説明

A型ゼオライトの製造法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、気体分子や低分子有機化合物の吸着材等として有用なA型ゼオライトを効率良く製造することのできる方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】A型ゼオライトは、通常、アルミノシリケートゲルを熱水結晶化(hydrothermal cristallization)することによって製造される。即ちアルミノシリケートゲルは、たとえば高塩基性アルミン酸ナトリウム水溶液にシリカゾル水溶液を加え、あるいは高塩基性珪酸ナトリウム水溶液に水酸化アルミニウム粉末を加えて混合することにより簡単に得ることができ、生成したアルミノシリケートゲルを加熱すると、ゲル中でA型ゼオライトの結晶核生成と結晶成長が徐々に進行し、その全部もしくは大部分が結晶質のA型ゼオライトに変わっていく。
【0003】ところでA型ゼオライトは、熱力学的にみると準安定相結晶であるため、熱水結晶化の際に必要以上の熱と時間を与えると安定相結晶であるヒドロキシソーダライトにまで変化してしまう。従ってその製造に当たっては、いかにして安定相結晶への変化を抑えて準安定相結晶状態で止めるか、という点に主眼を置いた研究が行なわれている(特公昭56-37166号,特開昭57-3713 号,同58-213626 号等)。
【0004】A型ゼオライトの原料としてアルミノシリケートゲルを使用するのは、ゲル状態で結晶化を進めることによって、結晶成長時におけるアルミン酸イオンと珪酸イオンの自由な移動に制限を与え、両イオンの自由な再配列を防止することによって、必要以上の熱エネルギーが加わった場合でも安定相への相変態が起こらない様にすることを意図したものである。
【0005】しかしながらこの様な方法を採用した場合でも、結晶化工程で過剰の熱エネルギーが加わると(温度が高過ぎたり、反応時間が長過ぎると)、各イオンの動きが活発となって安定相への再配列を起こし、ヒドロキシソーダライトが生成してくる。またゲルネットワーク構造が強固過ぎてゲル内における各イオンの移動が過度に制限されると、結晶化反応自体が起こり難くなって準安定相結晶の生成率が上がらなくなる。そこで従来はできるだけ穏和な条件下で選択的にA型ゼオライトを生成させるための要件として、アルミノシリケートゲル生成時におけるナトリウムイオン、アルミン酸イオン、珪酸イオンの各濃度を調整し、ゲルネットワーク構造の強さを抑制する方向で研究が進められている。
【0006】ゲルネットワーク構造の強さは、アルミノシリケートゲル生成時における水酸化ナトリウム濃度が高いほど低下することが知られているが、高pH領域での原料溶液は安定でありアルミノシリケート系化合物の析出は起こらない。そこでアルミノシリケート系化合物の析出限界領域近傍のpHでアルミン酸イオンと珪酸イオンの比を適正に調整することによって、比較的穏和な条件下で結晶化を行なう方法も知られている[New Developments inZeolite Science and Technology,Proceedings of 7th International Zeolite Conference Tokyo,August17 〜22(1986)] 。
【0007】この方法は、前述の様にアルミノシリケートゲルを原料として熱水結晶化する方法とは異なり、高pH域で結晶化を行なうのでゲルネットワーク構造が弱く、穏和な条件下でも結晶化が進行する。しかしながらこの方法でも、ゲルネットワーク強度が弱い分だけアルミン酸イオンと珪酸イオンは動き易くなり、安定相結晶の生成は避けられない。しかもアルミノシリケート系化合物の析出限界領域近傍という微妙な条件下において競合する準安定相結晶析出反応と安定相結晶析出反応の両反応を、原料溶液の各イオン濃度や加熱温度、加熱時間のみで制御することは困難であり、準安定相結晶析出反応の選択性を十分に高めることは容易でない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は以上の様な従来技術の問題点に着目してなされたものであって、その目的は、安定相結晶であるヒドロキシソーダライトを生成させることなく、準安定相結晶であるA型ゼオライトを効率良く製造することのできる方法を提供しようとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決することのできた本発明に係る製造法の構成は、アルミン酸イオン濃度が0.1 〜0.5 モル/リットル、ナトリウムイオン濃度が0.03〜3モル/リットルである水溶液と、珪酸イオン濃度が0.02〜0.1 モル/リットル、ナトリウムイオン濃度が0.05〜4モル/リットルである水溶液とを、夫々調製しておき、これらを60℃未満の温度でゲル状物が生成しない様に混合し、次いで60〜100℃に加熱してA型ゼオライトを析出させるところに要旨を有するものである。このとき、各水溶液のイオン濃度は、混合状態における各イオン濃度がアルミン酸イオン濃度:0.05〜0.15モル/リットル,珪酸イオン濃度:0.01〜0.05モル/リットル,ナトリウムイオン濃度:0.05〜3.0 モル/リットルとなる様に調整することにより、A型ゼオライトをより効率良く得ることができる。
