナル抗体から大きく異なっていた。
【0099】
〔4:インフルエンザウイルスの各サブタイプへの各モノクローナル抗体の反応性〕
(H1N1サブタイプ)
1%TritonX−100含有PBSに溶解したA型インフルエンザ(Hiroshima/73/2001CL−4(H1N1))を用いて試験を行った。精製されたインフルエンザウイルスとしては、卵中で培養されたものを用いた。組換えHA2(rHA2)は、次のように調製したものを用いた:インフルエンザウイルス(A/Hiroshima/37/2001(H1N1))由来のヘマグルチニン(H1サブタイプ)のHA2ドメインのcDNAを、以下のプライマーを用いたPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)により合成した:NdeIサイトを含むフォワードプライマー(5’−ACACACATATGGGTTTGTTTGGAGCCAT−3’:配列番号11);および、XhoIサイトを含むリバースプライマー(5’−AAAAAACTCGAGGATGCATATTCTACACT−3’:配列番号12)。PCR成果物の一部を、アガロースゲル電気泳動により解析した。組換えHA2ドメインタンパク質の発現のためのプラスミドを構築するため、PCRにより増幅されたDNAフラグメントを、発現ベクターpET21a(+)(Novagen、Madison、WI、USA)と連結させた。E.Coli(Rosetta−gami(DE3))を、形質転換し、最終濃度が1mMであるイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)を加えることにより、HA2ドメインタンパク質を誘導した。得られたタンパク質の分子量は、アガロースゲル電気泳動により、27kDaと推定された。
【0100】
まず、組換えHA2に対するポリクローナル抗体を用いた対照試験を行った。図7(a)は、不活性化したインフルエンザウイルスのSDS−PAGE(銀染色)の結果を示し、図7(b)は、上記ポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロットの結果を示す。それぞれ、還元条件(Reduced)および非還元条件(Non Reduced)での結果を示す。図7(b)において、H1N1ウイルスのHA2に対応する濃いバンド(26〜29kDa)が(特に、還元条件下において)見られた。
【0101】
次に、InfAシリーズモノクローナル抗体を用いた試験を行った。還元条件下において、精製したモノクローナル抗体(InfAシリーズ)を3μg/mlの濃度で用いてウェスタンブロットを実施した。詳細には:染色無しでSDS−PAGE(12%ゲル)を実施した後、タンパク質をゲルからImmobilon−P PVDFメンブレンへと転写した(転写条件:2mA/cm2、90分間)。PVDFメンブレンを、3%スキムミルクおよび0.05%Tween20を含むTBSによりブロッキングした。続いて、0.05%Tween20を含むTBS(TBS−T)により洗浄し、室温において、1時間、モノクローナル抗体(3μg/ml)とともにインキュベートした。さらに、TBS−Tにより洗浄した後、ペルオキシダーゼに結合している二次抗体(抗マウスIg(G+A+M)ウサギ抗体)と、室温において、1時間反応させた。そして、TBS−Tによる洗浄の後、BCIP/NBT(Kirkegaard&Perry Laboratories、Gaithersburg、MD、USA)を用いて発色させた。
【0102】
結果を図7(c)に示す。レーン1は、マーカーを示し、レーン2は、ウイルス全体のSDS−PAGE(銀染色、還元条件下)の結果を示し、レーン3、4、5、6、7、および8は、それぞれ、InfA−3、−6、−9、−10、−15、および−18モノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットの結果を示す。
【0103】
図7(c)に示すように、レーン7(InfA−15モノクローナル抗体)において、H1N1種のウイルスのヘマグルチニン分子のHA2サブユニットに対応する分子量約28kDaの濃いバンドが観察された。なお、HA2サブユニットは、25kDaとして現れるべきとも考えられるが、約28kDaに検出された。これは、SDS−PAGEを還元条件下において実施したために、バンドが少し高分子側にシフトしたものと考えられる。約28kDaのバンドは、HA2サブユニットに対して、ポリクローナル抗体を用いた試験においても確認された(データ示さず)。
【0104】
また、同じ分子量において、非常に弱いバンドが、レーン3、4、5、および6(それぞれ、InfA−3、−6、−9、および−10に対応)でも検出された。レーン8(InfA−18)では、肉眼ではバンドが検出されなかった。なお、約80kDaのかすかなバンドは、糖鎖が結合したヘマグルチニン分子全体(HA0)と考えられる。
【0105】
(H3N1サブタイプ)
同様に、1%TritonX−100含有PBSに溶解したインフルエンザウイルス(Hiroshima/71/2001(H3N1))を用いた試験を行った。結果を、図7(d)に示す。示すように、レーン7(InfA−15)において、H3サブタイプのヘマグルチニンのHA2サブユニットの単量体に対応する約28kDaの濃いバンドが、明確に確認された。なお、本試験でもまた、約80kDaのバンドが観察された。
【0106】
(H5N2サブタイプ)
本発明者らはさらに、H5サブタイプに対応するHA2サブユニットに対するモノクローナル抗体の反応性を調査した。試験の安全性のため、H5N2サブタイプのインフルエンザウイルスそのものの代わりに、E.Coliにおいて発現させたH5サブタイプのHA2サブユニット(rHA2;膜貫通領域が除かれた21kDa)を用いた。その他については、H1N1サブタイプおよびH3N1サブタイプについての試験と同様に行った。結果を、図7(e)に示す。なお、レーン2には、H5サブタイプのHA2サブユニットを発現するE.Coliの細胞溶解物のSDS−PAGE(銀染色、還元条件下)の結果を示す。
【0107】
示すように、すべてのモノクローナル抗体がH5サブタイプの組換えHA2(21kDa)と反応した。また、モノクローナル抗体のうち、InfA−15(レーン7)が、最も濃いバンドを示した。
【0108】
以上のように、InfA−15モノクローナル抗体のみが、H1、H3、およびH5サブタイプのHA2サブユニットのすべてに対して強く反応した。
【0109】
〔5:H1、H3、およびH5サブタイプのインフルエンザウイルスおよび組換えHA2についてのELISA〕
ELISA(サンドイッチ法)の実施のため、各InfAシリーズモノクローナル抗体(5μg/mL)を、イムノプレート(NuncF96)にコートし、4℃において、一晩、インキュベートした。そこに、H1、H3、またはH5サブタイプのインフルエンザウイルスまたはHA2タンパク質(組換えHA2)の希釈系列を、室温において反応させた。反応後、市販のインフルエンザウイルスAB型に対するウサギポリクローナル抗体(Takara M148/003FDF、京都、日本)をウェルにアプライした。続いて、ウサギIgGに対するPOD標識アフィニティー精製ヤギ抗体(Cappel)を上記ウサギポリクローナル抗体と反応させた。その後、o−フェニレンジアミンを用いた発色反応を行い、吸光度(490nm)を測定した。
【0110】
図8に結果を示す。なお、図8の各グラフの縦軸は490nmにおける吸光度を示し、横軸は(図8(a)〜(c))HA2タンパク質の濃度[M]、または(図8(d)および(e))ウイルス粒子の数[pfu/mL]を示す。
【0111】
図8(a)は、H1サブタイプのHA2タンパク質に対する各InfAシリーズモノクローナル抗体の反応性を示すグラフである。示すように、6種のモノクローナル抗体はすべてH1サブタイプのHA2タンパク質に反応した。
【0112】
図8(b)は、H3サブタイプのHA2タンパク質に対する各InfAシリーズモノクローナル抗体の反応性を示すグラフである。示すように、InfA−15モノクローナル抗体は、H3サブタイプのHA2タンパク質に対して強く反応した。InfA−3、−6、−9、および−10モノクローナル抗体は、わずかな反応性しか示さなかった。InfA−18モノクローナル抗体の反応性はそれらの中間であった。
【0113】
図8(c)は、H5サブタイプのHA2タンパク質に対する各InfAシリーズモノクローナル抗体の反応性を示すグラフである。示すように、InfA−15、および−18モノクローナル抗体は、HA2タンパク質に対して、ほぼ同様の強い反応性を示した。他の4つのモノクローナル抗体は、抗原に対して小さな反応性を示した。
【0114】
図8(d)は、H1N1サブタイプのインフルエンザウイルスに対する各InfAシリーズモノクローナル抗体の反応性を示すグラフである。示すように、H1N1ウイルス(A/Hiroshima/37/2001)を用いた場合、InfA−15のみが当該ウイルスに対して反応した。他の5つのモノクローナル抗体は、ほとんど反応しなかった(検量線は、〜109pfu/mlを超えたあたりで、少し落ち込んでいる。なお、図8におけるすべての検量線は、ポジティブデータからバックグラウンドを減算した結果を示している。)。
【0115】
図8(e)は、H3N2サブタイプのインフルエンザウイルスに対する各InfAシリーズモノクローナル抗体の反応性を示すグラフである。示すように、H3N2ウイルス(A/Hiroshima/71/2001)を用いた場合、InfA−15モノクローナル抗体のみが、当該ウイルスに対して強力に反応する一方、他の抗体は反応しなかった。
【0116】