【0010】
【作用】本発明では、上記の様にアルミン酸イオンを含む水酸化ナトリウム水溶液[以下アルミン酸イオン含有水溶液(X) ということがある]と珪酸イオンを含む水酸化ナトリウム水溶液[以下、珪酸イオン含有水溶液(Y) ということがある]を別々に調製し、これらをゲル状物が生成しない様に60℃未満の温度で均一に混合[以下、混合液 (X +Y)ということがある]した後、これを所定の温度に加温するものであり、それにより後記実施例でも明らかにする如く、ヒドロキシソーダライトを生ずることなくA型ゼオライトを高収率で製造することができる。
【0011】但し本発明の目的を達成するためには、夫々の水溶液(X),(Y) を調製する段階で、アルミン酸イオン含有水溶液(X) については、アルミン酸イオン濃度を0.1〜0.3 モル/リットルにすると共にナトリウムイオン濃度を0.05〜3モル/リットルとし、また珪酸イオン含有水溶液(Y) については、珪酸イオンを0.02〜0.1モル/リットルに設定すると共にナトリウムイオン濃度を0.05〜4モル/リットルに調整し、これらを60℃未満の温度でゲル状物が生成しない様に均一に混合した後、次いで60〜100 ℃に加熱することによってA型ゼオライトの結晶を析出させる。
【0012】混合前の各水溶液(X),(Y) において、夫々のアルミン酸イオン濃度または珪酸イオン濃度が低過ぎたり、あるいは両水溶液(X),(Y) のナトリウムイオン濃度が高過ぎると、2液混合後所定温度に加温してもA型ゼオライトの結晶析出が起こらない。また逆にアルミン酸イオン濃度や珪酸イオン濃度が高過ぎたり、あるいはナトリウムイオン濃度が低過ぎると、2液混合直後にゲル状の析出物(主としてアルミノシリケートゲル)が生成し、その後で所定温度に加温しても生成したゲルの相変化は起こらず、結晶質のA型ゼオライトが得られなくなる。
【0013】尚2液混合時におけるゲル状物の生成を防止すると共に、その後の加温でA型ゼオライトの晶出を効率良く進めるには、2液混合後の各イオン濃度が、アルミン酸イオン濃度:0.05〜0.15モル/リットル,珪酸イオン濃度:0.01〜0.05モル/リットルと,ナトリウムイオン濃度:0.05〜3.0 モル/リットルとなる様に、両水溶液(X),(Y) のイオン濃度と配合比率を調整するのがよい。
【0014】また2液混合時の温度が60℃を超えると、2液が均一に混合される前の各イオン濃度に偏りがある状態のときに部分的にゲル状物が生成し、このゲル状物は再溶解せず且つその後の加温によってもA型ゼオライト結晶に変わらないので、やはり満足な収率が得られなくなる。従って2液を混合する際には、液温が60℃を超えない様に、より好ましくは50℃以下に保たれる様に注意しなければならない。
【0015】また両水溶液の特にナトリウムイオン濃度は、2液混合時における一時的なイオン濃度の偏りを極力少なくできる様、同一濃度に調整しておくことが望ましい。更に各水溶液(X),(Y) のアルミン酸イオン濃度及び珪酸イオン濃度については、上記規定範囲の上限領域に近いほど、またナトリウムイオン濃度については下限領域に近いほど、混合時におけるゲル状物の生成はより確実に防止できる様になる。
【0016】しかもゲル析出反応を起こし易い両水溶液(X),(Y) の混合に当たっては、混合の順序も重要となる。上記した各イオン濃度領域においてはゲル状物の生成反応は、珪酸イオン濃度の変化よりもアルミン酸イオン濃度の変化に影響され易く、珪酸イオン含有水溶液(Y) にアルミン酸イオン含有水溶液(X) を加えたときはゲル状物を生じないが、その逆にするとゲル状物を生ずることがある。従って2液混合の手段としては、混合系において珪酸イオン濃度に対するアルミン酸イオン濃度が局部的に高くなることのない様、アルミン酸イオン含有水溶液(X) に珪酸イオン含有水溶液(Y) を混入させる方法、或は両者を同時に空容器に加えて混合する方法等を採用することが望まれる。この2液混合工程で十分な攪拌を加えるべきであることは勿論である。