つまり、InfA−15モノクローナル抗体は、試験に用いられたすべてのタイプの組換えHA2タンパク質およびウイルスに対して反応するという特徴的な特性を有する。上述のELISAの結果は、InfA−15モノクローナル抗体が、H1、H3、およびH5株のヘマグルチニンの何れのサブタイプについても検出し得ることを示している。HA2タンパク質は、10-1〜10-6Mの範囲において検出された。ウイルスは、約108pfu/mlあたりにおいて、低いレベルで検出された。
【0117】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、試験、研究、検査等において用いる試薬および器具の製造分野において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに対する抗体であって、
A型インフルエンザウイルスのH1、H3、およびH5型のヘマグルチニンを何れも認識することを特徴とする抗体。
【請求項2】
配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるエピトープを認識することを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
重鎖可変領域におけるCDR1、CDR2、CDR3がそれぞれ、配列番号1に示されるアミノ酸配列の第31〜35番目、第50〜65番目、第98〜106番目であり、
軽鎖可変領域におけるCDR1、CDR2、CDR3がそれぞれ、配列番号3に示されるアミノ酸配列の第24〜39番目、第55〜61番目、第94〜102番目であることを特徴とする請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
重鎖可変領域が、以下の(a)または(b)のアミノ酸配列からなり、
軽鎖可変領域が、以下の(c)または(d)のアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の抗体:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列の、第1〜30番目、第36〜49番目、第66〜97番目、および/または第107〜116番目において、1個または数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列;
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列;
(d)配列番号3に示されるアミノ酸配列の、第1〜23番目、第40〜54番目、第62〜93番目、第103〜114番目において、1個または数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の抗体の少なくとも一つの可変領域を含み、A型インフルエンザウイルスのH1、H3、およびH5型のヘマグルチニンを何れも認識することを特徴とする抗体断片。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか一項に記載の抗体または請求項5に記載の抗体断片を含有していることを特徴とするA型インフルエンザウイルスの検出試薬。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか一項に記載の抗体または請求項5に記載の抗体断片を備えていることを特徴とするA型インフルエンザウイルスの検出キット。
【請求項8】
請求項1〜4の何れか一項に記載の抗体または請求項5に記載の抗体断片が固定されていることを特徴とするA型インフルエンザウイルスの検出器具。
【請求項9】
検査対象物を請求項1〜4の何れか一項に記載の抗体または請求項5に記載の抗体断片とともにインキュベートする工程を包含することを特徴とするA型インフルエンザウイルスの検出方法。
【請求項10】
請求項1〜4の何れか一項に記載の抗体または請求項5に記載の抗体断片をコードすることを特徴とする遺伝子。
【請求項11】
配列番号2または4に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有していることを特徴とする請求項10に記載の遺伝子。
【請求項12】
請求項10または11に記載の遺伝子を含んでいることを特徴とする組換え発現ベクター。
【請求項13】
請求項10または11に記載の遺伝子が導入されていることを特徴とする形質転換体。
【請求項14】
請求項10または11に記載の遺伝子を宿主に発現させることによって、請求項1〜4の何れか一項に記載の抗体または請求項5に記載の抗体断片を生産する工程を包含することを特徴とする抗体または抗体断片を生産する方法。


【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−160681(P2011−160681A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23991(P2010−23991)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】