【0017】かくして得られる所定イオン濃度の混合液を60〜100 ℃、より好ましくは70〜90℃に加温すると、アルミノシリケートゲルを生ずることなく、また安定相のヒドロキシソーダライト結晶を生ずることなく、準安定相であるA型ゼオライト結晶のみが選択的に生成する。このとき温度が60℃未満ではA型ゼオライト結晶が生成せず、また100 ℃を超えるとヒドロキシソーダライトへの相変化が急速に進行し、A型ゼオライトの生成率及び純度が低下する。
【0018】
【実施例】
実施例アルミン酸イオン0.25モル/リットルとナトリウムイオン1.0 モル/リットルを含む水溶液(A液)と、珪酸イオン0.1 モル/リットルとナトリウムイオン1.0 モル/リットルを含む水溶液(B液)、及び10.0モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液(C液)を準備した。
【0019】そして上記A液、B液、C液及び純水を表1に示す比率で混合して水溶液(X)及び(Y) を調製(両水溶液のナトリウムイオン濃度は略同一になる様に調整)し、これらを室温(約25℃)で混合した。尚混合に当たっては、水溶液(Y) を攪拌しつつ水溶液(X) を攪拌しを加えることにより、ゲル状物が生成しない様に混合した。次いで混合液を昇温して所定時間保持し、A型ゼオライトを晶出させた。混合液の各イオン濃度及び加温条件を表1に一括して示す。得られた晶出物をX線回折により固定したところ、すべてA型ゼオライトであり、ヒドロキシソーダライトの生成は認められなかった。
【0020】
【表1】


【0021】比較例上記実施例と同様の方法で水溶液(X) 及び(Y) を調製した後、表2に示す如く、異なる条件で両液の混合及び加温を行い、生成物の状態を観察した。原料溶液の調製法、混合法、原料イオン濃度、加温条件及び生成物の状態を表2に一括して示す。
【0022】
【表2】


【0023】表2のNo.1〜5はいずれも本発明の規定要件を欠く比較例であり、以下に示す如くA型ゼオライト結晶を得ることができない。
No.1:原料溶液のうち水溶液(Y) の珪酸イオン濃度が低く、且つ混合状態での珪酸イオン濃度も低過ぎるため、所定の熱を加えても析出物が生成しない。
No.2:原料溶液のイオン濃度は適正であるが、混合時の温度が高過ぎるため混合時にゲル化し、その後加熱を行なっても結晶を得ることができない。
No.3:原料溶液のうち水溶液(X) の珪酸イのアルミン酸イオン濃度が高く、且つ混合状態でのアルミン酸イオン濃度も高過ぎるため、混合直後に非晶質の不溶物が生成し、この不溶物はその後の加熱処理によってもA型ゼオライト結晶への相変化を起こさない。
No.4:原料溶液のうち水溶液(X) のアルミン酸イオン濃度が低く、混合状態でのアルミン酸イオン濃度も低過ぎるため、混合後所定の熱を加えても析出物が生成しない。
No.5:2液混合時の温度が高過ぎる比較例であり、混合後に生成する晶出物の大部分は安定相のヒドロキシソーダライトであった。
【0024】
【発明の効果】本発明は以上の様に構成されており、安定相のヒドロキシソーダライトを生成させることなく、準安定相のA型ゼオライトを収率良く製造し得ることになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルミン酸イオン濃度が0.1 〜0.3 モル/リットル、ナトリウムイオン濃度が0.05〜3モル/リットルである水溶液と、珪酸イオン濃度が0.02〜0.1 モル/リットル、ナトリウムイオン濃度が0.05〜4モル/リットルである水溶液とを、夫々調製しておき、これらを60℃未満の温度でゲル状物が生成しない様に混合し、次いで60〜100 ℃に加熱してA型ゼオライトを析出させることを特徴とするA型ゼオライトの製造法。
【請求項2】 混合状態における各イオン濃度を、アルミン酸イオン濃度:0.05〜0.15モル/リットル,珪酸イオン濃度:0.01〜0.05モル/リットル,ナトリウムイオン濃度:0.05〜3.0 モル/リットルとする請求項1記載の製造法。

【特許番号】第2806079号
【登録日】平成10年(1998)7月24日
【発行日】平成10年(1998)9月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−145436
【出願日】平成3年(1991)5月20日
【公開番号】特開平4−342416
【公開日】平成4年(1992)11月27日
【審査請求日】平成8年(1996)6月20日
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)